説明

経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法

【課題】経糸シートTが巻き掛けられる複数本の乾燥用シリンダ5を備える経糸糊付け装置用のシリンダ乾燥装置において、経糸糊付け装置1の低速運転に伴う経糸シートの過乾燥を防ぎ、経糸の品質の低下を防止する。
【解決手段】上記経糸糊付け装置1にけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法であって、経糸糊付け装置の運転状態に応じて、乾燥用シリンダの温度制御を、定常運転用設定温度に従った定常制御態様と、前記乾燥用シリンダの温度を前記定常運転用設定温度よりも低い温度とする低温制御態様との間で選択する切り換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経糸糊付け装置用シリンダ乾燥装置の運転制御方法、特に経糸糊付け装置用シリンダ乾燥装置の乾燥用シリンダの温度制御を伴う運転制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
経糸糊付け装置は、糊付けされた後の経糸を乾燥させるために、経糸シートが巻き掛けられる複数本の乾燥用シリンダを有するシリンダ乾燥装置を備える。従来の経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置では、経糸糊付け装置の定常運転時における経糸シートの送り速度(運転速度)に合わせて予め設定された定常運転用の設定温度に従って乾燥用シリンダの温度を制御して経糸シートを乾燥させている。以下に示す特許文献1は、このような従来のシリンダ乾燥装置の一例を開示する。
【特許文献1】特開平4−222247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般に経糸糊付け装置においては、その連続運転中において、定常運転用に設定された運転速度による運転状態(運転態様)とは別に、その定常運転用の設定速度よりも低い速度として設定された運転速度による低速運転が行われる場合がある。このような低速運転による運転状態で経糸糊付け装置が運転される場合としては、例えば、経糸シート中の経糸に糸切れが発生した場合において、その糸切れ状態を処理するための処理作業時がある。詳しくは、経糸シート中の経糸に糸切れが発生した場合、経糸シートを定常運転時の送り速度よりも低い速度で送れる低速運転を行い、その切れた経糸の端部を探す等の糸切れ状態の処理作業が行われる。
【0004】
また、上記の糸切れが発生した場合に限らず、作業者が工場内を巡回中に、経糸糊付け装置の各部や経糸のシートの状態に異常を感じた場合、その点検のために、経糸糊付け装置の運転状態を上記のような低速運転に切り換える場合がある。更には、経糸糊付け装置では、巻取装置によって経糸シートを巻取ビームに対し巻き取ることが行われているが、その巻取ビームへの所定量の経糸シートの巻き取りが完了する前の所定の時点において、巻き取り状態や糸切れの発生状態等を確認する作業のために、経糸糊付け装置の運転状態を上記のような低速運転に切り換える場合がある。
【0005】
また、上記のような経糸糊付け装置の連続運転中の運転状態に限らず、連続運転が開始される前の、経糸糊付け装置に対し経糸シートを仕掛ける作業においても、経糸糊付け装置を上記のような低速運転による運転状態とし、経糸シートを経糸糊付け装置の各部のローラに巻き掛ける等の仕掛け作業が行われる。
【0006】
上記のような低速運転を伴う運転状態においては、経糸シートの送り速度は、定常運転時の経糸シートの送り速度より低い。このような低い送り速度で経糸シートが移動している状態において、シリンダ乾燥装置における乾燥用シリンダの温度が定常運転用の設定温度に従って制御されると、低速運転に伴い経糸シートが乾燥用シリンダに接している時間が長くなるので、経糸シート内の各経糸が過乾燥の状態となり、経糸の品質が低下するという問題が生じる。
【0007】
なお、前述の特許文献1には、乾燥用シリンダの温度制御に関する記載はあるものの、経糸糊付け装置の運転状態に応じて乾燥用シリンダの温度制御の制御態様を切り換えることに関する記載はない。
【0008】
本発明の目的は、経糸糊付け装置の低速運転に伴う経糸シートの過乾燥を防止し、経糸シートの過乾燥に伴う経糸の品質の低下を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明は、経糸シートが巻き掛けられる複数本の乾燥用シリンダを備える経糸糊付け装置用シリンダ乾燥装置の運転制御方法であって、経糸糊付け装置の運転態様に応じて、乾燥用シリンダの温度制御を、定常運転時の運転速度に応じて設定された定常運転用設定温度に従った定常制御態様と、乾燥用シリンダの温度を定常運転用設定温度よりも低い温度とする低温制御態様との間で切り換えることを特徴とする。
【0010】
なお、上記した本発明でいう「定常運転」とは、通常の運転時、すなわち、経糸糊付け装置が正常に運転されている場合での、所望の運転速度(経糸シートの送り速度)で連続的に運転が行われる運転状態(運転態様)をいう。因みに、上記の所望の運転速度は、その経糸糊付け装置に要求される生産量や乾燥装置の能力、及び後工程(製織工程)からの情報等を考慮して決定され、予め設定されるものである。また、本明細書における「連続運転」とは、上記の定常運転状態に加え、一時的な停止状態や上記の低速運転状態を含むものであり、経糸糊付け装置が運転を継続している状態をいう。
【0011】
本発明のシリンダ乾燥装置の運転制御方法では、上記運転態様が、常運転時よりも低い速度で経糸シートが送られる低速運転を含み、前記低温制御態様が、前記低速運転時の運転速度に応じて設定された設定温度であって前記定常運転用設定温度よりも低い温度として設定された低速運転用の設定温度に従った前記乾燥用シリンダの温度制御を含むものとしてもよい。
【0012】
更に、上記低速運転が、経糸糊付け装置の連続運転時における経糸の糸切れ発生時にその糸切れ状態を処理するための経糸処理運転、経糸糊付け装置の作動状態又は経糸シートの状態を点検するための点検運転の少なくとも一方を含み、経糸糊付け装置の連続運転中において、運転態様が定常運転から低速運転を伴う運転状態へ切り換えられたことに伴い、乾燥用シリンダの温度制御を、定常制御態様から低温制御態様へ切り換えるものとしてもよい。
【0013】
また、上記低速運転が、経糸糊付け装置の連続運転開始前の経糸糊付け装置に対し経糸シートを仕掛けるための経糸準備運転を含み、経糸糊付け装置に対し経糸シートを仕掛ける作業の終了後、連続運転の開始に伴う定常運転の開始に応じて、乾燥用シリンダの温度制御を、低温制御態様から定常制御態様へ切り換えるものとしてもよい。
【0014】
更には、上記低速運転用の設定温度を、定常運転用設定温度に対して温度値の比率で設定されるものとしてもよく、また、各運転態様に対し複数の設定温度値が設定されるものとしてもよい。
【0015】
また、本発明のシリンダ乾燥装置の運転制御方法では、上記運転態様が、経糸糊付け装置の巻取装置における巻取ビームへの経糸シートの巻き取りが完了する前の予め設定された時点以降から巻き取り完了までの巻取完了運転を含み、低温制御態様が、巻取完了運転時において乾燥用シリンダに対する温度制御を停止することを含むものとしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
前述の経糸処理運転、点検運転及び連続運転開始前の経糸準備運転の各運転態様に応じて行われる低速運転において、その運転態様に応じて乾燥用シリンダの温度制御の制御態様を切り換えるため、経糸糊付け装置の低速運転に伴う経糸シートの過乾燥を防ぎ、経糸シートの過乾燥に伴う経糸の品質の低下を防止することができる。
【0017】
また、上記とは別の運転態様としての巻き取り完了前の巻取完了運転時における経糸糊付け装置の低速運転においても、その運転状態に応じて乾燥用シリンダの温度制御の制御態様が切り換えられるため、上記と同じ効果が得られる。また、本発明の制御態様は、上記巻取完了運転時において、乾燥用シリンダに対する温度制御を停止することを含んでいる。この場合、乾燥用シリンダの余熱を利用して経糸シートの乾燥が行われるため、低速運転時における経糸シートの過乾燥が防止されるだけでなく、経糸糊付け装置のランニングコストを抑えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
【0019】
図1は、本発明が適用されるシリンダ乾燥装置4を含む糊付け装置1の一例を概略的に示すものである。複数の給糸ビームを備える給糸装置2から供給される経糸シートTは、複数のガイドロール等を経て糊付け機3に導入される。糊付け機3によって糊付けされた経糸シートTは、シリンダ乾燥装置4における複数の乾燥用シリンダ5に巻き掛けられて案内され、巻取装置6に向けて導かれる。
【0020】
糊付け機3における各ローラ及びシリンダ乾燥装置4における乾燥用シリンダ5の回転速度、巻取装置6における巻取ビームの回転速度、並びに糊付け機3における糊液の供給及び糊濃度の制御等は、経糸糊付け装置1に設けられた主制御装置12(図2)によって制御されるものとする(詳細は省略)。
【0021】
また、図示の例では、経糸糊付け装置1は、2種類の運転速度(経糸シートの送り速度)で運転を行うことができるものとなっている。この2種類の運転速度としては、一方は、定常運転時に行われる高速運転に応じた運転速度であり、他方は、この高速運転用の運転速度よりも低い速度で行われる低速運転運転に応じた運転速度である。
【0022】
上記2種類の運転速度を実現するため、主制御装置12には各運転速度が設定されている。また、主制御装置12には、上記各運転速度による運転状態を開始させるための高速運転用スイッチ16及び低速運転用スイッチ18が接続されている。因みに、定常運転のための高速運転速度は、前述のように、経糸糊付け装置1の生産量や乾燥能力等に基づいて決定されて設定されるものである。また、低速運転速度は、その低速運転時に行われる点検や作業等が行い易い速度として任意に設定される。なお、経糸糊付け装置1の運転速度とは、具体的には、経糸シートTの送り速度であり、設定された運転速度に従った速度で経糸シートTが送られるように、その設定された運転速度に応じて、経糸シートTを巻取装置6側へ送り出すための各部の機構(例えば、糊付け機3における各ローラ、乾燥装置4の乾燥用シリンダ5、等)が駆動される。
【0023】
また、シリンダ乾燥装置4における乾燥用シリンダ5は、熱源22から供給される蒸気等の熱流体によって加熱されてその表面が加熱状態となり、巻き掛けられて接触する経糸シートTを乾燥させる。この乾燥用シリンダ5の温度は、図2に示す熱量制御装置9によって制御される。
【0024】
詳しくは、各乾燥用シリンダ5は、供給管28を介して共通の熱源22と接続されており、各供給管28の管路中には、乾燥用シリンダ5への上記熱流体の供給を調整するための調整器としての電磁開閉弁21が、各乾燥用シリンダ5に対応させて設けられている。また、各乾燥用シリンダ5には温度センサ23が付設されており、この温度センサ23の検出値が熱量制御装置9に入力されるようになっている。そして、熱量制御装置9は、予め設定された設定温度と温度センサ23による温度検出値とに基づき、電磁開閉弁21の開閉を制御し、乾燥用シリンダ5の温度(温度センサ23の温度検出値)が設定温度に維持されるように温度制御を行う。
【0025】
そのため、熱量制御装置9は、上記設定温度が設定される出力部25と、出力部25から出力される設定温度と温度センサ23による温度検出値とを比較してその偏差を出力する比較器26と、比較器26の出力(偏差)に応じて各電磁開閉弁21の開閉を制御する熱量調整部27とを備える。また、出力部25には温度設定器24が接続されており、この温度設定器24によって出力部25に対し上記設定温度が設定される。
【0026】
なお、上記では、乾燥用シリンダ5の温度制御のために熱流体の供給を調整する調節器として電磁開閉弁21が採用されているものとしたが、調整器はこれに限らず、供給流量を調整するために開度制御される弁(電磁絞り弁等)であってもよい。
【0027】
以上のような経糸糊付け装置1において、本発明では、運転態様としての上記各運転状態(定常運転状態/経糸処理運転状態、点検運転状態)に応じて乾燥用シリンダ5の温度制御の制御態様を切り換えるものである。以下では、その具体例を実施例1−3により説明する。
【実施例1】
【0028】
実施例1では、経糸糊付け装置1の連続運転中に、経糸シートT中の経糸に糸切れが発見された場合や、作業者が装置や経糸シートTの点検を必要と判断した場合において、経糸糊付け装置1の運転状態(運転態様)が定常運転から低速運転を伴う経糸処理運転又は点検運転(以下、実施例1では単に「低速運転」という)へ切り換えられるものとし、その運転状態の切り換えに応じて乾燥用シリンダ5の温度制御が切り換えられる場合について説明する。
【0029】
熱量制御装置9の出力部25は、複数の設定温度が設定可能となっており、温度設定器24により、定常運転及び低速運転のそれぞれの運転状態に応じた設定温度T1、T2が設定される。また、出力部25には、前述の定常運転のための高速運転用スイッチ16及び低速運転(経糸処理運転、点検運転)のための低速運転用スイッチ18が接続されており、出力部25は、各スイッチの出力によってそのときの経糸糊付け装置1の運転状態を判別する。そして、出力部25は、そのときの運転状態に対応する設定温度T1又はT2を比較器26に向けて出力する。
【0030】
なお、本実施例では、経糸処理運転時における低速運転と点検運転時における低速運転とを同じ運転速度としているため、運転状態を切り換えるためのスイッチは共通となっており、出力部25は定常運転(高速運転)と低速運転とを判別するのみとなっている。従って、低速運転に切り換えられたことは、経糸処理運転又は点検運転のいずれかに切り換えられたことを示している。しかし、本実施例の場合において、経糸処理運転への切り換えと点検運転への切り換えをそれぞれ専用のスイッチで行うものとし、また、それぞれに異なる速度を設定することも可能である。その場合、出力部25は各運転状態を判別し、それに応じた設定温度を出力する。
【0031】
実施例1を各運転状態に従ってより具体的に説明する。例えば、温度設定器24によって出力部25に設定される設定温度を、定常運転時の高速運転状態に応じた定常運転用設定温度をT1とし、前述の低速運転状態に応じた低速運転用設定温度をT2とする。また、この設定温度T1、T2については、低速運転用設定温度T2が定常運転用設定温度T1よりも低い温度として設定される。
【0032】
経糸糊付け装置1が経糸シートTに対し正常に糊付け及び乾燥を行っている定常運転中においては、熱量制御装置9では、出力部25から定常運転用設定温度T1が出力され、比較器26は、定常運転用設定温度T1と温度センサ23の温度検出値Tとを比較し、その偏差を熱量制御部27に対し出力する。そして、熱量制御部27は、比較器26からの出力(偏差)に基づいて電磁開閉弁21の開閉を制御する。すなわち、上記偏差が−(T>T1)の値で出力された場合には、電磁開閉弁21を閉状態として乾燥用シリンダ5の温度が下がる方向の制御を行う。また、電磁開閉弁21が閉状態において、上記偏差が+(T<T1)の値で出力された場合には、再び電磁開閉弁21を開状態とし、乾燥用シリンダ5の温度が上がる方向の制御を行う。
【0033】
このように、定常運転用設定温度T1に従った制御態様によって乾燥用シリンダ5の温度制御が行われている定常運転の状態において、例えば、作業者が糸切れを発見した場合には、その糸切れ状態を処理する作業のため、経糸糊付け装置1を低速運転状態とすることが行われる。
【0034】
その場合には、まず、作業者によって低速運転用スイッチ18が操作され、それによって経糸糊付け装置1の各部が低速運転時の経糸送り速度に応じた速度に切り換えられる。また、熱量制御装置9では、上記の低速運転用スイッチ18の操作に伴い、出力部25は、経糸糊付け装置1の運転状態が定常運転から経糸処理運転(又は点検運転)に切り換えられたことを判別し、出力する設定温度を、定常運転用設定温度T1から低速運転用設定温度T2に切り換える。従って、熱量制御部27は、低速運転用設定温度T2に基づき、上記した定常運転時と同様の電磁開閉弁21の開閉制御を行うものとなる。
【0035】
すなわち、熱量制御装置9は、経糸糊付け装置1の運転状態が定常運転(高速運転)から低速運転を伴う経糸処理運転(又は点検運転)へ切り換えられたことに伴い、その制御態様を、定常運転用設定温度T1に従った温度制御(定常制御態様)から低速運転用設定温度T2に従った温度制御(低温制御態様)に切り換える。それにより、経糸糊付け装置1の低速運転に伴う経糸シートTの過乾燥が防止される。
【0036】
そして、糸切れ状態の処理作業が終了した後は、再び定常運転状態に戻すべく作業者は高速運転用スイッチ16を操作し、これに伴い、熱量制御装置9による乾燥シリンダ5の温度制御も、低速運転用設定温度T2に応じた制御態様から、再び定常運転用設定温度T1に応じた制御態様へ戻される。
【0037】
なお、以上で説明した実施例1では、経糸糊付け装置1の運転態様が、運転状態としての経糸の糸切れ状態を処理するための経糸処理運転もしくは経糸シートT等を点検するための点検運転時に行われる低速運転と定常運転との間で切り換えられる場合について述べたが、巻取装置6における巻取ビームへの経糸シートの巻き取りが完了する前の所定の時点以降から巻き取り完了までの巻取完了運転において低速運転を行う場合にも、熱量制御装置9による乾燥用シリンダ5の温度制御について、その制御態様を上記実施例1と同様に切り換えるようにしてもよい。
【0038】
因みに、上記した経糸シートの巻き取りが完了する前の所定の時点は、予め設定されたものであって、例えば、経糸シートTの巻き取り長によって設定することができる。一般に、巻取装置6には、測長カウンタ10が設けられており、巻取装置6における巻取ビームへの経糸シートTの巻き取り長が検出されるものとなっている。従って、この測長カウンタ10の検出値を使用し、巻取ビームへの巻き取り長が、予定された経糸シートTの全体長よりも短い設定長に達した時点を把握することができ、これを上記巻取完了運転の開始時点とすることができる。
【0039】
詳しくは、測長カウンタ10の検出値は比較器29に対し出力されており、また、この比較器29には、上記設定長を設定するための設定器11が接続されている。そして、比較器29は、測長カウンタ10から出力される検出値が、設定された上記設定長に達した時点で、出力部25に対し信号を出力する。定常運転状態において出力部25に比較器29からの信号が入力されると、出力部25は、経糸糊付け装置1の運転状態が、定常運転から巻取完了運転に切り換わったと判別し、出力する設定温度を低速運転用設定温度に切り換える。
【0040】
上記の経糸処理運転時、点検運転時及び巻取完了運転時のそれぞれの低速運転時に対し設定される低速運転用設定温度は、前述の実施例1のように各運転状態に対し共通のものであってもよいし、各運転状態毎に異なる低速運転用設定温度が設定されるものとしてもよい。更に、作業者によって異なる送り速度で作業が行われる場合があるため、各運転状態に対し複数の運転速度を設定すると共に各運転速度に対応する複数の低速運転用設定温度を設定するようにしてもよい。
【0041】
また、上記各運転状態に対応する1又は複数の低速運転用設定温度T2の設定は、その設定値を温度設定器24によって入力設定するものに限らず、定常運転用設定温度T1に対する比率を設定し、その比率に基づいて自動的に設定されるものとしてもよい。
【0042】
詳しくは、温度設定器24による設定は定常運転用設定温度T1のみとし、これとは別に、出力部25に対し定常運転用設定温度T1に対する低速運転用設定温度T2の比率(例えば、70%)が設定されるものする。そして、出力部25は、入力設定された定常運転用設定温度T1と上記比率とに基づいて低速運転用設定温度T2を求め、設定されるものとする。これによれば、定常運転用設定温度T1を入力設定するだけで低速運転用設定温度T2が自動的に設定されるため、設定作業の容易化を図ることができる。
【0043】
なお、出力部25に対し設定される上記比率は、上記各運転状態毎に共通の1つの値であってもよいし、各運転状態毎に異なる値が設定されるものであってもよい。すなわち、前述のように、低速運転用設定温度T2が各運転状態毎に共通の場合には、出力部25に設定される上記比率は1つであればよく、また、各運転状態毎に異なる低速運転用設定温度T2が設定される場合、若しくはいずれかの運転状態に対し複数の低速運転用設定温度T2が設定される場合には、出力部25に対し設定される上記比率は、各々に対応させた複数のものとなる。
【実施例2】
【0044】
実施例2は、定常運転とは別の運転状態である低速運転が、経糸シートを経糸糊付け装置に仕掛けるための経糸準備運転で行われる場合について説明する。すなわち、経糸糊付け装置1においては、糊付け対象の経糸の変更に伴い、新しく給糸装置2に設置された経糸ビームから引き出された経糸シートTを、糊付け機3の各ロール及びシリンダ乾燥装置4の各乾燥用シリンダ5に巻き掛けられた状態として巻取装置6まで導く経糸シートTの仕掛け作業が行われるが、この仕掛け作業においても、経糸糊付け装置1は、定常運転よりも低い運転速度による低速運転が行われる。
【0045】
このように、経糸糊付け装置1の運転状態が低速運転となる経糸準備運転時においても、前述の実施例1における経糸処理運転時等と同様に、乾燥用シリンダの温度制御を、定常運転用設定温度より低い予め設定された経糸準備運転用の低速運転用設定温度に従った温度制御(低温制御態様)とすることにより、経糸糊付け装置1の運転状態が低速運転であることに伴う経糸シートTの過乾燥が防止される。
【0046】
この実施例2は、前述の実施例1と同様に、図1及び図2を用いて説明される。この経糸準備運転用の設定温度は、温度設定器24によって出力部25に設定され、実施例1と同様に出力部25、比較器26、熱量調整部27、調節器21を介して乾燥用シリンダ5の温度制御が行われる。なお、この経糸準備運転時における低速運転は、低速運転用スイッチ18によって開始されるものとしてもよいし、これとは別に、専用の準備運転開始用のスイッチ(図示せず)を設け、そのスイッチ操作によって開始されるものとしてもよい。
【0047】
そして、上記の経糸準備運転が完了すると、経糸糊付け装置1の連続運転開始に伴う定常運転(高速運転)が開始される。すなわち、経糸糊付け装置1の運転状態が、経糸準備運転から定常運転に切り換えられる。そして、この運転状態の切り換わりに伴い、熱量制御装置9は、乾燥用シリンダ5の温度制御を、経糸準備運転(低速運転)用の設定温度に従った制御態様(低温制御態様)から、定常運転用設定温度に従った制御態様(定常制御態様)へ切り換える。
【0048】
但し、上記の経糸準備運転用の設定温度は、前述の実施例1に記載される低速運転用設定温度T2と同じであってもよいし、それよりも低い又は高い低温設定温度であってもよい。また、同じ経糸準備運転であっても、作業者によって異なる送り速度で作業が行われる場合があるため、複数の経糸準備運転用の設定速度及び設定温度を設定するようにしてもよい。
【0049】
また、上記経糸準備用の設定温度についても、前述と同様に、定常運転用設定温度T1に対する比率を出力部25に設定し、定常運転用設定温度T1の入力設定に伴って自動的に設定されるものとしてもよい。
【実施例3】
【0050】
実施例3は、前述の巻取完了運転時において、乾燥用シリンダ5の温度制御を低速運転用設定温度に従った低温制御態様とするものに代えて、熱量制御装置9による温度制御を停止する場合について述べる。すなわち、本発明でいう定常運転用設定温度よりも低い温度とする低温制御態様とは、定常運転用設定温度よりも低い設定温度に従った温度制御だけでなく、温度制御自体を停止することも含む。
【0051】
この実施例3の場合には、図2に示す構成において、比較器29の出力信号が、図2で示す出力部25ではなく、熱量調整部27に入力されるようにすればよい。そして、比較器29からの出力信号が熱量調整部27に供給されると、熱量調整部27は電磁開閉弁21を閉状態とし、熱源22から乾燥用シリンダ5への熱の供給を停止する。この場合、巻き取り完了までの間において、シリンダ乾燥装置4を通過する経糸シートTは、乾燥用シリンダ5の余熱により、定常運転用設定温度T1より低い温度で乾燥される。
【0052】
すなわち、この実施例3では、経糸糊付け装置1の運転状態が、定常運転から前述の低速運転を伴う巻取完了運転に切り換えられたことに伴って、乾燥用シリンダの温度制御が、定常運転用設定温度T1に従った制御態様から、熱の供給を停止し、余熱を利用して乾燥用シリンダを定常運転用設定温度T1より低い温度とする制御態様に移行する。
【0053】
この実施例3では、上記巻取完了運転時における低速運転において、乾燥用シリンダ5の温度制御を停止して乾燥用シリンダの温度が定常運転用の設定温度T1より低い温度となるように制御態様を変更するため、運転状態が巻取完了運転である場合における経糸糊付け装置1の低速運転においても経糸シート内の各経糸が過乾燥状態の状態となることを防ぎ、経糸の品質が低下することを防止できる。また、温度制御を停止し、乾燥用シリンダ5の余熱を利用して乾燥を行うため、供給する熱流体が節約され、経糸糊付け装置1のランニングコストを抑えることができる。
【0054】
なお、上記の実施例3では、巻取完了運転時に低速運転を行う場合について述べたが、この巻取完了運転時において、低速運転は行わない場合であっても、乾燥用シリンダ5の温度制御の制御態様を上記のように切り換える(温度制御を停止する)ようにしてもよい。すなわち、巻取完了運転では、その設定期間の長さにより、高速運転状態でも乾燥用シリンダ5の余熱のみで十分に乾燥可能な場合があるため、巻取完了運転の開始に伴って乾燥用シリンダ5の温度制御を停止することも可能である。この場合、経糸糊付け装置1自体の運転状態は、定常運転時と同じ高速運転状態であるが、運転態様が巻取完了運転に切り換わったことに伴い、乾燥用シリンダ5の制御態様が切り換えられることになる。
【0055】
以上では、経糸糊付け装置1の運転状態が前述の経糸処理運転、点検運転、巻取完了運転に行われる低速運転時の開始に伴った乾燥用シリンダ5の温度制御の制御態様を切り換える場合について説明したが、これは、言い換えれば、経糸糊付け装置1の運転速度に応じて乾燥用シリンダ5の温度制御の制御態様を切り換えているとも言える。しかし、経糸糊付け装置1の運転速度が同じである場合、すなわち、経糸糊付け装置1自体の運転状態が同じ場合であっても、その運転状態に応じて行われる作業(運転態様)に応じて制御態様を切り換えるようにしてもよい。
【0056】
また、前述の実施例では、経糸糊付け装置1の運転状態として経糸処理運転、点検運転及び巻取完了運転を例示して説明したが、これに限らず、本発明は、経糸糊付け装置1の運転開始から経糸シートTの巻き取り完了までの間の、経糸糊付け装置1が定常運転時とは異なる運転速度で運転される全ての運転状態に対し適用可能である。
【0057】
また、前述の実施例では、乾燥用シリンダ5を用いたシリンダ乾燥装置4のみで経糸シートを乾燥する経糸糊付け装置1を例として説明したが、本発明はこれに限らず、熱風乾燥装置とシリンダ乾燥装置とを併用した経糸糊付け装置にも適用可能である。
【0058】
なお、本願発明は、本願明細書に記載される実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の技術的範囲により保護される全ての発明を含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明が適用される経糸糊付け装置の一例を示す概略図である。
【図2】本発明の運転制御方法の実施形態を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0060】
1 経糸糊付け装置
2 給糸装置
3 糊付け機
4 シリンダ乾燥装置
5 乾燥用シリンダ
6 巻取装置
9 熱量制御装置
10 測長カウンタ
11 設定器
12 主制御装置
16 高速運転用スイッチ
18 低速運転用スイッチ
21 電磁開閉弁(調節器)
22 熱源
23 温度センサ
24 温度設定器
25 出力部
26 比較器
27 熱量調整部
28 供給管
29 比較器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸シートが巻き掛けられる複数本の乾燥用シリンダを備える経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法であって、
前記経糸糊付け装置の運転態様に応じて、前記乾燥用シリンダの温度制御を、定常運転時の運転速度に応じて設定された定常運転用設定温度に従った定常制御態様と、前記乾燥用シリンダの温度を前記定常運転用設定温度よりも低い温度とする低温制御態様との間で切り換える、
ことを特徴とする経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項2】
前記運転態様は、前記定常運転時よりも低い速度で経糸シートが送られる低速運転を含み、
前記低温制御態様は、前記低速運転時の運転速度に応じて設定された設定温度であって前記定常運転用設定温度よりも低い温度として設定された前記低速運転用の設定温度に従った前記乾燥用シリンダの温度制御を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項3】
前記低速運転は、前記経糸糊付け装置の連続運転時における前記経糸の糸切れ発生時にその糸切れ状態を処理するための経糸処理運転、前記経糸糊付け装置の作動状態又は経糸シートの状態を点検するための点検運転の少なくとも一方を含み、
前記経糸糊付け装置の連続運転中において、前記運転態様が前記定常運転から前記低速運転を伴う運転状態に切り換えられたことに伴い、前記乾燥用シリンダの温度制御を、前記定常制御態様から前記低温制御態様へ切り換える、
ことを特徴とする請求項2に記載の経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項4】
前記低速運転は、前記経糸糊付け装置の連続運転開始前の前記経糸糊付け装置に対し経糸シートを仕掛けるための経糸準備運転を含み、
前記経糸糊付け装置に対し経糸シートを仕掛ける作業の終了後、前記連続運転の開始に伴う前記定常運転の開始に応じて、前記乾燥用シリンダの温度制御を、前記低温制御態様から前記定常制御態様へ切り換える、
ことを特徴とする請求項2に記載の経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項5】
前記低速運転用の設定温度は、前記定常運転用設定温度に対して温度値の比率で設定される、
ことを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載の経糸糊付け装置におけるシリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項6】
前記低温設定温度として複数の設定温度値を設定可能なこと、
を特徴とする請求項2から5のいずれか一項に記載の経糸糊付け装置用シリンダ乾燥装置の運転制御方法。
【請求項7】
前記運転態様は、前記経糸糊付け装置の巻取装置における巻取ビームへの経糸シートの巻き取りが完了する前の予め設定された時点以降から巻き取り完了までの巻取完了運転を含み、
前記低温制御態様は、前記巻取完了運転時において前記乾燥用シリンダに対する温度制御を停止することを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の経糸糊付け装置用シリンダ乾燥装置の運転制御方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−196071(P2008−196071A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−30773(P2007−30773)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】