説明

経編地

【課題】ジャカード組織を生地表に配しても、脆化が起き難く、堅牢性、染色性、編み立て性も良好であり、製品化した場合に着用時の擦り切れも生じ難い経編地であって、部分的に高いパワーを有しながら伸縮性にも富み、着用者の体型に左右され難い優れた着用感、着用者の体の動きに対応し得る追随性を有する、経編地を提供する。
【解決手段】経編地は、少なくともジャカード組織および支持組織の組み合わせからなり該ジャカード組織の組織変化によりパワーの高い領域が部分的に形成されている経編地であって、前記ジャカード組織が被覆弾性糸からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経編地に関し、詳しくは、パワーの高い領域が部分的に形成されていることにより体型補正などを目的とする衣類に好適に利用できる経編地に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、体型補正などの目的で、部分的にパワーを高めるようにした経編地が知られている。
部分的にパワーを高める方法としては、部分的に当て布を施したり、編み組織を部分的に変化させたりするなどの方法が知られている。部分的に当て布を施す方法では、当て布部分に段差が生じてしまい、外観や着用感を害してしまうため、このような段差の生じない、編み組織の部分的変化によるパワー強化のほうが優れている。
前記のごとき編み組織の部分的変化によるパワー強化技術としては、ジャカード組織による組織変化を利用することが知られており、例えば、ジャカード編からなる地編が非弾性糸で編まれ、挿入糸として弾性糸を用いた経編地からなる衣類において、緊迫力の強弱の要求に応じて前記地編の表側に現れる編組織を切り換えて、組織の変化により、所定部分に所定の比較的緊迫力の強い部分と比較的緊迫力の弱い部分をパターン状に設けた経編地からなる体型補正機能を有する衣類に関する技術が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
従来は、前記特許文献1に記載のように、ジャカード組織に使用する糸として、非弾性糸を使用するのが常識となっていたが、非弾性糸は伸縮性を持たないので、着用者の体型や、着用者の体の動きによっては、押さえつけられたような窮屈感を生じさせる場合があった。
なお、ジャカード組織による組織変化を利用したパワー強化を目的とする技術ではないが、ジャカード筬に弾性糸を使用し、ジャカード筬より前方に位置するフロント筬は非弾性糸を使用して振りの入ったルーピングされた組織とし、該弾性糸のジャカード運動で柄形成されたことを特徴とする経編地も知られている(特許文献2参照)。この技術は、繊細な柄と良好な伸縮性を有しつつ、かつ、薄地である経編地を提供することを目的としている。
【0004】
しかし、前記特許文献2の技術で得られる経編地は、生地表に非弾性糸によるルーピング組織、生地裏に弾性糸によるジャカード組織が設けられることとなり、ジャカード柄が沈んで見えてしまう。また、前記特許文献2には、編地の柄は、弾性糸のジャカード機構により、主に非弾性糸のシンカーループが変形する事により柄形成されるのが大きな特徴であるとの記載があり、この記載から分かるように、生地裏に設けられた弾性糸によるジャカード組織の組織変化により間接的に生地表に設けられた非弾性糸のルーピング組織を変化させて柄形成させているので、通常のジャカード組織とは柄形成の機構が異なり、一般的なジャカード経編地としては適用し難い技術である。
【0005】
前記問題を解消するために、前記特許文献2の技術において、弾性糸によるジャカード組織を生地表に設けるようにすると、光や熱などによって脆化し易い、堅牢性が悪い、染色性が悪い、編み立て性が悪い(ループ形成すると糸切れが生じやすい)、製品化した場合に着用時の擦り切れが生じやすい、といった問題が新たに生じる。
【特許文献1】特許第3461316号公報
【特許文献2】特開2002−371453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ジャカード組織を生地表に配しても、脆化が起き難く、堅牢性、染色性、編み立て性も良好であり、製品化した場合に着用時の擦り切れも生じ難い経編地であって、部分的に高いパワーを有しながら伸縮性にも富み、着用者の体型に左右され難い優れた着用感、着用者の体の動きに対応し得る追随性を有する、経編地を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った。その結果、被覆弾性糸によりジャカード組織を形成するようにすれば、弾性糸によるジャカード組織のような堅牢性、染色性などの前記した問題は生じず、着用者の体型に左右され難い優れた着用感、着用者の体の動きに対応し得る追随を有する経編地を得ることができ、さらに、この経編地は、非弾性糸によりジャカード組織を形成する場合にはない新規な性質、すなわち、伸縮した分だけパワーを高めることができ、糸の太さでパワーを変えることができるという性質をも備えることを見出し、それを確認して、本発明を完成した。
すなわち、本発明にかかる経編地は、少なくともジャカード組織および支持組織の組み合わせからなり該ジャカード組織の組織変化によりパワーの高い領域が部分的に形成されている経編地であって、前記ジャカード組織が被覆弾性糸からなる、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる経編地は、ジャカード組織を生地表に配しても、脆化が起き難く、堅牢性、染色性、編み立て性も良好であり、製品化した場合に着用時の擦り切れも生じ難い経編地であって、着用者の体型に左右され難い優れた着用感、着用者の体の動きに対応し得る追随性を有するとともに、伸縮した分だけパワーを高めることができ、糸の太さでパワーを変えることもできる、という非弾性糸にはない性質をも備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明にかかる経編地について具体的に説明する。ただし、本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更実施し得る。
〔経編地〕
本発明にかかる経編地は、少なくともジャカード組織および支持組織の組み合わせからなり該ジャカード組織の組織変化によりパワーの高い領域が部分的に形成されている経編地であって、前記ジャカード組織が被覆弾性糸からなる。
〔ジャカード組織〕
ジャカード組織はジャカード筬によって編成され、ジャカード筬の基本動作を変位させることによって、種々の編成組織を形成させることができる。
【0010】
本発明にかかるジャカード組織は、被覆弾性糸によって形成される点に特徴を有するものであり、ジャカード筬の基本動作や変位機構などは、従来と同様でよい。
例えば、通常のジャカード組織と同様に、隣接する2列のウェールに糸が重合的に渡って編み込まれた厚地編、ウェール間に1本だけ横に渡って編み込まれた薄地編、編地の1本のウェールに絡んでウェール間に糸が渡らない穴地編を形成させることができる。
そして、ジャカード組織を、基本的には薄地編で編成し、一部を厚地編で編成することで、パワーの高い領域を部分的に形成することができる。
また、通常のジャカード組織と同様、前記厚地編、薄地編、穴地編を組み合わせることによって柄を形成させることもできる。
【0011】
つぎに、本発明にかかるジャカード組織を形成する被覆弾性糸は、弾性糸が被覆糸で被覆された構造を有する。
前記被覆弾性糸の弾性糸としては、特に限定するわけではないが、例えば、従来一般に用いられているポリウレタン弾性糸などのスパンデックスなどを用いることができる。また、その被覆糸としては、綿などの天然繊維、ナイロンなどの合成繊維、さらには半合成繊維や再生繊維などの非弾性糸を用いることができるほか、ウーリーナイロンなどの巻縮をかけた比較的弾性のある非弾性糸以外の糸を用いることもできる。
前記被覆弾性糸は、1本の弾性糸が1本の被覆糸で被覆されているもの(シングルカバードヤーン)に限らず、1本の弾性糸が2本の被覆糸で被覆されているもの(ダブルカバードヤーン)であっても良い。
【0012】
前記被覆弾性糸の太さは、例えば、11〜98dtexであることが好ましい。この範囲であれば、生地が厚くなりすぎず、適度な伸縮性を付与することができる。
前記被覆弾性糸の弾性糸の太さは、例えば、78dtex以下であることが好ましい。78dtex以下であれば、生地が厚くなりすぎず、適度な伸縮性を付与できる。より好ましくは33〜44dtexである。特に、この被覆弾性糸によれば、弾性糸の太さに応じて、パワーを変化させることが可能である。非弾性糸では、糸の長さに対応した固定的なパワーしか付与できず、糸の太さに応じてパワーを変化させることはできない。
前記被覆糸の太さは、弾性糸の太さに対して、例えば、0.3倍以上であることが好ましい。0.3倍以上であれば、弾性糸の光や熱などによる脆化のし易さ、堅牢性、染色性、編み立て性の低さ、製品化した場合に着用時の擦り切れの生じやすさなどの欠点を十分に解消することができる。より好ましくは0.7〜1.4倍である。
【0013】
〔支持組織〕
支持組織は、基本的には非弾性糸によって形成され、経編地の物性を安定させるものであり、非弾性糸と弾性糸を組み合わせた組織であっても良い。
前記支持組織としては、特に限定されず、ジャカード組織とともに通常使用されるものを採用することができ、例えば、10/12/23/21//、10/12/10/23/21/23//、12/12/12/10/10/10//などの繰返し単位を有するものが挙げられる。
前記非弾性糸としては、綿などの天然繊維、ナイロンなどの合成繊維、さらには半合成繊維や再生繊維なども使用できる。これらの繊維からなるフィラメント糸、紡績糸、交撚糸などの何れの形態でもよい。
【0014】
前記非弾性糸の太さは、特に限定されないが、例えば、17〜85dtexであることが好ましい。より好ましくは22〜44dtexである。前記範囲内であれば、生地が分厚くなったり、伸縮性が阻害されたり、表面質感や肌触りが低下したりするなどの問題を生じさせることなく、編地に良好な安定性を付与することができる。
支持組織として弾性糸も組み合わせる場合、該弾性糸の太さは、特に限定されないが、例えば、33〜156dtexであることが好ましい。より好ましくは33〜78dtexである。前記範囲内であれば、生地が分厚くなったり、表面質感や肌触りが低下したりするなどの問題を生じさせることなく、編地に優れた伸縮性を付与することができる。
【0015】
〔挿入糸〕
本発明にかかる経編地においては、弾性糸からなる挿入糸を組み合わせることが好ましい。弾性糸を挿入することで、伸縮性がより良好となる。
前記弾性糸の太さは、特に限定されないが、例えば、33〜622dtexであることが好ましい。より好ましくは44〜310dtexである。前記範囲内であれば、生地が分厚くなったり、表面質感や肌触りが低下したりするなどの問題を生じさせることなく、編地に優れた伸縮性を付与することができる。
〔その他の編成組織や編成糸〕
本発明にかかる経編地では、上述のジャカード組織、支持組織、挿入糸以外にも、通常の編地で採用されるような他の編成組織や編成糸を適用しても良い。
【0016】
例えば、従来公知の方法により、抜き糸、弾性連結組織を用いて、縁始末の不要な分離構造を設けるようにしても良い。
〔経編地の製造〕
編成は、基本的には、通常の編地と共通する編成装置および編成方法が適用できる。
編機としては、ジャガード機構を備えた編機であれば特に限定されず、従来公知の種々の編機が使用できる。
通常、ジャカード編成組織を形成するジャカード筬の後方に支持組織を形成する筬が配置される。すなわち、通常、経編地の生地表にジャカード組織が設けられ、生地裏に支持組織が設けられる。本発明では、ジャカード組織が被覆弾性糸により形成されるので、前記のごとく、生地表にジャカード組織が設けられても、脆化し易くなったり、堅牢性、染色性、編み立て性が低下したり、製品化した場合に着用時の擦り切れが生じたり、といった問題は生じない。
【0017】
編成された編地は、精練処理やセット加工、染色処理などの、通常の編地に行われている処理工程を経て、編地製品となる。
特に、弾性糸を2種類以上用いて交差させたりループさせたりした場合には、セット加工の際に、糸同士の交差部分や編目部分で弾性糸の熱融着を起こさせ接合させることで、引き裂きに対する抵抗性を高め、破裂強度を向上させることもできる。この場合におけるセット加工の処理条件は、使用する非弾性糸および弾性糸の種類や特性によっても異なるが、通常、180〜195℃の熱セット加工が採用される。
〔用途〕
本発明にかかる経編地は、例えば、体型補正などを目的とする衣類に好適に利用でき、インナー衣料のみならず、その伸縮性を生かして、スポーツウェアなどにも好適に利用できる。
【実施例】
【0018】
以下では、本発明にかかる経編地について、実施例を示しながら、具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
編成装置としては、カールマイヤー社製のRSJ5/1を用いた。
〔実施例1〕
図1は、編地の編成に用いた各筬の基本動作を表している。
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2,G3、挿入糸および連結糸を形成する筬G4の基本動作は、以下の通りである。
筬P1:01/21/01/21//
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:10/12/23/21//
筬G3:23/21/10/12//
筬G4:22/11/00/11//
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G4は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図1に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
【0019】
図2は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図2(a)は身生地部、図2(b)はパワー強化部、図2(c)はヘム部(抜き糸および縁糸)のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
<身生地部>
筬P1:01/21/01/21//(変位なし)
筬P2:筬P1と同じ
<パワー強化部>
筬P1:01/32/01/32//(繰返し単位中2,4コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:01/10/01/10//(繰返し単位中1,3コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<糸使い>
身生地部およびパワー強化部における各筬の糸使いは以下の通りであった。
【0020】
筬P1:WNy33/Ly44(シングルカバードヤーン、オペロンテックス社製)
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:Ny33−26−ミラコスモ(東レ社製)
筬G3:Ly44−127C(オペロンテックス社製)
筬G4:Ly117−127C(オペロンテックス社製)
ヘム部においては、抜き糸とその両側の縁糸を筬P1,P2で形成し、連結糸を筬G4で形成するようにして、そのときの糸使いは、抜き糸として「Ny66−56//2(東レ社製)」を用い、縁糸として「Ny22−7−ブライト(東レ社製)」を用い、連結糸として「Ly117−127C//2(オペロンテックス社製)」を用いるようにした。
【0021】
〔実施例2〕
各糸使いは実施例1と共通するため省略する。
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2,G3、挿入糸および連結糸を形成する筬G4の基本動作も、図1と共通するため省略する。
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G4は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図1に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
図3は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図3(a)は身生地部、図3(b)はパワー強化部、図3(c)はヘム部のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
【0022】
<身生地部>
筬P1:12/21/01/21//(繰返し単位中1コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<パワー強化部>
筬P1:01/21/12/32//(繰返し単位中3,4コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:01/10/01/10//(繰返し単位中1,3コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
〔実施例3〕
図4は、編地の編成に用いた各筬の基本動作を表している。
【0023】
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2,G3、挿入糸を形成する筬G4、連結糸を形成する筬G5の基本動作は、以下の通りである。
筬P1:10/12/10/12/10/12//
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:10/12/10/23/21/23//
筬G3:23/21/23/10/12/10//
筬G4:11/00/11/00/11/00//
筬G5:22/11/33/11/22/00//
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G5は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図4に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
【0024】
図5は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図5(a)は身生地部、図5(b)はパワー強化部、図5(c)はヘム部(抜き糸および縁糸)のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
<身生地部>
筬P1:10/12/10/12/10/12//(変位なし)
筬P2:筬P1と同じ
<パワー強化部>
筬P1:10/23/10/23/10/23//(繰返し単位中2,4,6コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:10/01/10/01/10/01//(繰返し単位中1,3,5コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<糸使い>
身生地部、パワー強化部における各糸使いは以下の通りである。
【0025】
筬P1:Ny11/Ly22(ダブルカバードヤーン、オペロンテックス社製)
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:Ny22−7−ブライト(東レ社製)
筬G3:筬G2と同じ
筬G4:Ly285−906C(オペロンテックス社製)
ヘム部においては、抜き糸とその両側の縁糸を筬P1,P2で形成し、連結糸を筬G5で形成するようにして、そのときの糸使いは、抜き糸として「Ny66−56//2(東レ社製)」を用い、縁糸として「WNy33−10−セミダル(東レ社製)」を用い、連結糸として「Ly285−906C(オペロンテックス社製)」を用いるようにした。
【0026】
〔実施例4〕
各糸使いは実施例3と共通するため省略する。
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2,G3、挿入糸を形成する筬G4、連結糸を形成する筬G5の基本動作も、図4と共通するため省略する。
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G5は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図4に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
【0027】
図6は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図6(a)は身生地部、図6(b)はパワー強化部、図6(c)はヘム部(抜き糸および縁糸)のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
<身生地部>
筬P1:10/23/21/23/10/12//(繰返し単位中2〜4コース目を変位)
筬P2:10/12/10/23/21/23//(繰返し単位中4〜6コース目を変位)
<パワー強化部>
筬P1:10/23/10/23/10/23//(繰返し単位中2,4,6コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:10/01/10/01/10/01//(繰返し単位中1,3,5コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
〔比較例1〕
図7は、編地の編成に用いた各筬の基本動作を表している。
【0028】
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2、挿入糸を形成する筬G3、挿入糸および連結糸を形成する筬G4の基本動作は、以下の通りである。
筬P1:10/12/10/12/10/12//
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:21/12/10/12/21/23//
筬G3:11/00/11/00/11/00//
筬G4:11/00/22/11/22/00//
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G4は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図7に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
【0029】
図8は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図8(a)は身生地部、図8(b)はパワー強化部、図8(c)はヘム部のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
<身生地部>
筬P1:21/12/10/12/21/23//(繰返し単位中1,5,6コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<パワー強化部>
筬P1:10/23/10/23/21/12//(繰返し単位中2,4,5コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:10/01/10/01/10/01//(繰返し単位中1,3,5コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<糸使い>
身生地部、パワー強化部における各筬の糸使いは以下の通りであった。
【0030】
筬P1:Ny66−33−26−セミダル(東レ社製)
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:Ny6−22−7−ブライト(東レ社製)
筬G3:Ly285−902C(オペロンテックス社製)
筬G4:Ly44−127C(オペロンテックス社製)
ヘム部においては、抜き糸とその両側の縁糸を筬P1,P2で形成し、連結糸を筬G4で形成するようにして、そのときの糸使いは、抜き糸として「Ny66−56//2(東レ社製)」を用い、縁糸として「Ny66−22−7−ブライト(東レ社製)」を用い、連結糸として「Ly285−902C(オペロンテックス社製)」を用いるようにした。
【0031】
〔比較例2〕
図9は、編地の編成に用いた各筬の基本動作を表している。
ジャカード組織を形成するジャカード筬P1,P2、支持組織を形成する筬G2、挿入糸を形成する筬G3、連結糸を形成する筬G4の基本動作は、以下の通りである。
筬P1:10/12/10/12/10/12//
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:12/12/12/10/10/10//
筬G3:22/11/22/00/11/00//
筬G4:22/11/33/11/22/00//
ジャカード筬P1,P2では基本動作からの変化により、編成されるジャカード組織を様々に変化させている。他の筬G2〜G4は基本動作から変化させることなく編成に供するので、図9に示す基本動作は、各筬で編成される編成組織図そのものである。
【0032】
図10は、ジャカード筬P1,P2の変位機構により実際に編成されるジャカード組織を表したものであり、図10(a)は身生地部、図10(b)はパワー強化部、図10(c)はヘム部のジャカード組織である。実線が実際に編成されるジャカード組織を示しており、破線は変位前の基本動作を参考として示したものである。
<身生地部>
筬P1:21/23/21/12/10/12//(繰返し単位中1〜3コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<パワー強化部>
筬P1:10/23/10/23/10/23//(繰返し単位中2,4,6コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<ヘム部>
筬P1:10/01/10/01/10/01//(繰返し単位中1,3,5コース目を変位)
筬P2:筬P1と同じ
<糸使い>
身生地部、パワー強化部における各筬の糸使いは以下の通りであった。
【0033】
筬P1:Ny22−7−ブライト(東レ社製)
筬P2:筬P1と同じ
筬G2:Ny22−7−ブライト(東レ社製)
筬G3:Ly235−127C(オペロンテックス社製)
ヘム部においては、抜き糸とその両側の縁糸を筬P1,P2で形成し、連結糸を筬G4で形成するようにして、そのときの糸使いは、抜き糸として「Ny66−56//2(東レ社製)」を用い、縁糸として「Ny66−22−7−ブライト(東レ社製)」を用い、連結糸として「Ly235−127C(オペロンテックス社製)」を用いるようにした。
【0034】
〔編地特性の評価〕
常法により編地の各種特性値を測定した。
<パワー>
2.5cm×16.0cmの試験片を、タテ、ヨコ方向にそれぞれ採取して、これらの試験片を、上部つかみ2.5cm、下部つかみ3.5cm、つかみ間隔10.0cmとして、定速伸長型引張試験機に取り付け、30±2cm/minの速度で試験片に負荷をかけて80%伸長させた後、試験片に対する負荷を緩めながら30±2cm/minの速度で伸長を戻す操作を3サイクル繰返し、試験の間、パワー(試験片に生じる応力)を自動的に測定し記録した。
【0035】
なお、上述の試験片を80%伸長させるとは、伸ばす前の試験片の長さ(掴み間隔)eと、伸ばした状態における試験片の伸び方向の長さdとから、(d−e)/e×100で求められる値が80%であることを意味する。下記の15%伸長時、30%伸長時、50%伸長時も同様にして与えられる数値であり、また、後述の伸度の値も同様の計算式による。
3サイクル目(3rd)における15%伸長時、30%伸長時、50%伸長時の負荷時(L)のパワー、除荷時(UL)のパワーと、80%伸長時のパワーを表1、2に示した。
【0036】
<伸度>
2.5cm×16.0cmの試験片を、タテ、ヨコ方向にそれぞれ採取して、これらの試験片を、上部つかみ2.5cm、下部つかみ3.5cm、つかみ間隔10.0cmとして、定速伸長型引張試験機に取り付け、30±2cm/minの速度で機械を操作し、荷重9.8Nで引っ張ったときの1回目(1st)のタテとヨコそれぞれの伸度(%)を測定した。同様にして、荷重14.7N、荷重22.1Nで引っ張ったときの1回目(1st)のタテとヨコそれぞれの伸度(%)についても測定した。
これらの荷重ごとの伸度を表1、2に示した。
【0037】
<伸長回復性>
上記パワー測定と同様にして、試験片を定速伸長型引張試験機に取付け、30±2cm/minの速度で80%伸長とその回復を3サイクル繰り返して行った。このときの1サイクル目(1st)と3サイクル目(3rd)における伸長前に対する回復後の長さ(%)を測定した。この値を伸長回復性の評価基準とする。
上記伸長回復性を表1、2に示した。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
〔結果の考察〕
表1に示す実施例にかかる編地と、表2に示す比較例にかかる編地を比較すると分かるように、実施例にかかる編地は、いずれも、パワー強化部におけるパワーが、比較例にかかる従来の編地と同程度であり、体型補正などの目的にも十分適用できるものである。
また、特に、30%伸長時、50%伸長時におけるパワーに着目すると、実施例にかかる編地は、いずれも、除荷時のパワーが負荷時のパワーに対して50%以上の値となっており、他方、比較例にかかる編地は、いずれも、除荷時のパワーが負荷時のパワーに対して50%以下の値となっていることが分かる。このことは、実施例にかかる編地が、高い戻り力を有することを意味し、伸長時、戻り時のいずれにおいても、優れたパワーが発揮されることから、着用者の体の動きに対応し得る追随性を有するものであることが分かり、他方、比較例にかかる編地は、伸長時のみにしかパワーを与えることができず、着用者への力の掛かり方が固定的であるので、着用者の体の動きに対応し得る追随性は発揮されないことが分かる。
【0041】
さらに、実施例にかかる編地は、パワー強化部に十分なパワーを付与していながら、パワー強化部の伸度は身生地部の伸度と大きな隔たりはなく、部分的に高いパワーを有しながら伸縮性にも富む、という本願発明の目的が達成されていることが裏付けられている。一方、比較例にかかる従来の編地では、パワー強化部の伸度が小さく、着用者に窮屈感を与えるであろうことが容易に推測できる。
伸長回復性については、実施例にかかる編地のいずれにおいても、パワー強化部における伸長回復性が、1回目、3回目ともに、90%を超える高い値を示している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明の経編地は、例えば、体型補正などを目的とするインナー衣料やスポーツウェアなどとして好適に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1,2にかかる編地の編成に用いた各筬の基本動作を表す図
【図2】実施例1にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図3】実施例2にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図4】実施例3,4にかかる編地の編成に用いた各筬の基本動作を表す図
【図5】実施例3にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図6】実施例4にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図7】比較例1にかかる編地の編成に用いた各筬の基本動作を表す図
【図8】比較例1にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図9】比較例2にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【図10】比較例2にかかる編地におけるジャカード組織を表す図
【符号の説明】
【0044】
P1,P2 ジャカード筬
G2〜G5 ジャカード筬以外の筬


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともジャカード組織および支持組織の組み合わせからなり該ジャカード組織の組織変化によりパワーの高い領域が部分的に形成されている経編地であって、前記ジャカード組織が被覆弾性糸からなる、ことを特徴とする、経編地。
【請求項2】
生地表に前記被覆弾性糸からなるジャカード組織が設けられている、請求項1に記載の経編地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−100968(P2010−100968A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274090(P2008−274090)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(592117623)ウラベ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】