説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量である結晶性ポリマー微孔性膜、及び高倍率での延伸にも安定して耐え得る結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びにプリーツ耐性の高い濾過用フィルタの提供。
【解決手段】本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、結晶性ポリマーを用いて予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された絞り部と、該絞り部と接続され、中心角度が80°以上160°以下の扇部とを有する押出装置により前記予備成形体をシート状に押出する押出工程と、前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを多段圧延する圧延工程と、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを延伸する延伸工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶性ポリマー微孔性膜及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに濾過用フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は古くから知られているが、近年、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過及び滅菌などに用いる濾過用フィルタとして、その用途及び使用量が拡大しており、信頼性の高い微孔性膜が注目されている。
【0003】
このような微孔性膜としては、例えば、セルロースエステルを原料とするもの(例えば、特許文献1参照)、脂肪族ポリアミドを原料とするもの(例えば、特許文献2参照)、ポリフルオロカーボンを原料とするもの(例えば、特許文献3参照)、ポリプロピレンを原料とするもの(例えば、特許文献4参照)、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することもある)を原料するもの(例えば、特許文献5及び6参照)などが知られている。これらの中でも、前記PTFEを原料とした結晶性ポリマー微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0004】
前記PTFEを原料とした結晶性ポリマー微孔性膜として、例えば、ホモポリテトラフルオロエチレンポリマーと変性ポリテトラフルオロエチレンコポリマーの各層を積層してなる複層膜が提案されている(例えば、特許文献5及び6参照)。しかしながら、前記提案では、前記複層膜を作製する際に用いる押出装置において、高いせん断力が生じるため、強度の高い押出物が形成され、高倍率で延伸を行うと延伸方向に割れが発生することがあり、安定した膜の形成が困難であるという問題がある。
そこで、これらの問題を解消するために、前記PTFEを原料とした結晶性ポリマー微孔性膜として、例えば、押出物の段階において強度、及び伸び率を均一化することにより、物性の安定したPTFEシートを形成する方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。しかしながら、前記提案では、積層構造についての記載がなく、高倍率で延伸することが難しく、微小な孔径を有する膜の作製が困難であるという問題がある。
【0005】
したがって、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量である結晶性ポリマー微孔性膜、及び高倍率での延伸にも安定して耐え得る結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の速やかな開発が強く求められているのが現状である。
また、このような結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、膜の柔軟性が高く、応力が集中しにくい構造であるため、プリーツ耐性が高いと考えられ、速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開平3−179038号公報
【特許文献6】特開平3−179039号公報
【特許文献7】特開2002−370279号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量の結晶性ポリマー微孔性膜を提供することを目的とする。また、本発明は、高倍率での延伸にも安定して耐え得る結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法を提供することを目的とする。そして、本発明は、プリーツ耐性の高い濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、結晶性ポリマーを用いて予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された絞り部と、該絞り部と接続され、中心角度が80°以上の扇部とを有する押出装置により前記予備成形体をシート状に押出する押出工程と、前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを多段圧延する圧延工程と、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを延伸する延伸工程とを含む製造方法とすることにより、高倍率での延伸にも安定して耐え得る結晶性ポリマー微孔性膜を製造できることを知見した。また、前記製造方法を用いることにより、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができる高流量の結晶性ポリマー微孔性膜が製造されることを知見した。そして、前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いてなる濾過用フィルタのプリーツ耐性が高くなることを知見し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 結晶性ポリマーを用いて予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された絞り部と、該絞り部と接続され、中心角度が80°以上160°以下の扇部とを有する押出装置により前記予備成形体をシート状に押出する押出工程と、前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを多段圧延する圧延工程と、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<2> 押出工程が、16以下の絞り比を有する押出装置を用いて押出する工程である前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<3> 圧延工程が、最終段圧延と、それ以外の圧延とが異なる圧力条件で圧延を行う工程である前記<1>から<2>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<4> 最終段圧延における圧力が、それ以外の圧延における圧力よりも高い前記<3>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<5> 予備成形体が、第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層された積層予備成形体であり、前記第1の結晶性ポリマーの融点が前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも高い前記<1>から<4>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<6> 前記<1>から<5>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造されることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<7> 前記<6>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量の結晶性ポリマー微孔性膜を提供することを目的とする。また、本発明は、高倍率での延伸にも安定して耐え得る結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法を提供することができる。そして、本発明は、プリーツ耐性の高い濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法の工程の一例を示す図である。
【図2】図2は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法の他の工程の一例を示す図である。
【図3】図3は、積層予備成形体の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法の他の工程の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明で用いる押出装置の一例を表す図である。
【図6】図6は、本発明に係る2層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図7】図7は、本発明に係る3層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図8】図8は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図9】図9は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図10】図10は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、予備成形体作製工程と、押出工程と、圧延工程と、延伸工程とを含み、更に必要に応じてその他の工程を含む。
【0013】
<予備成形体作製工程>
前記予備成形体作製工程は、結晶性ポリマー、及びその他の成分を含むペーストを金型内に敷き詰めて加圧し、予備成形体を作製する工程である。
【0014】
前記結晶性ポリマーとしては、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーが挙げられる。このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、初めは透明なフィルムが白濁する現象が生じる。前記現象は、外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられ、結晶性が発現したことに由来する。
【0015】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、第1の結晶性ポリマー、及び第1の結晶性ポリマーの融点よりも低い第2の結晶性ポリマーを用いることが好ましい。なお、前記第1の結晶性ポリマーは「高融点の結晶性ポリマー」と称することもあり、前記第2の結晶性ポリマーは「低融点の結晶性ポリマー」と称することもある。また、前記融点とは、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートのピーク位置のことを示し、2つのピークを有する場合、又は1つのピークと、1つのショルダー部を有する場合は、ピーク強度の高い方を融点とする。
【0016】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマーなどが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン共重合体、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリルなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、高結晶性を有するパウダー状の製品が入手しやすく、また、耐溶剤性及び耐熱性が高く、種々の用途に好適に利用できる点で、ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン共重合体が、好ましい。
【0017】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。
前記ポリテトラフルオロエチレン共重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、クロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を含む共重合体などが挙げられる。
【0018】
前記結晶性ポリマーの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、粉末状の形態、粒子状の形態などが挙げられる。
前記結晶性ポリマーの粉末状の形態、又は(乃至)粒子状の形態とする際の平均粒子径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2μm〜0.4μmが好ましい。
【0019】
前記結晶性ポリマーのガラス転移温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、−100℃〜400℃が好ましく、−90℃〜350℃がより好ましい。
【0020】
前記結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜100,000,000が好ましく、10,000〜10,000,000がより好ましい。
前記結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜25,000,000がより好ましい。なお、前記数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができるが、前記PTFEは、溶剤に不溶であるため、DSC測定による結晶化熱(ΔHc:cal/g)測定を行い、関係式:Mn=2.1×1010×ΔHc−5.16、を用いて算出することが好ましい。
【0021】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、適宜合成したものを使用してもよいし、市販品を使用してもよい。前記市販品としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−104」、「F−106」、「F−201」、「F−205」、「F−208」、「F−301」、「F−302」、商品名「ルブロン」、品番名「L−2」、「L−5」)、ポリテトラフルオロエチレン(旭硝子株式会社製、商品名「Fluon(登録商標)PTFE」、品種名「CD1」、「CD141」、「CD145」、「CD123」、「CD076」、「CD090」、「CD126」)、ポリテトラフルオロエチレン(三井デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名「テフロン(登録商標)PTFE」、銘柄名「6−J」、「6C−J」、「62XT」、「640−J」)などが挙げられる。これらの中でも、比較的低い成型圧力で強度の優れた成型品を得やすい点で、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−106」)が好ましく、延伸後の孔径微細化の点で、ポリテトラフルオロエチレン(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−205」)が好ましい。
【0022】
前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出助剤などが挙げられる。前記押出助剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ソルベントナフサ、ホワイトオイル等の液状潤滑剤を用いることが好ましい。前記押出助剤の市販品としては、例えば、炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパー」)などが挙げられ、その添加量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記結晶性ポリマー100質量部に対して、15質量部〜30質量部が好ましい。
【0023】
前記予備成形体を作製する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)、及び前記押出助剤を混練機により混練してなるペーストを金型内に敷き詰めて加圧することにより予備成形体を作製する方法、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)、及び前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)、並びに前記押出助剤を混練機により混練してなるペーストを金型内に敷き詰めて加圧することにより積層予備成形体を作製する方法などが挙げられる。
【0024】
前記予備形成体を作製する際に用いる金型としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、プラスチック用金型、プレス金型、ダイカスト金型、鋳造金型、鍛造金型などが挙げられる。
【0025】
前記予備成形体を2層構造の積層予備成形体とする場合の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みと、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとの比としては、10,000:1〜1.2:1が好ましく、5,000:1〜1.25:1がより好ましく、1,000:1〜1.5:1が特に好ましい。前記比が、10,000超:1であると、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みを精密に制御できなくなるおそれがあり、1.2未満:1であると、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがある。なお、前記比が前記特に好ましい範囲内であると、厚み制御及び微粒子捕捉性の点で有利である。
【0026】
前記予備成形体を3層構造の積層予備成形体とする場合の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みと、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとの比としては、5,000:1〜1.2:1が好ましく、2,500:1〜1.25:1がより好ましく、1,000:1〜1.5:1が特に好ましい。前記比が、5,000超:1であると、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みを精密に制御できなくなるおそれがあり、1.2未満:1であると、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがある。なお、前記比が前記特に好ましい範囲内であると、厚み制御及び微粒子捕捉性の点で有利である。
【0027】
前記予備形成体の厚みは、後述する押出する方法あるいは圧延する方法に併せて設定される。つまり、押出する方法に併せて設定される場合は、押出装置の予備成形体投入部の寸法に併せて作製され、圧延する方法に併せて設定される場合は、圧延装置の入口形状によって概ね形状が決定される。前記予備形成体の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知の例を示すならば、押出する方法に併せて設定される場合における前記予備形成体の厚みとしては、例えば、5cm〜20cmであり、圧延する方法に併せて設定される場合における前記予備形成体の厚みとしては、例えば、0.5cm〜10cmである。
【0028】
<押出工程>
前記押出工程は、予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された絞り部と、該絞り部と接続され、中心角度が80°以上の扇部とを有する押出装置により、前記予備成形体をシート状に押出する工程である。
【0029】
前記押出工程で用いる押出装置における予備成形体投入部の断面積と、絞り部における最小断面積との比を、絞り比(「Reduction Ratio(RR)」、「リダクション比」と称することもある。)という。また、前記絞り比は、図5で示される押出装置における予備成形体投入部の断面積A1と、絞り部における最小断面積A2との比(A1/A2)により表される。前記押出工程で用いる押出装置の絞り比を低くすることにより、前記予備成形体を低せん断で押出することができ、柔軟性を有する押出物(結晶性ポリマーからなるシート)を得ることができる。
【0030】
前記押出工程で用いる押出装置における絞り比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、16以下が好ましく、2〜16がより好ましく、8〜14が特に好ましい。前記絞り比が、16を超えると、予備成形体を高せん断で押出することになり、押出物の柔軟性が得られず、高倍率での延伸ができないため、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができないことがある。一方、前記絞り比が前記特に好ましい範囲内であると、予備成形体を低せん断で押出することができ、押出物の柔軟性が得られることから、高倍率での延伸が可能となり、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができる。
【0031】
前記押出工程で用いる押出装置における扇部の中心角度は、図5で示される押出装置における扇部3のなす角度をいう。前記扇部の中心角度を80°以上160°以下とすることにより、前記予備成形体を低せん断で押出することができ、柔軟性を有する押出物(押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシート)を得ることができる。
【0032】
前記押出工程で用いる押出装置における扇部の中心角度としては、80°以上160°以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、85°以上150°以下が好ましく、90°以上140°以下がより好ましい。前記中心角度が、80°未満であると、必要なサンプル幅を確保するため押出口までの距離が長くなり押出物にせん断がかかるため、押出物の柔軟性が得られず、高倍率での延伸ができないため、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができないことがあり、160°を超えると、幅方向の均一な押出が困難なことがある。一方、前記中心角度が前記より好ましい範囲内であると、扇部における最上部から扇部の出口幅までの距離が適切となるため、予備成形体を低せん断で押出することができ、押出物の柔軟性が得られることから、高倍率での延伸が可能となり、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができる。
【0033】
前記押出工程で用いる押出装置における扇部の出口幅は、図5で示される押出装置における符号7で示される幅をいい、扇部下部の幅方向が一定の値となる幅をいう。前記扇部の出口幅を150mm〜500mmとすることにより、前記予備成形体を低せん断で押出することができ、柔軟性を有する押出物(結晶性ポリマーからなるシート)を得ることができる。
【0034】
前記押出工程で用いる押出装置における扇部の出口幅としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、150mm〜500mmが好ましく、180mm〜450mmがより好ましく、200mm〜400mmが特に好ましい。前記扇部の出口幅が、150mm未満であると、延伸が不安定になることがあり、500mmを超えると、扇部における最上部から扇部の出口幅までの距離が長くなるため、予備成形体を高せん断で押出することになり、押出物の柔軟性が得られず、高倍率での延伸ができないため、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができないことがある。一方、前記扇部の出口幅が前記特に好ましい範囲内であると、扇部における最上部から扇部の出口幅までの距離が適切となるため、予備成形体を低せん断で押出することができ、押出物の柔軟性が得らることから、高倍率での延伸が可能となり、微小な孔径を有する結晶性ポリマーを作製することができる。
【0035】
前記押出工程における押出する方法としては、特に制限はなく、公知の押出する方法に準じて行うことができ、目的に応じて適宜選択することができるが、前記押出装置により、19℃〜200℃の温度にて前記予備成形体を押出する方法が好ましい。前記押出する際の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、棒状が好ましく、シート状がより好ましい。なお、前記押出工程に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0036】
前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートの厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm〜250μmが好ましく、60μm〜220μmがより好ましく、80μm〜200μmが特に好ましい。前記厚みが、50μm未満であると、製膜中に破断することがあり、250μmを超えると、圧延機に対する負荷がかかりすぎることがある。なお、前記厚みが前記特に好ましい範囲内であると、多段圧延適性の点で有利である。
【0037】
<圧延工程>
前記圧延工程は、前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを多段圧延する工程である。前記結晶性ポリマーからなるシートを複数回に分けて圧延を行うことにより、柔軟性の高いシートを作製することができ、高倍率での延伸が可能となる。
【0038】
前記圧延工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、最終段圧延と、それ以外の圧延とが異なる圧力条件で圧延を行うことが好ましく、最終段圧延における圧力が、それ以外の圧延における圧力よりも高いことがより好ましい。前記それ以外の圧延において、等圧かつ低い圧力で圧延を行うことにより、圧延時に長手方向にかかるせん断を抑制することができ、前記最終段圧延において、高い圧力で圧延を行うことにより、所望の膜厚に調整され、高倍率での延伸が可能となる。
【0039】
前記圧延工程における多段圧延の圧延回数としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2回〜10回が好ましく、3回〜8回がより好ましく、3回〜6回が特に好ましい。前記回数が、2回未満であると所望の膜厚に調整することが困難にあることがあり、10回を超えると、長手方向のせん断がかかりすぎることがある。なお、前記回数が前記特に好ましい範囲内であると、長手方向のせん断を抑制し、かつ所望の膜厚に調整することができる点で有利である。
【0040】
前記圧延工程における最終段圧延以外の圧延時での前記結晶性ポリマーからなるシートにかかる平均圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1MPa〜10MPaが好ましく、2MPa〜9MPaがより好ましく、3MPa〜8MPaが特に好ましい。前記平均圧力が、1MPa未満であると圧延の効果がほとんど無く、最終段での圧延による膜厚の調整に負荷がかかりすぎることがあり、10MPaを超えると、長手方向のせん断がかかりすぎることがある。なお、前記平均圧力が前記特に好ましい範囲内であると、長手方向のせん断を抑制することができる点で有利である。
【0041】
前記圧延工程における最終段圧延時での前記結晶性ポリマーからなるシートにかかる圧力としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10MPa〜30MPaが好ましく、12MPa〜28MPaがより好ましく、15MPa〜25MPaが特に好ましい。前記圧力が、10MPa未満であると所望の膜厚に調整できないことがあり、30MPaを超えると、長手方向のせん断がかかりすぎることがある。なお、前記圧力が前記特に好ましい範囲内であると、長手方向のせん断を抑制し、かつ所望の膜厚に調整することができる点で有利である。
【0042】
前記圧延する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、カレンダーロールにより5m/分の速度でカレンダー掛けすることにより圧延する方法などが挙げられる。前記圧延する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、通常19℃〜380℃に設定することができる。
【0043】
<延伸工程>
前記延伸工程は、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを延伸する工程である。前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートは柔軟性を有するため、高倍率で延伸することができ、延伸後のノードレス化及びフィブリルの微細化のため、高捕捉性及び高流量の結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができる。
【0044】
前記延伸する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、長手方向と幅方向の両方について延伸する方法が好ましく、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行う方法がより好ましい。また、前記延伸は、長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
【0045】
前記延伸工程における長手方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.2倍〜50倍が好ましく、1.5倍〜40倍がより好ましく、2倍〜35倍が特に好ましい。
前記延伸工程における長手方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、55℃〜310℃が特に好ましい。
【0046】
前記延伸工程における幅方向の延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.2倍〜400倍が好ましく、1.5倍〜350倍がより好ましく、2倍〜300倍が更に好ましく、2.5倍〜250倍が特に好ましい。
前記延伸工程における幅方向の延伸温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、60℃〜310℃が特に好ましい。
【0047】
前記延伸工程における面積延伸倍率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5倍〜2,500倍が好ましく、2倍〜2,000倍がより好ましく、2.5倍〜1,000倍が特に好ましい。前記延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度に前記結晶性ポリマーからなるシートを予備加熱しておいてもよい。なお、前記延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。前記熱固定の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、延伸温度以上かつ結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましく、前記結晶性ポリマーがPTFE等のフッ素樹脂の場合には、融点以上で行うことが好ましい。
【0048】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、押出助剤除去工程、対称加熱工程、表面改質工程などが挙げられる。
【0049】
−押出助剤除去工程−
前記押出助剤除去工程は、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを加熱して押出助剤を除去する工程であり、延伸工程の際に行ってもよい。
前記押出助剤除去工程における加熱温度としては、特に制限はなく、用いる押出助剤の種類に応じて適宜選択することができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましく、前記結晶性ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンを用い、押出助剤としてソルベントナフサを用いた場合における押出助剤除去工程における加熱温度としては、150℃〜280℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましい。
前記押出助剤除去工程における加熱方法としては、例えば、前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを熱風乾燥炉に通すことにより加熱する方法などが挙げられる。このようにして製造される結晶性ポリマーからなるシートの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の延伸工程による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
【0050】
−対称加熱工程−
前記対称加熱工程は、前記圧延工程乃至押出助剤除去工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを、前記延伸工程前に対称加熱する工程である。前記対称加熱することにより、続く延伸工程において、平均長軸長さが1μm以下の短いフィブリルを含む微細構造を有する微孔性膜が得られ、微孔性膜の孔径が小さくなり、より小さな微粒子を効率よく捕捉することができる結晶性ポリマー微孔性膜が得られる。一方、前記対称加熱工程を行わない場合には、上述の通り、延伸によって、ノードレス化及びフィブリルの微細化を行うことができる。
前記対称加熱する方法としては、前記結晶性ポリマーを含む層を満遍なく均等に加熱できれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ソルトバス、熱風加熱機、炉、ロール、IRなどにより加熱する方法などが挙げられる。これらの中でも、積層体全体を加熱する際の加熱ばらつきを抑えることができる点で、ソルトバスにより加熱する方法が、好ましい。
前記対称加熱の加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、高流量化の点で、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)の融点以下の温度が、好ましい。前記高融点の結晶性ポリマーの融点に該当するDSCチャートにおける吸熱ピーク位置の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、343℃〜350℃が好ましい。
【0051】
−表面改質工程−
前記表面改質工程は、前記延伸工程により得られた結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を表面改質する工程である。前記結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部には、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面以外にも、孔部の周囲、孔部の内部などが含まれる。
前記表面改質する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、過酸化水素水又は水溶性溶剤の水溶液の含浸後、レーザーで照射することにより表面改質する方法(特開平7−304888号公報等参照)、放射線及びプラズマ等で照射することにより表面改質する方法(特開2003−201571号公報等参照)、化学的エッチング処理により表面改質する方法(特開2007−154153号公報等参照)、架橋系材料で被覆することにより表面改質する方法(特開平8−283447号公報等参照)、重合系材料で被覆することにより表面改質する方法(特開2000−235849号公報等参照)などが挙げられる。
【0052】
ここで、図1〜図5を参照して、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の一例について説明する。図1に示すように、箱形状の下金型8内に、前記ペーストを層状に下金型8上に載せ、上金型(不図示)を用いて矢印方向に押圧する。これにより圧縮されて、第1層4が形成される。次に、図2に示すように、第1層4上に、第2層5を形成するためのペーストを載せ、同様に上金型(不図示)を用いて圧縮する。以上により、図3に示すような、第1層4上に第2層5が積層された積層予備成形体10が得られる。そして、図4に示すような押出装置のシリンダー部に、得られた積層予備成形体10を収納した後、これを加圧手段(不図示)によって矢印方向に押圧する。また、前記押出装置は図5に示すような構造であり、予備成形体投入部1と、該予備成形体投入部1に接続された絞り部2と、該絞り部2と接続される扇部3とを有する。このような押出装置により、第1層4及び第2層5が完全に一体化され、各層が均一な厚みを有する積層体15が成形される。積層体15を多段圧延し、高倍率で延伸することにより、本発明の結晶性ポリマー微孔製膜が製造される。
【0053】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、予備成形体投入部と、絞り部と、中心角度が80°以上の扇部とをこの順に有する押出装置を用いるため、前記予備成形体を低せん断で押出することができ、得られた押出物を多段圧延することにより、柔軟性を有するシートが得られるため、高倍率での延伸にも安定して耐え得る。そのため、高倍率で延伸を行うことが必要とされる微孔性膜の製造方法として、好適に用いることができる。
【0054】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により、製造された微孔性膜である。
【0055】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の構造としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の結晶性ポリマーを含む層からなる単層構造、前記第1の結晶性ポリマーを含む層と前記第2の結晶性ポリマーを含む層との間に境界を有する積層構造などが挙げられる。なお、前記結晶性ポリマー微孔性膜が単層構造、及び積層構造であることを確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマー微孔性膜を厚み方向に凍結して切断した切断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより検出する方法などが挙げられる。
【0056】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に貫通し、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が変化なく一定である複数の孔部を有する形状などが挙げられる。前記孔部の形状とすることにより、微粒子を効率良く捕捉することができる。ここで、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が変化なく一定である複数の孔部とは、横軸に結晶性ポリマー微孔性膜のおもて面からの厚み方向の距離t(おもて面からの深さに相当)をとり、縦軸に孔部の平均孔径Dをとったとき、(1)おもて面(t=0)からうら面(t=膜厚)に至るまでのグラフが、結晶性ポリマー層ごとに1本の連続線で描かれ(連続的)、グラフの傾き(dD/dt)は実質的に0(ゼロ)であることをいう。また、前記実質的に0(ゼロ)とは、平均値から±10%程度を含み、単調増加、単調減少は含まないことをいう。なお、前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の形状を確認する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより孔部の形状を確認する方法が挙げられる。
【0057】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径と、前記第2の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径とが、異なる平均孔径を有している。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第1の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第2の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0058】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における孔部の平均孔径を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、走査型電子顕微鏡で膜表面あるいは、膜断面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜100,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体:日本アビオニクス株式会社製、商品名「TVイメージプロセッサTVIP−4100II」、制御ソフト:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、商品名「TVイメージプロセッサイメージコマンド4198」)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径を測定する方法などが挙げられる。
【0059】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における平均流量孔径とは、乾燥状態時の1/2と湿潤状態時の空気流量との交点から求まる孔径をいう。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第1の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均流量孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の第2の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均流量孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm〜200nmが好ましく、5nm〜150nmがより好ましく、10nm〜100nmが特に好ましい。
【0060】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の孔部の平均流量孔径を測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハーフドライ法(ASTM E1294−89)により測定する方法などが挙げられる。具体的には、前記平均流量孔径が、15nmを超える場合には、500psiの高圧パームポロメーター(PMI社製)で測定でき、前記平均流量孔径が、15nm以下の場合には、ナノパームポロメーター(PMI社製)により測定することができる。
【0061】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜200μmがより好ましく、10μm〜100μmが特に好ましい。なお、前記厚みを測定する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、結晶性ポリマー微孔性膜を凍結割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)により各層の断面観察を行うことにより、各層の厚みを測定する方法などが挙げられる。
【0062】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における前記第1の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みを前記第2の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みより厚くすると、結晶性ポリマー微孔性膜の流量を向上させることができる。
前記結晶性ポリマー微孔性膜における前記第2の結晶性ポリマーを含む層の厚みは、薄くすると、流量特性が向上する一方、微粒子捕捉率が低下する。逆に、前記結晶性ポリマー微孔性膜における第2の結晶性ポリマーを含む層の厚みを厚くすると、流量特性は低下するが、微粒子捕捉率は向上する。
【0063】
ここで、図6及び図7を参照して、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の一例について説明する。図6に示すように、第1の結晶性ポリマーを含む層101、第2の結晶性ポリマーを含む層102を積層した2層構造の本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102bの平均孔径は、いずれも積層体の厚み方向に変化なく一定であり、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)している。図7に示すように、第1の結晶性ポリマーを含む層101、第2の結晶性ポリマーを含む層102、及び第1の結晶性ポリマーを含む層103を積層した3層構造の本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102b、103bの平均孔径は、いずれも積層体の厚み方向に変化なく一定であり、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に段階的に変化している部分がある。また、前記孔部の最大平均孔径Lm1、Lm2、及びLm3のうち最も小さい最大平均孔径Lm2を有する第2の結晶性ポリマーを含む層102が結晶性ポリマー微孔性膜(積層体)の内部に存在している。
【0064】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であるので、濾過が必要とされる様々な用途に用いることができ、以下に説明する濾過用フィルタとして、特に好適に用いることができる。
【0065】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いる。前記濾過用フィルタは、柔軟性を有する結晶性ポリマーからなるシートを高倍率で延伸することにより製造された結晶性ポリマー微孔性膜を用いてなるため、プリーツ耐性が高い。そして、前記結晶性ポリマー微孔性膜の比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子は、最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着することにより除去かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0066】
前記濾過用フィルタの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、プリーツ状に加工成形することが好ましい。前記濾過用フィルタの形状が前記プリーツ状であると、カートリッジ当たりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができる点で、有利である。
【0067】
ここで、図8〜図10を参照して、本発明の濾過用フィルタの一例について説明する。
図8〜図10は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図面に限定されるわけではない。
【0068】
図8は、エレメント交換式のプリーツフィルターカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜113は2枚の膜サポート112、114によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコア115の周りに巻き付けられている。その外側には外周カバー111があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート116a、116bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット117を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアの集液口から集められ、流体出口118から排出される。
【0069】
図9は、カプセル式のフィルターカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造の展開図である。精密ろ過膜22は2枚のサポートである一次側サポート21、及び二次側サポート23によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルターエレメントコア27の周りに巻き付けられている。その外側にはフィルターエレメントカバー26があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート24、下部エンドプレート25により、精密ろ過膜がシールされている。
図9は、下部エンドプレート25とハウジングベースとのシールを、Oリング28を介して行う事例を示しているが、下部エンドプレート25とハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はハウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。
【0070】
図10は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルターカートリッジの構造を示す図である。フィルターエレメント30はハウジングベース32とハウジングカバー31よりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリングを介してハウジングベース32中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズル33からハウジング内に入り、フィルターメディア29を通過し、フィルターエレメントコアの集液口から集められ、液出口ノズル34から排出される。ハウジングベース32とハウジングカバー31は、通常溶着部37で液密に熱融着される。
【0071】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるため、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを直列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば直列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0072】
本発明の濾過用フィルタは、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0074】
(実施例1)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
−予備成形体作製工程−
結晶性ポリマーとしてポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F−106」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパーH」)23質量部を加え、ペースト1とした。次に、ペースト1を図1で表される形状を有する金型内に敷き詰めて、6MPaの圧力で加圧し、シート状の予備成形体を作製した。
【0075】
−押出工程−
図5で表される形状を有する硬鉄製の押出装置を用いて、前記予備成形体をシート状に押出を行い、結晶性ポリマーからなるシートを作製した。
前記押出装置における絞り比は9、中心角度は120°、扇部の出口幅は200mmであった。なお、前記絞り比は、図5で示される押出装置における予備成形体投入部の断面積A1と、絞り部における最小断面積A2との比(A1/A2)をいい、前記中心角度は、図5で示される押出装置における扇部3のなす角度をいい、前記扇部の出口幅は、図5で示される押出装置における符号7で示される幅をいう。
【0076】
−圧延工程−
前記押出工程で得られたシートを、60℃に加熱したカレンダーロールにより、圧延3回(初段圧延〜3段圧延)行った。前記初段圧延〜3段圧延を平均圧力(各段における前記シートにかかる平均圧力)20MPaで行い、平均厚み40μm、平均幅180mmのシートを作製した。
【0077】
−延伸工程−
前記圧延工程で得られたシートを室温にて幅方向に3倍に延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取り、250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去した。次に、340℃にて長手方向に8倍にロール間延伸した後、両端をクリップで挟み、320℃で幅方向に102倍に延伸した。その後、320℃で熱固定を行い、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
【0078】
(実施例2)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の圧延工程において、初段圧延〜2段圧延を平均圧力5MPa、及び最終段圧延である3段圧延を圧力20MPaで行い、平均厚み45μm、平均幅180mmのシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0079】
(実施例3)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比9、中心角度80°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み43μm、平均幅175mmのシートを作製し、実施例3の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0080】
(実施例4)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比9、中心角度160°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み38μm、平均幅165mmのシートを作製し、実施例4の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0081】
(実施例5)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比16、中心角度120°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み46μm、平均幅195mmのシートを作製し、実施例5の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0082】
(実施例6)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比17、中心角度120°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み47μm、平均幅194mmのシートを作製し、実施例6の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0083】
(比較例1)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比9、中心角度75°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、平均厚み42μm、平均幅185mmのシートを作製し、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0084】
(比較例2)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の圧延工程において、圧延を1回とし、初段圧延を圧力60MPaで行い、平均厚み38μm、平均幅190mmのシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、延伸を行ったが、長手方向の延伸時に破断した。
【0085】
(比較例3)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比9、中心角度50°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、延伸を行ったが、延伸中に破断した。
【0086】
(比較例4)
<単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例1の押出工程において、絞り比9、中心角度165°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなるシートを作製したこと以外は、実施例1と同様にして、押出を行ったが、幅方向の均一性が悪化したため、製膜を中止した。
【0087】
(実施例7)
<積層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
−予備成形体作製工程−
高結晶性ポリマーとしてポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F106」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパーH」)23質量部を加え、ペースト1とした。
低結晶性ポリマーとして、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、商品名「ポリフロン PTFE」、品番名「F205」)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、商品名「アイソパーH」)20質量部を加え、ペースト2とした。
次に、ペースト1とペースト2とを厚み比(ペースト1/ペースト2/ペースト1)が3/1/1となるように、図1で表される形状を有する金型内に敷き詰めて加圧(圧力:6MPa)し、シート状の積層予備成形体を作製した。
【0088】
−押出工程−
前記積層予備成形体を、絞り比9、中心角度120°、扇部の出口幅200mmの押出装置の角型シリンダー内に挿入し、シート状に押出を行い、結晶性ポリマーからなる積層シートを作製した。
【0089】
−圧延工程−
前記押出工程で得られた積層シートを、60℃に加熱したカレンダーロールにより、圧延3回(初段圧延〜3段圧延)行った。前記初段圧延〜3段圧延を平均圧力(各段における前記積層シートにかかる平均圧力)15MPaで行い、平均厚み50μm、平均幅180mmの結晶性ポリマーからなる積層シートを作製した。
【0090】
−延伸工程−
前記圧延工程で得られた積層シートを室温にて幅方向に3倍に延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取り、250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去した。次に、340℃にて長手方向に8倍にロール間延伸した後、両端をクリップで挟み、320℃で幅方向に102倍に延伸した。その後、320℃で熱固定を行い、実施例7の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
【0091】
(実施例8)
<積層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例7の圧延工程において、初段圧延〜2段圧延を平均圧力3MPaで行い、最終段圧延である3段圧延を圧力25MPaで行い、平均厚み55μm、平均幅185mmの積層シートを作製したこと以外は、実施例7と同様にして、実施例8の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0092】
(比較例5)
<積層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例7の押出工程において、絞り比9、中心角度60°、扇部の出口幅200mmの押出装置を用いて、結晶性ポリマーからなる積層シートを作製したこと以外は、実施例3と同様にして、圧延を行い、平均厚み53μm、平均幅175mmの積層シートを作製し、比較例5の結晶性ポリマー微孔性膜を製造した。
【0093】
(比較例6)
<積層構造である結晶性ポリマー微孔性膜の製造>
実施例7の圧延工程において、圧延を1回行い、初段圧延を圧力50MPaで行い、平均厚み45μm、平均幅190mmの積層シートを作製したこと以外は、実施例7と同様にして、延伸を行ったが、長手方向の延伸時に破断した。
【0094】
(評価)
<平均孔径>
実施例1〜8、並びに比較例1及び5の結晶性ポリマー微孔性膜について、パームポローメーター(PMI社製)を用いて、孔計測定を行った。結果を表1に示す。
【0095】
<捕捉テスト>
実施例1〜8、並びに比較例1及び5の結晶性ポリマー微孔性膜を用いて、差圧0.1kg/cmで、0.01質量%ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ0.05μm)を含有する水溶液のろ過を行い、ろ過前後の前記水溶液における粒子濃度を測定して捕捉率を算出し、捕捉テストを行った。結果を表1に示す。
【0096】
<流量テスト>
実施例1〜8、並びに比較例1及び5の結晶性ポリマー微孔性膜について、圧力0.1MPa下で、IPA500mLが透過するのに要する時間を計測し、流量テストを行った。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】

【0098】
表1の結果から、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、高倍率での延伸が可能であり、高捕捉率、及び高流量の両立が可能であることがわかった。そして、実施例1〜6の単層構造である結晶性ポリマー微孔性膜よりも、実施例7及び8の積層構造である結晶性ポリマー微孔性膜のほうが、孔径が小さく、高捕捉率、及び高流量であることがわかった。
一方、比較例1及び5は、中心角度が80°未満であるため、押出工程により得られるシートの柔軟性が得られず、大きい孔径となり、捕捉率が低くなることがわかった。比較例3についても、中心角度が80°未満であり、押出工程で高せん断がシートにかかり柔軟性がなくなるため、延伸を行ったが、延伸中に破断した。比較例2及び6では、多段圧延を行っていないため、高倍率で延伸すると、延伸方向にシートが破断し、結晶性ポリマー微孔性膜を製造することができなかった。比較例4では、中心角度が160°を超え、幅方向に均一な押出ができないため、押出を行ったが、幅方向の均一性が悪化した。
【0099】
<濾過用フィルタのプリーツ耐性>
ポリプロピレン不織布2枚の間に、実施例1及び7、並びに比較例1及び5の結晶性ポリマー微孔性膜を挟んで、ひだ幅10.5mmにプリーツし、その138山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着した。円筒の両端2mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジ(濾過用フィルタ)に仕上げた。
実施例1及び7の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたフィルターカートリッジ(濾過用フィルタ)では、通常の工程で問題なくカートリッジを作製可能であった。一方、比較例1及び5の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたフィルターカートリッジ(濾過用フィルタ)はプリーツ加工時に裂け目が生じ、加工適性が低いことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0101】
1 予備成形体投入部
2 絞り部
3 扇部
4 第1層
5 第2層
7 扇部の出口幅
8 下金型
10 積層予備成形体
15 積層体
21 一次側サポート
22 精密ろ過膜
23 二次側サポート
24 上部エンドプレート
25 下部エンドプレート
26 フィルターエレメントカバー
27 フィルターエレメントコア
28 Oリング
29 フィルターメディア
30 フィルターエレメント
31 ハウジングカバー
32 ハウジングベース
33 液入口ノズル
34 液出口ノズル
37 溶着部
101 第1の結晶性ポリマーを含む層
102 第2の結晶性ポリマーを含む層
103 第1の結晶性ポリマーを含む層
101b 孔部
102b 孔部
103b 孔部
111 外周カバー
112 膜サポート
113 精密ろ過膜
114 膜サポート
115 コア
116a エンドプレート
116b エンドプレート
117 ガスケット
118 液体出口
Lm1 孔部の最大平均孔径
Lm2 孔部の最大平均孔径
Lm3 孔部の最大平均孔径
A1 予備成形体投入部の断面積
A2 絞り部における最小断面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性ポリマーを用いて予備成形体を作製する予備成形体作製工程と、
予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された絞り部と、該絞り部と接続され、中心角度が80°以上160°以下の扇部とを有する押出装置により前記予備成形体をシート状に押出する押出工程と、
前記押出工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを多段圧延する圧延工程と、
前記圧延工程により得られた結晶性ポリマーからなるシートを延伸する延伸工程と、
を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項2】
押出工程が、16以下の絞り比を有する押出装置を用いて押出する工程である請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項3】
圧延工程が、最終段圧延と、それ以外の圧延とが異なる圧力条件で圧延を行う工程である請求項1から2のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項4】
最終段圧延における圧力が、それ以外の圧延における圧力よりも高い請求項3に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項5】
予備成形体が、第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層された積層予備成形体であり、前記第1の結晶性ポリマーの融点が前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも高い請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法により製造されることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項7】
請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−172085(P2012−172085A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−36181(P2011−36181)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】