説明

結晶性ポリマー微孔性膜及びその製造方法、並びに濾過用フィルタ

【課題】微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量あり、幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、大面積使用時の漏れが低減された結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに、濾過用フィルタの提供。
【解決手段】第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層された筒状成形体を該筒状成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体を形成するシート状成形体形成工程と、前記シート状成形体を圧延して未加熱フィルムを形成する未加熱フィルム形成工程と、前記未加熱フィルムを対称加熱して対称加熱フィルムを形成する対称加熱工程と、前記対称加熱フィルムを延伸する延伸工程と、を含む結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濾過用フィルタ、並びに該濾過用フィルタに好適な結晶性ポリマー微孔性膜及びその好適な製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、微孔性膜は濾過用フィルタなどに広く利用されている。このような微孔性膜の材料としては、例えば、セルロースエステル(特許文献1参照)、脂肪族ポリアミド(特許文献2参照)、ポリフルオロカーボン(特許文献3参照)、ポリプロピレン(特許文献4参照)などが知られている。
これらの微孔性膜は、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌に用いられ、近年、その用途及び使用量が拡大しており、粒子捕捉の信頼性の高い微孔性膜が注目されている。これらの中でも、結晶性ポリマーからなる微孔性膜は耐薬品性に優れており、特に、ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と称することもある)を材料とした結晶性ポリマー微孔性膜は、耐熱性及び耐薬品性に優れているため、その需要の伸びが著しい。
【0003】
このような結晶性ポリマー微孔性膜において、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ポリマー層と、変性ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)コポリマー層を積層した予備成形体を圧延し、焼成体の融点以上の温度で加熱後、延伸することで、小さい平均孔径を有する濾過層と、大きな平均孔径を有する支持層とからなる複層膜が作製できることが提案されている(特許文献5及び6参照)。これらの提案によれば、極めて薄い濾過層であっても形成可能であり、かつ層界面が完全に一体化している複層膜であることが開示されている。
しかし、これらの提案では、詳細な熱処理条件の記載がなく、微小な孔径の膜を作製するのは困難である。また、低融点の結晶性ポリマーを含む層の厚みが規定されていないので、所望の性能(高流量)を示すフィルタを作製することは困難であるという問題がある。
【0004】
また、微粒子を効率良く捕捉するため、数平均分子量が異なる結晶性ポリマーからなる層が積層され、各層において、厚み方向に関して連続的に孔径が変化する孔部が形成された結晶性ポリマー微孔性膜が提案されている(特許文献7参照)。
しかし、この提案では、結晶性ポリマーの融点について考慮されておらず、低融点の結晶性ポリマーを用いると、引き裂け伝播等が起こり、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができる複数層構造の結晶性ポリマー微孔性膜を作製することは困難である。また、結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法における加熱工程で温度勾配をつけることが必要なので、安定かつ効率のよい製造が困難であるという問題がある。
【0005】
したがって、引き裂け伝播等が起こり単層で膜になりにくい低融点の結晶性ポリマーを、高融点の結晶性ポリマーと複層化することにより、低融点の結晶性ポリマー層を傷付けることがなく、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量である結晶性ポリマー微孔性膜、及び該結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに濾過用フィルタの速やかな開発が強く求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第1,421,341号明細書
【特許文献2】米国特許第2,783,894号明細書
【特許文献3】米国特許第4,196,070号明細書
【特許文献4】西独特許第3,003,400号明細書
【特許文献5】特開平3−179038号公報
【特許文献6】特開平3−179039号公報
【特許文献7】特開2009−61363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であることに加えて、更に、幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、大面積使用時の漏れが低減された結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに、濾過用フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層された筒状成形体を該筒状成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体を形成するシート状成形体形成工程と、
前記シート状成形体を圧延して未加熱フィルムを形成する未加熱フィルム形成工程と、
前記未加熱フィルムを対称加熱して対称加熱フィルムを形成する対称加熱工程と、
前記対称加熱フィルムを延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<2> 筒状成形体が、複層ペースト押し出しにより形成される前記<1>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<3> 筒状成形体が、筒状の絞り部を有する押出装置を用いた複層ペースト押し出しにより形成される前記<2>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<4> 複層ペースト押し出しが、筒状の予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された筒状の絞り部と、該予備成形体投入部及び該絞り部を接続する扇部とを有する装置を用いた前記<3>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
<5> 押出装置の絞り比が、予備成形体投入部の断面積Cと、絞り部における最小断面積Dとの比(C/D)で、10〜4,000である前記<4>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
<6> 筒状成形体が、第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが同心円状に積層された円筒状成形体である前記<1>から<5>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<7> 第2の結晶性ポリマーが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと、該ピークの高温側又は低温側にショルダー部とを有し、
低温側にピークと、該ピークの高温側に高温側ショルダー部とを有する場合には、未加熱フィルムの対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行い、
高温側にピークと、該ピークの低温側に低温側ショルダー部とを有する場合には、未加熱フィルムの対称加熱を低温側ショルダー部の温度より高い温度で行う前記<1>から<6>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<8> 未加熱フィルムの対称加熱を第1の結晶性ポリマーの融点以下の温度で行う前記<1>から<7>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<9> 第2の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みAが、第1の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みBよりも薄く、次式、A/B≦1/2、を満たす前記<1>から<8>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<10> 次式、A/B≦1/3、を満たす前記<9>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法である。
<11> 第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層され、厚み方向に連通した複数の孔部が形成された2層以上からなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、
前記第1の結晶性ポリマーの融点が前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも高く、
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有し、
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層の幅方向における厚み変動率が、14%以下であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜である。
<12> 厚み変動率が、10%以下である前記<11>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<13> 結晶性ポリマー微孔性膜の幅方向における平均流量孔径の変動率が、13%以下である前記<11>から<12>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<14> 平均流量孔径の変動率が、9%以下である前記<13>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<15> 第1の結晶性ポリマーを含む層の2層と、該2層間に第2の結晶性ポリマーを含む層とを有する前記<11>から<14>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<16> 第2の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みAが、第1の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みBよりも薄く、次式、A/B≦1/2、を満たす前記<11>から<15>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<17> 次式、A/B≦1/3、を満たす前記<16>に記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<18> 第2の結晶性ポリマーを含む層の厚みが、0.1μm〜50μmである前記<11>から<17>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<19> 第1の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体の少なくともいずれかである前記<11>から<18>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<20> 第2の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体の少なくともいずれかである前記<11>から<19>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<21> ポリテトラフルオロエチレン共重合体が、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を含む前記<19>から<20>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜である。
<22> 前記<11>から<21>のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする濾過用フィルタである。
<23> 結晶性ポリマー微孔性膜の面積が、0.04m〜10mである前記<22>に記載の濾過用フィルタである。
<24> カートリッジフィルタである前記<22>から<23>のいずれかに記載の濾過用フィルタ。
<25> 結晶性ポリマー微孔性膜における低融点の第2の結晶性ポリマーを含む層が、アウトレット側に近くなるように配置される前記<22>から<24>に記載の濾過用フィルタ。
【発明の効果】
【0009】
微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であることに加えて、更に、幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、大面積使用時の漏れが低減された結晶性ポリマー微孔性膜及び結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法、並びに、濾過用フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、本発明に係る2層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図2】図2は、比較例の2層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図3】図3は、本発明に係る3層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図4】図4は、比較例の3層構造の結晶性ポリマー微孔膜の一例を示す模式図である。
【図5】図5は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法の工程の一例を示す図である。
【図6】図6は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法のシート状成形体形成工程の一例を示す図である。
【図7】図7は、円筒状成形体の一例を示す断面図である。
【図8】図8は、本発明の結晶性ポリマー微孔膜の製造方法のシート状成形体形成工程の他の一例を示す図である。
【図9】図9は、円筒状成形体の他の一例を示す断面図である。
【図10】図10は、ハウジングに組込む前の一般的なプリーツフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図11】図11は、カプセル式フィルターカートリッジのハウジングに組込む前の一般的なフィルターエレメントの構造を表す図である。
【図12】図12は、ハウジングと一体化された一般的なカプセル式のフィルターカートリッジの構造を表す図である。
【図13】図13は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の一例を示すDSCチャートである。
【図14】図14は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の他の一例を示すDSCチャートである。
【図15】図15は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の他の一例を示すDSCチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(結晶性ポリマー微孔性膜)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、少なくとも第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とを有を有してなり、更に必要に応じてその他の層を有してなる。
前記第1の結晶性ポリマーの融点が、前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも高く、前記第1の結晶性ポリマーを「高融点の結晶性ポリマー」と称することもあり、前記第2の結晶性ポリマーを「低融点の結晶性ポリマー」と称することもある。
ここで、前記融点とは、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートのピーク位置のことを示し、2つのピークを有する場合、又は1つのピークと、1つのショルダー部を有する場合は、ピーク強度の高い方を融点とする。
【0012】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層は、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する。
【0013】
前記結晶性ポリマー微孔性膜は、積層体である。「積層体」とは、2層以上の結晶性ポリマーを含む層を積層することにより形成される「積層構造」であり、「単層構造」ではないことを意味する。
前記「積層構造」であることは、結晶性ポリマーを含む層と他の結晶性ポリマーを含む層の間に境界を有することにより、境界を有さない「単層構造」と明確に区別できる。ここで、結晶性ポリマーを含む層と他の結晶性ポリマーを含む層の間の境界は、例えば結晶性ポリマー微孔性膜を厚み方向に凍結して切断した切断面を光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより検出することができる。
【0014】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層の幅方向における厚み変動率は、14%以下であり、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましい。
前記厚み変動率が、14%を超えると、濾過性能にばらつきが生じ、大面積使用時の歩留まりが悪化することがある。前記厚み変動率が、前記好ましい範囲内であると、幅方向における各層の厚み分布の均一性、濾過性能分布の均一性、微粒子捕捉性及び大面積使用時の漏れ低減の点で有利である。
ここで、前記幅方向における厚み変動率とは、各層の幅方向の厚み(例えば、結晶性ポリマー微孔性膜を幅方向にn等分に区分した各区分の厚み)を測定し、厚みの平均値に対するその標準偏差の比により表される。各層の厚みは、結晶性ポリマー微孔性膜を幅方向に凍結割断し、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)により断面観察を行うことで、測定することができる。
n個の厚みデータ(X、X、・・・X)の平均値(平均厚み)をXm、標準偏差をSxとすると、厚み変動率Vxは、下記式(1)により算出できる。
厚み変動率(%):Vx=Sx/Xm×100 ・・・式(1)
【0015】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の構造としては、2層以上である限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、2層以上の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、1層の第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層との結晶性ポリマー微孔性膜が好ましく、2層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、該2層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層間に介装された1層の第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層とを有する3層構造がより好ましい。このように3層構造とすることにより、捕捉粒径に最も影響する最も小さい径の第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマーを含む層)を、摩擦、引っ掻き等の物理的破壊要因から保護することができ、捕捉性能の安定化を図ることができる。
【0016】
前記3層構造の微孔性膜において、1層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みが、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みよりも厚く、他の1層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みが、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みよりも厚いことが好ましい。
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層が、濾過液の出口側(アウトレット側)に近くなるように配置することが、数十nmサイズの微粒子を効率よく捕捉でき、濾過効率の向上を図れる点で好ましい。
【0017】
本発明においては、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に連通した複数の孔部が形成され、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する。これにより、微粒子を効率良く捕捉することができる。
前記「厚み方向に連通した複数の孔部が形成された」ことは、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認することができる。
【0018】
前記「結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有する」とは、横軸に結晶性ポリマー微孔性膜のおもて面からの厚み方向の距離t(おもて面からの深さに相当)をとり、縦軸に孔部の平均孔径Dをとったとき、(1)おもて面(t=0)からうら面(t=厚み)に至るまでのグラフが、結晶性ポリマー層ごとに1本の連続線で描かれ(連続的)、グラフの傾き(dD/dt)は実質的に0(ゼロ)である。
ここで、前記「実質的に0」とは、平均値から±10%程度を含み、単調増加、単調減少は含まないことを示す。
【0019】
ここで、図1に示すように、結晶性ポリマーを含む層101、102を積層した2層構造の本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102bの平均孔径は、いずれも結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に一定であり、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)している。
これに対し、図2に示すように、結晶性ポリマーを含む層101、102を積層した2層構造の比較例の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101a、102aの平均孔径は、いずれも結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に変化(連続的に減少)しており、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)している。
【0020】
また、図3に示すように、結晶性ポリマーを含む層101、102、103を積層した3層構造の本発明の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102b、103bの平均孔径は、いずれも結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に一定であり、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に段階的に変化している部分がある。
これに対し、図4に示すように、結晶性ポリマーを含む層101、102、103を積層した3層構造の比較例の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101a、102a、103aの平均孔径は、いずれも結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向に変化(連続的に減少)しており、結晶性ポリマー微孔性膜全体としては、平均孔径が厚み方向に変化(段階的に減少)している。
【0021】
3層以上の結晶性ポリマーを含む層を積層してなる結晶性ポリマー微孔性膜の内部に、孔部の最大平均孔径が最も小さい低融点の結晶性ポリマーを含む層を有することが好ましい。これにより、捕捉粒径に最も影響する最も小さい平均孔径の結晶性ポリマーを含む層を、摩擦、引っ掻き等の物理的破壊要因から保護することができ、捕捉性能の安定化を図ることができ、安定に製造することができる。
ここで、図3に示すように、結晶性ポリマーを含む層101、102、103を積層した3層構造の結晶性ポリマー微孔性膜における孔部101b、102b、103bにおいて、孔部の最大平均孔径Lm1、Lm2、Lm3のうち最も小さい最大平均孔径Lm2を有する低融点の結晶性ポリマーを含む層102が結晶性ポリマー微孔性膜の内部に存在している。
【0022】
前記第2の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径は、1μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましい。前記第2の結晶性ポリマーを含む層の孔部の平均孔径が、1μmより大きいと、微粒子等の液中のゴミを十分に捕捉できないおそれがある。
また、前記第1の結晶性ポリマーを含む層における孔部の平均孔径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001μm〜500μmが好ましく、0.002μm〜250μmがより好ましく、0.005μm〜100μmが更に好ましい。
【0023】
ここで、前記孔部の平均孔径は、例えば走査型電子顕微鏡で膜表面あるいは、膜断面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜100,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで結晶性ポリマー繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
【0024】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の平均流量孔径としては、200nm未満が好ましく、150nm以下がより好ましい。また、前記平均流量孔径としては、0.001μm以上が好ましい。前記平均流量孔径が、200nm以上であると、微粒子等の液中のゴミを十分に捕捉できない恐れがある。前記平均流量孔径が、0.001μm未満であると、十分な流量が得られないことがある。
ここで、前記平均流量孔径は、乾燥状態時の1/2と湿潤状態時の空気流量との交点から求まる孔径を平均流量孔径といい、例えば、ハーフドライ法(ASTM E1294−89)により求められる。具体的には、15nmまでは500psiの高圧パームポロメーター(PMI社製)で測定でき、15nm以下はナノパームポロメーター(PMI社製)により測定することができる。
【0025】
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層の幅方向における前記平均流量孔径の変動率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、13%以下が好ましく、9%以下がより好ましく、7.5%以下が特に好ましい。
前記平均流量孔径の変動率が、13%を超えると、濾過性能にばらつきが生じ、大面積使用時の歩留まり率が悪化することがある。前記平均流量孔径の変動率が、前記より好ましい範囲内であると、幅方向における各層の厚み分布の均一性、濾過性能分布の均一性、微粒子捕捉性及び大面積使用時の漏れ低減の点で有利である。
前記平均流量孔径の変動率とは、結晶性ポリマー微孔性膜を幅方向にn等分に区分した各区分の平均流量孔径を測定し、平均流量孔径の平均値に対するその標準偏差の比により表される。
n個の平均流量孔径データ(Y、Y、・・・Y)の平均値をYm、標準偏差をSyとすると、平均流量孔径の変動率Vyは、下記式(2)により算出できる。
平均流量孔径の変動率(%):Vy=Sy/Ym×100 ・・・式(2)
【0026】
−結晶性ポリマー−
前記「結晶性ポリマー」としては、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。このようなポリマーは物理的な処理により、結晶性が発現する。例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
【0027】
前記結晶性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマー、などが挙げられ、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル、などが挙げられる。これらの中でも、耐薬品性と取り扱い性の点で、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレン及びポリプロピレン)が好ましく、該ポリアルキレンにおけるアルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部又は全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンがより好ましく、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が特に好ましい。
前記ポリエチレンは、その分岐度により密度が変化し、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類され、いずれも用いることができる。これらの中でも、結晶性コントロールの点で、HDPEが好ましい。
【0028】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用することが好ましい。
【0029】
前記ポリテトラフルオロエチレンとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、市販品を用いることができる。該市販品としては、例えば、ポリフロンPTFE F−104、ポリフロンPTFE F−106、ポリフロンPTFE F−201、ポリフロンPTFE F−205、ポリフロンPTFE F−208、ポリフロンPTFE F−301、F−302、ルブロンL−2、L−5(いずれも、ダイキン工業株式会社製);Fluon PTFE CD1、Fluon PTFE CD141、Fluon PTFE CD145、Fluon PTFE CD123、Fluon PTFE CD076、Fluon PTFE CD090、Fluon PTFE CD126(いずれも、旭硝子株式会社製);テフロン(登録商標)PTFE 6−J、テフロン(登録商標)PTFE 62XT、テフロン(登録商標)PTFE 6C−J、テフロン(登録商標)PTFE 640−J(いずれも、三井デュポンフロロケミカル株式会社製)、などが挙げられる。これらの中でも、F−104、F−106、F−205、F201、L−5、CD1、CD141、CD126、CD123、6−Jが好ましく、F−106、F−205、F−201、CD1、CD126、CD123、6−Jがより好ましく、F−106、F−205、CD126、CD123が特に好ましい。
【0030】
前記結晶性ポリマーのガラス転移温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、−100℃〜400℃が好ましく、−90℃〜350℃がより好ましい。
前記結晶性ポリマーの重量平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1,000〜100,000,000が好ましい。
前記各結晶性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500〜50,000,000が好ましく、1,000〜25,000,000がより好ましい。
ここで、前記数平均分子量は、例えば、ゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。しかし、PTFEは、溶剤に不溶であるため、DSC測定による結晶化熱(ΔHc:cal/g)測定を行い、関係式:Mn=2.1×1010×ΔHc−5.16、を用いて算出することが好ましい。
【0031】
<第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層>
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層は、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含んでいれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の幅方向における厚み変動率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、14%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下が特に好ましい。
前記厚み変動率が、14%を超えると、濾過性能にばらつきが生じ、大面積使用時の歩留まり率が悪化することがある。前記厚み変動率が、前記より好ましい範囲内であると、幅方向における各層の厚み分布の均一性、濾過性能分布の均一性、微粒子捕捉性及び大面積使用時の漏れ低減の点で有利である。
【0032】
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みは、前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みより厚い。これにより、結晶性ポリマー微孔性膜の流量を向上させることができる。
ここで、前記「最大厚み」とは、各層の厚みの最大値を意味する。例えば、厚みが20μmの第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、厚みが15μmの第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、厚みが10μmの第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層とを有する結晶性ポリマー微孔性膜の場合、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みは20μmとなり、また、厚みが20μmの第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層と、厚みが15μmの第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層と、厚みが10μmの第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層とを有する結晶性ポリマー微孔性膜の場合、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みは20μmとなる。
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.0μm〜100μmが好ましく、1.25μm〜75μmがより好ましく、1.5μm〜50μmが特に好ましい。
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みが、1.0μm未満であると、低融点の結晶性ポリマーを含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがあり、100μmを超えると、十分な流量を得られないことがある。なお、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、微粒子捕捉性及び流量の点で有利である。
【0033】
前記結晶性ポリマー微孔性膜が2層構造である場合、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みと、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとの比としては、10,000:1〜1.2:1が好ましく、5,000:1〜1.25:1がより好ましく、1,000:1〜1.5:1が特に好ましい。
前記比が、10,000超:1であると、低融点の結晶性ポリマーを含む層の厚みを精密に制御できなくなるおそれがあり、1.2未満:1であると、低融点の結晶性ポリマーを含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがある。なお、前記比が前記特に好ましい範囲内であると、厚み制御及び微粒子捕捉性の点で有利である。
【0034】
前記結晶性ポリマー微孔性膜が3層構造(2層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、該2層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層間に介装された1層の第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー))である場合、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みと、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとの比としては、5,000:1〜1.2:1が好ましく、2,500:1〜1.25:1がより好ましく、1,000:1〜1.5:1が特に好ましい。
前記比が、5,000超:1であると、低融点の結晶性ポリマーを含む層の厚みを精密に制御できなくなるおそれがあり、1.2未満:1であると、低融点の結晶性ポリマーを含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがある。なお、前記比が前記特に好ましい範囲内であると、厚み制御及び微粒子捕捉性の点で有利である。
前記2層の第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層のうち他の1層(最大厚みを有する層でない他方の層)の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第2の結晶性ポリマーを含む層の厚み以上であることが好ましい。
前記第2の結晶性ポリマーを含む層の厚みを超えると、流量が十分でない場合がある。なお、前記厚みが前記特に好ましい範囲内であると、流量の点で更に有利である。
【0035】
−第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)−
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)としては、融点が後述する低融点の結晶性ポリマーよりも高い結晶性ポリマーである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐薬品性の点で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン共重合体、が好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン共重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、テトラフルオロエチレン・トリフルオロクロロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及びテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体などの2元系共重合体、もしくは、3元系以上の共重合体から選択される少なくとも1種のポリマーから構成される共重合体などが挙げられる。これらの中でも、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン、及びクロロトリフルオロエチレンから選択される少なくとも2種を含むポリテトラフルオロエチレン共重合体が特に好ましい。
【0036】
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)の融点は、後述する第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の融点よりも高い限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の融点よりも1℃以上高いことが好ましく、3℃以上高いことがより好ましい。
前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)の融点が、前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の融点よりも低いと、十分な流量が得られず、濾過効率が著しく低下するおそれがある。
前記結晶性ポリマーの融点は、例えば示差走査熱量計(DSC)により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。
【0037】
<第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層>
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層は、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の幅方向における厚み変動率としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、14%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、8%以下が特に好ましい。
前記厚み変動率が、14%を超えると、濾過性能にばらつきが生じ、大面積使用時の歩留まり率が悪化することがある。前記厚み変動率が、前記より好ましい範囲内であると、幅方向における各層の厚み分布の均一性、濾過性能分布の均一性、微粒子捕捉性及び大面積使用時の漏れ低減の点で有利である。
【0038】
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1μm〜50μmが好ましく、0.1μm〜25μmがより好ましい。前記厚みが、0.1μm未満であると、孔部の孔径を小さくすることができない、孔径の面内均一性を失うおそれがあり、50μmを超えると、高流量化を図ることができないことがある。一方、前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みが、前記特に好ましい範囲内であると、孔径の面内均一性及び流量の点で有利である。
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜によれば、各層の幅方向における厚み分布の均一化及び該結晶性ポリマー微孔性膜の幅方向における濾過性能分布の均一化により、これらの均一性を保持した状態で、前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の厚みを小さくすることができる。
【0039】
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みAは、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層の最大厚みBよりも薄く、次式、A/B≦1/2、を満たすことが好ましく、次式、A/B≦1/3、を満たすことがより好ましい。前記A/Bが、1/2以上であると、前記低融点の結晶性ポリマーを含む層が摩擦、引っ掻きの影響を受け、安定な微粒子捕捉性を保てないことがある。前記特に好ましい範囲内であると、微粒子捕捉性の点で有利である。
前記低融点の結晶性ポリマーを含む層の厚みを薄くすると、流量特性が向上する一方、微粒子捕捉率が低下する。逆に、低融点の結晶性ポリマーを含む層の厚みを厚くすると、流量特性は低下するが、微粒子捕捉率は向上する。
前記各層の界面において、前記高融点の結晶性ポリマー及び前記低融点の結晶性ポリマーの両方を含む中間層が存在する場合は、該中間層は、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層、及び、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層のいずれにも含まれないものとする。
【0040】
−第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)−
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)としては、融点が前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)よりも低い結晶ポリマーである限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、耐薬品性の点で、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリテトラフルオロエチレン共重合体、が好ましい。
前記ポリテトラフルオロエチレン共重合体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1の結晶性ポリマーと同様なものを用いことができる。
【0041】
前記結晶性ポリマー微孔性膜の合計厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1μm〜300μmが好ましく、5μm〜200μmがより好ましく、10μm〜100μmが特に好ましい。
【0042】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも第2の結晶性ポリマーを含む層が、フィブリルを少なくとも含む微細構造を有し、該微細構造は、結節(ノード)を含むことが好ましい。
前記フィブリルとは、融着した2つの結晶性ポリマー粒子同士に機械的な力を加えたときに、粒子間もしくは粒子内に紡ぎ出される繊維を意味する。
前記フィブリルの平均長軸長さとしては、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。前記平均長軸長さが1μmを超えると、微粒子等の液中のゴミを十分に捕捉できないおそれがある。
前記結節(ノード)は、結晶性ポリマーの一次粒子のかたまりであって、該かたまりの平均短軸長さ(平均直径)が前記フィブリルの平均短軸長さ(平均直径)より太く、平均直径が0.1μm以上であることが好ましく、0.2μm以上であることがより好ましい。前記平均直径が、0.1μm未満であると、十分な膜強度が得られないおそれがある。
【0043】
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも第2の結晶性ポリマーを含む層が、「フィブリルを少なくとも含む微細構造を有すること」、及びノードの直径については、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向の断面を、走査型電子顕微鏡で撮影する(SEM写真、倍率1,000倍〜100,000倍)。この断面SEM写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス株式会社製、TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング株式会社製、TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込み、結節とフィブリルに分離して、結節のみからなる像とフィブリルのみからなる像が得られる。この像からランダムに100個選出し、演算処理することにより、フィブリルの平均長軸長さ、及びノードの平均直径を測定できる。
【0044】
(結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法)
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法は、シート状成形体形成工程と、未加熱フィルム形成工程と、対称加熱工程と、延伸工程とを少なくとも含み、更に必要に応じて表面改質工程などのその他の工程を含んでなる。
【0045】
<シート状成形体形成工程>
前記シート状成形体形成工程は、第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層が積層された筒状成形体を、該筒状成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体を形成する工程である。
融点が互いに異なる前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)及び前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択して用いることができる。
【0046】
まず、各結晶性ポリマーを押出助剤と混合した混合物(ペースト)を2層以上積層して筒状成形体を作製し、該筒状成形体を中心軸方向に切開することによりシート状成形体を作製する。
前記筒状成形体の形状としては、特に制限なく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円筒状、楕円筒状、コーナー角を有する多角筒状などが挙げられる。これらの中でも、円筒状が、得られる結晶性ポリマー微孔性膜の各層の幅方向における厚み分布の均一化及び該結晶性ポリマー微孔性膜の幅方向における濾過性能分布の均一化の点で好ましい。
前記筒状成形体としては、特に制限なく、目的に応じて適宜公知の方法により形成することができるが、複層ペースト押し出しにより形成されることが好ましく、筒状の絞り部を有する押出装置を用いた複層ペースト押し出しにより形成されることがより好ましい。また、筒状成形体が、第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが同心円状に積層された円筒状成形体であることが好ましい。前記ペースト押し出しは、19℃〜200℃の温度にて行うことが好ましい。
【0047】
前記複層ペースト押し出しで用いる押出装置は、筒状の予備成形体投入部と、該予備成形体投入部に接続された筒状の絞り部と、該予備成形体投入部及び該絞り部を接続する扇部とを有する押出装置であり、例えば、図5に示す複層ペースト押出装置が挙げられる。
前記押出装置における予備成形体投入部の断面積と、絞り部における最小断面積との比を、絞り比(「Reduction Ratio(RR)」、「リダクション比」と称することもある。)という。また、前記絞り比は、前記予備成形体投入部の断面積Cと、前記絞り部における最小断面積Dとの比(C/D)により表される。
前記押出装置における絞り比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜4,000が好ましく、8〜500がより好ましく、10〜200が特に好ましい。前記絞り比が、5未満であると、結晶性ポリマーの一次粒子が結着せず、得られる円筒状成形体の形状を保てないことがあり、4,000を超えると、結晶性ポリマーの一次粒子がつぶれてしまい、フィブリル化しにくくなることがある。一方、前記絞り比が前記特に好ましい範囲内であると、結晶性ポリマーの一次粒子同士が適切な割合で結着しフィブリル化しやすく、延伸による微孔性膜化が行いやすい点で有利である。
前記複層ペースト押し出しで用いる押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、例えば、ソルベントナフサ、ホワイトオイルなどが挙げられる。また、前記押出助剤としては、市販品を用いることができ、該市販品としては、エッソ石油株式会社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。前記押出助剤の添加量は、前記結晶性ポリマー100質量部に対して、15質量部〜30質量部が好ましい。
【0048】
ここで、図5〜図9を参照して、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法の一例について説明する。
図6及び7に示すように、PTFEのファインパウダー1を含む第1層3と、PTFEのファインパウダー2を含む第2層4と、PTFEのファインパウダー1を含む第3層5と、からなる3層構造の円筒状成形体6を作製する。なお、図6は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法のシート状成形体形成工程の一例を示す図であり、図7は、円筒状成形体の一例を示し、該円筒状成形体の中心軸と直交する面における断面図である。
これらの各層は、平均一次粒径0.2μm〜0.4μmのPTFE乳化重合水性分散体を凝析して製造したPTFEのファインパウダーにソルベントナフサ、ホワイトオイル等の液状潤滑剤を添加したペースト1及びペースト2から得られる。また、第1層及び第3層を形成するペーストは、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。前記液状潤滑剤の使用量は、特に制限はなく、その種類、成形条件等に応じて異なり一概には規定できないが、PTFEのファインパウダー100質量部に対して15質量部〜35質量部の範囲であることが好ましく、更に必要に応じて着色剤などを添加することもできる。
また、図8及び9に示すように、PTFEのファインパウダー1を含む第1層3及びPTFEのファインパウダー2を含む第2層4からなる2層構造の円筒状成形体6を作製することもできる。なお、図8は、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法のシート状成形体形成工程の一例を示す図であり、図9は、円筒状成形体の一例を示し、該円筒状成形体の中心軸と直交する面における断面図である。
【0049】
まず、図5に示す複層ペースト押出装置7における下金型8内に、第1層を形成するためのPTFEのファインパウダー1を含むペースト1と、第2層を形成するためのPTFEのファインパウダー2を含むペースト2と、第3層を形成するためのPTFEのファインパウダー1を含むペースト1と、を同心円状に敷き詰め、次に、上金型9を矢印方向に押圧する。これにより圧縮されて第1層3と第2層4と第3層5とが同心円状に3層積層された円筒状の予備成形体が形成される。
【0050】
次に、得られた円筒状の予備成形体を図5に示す複層ペースト押出装置7の予備成形体投入部(シリンダー部)に収納した後、これを加圧手段(不図示)によって矢印方向に押圧する。図5の同心円状複層ペースト押出装置の予備成形体投入部は、例えば、軸直角方向断面における外枠の内径が、85mm、内枠の外径が、40mmの円筒状であり、絞り部(外枠の内径66mm、内枠の外径62mmの円筒状)を有し、その絞り比は、11である。
このようにして第1層3と第2層4と第3層5とが完全に一体化され、図6及び7に示すように、各層が均一な厚みを有する複層ポリテトラフルオロエチレンの円筒状成形体5が成形される。図6に示すとおり、この円筒状成形体5を中心軸(A−A’軸)方向に切開してシート状成形体10を形成する。このシート状成形体の各層の厚み構成比は、前記予備成形体の各層の厚み構成比とほぼ同一のものを有していることが実体顕微鏡によって確認できている。
【0051】
<未加熱フィルム形成工程>
前記未加熱フィルム形成工程は、前記シート状成形体を圧延して2層以上の未加熱フィルムを形成する工程である。
【0052】
前記シート状成形体は、次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えば、カレンダーロールにより5m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常19℃〜380℃に設定することができる。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して複層結晶性ポリマー未加熱フィルムとする。このときの加熱温度は用いる押出助剤の種類に応じて適宜選定することができるが、40℃〜400℃が好ましく、60℃〜350℃がより好ましい。例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いて、ソルベントナフサを除去する場合には、150℃〜280℃が好ましく、180℃〜260℃がより好ましい。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される複層結晶性ポリマー未加熱フィルムの厚みは、最終的に製造しようとする結晶性ポリマー微孔性膜の厚みに応じて適宜調整することができ、後の延伸工程による厚みの減少も考慮して調整することが必要である。
なお、前記複層結晶性ポリマー未加熱フィルムの製造に際しては、「ポリフロンハンドブック」(ダイキン工業株式会社発行、1983年改訂版)に記載されている事項を適宜採用することができる。
【0053】
<対称加熱工程>
前記対称加熱工程は、得られた未加熱フィルムを対称加熱して対称加熱フィルムを形成する工程である。
前記対称加熱は、前記第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)を含む層と、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)を含む層とを積層してなる2層以上の未加熱フィルム全体を、該未加熱フィルムの一の面と反対の面との温度差なく、満遍なく均等に加熱できれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えばソルトバス、熱風加熱機、炉、ロール加熱、IR加熱などが挙げられる。これらの中でも、未加熱フィルム全体を加熱する際の、加熱ばらつきを抑えることができるという観点で、ソルトバスが特に好ましい。
【0054】
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)が、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと該ピークの高温側又は低温側にショルダー部を有し、低温側にピークと該ピークの高温側に高温側ショルダー部を有する場合には、前記未加熱フィルムの対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行うことが好ましい。前記対称加熱を低温側のピーク温度より低い温度で行うと、十分に孔径が小さくならず、微粒子捕捉性が低下してしまうことがある。
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)が、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと該ピークの高温側又は低温側にショルダー部を有し、高温側にピークと該ピークの低温側に低温側ショルダー部を有する場合には、前記未加熱フィルムの対称加熱を低温側ショルダー部の温度より高い温度で行うことが好ましい。前記対称加熱を低温側ショルダー部の温度より低い温度で行うと、十分に孔径が小さくならず、微粒子捕捉性が低下することがある。
また、前記未加熱フィルムの対称加熱を第1の結晶性ポリマー(高融点の結晶性ポリマー)の融点以下の温度で行うことが、高流量化の点で好ましい。前記高融点の結晶性ポリマーの融点に該当するピーク位置の温度は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、343℃〜350℃であることが好ましい。
【0055】
前記第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)の示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、図13に示すように、低温側にピークTと、該ピークの高温側に高温側ショルダー部Tを有するもの、図14に示すように、高温側にピークTと、該ピークの低温側に低温側ショルダー部Tを有しているものが好ましい。これにより、前記未加熱フィルムの対称加熱を、図13ではピークTより高い温度、又は図14では低温側ショルダー部Tより高い温度で行うことにより、短いフィブリルと結節(ノード)からなる複数層構造の結晶性ポリマー微孔性膜が得られる。
なお、図15に示すように、第2の結晶性ポリマー(低融点の結晶性ポリマー)が低温側ピークTと高温側ピークTとの2つのピークを有している場合には、前記未加熱フィルムの対称加熱を、前記低温側ピーク温度Tより高い温度で行うことが好ましい。
【0056】
具体的には、前記第2の結晶性ポリマーの示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、図13に示すように、低温側にピークTと、該ピークの高温側に高温側ショルダー部Tを有する場合には、前記未加熱フィルムを対称加熱する温度の下限値は、ピークTより高い温度であり、上限値は、高融点の結晶性ポリマーの融点に相当するピーク位置の温度であることが好ましい。
また、前記第2の結晶性ポリマーのDSCチャートにおいて、図14に示すように、高温側にピークTと、該ピークの低温側に低温側ショルダー部Tを有する場合には、前記未加熱フィルムを対称加熱する温度の下限値は、低温側ショルダー部Tより高い温度であり、上限値は、高融点の結晶性ポリマーの融点に相当するピーク位置の温度であることが好ましい。
なお、前記第2の結晶性ポリマーのDSCチャートにおいて、図15に示すように、低温側ピークTと高温側ピークTとの2つのピークを有する場合には、前記未加熱フィルムを対称加熱する温度の下限値は、前記低温側ピーク温度Tより高い温度であり、上限値は、高融点の結晶性ポリマーの融点に相当するピーク位置の温度であることが好ましい。
【0057】
<延伸工程>
前記延伸工程は、前記対称加熱工程で加熱した状態の対称加熱フィルムを延伸する工程である。
前記延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合には、まず、長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。
前記長手方向の延伸倍率は、1.2倍〜50倍が好ましく、1.5倍〜40倍がより好ましく、2.0倍〜10倍が特に好ましい。前記長手方向の延伸温度は、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、55℃〜310℃が特に好ましい。
前記幅方向の延伸倍率は、1.2倍〜50倍が好ましく、1.5倍〜40倍がより好ましく、2.0倍〜30倍が更に好ましく、2.5倍〜10倍が特に好ましい。前記幅方向の延伸温度は、35℃〜330℃が好ましく、45℃〜320℃がより好ましく、60℃〜310℃が特に好ましい。
面積延伸倍率は、1.5倍〜2,500倍が好ましく、2倍〜2,000倍がより好ましく、2.5倍〜100倍が特に好ましい。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度に結晶性ポリマーフィルムを予備加熱しておいてもよい。
なお、延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。前記熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマーの融点未満で行うことが好ましい。
前記結晶性ポリマーが、PTFE等のフッ素樹脂の場合は、融点以上で加熱することが好ましい。
【0058】
<<表面改質工程>>
前記表面改質工程は、結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部を表面改質する工程である。
前記結晶性ポリマー微孔性膜の少なくとも一部には、結晶性ポリマー微孔性膜の露出している表面以外にも、孔部の周囲、孔部の内部も含まれる。
【0059】
前記表面改質方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば(1)過酸化水素水又は水溶性溶剤の水溶液の含浸後、レーザー照射する方法(特開平7−304888号公報等参照)、(2)放射線、プラズマ等で照射する方法(特開2003−201571号公報等参照)、(3)化学的エッチング処理(特開2007−154153号公報等参照)、(4)架橋系材料で被覆する方法(特開平8−283447号公報等参照)、(5)重合系材料で被覆する方法(特開2000−235849号公報等参照)、などが挙げられる。
【0060】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であり、幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、大面積使用時の漏れが低減されたので、濾過が必要とされる様々な用途に用いることができるが、以下に説明する濾過用フィルタとして特に好適に用いることができる。
【0061】
(濾過用フィルタ)
本発明の濾過用フィルタは、本発明の前記結晶性ポリマー微孔性膜を用いたことを特徴とする。
前記カートリッジフィルタにおける結晶性ポリマー微孔性膜の面積としては、0.04m〜10mが好ましく、0.1m〜5mがより好ましく、1.3m〜5mが特に好ましい。また、本発明の濾過用フィルタは、カートリッジフィルタであることが好ましい。
微粒子補足性試験において、従来の結晶性ポリマー微孔性膜は、小面積(200mm×200mm=0.04m未満)での使用ではほとんど問題にならないが、大面積使用時(例えば、1カートリッジ=1.3m)では、1%〜10%の割合で漏れが生じてしまう。これに対し、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜では、層厚みの不均一性の原因となる幅方向のばらつき(特に、両端付近のばらつき)を抑えることにより、層厚みを均一とし、大面積使用時でも漏れを低減することができる。
【0062】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を濾過用フィルタとして用いるときは、低融点の結晶性ポリマーを含む層の位置が濾過液の出口側(アウトレット側)に近くなるように配置して濾過を行うことにより、数十nmサイズの微粒子を効率よく捕捉することができる。
また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜は、比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着又は付着によって除かれる。したがって、目詰まりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0063】
本発明の濾過用フィルタは、プリーツ状に加工成形することが好ましい。プリーツ状に加工することにより、カートリッジ当たりのフィルタの濾過に使用する有効表面積を増大させることができるという利点がある。
【0064】
ここで、図10は、エレメント交換式のプリーツフィルタカートリッジエレメントの構造を示す展開図である。精密ろ過膜113は2枚の膜サポート112、114によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するコアー115の周りに巻き付けられている。その外側には外周カバー111があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端にはエンドプレート116a、116bにより、精密ろ過膜がシールされている。エンドプレートはガスケット117を介してフィルターハウジング(不図示)のシール部と接する。ろ過された液体はコアーの集液口から集められ、流体出口118から排出される。
【0065】
カプセル式のプリーツフィルタカートリッジを図11及び図12に示す。
図11は、カプセル式のフィルタカートリッジのハウジングに組込まれる前の精密ろ過膜フィルターエレメントの全体構造を示す展開図である。精密ろ過膜22は2枚のサポート21、23によってサンドイッチされた状態でひだ折りされ、集液口を多数有するフィルタエレメントコア27の周りに巻き付けられている。その外側にはフィルタエレメントカバー26があり、精密ろ過膜を保護している。円筒の両端には上部エンドプレート24、下部エンドプレート25により、精密ろ過膜がシールされている。
図12は、フィルターエレメントがハウジングに組込まれて一体化されたカプセル式のプリーツフィルタカートリッジの構造を示す。フィルタエレメント30はハウジングベースとハウジングカバーよりなるハウジング内に組込まれている。下部エンドプレートはOリング28を介してハウジングベース中心部にある集水管(不図示)にシールされている。液体は液入口ノズルからハウジング内に入り、フィルターメディア29を通過し、フィルタエレメントコア27の集液口から集められ、液出口ノズル34から排出される。ハウジングベースとハウジングカバーは、通常溶着部37で液密に熱融着される。
【0066】
図11は、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールをOリングを介して行う事例を示しているが、下部エンドプレートとハウジングベースとのシールは熱融着や接着剤によって行われることもある。又はハウジングベースとハウジングカバーとのシールも熱融着の他に、接着剤を用いる方法も可能である。図10〜図12は、精密ろ過フィルターカートリッジの具体例であり、本発明はこれらの図面に限定されるわけではない。
【0067】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、結晶性ポリマー微孔性膜の幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、結晶性ポリマー微孔性膜を大面積で使用した際の歩留まりを向上させ、漏れを低減することができる。また、本発明の結晶性ポリマー微孔性膜を用いた濾過用フィルタは、このように濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを直列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の濾過用フィルタを用いれば直列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。また、濾過用フィルタの交換期間も大幅に延ばすことができるため、メンテナンスにかかる費用や時間を節減できる。
【0068】
本発明の濾過用フィルタは、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0070】
(実施例1)
<結晶性ポリマー微孔性膜の作製>
−筒状成形体の作製−
高融点の結晶性ポリマーとしてのポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「F106」、融点346℃)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)23質量部を加えた。これをペースト1とした。
低融点の結晶性ポリマーとしてのポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「F205」、融点341℃)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)20質量部を加えた。これをペースト2とした。
このポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「F205」)のDSCチャートを図13に示す。この図13の結果から、ポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー「F205」は、高温側ショルダー部(T)が341℃と、低温側にピーク(T)が338℃との1つのピークと1つのショルダー部を有することが分かった。
次に、ペースト1と、ペースト2とを断面積比(外側から、ペースト1/ペースト2/ペースト1)が3/1/1となるように、図5に示す同心円状複層ペースト押出装置における円筒状の金型内に、敷き詰めて加圧し、3層同心円円筒構造の筒状成形体とした。
【0071】
ここで、高融点の結晶性ポリマー及び低融点の結晶性ポリマーの融点は、下記のようにして測定した。
−−融点の測定方法−−
結晶性ポリマーの融点は、SII社製DSC7200を用いたDSCチャートから、測定した。具体的には、測定したい試料を数mg〜10mg程度計りとり、アルミニウム製パンに入れ、簡易密封してから、10℃/minの速度で、測定した。融点は、そのチャートのピーク位置のことを示し、2つのピークを有する場合、又は1つのピークと、1つのショルダー部を有する場合は、ピーク強度の高い方の温度を融点とした。
【0072】
−シート状成形体の作製−
作製した予備成形体を、ペースト押し出しし、円筒状に同心円複層ペースト押出しを行った。なお、図5の同心円状複層ペースト押出装置のシリンダー部(予備成形体投入部)は、軸直角方向断面における外枠の内径が、85mm、内枠の外径が、40mmの円筒状であり、絞り部(外枠の内径66mm、内枠の外径62mmの円筒状)を有し、絞り比は、11である。得られた円筒状成形体を、該成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体とした。
【0073】
−未加熱フィルムの作製−
得られたシート状成形体を、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られた複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅250mm、比重1.45の複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製した。
【0074】
−対称加熱フィルムの作製−
得られた複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを、ピーク(T)より高い344℃に保温したソルトバス(溶融塩としては、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩を用いている)で50秒間加熱して、対称加熱フィルムを作製した。
【0075】
−結晶性ポリマー微孔性膜の作製−
得られた対称加熱フィルムを250℃にて長手方向に3倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、両端をクリップで挟み、250℃で幅方向に3倍に延伸した。その後、370℃で熱固定を行った。以上により、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
【0076】
得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が一定(変化していない)である複数の孔部を有することは、該微孔性膜を凍結割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM−6360、JEOL社製)により断面観察を行うことにより確認した。その結果、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜は、3層とも平均孔径が一定(変化していない)である複数の孔部を有することが分かった。
【0077】
<評価>
次に、作製した実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜について、以下のようにして、「厚み方向に連通した複数の孔部が形成された」ことの確認、及び各層の厚みの測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
<<「厚み方向に連通した複数の孔部が形成された」ことの確認>>
前記「厚み方向に連通した複数の孔部が形成された」ことは、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を凍結割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM−6360、JEOL社製)により断面観察することにより確認した。
【0079】
<<各層の厚みの幅方向分布測定>>
実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を凍結割断し、走査型電子顕微鏡(SEM)(JSM−6360、JEOL社製)により断面観察を行うことで、各層の厚みを測定した。詳細には、結晶性ポリマー微孔性膜を幅方向に100等分に区分した各区分の厚みを測定し、100個の厚みデータ(X、X、・・・X100)の幅方向の平均値(平均厚み)Xmを求めた。また、下記式(1)により厚み変動率Vxを求めた。結果を表1に示す。
厚み変動率(%):Vx=Sx/Xm×100 ・・・式(1)
(ただし式中、Xmは、n個の厚みデータ(X、X、・・・X)の平均値(平均厚み)、Sxは、n個の厚みデータの標準偏差を示す。)
【0080】
<<平均流量孔径の幅方向分布測定>>
実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜について、パームポロメータ(PMI社製)を用いて平均流量孔径を測定した。詳細には、結晶性ポリマー微孔性膜を幅方向に一辺20mmの正方形に等分し、各部分の平均流量孔径を測定し、20個の平均流量孔径データ(Y、Y、・・・Y20)の幅方向の平均値Ymを求めた。また、下記式(2)により平均流量孔径の変動率Vyを求めた。結果を表2に示す。
平均流量孔径の変動率(%):Vy=Sy/Ym×100 ・・・式(2)
(ただし式中、Ymは、n個の平均流量孔径データ(Y、Y、・・・Y)の平均値、Syは、n個の平均流量孔径データの標準偏差を示す。)
【0081】
<<濾過テスト>>
次に、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜について、濾過テストを行った。まず、ポリスチレンラテックス(重量平均粒子径0.05μm)を1ppm含有する水溶液を、差圧100kPaとして濾過を行った。原液の濃度と、濾過液の濃度の差から算出した、捕捉率の結果を表2に示す。
【0082】
<<流量テスト>>
次に、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜について、流量テストを行った。具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)を差圧100kPaで流した時の単位面積(m)・単位時間(min)あたりの透過量を流量(L・m−2・min−1)とした。結果を表2に示す。
【0083】
(実施例2)
実施例1において、断面積比(外側から、ペースト1/ペースト2/ペースト1)が3/1/1である3層同心円円筒構造の筒状成形体を、断面積比(外側から、ペースト1/ペースト2)が4/1となるように、円筒状に敷き詰めて加圧し、2層同心円円筒構造の筒状成形体を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例2の結晶性ポリマー微孔性膜を作製し、これらの評価を実施した。結果を表1及び2に示す。
また、得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、2層とも平均孔径が一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0084】
(実施例3)
実施例1において、断面積比(外側から、ペースト1/ペースト2/ペースト1)が3/1/1である3層同心円円筒構造の筒状成形体を、断面積比(外側から、ペースト1/ペースト2/ペースト1)が10/1/3となるように、円筒状に敷き詰めて加圧し、3層同心円円筒構造の筒状成形体を作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例3の結晶性ポリマー微孔性膜を作製し、これらの評価を実施した。結果を表1及び2に示す。
また、得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、3層とも平均孔径が一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0085】
(実施例4)
実施例1において、高融点の結晶性ポリマーとしてのポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(ダイキン工業株式会社製、「F106」)の代わりに、高融点の結晶性ポリマーとしてのポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、CD123、融点346℃)を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例4の結晶性ポリマー微孔性膜を作製し、これらの評価を実施した。結果を表1及び2に示す。
また、得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、3層とも平均孔径が一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0086】
(実施例5)
実施例1において、低融点の結晶性ポリマーとしてダイキン工業株式会社製F205を用いる代わりに、低融点の結晶性ポリマーとして旭硝子株式会社製、CD126(融点341℃)を用いて複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製し、得られた複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを、低温側ショルダー部(T)より高い341℃に保温したソルトバス(溶融塩としては、硝酸カリウムと硝酸ナトリウムの混合塩を用いている)で50秒間加熱して、対称加熱フィルムを作製した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の結晶性ポリマー微孔性膜を作製し、これらの評価を実施した。結果を表1及び2に示す。
低融点の結晶性ポリマーとしての旭硝子株式会社製CD126のDSCチャートを、図14に示す。この図14の結果から、低融点の結晶性ポリマーとしての旭硝子株式会社製CD126は、低温側ショルダー部(T)336℃と高温側にピーク(T)341℃を有することが分かった。
また、得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、3層とも平均孔径が一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0087】
(比較例1)
実施例1において、未加熱フィルムを以下の手順で作製したポリテトラフルオロエチレン複層未加熱フィルムに代え、ポリテトラフルオロエチレン複層未加熱フィルムの加熱温度を低温側ピーク(T)338℃で行った以外は、実施例1と同様にして、比較例1の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
【0088】
−予備成形体の作製−
実施例1におけるペースト1と、ペースト2とを平均厚み比(ペースト1/ペースト2/ペースト1)が3/1/1となるように、角型の金型内に敷き詰めて加圧し、3層構造の四角柱状の予備成形体とした。
【0089】
−未加熱フィルムの作製−
作製した予備成形体を、ペースト押し出し金型の角型シリンダー内に挿入し、シート状に複層ペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られた複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚み100μm、平均幅250mm、比重1.45の複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製した。
得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が変化なく一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、3層とも平均孔径が変化なく一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0090】
(比較例2)
比較例1において、低融点の結晶性ポリマーとしてダイキン工業株式会社製F205を用いる代わりに、低融点の結晶性ポリマーとして旭硝子株式会社製、CD126(融点341℃)を用いて複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製し、得られた複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを、低温側ショルダー部の温度(T)336℃で行った以外は、比較例1と同様にして、比較例2の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が変化なく一定である複数の孔部を有することを、実施例1と同様にして確認したところ、3層とも平均孔径が変化なく一定である複数の孔部を有することが分かった。
【0091】
(比較例3)
−筒状成形体の作製−
結晶性ポリマーとして数平均分子量が100万のポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、「Fluon PTFE CD1」、融点339℃)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)27質量部を加えた。これをペースト3とした。
同様に、数平均分子量が1000万のポリテトラフルオロエチレンのファインパウダー(旭硝子株式会社製、「Fluon PTFE CD123」、融点346℃)100質量部に、押出助剤として炭化水素油(エッソ石油株式会社製、「アイソパーH」)27質量部を加えた。これをペースト4とした。
次に、ペースト3と、ペースト4とを厚み比(ペースト3/ペースト4/ペースト3)が3/1/1となるように、図5に示す同心円状複層ペースト押出装置における円筒状の金型内に、敷き詰めて加圧し、3層同心円円筒構造の筒状成形体とした。
【0092】
−シート状成形体の作製−
作製した筒状成形体を、ペースト押し出しし、円筒状に同心円複層ペースト押出しを行った。得られた円筒状成形体を、該成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体とした。
【0093】
−未加熱フィルムの作製−
作製したシート状成形体を、ペースト押し出し金型のシリンダー内に挿入し、シート状に複層ペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られた複層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚さ100μm、平均幅250mm、比重1.55の複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製した。
【0094】
−半加熱フィルムの作製−
得られた複層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムのうら面(ペースト4側)を、タングステンフィラメント内蔵のハロゲンヒーターで近赤外線により、フィルム表面温度が345℃で1分間加熱して、半加熱フィルムを作製した。
【0095】
−結晶性ポリマー微孔性膜の作製−
得られた半加熱フィルムを270℃にて長手方向に12.5倍にロール間延伸し、一旦巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを305℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み、270℃で幅方向に30倍に延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。得られた延伸フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で260倍であった。以上により、比較例3の結晶性ポリマー微孔性膜を作製した。
得られた結晶性ポリマー微孔性膜における各層の厚み方向において、平均孔径が連続的乃至非連続的に変化する複数の孔部を有することが分かった。
【0096】
(比較例4)
−筒状成形体の作製−
実施例1におけるペースト2を、単独で図5に示す同心円状複層ペースト押出装置における円筒状の金型内に敷き詰め、加圧し、円筒構造の筒状成形体とした。
【0097】
−シート状成形体の作製−
作製した筒状成形体を、ペースト押し出しし、円筒状に同心円複層ペースト押出しを行った。これを、60℃に加熱したカレンダーロールによりカレンダー掛けして、単層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを作製した。得られた単層ポリテトラフルオロエチレンフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、巻き取る際、途中引き裂けが起きてしまい、安定に、単層ポリテトラフルオロエチレン未加熱フィルムを作製できなかった。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
この結果より、本発明の実施例1〜5において、各層における幅方向の厚み変動率が低く、よって、幅方向における厚み分布の均一性が高いことが分かった。また、結晶性ポリマー微孔性膜における幅方向の平均流量孔径の変動率が低く、よって、幅方向における濾過性能分布の均一性が高いことが分かった。
【0101】
(実施例6)
−フィルターカートリッジ化−
実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜を以下の構成のように積層し、ひだ幅12.5mmにプリーツ(プリーツ幅=220mm)し、その230山分のひだをとって円筒状に丸め、その合わせ目をインパルスシーラーで溶着する。円筒の両端15mmずつを切り落とし、その切断面をポリプロピレン性のエンドプレートに熱溶着してエレメント交換式のフィルターカートリッジに仕上げた。
−構成−
1次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
1次側 不織布 三井化学株式会社製シンテックス(PK−404N)
厚み:0.15mm、使用面積:約1.3m
ろ材 実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜
厚み:約0.07mm、使用面積:約1.3m
2次側 ネット AET社製DELNET(RC−0707−20P)
厚み:0.13mm、坪量:31g/m、使用面積:約1.3m
【0102】
(実施例7〜10)
実施例6において、実施例1の結晶性ポリマー微孔性膜に代えて、それぞれ実施例2〜5の結晶性ポリマー微孔性膜を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、実施例7〜10のフィルターカートリッジを作製した。
【0103】
<評価>
<<大面積使用時における微粒子捕捉性テスト>>
実施例6〜10のフィルターカートリッジ100個について、ポリスチレン微粒子(平均粒子径0.05μm)を1ppm含有する水溶液を、差圧100kPaとして濾過を行い、微粒子の漏れの有無を調べた。結果を表3に示す。
【0104】
【表3】

【0105】
本発明の実施例6〜10のフィルターカートリッジは、本発明の実施例1〜5の結晶性ポリマー微孔性膜を用いているため、微小な孔径を有し、数十nmサイズの微粒子を効率良く捕捉することができ、高流量であり、幅方向における各層の厚み分布の均一性及び濾過性能分布の均一性が高く、大面積使用時の漏れが低減された。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の結晶性ポリマー微孔性膜及びこれを用いた濾過用フィルタは、濾過が必要とされる様々な状況において使用することができ、気体、液体等の精密濾過に好適に用いられ、例えば、腐食性ガス、半導体工業で使用される各種ガス等の濾過、電子工業用洗浄水、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の濾過、滅菌、高温濾過、反応性薬品の濾過、電線被覆材料、カテーテル、人工血管、癒着防止膜、細胞培養足場、絶縁膜、燃料電池用セパレータなどに幅広く用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
3 第1層
4 第2層
5 第3層
6 円筒状成形体
7 同心円状複層ペースト押出装置
8 下金型
9 上金型
10 シート状成形体
21 一次側サポート
22 精密ろ過膜
23 二次側サポート
24 上部エンドプレート
25 下部エンドプレート
26 フィルターエレメントカバー
27 フィルターエレメントコア
28 Oリング
29 フィルターメディア
30 フィルターエレメント
31 ハウジングカバー
32 ハウジングベース
33 液入口ノズル
34 液出口ノズル
35 エアーベント
36 ドレン
37 溶着部
101、102、103 結晶性ポリマー層
101a、102a、103a 孔部
101b、102b、103b 孔部
111 外周カバー
112 膜サポート
113 精密ろ過膜
114 膜サポート
115 コアー
116a、116b エンドプレート
117 ガスケット
118 液体出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層された筒状成形体を該筒状成形体の中心軸方向に切開してシート状成形体を形成するシート状成形体形成工程と、
前記シート状成形体を圧延して未加熱フィルムを形成する未加熱フィルム形成工程と、
前記未加熱フィルムを対称加熱して対称加熱フィルムを形成する対称加熱工程と、
前記対称加熱フィルムを延伸する延伸工程と、を含むことを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項2】
筒状成形体が、複層ペースト押し出しにより形成される請求項1に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項3】
筒状成形体が、筒状の絞り部を有する押出装置を用いた複層ペースト押し出しにより形成される請求項2に記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項4】
第2の結晶性ポリマーが、示差走査熱量計で測定して得られたDSCチャートにおいて、1つのピークと、該ピークの高温側又は低温側にショルダー部とを有し、
低温側にピークと、該ピークの高温側に高温側ショルダー部とを有する場合には、未加熱フィルムの対称加熱を低温側のピーク温度より高い温度で行い、
高温側にピークと、該ピークの低温側に低温側ショルダー部とを有する場合には、未加熱フィルムの対称加熱を低温側ショルダー部の温度より高い温度で行う請求項1から3のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項5】
未加熱フィルムの対称加熱を第1の結晶性ポリマーの融点以下の温度で行う請求項1から4のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜の製造方法。
【請求項6】
第1の結晶性ポリマーを含む層と、第2の結晶性ポリマーを含む層とが積層され、厚み方向に連通した複数の孔部が形成された2層以上からなる結晶性ポリマー微孔性膜であって、
前記第1の結晶性ポリマーの融点が前記第2の結晶性ポリマーの融点よりも高く、
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層が、前記結晶性ポリマー微孔性膜の厚み方向における少なくとも一部において、平均孔径が一定である複数の孔部を有し、
前記結晶性ポリマー微孔性膜における少なくとも1層の幅方向における厚み変動率が、14%以下であることを特徴とする結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項7】
結晶性ポリマー微孔性膜の幅方向における平均流量孔径の変動率が、13%以下である請求項6に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項8】
第1の結晶性ポリマーを含む層の2層と、該2層間に第2の結晶性ポリマーを含む層とを有する請求項6から7のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項9】
第2の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みAが、第1の結晶性ポリマーを含む層の最大厚みBよりも薄く、次式、A/B≦1/2、を満たす請求項6から8のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項10】
次式、A/B≦1/3、を満たす請求項9に記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項11】
第2の結晶性ポリマーを含む層の厚みが、0.1μm〜50μmである請求項6から10のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項12】
第1の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体の少なくともいずれかである請求項6から11のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項13】
第2の結晶性ポリマーが、ポリテトラフルオロエチレン及びポリテトラフルオロエチレン共重合体の少なくともいずれかである請求項6から12のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜。
【請求項14】
請求項6から13のいずれかに記載の結晶性ポリマー微孔性膜を有することを特徴とする濾過用フィルタ。
【請求項15】
結晶性ポリマー微孔性膜の面積が、0.04m〜10mである請求項14に記載の濾過用フィルタ。
【請求項16】
カートリッジフィルタである請求項14から15のいずれかに記載の濾過用フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−192348(P2012−192348A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58451(P2011−58451)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】