説明

結晶性尿素誘導体化合物およびこの化合物からなるn型半導体、発光体及び光触媒並びにその製造方法

【課題】
本発明は、金属酸化物を含まない新規な結晶性尿素誘導体化合物及び該化合物よりなるn型半導体、発光体、或いは可視光応答性光触媒を得る。
【解決手段】
下記組成式(1)よりなる結晶性尿素誘導体化合物。
H (1)
但し、Xは2〜3、Yは1〜3の数を表す。
及び、尿素、又は尿素誘導体を637K〜937Kの温度で加熱することにより、得られる結晶性尿素誘導体化合物の製造方法。
さらには、化合物よりなるn型半導体、発光体及び光触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿素およびその誘導体から合成されるC,N,O,Hからなる結晶性の化合物、その化合物からなるn型半導体、発光体または可視光応答性光触媒並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
尿素は、最も単純な有機化合物としてよく知られた物質であり、さらに化学反応性に富み、尿素樹脂や窒素を含有した様々な有機物質の有用な原料として用いられる。一方、尿素自身の化学という観点より、尿素は、加熱することにより、分子間で脱アンモニアすることによってアミド結合を形成して縮合し、二分子縮合したビュレット、三分子縮合した六員環のシアヌル酸を形成する。シアヌル酸はC=OとN−Hが交互につながった六員還であり、エノ−ル体とケト体の互変異性体を形成し、さらに尿素と反応することによってシアヌル酸ウレイドを形成する。
【0003】
このように尿素は加熱することにより縮合し、主にC,N,Oで形成される凝集分子集合体を形成するが、これまで、尿素や尿素誘導体がさらに縮合して形成される物質について、それら自身やそれらの特性についての詳細な知見は得られていない。尿素由来の縮合体を考えた場合、尿素自身またはシアヌル酸のような化合物では、多くの共鳴構造をとることが知られており、これらの分子が縮合した高分子様の化合物を考えた場合、分子の構造内での電子共鳴構造に基づいた独特な電気伝導特性や化合物半導体の特性を発現させる可能性がある。一般的な有機物半導体は複雑な有機合成過程を経由して、合成されるものが提案されている(特許文献1、2参照)。
【0004】
一方、尿素の反応性や分解特性に注目して、尿素は原料とした窒素付加および窒素の供給源として用いられる。その典型的な例として光触媒の窒素ドープ剤としての尿素がある。
【0005】
その詳細は、TiOに代表される酸化物光触媒は、広いバンドギャップを有する半導体であるために、そのほとんどが波長400nm以下の紫外光を吸収して電子と正孔が生成して作用する。このために、太陽光や蛍光灯の光の大部分を構成する可視光の照射下では光触媒作用を示すことが出来ない。そこで、太陽光照射下や室内環境下で光触媒の機能を効率よく発揮させることの出来る光触媒の開発が検討されてきた。その中で、窒素を酸化物光触媒にドープさせたり、反応させたりすることで酸化物光触媒を修飾することが、その光応答性を改善するための有効な方法であることが見出され、尿素が酸化物光触媒に窒素を反応させるための窒素源として用いられている。
【0006】
例えば、特許文献1には、尿素は酸化チタン、酸化亜鉛あるいは酸化ケイ素などの酸化物の表面に吸着されやすく、また加熱することによって窒素が酸化物中に効果的に侵入することを利用して、尿素などの窒素化合物を撹拌混合した後、150℃〜600℃程度加熱して、可視光においても光触媒活性を得ることができる無機系酸窒化物の製造方法が開示されている。
【0007】
しかし、従来、尿素や尿素誘導体のみを原料とした新規機能性分子、特に、尿素および尿素誘導体の化学的な特性を利用して、これらの化合物が縮合してC,N,Oで主形成される原子ネットワークを有し、さらに電子的な共鳴特性を有した物質が開発でき、この特性がこの物質に化学的な親和性や反応性などの化学的な特性のみならず、電気伝導性や化合物半導体としての特性、磁気的な特性など物理的な性質を有する機能性物質を得る試みはなされていない。かかる化合物が得られれば、金属元素を用いない有機物導電体や半導体や、化合物半導体としての性質を利用した発光体や光照射により得られる光電流を利用した光電池や光触媒としての応用も可能になると予想される。しかしながら、金属元素を含まない有機導電体や半導体は、合成プロセスが簡易でなく、安価な原料から容易に合成することが望まれる。
【特許文献1】特開2002−154823号公報
【特許文献2】特開2006−089413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、尿素から金属イオンを含まない新規な結晶性の化合物及びこの特性を利用したn型半導体、発光体、または可視光応答性光触媒並びにこの化合物を簡単なプロセスで製造することができる製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、下記組成式で示される結晶性尿素誘導体化合物である。

(但し、Xは2〜3、Yは1〜3の数を表す。)
【0010】
また、本発明の第2の態様は、上記第1の態様により得られる結晶性尿素誘導体化合物からなるn型半導体である。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1の態様により得られる結晶性尿素誘導体化合物からなる発光体である。
【0012】
本発明の第4の態様は、第1の態様により得られる結晶性尿素誘導体化合物よりなる可視光応答性光触媒である。
【0013】
さらに、本発明の第5の態様は、尿素および尿素の誘導体を不活性雰囲気中で673K〜973Kで加熱処理し、縮重合させることを特徴とする前記態様1乃至4に記載の物質の製造方法である。
【0014】
本発明の結晶性尿素誘導体化合物は、尿素または尿素誘導体を不活性雰囲気中において673K〜973Kで加熱により生成する。例えば、尿素は3分子縮合したシアヌル酸やシアヌル酸が尿素と結合して形成したシアヌル酸ウレイドを経由してさらに縮合したトリアジン環を有する尿素縮合体からなる結晶性尿素誘導体化合物が得られる。(以下、この化合物を単に尿素由来化合物ともいう。)
すなわち、本発明の尿素由来の新規な化合物は、尿素および尿素誘導体をHe、N、 Arなどの不活性気体雰囲気中において673K〜973Kで加熱する簡単なプロセスで製造することができる。このものの元祖の組成比はCHからCNOHで示される化合物である。なお、加熱処理温度が673K未満では、縮重合が十分に起こらず、また、973Kよりも高い温度では、生成した化合物の分解が促進される。
【0015】
図1に合成した物質のX線回折パターン、図2に赤外線吸収スペクトル、図3に各温度で調製したこの物質の紫外可視吸収スペクトルを示す。
【0016】
本発明の新規尿素由来化合物は、X線回折測定の結果、図1のX線回折パターンを与える結晶性の物質である。
【0017】
赤外線吸収スペクトルの結果からこの物質は、図2に示すような赤外線吸収特性を示し、このスペクトルより、3400cm−1付近にトリアジン環のNHとC=O間で共役したプロトンのN−H−Oの伸縮振動に帰属できる非常にブロードな吸収帯と1600cm−1以下の低波数側にブロードで重なり合った吸収帯が観測される。1600cm−1以下の吸収帯は主にならびにトリアジン環のC=N伸縮振動およびトリアジン環どうしを結合させているカルボキシレートやエーテル結合の伸縮振動に由来する吸収帯であると帰属できる、また、結合電子が共役しているためにそれぞれの吸収帯がブロードになっている。
【0018】
紫外可視吸収スペクトルの結果から、この物質は、図3に示すような可視光域の460nm付近に吸収端を有する光吸収を示す。図3より、この化合物は原料の尿素やその誘導体にはない可視光域に光吸収を有する化合物である。
【0019】
次に本発明の尿素由来化合物の電気的特性を、図4に光電流の測定結果として示す。光電流は光源にキセノンランプを用い、カットオフフィルターで各波長以下の光をカットした。図4の結果より、光照射により、正の光電流が生じることと450nmの可視光域の光まで確認でき、図3の紫外可視スペクトルの吸収帯とよく一致した。この結果より、図3の吸収帯は、半導体のバンドギャップの励起に伴う光吸収帰属される。よって、本発明の新規物質は化合物半導体であり、紫外可視スペクトルの吸収端から、バンドギャップは2.7eVで、正の光電流を生成することからn型半導体であることが判る。
【0020】
本発明の新規な尿素由来化合物はn型の化合物半導体であることが判明し、その特徴を応用すると、様々な機能性物質として用いることができる。その中で、化合物半導体の性質を利用すれば、発光体、可視光に応答する光電池および可視光応答性光触媒としての利用が提案される。
【0021】
本発明の尿素由来化合物の発光特性を示すため、図5にこの物質の励起発光スペクトルを示す。図5より、バンドギャップよりも大きなエネルギーを有する光でこの化合物を励起すると480nmにピークを有する比較的強い発光が観測された。故に、本発明の化合物は、発光体として応用できる。
【0022】
この半導体化合物を光触媒として用いると、助触媒に白金を担持することでメタノールを犠牲剤とした水素生成反応に於いて、可視光(>420nm)照射条件でも光触媒活性を有する。さらに、各種酸化物基質上へこの化合物を生成させ光触媒反応を行ったところ、SiOやGaのような中性の基質が有効であることが判明した。尿素やその誘導体を窒素雰囲気下で加熱反応させて生成する窒素、炭素、酸素を含有する尿素由来の化合物が、可視光領域に光吸収を示す半導体化合物となる。また、この半導体化合物のバンドギャップは2.7eVで400nmより短波長の光で励起させることで波長480nmをピークとした比較的強い発光がおこる。また、400nmよりも長波長の可視光領域の光にも応答して光電流を発生させることが出来、さらに光触媒として用いると可視光照射下でも光触媒反応を進行させることができることから、可視光応答性光触媒として利用することができる。なお、尿素由来化合物の光触媒として効率化および下地の酸化物との相互作用による更なる光触媒としての高機能性を発現させるため、SiOやTiOなどの酸化物基質と組み合わせた尿素由来化合物を合成する場合は、尿素を酸化物基質とのモル比が5となるように酸化物基質に加え粉砕混合して、473Kで1時間程度加熱処理した後、これを670K〜973Kで加熱処理して、触媒とすることも好ましい。
【0023】
本発明において、尿素誘導体とは尿素の2量体であるビュレットや環状3量体のシアヌル酸、さらにはシアヌル酸に尿素が結合したシアヌル酸ウレイドなど、尿素を出発点とした化合物の総称であり、本発明の尿素由来化合物は、尿素或いは、これらの尿素誘導体を、673K〜973Kで、一般的には2〜4時間加熱処理することによって得られる元素組成がCHからCNOHの間にある結晶性尿素誘導体化合物である。
【発明の効果】
【0024】
本発明による新規な尿素由来化合物は、不活性雰囲気中で加熱する簡単なプロセスで製造することができる。
【0025】
また、得られた化合物はn型の化合物半導体としての性質を示し、可視光の照射により光電流を生じること、バンドギャップを励起させることにより可視光域に発光を示すこと、および可視光の照射下で光触媒としての作用が発現する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の新規な尿素由来化合物について、その製造プロセスと光触媒反応について実施例により解説する。
【実施例1】
【0027】
本発明の製造プロセスは、次のとおりである。
【0028】
尿素を粉砕する。これを473Kで1時間加熱処理する。次いで、この加熱処理で得られた前駆体を窒素雰囲気の下、673Kから973Kまでの温度で2時間加熱処理する。
【0029】
過剰な尿素は昇華して、残った淡黄色の粉末が本発明の尿素由来の化合物である。
【0030】
この化合物の1.821mgを用いて、通常の有機化合物の元素分析装置で組成を測定した結果、C:N:O:H=2.39:2.87:2.06:1.15(各元素の重量% C:27.85,N:39.02,O:32.01,H:1.12)であった。
【0031】
光触媒としての評価は、次のとおりである。
【0032】
光触媒反応は真空ラインを備えた閉鎖循環式反応装置に取り付けた反応容器を用いて行った。上記のプロセスで得られた尿素由来物質を光触媒として、その粉末をよく脱気したメタノールを50容量%含んだ水溶液に懸濁させ、助触媒の白金は塩化白金酸を白金が光触媒に対して0.5wt%となるように加え、光触媒反応中に光電着法で担持した。光源には300Wキセノンランプを用い、照射光の波長制御は光路にハイパスフィルターを挿入することで行った。光触媒反応により生成する水素はガスクロマトグラフにより分析した。
【0033】
図6、表1にその結果をまとめた。表1は加熱温度が異なる尿素由来化合物を光触媒に用いたときの光触媒活性を示すものである。
【表1】

【0034】
図6より、光照射により、水素は定常的に生成することが観測された。さらに、照射波長をフィルターにより制御すると波長が440nmの可視光まで応答して光触媒反応を進行させることが出来る。
【0035】
表1より、各酸化物基質表面上に生成させた尿素由来化合物を光触媒として光触媒反応を行わせたところ酸化物基質に依存してその光触媒活性が変化することが観測された。この結果から、尿素由来化合物と組み合わせる基質としてはSiOやGaのような中性な酸化物基質が有効であることが判った。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の尿素由来化合物のX線回折パターンである。
【図2】本発明の尿素由来化合物の赤外吸収スペクトルである。
【図3】本発明の尿素由来化合物の紫外可視吸収スペクトルである。
【図4】本発明の尿素由来化合物から生じる光電流の照射波長依存性である。
【図5】本発明の尿素由来化合物の励起発光スペクトルである。
【図6】本発明の尿素由来化合物を光触媒としたときのメタノール水溶液から水素生成反応の各波長の光を照射したときの経時変化である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記組成式で示される結晶性尿素誘導体化合物。

(但し、Xは2〜3、Yは1〜3の数を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の結晶性の化合物からなることを特徴とするn型半導体。
【請求項3】
請求項1記載の結晶性の化合物からなることを特徴とする発光体。
【請求項4】
請求項1記載の結晶性の化合物からなることを特徴とする可視光応答性光触媒。
【請求項5】
尿素およびその誘導体を不活性雰囲気中において673K〜973Kで加熱し、縮重合させ、合成させることを特徴とする請求項1記載の結晶性尿素誘導体化合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−40745(P2009−40745A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209111(P2007−209111)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(304020177)国立大学法人山口大学 (579)
【Fターム(参考)】