説明

結晶性高分子超細繊維の製造法

【課題】従来の結晶性高分子化合物において良好であった耐熱性、耐薬品性、難燃性等の諸性能を殆ど低下させることなくその繊維直径が従来に比して著しく超細なる結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維及びその製造方法を提供する。
【解決手段】結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物と、これらを溶解する有機溶剤とを主成分とする紡糸原液を得る工程と、細孔を通して吐出した紡糸原液を固化させて紡糸する工程によって易分割性繊維束を得る。この易分割性繊維束中の繊維形成性高分子化合物のみを溶解除去して超細繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維とその製造方法、並びにこの超細繊維を得るための易分割性繊維束とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種材料のうち軽量で加工性に優れ、腐食しないことからプラスチックといわれる有機系材料の活発な開発が進んできた。プラスチックは、産業分野において技術の進歩と経済活動の発展に大きな役割を果たすとともに、その用途は自動車やコンピュータ、家電などをはじめ我々の日常生活のあらゆる分野に広まってきた。
プラスチックの機能は、生産量の増加と平行して高度化しており、耐熱性、耐衝撃性、耐磨耗性などを高めたエンジニアリングプラスチック(エンプラ)や、さらに現在では、エンプラの機能を凌駕するスーパーエンプラと呼ばれるものまで登場している。
このプラスチックの優れた特徴を活かしたいわゆる合成繊維についても大きな発展が見られる。これは天然繊維にはない高強度や高耐熱性、耐腐食性などが繊維の分野でも重要視されてきたためである。プラスチックは、繊維状とすることにより、布、紙、フェルト、不織布等の各種形態への加工が容易となる。
【0003】
高い耐熱性、耐磨耗性を有するスーパーエンプラは、その高い結晶配向性によりこれらの性質を有する。その1つである全芳香族ポリアミド系樹脂は特に高い耐熱性、耐磨耗性を有しており、その優れた特性を繊維として各種用途で活用しようとする試みが数多くなされてきた。
【0004】
例えば、ポリアミド繊維の重合および紡糸に関して、アミド系溶媒に無機塩と芳香族ジアミンを溶解した後、芳香族ジアシドクロライドを低温重合したポリマーを水で洗浄し、溶媒と無機塩を分離、乾燥後、98%以上の硫酸系溶媒に20重量%程度を溶かして紡糸原液を作成し、これを口金に通した後、紡糸、中和、水洗、乾燥、および機械的処理過程を経て芳香族ポリアミド繊維またはフィルムを製造する方法(例えば、特許文献1参照。)、又、界面重合によって得られた低分子量の芳香族ポリアミドをアミド系溶媒に溶解し、この溶液を貧溶媒中に吐出することによりパルプ状物を得る方法(例えば、特許文献2参照。)などが紹介されている。
【0005】
一方、一般の繊維素材分野では、繊維径の細い、いわゆる超細繊維が、繊維間が緻密に詰まりながらも柔軟であることから、各種フィルター、特に薄い高性能フィルターや人工皮革あるいはクリーニング用布帛等の各種用途に用いられている。
当然合成繊維の分野でも、プラスチックの優れた特徴を活かした超細繊維が求められている。特に表面積の大きさが重要となる用途において、超細繊維化の要請が高い。
【0006】
合成樹脂製の超細繊維を得る方法としては、複数の成分からなりそれぞれが非相溶の紡糸原液を紡糸し、叩解あるいは他の方法で分割超細化する方法(例えば、特許文献3参照。)、芯と鞘が別々のポリマーからなるいわゆるコンジュゲート繊維を紡糸し、後に鞘成分を何らかの方法で除去することで芯成分の超細繊維を得る方法(例えば、特許文献4参照。)、複数の成分からなりそれぞれが非相溶で海島型に相分離した紡糸原液を紡糸し、その後海成分を除去して超細繊維を得る方法(例えば、特許文献5及び特許文献6)、電界紡糸法(例えば、特許文献7参照。)が知られているが、何れもランダムな短繊維を得るのみであり、長繊維を得る事は極めて困難であった。
【特許文献1】米国特許第3869429号公報
【特許文献2】特開昭51−100151号公報
【特許文献3】特開平9−302525号公報
【特許文献4】特開2003−253555号公報
【特許文献5】特開平8−218223号公報
【特許文献6】特開2007−92205号公報
【特許文献7】特開2006−144138号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、例えば重合過程や洗浄過程、硫酸を利用した紡糸原液の製造、紡糸、および機械的処理過程を経るため、製造装置が腐食する恐れがあり不適切であり、また紡糸原液内の重合体分解反応により繊維の物性が低下し、副産物として生成される硫酸カルシウム(CaSO)の処理が困難である他、繊維内の残留硫酸が微量存在するため、好ましくなく、又、特許文献2の方法では、得られたパルプ状物をさらに水若しくはアルコール類にて処理するため物性が低下し、高性能ポリアミド短繊維の製造は困難であった。
【0008】
特許文献3のように、叩解という物理的応力を利用する場合、叩解終了までに少なくとも十数分の時間を要したり、ビーター、リファイナー、ミキサーあるいは高圧水流を用いたりといった設備的な問題も内包していた。
更には長時間叩解を加えても基本的には完全分離した超細繊維を一本単位で回収することは不可能に近かった。これは、紡糸後に高度の延伸を加え海成分の樹脂の分子配列を一方方向に整えることにより繊維中の強度に異方性を発現させた状態、すなわち繊維軸方向に裂け易くした状態で物理的に引き裂くからである。
また、叩解により超細繊維化する方法は延伸により容易に分子鎖の配列を変えられるポリマーには適用可能であるが、結晶性高分子化合物にも適用可能かどうかは不明であり、少なくとも従来これらの樹脂に対して試みられたことはなかった。
【0009】
特許文献4のように、コンジュゲート繊維を利用する方法も、必ずしも総てのポリマーに適用できるわけではなく、適用できたとしても、鞘成分が充分に除去できず、超細繊維の品質を損ねる場合があった。少なくとも従来結晶性高分子化合物に対して、コンジュゲート繊維を利用する方法が試みられたことはなかった。また、これによって得られる繊維径は高々1μm程度までであった。
【0010】
特許文献5及び6のように、海島型に相分離した紡糸原液を紡糸し、その後海成分を除去して超細繊維を得る方法も、適用できるポリマーが限定されており、適用できても、超細繊維の品質を損ねる場合があった。少なくとも従来結晶性高分子化合物に対して、この方法が試みられたことはなかった。
【0011】
特許文献7等に示される電界紡糸法は極めて超細な繊維を得ることに優れた方法であるが、得られる超細繊維はウェス、シート等の形状に限られており、得られた超細繊維の繊維長をコントロールすることが困難であり、且つコンパウンドなどに加工する際に混練し難いなどの問題を有していた。
【0012】
本発明は上記事実に鑑み、本発明者らが鋭意研究を進め、完成させたものである。すなわち、その課題とするところは従来の結晶性高分子化合物において良好であった耐熱性、耐薬品性、難燃性等の諸性能を殆ど低下させることなくその繊維直径が従来に比して著しく超細であり、且つ繊維長を任意にコントロール可能な結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維及びその製造方法を提供することにある。並びにこの超細繊維を得るための易分割性繊維束とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の態様を含む。
[1]結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物と、これらを溶解する有機溶剤とを主成分とする紡糸原液を得る工程と、細孔を通して吐出した紡糸原液を固化させて紡糸する工程とを有することを特徴とする易分割性繊維束の製造方法。
[2]紡糸工程が、細孔を通して吐出した紡糸原液を、繊維形成性高分子化合物を固化する凝固液中で固化させて紡糸する工程である[1]に記載の易分割性繊維束の製造方法。
[3]紡糸原液を、細孔から凝固液中に直接吐出する[1]又は[2]に記載の易分割性繊維束の製造方法。
[4]紡糸原液を、細孔から凝固液中にエアギャップを設けて吐出する[1]又は[2]に記載の易分割性繊維束の製造方法。
[5]結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、繊維形成性高分子化合物との質量比が、8:2〜2:8の範囲である[1]から[4]の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
[6]結晶性高分子化合物若しくはその前駆体が芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びこれらの共重合体の一種以上である[1]から[5]の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
[7]繊維形成性高分子化合物が、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの共重合体の一種以上であり、かつ[6]記載の結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と同一化合物である組合せを除いた、[1]から[6]の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
[8][1]から[7]の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法により易分割性繊維束を得た後、該易分割性繊維束中の繊維形成性高分子化合物のみを溶解除去することを特徴とする超細繊維の製造方法。
[9]結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物とを8:2〜2:8の範囲で含み、前記結晶性高分子化合物若しくはその前駆体が軸方向に多数延在していることを特徴とする易分割性繊維束。
[10]直径が0.01μm以上、2μm未満、繊維長が0.01mm以上であり、[8]に記載の超細繊維の製造方法により製造されたことを特徴とする超細繊維。
【発明の効果】
【0014】
本発明の易分割性繊維束の製造方法によれば、繊維直径が著しく小さく、かつ耐熱性、耐薬品性、難燃性等の諸性能も維持された結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維を得ることが可能な易分割性繊維束を製造することができる。
また、本発明の易分割性繊維束によれば、これを分割することにより、繊維直径が著しく小さく、かつ耐熱性、耐薬品性、難燃性等の諸性能も維持された結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維を容易に得ることができる。
さらに、本発明の超細繊維は、繊維長が0.01mm以上で任意にコントロール可能な超細繊維束を容易に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<易分割性繊維束の製造方法>
結晶性高分子化合物若しくはその前駆体(以下「結晶性高分子化合物若しくはその前駆体」を総称して「結晶性高分子化合物等」という場合がある。)と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物と、これらを溶解する有機溶剤とを主成分とする紡糸原液を得る工程と、細孔を通して吐出した紡糸原液を、繊維形成性高分子化合物を固化する凝固液中で固化させて紡糸する工程とを有する。
【0016】
(結晶性高分子化合物)
本発明において、超細繊維の基体としては、芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びこれらの共重合体の一種以上が用いられる。この内、最も代表的な結晶性高分子化合物として芳香族ポリアミドを代表例に本発明を説明する。
まず、芳香族ポリアミド樹脂は、その名の通り芳香族であるベンゼン環がアミド基を介して直鎖状に結合した骨格を有している。このアミド基の結合するベンゼン環の位置により、メタ系芳香族ポリアミド、パラ系芳香族ポリアミドと分類されるが、本発明で使用する芳香族ポリアミド樹脂は特別なものではなく、特に限定はない。
【0017】
芳香族ポリアミド樹脂の製造方法にも特別の制約があるものではない。一般的に行われる方法で得られるが、以下にそれを例示し説明する。
芳香族ポリアミド樹脂は、(a)芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸とを縮合剤存在下で、有機溶媒中で10〜150℃の反応温度で、重縮合させる方法、(b)芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジハライドとを脱ハロゲン化水素剤存在下で、有機溶媒中で60℃以下の反応温度で重縮合させる方法、(c)芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ジアルキレート及び/又は芳香族ジカルボン酸ジアリレートとを、有機溶媒中で100〜300℃の反応温度で重縮合させる方法、である。これらの方法で使用される芳香族ジアミンは、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン及び/又はビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、2−クロルパラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等が用いられる。また、使用される芳香族ジカルボン酸類としては、前記(a)の方法では、芳香族ジカルボン酸が用いられる。例えば、フタル酸、メチルフタル酸類、エチルフタル酸類、メトキシフタル酸類、エトキシフタル酸類、クロロフタル酸類、ブロモフタル酸類、イソフタル酸、メチルイソフタル酸類、エチルイソフタル酸類、メトキシイソフタル酸類、エトキシイソフタル酸類、クロロイソフタル酸類、ブロモイソフタル酸類、テレフタル酸、メチルテレフタル酸類、エチルテレフタル酸類、メトキシテレフタル酸類、エトキシテレフタル酸類、クロロテレフタル酸類、ブロモテレフタル酸類、2,2’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルフィドジカルボン酸、4,4’−ベンゾフェノンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,3−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などがあげられる。これらの芳香族ジカルボン酸は、単独または2種以上混合して用いられる。また、前記(b)の方法では、芳香族ジカルボン酸ジハライドが用いられる。例えば、前記の芳香族ジカルボン酸のジハライド、すなわち芳香族ジカルボン酸ジクロリド、芳香族ジカルボン酸ジブロミドなどがあげられる。これらの芳香族ジカルボン酸ジハライドは、単独または2種以上混合して用いられる。
【0018】
また、前記(c)の方法では、芳香族ジカルボン酸ジアルキルエステル及び/又は芳香族ジカルボン酸ジアリルエステルが用いられる。例えば、前記の芳香族ジカルボン酸のそれぞれ、炭素数1〜10のジアルキルエステル、ジフェニルエステル、ジ(フルオロフェニル)エステル、ジ(クロロフェニル)エステル、ジ(ブロモフェニル)エステル、ジ(メチルフェニル)エステル、ジ(エチルフェニル)エステル、ジ(プロピルフェニル)エステル、ジ(イソプロピルフェニル)エステル、ジ(ブチルフェニル)エステル、ジ(イソブチルフェニル)エステル、ジ(t−ブチルフェニル)エステル、ジ(メトキシフェニル)エステル、ジ(エトキシフェニル)エステル、ジ(ニトロフェニル)エステル、ジ(フェニルフェニル)エステル、ジナフチルエステルなどがあげられる。これらの芳香族ジカルボン酸ジエステルは、単独または2種以上混合して用いられる。
【0019】
上記のジアミン成分と芳香族ジカルボン酸またはその誘導体は、溶媒中で重合させる。使用される溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルメトキシアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホラン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルアミド、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、キノリン、イソキノリン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、トリクロロエチレン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、テトラクロロエチレン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、アセトニトリル、プロピオニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、アニソール、フェネトール、ベンジルエーテル、フェニルエーテル、1,2−ジメトキシエタン、ビス(2−メトキシエチル)エーテル、1,2−ビス(2−メトキシエトキシ)エタン、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ジフェニル、ターフェニル、塩化ベンジル、ニトロベンゼン、2−ニトロトルエン、3−ニトロトルエン、4−ニトロトルエン、クロロベンゼン、2−クロロトルエン、3−クロロトルエン、4−クロロトルエン、o−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、ブロモベンゼン、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、o−クロロフェノール、p−クロロフェノール、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール、水等が挙げられる。また、これらの溶媒は、反応原料モノマーの種類および重合手法により、単独または2種以上混合して使用しても差し支えない。反応原料のモノマーとして芳香族ジカルボン酸ジハライドを用いる場合、通常、脱ハロゲン化水素剤が併用される。使用される脱ハロゲン化水素剤としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、N,N−ジエチルベンジルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジエチルシクロヘキシルアミン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、N−メチルピペリジン、N−エチルピペリジン、N−メチルモルホリン、N−エチルモルホリン、ピリジン、α−ピコリン、β−ピコリン、γ−ピコリン、2,4−ルチジン、2,6−ルチジン、キノリン、イソキノリン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、酸化カルシウム、酸化リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、エチレンオキシド、プロピレンオキシド等が挙げられる。
【0020】
また、反応原料モノマーとして芳香族ジカルボン酸を用いる場合は、通常、縮合剤が用いられる。使用される縮合剤としては、無水硫酸、塩化チオニル、亜硫酸エステル、塩化ピクリル、五酸化リン、オキシ塩化リン、亜リン酸エステル−ピリジン系縮合剤、トリフェニルホスフィン−ヘキサクロロエタン系縮合剤、プロピルリン酸無水物−N−メチル−2−ピロリドン系縮合剤等が挙げられる。
【0021】
反応温度は、重合手法、溶媒の種類により異なるが、通常、300℃以下である。反応圧力は特に限定されず常圧で十分実施できる。
【0022】
反応時間は、反応原料モノマーの種類、重合手法、溶媒の種類、脱ハロゲン化水素剤の種類、縮合剤の種類及び反応温度により異なるが、芳香族ポリアミドの生成が完了するに十分な時間、反応させる。通常、10分〜24時間で十分である。
【0023】
上記芳香族ポリアミド以外にもポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン等の結晶性高分子化合物をもちいることもできるが、これらについても原料、製法など、特に限定されるものではない。
【0024】
(繊維形成性高分子化合物)
本発明に用いる繊維形成性高分子化合物としては、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの共重合体から選択して用いることが好ましい。
特に、二酢酸セルロース及び/又は三酢酸セルロースを用いることが好ましい。二酢酸セルロース及び/又は三酢酸セルロースは有機極性溶媒に溶け易い。そのため、アセトン及び/又は塩化メチレン等の一般的な有機溶剤により溶解除去が可能である。また、繊維とした際の強度が高いため、紡糸を容易に行うことができる利点がある。
なお、繊維形成性高分子化合物は2種以上を混合して使用しても差し支えない。
但し、先に記載の結晶性高分子化合物と同一化合物である組合せを除いたものに限る。
【0025】
(有機溶剤)
紡糸原液を得る工程で用いる有機溶剤は、結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物とを、共に溶解させることが可能な溶剤である。
例えば、繊維形成性高分子化合物として二酢酸セルロース及び/又は三酢酸セルロースを使用する場合、有機溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンを好適に使用できる。また、繊維形成性高分子化合物としてポリアクリロニトリルを用いる場合はジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、N−メチル−2−ピロリドン等を好適に使用できる。その他の繊維形性能高分子化合物についても適宜溶剤を選択すれば良い。なお、2種類以上の混合溶剤を用いることも可能である。
【0026】
(その他の成分)
紡糸原液には、目的に応じて、その他の成分を適宜添加することができる。添加しうる成分としては、分散剤、界面活性剤、顔料、染料、帯電防止剤等が挙げられる。
【0027】
(紡糸原液を得る工程)
紡糸原液における結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物の質量比は、使用目的に応じて繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=8:2〜2:8から任意に選択される。例えば、紡糸の容易さを重視する場合には繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=8:2〜5:5程度が望ましい。
また、別の観点から、易分割性繊維束中の繊維形成性高分子化合物のみを溶解して超細繊維を一本毎に単独で回収する場合は、繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=8:2〜6:4が良く、逆に超細繊維同士が部分的に結着した繊維を得る場合には繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=4:6〜2:8が良い。
すなわち、いずれの形で超細繊維を用いるかに応じて結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物の割合を変えると良い。
結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物の質量比が上記の範囲外に有る場合、本発明に該当する超細繊維を得る事ができない。
繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=8:2より、繊維形成性高分子化合物の含有割合が多い場合では、紡糸原液内に占める結晶性高分子化合物の割合が少ない為、超細繊維が形成されず、粒またはロッド状の結晶性高分子化合物が得られる。また、繊維形成性高分子化合物:結晶性高分子化合物等=2:8より、結晶性高分子化合物の含有割合が多い場合では逆に繊維形成性高分子化合物の割合が少なくなる為、超細繊維となる結晶性高分子化合物は隣接する超細繊維との結着が著しく増加し、内部に繊維形成性高分子化合物を内抱する結晶性高分子化合物の易分割性がない繊維となってしまう。
紡糸原液における有機溶剤の割合は、紡糸原液全体に対して、50〜85質量%であることが好ましい。これにより、結晶性高分子化合物等の超細化が容易になると共に、結晶性高分子化合物等が細切れ状態となることを防止できる。
【0028】
結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物とを有機溶剤に混合溶解する方法についても特に制限はない。
例えば、結晶性高分子化合物を所定の有機溶媒中で合成し、ワニス状としたものに繊維形成性高分子化合物を所定量添加し、溶解させてもよく、所定量の繊維形成性高分子化合物と結晶性高分子化合物等及び有機溶剤を混合容器に入れ、攪拌翼を用いて、100〜10000R.P.Mで30分以上攪拌し続け、混合溶解させてもよい。この時粘度が高く攪拌し難いようであれば、40〜60℃程度に加熱してもよいが、80℃を超える温度で30分間以上攪拌を続けると用いる有機溶剤によっては揮発する問題がある。特に開放状態では有機溶剤が揮発することに伴い濃縮が進むため注意が必要である。
また、結晶性高分子化合物等と繊維形成性高分子化合物とを、各々有機溶剤に溶解したものを混合してもよい。
攪拌して均一に混合溶解が済んだ後、紡糸中の糸切れを防止する意味から、混合液中の超細気泡を減圧または静置脱泡することが望ましい。
また、後述の紡糸工程においても、紡糸装置の原液貯槽内で均一混合状態を維持するために、5〜20R.P.Mで緩やかに攪拌しつづけることが望ましい。
【0029】
(紡糸工程)
本発明では、細孔(ノズル)を通して吐出した紡糸原液を固化させて紡糸する。固化は、繊維形成性高分子化合物を固化する凝固液中で行うことが好ましい。
この場合、紡糸ノズルから一旦、空気や不活性ガス中に紡糸原液を吐出させる乾湿式紡糸法によってもよいが、紡糸原液を、紡糸ノズルから凝固液中に直接吐出する湿式紡糸法が好ましい。これにより、ノズル吐出直後の繊維同士の膠着を防止することができる。
【0030】
凝固液としては、紡糸原液中の繊維形成性高分子化合物に対して固化能を有するものを用いる。凝固液の組成については繊維形成性高分子化合物の種類により異なる。
例えば、繊維形成性高分子化合物として二酢酸セルロース及び/又は三酢酸セルロースを用いる場合には、水又は水とアルコール混合液等が使用可能である。ポリアクリロニトリルを用いる場合にも、水又は水とアルコール混合液が有効である。
【0031】
凝固液に水又は水とアルコールの混合液を用いる場合には塩析、脱水効果により凝固速度を早めるために硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の無機塩類を添加する等の操作も有効である。逆に凝固速度が速過ぎて断糸したり、延伸が困難であったりする場合には、紡糸原液の溶解に用いた溶剤を凝固液に混ぜることなど、一般の湿式紡糸で取られる手法を採用することができる。
凝固液の温度は−5℃から60℃の範囲で希望する固化能になる温度を選択すれば良い。一般に凝固液の温度が高めの方が固化能は高いが、余り高くなると紡糸原液の粘度が下がり超細繊維が細切れになるなどの問題があるため、5℃〜40℃の範囲にすることが望ましい。
【0032】
湿式紡糸法では紡糸原液をギアポンプ等の吐出量を一定に制御する装置を通して紡糸ノズルから凝固液に吐出することで糸條を得ることができる。
その後、凝固液から糸條を引き出す速度は、紡糸ノズルの吐出線速度の1.1倍以上〜500倍未満、好ましくは4倍以上〜100倍未満、更に好ましくは5倍以上〜10倍未満である。固化する繊維形成性高分子化合物の混合比率によってはあまり延伸すると固化の際、繊維形態を保持するのが困難になるため、一般的には高くとも15倍程度までが望ましい。1.1倍未満では繊維同士が膠着し易くなる。
【0033】
乾湿式紡糸法では、湿式紡糸法と同様に紡糸原液をギアポンプ等の吐出量を一定に制御する装置を通して紡糸ノズル吐出するが、ノズルから吐出される紡糸原液を一旦、空気などの気相中を介し凝固液に吐出することで糸條を得ることができる。この時の気相中を通過させる距離(エアギャップ)は用いる紡糸原液の組成、固形分濃度などから適切となるよう実験的に求めればよい。
気相に用いる気体は空気が一般的であるが、窒素やアルゴンなどの不活性気体を用いてもよい。気相の温度についても室温が一般的であるが、脱溶媒を促進させる為に加温してもよい。
乾湿式紡糸法を用いる場合の凝固浴から糸條を引き出す速度は、通常、紡糸ノズルの吐出線速度と等速であるが、湿式紡糸法と同様に数倍に上げてもよい。但し、吐出線速度より速くする場合は、気相通過中に繊維を膠着させないようにコントロールする必要がある。
乾湿式紡糸法、湿式紡糸法の他に、固化を気相中で行う乾式紡糸も可能である。この場合、脱溶媒に用いる気体としては溶媒の沸点以上に加温した空気が一般的である。引火点や着火点が低い溶媒を用いる場合や、酸化が問題となる場合には、窒素やアルゴンなどの不活性気体を用いることが望ましい。
但し、乾式紡糸法は膠着し易くなり、コントロールが難しいことから、湿式、乾湿式紡糸法を用いることが好ましい。
【0034】
(延伸工程)
紡糸工程で得られた糸條をより細繊化するあるいは分子配列を均整化する目的で、乾熱あるいは湿熱で延伸を加えても良い。
湿熱で延伸する場合は、例えば凝固液と同組成の液に浸漬しながら10℃〜80℃の範囲において2.0倍から8.0倍程度に延伸することが望ましい。但し、繊維中に有機溶剤が多く残留する湿式延伸は分子配列の均整効果が低いので、乾式延伸の方が望ましい。
乾熱延伸の場合には200℃〜400℃、好ましくは300℃〜380℃の雰囲気下で2.0倍から8.0倍程度に延伸する方法が挙げられる。この場合、窒素、ヘリウム、炭酸ガス等の不活性ガス中で行うのが一般的である。
ただし、延伸は易分割性繊維束中の結晶性高分子繊維の超細化を促進させるためのものであって絶対条件ではない。従って、紡糸後に敢えて高度の延伸を加える必要はない。
【0035】
(乾燥工程)
紡糸工程後、又は延伸工程後、必要に応じて糸條を加熱し乾燥させる。加熱は100℃〜400℃であるがこれは用いた有機溶剤の種類を勘案して決定すべきである。但し、あまりに高温では繊維形成性高分子化合物が熱分解や融解を起こすため好ましくは300℃以下で出来るだけ短時間で行うことが望ましい。この場合、繊維形成性高分子化合物の酸化を防止する目的で窒素、ヘリウム、アルゴンガス等の不活性ガス中で加熱すること等の処理を行うことができる。
乾燥工程においては糸條同士が膠着しないよう乾燥前に鉱物油、シリコン系若しくはフッ素系などの疎水性油剤を付着させることは効果的である。
【0036】
<易分割性繊維束>
以上の操作により、易分割性繊維束を得ることができる。本発明の易分割性繊維束は、結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物とを8:2〜2:8の範囲で含んでいる。
なお、形態については使用目的に応じて例えばステープル、トウなどを選ぶこともできる。また、超細繊維を得る前に紡績や織布などの加工を加える場合には、クリンプ処理を施すなどの処理を行ってもよい。
【0037】
本発明の易分割性繊維束は、結晶性高分子化合物等が軸方向に多数延在している。本発明では、この延在した結晶性高分子化合物等を、ほぼ途切れることなく繋がった状態とすることが可能である。易分割性繊維束中の超細繊維の繊維長は、用いる結晶性高分子化合物の結晶性、凝固液中での脱溶媒の速度や凝固液から糸條を引き出す速度を適度に調節することで制御することが可能である。なお、脱溶媒の速度は、凝固液の温度、塩類濃度、有機溶媒の濃度によって調節することができる。
本発明によれば、長さが0.01mm以上で、場合によっては数cm以上、途切ることなく繋がった超細繊維を含む易分割性繊維束が容易に得られる。
【0038】
本発明では、易分割性繊維束を裂け易くした状態で物理的に引き裂く方法を採用しておらず、易分割性繊維束は、形成時から分離した超細繊維が一本単位で集合した構造体となっている。その為、本発明の易分割性繊維束は、分割が極めて容易である点が特に優れている。
【0039】
本発明におけるこの独特の易分割性繊維束の形成機構を、発明者らは以下の様に推測した。
本発明の紡糸原液は結晶性高分子化合物と繊維形成性高分子化合物がどちらも溶解する条件で形成されており、従来の超細繊維の製造法にあるような海島型(エマルジョン)の紡糸原液ではない。
このような紡糸原液を紡糸すると、2種類のポリマーが不均一に入り混じった繊維となることが一般的であるが、本発明においては2種類のポリマーの内、1つが高い結晶性を有するポリマーであることから、紡糸ノズルから吐出された紡糸原液は繊維軸方向に強い剪断力がかかり、結晶性高分子化合物が配向、超細繊維を形成していく。
更に凝固液中で紡糸原液溶媒が脱溶媒することで繊維は固定化され、超細繊維束を形成できるものと考えられる。このように固化された繊維の断面は島成分に結晶性高分子化合物、海成分に繊維形成性高分子化合物となるような海島型構造を有している
【0040】
高分子化合物の溶液を高速で攪拌した際に攪拌軸周辺で結晶性の高い析出物が得られるシシカバブ構造が知られているが、本発明の超細繊維製造方法では攪拌軸周辺で生じる剪断力が紡糸原液から吐出される際の剪断力に相当していると考えられる。
【0041】
また、隣接した超細繊維が接着することなく超細繊維束を形成する理由としては剪断力による結晶配向の際に結晶の凝集が起り、結晶性高分子化合物は繊維軸状に沿って結晶化していく。ここで紡糸原液は凝固液中に押出されることで脱溶媒により固化が急速に進み、高分子の結晶は超細繊維状に固定化、さらに繊維形成性高分子化合物が超細繊維の間に存在することで隣接した超細繊維が接着することなく超細繊維束が形成されると考えられる。
【0042】
このような機構により、結晶性高分子化合物の結晶性が高いほど、配向性が高く、超細で繊維長の長いものが形成される。逆に芳香族ポリアミド樹脂においても分子鎖内にアルキル鎖などの結晶性の低い構造を導入することで結晶性を低下させた高分子化合物においては配向性の低下から、繊維径は太くなり、高分子鎖は凝集力が強くなる為、繊維長は短くなると考えられる。
【0043】
本発明者らは多数の要因を組み合わせた実験を通じ、結晶性高分子化合物等の結晶性(アルキル鎖の導入量)の違いにより、超細繊維の繊維経、繊維長がことなることを見出した。さらに、結晶性高分子化合物等と繊維形成高分子化合物の配合比に関して以下の知見を得た。
【0044】
結晶性高分子化合物が繊維形成性高分子化合物の75%以上の体積分率を有する条件では剪断力により配向した結晶性高分子超細繊維間に十分な量の繊維形成性高分子化合物がなく、隣接する超細繊維接着し、易分割性が低下する。
【0045】
結晶性高分子化合物が75%以下の体積分率を有する条件では超細繊維間に十分な量の繊維形成性高分子化合物が存在する為、隣接する超細繊維の接着をなくすことができ、易分割性を有する繊維束を製造できる。
【0046】
但し、易分割性の低下したものにおいては、繊維形成性高分子化合物を除去することで隣接した超細繊維同士が接着した繊維を得ることができる。
【0047】
<超細繊維の製造方法>
易分割性繊維束から超細繊維を得るためには、易分割性繊維束を繊維形性高分子化合物のみを選択的に溶解する溶媒に浸漬する等により、繊維形性高分子化合物を溶解除去する。
【0048】
繊維形性高分子化合物のみを選択的に溶解する溶媒は、用いた繊維形性高分子化合物によって、適宜選択する。
例えば、用いた繊維形性高分子化合物が二酢酸セルロースの場合にはアセトンが好適であり、三酢酸セルロースの場合には塩化メチレンが好適である。またポリアクリロニトリルの場合にはジオキサンやチオシアン酸ナトリウム水溶液などが好適である。
繊維形性高分子化合物を溶解除去して超細繊維を得る操作は、易分割性繊維束を得て直ちに行っても良く、一旦易分割性繊維束のままで紙、不織布、糸、織物などに加工した後に行っても良い。
超細繊維を一本毎に単独で回収する場合は、易分割性繊維束から直ちに繊維形性高分子化合物を溶解除去して超細繊維を回収する方法が望ましい。
一方、超細繊維同士が部分的に結着した繊維を得る場合は、易分割性繊維束のまま紙、不織布、糸、織物などに加工を加えた後、不要な繊維形性高分子化合物を溶解除去する方法が有効である。この場合、加工物を単に溶媒に浸漬する処理だけでは期待するようなフィブリル化度が得られないのであれば、物理的な叩解力を加えたり、表面を摩擦させて起毛させたりする等の補助的な処理を行うことが望ましい。
【0049】
<超細繊維>
以上の操作により、結晶性高分子化合物を主成分とする超細繊維を得ることができる。本発明の超細繊維は、繊維長が0.01mm以上であることが好ましい。
上述のように、本発明によれば、長さが数cm以上の超細繊維集合体が容易に得られる。従って超細繊維束を予め所望の長さにカットすることで目的の繊維長の超細繊維を得ることが可能である。
本発明者らの実験によれば、繊維長が10mmを超えるような超細繊維はハンドリング途中で絡まりが発生し、もはや容易には解すことは出来ず、実用上使用が困難である。0.01mm以上、10mm未満、特に0.05mm以上2mm未満の範囲の繊維長とすることがあらゆる用途に対して適切である。
【0050】
本発明の超細繊維はまた、直径が0.01μm以上、2μm未満であることが好ましい。
直径がこの範囲であれば、従来不可能であった高密度で薄い紙に加工することや、織物、不織布などの用途への利用が可能となる。
超細繊維の直径は、結晶性高分子化合物の結晶性、延伸倍率の大きさ等により調整することができる。
【0051】
本発明の超細繊維は、結晶性高分子化合物において良好であった諸性能を殆ど低下させることなく超細化されている。そのため、紙、不織布、紐や織物等を始め、各種フィルター類や電解コンデンサーや電気二重層キャパシタ用セパレーター、電子部品用被覆材や同接着剤の補強材、ゴム、セメント等の補強材等、特に高い耐熱性や耐薬品性、電気特性、摺動特性、寸法安定性や放射線安定性などが要求される用途で使用可能である。
【0052】
例えば電解コンデンサー用のセパレーターとして用いる場合には、(1)セパレーターの殆どの面積が電流の通路となるように空隙断面積が大きいこと、(2)セパレーターができる限り薄いこと、(3)セパレーターの構成繊維ができる限り円柱状であること、(4)セパレーターの構成繊維径ができる限り小さいことが要求される。本発明の超細繊維は、これらの条件を容易に満たすことができる。
本発明によれば、超細繊維の繊維長を0.01mm以上とすることができるので、特別なバインダーを用いることなく繊維間の交絡を充分に得ることができる。そのため、高い強度と良好な取り扱い性が得られる。また、極めて薄く均一な厚みで成形することが可能であり、空隙の発生や破れも防止できることから、電極間の接触による内部ショートを効率的に防止できる、
また、セパレーターの占有体積削減による極板面積の向上と静電容量増加につながる。更に、優れた低tanδ化は高周波への対応も可能とするものであり、また発熱を防止するなど極めて有効な効果をもたらす。
【0053】
別の例ではビルトアップ方式による多層プリント配線板で多用されてきたガラス織布基材エポキシ樹脂プリプレグに替えて、本発明の超細繊維を用いることができる。この場合、強度、低誘電率、低比重がもたらすプリプレグの薄化が可能となり、プリント配線基板の剛性向上、製造時や部品実装時における基板の折損防止等の効果が得られる。また、プリプレグの表面平滑性向上に伴う高密度ファインライン化も可能である。プリプレグに使用する場合にも、超細繊維は、直径が0.01μm以上、2μm未満で、繊維長が0.01mm以上、10mm未満であることが好ましい。
【0054】
また、フィルターとして本発明の超細繊維を用いると、優れた耐熱性、耐蒸熱性、耐酸性を兼ね備えたフィルターとすることができる。そのため、例えは石炭ボイラー、ゴミ焼却炉、金属溶鉱炉、あるいはディーゼル自動車などから排出される高温ダストなどを集塵するためのフィルター用濾材として好適である。
従来より繊維径がサブミクロンの各種耐熱性繊維を用いたフィルターが存在していたが、強度を補うためにバインダーを用いる例が多かった。本発明の超細繊維はバインダーを要しないこと、繊維径が超細なことから、従来の耐熱性フィルターと比較して優れたろ過精度を得ることができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
脱水したN−メチル−2−ピロリドンに85モル%に相当する2−クロルパラフェニレンジアミンと15モル%に相当する4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを溶解させ、これに98.5モル%に相当する2−クロルテレフタル酸クロリドを添加し、10時間撹拌により重合後、炭酸リチウムで中和を行い、ポリマー濃度が11重量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。これを60Torrにおいて180℃に加熱し、余分なN−メチル−2−ピロリドンを揮発させ、ポリマー濃度が15重量%の芳香族ポリアミド溶液を得た。
これとは別に酢化度55%、重合度120の二酢酸セルロース150gを850gのN−メチル−2−ピロリドンに入れ常温で約1時間攪拌した後、更に60℃に昇温し、30分の攪拌混合を行い完全に溶解したことを確認し、冷却して二酢酸セルロース溶液(固形分15%)を得た。
この二酢酸セルロース溶液と前述の芳香族ポリアミド樹脂溶液を固形分の質量比が二酢酸セルロース:芳香族ポリアミド樹脂=6:4になるように加え、攪拌し紡糸原液を得た。
次にこれを孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N−メチル−2−ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が2〜3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い易分割性結晶性高分子繊維束を得た。
【0057】
(実施例2)
実施例1で得た易分割性結晶性高分子繊維束を20mmにカットした後、一部をガラス容器に入れた常温のアセトンに漬け、更にマグネチックスターラーで攪拌を行った。10分間の攪拌の後、約10分間静置したところ容器の底に超細な繊維が沈降した。上澄みのアセトンを除き、新たにアセトンを加え更に10分間の攪拌と約10分間静置を行った。この操作を合計5回繰り返した後、容器の底から採取した超細繊維を走査型電子顕微鏡で観察したところ、繊維径50nm〜500nm、平均繊維長が20mmの超細結晶性高分子繊維であることを確認した。超細繊維の中から走査型電子顕微鏡で確認しながら繊維径200〜500nmの繊維を選別し、引張強度、引張伸度、耐熱性、及び難燃性(LOI値)を測定した。20本の繊維について測定し、平均を求めた結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
実施例1で得た芳香族ポリアミド樹脂溶液(固形分濃度を15%)と二酢酸セルロース溶液(固形分15%)を固形分の質量比が二酢酸セルロース:芳香族ポリアミド樹脂=3:7になるように加え、小型ホモジナイザーで攪拌し均一な微黄色透明混合液を得た。
次にこれを、孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N−メチル−2−ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が2〜3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。
巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い易分割性結晶性高分子繊維束を得た。
【0059】
(実施例4)
実施例3で得た易分割性結晶性高分子繊維束の一部を3mmにカットしながら、ガラス容器中の常温アセトンに漬け、更にマグネチックスターラーで攪拌を行った。10分間の攪拌の後、約10分間静置し、上澄みのアセトンを除き、新たにアセトンを加え更に10分間の攪拌と約10分間静置を行った。この操作を合計5回繰り返した後、繊維束を取り出し、流水中で洗浄を行った。
次いで、これを水中でリファイナーにて叩解してこの叩解液の沈降物を走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、繊維径50nm〜500nmの結晶性高分子超細繊維が繊維軸方向に集束してなり、隣接する超細繊維が接着した繊維が得られていることを確認した。
【0060】
(実施例5)
実施例1と同様の紡糸原液を用いて、孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、200℃に加温した窒素中1mを通過させた後、N−メチル−2−ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が1〜1.5になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い易分割性結晶性高分子繊維束を得た。
【0061】
(実施例6)
実施例5で得た易分割性結晶性高分子繊維束を20mmにカットした後、一部をガラス容器に入れた常温のアセトンに漬け、更にマグネチックスターラーで攪拌を行った。10分間の攪拌の後、約10分間静置したところ容器の底に超細な繊維が沈降した。上澄みのアセトンを除き、新たにアセトンを加え更に10分間の攪拌と約10分間静置を行った。この操作を合計5回繰り返した後、容器の底から採取した超細繊維を走査型電子顕微鏡で観察したところ、繊維径50nm〜500nm、平均繊維長が20mmの超細結晶性高分子繊維であることを確認した。超細繊維の中から走査型電子顕微鏡で確認しながら繊維径200〜500nmの繊維を選別し、引張強度、引張伸度、耐熱性、及び難燃性(LOI値)を測定した。20本の繊維について測定し、平均を求めた結果を表1に示す。
【0062】
(実施例7)
市販のポリフッ化ビニリデン樹脂150gにN−メチル−2−ピロリドン850gを加え、80℃に加熱しながら1時間攪拌し、完全に溶解したことを確認した後、冷却し、固形分濃度15重量%のポリフッ化ビニリデン溶液を得た。
これに実施例1と同様の二酢酸セルロース溶液を固形分の質量比が二酢酸セルロース:ポリフッ化ビニリデン=6:4になるように加え、攪拌し紡糸原液を得た。
次にこれを孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N−メチル−2−ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が2〜3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い易分割性結晶性高分子繊維束を得た。
【0063】
(実施例8)
実施例7で得た易分割性結晶性高分子繊維束を20mmにカットした後、一部をガラス容器に入れた常温のアセトンに漬け、更にマグネチックスターラーで攪拌を行った。10分間の攪拌の後、約10分間静置したところ容器の底に超細な繊維が沈降した。上澄みのアセトンを除き、新たにアセトンを加え更に10分間の攪拌と約10分間静置を行った。この操作を合計5回繰り返した後、容器の底から採取した超細繊維を走査型電子顕微鏡で確認したところ、繊維径200nm〜1000nm、繊維長が0.01mm〜20mmの超細結晶性高分子繊維であることを確認した。超細繊維の中から走査型電子顕微鏡で確認しながら繊維径800〜1000nmの繊維を選別し、引張強度、引張伸度、耐熱性、及び難燃性(LOI値)を測定した。20本の繊維について測定し、平均を求めた結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1)
実施例1で作成した結晶性高分子化合物溶液(固形分15%)のみを孔径0.1mm、ホール数80の紡糸口金から一定吐出量を保ちながら、N−メチル−2−ピロリドン濃度10wt%、25℃の水溶液中に押出した。水溶液中で延伸倍率が2〜3になるよう巻取りローラーの回転数を調整した。なお、水溶液中の浸漬時間は約60秒であった。
巻き取った糸條は緊張状態を保ったまま室温で5分間の風乾を行った後、窒素雰囲気下250℃で20分の乾燥を行い結晶性高分子繊維を得た。
この繊維の引張強度、引張伸度、耐熱性、及び難燃性(LOI値)を測定した。20本の繊維について測定し、平均を求めた結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
表1における評価結果は、以下の方法で得た。
引張強度・引張伸度:JIS R−7601に準拠しオリエンテック社製テンシロンRTM25引張試験機を使用して評価した。
耐熱性 :空気中100時間暴露後の強力保持率で評価した。
難燃性(LOI値):JIS K 7201に記載の方法に従って、繊維の難燃性を測定した。
【0067】
比較例1は一般的な結晶性高分子繊維であり、良好な強伸度特性、耐熱性、難燃性を有している。一方、本発明による実施例1では比較例1とほぼ同等の性能を有していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物と、これらを溶解する有機溶剤とを主成分とする紡糸原液を得る工程と、細孔を通して吐出した紡糸原液を固化させて紡糸する工程とを有することを特徴とする易分割性繊維束の製造方法。
【請求項2】
紡糸工程が、細孔を通して吐出した紡糸原液を、繊維形成性高分子化合物を固化する凝固液中で固化させて紡糸する工程である請求項1に記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項3】
紡糸原液を、細孔から凝固液中に直接吐出する湿式紡糸法により得られる請求項1又は請求項2に記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項4】
紡糸原液を、細孔から凝固液中にエアギャップを設けて吐出する乾湿式紡糸法により得られる請求項1又は請求項2に記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項5】
結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、繊維形成性高分子化合物との質量比が、8:2〜2:8の範囲である請求項1から請求項4の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項6】
結晶性高分子化合物若しくはその前駆体が芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン及びこれらの共重合体の一種以上である請求項1から請求項5の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項7】
繊維形成性高分子化合物が、二酢酸セルロース、三酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリビニルブチラール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミド、ポリフッ化ビニリデン及びこれらの共重合体の一種以上であり、かつ請求項6記載の結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と同一化合物である組合せを除いた、請求項1から請求項6の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7の何れかに記載の易分割性繊維束の製造方法により易分割性繊維束を得た後、該易分割性繊維束中の繊維形成性高分子化合物のみを溶解除去することを特徴とする超細繊維の製造方法。
【請求項9】
結晶性高分子化合物若しくはその前駆体と、少なくとも1種類以上の繊維形成性高分子化合物とを8:2〜2:8の範囲で含み、前記結晶性高分子化合物若しくはその前駆体が軸方向に多数延在していることを特徴とする易分割性繊維束。
【請求項10】
直径が0.01μm以上、2μm未満、繊維長が0.01mm以上であり、請求項8に記載の超細繊維の製造方法により製造されたことを特徴とする超細繊維。

【公開番号】特開2009−7702(P2009−7702A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−169836(P2007−169836)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【出願人】(000165000)群栄化学工業株式会社 (108)
【Fターム(参考)】