結核ワクチン
本発明は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、PhoP−表現型を付与する遺伝子Rv0757の不活性化と、DIM(DIM−表現型)の産生を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。さらに、本発明は、結核に対し免疫を与えるまたは結核を予防するワクチンを製造するための該微生物の使用を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、PhoP−表現型を付与するRv0757遺伝子の不活性化と、DIM産生(DIM−表現型)を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。さらに、本発明は、結核の免疫付与または予防のためのワクチンの調製のための前記微生物の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
ヒトの結核を阻止するためにワクチンを使用することは、大きな挑戦であることが、このほぼ一世紀の間で証明されてきた。ウシ結核菌から誘導されるBCGは、現在、使用されている唯一の結核ワクチンであり、世界中で最も広く使用されているワクチンである。1920年代から始まったBCGワクチンの開発および全身投与は、大きな前進を見せ、世界から結核を撲滅する可能性があるように見えた。しかし、これらの最初の期待は達成されず、数多くの有効性試験の結果から、現在の形態でのBCGワクチンでは、該疾患、特に該疾患が風土病である[4]第三世界の地域の成人における呼吸形態における制御においては、有用性に限界があることが明らかである。ヒト結核菌の毒性および感染防御免疫を発生させる免疫応答モデルのより多くの知識があれば、BCGより良好なワクチンを開発することが可能である。ホストにBCGワクチンを接種した場合、より高い予防レベルを達成できるという観察は、生存能力および持続性が、結核ワクチンの成功に必要な基本的な性質であることを示唆する。本発明において我々は、原型単回投与生ワクチンとして、不活性化したRv0757(phoP)遺伝子を有するヒト結核菌株と、DIM合成を阻止するphoPの第二非依存性突然変異体とを使用し、免疫無防備状態のSCIDマウスにおいてBCGより弱毒化されているとともに、マウスにおいてBCGにより付与される予防レベルに匹敵し、モルモットにおいてはBCGより高い予防を付与することを示す。
【0003】
phoRを伴うphoP遺伝子は、細胞内病原体の主要な病原遺伝子の転写を制御する他の2成分系に対し高度な類似性を示す2成分系の一部を形成する。また、これは、病原性には直接関与しない他の多くの遺伝子の発現も制御する[19]。病原性遺伝子の削減、それ自体が、ヒト結核菌を弱毒化する唯一の方法ではないようである。パントテン酸のデノボ合成が不可能なヒト結核菌のパントテン酸塩栄養要求性突然変異体は、疾患を起こすことなく、SCIDマウス中に存続することが示された[17]。個々のロイシン栄養要求株も、SCIDマウスでは、生体内で強く弱毒化され、複製が不可能である[28]。したがって、ヒト結核菌に基づくワクチン株は、ウシ結核菌BCG中で抑制されている遺伝子を保持しながら、うまく弱毒化できるという原理は、現在では一般的に受け入れられている。
【0004】
従来、BCGより効果的なワクチンの研究は、BCGによる病原性の喪失が、本質的に、完全な予防効果の欠如に関与する要因であるという考えに基づいていた[32]。したがって、より小さな病原性を有するヒト結核菌の新しい弱体化突然変異が、ワクチンとしてより効果的ではないかと論じられていた。しかし、最近の研究では、ヒト結核菌による自然感染とBCGのワクチン接種とでは、結核に対する感染防御免疫を作り出す能力において違いがないことが示されている[34]。これは、ヒト結核菌の合理的な弱毒化によりBCGを改良することができるかどうかということに関し、問題を提起する。このような状況下、1.−PhoPタンパク質の合成における、および2.−DIM合成における2つの非依存性突然変異の組合せを有する本発明の突然変異ヒト結核菌株は、たとえBCGの用量より10倍高い濃度で投与しても、SCIDマウスモデルにおいて、BCGより弱毒化され、かつモルモットモデルにおいて、BCGより予防の程度が高いという観察は、特に予期しえぬ重大なことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、Rv0757(phoP)遺伝子の不活性化と、DIM(フィチオセロールジマイコセロセート)産生を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。以下、この単離された微生物を、本発明の微生物と言う。
【0006】
本発明の第二の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、Rv0757(phoP)遺伝子と、DIM産生を阻止するphoPの第二非依存性突然変異体とを不活性化することを含むことを特徴とする微生物に関する。本発明の好ましい態様では、前記第二の突然変異体は、DIM合成に必須であるfadD26遺伝子の削減からなるRv2930(fadD26)遺伝子中にある。
【0007】
本発明の第三の態様は、動物の結核を予防する、さらにより好ましくはヒトの結核を予防するワクチンを調製するために、本発明の単離された微生物を使用すること、ならびに結核ワクチンが膀胱癌のようなヒトの疾患の治療において現在有している他の用途に使用することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内容において、以下、「ヒト結核菌SO2株」は、単離されたヒト結核菌株の微生物であって、Pelicicらが記載する方法(1997)(Efficient allelic exchange and transposon mutagenesis in Mycobacterium tuberculosis.Proc Natl Acad Sci USA94:10955−10960)による相同組換えを使用して、ヒト結核菌のRv0757遺伝子のBcll部位に、カナマイシン耐性マーカーの導入により、ヒト結核菌MT103臨床株から構築されたRv0757遺伝子によって不活性化された微生物を言うために使用し、これはさらにDIM(フィチオセロールジマイコセロセート)産生を阻止する第二遺伝子の不活性化も含む。したがって、本発明の該菌株は、ヒト結核菌から誘導された弱毒化生ワクチン中に2つの非依存性突然変異が存在し、個々のphoP突然変異は、前記遺伝子の不活性化より誘導されたワクチンの特性に影響を及ぼさない。実施例9には、ヒト結核菌SO2株に関して記載したのと同じ表現型を付与する個々の二重突然変異体を持つ、単離されたマイコバクテリア属の微生物をどのように構築するかが記載されている。
【0009】
以下、本発明の内容において、ワクチンは、投与により阻止すべき疾患に対する予防を作り出す薬物を言うために使用する。
【0010】
以下、本発明の内容において、BCGは、1921年以来結核に対して使用されている現在のワクチンを言うために使用する。これは、研究室で継代培養された後、その病原性を喪失したウシ結核菌株から誘導される弱毒化生ワクチンであり、百を超える欠損遺伝子を有することが現在わかっているものである(5)。
【0011】
以下、本発明の内容において、H37Rvは、配列が決定されている病原性ヒト結核菌株を言うために使用し、Coleらにより、これらの遺伝子はRvと称されている(Coleら、1998 Deciphering the biology of Mycobacterium tuberculosis from the complete genome sequence.Nature393:537−544参照)。
【0012】
以下、本発明の内容において、MT103は、ヒト結核菌臨床分離株を言うために使用する(参考文献15Camachoら)。
【0013】
以下、本発明の内容において、DIM−菌株は、ヒト結核菌の病原性に関連する重要な脂質である、フィチオセロールジマイコセロセートを合成することができないヒト結核菌複合体の菌株を言うために使用する。図11では、1A29菌株が使用され、これは、参考文献15(Camachoら、1999 Identification of a virulence gene cluster of Mycobacterium tuberculosis by signature−tagged transposon mutagenesis.Mol Microbiol34:257−267)に記載のトランスポゾン1096によって不活性化されたRv2930(fadD26)遺伝子を有するMT103菌株で構成される。
【0014】
以下、本発明の内容において、SO2+pSO5は、Rv0757における突然変異が、マイコバクテリアphoP遺伝子を有する複製プラスミドの形質変換により、Rv0757遺伝子によって補完されるが、DIM合成を補完することはできないヒト結核菌SO2株を言うために使用され、その表現型はphoP+DIM−である。
【0015】
以下、本発明の内容において、ヒト結核菌phoP−は、EcoRV−BspEl部位の間での削除により、Rv0757遺伝子によって不活性化されているヒト結核菌株を言うために使用され、その表現型は、phoP−DIM+である。
【0016】
以下、本発明の内容において、Rv2930(fadD26)は、フィチオセロールジマイコセロセートの合成(参考文献15、Camachoら、1999年)の原因であるオペロンの初期に存在する遺伝子を言うために使用し、ヒト結核菌中のこの遺伝子の削減により安定なDIM−表現型が付与される。
【0017】
本発明の一態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、PhoP−表現型を付与するRv0757遺伝子の不活性化と、DIM産生(DIM−表現型)を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。さらに、本発明は、結核を予防するためのワクチンの調製における該微生物の使用、およびワクチン自体をも含む。
【0018】
本発明を通して、いかにして、単離されたマイコバクテリア属のphoP−DIM−菌株を、それらが獲得する弱毒化のレベルおよびそれらが付与する予防のレベルに基づき、ワクチンとしての使用に特に適切にされた特徴を有するようにするかを示す。
【0019】
弱毒化を確認するために、免疫機能が低下したSCIDマウスに、SO2(phoP−DIM−)菌株を噴霧によって接種した。該マウスは、野生型菌株を感染させたマウスより有意に長く生存する(図2a)。さらに、この弱毒化を、SO2+pSO5(phoP+DIM−)菌株においてphoPで補完する(図8a)。
【0020】
さらに、弱毒化試験を、静脈注射による免疫適格Balb/Cマウスで行う場合(図7)、野生型MT103菌株に対して、SO2の明らかな弱毒化があるが、驚くべきことに、SO2+PSO5(phoP+DIM−)菌株は、免疫適格マウスに関し、野生型菌株と同じように毒性であるため、この弱毒化は、phoPで補完されない。SO2(DIM−、phoP−)菌株をDIM−菌株のみと比較したBalb/Cマウスでの生存試験は、SO2に関して驚くほど高い生存率を示す(図11)。
【0021】
静脈内投与感染されたSCIDマウスにおけるSO2およびBCGの比較生存試験は、SO2菌株の弱毒化のレベルが、BCG、すなわちヒトの結核に対して現在使用されているワクチンのレベルより高いことを示す(図2b)。BCGワクチンのバッチ用の品質制御で使用されるワクチン50倍の用量を用いたモルモットの毒性試験は、6ヶ月の試験の間、モルモットの体重は増加し、結核と共存する肉眼的または顕微鏡的に見える組織学的病変が存在しないことを示し、これにより、SO2の弱毒化および非毒性が確認される(図12)。この驚くべき弱毒化および毒性の欠如は、PhoP−DIM−表現型に起因し、またこれらの突然変異体は、抗結核薬に対する感応性を残し、従来の治療を可能にする。
【0022】
本明細書では、Balb/cマウスで行われるワクチン接種実験において、本発明のヒト結核菌SO2株およびBCGにより付与された予防のレベルが、感染から4週間後まで、肺および脾臓の両方において類似していることを示す。ワクチン接種されたマウスの脾臓からのCD4+細胞およびCD8+細胞の相対比率を比較すると、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたマウスは、BCGワクチンを接種されたマウスに比べ、CD4+細胞およびCD8+細胞の両方で比率が高いことがわかった。さらに、これらの細胞を培養ろ液から誘導した抗原で刺激すると、ワクチン接種から45日および60日後に、本発明のSO2菌株のワクチンを接種したマウスで、CD4+/IFN−γ+の有意により高い比率が測定された。各時点では有意ではないが、類似の傾向がCD8+/IFN−γ+について、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたマウスで測定された。IFN−γ合成によって測定されたデータは、本発明のSO2菌株のワクチン接種が、BCGワクチン接種に比べて、より良好にT細胞を活性化する結果となることを示唆する。ヒト結核菌に対する防御免疫は、一般的に、抗原の特異的T細胞からのIFN−γの分泌を特徴とするTH1−型細胞性免疫応答の発生に依存すると仮定すると、本発明のSO2菌株により誘発された比較的高いレベルのT細胞活性は、強い保護的応答を付与する能力に寄与すると結論付けることができる。
【0023】
さらに、SO2と比較したBCGの予防における差を試験するために、異なるシステム、試験モデルおよび種々の条件を使用して、マウスモデルの相対的能力の提示を行った。2種類のワクチン、SO2(phoP−DIM−)およびBCGが、マウスのモデルに予防を付与することが示された。
【0024】
モルモットを使用して、より重大で、徐々により厳しくなる臨床試験でワクチンを比較する方法を用いた。このワクチンを比較する体系的なアプローチは、さらにトライアルを行うべき、一番の候補ワクチンを識別するために、有用な出発点を示すことができた。モルモットは、結核による感染に対し、より感受性があり、したがって、この疾患に関してより重要なモデルとなり得ることは、一般的に認められている[30]。マウスと比べたモルモットの長所は、疾患の病理が、ヒトの結核で観察される病理と類似し、したがって、ワクチンの効能を試験するために適正なモデルであることである。ヒト結核菌の二重パントテン酸塩およびロイシン栄養要求株突然変異体を用いた最近の噴霧ワクチン試験において、ヒト結核菌の噴霧投与の5週間後、ウシ結核菌BCGに等しい予防レベルが、ワクチン接種されたモルモットの肺および脾臓で得られるとともに、両ワクチンにより誘発された脾臓への感染の拡大が制限されていた[34]。ESAT−6を発現した組換えBCGを使用した他の試験では、ウシ結核菌BCGより高い予防レベルが、脾臓でのみ観察され[6]、これは、予防の改善は、肺からの拡大による感染を阻止する能力に限定されることを示唆する。
【0025】
この感染を起こすために、モルモットに、低用量のヒト結核菌H37Rvを接種した。本発明のSO2菌株およびBCGのワクチン接種によって付与された予防レベルは、感染から4週間後まで、肺および脾臓において類似していた。両ワクチンとも、非常に効果的な予防を付与し、肺および脾臓において、生理食塩水を投与された対照群に比べ、約2log、CFUを減少させた。しかし、該2つのワクチン群の間に統計学的は有意差はなかった。感染後このような短期間では、BCGより新しいワクチンがより大きな効能があることを証明するのは困難であることが推定できる。これは、今のところ、BCGのワクチンを接種された動物の器官のCFU(コロニー形成単位)は非常に低いため、試験には、CFUの有意な更なる減少を示すための差別化能力はないという事実による。モルモットを用いる他の生存試験では、BCGワクチン接種は、ワクチン接種されていない対照(あるいは無効ワクチンを接種された)と比べて、統計的に有意な予防を示しているが、この予防は、低用量のヒト結核菌を使用した攻撃感染に対する部分的なものにすぎない。感染から60〜80週間後の間に実施された低用量の投与に関する試験では、BCGを用いた対照の中には、どのモルモットも保護しなかったものもあり[35]、また他には、低い割合(20%と30%との間)で動物を保護したものもあった[36][37]。一方、高用量の投与は、TBワクチンの予防効果を評価するために通常使用される疾患より重い疾患を引き起こすかもしれない。
【0026】
本発明では、比較的高用量のヒト結核菌H37Rvの噴霧感染を用い、試験期間を180日間に延長した。我々は、本発明のSO2菌株の潜在的な予防効果を示すことができる、より厳しいレベルの攻撃感染を生み出すと同時に、BCGに関して差別化のレベルを上げるために、これを実施した。生存の点から見ると、BCGワクチンを接種された群の動物は、ワクチン接種されていない対照と比べ有意に保護され、我々の試験で使用された比較的高用量の感染であるにもかかわらず、それらは、他の試験で観察された全体予防レベルと類似のレベルを示した。さらに我々は、本発明のSO2(phoP−DIM−)菌株の予防効果は、生存期間の延長および肺病変の硬化の程度を始めとする数種の標識によって測定し、BCGと比べて統計的に有意な増加があることも発見した。疾患のこのそれほど重症でない形態が、本発明のSO2菌株をワクチン接種された動物のより高い生存率に直接関与している可能性がある。
【0027】
本発明において記載する結果は、phoP−DIM−表現型を有するSO2菌株、したがってマイコバクテリア属に属する微生物(特に、ヒト結核菌複合体からの)が、数多くの判定基準に従って、BCGより効果的なワクチンであることを示す。それは、SCIDマウスにおいて、BCGより弱毒化されており、少なくともBCGと同程度に良好な防御免疫を持つマウスを提供し、より強い細胞性免疫応答を生み出す。さらに、H37Rvの高用量感染に対するモルモットで実施された予防実験において、表現型DIM−phoP−を有する菌株は、BCGでは33%の生存率しか達成されなかった状況下で、モルモットの100%の生存率をもたらす。この予防は、疾患の重篤度および細菌量の減少に結び付けられる。
【0028】
SO2(phoP−DIM−)の予防レベルがphoP突然変異によるものか、あるいはDIMにおける更なる突然変異によるものかを調べるために、別のワクチン接種実験を、高用量の感染を受けたモルモットで実施した。6匹の動物群に、BCG、SO2(PhoP−DIM−)およびヒト結核菌phoP−DIM+のワクチンを接種し、対照として使用した6匹の動物にはワクチンを接種しなかった。実験は400日間続けた。
【0029】
この他の実験で、ワクチン接種されなかったモルモットは、70日目の前に死亡した。感染から300日後、BCGおよびphoP−D1M+のワクチンを接種された3匹のモルモットが死亡したが、SO2のワクチン接種を受けた群では1匹だけ死亡し、phoP−DIM+突然変異によって付与された予防は、現在のワクチンのBCGに類似していることを示唆した。一方、SO2、二重phoP−およびDIM−突然変異のワクチン接種は、モルモットモデルにおいてより良好に予防する(図13)。400日後、SO2のワクチンを接種された群中の3匹のモルモット(図14a)が生存し、一方、BCGのワクチンを接種されたモルモット(図14aおよび図14b)およびphoP−DIM+を接種されたモルモット(図14b)は、1匹しか生存せず、phoP−DIM+突然変異の予防はBCGに類似することを示唆した。一方SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異のワクチン接種は、400日間の実験後より良好に予防し、BCGより大きな予防の驚くべき効果は、phoP−突然変異ばかりでなく、SO2二重突然変異体、phoP−DIM−にも起因していた。
【0030】
したがって、本発明の第一の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、
a.phoP遺伝子、あるいはphoP遺伝子を制御するまたはphoPによって制御される1種以上の遺伝子と、
b.DIM産生を阻止する第二遺伝子と
の不活性化または除去を含むことを特徴とする微生物に関する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、phoP遺伝子が、Rv0757遺伝子の不活性化または除去によって不活性化されていることを特徴とする。
【0032】
本発明のより好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、DIM産生が、Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されていることを特徴とする。
【0033】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、Rv2930遺伝子およびRv0757遺伝子の除去または不活性化を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の他の実施形態では、本発明の単離された微生物は、マイコバクテリア属の種が、ヒト結核菌複合体に属することを特徴とする。
【0035】
本発明の第二の態様は、本発明の単離された微生物を調製する方法であって、
a.phoP遺伝子、あるいは1種以上のphoP遺伝子を制御する遺伝子の不活性化または除去、好ましくはRv0757遺伝子の不活性化または除去と、
b.DIM産生を阻止する第二遺伝子の不活性化または除去と、好ましくはRv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化と、
を含む方法に関する。
【0036】
本発明の第三の態様は、結核によって引き起こされた症状に対して、個体に免疫付与するワクチン(以下、本発明のワクチン)であって、少なくとも本発明の単離された微生物を含むワクチンに関する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、ワクチンは、薬理学的に許容し得る賦形剤も含む。
【0038】
本発明の第四の態様は、医薬品、好ましくはワクチンを調製する方法であって、本発明の単離された微生物の治療に効果的な用量を、ヒトまたは動物における投与に適切な媒体に導入することと、ワクチンの産生に関し薬理学的に適切な賦形剤を選択的に添加することとを含む方法に関する。
【0039】
前記医薬品は、膀胱癌の治療、結核の治療または予防、あるいはベクターまたはアジュバントとして適切なものである。結核によって引き起こされる症状に対して、個体に免疫付与することが好ましい。
【0040】
本発明の第五の態様は、ヒトまたは動物における結核の予防および/または治療のための本発明のワクチンを調製するための、本発明の単離された微生物の使用に関する。
【0041】
明細書および請求項の全体を通して、用語「含む」およびこの変形表現は、別の技術的特長、添加物、成分またはステップの排除を意味するものではない。当業者には、明細書から、および本発明を実践する場合、本発明の他の目的、長所および特徴が一部生じるであろう。以下の実施例および図面は、限定的ではなく、本発明の例を説明するためのものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
【実施例1】
【0043】
物質および方法
1.1.−タンパク質抽出および免疫ブロッティング法。タンパク質に対するポリクローナル化抗体を得、これらは、それぞれ、0、4、8、12および16週間目に、PhoP(0.5mg)の4回投与を受けた。ELISA試験(ZEU−Immunotec Zaragoza、スペイン)を使用して、抗PhoP抗体を検出した。ESAT−6に対するモノクロナール抗体を、S.Coleによって穏やかに供給した[24]。マイコバクテリアの無細胞タンパク質抽出物を、Middlebrook7H9−ADCブロス中で成長させられる、対数増殖期の初期培養物から、通常の方法に倣って調製した[25]。該ヒト結核菌タンパク質抽出物を、孔径0.22μmのMillex−GPフィルター(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)でろ過した。5〜6週間培養したヒト結核菌H37Rv培養ろ液を集め、培養ろ液タンパク質を、45%(w/v)硫酸アンモニウムで析出させた。正規の方法に従って、ウェスタンブロット法による分析を行った。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼで標識化したヤギ抗ウサギ抗体(Bio−Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を二次抗体として使用した。
【0044】
1.2.−ヒト結核菌によるSCIDマウスの感染。SCIDマウスを用いた操作を、動物実験委員会の監督の下、「Germans Trias i Pujol」大学病院で、実験動物の保護に関するEUの規則に従って実施した。SCID CB−17/lcr lco特定病原体未感染(spf)マウスを、Charles River社(Bagneux フランス、セデックス)から入手した。噴霧感染では、マウスを、空気感染装置(Glas−col社、Terre Haute、米国インディアナ州)の暴露チャンバー内に置いた。噴霧器区画を、7mlのヒト結核菌懸濁物で充填し、肺の内部に約20の生存菌の吸収量を与えた。各実験群につき10匹のマウスを使用した。静脈内感染では、7匹のマウスの群に、2×105、2×104および2×103の用量の生存BCGと、5.4×106、5.4×105および5.4×104の用量の生存ヒト結核菌phoP株とを含む200□lのPBSを、外側尾静脈から感染させた。処置マウスの間の生存期間内の差の有意性を、マンテルヘンツェル検定を用いて測定した。生菌数計測をホモジネートの連続希釈で行い、Middlebrook7H11+OADC寒天上で培養し、3週間後、成長を判定した。組織学的分析では、組織を緩衝化ホルマリン−生理食塩水中に固定し、パラフィン中に埋め込んだ。5□m厚の切片を切り出し、チール・ネルゼン染色液で染色した。
【0045】
1.3.−本発明のSO2およびBCGの皮下注射によるワクチン接種後のBalb/cマウスにおける細胞性免疫の活性化の測定。4匹のBalb/Cマウス群を、8×103CFUのBCG(フィプス)または2.5×103CFUの本発明のSO2菌株の皮下注射によるワクチン接種の後、7日目、14日目、21日目、28日目、45日目および60日目に致死させた。脾臓を取り出し、2mlのRPMI媒体および0.5mg/mlのII型コラゲナーゼ(Worthington、NJ、USA)および2U/mlのDNアーゼ(GIBCO)を含む10%胎仔牛血清(GIBCO.Invitrogen社)中に置き、5%CO2を使用して、37℃で1時間培養した。次いで、70μmの細胞ふるい(Falcon、Becton Dickinson70μmナイロン35−2350)に通し、シリンジのプランジャーで粉砕し、前記媒体で濯いだ。細胞を遠心分離し、上澄み液を廃棄し、赤血球を溶解緩衝液で除去した[26]。遠心分離およびRPMI媒体で洗浄した後、細胞をFACS緩衝液(PBS1×、pH7.2、1%BSA)に再懸濁し、計測した。106個の細胞を100μlの抗CD4−FITCまたは抗CD8−FITCモノクロナール抗体で培養することによって、細胞表面に標識を付け、1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSに、4℃で20分、1:20で希釈し、FACScan血球計算器を使用して分析した。
【0046】
ヒト結核菌H37Rv株を、OADC(Difco Laboratories)を添加したMiddlebrook7H9媒体(Difco Laboratories)で培養した。1ヶ月の培養の後、細菌の固まりを分離し、培養ろ液を集めた。該ろ液の抗原を45%(w/v)硫酸アンモニウムで析出させ、PBSで洗浄し、再びこれに溶解した。細胞を刺激するため、1×106個の脾臓細胞を、1ウェル当たり100μlのRPMI媒体に再懸濁し、10μgのヒト結核菌培養ろ液抗原で培養し、5%CO2を用いながら、100μlのPBSに37℃で72時間懸濁した。細胞および培養媒体を遠心分離し、上澄み液を廃棄し、生存能を計測し、確かめた後、先に記載したように、1試験管当たり2.5×105個の細胞を、CD4+細胞またはCD8+細胞の表面に標識化した。洗浄した後、細胞を再懸濁し、0.1%サポニンが溶解したPBS中で4℃で20分培養した。フィコエリスリン(PE)で標識化されたモノクロナール抗IFN−γの1/20希釈物100μlを用い、細胞を4℃で20分暗室中で培養することによって、細胞内IFN−γを検出した。細胞を、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒド100μlで固定した。20分後、サンプルをFACScan血球計算器を用いて分析した。アイソタイプ対照は、Ab−FITC(1:20希釈物)+Ab−PE(1:20希釈物)であった。
【0047】
1.4.−Balb/cマウスにおける本発明のSO2の予防効果。パリにあるパスツール研究所の動物施設のP3高安全度実験室内の制御された条件下で、実験動物の保護に関するEUの指令に従って、全ての動物を管理した。Balb/cマウス(1群に付き7匹)の群に、107CFUの本発明のSO2菌株またはBCG(パスツール)のワクチンを、尾の根元の部分で皮下注射により接種した。ワクチン接種から8週間後、全マウスに、2.5×105CFUのヒト結核菌H37Rvを静脈注射で投与した。注射から4週間後、マウスを致死させた。生細胞数計測を、Middlebrook7H11+寒天OADCブロスで培養したホモジネートの連続希釈で行い、3週間後、本発明のSO2菌株のヒト結核菌H37Rvの成長を、後者の菌株のカナマイシン耐性表現型に基づいて判定した。
【0048】
1.5.−モルモットにおける本発明のSO2の予防効果。モルモットを用いた実験操作を、動物実験に関する英国の法律に従って行い、医療保護局の地元の治験倫理委員会、Porton Down、英国によって承認された。メスのダンキン・ハートレイモルモットを、承認されている市販業者(英国本社)(David Hall、Burton−on−Trent,UK or Harlan,UK、英国、バイセスター)から入手し、完全に隔離した中で再育した。図6に示されている結果は、SO2菌株がBCGより大きな予防を付与することを示している。図13および図14に示されている結果は、SO2突然変異のこの驚くべき予防は、二重表現型DIM−lPhoP−に起因することを示している。
【0049】
1.6.−低用量投与。6匹のモルモットの群に、5×104CFUのBCGパスツールのワクチン、5×104CFUの本発明のSO2のワクチン250μl、または生理食塩水を、首の後ろに、皮下注射により接種した。噴霧攻撃感染の前、先に記載したように、収納式ヘンダーソン装置を用いて、12週間の間動物を休養させた[27]。コリソン噴霧器を使用して、平均径が2μm(粒径範囲:0.5〜7μm)のヒト結核菌H37Rvの微粒子からエアロゾルを作り、動物の鼻に直接当てた。約10〜50CFU/肺と計算される残留吸入用量を達成するために、エアロゾルは、2×106CFU/mlを含む水の懸濁液から作った。
【0050】
投与から4週間後、予防を評価した。ペントバルビタールナトリウム塩の腹腔過剰投与により、動物を致死させた。組織を脾臓および肺(左および中間葉、右中葉および右後部葉)から無菌的に除去し、滅菌容器中に置いた。物質を、−20℃で保存し、次いで細菌の数を数えるために調製した。回転羽根マセレーターシステム(Ystral)を使用して、10ml(肺)または5ml(脾臓)の滅菌脱イオン水中に、組織を均質化した。生細胞数計測は、Middlebrook7H11+寒天OADCで培養したホモジネートの連続希釈で行い、ヒト結核菌成長は3週間後に調べた。これらの分析のデータは、log10に変換し、ワクチン群それぞれに関する生ヒト結核菌の数を、スチューデントのt−検定により、生理食塩水を使用した対照群と比較した。
【0051】
1.7.−高用量のヒト結核菌による感染後のモルモットにおける予防試験。6匹のモルモットの群に、ヒト結核菌を噴霧投与する10週間前に、5×104CFUの本発明のSO2またはBCG(Danish.1331)のワクチンを皮下注射により接種した。噴霧投与は、先の段落に記載したように行い、5×107CFU/mlの懸濁液を使用し、肺に約500CFUを付与した。投与後、動物を、封じ込めレベル3(ACDP)に保ち、体重の変化を定期的に管理し、投与から180日後、あるいはヒト終止点(最大体重の20%の喪失)で、人道的に致死させた。肺硬化を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H+E)で染色され、ホルマリンに固定された肺組織の切片の画像分析を使用して測定したこと以外は、死後サンプル収集および処理を先の記載のように行った。動物生存率は、カプラン・マイヤー生存率予測を使用して比較し、ログランク分布分析を使用して、統計学的有意差を確認した。CFUおよび病変硬化データは、ANOVAにより分析し、フィッシャーの対比較を用いて、群の平均値を比較した。
【実施例2】
【0052】
ヒト結核菌phoPの特性評価
マイコバクテリア遺伝回路の全般的な調節におけるphoP遺伝子の関与の証拠は、バシラスサイズの変化および不活性化phoP遺伝子が存在する増殖細胞のコーディング特性の観察により提供されている。結核に対する予防の決定因子として分泌された抗原の重要な特性が与えられたので、我々は、phoP遺伝子の突然変異の多面的効果が、主要な免疫優性抗遺伝子ESAT−6の合成の影響に及ぶかどうかを決定することを望んだ。ウェスタンブロット法による分析を、PhoPタンパク質およびESAT−6に対する抗体を使用して、SO2菌株、BCGおよびMT103について行った。結果は、PhoPタンパク質は、本発明のSO2菌株中には全く存在しないが、ヒト結核菌MT103およびBCG菌株中で、構成的に発現されることを明らかに示した。それとは対照的に、SO2菌株の培養物の上澄み液中のESAT−6の発現レベルは、MT103の親株から検出したレベルに類似し、予測通り、ESAT−6タンパク質は、BCG中で検出されなかった。
【実施例3】
【0053】
本発明の菌株およびBCGを感染させたマウスの生存
MT103菌株、SO2およびphoP遺伝子が補完されたSO2(SO2+pSO5)を用いて噴霧感染(約20CFU)後の免疫無防備状態SCIDマウスの生存を評価した[23]。SO2を感染させたマウスは全て245日間を超えて生存した。それとは対照的に、MT103または補完ヒト結核菌、SO2−pSO5を感染させたSCIDマウスは全て感染から62日目には死亡していた。これは、補完菌株の病原性が回復することを示している(図2a)。
【0054】
また、静脈内投与後、SCIDマウスにおいて、SO2菌株の弱毒化をBCGと比較した。SCIDマウスの群に、数多くの用量(2×105、2×104および2×103CFU)のBCGパスツールまたはSO2菌株(5.4×106、5.4×105および5.4×104CFU)を、外側尾静脈から接種した。感染から3週間後に致死させたマウスのサブグループの感染肺胞マクロファージの組織学的染色によって、ヒト結核菌SO2株を感染させたマウスの肺中のアルコール−酸耐性菌の数が、BCGと比べて少ないことが明らかになった。より高い用量のBCG(2×105CFU)を接種されたマウスは、全て、感染後92日で死亡した(平均生存期間:89±3.5日間)(図2b)。それとは対照的に、最高用量のSO2(5.4×106CFU)に感染されたマウスは、全て、120日後生存していた(図2b)。死亡時、BCG、2×105CFUを感染させたマウスの肺の細菌量は、SO2、5.4×106CFUを感染させたマウスと比べるとすると、少なくとも100倍を超えていた。
【実施例4】
【0055】
ワクチン接種されたBalb/cマウスの定量的CD4+およびCD8+応答
本発明のSO2およびBCGをワクチン接種によって誘発された細胞性免疫の活性化を比べるために、ワクチン接種後7日目、14日目、30日目、45日目および60日目に、細胞懸濁液を、本発明のSO2菌株およびBCGフィプスのワクチンを皮下注射により接種された少なくとも4匹のBalb/cマウスの群の脾臓から採取し、CD4+細胞およびCD8+細胞の相対比率を、細胞蛍光測定法により測定した(図3)。SO2のワクチン接種により、ワクチン接種から14日後に、BCGのワクチン接種と比較して有意に高い数のCD4+細胞が、および45日後に、有意に高い数のCD8+細胞が誘発された。これらの脾臓細胞を、ヒト結核菌培養ろ液から誘導された全抗原で刺激した。3日後、リンパ球集団をフローサイトメトリーによって分析し、CD4+/CD8+細胞およびIFN−□の細胞内合成の検出のために特異的抗体を合わせた。SO2のワクチン接種により、ワクチン接種から45日後、BCGと比較して有意に高い比率のCD4+/IFN−□+産生細胞が誘発された(図3)。所定時間後、CD8+/IFN−□+を産生する細胞の比率は、常に、SO2群の方が高かった(14日目に有意差)。
【実施例5】
【0056】
Balb/cマウスにおいて、本発明のSO2により生み出される防御免疫
本発明のSO2菌株がSCIDマウスで弱毒化されることが証明されたので、観察された病原性の減少により、突然変異菌株に対し、ある種の予防特性が付与されるのかどうかを決定することに関心がもたれた。本発明のSO2菌株またはBCG(パスツール)のワクチンを、Balb/cマウスに皮下注射により接種した。ワクチン接種から8週間後、全てのマウスに、2.5×105CFUのヒト結核菌H37Rvを、静脈内注射で投与した。注射から4週間後、マウスを致死させた。マウスの両群の肺および脾臓から回収された生存ヒト結核菌H37Rvの数を求めることによって、予防レベルを決定した(図4)。両ワクチンとも、生理食塩水で処置された対照と比べると、類似した、しかし有意なレベルの予防を付与した(p<0.05)。ヒト結核菌H37Rv増殖の阻止が、肺および脾臓の両方において記録され、減少は、それぞれ、約1.5log10および1.3log10CFUであった。
【実施例6】
【0057】
モルモットにおける本発明のSO2の防御免疫
マウスワクチン接種実験で得られた結果は、本発明のSO2菌株の弱毒化により、BCGパスツールの特性に類似するワクチン特性を該菌株に付与されることを示した。しかし、モルモットは、ヒト結核に関してより適切なモデルであり、疾患の進行および病理の点において多くの類似性を有することが一般的に認められている。したがって、この動物モデルは、ワクチンの効能を評価するために、より適正なシステムである。本発明のSO2菌株の予防効果を調べるために、我々は、ワクチン接種された動物に対する低用量(10〜50CFU)および高用量(500CFU)での噴霧投与に関連する実験を行った。6匹のモルモットの群に、本発明のSO2またはBCGのワクチンを、皮下注射により接種した。ワクチン接種から10週間後、モルモット全てにヒト結核菌H37Rvの吸入量を投与した。
【0058】
4週間後、低用量を受けた動物を致死させ、肺および脾臓中の細菌量を計測した。各処置群のモルモットの器官から回収した生存ヒト結核菌H37Rvの数を比較することによって、予防効果を測定した。この実験で、肺および脾臓におけるCFUの減少は、ワクチン接種されていない対照動物と、BCGまたはヒト結核菌SO2のワクチンを接種されたものとの間では有意差があった(p=0.005)。しかし、ワクチンを接種された群の間では有意差は見出せなかった(図5)。
【0059】
高用量を受けたモルモットを、投与から180日後、または体重の20%喪失が記録された時、致死させた。予防レベルを、各処置群のモルモットの生存期間を比較することによって決定した。病変発生の進行もワクチン接種された/感染されたモルモットにおいて試験し、ワクチン接種されていない/感染されていない動物において観察されたものと比較した。吸引に続く実験段階で、ワクチン接種されていない全てのモルモットおよびBCGワクチンを接種された4匹のモルモットは、ヒト終止点、重篤で進行性の疾患のため終止点前の時点(180日目)で、致死させた(図6a)。一方、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたモルモットは全て、試験期間の間中生存した。本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたモルモットは、BCGワクチンを接種されたものより、有意に長く生存し(p=0.018)し、同様に、生理食塩水で処置された対照モルモットより有意に長く生存した(p=0.0049)。さらに、SO2菌株をワクチン接種されたモルモットは、体重を増やし、疾患の視覚的なまたは臨床的ないかなる兆候も存在しなかった。
【0060】
全肺硬化によって測定した肺疾患の程度も、異なる処置群の間で様々であった。疾患の進行の最高レベルは、予測通り、ワクチン接種されていないモルモットにおいて観察され、この動物群で測定された硬化の平均比率は、76%であった(図6b、6c)。肉腫の融合がBCCワクチンを接種されたモルモットにおいても発現し、肺で測定した平均硬化は、70%であった。一方、本発明のSO2のワクチンを接種されたモルモットでは、より少ない硬化(約50%)が観察された。この硬化は、ワクチン接種されていない動物およびBCGのワクチンを接種された動物に比べ、有意に少なかった(p<0.05)(図6c)。疾患の重篤度に関するこの減少も、肺および脾臓のホモジネートの細菌計測に反映された。ワクチン接種された群では、ヒト結核菌H37Rv増殖阻止のレベルの差が、両器官で観察された。SO2ワクチンを接種されたモルモットから回収されたCFUの数は、BCGワクチンを接種されたモルモットからの数に比べ、1×log10を超えて減少し、この減少は、脾臓において統計的に有意であった(p<0.05)(図6d)。これらのデータは、感染モルモットにより高い生存率を付与し、肺における疾患の重篤度を減少し、感染が脾臓に広がるのを阻止する点で、本発明のSO2菌株が、BCGより良好であることを示した。
【実施例7】
【0061】
本発明のSO2の弱毒化は、PhoP−DIM−二重突然変異に起因する。
【0062】
SO2(phoP−DIM−)菌株の静脈注射によるBalb/Cマウスの感染試験を、野生型MT103菌株と比較し、phoP(SO2+pSO5)で補完された菌株は、BalbCマウスへの静脈注射によるSO2の感染の弱毒化が、phoPでの補完により復元されないことを示した。3週間および6週間後に測定された脾臓(7a脾臓)および肺(7b肺)におけるコロニー(CFU)の減少は、免疫適格マウスにおいてそれは毒性がないため、補完菌株では復元されなかった。これらの実験は、驚くべき弱毒化は、第二の更なる突然変異に起因する可能性があることを示唆している(図7)。
【0063】
薄層クロマトグラフィーによるヒト結核菌の異なる菌株の脂質試験により、SO2菌株はDIMを産生せず、これがphoP突然変異とは無関係であることが示された(図8)。
【0064】
SO2に毒性がないことを示すために、6匹のモルモットにワクチンを50回接種した。6ヶ月の実験期間後の生存率は100%であった。6ヵ月後、体重増加が全ての動物で観察され、これは、SO2菌株に毒性がないことを示している(Y=体重(グラム)および感染の週、X=時間(週))図12。
【0065】
抗結核薬に対する感受性も試験した。ヒト結核菌株H37Rv、対照としてMT103(野生型)、およびSO2菌株に対する抗結核薬、エタンブトール、イソニアジド、リファンピシンおよびストレプトマイシンの最小阻止濃度(MIC)を決定した。数値(ミクログラム/ml)は、phoP遺伝子の不活性化後、SO2候補ワクチン菌株は、結核に対して臨床的に使用される最も一般的な薬物に対する感受性を保存することを示す。
【0066】
気管内に接種されたBalbC−マウスにおける弱毒化の試験は、20週間後、ヒト結核菌DIM−(1A29)株に関し、マウスの50%が生存したことを示した。驚くべきことに、SO2(phoP−およびDIM−突然変異)を接種された動物は、全て、実験の20週間の間生存した(図11)。
【実施例8】
【0067】
本発明のSO2予防は、PhoP−DIM−二重突然変異に起因する。
【0068】
ワクチン接種され、ヒト結核菌H37Rvを噴霧によって感染されたモルモットに関して、予防を試験した。モルモットは300日後生存していた。皮下注射によるワクチン接種後、動物を高用量のヒト結核菌(H37Rv)の毒性のある菌株で感染させ、生存性を試験した。60日後、ワクチン接種されなかった6匹のモルモットが死亡した一方、SO2、phoP−およびBCGのワクチンを接種された群は生存した。感染から300日後、BCGおよびphoP−のワクチンを接種された3匹のモルモットは死亡したが、SO2のワクチンを接種された群は1匹だけ死亡した。これは、phoP突然変異の予防は、現在のワクチン、BCGの予防に類似し、一方、SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異ワクチン接種は、モルモットモデルにおいて、より良好に予防していることを示す(図13)。
【0069】
モルモットを使用するこれらの予防試験は、400日間続けたが、ワクチン接種していない6匹のモルモットは、60日後に死亡した。感染から400日後、SO2のワクチンを接種された群の3匹のモルモット(図14a)は生存しており、一方、BCG(図14aおよび図14b)およびphoP−(図14b)のワクチンを接種されたモルモットは、1匹のみ生存した。これもまた、phoP突然変異の予防は、BCGの予防と類似し、一方、400日間の実験後、SO2、phoP−およびDIM二重突然変異のワクチン接種は、より良好に予防したことを示している。
【実施例9】
【0070】
fadD26遺伝子の除去による突然変異に基づく候補結核ワクチンの構築
fadD26(ΔfadD26)遺伝子の除去による突然変異の構築のために使用されるヒト結核菌株は、SO2であり、これは、カナマイシン耐性カセットの挿入により不活性化されたphoP遺伝子と、MT103臨床菌株とを含む。
【0071】
1.プラスミドの構築
1.1.DIM合成に関与するfadD26遺伝子のクローニング。ヒト結核菌H37RvからのゲノムDNAを使用し、プライマーfadD26Fw(配列番号:1)およびfadD26Rv(配列番号:2)を使用し、PCRによって、fadD26遺伝子を増幅させた。PCR産物をpGEM−T Easyベクター(Promega社)に挿入し、プラスミドpAZ1を構築した。
1.2.fadD26遺伝子の除去およびヒグロマイシン耐性カセットの挿入。res−Ωhyg−resカセット(γδレゾルバーゼにより認識されるres部位は、二代継代において耐性マーカーの除去を可能にする)を含む、pWM27のBamHI−EcoRVフラグメント(Malagaら、2003)を、pAZ1中のfadD26のBamHI−EcoRV部位の間に挿入し、pAZ3を構築した。
1.3.相同組換えによる遺伝子の不活性化用の自己不活化ベクターの構築。プラスミドpAZ3をXholで消化し、fadD26::Ωhyg挿入物を放出し、これをpJQ200Xベクターに導入し、同じ酵素で直線化した。最終プラスミドをpAZ5と命名した。
【0072】
2.ヒト結核菌DIM−株の構築
2.1.プラスミドpAZ5を、ヒト結核菌SO2およびMT103菌株に挿入した。
2.2.単一組換えの選択。プラスミドを含む細菌のヒグロマイシン(20μg/ml)における培養、およびゲンタマイシン(10μg/ml)に対するその耐性の検査。
2.3.二重組換えの選択。サッカロース2%(Pelicicら、1997)およびヒグロマイシンにおける単一組換えの培養、およびゲンタマイシンに対するそれらの耐性の検査。
【0073】
3.ΔfadD26突然変異からの抗生物質耐性マーカーの削除
3.1.res−Ωhyg−resカセットを削除し、抗生物質耐性マーカーのない突然変異体を産生するために、γδレゾルバーゼを含むプラスミドpWM19を挿入し、ゲンタマイシン耐性によって選択する。次いで、サッカロース2%中で39℃で培養することによってプラスミドを削除する。(Malagaら、2003)。
実施例2.2.除去ΔphoPΔfadD26による二重突然変異の構築のために使用されるヒト結核菌株は、MT103ΔfadD26である。
【0074】
4.プラスミドの構築
4.1.phoP遺伝子のクローニング。ヒト結核菌H37RvからのゲノムDNAを使用し、およびプライマーphoPF(配列番号:3)およびphoPR(配列番号:4)を使用して、PCRによってphoP遺伝子を増幅した。PCR産物を、pGEM−T Easyベクター(Promega社)に挿入し、プラスミドpAZ11を構築した。
4.2.phoP遺伝子の除去およびカナマイシン耐性カセットの挿入。res−Ωkm−resカセットを含むpCG122のBamHI−EcoRVフラグメント(Malagaら、2003)を、pAZ11中のphoPのBc/I−EcoRV部位の間に挿入し、pAZ13を構築した。
4.3.相同組換えによる遺伝子の不活性化のための自己不活化ベクターの構築。プラスミドpAZ13をXholで消化し、phoP::Ωkm挿入物を放出させ、これをpJQ200Xベクターに導入し、同じ酵素で直線化した。最終プラスミドをpAZ15と命名した。
【0075】
5.ヒト結核ΔphoPΔfadD26二重突然変異菌株の構築
5.1.プラスミドpAZ15を、ヒト結核菌MT103ΔfadD26株に挿入する。
5.2.単一組換えの選択。細菌プラスミドを含む細菌のカナマイシン(20μg/ml)における培養、およびゲンタマイシン(10μg/ml)に対するその耐性の検査。
5.3.二重組換えの選択。サッカロース2%(Pelicicら、1997)およびカナマイシンにおける単一組換えの培養、およびゲンタマイシンに対するそれらの感受性の検査。
【0076】
6.ΔphoP突然変異からの抗生物質抵抗性マーカーの削除
6.1.res−Ωkm−resカセットを削除し、抗生物質耐性マーカーのない突然変異体を産生するため、γδレゾルバーゼを含むプラスミドpWM19を挿入し、ヒグロマイシン耐性(20μg/ml)によって選択する。次いで、サッカロース2%中、39℃で培養することによってプラスミドを削除する(Malagaら、2003)。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ウェスタンブロット法による分析。PhoPおよびESAT−6に対するポリクローナル抗体を使用する、MT103、本発明のSO2菌株およびBCGパスツールの細胞外タンパク質抽出物のウェスタンブロット画像。MT103菌株はESAT6+およびphoP+表現型を有し、SO2菌株はPhoP−およびESAT6+表現型を有し、BCGワクチン菌株はPhoP+およびESAT6−である。
【図2】SCIDマウスにおける本発明のSO2菌株の弱毒化。a 20CFUのSO2、pSO5が補完されたSO2(SO2+pSO5)およびMT103を噴霧感染させたSCIDマウス(n=10)に関する生存率曲線。生存の平均日数は、245日超(SO2)、62.1±5.88日(SO2+pSO5)および36.7±0.67日(MT103)であった。噴霧によりSO2菌株を感染させたマウスは、実験の245日間生存したが、MT103およびPhoPを補完したSO2菌株を感染させたマウスは、62日目前に死亡した。b 静脈注射によって5.4×106CFUのSO2および2×105CFUのBCGパスツールを感染させたSCIDマウス(n=7)に関する生存率曲線。これは、SO2菌株の弱毒化のレベルは、現在ヒトに使用されている結核ワクチンであるBCGのレベルより大きいことを示す。
【図3】本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種されたマウスにおける細胞性免疫応答。Balb/cマウスに、皮下注射により、8×103CFUのBCG(フィプス)または2.5×103CFUの本発明の菌株のワクチンを接種した。結果を、ワクチン接種後、所定の間隔をあけた脾臓内のCD4+/CD8+の合計個数の比率、および完全ヒト結核菌抗原で刺激した後、CD4+/CD8+の合計個数のIFN−γを発現した細胞の比率として示す。*は、ある時点における群の間の統計学的有意差(p<0.005)を表す。細胞性免疫応答の結果は、BCGのワクチンを接種されたマウスに対して、SO2菌株のワクチンを接種された動物のCD4+リンパ球の数は、14日目、30日目、45日目および60日目でより多く、ヒト結核菌抗原に対し特異的なIFNγの産生は、45日目および60日目において有意であることを示す。BCGのワクチンを接種されたマウスに対して、SO2菌株のワクチンを接種された動物のCD8+リンパ球の数は、45日目および60日目において多く、ヒト結核菌抗原に対し特異的なIFNγの産生は、14日目において有意である。
【図4】ワクチンを接種されたBalb/cマウスにおける、BCGに比べた本発明のSO2の予防効果。本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種し、ヒト結核菌H37Rvを静脈内投与で感染させたBalb/cマウスの肺(a)および脾臓(b)から回収したCFU数。SO2のワクチンを接種されたマウスの肺および脾臓中のCFUの減少は、BCGのワクチンを接種された場合に得られたものと類似し、ワクチンを接種されていないマウスに対して、有意な予防を示す。
【図5】低用量のヒト結核菌H37Rvに対する本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種されたモルモットにおける予防効果。低用量のヒト結核菌H37Rvを含む生理食塩水を注射された、ワクチン接種モルモットおよび対照モルモットの肺(a)および脾臓(b)中のlog10CFU/mlの平均値。データは、4週間後に致死させた動物(n=6)全ての平均CFUを表す。エラーバーは、標準偏差を示す。低用量のヒト結核菌が感染した、SO2のワクチンを接種されたモルモットの肺および脾臓中のCFUの減少は、BCGのワクチンを接種した場合に得られたものと類似し、ワクチンを接種されていないマウスに対して有意である。
【図6】高用量のヒト結核菌H37Rv感染に対する本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種したモルモットにおける予防効果。a 低用量で感染したマウスおよびモルモットにおける予防実験により、SO2およびBCGのワクチンを接種したマウスにおいて明らかな予防が示されたが、BCGとSO2との間に差がない場合は、高用量で感染したモルモットモデルを使用した。ヒト結核菌H37Rvの噴霧感染後のモルモットに関する生存率曲線。b 全肺硬化により測定した肺疾患の程度および感染の程度。ヒト終点で致死させたそれぞれ個々の動物の数値を「x」で印をつける。破線は、群(SO2における数は2匹の動物に対応する)の比率の平均値を示す。c それぞれの治療群のモルモットから採取した肺葉の代表的な部分の低解像度(×30)の画像。バーは1mmを表わす。d ワクチン接種されたおよびされていないモルモットの脾臓および肺における平均CFU数。この実験では、ヒト結核菌を高用量感染されたモルモットモデルにSO2のワクチンを接種したモルモットは、BCGワクチンを接種されたものより有意に長く生存し、また、現在のBCGワクチンに対して、肺病変がより少なく、脾臓および肺におけるCFU数がより少ないことが示される。
【図7】BalbCマウスにおいて本発明のSO2の静脈内感染の弱毒化は、phoPを補完することによって復元されない。野生型MT103菌株およびphoPが補完された菌株(SO2+pSO5)と比較した、Balb/Cマウスにおける105CFUのSO2(phoP−DIM−)菌株の静脈内感染の試験。3週間および6週間後に測定すると、コロニー(CFU)の減少が、脾臓(7a:脾臓)および肺(7b:肺)の両方に観察された。野生型菌株のCFUのレベルは、補完された菌株には復元されなかった。免疫適格マウスにおけるこれらの実験は、予期し得ない弱毒化が、phoP補完によって復元されない第二の更なる突然変異体に起因する可能性があることを示唆する。
【図8】本発明のSO2菌株はDIMを産生せず、DIM合成はphoP突然変異とは無関係である。薄層クロマトグラフィーによる、ヒト結核菌の異なる菌株からの脂質の分析。8a DIM産生は、MT103菌株で観察することができるが、一方DIMは、SO2菌株およびphoP(SO2pSO5)による補完では産生されない。これは、SO2に関し、DIMの不在は、phoPとは無関係であることを示す。8bは、MT103菌株およびphoP(MT103ΔphoP::hyg)遺伝子のみを不活性化するMT103菌株を示し、両方ともDIMを合成することができる。これにより、DIM産生がphoP突然変異とは無関係であることが確認される。
【図9】fadD26遺伝子の不活性化に関するプラスミドの構築。
【図10】phoP遺伝子の不活性化に関するプラスミドの構築。
【図11】マウスにおける弱毒化の試験。ヒト結核菌の異なる菌株の弱毒化を試験するために、気管内に接種されたBalb/Cマウスの生存率曲線。H37RvおよびMT103は、突然変異のないヒト結核菌の菌株に相当し、全てのマウスは、第10週目の前に死亡した。ヒト結核菌DIM−(1A29)株に関し、マウスの50%は、20週後も生存していた。SO2(phoP−およびDIM−突然変異体)を接種された動物は全て、実験の20週間の間生存した。
【図12】50回分のワクチン用量によるSO2の毒性を試験するための、モルモットの生存率と体重曲線。SO2に毒性がないことを示すために、6匹のモルモットに、50回分のワクチン用量を接種した。6ヶ月の実験期間後、生存率は100%であった。6ヶ月間で、体重の増加が全ての動物に観察され、SO2菌株に毒性がないことが示された(Y=体重(グラム)および感染週。X=期間(週))。
【図13】ヒト結核菌感染後のワクチン接種されたモルモットの生存率。モルモットにおける予防試験、300日後の生存率。ワクチン接種されていないモルモット(生理食塩水)、現在のBCGワクチンを接種された、およびヒト結核菌phoP−株またはSO2(phoP−およびDIM−突然変異)を接種されたモルモットの生存率曲線。生存率を試験するために、皮下ワクチン接種後、動物に、高用量のヒト結核菌(H37Rv)の毒性菌株を感染させた。60日後、ワクチン接種されていない6匹のモルモットは死亡し、一方S02、phoP−およびBCGのワクチンを接種された群は、生存していた。感染から300日後、BCGおよびphoP−のワクチンを接種された3匹のモルモットは死亡したが、SO2のワクチンを接種された群は1匹だけが死亡した。これは、phoP突然変異による予防は、現在のワクチンBCGによる予防に類似し、一方モルモットモデルにおいて、SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異のワクチン接種は、より良好に予防することを示す。
【図14】モルモットにおける予防試験、400日後の生存率。図13に示された実験の継続。ワクチン接種されていない6匹のモルモットは、60日後に死亡した。感染から400日後、SO2のワクチン接種をされた群のうち3匹のモルモット(図14a)は生存し、一方BCGのワクチン(図14aおよび図14b)およびphoP−(図14b)を接触されたモルモットは1匹のみ生存し、これもphoP突然変異の予防は、BCGの予防に類似し、一方、SO2、phoP−およびDIM二重突然変異のワクチン接種は、400日の実験後、より良好に予防することを示す。
【技術分野】
【0001】
本発明は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、PhoP−表現型を付与するRv0757遺伝子の不活性化と、DIM産生(DIM−表現型)を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。さらに、本発明は、結核の免疫付与または予防のためのワクチンの調製のための前記微生物の使用を含む。
【背景技術】
【0002】
ヒトの結核を阻止するためにワクチンを使用することは、大きな挑戦であることが、このほぼ一世紀の間で証明されてきた。ウシ結核菌から誘導されるBCGは、現在、使用されている唯一の結核ワクチンであり、世界中で最も広く使用されているワクチンである。1920年代から始まったBCGワクチンの開発および全身投与は、大きな前進を見せ、世界から結核を撲滅する可能性があるように見えた。しかし、これらの最初の期待は達成されず、数多くの有効性試験の結果から、現在の形態でのBCGワクチンでは、該疾患、特に該疾患が風土病である[4]第三世界の地域の成人における呼吸形態における制御においては、有用性に限界があることが明らかである。ヒト結核菌の毒性および感染防御免疫を発生させる免疫応答モデルのより多くの知識があれば、BCGより良好なワクチンを開発することが可能である。ホストにBCGワクチンを接種した場合、より高い予防レベルを達成できるという観察は、生存能力および持続性が、結核ワクチンの成功に必要な基本的な性質であることを示唆する。本発明において我々は、原型単回投与生ワクチンとして、不活性化したRv0757(phoP)遺伝子を有するヒト結核菌株と、DIM合成を阻止するphoPの第二非依存性突然変異体とを使用し、免疫無防備状態のSCIDマウスにおいてBCGより弱毒化されているとともに、マウスにおいてBCGにより付与される予防レベルに匹敵し、モルモットにおいてはBCGより高い予防を付与することを示す。
【0003】
phoRを伴うphoP遺伝子は、細胞内病原体の主要な病原遺伝子の転写を制御する他の2成分系に対し高度な類似性を示す2成分系の一部を形成する。また、これは、病原性には直接関与しない他の多くの遺伝子の発現も制御する[19]。病原性遺伝子の削減、それ自体が、ヒト結核菌を弱毒化する唯一の方法ではないようである。パントテン酸のデノボ合成が不可能なヒト結核菌のパントテン酸塩栄養要求性突然変異体は、疾患を起こすことなく、SCIDマウス中に存続することが示された[17]。個々のロイシン栄養要求株も、SCIDマウスでは、生体内で強く弱毒化され、複製が不可能である[28]。したがって、ヒト結核菌に基づくワクチン株は、ウシ結核菌BCG中で抑制されている遺伝子を保持しながら、うまく弱毒化できるという原理は、現在では一般的に受け入れられている。
【0004】
従来、BCGより効果的なワクチンの研究は、BCGによる病原性の喪失が、本質的に、完全な予防効果の欠如に関与する要因であるという考えに基づいていた[32]。したがって、より小さな病原性を有するヒト結核菌の新しい弱体化突然変異が、ワクチンとしてより効果的ではないかと論じられていた。しかし、最近の研究では、ヒト結核菌による自然感染とBCGのワクチン接種とでは、結核に対する感染防御免疫を作り出す能力において違いがないことが示されている[34]。これは、ヒト結核菌の合理的な弱毒化によりBCGを改良することができるかどうかということに関し、問題を提起する。このような状況下、1.−PhoPタンパク質の合成における、および2.−DIM合成における2つの非依存性突然変異の組合せを有する本発明の突然変異ヒト結核菌株は、たとえBCGの用量より10倍高い濃度で投与しても、SCIDマウスモデルにおいて、BCGより弱毒化され、かつモルモットモデルにおいて、BCGより予防の程度が高いという観察は、特に予期しえぬ重大なことである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の第一の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、Rv0757(phoP)遺伝子の不活性化と、DIM(フィチオセロールジマイコセロセート)産生を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。以下、この単離された微生物を、本発明の微生物と言う。
【0006】
本発明の第二の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、Rv0757(phoP)遺伝子と、DIM産生を阻止するphoPの第二非依存性突然変異体とを不活性化することを含むことを特徴とする微生物に関する。本発明の好ましい態様では、前記第二の突然変異体は、DIM合成に必須であるfadD26遺伝子の削減からなるRv2930(fadD26)遺伝子中にある。
【0007】
本発明の第三の態様は、動物の結核を予防する、さらにより好ましくはヒトの結核を予防するワクチンを調製するために、本発明の単離された微生物を使用すること、ならびに結核ワクチンが膀胱癌のようなヒトの疾患の治療において現在有している他の用途に使用することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の内容において、以下、「ヒト結核菌SO2株」は、単離されたヒト結核菌株の微生物であって、Pelicicらが記載する方法(1997)(Efficient allelic exchange and transposon mutagenesis in Mycobacterium tuberculosis.Proc Natl Acad Sci USA94:10955−10960)による相同組換えを使用して、ヒト結核菌のRv0757遺伝子のBcll部位に、カナマイシン耐性マーカーの導入により、ヒト結核菌MT103臨床株から構築されたRv0757遺伝子によって不活性化された微生物を言うために使用し、これはさらにDIM(フィチオセロールジマイコセロセート)産生を阻止する第二遺伝子の不活性化も含む。したがって、本発明の該菌株は、ヒト結核菌から誘導された弱毒化生ワクチン中に2つの非依存性突然変異が存在し、個々のphoP突然変異は、前記遺伝子の不活性化より誘導されたワクチンの特性に影響を及ぼさない。実施例9には、ヒト結核菌SO2株に関して記載したのと同じ表現型を付与する個々の二重突然変異体を持つ、単離されたマイコバクテリア属の微生物をどのように構築するかが記載されている。
【0009】
以下、本発明の内容において、ワクチンは、投与により阻止すべき疾患に対する予防を作り出す薬物を言うために使用する。
【0010】
以下、本発明の内容において、BCGは、1921年以来結核に対して使用されている現在のワクチンを言うために使用する。これは、研究室で継代培養された後、その病原性を喪失したウシ結核菌株から誘導される弱毒化生ワクチンであり、百を超える欠損遺伝子を有することが現在わかっているものである(5)。
【0011】
以下、本発明の内容において、H37Rvは、配列が決定されている病原性ヒト結核菌株を言うために使用し、Coleらにより、これらの遺伝子はRvと称されている(Coleら、1998 Deciphering the biology of Mycobacterium tuberculosis from the complete genome sequence.Nature393:537−544参照)。
【0012】
以下、本発明の内容において、MT103は、ヒト結核菌臨床分離株を言うために使用する(参考文献15Camachoら)。
【0013】
以下、本発明の内容において、DIM−菌株は、ヒト結核菌の病原性に関連する重要な脂質である、フィチオセロールジマイコセロセートを合成することができないヒト結核菌複合体の菌株を言うために使用する。図11では、1A29菌株が使用され、これは、参考文献15(Camachoら、1999 Identification of a virulence gene cluster of Mycobacterium tuberculosis by signature−tagged transposon mutagenesis.Mol Microbiol34:257−267)に記載のトランスポゾン1096によって不活性化されたRv2930(fadD26)遺伝子を有するMT103菌株で構成される。
【0014】
以下、本発明の内容において、SO2+pSO5は、Rv0757における突然変異が、マイコバクテリアphoP遺伝子を有する複製プラスミドの形質変換により、Rv0757遺伝子によって補完されるが、DIM合成を補完することはできないヒト結核菌SO2株を言うために使用され、その表現型はphoP+DIM−である。
【0015】
以下、本発明の内容において、ヒト結核菌phoP−は、EcoRV−BspEl部位の間での削除により、Rv0757遺伝子によって不活性化されているヒト結核菌株を言うために使用され、その表現型は、phoP−DIM+である。
【0016】
以下、本発明の内容において、Rv2930(fadD26)は、フィチオセロールジマイコセロセートの合成(参考文献15、Camachoら、1999年)の原因であるオペロンの初期に存在する遺伝子を言うために使用し、ヒト結核菌中のこの遺伝子の削減により安定なDIM−表現型が付与される。
【0017】
本発明の一態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、PhoP−表現型を付与するRv0757遺伝子の不活性化と、DIM産生(DIM−表現型)を阻止する第二遺伝子の不活性化とを含むことを特徴とする微生物に関する。さらに、本発明は、結核を予防するためのワクチンの調製における該微生物の使用、およびワクチン自体をも含む。
【0018】
本発明を通して、いかにして、単離されたマイコバクテリア属のphoP−DIM−菌株を、それらが獲得する弱毒化のレベルおよびそれらが付与する予防のレベルに基づき、ワクチンとしての使用に特に適切にされた特徴を有するようにするかを示す。
【0019】
弱毒化を確認するために、免疫機能が低下したSCIDマウスに、SO2(phoP−DIM−)菌株を噴霧によって接種した。該マウスは、野生型菌株を感染させたマウスより有意に長く生存する(図2a)。さらに、この弱毒化を、SO2+pSO5(phoP+DIM−)菌株においてphoPで補完する(図8a)。
【0020】
さらに、弱毒化試験を、静脈注射による免疫適格Balb/Cマウスで行う場合(図7)、野生型MT103菌株に対して、SO2の明らかな弱毒化があるが、驚くべきことに、SO2+PSO5(phoP+DIM−)菌株は、免疫適格マウスに関し、野生型菌株と同じように毒性であるため、この弱毒化は、phoPで補完されない。SO2(DIM−、phoP−)菌株をDIM−菌株のみと比較したBalb/Cマウスでの生存試験は、SO2に関して驚くほど高い生存率を示す(図11)。
【0021】
静脈内投与感染されたSCIDマウスにおけるSO2およびBCGの比較生存試験は、SO2菌株の弱毒化のレベルが、BCG、すなわちヒトの結核に対して現在使用されているワクチンのレベルより高いことを示す(図2b)。BCGワクチンのバッチ用の品質制御で使用されるワクチン50倍の用量を用いたモルモットの毒性試験は、6ヶ月の試験の間、モルモットの体重は増加し、結核と共存する肉眼的または顕微鏡的に見える組織学的病変が存在しないことを示し、これにより、SO2の弱毒化および非毒性が確認される(図12)。この驚くべき弱毒化および毒性の欠如は、PhoP−DIM−表現型に起因し、またこれらの突然変異体は、抗結核薬に対する感応性を残し、従来の治療を可能にする。
【0022】
本明細書では、Balb/cマウスで行われるワクチン接種実験において、本発明のヒト結核菌SO2株およびBCGにより付与された予防のレベルが、感染から4週間後まで、肺および脾臓の両方において類似していることを示す。ワクチン接種されたマウスの脾臓からのCD4+細胞およびCD8+細胞の相対比率を比較すると、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたマウスは、BCGワクチンを接種されたマウスに比べ、CD4+細胞およびCD8+細胞の両方で比率が高いことがわかった。さらに、これらの細胞を培養ろ液から誘導した抗原で刺激すると、ワクチン接種から45日および60日後に、本発明のSO2菌株のワクチンを接種したマウスで、CD4+/IFN−γ+の有意により高い比率が測定された。各時点では有意ではないが、類似の傾向がCD8+/IFN−γ+について、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたマウスで測定された。IFN−γ合成によって測定されたデータは、本発明のSO2菌株のワクチン接種が、BCGワクチン接種に比べて、より良好にT細胞を活性化する結果となることを示唆する。ヒト結核菌に対する防御免疫は、一般的に、抗原の特異的T細胞からのIFN−γの分泌を特徴とするTH1−型細胞性免疫応答の発生に依存すると仮定すると、本発明のSO2菌株により誘発された比較的高いレベルのT細胞活性は、強い保護的応答を付与する能力に寄与すると結論付けることができる。
【0023】
さらに、SO2と比較したBCGの予防における差を試験するために、異なるシステム、試験モデルおよび種々の条件を使用して、マウスモデルの相対的能力の提示を行った。2種類のワクチン、SO2(phoP−DIM−)およびBCGが、マウスのモデルに予防を付与することが示された。
【0024】
モルモットを使用して、より重大で、徐々により厳しくなる臨床試験でワクチンを比較する方法を用いた。このワクチンを比較する体系的なアプローチは、さらにトライアルを行うべき、一番の候補ワクチンを識別するために、有用な出発点を示すことができた。モルモットは、結核による感染に対し、より感受性があり、したがって、この疾患に関してより重要なモデルとなり得ることは、一般的に認められている[30]。マウスと比べたモルモットの長所は、疾患の病理が、ヒトの結核で観察される病理と類似し、したがって、ワクチンの効能を試験するために適正なモデルであることである。ヒト結核菌の二重パントテン酸塩およびロイシン栄養要求株突然変異体を用いた最近の噴霧ワクチン試験において、ヒト結核菌の噴霧投与の5週間後、ウシ結核菌BCGに等しい予防レベルが、ワクチン接種されたモルモットの肺および脾臓で得られるとともに、両ワクチンにより誘発された脾臓への感染の拡大が制限されていた[34]。ESAT−6を発現した組換えBCGを使用した他の試験では、ウシ結核菌BCGより高い予防レベルが、脾臓でのみ観察され[6]、これは、予防の改善は、肺からの拡大による感染を阻止する能力に限定されることを示唆する。
【0025】
この感染を起こすために、モルモットに、低用量のヒト結核菌H37Rvを接種した。本発明のSO2菌株およびBCGのワクチン接種によって付与された予防レベルは、感染から4週間後まで、肺および脾臓において類似していた。両ワクチンとも、非常に効果的な予防を付与し、肺および脾臓において、生理食塩水を投与された対照群に比べ、約2log、CFUを減少させた。しかし、該2つのワクチン群の間に統計学的は有意差はなかった。感染後このような短期間では、BCGより新しいワクチンがより大きな効能があることを証明するのは困難であることが推定できる。これは、今のところ、BCGのワクチンを接種された動物の器官のCFU(コロニー形成単位)は非常に低いため、試験には、CFUの有意な更なる減少を示すための差別化能力はないという事実による。モルモットを用いる他の生存試験では、BCGワクチン接種は、ワクチン接種されていない対照(あるいは無効ワクチンを接種された)と比べて、統計的に有意な予防を示しているが、この予防は、低用量のヒト結核菌を使用した攻撃感染に対する部分的なものにすぎない。感染から60〜80週間後の間に実施された低用量の投与に関する試験では、BCGを用いた対照の中には、どのモルモットも保護しなかったものもあり[35]、また他には、低い割合(20%と30%との間)で動物を保護したものもあった[36][37]。一方、高用量の投与は、TBワクチンの予防効果を評価するために通常使用される疾患より重い疾患を引き起こすかもしれない。
【0026】
本発明では、比較的高用量のヒト結核菌H37Rvの噴霧感染を用い、試験期間を180日間に延長した。我々は、本発明のSO2菌株の潜在的な予防効果を示すことができる、より厳しいレベルの攻撃感染を生み出すと同時に、BCGに関して差別化のレベルを上げるために、これを実施した。生存の点から見ると、BCGワクチンを接種された群の動物は、ワクチン接種されていない対照と比べ有意に保護され、我々の試験で使用された比較的高用量の感染であるにもかかわらず、それらは、他の試験で観察された全体予防レベルと類似のレベルを示した。さらに我々は、本発明のSO2(phoP−DIM−)菌株の予防効果は、生存期間の延長および肺病変の硬化の程度を始めとする数種の標識によって測定し、BCGと比べて統計的に有意な増加があることも発見した。疾患のこのそれほど重症でない形態が、本発明のSO2菌株をワクチン接種された動物のより高い生存率に直接関与している可能性がある。
【0027】
本発明において記載する結果は、phoP−DIM−表現型を有するSO2菌株、したがってマイコバクテリア属に属する微生物(特に、ヒト結核菌複合体からの)が、数多くの判定基準に従って、BCGより効果的なワクチンであることを示す。それは、SCIDマウスにおいて、BCGより弱毒化されており、少なくともBCGと同程度に良好な防御免疫を持つマウスを提供し、より強い細胞性免疫応答を生み出す。さらに、H37Rvの高用量感染に対するモルモットで実施された予防実験において、表現型DIM−phoP−を有する菌株は、BCGでは33%の生存率しか達成されなかった状況下で、モルモットの100%の生存率をもたらす。この予防は、疾患の重篤度および細菌量の減少に結び付けられる。
【0028】
SO2(phoP−DIM−)の予防レベルがphoP突然変異によるものか、あるいはDIMにおける更なる突然変異によるものかを調べるために、別のワクチン接種実験を、高用量の感染を受けたモルモットで実施した。6匹の動物群に、BCG、SO2(PhoP−DIM−)およびヒト結核菌phoP−DIM+のワクチンを接種し、対照として使用した6匹の動物にはワクチンを接種しなかった。実験は400日間続けた。
【0029】
この他の実験で、ワクチン接種されなかったモルモットは、70日目の前に死亡した。感染から300日後、BCGおよびphoP−D1M+のワクチンを接種された3匹のモルモットが死亡したが、SO2のワクチン接種を受けた群では1匹だけ死亡し、phoP−DIM+突然変異によって付与された予防は、現在のワクチンのBCGに類似していることを示唆した。一方、SO2、二重phoP−およびDIM−突然変異のワクチン接種は、モルモットモデルにおいてより良好に予防する(図13)。400日後、SO2のワクチンを接種された群中の3匹のモルモット(図14a)が生存し、一方、BCGのワクチンを接種されたモルモット(図14aおよび図14b)およびphoP−DIM+を接種されたモルモット(図14b)は、1匹しか生存せず、phoP−DIM+突然変異の予防はBCGに類似することを示唆した。一方SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異のワクチン接種は、400日間の実験後より良好に予防し、BCGより大きな予防の驚くべき効果は、phoP−突然変異ばかりでなく、SO2二重突然変異体、phoP−DIM−にも起因していた。
【0030】
したがって、本発明の第一の態様は、単離されたマイコバクテリア属に属する微生物であって、
a.phoP遺伝子、あるいはphoP遺伝子を制御するまたはphoPによって制御される1種以上の遺伝子と、
b.DIM産生を阻止する第二遺伝子と
の不活性化または除去を含むことを特徴とする微生物に関する。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、phoP遺伝子が、Rv0757遺伝子の不活性化または除去によって不活性化されていることを特徴とする。
【0032】
本発明のより好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、DIM産生が、Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されていることを特徴とする。
【0033】
本発明のさらにより好ましい実施形態では、本発明の単離された微生物は、Rv2930遺伝子およびRv0757遺伝子の除去または不活性化を含むことを特徴とする。
【0034】
本発明の他の実施形態では、本発明の単離された微生物は、マイコバクテリア属の種が、ヒト結核菌複合体に属することを特徴とする。
【0035】
本発明の第二の態様は、本発明の単離された微生物を調製する方法であって、
a.phoP遺伝子、あるいは1種以上のphoP遺伝子を制御する遺伝子の不活性化または除去、好ましくはRv0757遺伝子の不活性化または除去と、
b.DIM産生を阻止する第二遺伝子の不活性化または除去と、好ましくはRv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化と、
を含む方法に関する。
【0036】
本発明の第三の態様は、結核によって引き起こされた症状に対して、個体に免疫付与するワクチン(以下、本発明のワクチン)であって、少なくとも本発明の単離された微生物を含むワクチンに関する。
【0037】
本発明の好ましい実施形態では、ワクチンは、薬理学的に許容し得る賦形剤も含む。
【0038】
本発明の第四の態様は、医薬品、好ましくはワクチンを調製する方法であって、本発明の単離された微生物の治療に効果的な用量を、ヒトまたは動物における投与に適切な媒体に導入することと、ワクチンの産生に関し薬理学的に適切な賦形剤を選択的に添加することとを含む方法に関する。
【0039】
前記医薬品は、膀胱癌の治療、結核の治療または予防、あるいはベクターまたはアジュバントとして適切なものである。結核によって引き起こされる症状に対して、個体に免疫付与することが好ましい。
【0040】
本発明の第五の態様は、ヒトまたは動物における結核の予防および/または治療のための本発明のワクチンを調製するための、本発明の単離された微生物の使用に関する。
【0041】
明細書および請求項の全体を通して、用語「含む」およびこの変形表現は、別の技術的特長、添加物、成分またはステップの排除を意味するものではない。当業者には、明細書から、および本発明を実践する場合、本発明の他の目的、長所および特徴が一部生じるであろう。以下の実施例および図面は、限定的ではなく、本発明の例を説明するためのものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
【実施例1】
【0043】
物質および方法
1.1.−タンパク質抽出および免疫ブロッティング法。タンパク質に対するポリクローナル化抗体を得、これらは、それぞれ、0、4、8、12および16週間目に、PhoP(0.5mg)の4回投与を受けた。ELISA試験(ZEU−Immunotec Zaragoza、スペイン)を使用して、抗PhoP抗体を検出した。ESAT−6に対するモノクロナール抗体を、S.Coleによって穏やかに供給した[24]。マイコバクテリアの無細胞タンパク質抽出物を、Middlebrook7H9−ADCブロス中で成長させられる、対数増殖期の初期培養物から、通常の方法に倣って調製した[25]。該ヒト結核菌タンパク質抽出物を、孔径0.22μmのMillex−GPフィルター(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)でろ過した。5〜6週間培養したヒト結核菌H37Rv培養ろ液を集め、培養ろ液タンパク質を、45%(w/v)硫酸アンモニウムで析出させた。正規の方法に従って、ウェスタンブロット法による分析を行った。ホースラディシュ・ペルオキシダーゼで標識化したヤギ抗ウサギ抗体(Bio−Rad Laboratories、カリフォルニア州ハーキュリーズ)を二次抗体として使用した。
【0044】
1.2.−ヒト結核菌によるSCIDマウスの感染。SCIDマウスを用いた操作を、動物実験委員会の監督の下、「Germans Trias i Pujol」大学病院で、実験動物の保護に関するEUの規則に従って実施した。SCID CB−17/lcr lco特定病原体未感染(spf)マウスを、Charles River社(Bagneux フランス、セデックス)から入手した。噴霧感染では、マウスを、空気感染装置(Glas−col社、Terre Haute、米国インディアナ州)の暴露チャンバー内に置いた。噴霧器区画を、7mlのヒト結核菌懸濁物で充填し、肺の内部に約20の生存菌の吸収量を与えた。各実験群につき10匹のマウスを使用した。静脈内感染では、7匹のマウスの群に、2×105、2×104および2×103の用量の生存BCGと、5.4×106、5.4×105および5.4×104の用量の生存ヒト結核菌phoP株とを含む200□lのPBSを、外側尾静脈から感染させた。処置マウスの間の生存期間内の差の有意性を、マンテルヘンツェル検定を用いて測定した。生菌数計測をホモジネートの連続希釈で行い、Middlebrook7H11+OADC寒天上で培養し、3週間後、成長を判定した。組織学的分析では、組織を緩衝化ホルマリン−生理食塩水中に固定し、パラフィン中に埋め込んだ。5□m厚の切片を切り出し、チール・ネルゼン染色液で染色した。
【0045】
1.3.−本発明のSO2およびBCGの皮下注射によるワクチン接種後のBalb/cマウスにおける細胞性免疫の活性化の測定。4匹のBalb/Cマウス群を、8×103CFUのBCG(フィプス)または2.5×103CFUの本発明のSO2菌株の皮下注射によるワクチン接種の後、7日目、14日目、21日目、28日目、45日目および60日目に致死させた。脾臓を取り出し、2mlのRPMI媒体および0.5mg/mlのII型コラゲナーゼ(Worthington、NJ、USA)および2U/mlのDNアーゼ(GIBCO)を含む10%胎仔牛血清(GIBCO.Invitrogen社)中に置き、5%CO2を使用して、37℃で1時間培養した。次いで、70μmの細胞ふるい(Falcon、Becton Dickinson70μmナイロン35−2350)に通し、シリンジのプランジャーで粉砕し、前記媒体で濯いだ。細胞を遠心分離し、上澄み液を廃棄し、赤血球を溶解緩衝液で除去した[26]。遠心分離およびRPMI媒体で洗浄した後、細胞をFACS緩衝液(PBS1×、pH7.2、1%BSA)に再懸濁し、計測した。106個の細胞を100μlの抗CD4−FITCまたは抗CD8−FITCモノクロナール抗体で培養することによって、細胞表面に標識を付け、1%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウムを含むPBSに、4℃で20分、1:20で希釈し、FACScan血球計算器を使用して分析した。
【0046】
ヒト結核菌H37Rv株を、OADC(Difco Laboratories)を添加したMiddlebrook7H9媒体(Difco Laboratories)で培養した。1ヶ月の培養の後、細菌の固まりを分離し、培養ろ液を集めた。該ろ液の抗原を45%(w/v)硫酸アンモニウムで析出させ、PBSで洗浄し、再びこれに溶解した。細胞を刺激するため、1×106個の脾臓細胞を、1ウェル当たり100μlのRPMI媒体に再懸濁し、10μgのヒト結核菌培養ろ液抗原で培養し、5%CO2を用いながら、100μlのPBSに37℃で72時間懸濁した。細胞および培養媒体を遠心分離し、上澄み液を廃棄し、生存能を計測し、確かめた後、先に記載したように、1試験管当たり2.5×105個の細胞を、CD4+細胞またはCD8+細胞の表面に標識化した。洗浄した後、細胞を再懸濁し、0.1%サポニンが溶解したPBS中で4℃で20分培養した。フィコエリスリン(PE)で標識化されたモノクロナール抗IFN−γの1/20希釈物100μlを用い、細胞を4℃で20分暗室中で培養することによって、細胞内IFN−γを検出した。細胞を、PBSで希釈した4%パラホルムアルデヒド100μlで固定した。20分後、サンプルをFACScan血球計算器を用いて分析した。アイソタイプ対照は、Ab−FITC(1:20希釈物)+Ab−PE(1:20希釈物)であった。
【0047】
1.4.−Balb/cマウスにおける本発明のSO2の予防効果。パリにあるパスツール研究所の動物施設のP3高安全度実験室内の制御された条件下で、実験動物の保護に関するEUの指令に従って、全ての動物を管理した。Balb/cマウス(1群に付き7匹)の群に、107CFUの本発明のSO2菌株またはBCG(パスツール)のワクチンを、尾の根元の部分で皮下注射により接種した。ワクチン接種から8週間後、全マウスに、2.5×105CFUのヒト結核菌H37Rvを静脈注射で投与した。注射から4週間後、マウスを致死させた。生細胞数計測を、Middlebrook7H11+寒天OADCブロスで培養したホモジネートの連続希釈で行い、3週間後、本発明のSO2菌株のヒト結核菌H37Rvの成長を、後者の菌株のカナマイシン耐性表現型に基づいて判定した。
【0048】
1.5.−モルモットにおける本発明のSO2の予防効果。モルモットを用いた実験操作を、動物実験に関する英国の法律に従って行い、医療保護局の地元の治験倫理委員会、Porton Down、英国によって承認された。メスのダンキン・ハートレイモルモットを、承認されている市販業者(英国本社)(David Hall、Burton−on−Trent,UK or Harlan,UK、英国、バイセスター)から入手し、完全に隔離した中で再育した。図6に示されている結果は、SO2菌株がBCGより大きな予防を付与することを示している。図13および図14に示されている結果は、SO2突然変異のこの驚くべき予防は、二重表現型DIM−lPhoP−に起因することを示している。
【0049】
1.6.−低用量投与。6匹のモルモットの群に、5×104CFUのBCGパスツールのワクチン、5×104CFUの本発明のSO2のワクチン250μl、または生理食塩水を、首の後ろに、皮下注射により接種した。噴霧攻撃感染の前、先に記載したように、収納式ヘンダーソン装置を用いて、12週間の間動物を休養させた[27]。コリソン噴霧器を使用して、平均径が2μm(粒径範囲:0.5〜7μm)のヒト結核菌H37Rvの微粒子からエアロゾルを作り、動物の鼻に直接当てた。約10〜50CFU/肺と計算される残留吸入用量を達成するために、エアロゾルは、2×106CFU/mlを含む水の懸濁液から作った。
【0050】
投与から4週間後、予防を評価した。ペントバルビタールナトリウム塩の腹腔過剰投与により、動物を致死させた。組織を脾臓および肺(左および中間葉、右中葉および右後部葉)から無菌的に除去し、滅菌容器中に置いた。物質を、−20℃で保存し、次いで細菌の数を数えるために調製した。回転羽根マセレーターシステム(Ystral)を使用して、10ml(肺)または5ml(脾臓)の滅菌脱イオン水中に、組織を均質化した。生細胞数計測は、Middlebrook7H11+寒天OADCで培養したホモジネートの連続希釈で行い、ヒト結核菌成長は3週間後に調べた。これらの分析のデータは、log10に変換し、ワクチン群それぞれに関する生ヒト結核菌の数を、スチューデントのt−検定により、生理食塩水を使用した対照群と比較した。
【0051】
1.7.−高用量のヒト結核菌による感染後のモルモットにおける予防試験。6匹のモルモットの群に、ヒト結核菌を噴霧投与する10週間前に、5×104CFUの本発明のSO2またはBCG(Danish.1331)のワクチンを皮下注射により接種した。噴霧投与は、先の段落に記載したように行い、5×107CFU/mlの懸濁液を使用し、肺に約500CFUを付与した。投与後、動物を、封じ込めレベル3(ACDP)に保ち、体重の変化を定期的に管理し、投与から180日後、あるいはヒト終止点(最大体重の20%の喪失)で、人道的に致死させた。肺硬化を、ヘマトキシリンおよびエオシン(H+E)で染色され、ホルマリンに固定された肺組織の切片の画像分析を使用して測定したこと以外は、死後サンプル収集および処理を先の記載のように行った。動物生存率は、カプラン・マイヤー生存率予測を使用して比較し、ログランク分布分析を使用して、統計学的有意差を確認した。CFUおよび病変硬化データは、ANOVAにより分析し、フィッシャーの対比較を用いて、群の平均値を比較した。
【実施例2】
【0052】
ヒト結核菌phoPの特性評価
マイコバクテリア遺伝回路の全般的な調節におけるphoP遺伝子の関与の証拠は、バシラスサイズの変化および不活性化phoP遺伝子が存在する増殖細胞のコーディング特性の観察により提供されている。結核に対する予防の決定因子として分泌された抗原の重要な特性が与えられたので、我々は、phoP遺伝子の突然変異の多面的効果が、主要な免疫優性抗遺伝子ESAT−6の合成の影響に及ぶかどうかを決定することを望んだ。ウェスタンブロット法による分析を、PhoPタンパク質およびESAT−6に対する抗体を使用して、SO2菌株、BCGおよびMT103について行った。結果は、PhoPタンパク質は、本発明のSO2菌株中には全く存在しないが、ヒト結核菌MT103およびBCG菌株中で、構成的に発現されることを明らかに示した。それとは対照的に、SO2菌株の培養物の上澄み液中のESAT−6の発現レベルは、MT103の親株から検出したレベルに類似し、予測通り、ESAT−6タンパク質は、BCG中で検出されなかった。
【実施例3】
【0053】
本発明の菌株およびBCGを感染させたマウスの生存
MT103菌株、SO2およびphoP遺伝子が補完されたSO2(SO2+pSO5)を用いて噴霧感染(約20CFU)後の免疫無防備状態SCIDマウスの生存を評価した[23]。SO2を感染させたマウスは全て245日間を超えて生存した。それとは対照的に、MT103または補完ヒト結核菌、SO2−pSO5を感染させたSCIDマウスは全て感染から62日目には死亡していた。これは、補完菌株の病原性が回復することを示している(図2a)。
【0054】
また、静脈内投与後、SCIDマウスにおいて、SO2菌株の弱毒化をBCGと比較した。SCIDマウスの群に、数多くの用量(2×105、2×104および2×103CFU)のBCGパスツールまたはSO2菌株(5.4×106、5.4×105および5.4×104CFU)を、外側尾静脈から接種した。感染から3週間後に致死させたマウスのサブグループの感染肺胞マクロファージの組織学的染色によって、ヒト結核菌SO2株を感染させたマウスの肺中のアルコール−酸耐性菌の数が、BCGと比べて少ないことが明らかになった。より高い用量のBCG(2×105CFU)を接種されたマウスは、全て、感染後92日で死亡した(平均生存期間:89±3.5日間)(図2b)。それとは対照的に、最高用量のSO2(5.4×106CFU)に感染されたマウスは、全て、120日後生存していた(図2b)。死亡時、BCG、2×105CFUを感染させたマウスの肺の細菌量は、SO2、5.4×106CFUを感染させたマウスと比べるとすると、少なくとも100倍を超えていた。
【実施例4】
【0055】
ワクチン接種されたBalb/cマウスの定量的CD4+およびCD8+応答
本発明のSO2およびBCGをワクチン接種によって誘発された細胞性免疫の活性化を比べるために、ワクチン接種後7日目、14日目、30日目、45日目および60日目に、細胞懸濁液を、本発明のSO2菌株およびBCGフィプスのワクチンを皮下注射により接種された少なくとも4匹のBalb/cマウスの群の脾臓から採取し、CD4+細胞およびCD8+細胞の相対比率を、細胞蛍光測定法により測定した(図3)。SO2のワクチン接種により、ワクチン接種から14日後に、BCGのワクチン接種と比較して有意に高い数のCD4+細胞が、および45日後に、有意に高い数のCD8+細胞が誘発された。これらの脾臓細胞を、ヒト結核菌培養ろ液から誘導された全抗原で刺激した。3日後、リンパ球集団をフローサイトメトリーによって分析し、CD4+/CD8+細胞およびIFN−□の細胞内合成の検出のために特異的抗体を合わせた。SO2のワクチン接種により、ワクチン接種から45日後、BCGと比較して有意に高い比率のCD4+/IFN−□+産生細胞が誘発された(図3)。所定時間後、CD8+/IFN−□+を産生する細胞の比率は、常に、SO2群の方が高かった(14日目に有意差)。
【実施例5】
【0056】
Balb/cマウスにおいて、本発明のSO2により生み出される防御免疫
本発明のSO2菌株がSCIDマウスで弱毒化されることが証明されたので、観察された病原性の減少により、突然変異菌株に対し、ある種の予防特性が付与されるのかどうかを決定することに関心がもたれた。本発明のSO2菌株またはBCG(パスツール)のワクチンを、Balb/cマウスに皮下注射により接種した。ワクチン接種から8週間後、全てのマウスに、2.5×105CFUのヒト結核菌H37Rvを、静脈内注射で投与した。注射から4週間後、マウスを致死させた。マウスの両群の肺および脾臓から回収された生存ヒト結核菌H37Rvの数を求めることによって、予防レベルを決定した(図4)。両ワクチンとも、生理食塩水で処置された対照と比べると、類似した、しかし有意なレベルの予防を付与した(p<0.05)。ヒト結核菌H37Rv増殖の阻止が、肺および脾臓の両方において記録され、減少は、それぞれ、約1.5log10および1.3log10CFUであった。
【実施例6】
【0057】
モルモットにおける本発明のSO2の防御免疫
マウスワクチン接種実験で得られた結果は、本発明のSO2菌株の弱毒化により、BCGパスツールの特性に類似するワクチン特性を該菌株に付与されることを示した。しかし、モルモットは、ヒト結核に関してより適切なモデルであり、疾患の進行および病理の点において多くの類似性を有することが一般的に認められている。したがって、この動物モデルは、ワクチンの効能を評価するために、より適正なシステムである。本発明のSO2菌株の予防効果を調べるために、我々は、ワクチン接種された動物に対する低用量(10〜50CFU)および高用量(500CFU)での噴霧投与に関連する実験を行った。6匹のモルモットの群に、本発明のSO2またはBCGのワクチンを、皮下注射により接種した。ワクチン接種から10週間後、モルモット全てにヒト結核菌H37Rvの吸入量を投与した。
【0058】
4週間後、低用量を受けた動物を致死させ、肺および脾臓中の細菌量を計測した。各処置群のモルモットの器官から回収した生存ヒト結核菌H37Rvの数を比較することによって、予防効果を測定した。この実験で、肺および脾臓におけるCFUの減少は、ワクチン接種されていない対照動物と、BCGまたはヒト結核菌SO2のワクチンを接種されたものとの間では有意差があった(p=0.005)。しかし、ワクチンを接種された群の間では有意差は見出せなかった(図5)。
【0059】
高用量を受けたモルモットを、投与から180日後、または体重の20%喪失が記録された時、致死させた。予防レベルを、各処置群のモルモットの生存期間を比較することによって決定した。病変発生の進行もワクチン接種された/感染されたモルモットにおいて試験し、ワクチン接種されていない/感染されていない動物において観察されたものと比較した。吸引に続く実験段階で、ワクチン接種されていない全てのモルモットおよびBCGワクチンを接種された4匹のモルモットは、ヒト終止点、重篤で進行性の疾患のため終止点前の時点(180日目)で、致死させた(図6a)。一方、本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたモルモットは全て、試験期間の間中生存した。本発明のSO2菌株のワクチンを接種されたモルモットは、BCGワクチンを接種されたものより、有意に長く生存し(p=0.018)し、同様に、生理食塩水で処置された対照モルモットより有意に長く生存した(p=0.0049)。さらに、SO2菌株をワクチン接種されたモルモットは、体重を増やし、疾患の視覚的なまたは臨床的ないかなる兆候も存在しなかった。
【0060】
全肺硬化によって測定した肺疾患の程度も、異なる処置群の間で様々であった。疾患の進行の最高レベルは、予測通り、ワクチン接種されていないモルモットにおいて観察され、この動物群で測定された硬化の平均比率は、76%であった(図6b、6c)。肉腫の融合がBCCワクチンを接種されたモルモットにおいても発現し、肺で測定した平均硬化は、70%であった。一方、本発明のSO2のワクチンを接種されたモルモットでは、より少ない硬化(約50%)が観察された。この硬化は、ワクチン接種されていない動物およびBCGのワクチンを接種された動物に比べ、有意に少なかった(p<0.05)(図6c)。疾患の重篤度に関するこの減少も、肺および脾臓のホモジネートの細菌計測に反映された。ワクチン接種された群では、ヒト結核菌H37Rv増殖阻止のレベルの差が、両器官で観察された。SO2ワクチンを接種されたモルモットから回収されたCFUの数は、BCGワクチンを接種されたモルモットからの数に比べ、1×log10を超えて減少し、この減少は、脾臓において統計的に有意であった(p<0.05)(図6d)。これらのデータは、感染モルモットにより高い生存率を付与し、肺における疾患の重篤度を減少し、感染が脾臓に広がるのを阻止する点で、本発明のSO2菌株が、BCGより良好であることを示した。
【実施例7】
【0061】
本発明のSO2の弱毒化は、PhoP−DIM−二重突然変異に起因する。
【0062】
SO2(phoP−DIM−)菌株の静脈注射によるBalb/Cマウスの感染試験を、野生型MT103菌株と比較し、phoP(SO2+pSO5)で補完された菌株は、BalbCマウスへの静脈注射によるSO2の感染の弱毒化が、phoPでの補完により復元されないことを示した。3週間および6週間後に測定された脾臓(7a脾臓)および肺(7b肺)におけるコロニー(CFU)の減少は、免疫適格マウスにおいてそれは毒性がないため、補完菌株では復元されなかった。これらの実験は、驚くべき弱毒化は、第二の更なる突然変異に起因する可能性があることを示唆している(図7)。
【0063】
薄層クロマトグラフィーによるヒト結核菌の異なる菌株の脂質試験により、SO2菌株はDIMを産生せず、これがphoP突然変異とは無関係であることが示された(図8)。
【0064】
SO2に毒性がないことを示すために、6匹のモルモットにワクチンを50回接種した。6ヶ月の実験期間後の生存率は100%であった。6ヵ月後、体重増加が全ての動物で観察され、これは、SO2菌株に毒性がないことを示している(Y=体重(グラム)および感染の週、X=時間(週))図12。
【0065】
抗結核薬に対する感受性も試験した。ヒト結核菌株H37Rv、対照としてMT103(野生型)、およびSO2菌株に対する抗結核薬、エタンブトール、イソニアジド、リファンピシンおよびストレプトマイシンの最小阻止濃度(MIC)を決定した。数値(ミクログラム/ml)は、phoP遺伝子の不活性化後、SO2候補ワクチン菌株は、結核に対して臨床的に使用される最も一般的な薬物に対する感受性を保存することを示す。
【0066】
気管内に接種されたBalbC−マウスにおける弱毒化の試験は、20週間後、ヒト結核菌DIM−(1A29)株に関し、マウスの50%が生存したことを示した。驚くべきことに、SO2(phoP−およびDIM−突然変異)を接種された動物は、全て、実験の20週間の間生存した(図11)。
【実施例8】
【0067】
本発明のSO2予防は、PhoP−DIM−二重突然変異に起因する。
【0068】
ワクチン接種され、ヒト結核菌H37Rvを噴霧によって感染されたモルモットに関して、予防を試験した。モルモットは300日後生存していた。皮下注射によるワクチン接種後、動物を高用量のヒト結核菌(H37Rv)の毒性のある菌株で感染させ、生存性を試験した。60日後、ワクチン接種されなかった6匹のモルモットが死亡した一方、SO2、phoP−およびBCGのワクチンを接種された群は生存した。感染から300日後、BCGおよびphoP−のワクチンを接種された3匹のモルモットは死亡したが、SO2のワクチンを接種された群は1匹だけ死亡した。これは、phoP突然変異の予防は、現在のワクチン、BCGの予防に類似し、一方、SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異ワクチン接種は、モルモットモデルにおいて、より良好に予防していることを示す(図13)。
【0069】
モルモットを使用するこれらの予防試験は、400日間続けたが、ワクチン接種していない6匹のモルモットは、60日後に死亡した。感染から400日後、SO2のワクチンを接種された群の3匹のモルモット(図14a)は生存しており、一方、BCG(図14aおよび図14b)およびphoP−(図14b)のワクチンを接種されたモルモットは、1匹のみ生存した。これもまた、phoP突然変異の予防は、BCGの予防と類似し、一方、400日間の実験後、SO2、phoP−およびDIM二重突然変異のワクチン接種は、より良好に予防したことを示している。
【実施例9】
【0070】
fadD26遺伝子の除去による突然変異に基づく候補結核ワクチンの構築
fadD26(ΔfadD26)遺伝子の除去による突然変異の構築のために使用されるヒト結核菌株は、SO2であり、これは、カナマイシン耐性カセットの挿入により不活性化されたphoP遺伝子と、MT103臨床菌株とを含む。
【0071】
1.プラスミドの構築
1.1.DIM合成に関与するfadD26遺伝子のクローニング。ヒト結核菌H37RvからのゲノムDNAを使用し、プライマーfadD26Fw(配列番号:1)およびfadD26Rv(配列番号:2)を使用し、PCRによって、fadD26遺伝子を増幅させた。PCR産物をpGEM−T Easyベクター(Promega社)に挿入し、プラスミドpAZ1を構築した。
1.2.fadD26遺伝子の除去およびヒグロマイシン耐性カセットの挿入。res−Ωhyg−resカセット(γδレゾルバーゼにより認識されるres部位は、二代継代において耐性マーカーの除去を可能にする)を含む、pWM27のBamHI−EcoRVフラグメント(Malagaら、2003)を、pAZ1中のfadD26のBamHI−EcoRV部位の間に挿入し、pAZ3を構築した。
1.3.相同組換えによる遺伝子の不活性化用の自己不活化ベクターの構築。プラスミドpAZ3をXholで消化し、fadD26::Ωhyg挿入物を放出し、これをpJQ200Xベクターに導入し、同じ酵素で直線化した。最終プラスミドをpAZ5と命名した。
【0072】
2.ヒト結核菌DIM−株の構築
2.1.プラスミドpAZ5を、ヒト結核菌SO2およびMT103菌株に挿入した。
2.2.単一組換えの選択。プラスミドを含む細菌のヒグロマイシン(20μg/ml)における培養、およびゲンタマイシン(10μg/ml)に対するその耐性の検査。
2.3.二重組換えの選択。サッカロース2%(Pelicicら、1997)およびヒグロマイシンにおける単一組換えの培養、およびゲンタマイシンに対するそれらの耐性の検査。
【0073】
3.ΔfadD26突然変異からの抗生物質耐性マーカーの削除
3.1.res−Ωhyg−resカセットを削除し、抗生物質耐性マーカーのない突然変異体を産生するために、γδレゾルバーゼを含むプラスミドpWM19を挿入し、ゲンタマイシン耐性によって選択する。次いで、サッカロース2%中で39℃で培養することによってプラスミドを削除する。(Malagaら、2003)。
実施例2.2.除去ΔphoPΔfadD26による二重突然変異の構築のために使用されるヒト結核菌株は、MT103ΔfadD26である。
【0074】
4.プラスミドの構築
4.1.phoP遺伝子のクローニング。ヒト結核菌H37RvからのゲノムDNAを使用し、およびプライマーphoPF(配列番号:3)およびphoPR(配列番号:4)を使用して、PCRによってphoP遺伝子を増幅した。PCR産物を、pGEM−T Easyベクター(Promega社)に挿入し、プラスミドpAZ11を構築した。
4.2.phoP遺伝子の除去およびカナマイシン耐性カセットの挿入。res−Ωkm−resカセットを含むpCG122のBamHI−EcoRVフラグメント(Malagaら、2003)を、pAZ11中のphoPのBc/I−EcoRV部位の間に挿入し、pAZ13を構築した。
4.3.相同組換えによる遺伝子の不活性化のための自己不活化ベクターの構築。プラスミドpAZ13をXholで消化し、phoP::Ωkm挿入物を放出させ、これをpJQ200Xベクターに導入し、同じ酵素で直線化した。最終プラスミドをpAZ15と命名した。
【0075】
5.ヒト結核ΔphoPΔfadD26二重突然変異菌株の構築
5.1.プラスミドpAZ15を、ヒト結核菌MT103ΔfadD26株に挿入する。
5.2.単一組換えの選択。細菌プラスミドを含む細菌のカナマイシン(20μg/ml)における培養、およびゲンタマイシン(10μg/ml)に対するその耐性の検査。
5.3.二重組換えの選択。サッカロース2%(Pelicicら、1997)およびカナマイシンにおける単一組換えの培養、およびゲンタマイシンに対するそれらの感受性の検査。
【0076】
6.ΔphoP突然変異からの抗生物質抵抗性マーカーの削除
6.1.res−Ωkm−resカセットを削除し、抗生物質耐性マーカーのない突然変異体を産生するため、γδレゾルバーゼを含むプラスミドpWM19を挿入し、ヒグロマイシン耐性(20μg/ml)によって選択する。次いで、サッカロース2%中、39℃で培養することによってプラスミドを削除する(Malagaら、2003)。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ウェスタンブロット法による分析。PhoPおよびESAT−6に対するポリクローナル抗体を使用する、MT103、本発明のSO2菌株およびBCGパスツールの細胞外タンパク質抽出物のウェスタンブロット画像。MT103菌株はESAT6+およびphoP+表現型を有し、SO2菌株はPhoP−およびESAT6+表現型を有し、BCGワクチン菌株はPhoP+およびESAT6−である。
【図2】SCIDマウスにおける本発明のSO2菌株の弱毒化。a 20CFUのSO2、pSO5が補完されたSO2(SO2+pSO5)およびMT103を噴霧感染させたSCIDマウス(n=10)に関する生存率曲線。生存の平均日数は、245日超(SO2)、62.1±5.88日(SO2+pSO5)および36.7±0.67日(MT103)であった。噴霧によりSO2菌株を感染させたマウスは、実験の245日間生存したが、MT103およびPhoPを補完したSO2菌株を感染させたマウスは、62日目前に死亡した。b 静脈注射によって5.4×106CFUのSO2および2×105CFUのBCGパスツールを感染させたSCIDマウス(n=7)に関する生存率曲線。これは、SO2菌株の弱毒化のレベルは、現在ヒトに使用されている結核ワクチンであるBCGのレベルより大きいことを示す。
【図3】本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種されたマウスにおける細胞性免疫応答。Balb/cマウスに、皮下注射により、8×103CFUのBCG(フィプス)または2.5×103CFUの本発明の菌株のワクチンを接種した。結果を、ワクチン接種後、所定の間隔をあけた脾臓内のCD4+/CD8+の合計個数の比率、および完全ヒト結核菌抗原で刺激した後、CD4+/CD8+の合計個数のIFN−γを発現した細胞の比率として示す。*は、ある時点における群の間の統計学的有意差(p<0.005)を表す。細胞性免疫応答の結果は、BCGのワクチンを接種されたマウスに対して、SO2菌株のワクチンを接種された動物のCD4+リンパ球の数は、14日目、30日目、45日目および60日目でより多く、ヒト結核菌抗原に対し特異的なIFNγの産生は、45日目および60日目において有意であることを示す。BCGのワクチンを接種されたマウスに対して、SO2菌株のワクチンを接種された動物のCD8+リンパ球の数は、45日目および60日目において多く、ヒト結核菌抗原に対し特異的なIFNγの産生は、14日目において有意である。
【図4】ワクチンを接種されたBalb/cマウスにおける、BCGに比べた本発明のSO2の予防効果。本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種し、ヒト結核菌H37Rvを静脈内投与で感染させたBalb/cマウスの肺(a)および脾臓(b)から回収したCFU数。SO2のワクチンを接種されたマウスの肺および脾臓中のCFUの減少は、BCGのワクチンを接種された場合に得られたものと類似し、ワクチンを接種されていないマウスに対して、有意な予防を示す。
【図5】低用量のヒト結核菌H37Rvに対する本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種されたモルモットにおける予防効果。低用量のヒト結核菌H37Rvを含む生理食塩水を注射された、ワクチン接種モルモットおよび対照モルモットの肺(a)および脾臓(b)中のlog10CFU/mlの平均値。データは、4週間後に致死させた動物(n=6)全ての平均CFUを表す。エラーバーは、標準偏差を示す。低用量のヒト結核菌が感染した、SO2のワクチンを接種されたモルモットの肺および脾臓中のCFUの減少は、BCGのワクチンを接種した場合に得られたものと類似し、ワクチンを接種されていないマウスに対して有意である。
【図6】高用量のヒト結核菌H37Rv感染に対する本発明のSO2菌株およびBCGのワクチンを接種したモルモットにおける予防効果。a 低用量で感染したマウスおよびモルモットにおける予防実験により、SO2およびBCGのワクチンを接種したマウスにおいて明らかな予防が示されたが、BCGとSO2との間に差がない場合は、高用量で感染したモルモットモデルを使用した。ヒト結核菌H37Rvの噴霧感染後のモルモットに関する生存率曲線。b 全肺硬化により測定した肺疾患の程度および感染の程度。ヒト終点で致死させたそれぞれ個々の動物の数値を「x」で印をつける。破線は、群(SO2における数は2匹の動物に対応する)の比率の平均値を示す。c それぞれの治療群のモルモットから採取した肺葉の代表的な部分の低解像度(×30)の画像。バーは1mmを表わす。d ワクチン接種されたおよびされていないモルモットの脾臓および肺における平均CFU数。この実験では、ヒト結核菌を高用量感染されたモルモットモデルにSO2のワクチンを接種したモルモットは、BCGワクチンを接種されたものより有意に長く生存し、また、現在のBCGワクチンに対して、肺病変がより少なく、脾臓および肺におけるCFU数がより少ないことが示される。
【図7】BalbCマウスにおいて本発明のSO2の静脈内感染の弱毒化は、phoPを補完することによって復元されない。野生型MT103菌株およびphoPが補完された菌株(SO2+pSO5)と比較した、Balb/Cマウスにおける105CFUのSO2(phoP−DIM−)菌株の静脈内感染の試験。3週間および6週間後に測定すると、コロニー(CFU)の減少が、脾臓(7a:脾臓)および肺(7b:肺)の両方に観察された。野生型菌株のCFUのレベルは、補完された菌株には復元されなかった。免疫適格マウスにおけるこれらの実験は、予期し得ない弱毒化が、phoP補完によって復元されない第二の更なる突然変異体に起因する可能性があることを示唆する。
【図8】本発明のSO2菌株はDIMを産生せず、DIM合成はphoP突然変異とは無関係である。薄層クロマトグラフィーによる、ヒト結核菌の異なる菌株からの脂質の分析。8a DIM産生は、MT103菌株で観察することができるが、一方DIMは、SO2菌株およびphoP(SO2pSO5)による補完では産生されない。これは、SO2に関し、DIMの不在は、phoPとは無関係であることを示す。8bは、MT103菌株およびphoP(MT103ΔphoP::hyg)遺伝子のみを不活性化するMT103菌株を示し、両方ともDIMを合成することができる。これにより、DIM産生がphoP突然変異とは無関係であることが確認される。
【図9】fadD26遺伝子の不活性化に関するプラスミドの構築。
【図10】phoP遺伝子の不活性化に関するプラスミドの構築。
【図11】マウスにおける弱毒化の試験。ヒト結核菌の異なる菌株の弱毒化を試験するために、気管内に接種されたBalb/Cマウスの生存率曲線。H37RvおよびMT103は、突然変異のないヒト結核菌の菌株に相当し、全てのマウスは、第10週目の前に死亡した。ヒト結核菌DIM−(1A29)株に関し、マウスの50%は、20週後も生存していた。SO2(phoP−およびDIM−突然変異体)を接種された動物は全て、実験の20週間の間生存した。
【図12】50回分のワクチン用量によるSO2の毒性を試験するための、モルモットの生存率と体重曲線。SO2に毒性がないことを示すために、6匹のモルモットに、50回分のワクチン用量を接種した。6ヶ月の実験期間後、生存率は100%であった。6ヶ月間で、体重の増加が全ての動物に観察され、SO2菌株に毒性がないことが示された(Y=体重(グラム)および感染週。X=期間(週))。
【図13】ヒト結核菌感染後のワクチン接種されたモルモットの生存率。モルモットにおける予防試験、300日後の生存率。ワクチン接種されていないモルモット(生理食塩水)、現在のBCGワクチンを接種された、およびヒト結核菌phoP−株またはSO2(phoP−およびDIM−突然変異)を接種されたモルモットの生存率曲線。生存率を試験するために、皮下ワクチン接種後、動物に、高用量のヒト結核菌(H37Rv)の毒性菌株を感染させた。60日後、ワクチン接種されていない6匹のモルモットは死亡し、一方S02、phoP−およびBCGのワクチンを接種された群は、生存していた。感染から300日後、BCGおよびphoP−のワクチンを接種された3匹のモルモットは死亡したが、SO2のワクチンを接種された群は1匹だけが死亡した。これは、phoP突然変異による予防は、現在のワクチンBCGによる予防に類似し、一方モルモットモデルにおいて、SO2、phoP−およびDIM−二重突然変異のワクチン接種は、より良好に予防することを示す。
【図14】モルモットにおける予防試験、400日後の生存率。図13に示された実験の継続。ワクチン接種されていない6匹のモルモットは、60日後に死亡した。感染から400日後、SO2のワクチン接種をされた群のうち3匹のモルモット(図14a)は生存し、一方BCGのワクチン(図14aおよび図14b)およびphoP−(図14b)を接触されたモルモットは1匹のみ生存し、これもphoP突然変異の予防は、BCGの予防に類似し、一方、SO2、phoP−およびDIM二重突然変異のワクチン接種は、400日の実験後、より良好に予防することを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された、マイコバクテリア属に属する微生物であって、
a)phoP遺伝子と、
b)DIM産生を阻止する第二遺伝子と
の不活性化または除去を含むことを特徴とする微生物。
【請求項2】
前記phoP遺伝子が、Rv0757遺伝子の不活性化または除去によって不活性化されている、請求項1に記載の単離された微生物。
【請求項3】
DIM産生が、Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されている、請求項1または2のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項4】
前記微生物が、前記Rv2930遺伝子および前記Rv0757遺伝子の除去または不活性化を含むことを特徴とする、請求項3に記載の単離された微生物。
【請求項5】
マイコバクテリア属の種が、ヒト結核菌複合体に属する、先の請求項のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項6】
a)前記phoP遺伝子の不活性化または除去と、
b)DIM産生を阻止する第二遺伝子の不活性化または除去と、
を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を構築する方法。
【請求項7】
前記phoP遺伝子が、前記Rv0757遺伝子の不活性化によって不活性化されている、先の請求項に記載の方法。
【請求項8】
DIM産生が、前記Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されている、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
結核によって引き起こされる症状に対して免疫を与えるまたは該症状を予防するワクチンであって、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を含むワクチン。
【請求項10】
薬理学的に許容し得る賦形剤をさらに含む、先の請求項に記載のワクチン。
【請求項11】
結核によって引き起こされる症状に対して免疫を与えるまたは該症状を予防する請求項9〜10のいずれかに記載のワクチンを調製する方法であって、
a)請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を、治療に効果的な用量をヒトまたは動物に投与するために適切な媒体に導入することと、
b)ワクチンの製造に薬理学的に適切な賦形剤を選択的に加えることと、
を少なくとも含む方法。
【請求項12】
医薬品としての使用のための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項13】
ワクチンとしての使用のための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項14】
膀胱癌治療において使用するための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項15】
結核治療または予防において使用するための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項16】
ベクターまたはアジュバントとしての使用のための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項17】
ヒトまたは動物における結核を予防するまたはそれに対して免疫を与えるための請求項9または10のいずれかに記載のワクチンを調整するための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物の使用。
【請求項1】
単離された、マイコバクテリア属に属する微生物であって、
a)phoP遺伝子と、
b)DIM産生を阻止する第二遺伝子と
の不活性化または除去を含むことを特徴とする微生物。
【請求項2】
前記phoP遺伝子が、Rv0757遺伝子の不活性化または除去によって不活性化されている、請求項1に記載の単離された微生物。
【請求項3】
DIM産生が、Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されている、請求項1または2のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項4】
前記微生物が、前記Rv2930遺伝子および前記Rv0757遺伝子の除去または不活性化を含むことを特徴とする、請求項3に記載の単離された微生物。
【請求項5】
マイコバクテリア属の種が、ヒト結核菌複合体に属する、先の請求項のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項6】
a)前記phoP遺伝子の不活性化または除去と、
b)DIM産生を阻止する第二遺伝子の不活性化または除去と、
を含む、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を構築する方法。
【請求項7】
前記phoP遺伝子が、前記Rv0757遺伝子の不活性化によって不活性化されている、先の請求項に記載の方法。
【請求項8】
DIM産生が、前記Rv2930(fadD26)遺伝子の除去または不活性化によって不活性化されている、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
結核によって引き起こされる症状に対して免疫を与えるまたは該症状を予防するワクチンであって、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を含むワクチン。
【請求項10】
薬理学的に許容し得る賦形剤をさらに含む、先の請求項に記載のワクチン。
【請求項11】
結核によって引き起こされる症状に対して免疫を与えるまたは該症状を予防する請求項9〜10のいずれかに記載のワクチンを調製する方法であって、
a)請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物を、治療に効果的な用量をヒトまたは動物に投与するために適切な媒体に導入することと、
b)ワクチンの製造に薬理学的に適切な賦形剤を選択的に加えることと、
を少なくとも含む方法。
【請求項12】
医薬品としての使用のための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項13】
ワクチンとしての使用のための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物。
【請求項14】
膀胱癌治療において使用するための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項15】
結核治療または予防において使用するための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項16】
ベクターまたはアジュバントとしての使用のための、請求項12に記載の医薬品。
【請求項17】
ヒトまたは動物における結核を予防するまたはそれに対して免疫を与えるための請求項9または10のいずれかに記載のワクチンを調整するための、請求項1〜5のいずれかに記載の単離された微生物の使用。
【図1】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a1】
【図14a2】
【図14a3】
【図14b1】
【図14b2】
【図14b3】
【図6c】
【図2a】
【図2b】
【図3】
【図4a】
【図4b】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図6d】
【図7a】
【図7b】
【図8a】
【図8b】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14a1】
【図14a2】
【図14a3】
【図14b1】
【図14b2】
【図14b3】
【図6c】
【公表番号】特表2009−529901(P2009−529901A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−500878(P2009−500878)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/ES2007/070051
【国際公開番号】WO2007/110462
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508278228)ユニバーシダード デ ザラゴザ (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/ES2007/070051
【国際公開番号】WO2007/110462
【国際公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(508278228)ユニバーシダード デ ザラゴザ (4)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]