説明

絞り・しごき成形におけるパンチ冷却の方法とその構造

【課題】 本発明が解決しようとする課題は、メンテナンスの必要性を低くするためラム部に樹脂製の中子を用いない単純構造とし、高速成形を可能とするように温調水とエアーの供給量と、パンチ部の冷却効率を向上させたパンチ構造体を提供することにある。
【解決手段】 本発明のパンチ構造体は、中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラムを備えるようにし、パンチ構造体の多数の貫通孔は軸対称な配置とし、更に、本発明のパンチ構造体は、温調水とエアー通路用の他に空洞としての貫通孔を設けるようにすると共に、パンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路を形成するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は缶を絞り・しごき成形によって製造する際に使われるパンチの加工発熱による温度上昇を抑え、冷却する方法とパンチ冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に缶ビールや清涼飲料水等の金属缶を製造する場合に、まず素材となる金属円板に絞り加工を行って絞り缶を成形し、その後で絞り缶にしごき加工を施して所定の形状・厚み寸法の金属缶を成形する方法が採られている。このしごき加工では絞られた缶がパンチの先端部に被せられ、徐々に開口径が小さくなるように配置された複数のダイ内をパンチのストロークによって運ばれ、順次通過させられるたびにしごかれて胴壁部の厚さを薄くされていく。
【0003】
有底薄肉缶体の成形装置による該缶体の成形工程が特許文献1に示されている。その成形工程は先ず、展延性金属の円形ブランクを絞り加工により缶底形成部Yと該缶底形成部Yに連接された筒状の缶胴形成部Zとからなるカップ状成形物Xに形成する絞り加工が行われる。続いて、図6(a)に示すように、パンチ構造体Pの先端にカップ状成形物Xを嵌着し、該パンチ構造体Pをツールパック16の貫通孔に挿通する方向に突入させる。パンチ構造体Pの先端に嵌着されたカップ状成形物Xは、図6(b)に示すように、リドローダイ14にその外周面を摺接しつつ移動されて所定の内径のカップ状成形物X0に成形する再絞り加工が行われる。次いで、図6(c)乃至(e)に示すように、パンチ構造体Pをツールパック16の貫通孔に挿通し、順次、第1アイアニングダイ15、第2アイアニングダイ15及び第3アイアニングダイ15により、しごき加工されて成形されるカップ状成形物X1,X2 及びX3 の缶胴形成部Zを缶底形成部Y側から缶胴形成部Zの開口側に向かって延伸させて、所定の缶高、缶径、胴壁厚のカップ状成形物X4 に成形するしごき加工が行われる。
【0004】
このしごき加工の工程について更に詳細に説明すれば、先ず、図6(c)に示すように、パンチスリーブに嵌着されたカップ状成形物X0の外周面を、ツールパック16の貫通孔に設けられた前記第1アイアニングダイ15の内周側を挿通させることによって、第1のしごき加工が行われる。これにより、前記第1アイアニングダイ15に摺接して移動されたカップ状成形物X1は、缶胴形成部Zの先端に向かって徐々にしごき量が増加されて延伸され、その缶胴形成部Zの肉厚が薄く成形される。次いで、前記第1アイアニングダイ15によって延伸されたカップ状成形物X1は、図6(d)に示すように、前記第2アイアニングダイ15に摺接して移動されて第2のしごき加工が行われる。続いて、前記第2アイアニングダイ15によって延伸されたカップ状成形物X2は、図6(e)に示すように、前記第3アイアニングダイ15に摺接して移動されて第3のしごき加工が行われる。以上のようなしごき加工によって、カップ状成形物X2 の缶胴形成部Zが延伸されて所定の缶高、缶径、胴壁厚に成形される。このとき、前記第2のしごき加工が、カップ状成形物X1の缶底形成部Yと缶胴形成部Zとの境界から延伸を開始されることにより、缶胴形成部Z全体に対して第2の缶胴の延伸が施され、その後、缶胴形成部Z全体について前記第3のしごき加工が一定のしごき量で行われるので、缶胴形成部Z全体の表面は、しごき量の変化による光沢の差異が発生することなく均一に平滑に成形される。そして、前記しごき加工によって缶胴が形成されたカップ状成形物X3は、図6(f)に示すように、パンチ構造体Pに嵌着された状態で前記ドーミングステーションのドーミングダイ17に衝打されてその缶底形成部Yがドーム形状に成形される。
【0005】
以上の成形工程におけるパンチの外径とダイの内径間で金属表面をしごくこの加工は発熱を伴うため、適度の冷却をするなどパンチの温度調整が必要とされる。特許文献2には冷却機能を備えた缶のしごき加工用のパンチ構造体Pが開示されている。その構造は図4,5に示されるようにラム8内部に樹脂製の中子m1,m2が2ピース挿入されており、先端の手前まで温調水を循環させている。パンチ部1は内側がくりぬかれておりそのスペースに温調水が充満する構造となっている。流入管21からの温調水はパンチの先端側(ドーム側)19より導入され、後ろ側20から排出管22へ排出される流路が形成されているが、パンチ1の内部には特に流入された温調水が順次流れて流出するような流路は設けられて無く、単に連続した溝若しくはクリアランス18となっているだけである。パンチ温調を行うため、ラム8内部にチューブ配管または二重構造として温調水・エア通路を確保する構造としているが、樹脂材から成る中子構造m1,m2とするなど複雑な構造を採っているので、経時変化による損傷・劣化が発生することとなり部品の定期交換が必要となる。また、高速稼働を行うとさらに耐久性が下がることとなる。複雑な構造であるため、シール・部品固定等に領域をとられ、温調水・エア通路断面積を確保しにくい上、成形が厄介であり生産性にも劣る。
【特許文献1】特開平6−142780号公報 「有底薄肉缶体の成形方法」 平成6年5月24日公開 段落[0014]乃至[0021]及び図1の記載。
【特許文献2】米国特許第6,598,450号明細書 "INTERNALLYCOOLED PUNCH" 2003年7月29日登録
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、メンテナンスの必要性を低くするためラム部に樹脂製の中子を用いない単純構造とし、高速成形を可能とするように温調水とエアーの供給量と、パンチ部の冷却効率を向上させたパンチ構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のパンチ構造体は、中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラムを備えるようにした。
また、本発明のパンチ構造体の多数の貫通孔はラムの中心軸に対して軸対称な配置とした。
更に、本発明のパンチ構造体は、温調水とエアー通路用の他に空洞としての貫通孔を設けるようにした。
本発明のパンチ構造体のパンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路を形成するようにした。
本発明のパンチ構造体のパンチスリーブは、超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されている。
本発明のパンチ構造体は、パンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路が形成されたパンチ部と温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラム部が連結されるようにした。
本発明のパンチ構造体は、パンチスリーブが超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されているパンチ部と中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラム部が溶接によって一体構造とされるようにした。
【発明の効果】
【0008】
本発明のパンチ構造体は、中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成したラムを備えるようにしたものであるから、冷却に必要な温調水量とエアー必要供給量を十分に確保することが出来、しかもラム部の構造が樹脂製の中子などを用いない単一構造体から成るものであるから、製造が容易であると共に加工を重ねても経時変化を起こすおそれが無く、メンテナンスの必要がない。
また、本発明のパンチ構造体の多数の貫通孔はラムの中心軸に対して軸対称な配置としたものであるから、偏った熱変形を起こすことがない。
更に、本発明のパンチ構造体は、温調水とエアー通路用の他に空洞としての貫通孔を設けるようにしたので、ラム部材の軽量化が達成でき、ハイスピード製缶を可能にする。
本発明のパンチ構造体のパンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路を形成するようにしたので、熱交換の効率が良いパンチが実現できた。
【0009】
本発明のパンチ構造体のパンチスリーブは、超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されているので、強固な一体構造が実現でき、パンチスリーブ自体の剛性と強度を確保できた。
本発明のパンチ構造体は、パンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路が形成されたパンチ部と温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラム部が連結されるようにしたものであるから、冷却に必要とされる温調水が供給できると共に、効率的な熱交換が実現できる。
本発明のパンチ構造体は、パンチスリーブが超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されているパンチ部と中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラム部が溶接によって一体構造とされるようにしたので、パンチ部の構造もラム部の構造も堅固であり、両部材も溶接によって堅固な結合であるから、パンチ構造体としてメンテナンスフリーでハイスピードの製缶に対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1乃至3を参照しながら、本発明の絞り・しごき成形におけるパンチ冷却の方法とその構造を説明する。図1(a)に示した図は冷却機能を備えた本発明に係るパンチ構造体Pを軸方向の面で切った断面図で、(b)の図は(a)のA−A部の軸方向に直交する面で切った断面図、そして(c)の図は(a)のB−B部の軸方向に直交する面で切った断面図である。本発明のパンチ構造体Pは、(a)の軸方向断面図において左側がパンチ部1,2で、溶接部7を介してラム部8が連接され、そのラム部の右端側がスライドヨーク13に結合された構造となっている。このパンチ構造体Pはスライドヨーク13が図示していない駆動部によって軸方向往復するようになっており、先に絞り加工され、パンチ先端部に被せられた缶素材の外周面を、図3に示されるようなツールパック16の貫通孔に設けられた複数のアイアニングダイ15の内周側を挿通させることによって、複数段のしごき加工が行われる。このしごき加工により、前記パンチ先端部に被せられた缶素材はアイアニングダイに摺接して移動されることにより、所定の厚さに引き伸ばされ、各アイアニングダイ15毎に徐々にしごき量が増加されて延伸され、その缶胴形成部の肉厚が薄く成形され、かつ軸方向長さを長くする。この絞り加工に伴う発熱を抑えてパンチや缶を適度に冷却するため、本発明のパンチ構造体Pはラム部8に温調水通路9a,9bと、パンチ部2に熱交換流路2aが備えられている。また、加工を終えた缶をパンチ部から取り外すためのエアー通路が形成されており、ラム部8にはエアー通路10が、ラム部8とパンチ部1,2を繋ぐ部分にはパイプ5が、また、パンチ部1,2には貫通孔が設けられたボルト3が連接され、このパンチ構造体Pの軸中心を全体的に貫通するように形成されている。さらに軸方向に往復運動するこのパンチ構造体Pへの温調水とエアーの供給は前記スライドヨーク13内に配設された温調水ジョイントパイプ11とエアージョイントパイプ12、更に図示していないフレキシブルなホースを介して温調水とエアーの供給源及び熱交換された温調水の回収槽へ接続されている。
【0011】
次ぎに、個々の部分構造について詳細に説明する。まず、ラム部8の構造であるが、先の特許文献2にあるような中子を用いることなく、円柱状のステンレス鋼材に軸方向に複数の貫通孔を設けた単一構造体で形成している。図1(c)に示した断面図から分かるようにアシストエアの経路に関しても最大限の内径を確保できるように中央部に径の大きなエアー通路10が形成されると共に、偏心位置に温調水通路の往路9aと復路9bとが形成されている。そしてこの温調水通路は往路9aおよび復路9bともに複数配置とし、パンチ温調での冷却性能を満足するために温調水の十分な供給と排出機能を備えるようにした。また、温調水によるラム部の熱歪みをキャンセルできる内部構造とするために、構造自体を軸対称とすると共に温調水通路の往路9aと復路9bとを配置する位置も軸対称としたものである。また、ハイスピードでの製缶を考慮して、軽量化を図るべく空洞部を形成するようにした。因みに図1に示した例では材料としてJIS規格SUS630のステンレスを用い、90°間隔で大きな径の4本の貫通孔と、その間に90°間隔で配置されている温調水通路9a,9bの近傍に2本ずつの空洞部を計8本配置した構造としている。なお、この空洞部は軸対称となる条件の下で、その数と径寸法はラム部に求められる強度と軽量化とのバランスで決められる設計事項である。
【0012】
次ぎにパンチ部の構造であるが、しごき加工を行うものとして超硬度の素材例えば図1に示した例では焼結材であるタングステンカーバイトをアウターケーシングとして用い、パンチスリーブ温調に対応するため帯状の蛇行溝2aを形成したステンレス製のインナーケーシングを組み合わせるものとし、その一体構造を堅固なものとするため冷やしバメした構造とした。このパンチスリーブ1,2の材料から、パンチスリーブ自体の剛性・強度を確保しながら高い熱伝導率を得ている。外側のパンチスリーブ1と内側のパンチスリーブ2間には内側のパンチスリーブ2に形成された帯状の溝2aの解放部を外側のパンチスリーブ1の内面で塞いだ流路が形成される。この流路は、例えば図2(b)に展開図で示すようにパンチスリーブの基部0°と180°の位置に設けられた温調水流入口から一旦先端部まで直線状に形成され、そこから基部方向に蛇行するように形成され、基部の90°と270°の位置に設けられた温調水流出口まで連通される構造を採る。給水量を確保したラム部における温調水路の構成と相乗して、特許文献2の流路のように直線状ではなく蛇行流路を淀みなく一方向に流れる構成を採用したので、十分な温調水流量が確保されると共に高い熱交換率が達成される。
【0013】
パンチ部とラム部との結合は、図1(a)から判るようにパンチの基部に外径が落とされ段部となった小径部を有した先端側ラム6が挿入され、更にその先端側ラム6の大径部がラム部8と溶接部7によって一体化される構成を採っている。そして、介在部材である先端側ラム6には中央部にエアー通路となる前記パイプ5を挿入する穴と、ラム部8の温調水通路9a,9bと前記温調水流入出口とを連通する温調水流路とが形成されている。
溶接一体構造としたことにより、水漏れ事故防止を図ると共に、堅固な構造とし、超硬度材料とステンレスの冷やしバメ構造であるパンチ部及びステンレス材の単一構造であるラム部の構成と相まってパンチ構造体全体としても堅固な構造を実現したので、ハイスピードでの缶製造を可能とし、しかもその耐久性の向上を図ることができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係るパンチ構造体の1実施例の軸方向断面図とA−A部とB−B部の横断面図である。
【図2】本発明に係るパンチ構造体の1実施例のパンチスリーブに設けられた帯状の溝構造を説明する図である。
【図3】本発明に係るパンチ構造体と組み合わされるツールパックを示した図である。
【図4】冷却機能を備えた従来のパンチ構造体を説明する図で、全体構造の軸方向断面図である。
【図5】冷却機能を備えた従来のパンチ構造体の温調水流路とその流れを説明する図である。
【図6】絞り・しごき加工で缶を成形する公知の工程を説明する図である。
【符号の説明】
【0015】
1 パンチスリーブ(アウター) 2 パンチスリーブ(インナー)
3 ボルト 4 ロックナット
5 パイプ 6 ラム(先端側)
7 ラム溶接部 8 ラム部
9a 温調水通路(往路) 9b 温調水通路(復路)
10 エアー通路 11 温調水ジョイントパイプ
12 エアージョイントパイプ 13 スライドヨーク
14 リドローダイ 15 アイアニングダイ
16 ツールパック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央に太いエアー通路を形成すると共に、温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラムを備えたパンチ構造体。
【請求項2】
多数の貫通孔はラムの中心軸に対して対称な配置とし、ラムの熱歪みによる変形を防止したことを特徴とする請求項1に記載のパンチ構造体。
【請求項3】
温調水とエアー通路用の他に空洞としての貫通孔を設け、軽量化を図ったことを特徴とする請求項1又は2に記載のパンチ構造体。
【請求項4】
パンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路が形成されたパンチ構造体。
【請求項5】
パンチスリーブが超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されている請求項4に記載のパンチ構造体。
【請求項6】
パンチスリーブには表面下を蛇行する帯状の温調水流路が形成されたパンチ部と温調水用に軸に平行した多数の貫通孔を形成した単一構造体から成るラム部が連結されたパンチ構造体。
【請求項7】
パンチスリーブが超硬質材のアウターケーシングとステンレス材のインナーケーシングが冷やしバメで嵌合されているパンチ部とラム部が溶接によって一体構造とされた請求項1乃至3のいずれかに記載のパンチ構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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