説明

絵具

【課題】 衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる。
【解決手段】反応性染料と水溶性樹脂との反応物を着色剤として含有する絵具であって、前記水溶性樹脂は平均分子量が少なくとも400のポリエチレングリコールであり、
前記ポリエチレングリコールの含有量が10重量%であり、
前記反応性染料が、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニルスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニルスルホンの二官能基型のいずれかの反応性染料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絵具として用いることができ、布、不織布などの繊維集合体に付着した場合に、水洗などにより簡単に消去できる水溶性の消去性着色剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば絵具、墨汁は、誤って衣服などの布、不織布などの繊維集合体に付着し定着した場合、洗っても簡単にはとれないという問題があった。
【0003】
従来、特開平7−3197号は、顔料を水不溶性の樹脂等と反応させて水不溶性の複合物とし、繊維集合体に染着しないようにして消去性を付与するか、又は水不溶性樹脂で顔料を覆い水不溶性の複合物の粒子径を大きくさせ、顔料の繊維の目に引っかかるのを防止して消去性を付与している。
【0004】
【特許文献1】特開平7−3197号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの技術は顔料の分子径を大きくし、繊維中での拡散を防止するのみであり、得られる着色剤組成物は顔料分散体である。さらに、後者の技術では、筆記面との定着が悪くなるため、これを防止するためにインキ成分に別途定着剤を添加する必要があった。
【0006】
本発明の課題は、染料を水不溶性樹脂との反応物で消去性を実現することなく、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる消去性着色剤組成物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の問題を解決すべく鋭意検討した結果、反応性染料と水溶性樹脂との反応物を含有する着色剤組成物が消去性を有することを見いだした。本発明は反応性染料と水溶性樹脂との反応物を含有することを特徴とする消去性着色剤組成物である。特に本発明は反応性染料と水溶性樹脂(カチオン又はアニオン変性澱粉誘導体を除く。)との反応物を着色剤として含有することを特徴とする、絵具である。
【0008】
染料に添加する水溶性樹脂は、水溶性樹脂であれば特に限定されないが、中でも、水溶性樹脂がOH基、COOH基、SO3H基若しくはNH3基、又はそれらの塩から選ばれる官能基を1又はそれ以上持つ水溶性樹脂が好ましい。合成多価アルコール系、カルボン酸(塩)系、スルホン酸(塩)系の水溶性樹脂が好ましい。具体的には、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー化合物、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリスルフォン酸、ポリスルフォン酸共重合物、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合物が好ましく、中でもポリエチレングリコールが最適である。
【0009】
着色剤に加える水溶性樹脂の平均分子量が低い場合は着色剤がにじみやすくなり、また反応した染料の分子径も小さくなるため、繊維中に入り込みやすくなることが考えられ、消去性に悪影響を及ぼす。また平均分子量が大きくなるとその水溶液は粘性が高くなり、取り扱い面から考慮して好ましくない。かかる点から、水溶性樹脂の分子量、分子の長さを調節することが重要で、染料が繊維の表面を通して拡散し難くなり、かつ粘性があまり高くない水溶性樹脂が好ましい。
【0010】
具体的には、水溶性樹脂、特にポリエチレングリコールの平均分子量は600〜7500であることが好ましい。なお、本発明でいう平均分子量は重量平均分子量を示す。
【0011】
なお、染料の分子量、分子の長さを調節する方法として、2種類を例示できる。例えば、染料合成時の原料に分子量の大きなものを用い、最終生成物形態として染料ポリマーとの反応物を得る方法である。例えば、以下の合成法で得られる。
【0012】
【化1】

【0013】
また他の方法は、樹脂を染料で染色して分子量を操作する方法である。例えば、以下の合成法で得られる。
【0014】
【化2】

【0015】
後者の方法は、特に色数が反応性染料の種類に応じて染色できるため、数多くの色の消去性着色剤組成物を提供できる点で好ましい。また作業性も良好である。本発明では、特に後者の反応物が好ましい着色剤として採用している。
【0016】
反応性染料は、格別限定されないが、特に有効なものを検討した結果、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニルスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニルスルホンの二官能基型が好ましいことが判明した。また中でも、モノクロルトリアジン型、ビニルスルホン型、特にモノクロルトリアジン型の反応性染料が最適である。
【0017】
本発明は、染料と反応させる樹脂に水溶性のものを用いることにより、繊維との定着が確保されやすく、水不溶性樹脂を用いた場合の様に定着剤の添加の必要がない。すなわち、染料を包含した水溶性樹脂はその水酸基などを有することにより繊維、特に綿などの水酸基などを多く有する繊維の表面のみと水素結合、もしくはファンデアワールス力などにより結合し、定着性においても好ましい効果を有する。さらにこのような水素結合などは結合が比較的弱く、水などで洗浄することにより、簡単に繊維との結合を切断させることができるため、消去性においても有効である。なお、必要に応じて定着剤を添加することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の消去性着色剤は、従来のように、染料を水不溶性樹脂との複合物で消去性を実現することなく、反応性染料と水溶性樹脂を反応させることによって、衣服などに誤って着色剤が付着しても染色されることなく、水洗又は洗剤使用で洗濯等により簡単に消去できる。従って、簡単な組成で、洗濯で消去できる絵具、墨汁として利用することができ、当該分野に資するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
反応性染料としては、限定されるものではないが、例えば、商品名Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)、Cibacron Black
P-2PD(チバガイギー社製)、Cibacron Black F-2B(チバガイギー社製)、Cibacron Gray G-R-01(チバガイギー社製)、Cibacron Blue
P-B (チバガイギー社製)、Cibacron Navy GR-E-01(チバガイギー社製)、Cibacron Blue F-R(チバガイギー社製)、Cibacron Red P-B(チバガイギー社製)、Cibacron Red 4G-E-N(チバガイギー社製)、Cibacron Red
F-B(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow P-6GS(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow 2G-E(チバガイギー社製)、Cibacron
Yellow F-3R(チバガイギー社製)等のモノクロルトリアジン型反応性染料、商品名 Cibacron Black
C-N(チバガイギー社製)、Cibacron Blue C-R(チバガイギー社製)、Cibacron Red C-R(チバガイギー社製)、Cibacron Yellow
C-R-1(チバガイギー社製)等のモノクロルトリアジン−ビニルスルホン二官能基型反応性染料、Remazol
Black DEN Hi-Gran(ダイスター社製)、Remazol Blue RU-N(ダイスター社製)、Remazol Red RU-N(ダイスター社製)、Remazol Yellow
RU-N(ダイスター社製)等のビニルスルホン型反応性染料、商品名 Levafix Navy Blue
E-BNA GRAN(ダイスター社製)、Levafix BR.Red E-RN(ダイスター社製)、Levafix G Yellow E-G(ダイスター社製)等のジクロルキノキサジン型反応性染料を用いることができる。
【0020】
水溶性樹脂としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、カルボン酸変性ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリスチレンスルフォン酸ソーダのほか、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、プルラン、ポリアクリル酸イタコン酸共重合体などのうち1種または2種以上混合して使用できるが、消去性、価格、取り扱いなどを考慮するとポリエチレングリコールが最適である。
【0021】
着色剤組成物には、定着剤、増量剤、防腐剤、防黴剤、香料、界面活性剤、pH調整剤、粘度調整剤、分散剤、保水剤、湿潤剤、消泡剤、レベリング剤、粘弾性調整剤、にじみ防止剤、水、アルコールなど一般に墨汁、絵具に含まれるものを含めることができる。
【0022】
本発明の着色剤は、絵具、墨汁などとして使用可能であり、これらが誤って衣服などに付いた場合でも繊維の表面を通して繊維内に入り込むことがないため、水洗または洗濯により簡単に消去することができる。
【0023】
本発明の消去性着色剤組成物は、繊維であれば特に限定されずに使用できるが、特に、綿、羊毛、ナイロン、ビニロン、アセテート、ウール、レーヨン、アクリル、絹、ポリエステルなどの繊維に対して有効に作用する。特に、反応性染料の場合、当該染料のみでは、綿、レーヨンといったセルロース骨格、ビニロンといったPVA骨格の様にOH基を持つ繊維や、ウール、絹といったアミンを持つ繊維で染まる傾向があり、染料とOH基やアミンの間に何らかの相互作用(結合)が生じると考えられるが、水溶性樹脂、特にポリエチレングリコールと反応させることにより洗濯での消去性がほぼ全ての繊維において向上する。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
(実施例1)
蒸留水125gに硫酸ナトリウム(Na2SO4)12.5gを溶解し、撹拌しながらポリエチレングリコール(平均分子量600)を15gと反応性染料 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)を1.5g添加し、30分間撹拌する。その後、90℃まで加熱してアルカリ(Na2CO3水溶液20g/1.25ml)を添加し90℃で1時間撹拌した。自然冷却後、二層分離したので着色部(上層)のみ回収し、黒色の着色剤組成物を得た。
(実施例2)
蒸留水125gに硫酸ナトリウム(Na2SO4)12.5gを溶解し、撹拌しながらポリエチレングリコール(平均分子量3000)を15gと反応性染料 Cibacron Gray G-E-01(チバガイギー社製)を1.5g添加し、30分間撹拌する。その後90℃まで加熱してアルカリ(Na2CO3水溶液20g/1.25ml)を添加し90℃で1時間撹拌した。自然冷却後、二層分離したので着色部(上層)のみ回収し、グレー色の着色剤組成物を得た。
(実施例3)
蒸留水125gに硫酸ナトリウム(Na2SO4)12.5gを溶解し、撹拌しながらポリエチレングリコール(平均分子量7500)を15gと反応性染料 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)を1.5g添加し、30分間撹拌する。その後、90℃まで加熱してアルカリ(Na2CO3水溶液20g/1.25ml)を添加し90℃で1時間撹拌した。自然冷却後、二層分離したので着色部(上層)のみ回収し、黒色の着色剤組成物を得た。
(実施例4)
蒸留水125gに硫酸ナトリウム(Na2SO4)12.5gを溶解し、撹拌しながらポリビニルアルコール(ケン化度40、重合度250)を15gと反応性染料 Cibacron Black P-SG(チバガイギー社製)を1.5g添加し、30分間撹拌する。その後、90℃まで加熱してアルカリ(Na2CO3水溶液20g/1.25ml)を添加し90℃で1時間撹拌した。自然冷却後、回収し、黒色の着色剤組成物を得た。なお生成物はゲル化した。
【0025】
(比較例1)
ポリエチレングリコールをのぞいて実施例1と同条件で着色剤組成物を得た。
(比較例2)
ポリエチレングリコールをのぞいて実施例2と同条件で着色剤組成物を得た。
(比較例3)
ポリエチレングリコールをのぞいて実施例3と同条件で着色剤組成物を得た。
(比較例4)
ポリビニルアルコールをのぞいて実施例4と同条件で着色剤組成物を得た。
(比較例5)
平均分子量600のポリエチレングリコールを平均分子量500にした以外は実施例1と同条件で着色剤組成物を得た。
(比較例6)
平均分子量7500のポリエチレングリコールを平均分子量8000にした以外は実施例3と同条件で着色剤組成物を得た。
【0026】
(消去性試験)
次に、綿ブロードの試験布に、水の含まない画筆(平筆4号)を用いて、上記実施例1〜4及び比較例1〜6の着色剤組成物を塗布し、室温で指触乾燥するまで放置した。乾燥後、洗濯機で合成洗剤を使用して(0.2%になる様に調整)25℃で15分間洗濯を行ない、15分間水洗した。乾燥後、下記の基準で目視評価した。4以上を消去性着色剤組成物として合格とした。
5...完全に消去。
4...ほぼ消去。(光に透かして見るとかすかに残っている。)
3...洗濯前に比べ薄くはなっており効果はあるが、塗布跡がわかる。
2...洗濯前に比べ薄くはなっているが、あまり洗濯の効果なし。
1...洗濯前と変わらず。
【0027】
【表1】

【0028】
表1より、反応性染料を用いた実施例1〜4の着色剤組成物は、いずれも洗濯によって完全又はほぼ消去されている。また、ポリエチレングリコールを混合することで、消去性が増大することが認められる。
【0029】
また、いずれの着色剤組成物も室温で指触乾燥するまで放置した後の筆跡は、綿ブロードの試験布に充分定着していた。また、平均分子量が500のポリエチレングリコールを混合した比較例5では、着色剤がにじみやすくなり、また反応した染料の分子径も小さくなるため、繊維中に入り込みやすくなることが考えられ、消去性が好ましくなかった。また平均分子量が7500を超える比較例6では、その水溶液は粘性が高くなり、取り扱い面から考慮して好ましくなかった。
【0030】
(実施例5〜14)
水溶性樹脂をそれぞれポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー(平均分子量
8000)、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(平均分子量1000)、ポリグリセリン脂肪酸エステル(平均分子量 900)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(平均分子量
3160)、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(平均分子量 3078)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート(平均分子量 3162)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート(平均分子量
3134)、ポリアクリル酸(平均分子量 10000)、ポリスチレンスルホン酸ソーダ(平均分子量 20000)、カルボン酸変性PVA(平均重合度 約2000、けん化度
93〜95%)にかえた以外は、実施例1と同条件で着色剤組成物を得た。これらの着色剤組成物について、上記消去性試験をした結果、いずれも評価は4〜5の範囲であった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の着色剤組成物は絵具として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応性染料と水溶性樹脂(カチオン又はアニオン変性澱粉誘導体を除く。)との反応物を着色剤として含有することを特徴とする、絵具。
【請求項2】
前記水溶性樹脂が、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、ポリスルフォン酸、ポリスルフォン酸共重合物、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸共重合物の少なくとも1である、請求項1記載の絵具。
【請求項3】
前記水溶性樹脂の平均分子量が少なくとも400のポリエチレングリコールである請求項2記載の絵具。
【請求項4】
前記ポリエチレングリコールの含有量が10重量%である請求項2又は3記載の絵具。
【請求項5】
前記反応性染料が、ジクロルトリアジン型、モノクロルトリアジン型、ビニルスルホン型、クロルピリミジン型、ジクロルキノキサジン型、モノクロルトリアジンとビニルスルホンの二官能基型のいずれかの反応性染料である、請求項1乃至4のいずれかの1の項である絵具。




【公開番号】特開2006−225672(P2006−225672A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135692(P2006−135692)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【分割の表示】特願平8−184128の分割
【原出願日】平成8年6月24日(1996.6.24)
【出願人】(390039734)株式会社サクラクレパス (211)
【Fターム(参考)】