説明

絶縁ハンガ

【課題】パンタグラフによるトロリ線の加圧を吸収し、吊架線の揺動を防止することができる絶縁ハンガを提供すること。
【解決手段】トロリ線Tを吊架線Mから吊り下げて支持する絶縁ハンガ1において、吊架線Mに固定される上半部と、トロリ線Tに固定される下半部とを備え、上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部2を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トロリ線を吊架線から吊り下げて支持する絶縁ハンガに関し、特に、パンタグラフによるトロリ線の加圧を吸収し、吊架線の揺動を防止することができる絶縁ハンガに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電車線とその直上の跨線橋等の上部構造物(以下、単に跨線橋という場合がある。)との間において、鳥や小動物あるいは飛来物等が介在する地絡事故が発生し、列車運行の妨げの一因となっていた。
そのため、電車線と跨線橋の間にある一定以上の物理的空間を保つために、電車線高さを規制限界まで低くする一方で、跨線橋の高さを高くする手法がとられているが、電車線の性能を悪化させるとともに、跨線橋のコスト増加の要因となっている。
【0003】
そこで、電車線における絶縁隔離標準値の確保を前提に、地絡事故の防止と構造物コストの低減を達成するための手法として、図8(b)に示すように、従来の吊架線Mから跨線橋Kまでの離隔距離700mmを、図8(a)に示すように、トロリ線Tから跨線橋Kまでの離隔距離700mmと短くし、跨線橋Kの高さを低くする仕様が開発されつつある。
【0004】
しかしながら、このようにトロリ線から跨線橋までの離隔距離を短くするためには、離隔距離がさらに短くなる吊架線と跨線橋の干渉を防止しなければならない。
すなわち、電車が通過する際には、パンタグラフによりトロリ線を上方に加圧するが、従来の絶縁ハンガでは、このトロリ線の加圧を吸収することができず、吊架線に伝達して揺動させ、吊架線と跨線橋が干渉するおそれがあった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の絶縁ハンガが有する問題点に鑑み、パンタグラフによるトロリ線の加圧を吸収し、吊架線の揺動を防止することができる絶縁ハンガを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の絶縁ハンガは、トロリ線を吊架線から吊り下げて支持する絶縁ハンガにおいて、吊架線に固定される上半部と、トロリ線に固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部を設けたことを特徴とする。
【0007】
この場合において、下半部がトロリ線の上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆を備え、スライド支持部が、該水平杆の下部を転動可能に吊り下げるローラを備えることができる。
【0008】
また、上半部が、吊架線への固定部とスライド支持部との間にガイシ部を備えることができる。
【0009】
また、ガイシ部がスライド支持部から斜め上方に延設された1対のアーム状をなし、各ガイシ部の先端を吊架線に固定することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の絶縁ハンガによれば、トロリ線を吊架線から吊り下げて支持する絶縁ハンガにおいて、吊架線に固定される上半部と、トロリ線に固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部を設けることから、電車が通過する際にパンタグラフがトロリ線を上方に加圧しても、スライド支持部がこの加圧を吸収することができ、これにより、吊架線の揺動を防止し、跨線橋の離隔距離が短くても吊架線の跨線橋との干渉を防止することができる。
【0011】
また、下半部がトロリ線の上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆を備え、スライド支持部が、該水平杆の下部を転動可能に吊り下げるローラを備えることにより、トロリ線が水平杆を介して長さ方向に移動することができ、これにより、トロリ線と吊架線の伸縮量の差を吸収することができる。
【0012】
また、上半部が、吊架線への固定部とスライド支持部との間にガイシ部を備えることにより、トロリ線と吊架線の離隔距離が短くなっても、その間の絶縁性を確保することができる。
【0013】
また、ガイシ部がスライド支持部から斜め上方に延設された1対のアーム状をなし、各ガイシ部の先端を吊架線に固定することにより、一定長さのガイシ部で絶縁性を確保しながら、トロリ線と吊架線の離隔距離を短くすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の絶縁ハンガの実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0015】
図1〜図4に、本発明の絶縁ハンガの第1実施例を示す。
この絶縁ハンガ1は、例えば、図8に示すように、跨線橋K等の上部構造物の下でトロリ線Tを吊架線Mから吊り下げて支持するために使用される。
そして、この絶縁ハンガ1は、吊架線Mに固定される上半部と、トロリ線Tに固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部2を設けている。
【0016】
絶縁ハンガ1の上半部は、吊架線Mへの固定部とスライド支持部2との間に、ポリマーガイシからなる軽量のガイシ部3を備えている。
このガイシ部3は、本実施例では、スライド支持部2から斜め上方に延設された1対のアーム状をなし、各ガイシ部3の先端が吊架線Mに固定されている。
ガイシ部3は、開脚角度を自由に設定することができ、これにより、絶縁ハンガ1の高さを調節し、トロリ線Tと吊架線Mの離隔距離の変化に対応することができる。
また、図1(a)、(b)に示すように、ガイシ部3の長さは自由に設定することができる。
【0017】
絶縁ハンガ1の下半部は、図2にも示すように、トロリ線Tの上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆4を備え、スライド支持部2がその下部のローラ5により、水平杆4の下部を転動可能に吊り下げるように支持している。
水平杆4の両端はイヤー金具41によってトロリ線Tに固定されており、トロリ線Tは、この水平杆4を介してスライド支持部2に吊り下げられている。
【0018】
スライド支持部2は、図3〜図4に示すように、上部で二つ折りにされ、かつローラ5をその下部に回動可能に軸支した逆U字状のスライドプレート21と、このスライドプレート21の対向するプレート間に上下移動可能に挿入された連結プレート22とを備えている。
連結プレート22は、左右の端部に固定されたガイシ部3を介して吊架線Mに固定されており、スライドプレート21は、この連結プレート22にU字部が跨る状態で吊り下げられている。
スライドプレート21のローラ5の上にはトロリ線Tの水平杆4が挿入されているが、水平杆4と連結プレート22の間には空隙が確保されており、これにより、スライドプレート21は、連結プレート22に対してこの空隙の範囲で上下に摺動することができる。
なお、連結プレート22には、スライドプレート21を左右で位置決めするとともに、上下方向に摺動の案内をするガイド部材23が設けられている。
【0019】
図5〜図6に、本発明の絶縁ハンガの第2実施例を説明する。
この絶縁ハンガ1は、跨線橋K等の上部構造物の下でトロリ線Tを吊架線Mから吊り下げて支持するが、トロリ線Tと吊架線Mの離隔距離が第1実施例より比較的長い部分に使用される。
そして、この絶縁ハンガ1は、吊架線Mに固定される上半部と、トロリ線Tに固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部2を設けている。
【0020】
絶縁ハンガ1の上半部は、吊架線Mへの固定部とスライド支持部2との間に、ポリマーガイシからなる軽量のガイシ部3を備えている。
このガイシ部3は、本実施例では、スライド支持部2から真っ直ぐ上に延設された1本のアーム状をなし、その先端が吊架線Mに固定されている。
ガイシ部3は、固定部及びスライド支持部2との連結部でボルト止めされており、このボルトを軸としてトロリ線Tの長さ方向に角度変更が可能である。
【0021】
絶縁ハンガ1の下半部は、第1実施例と同様に、トロリ線Tの上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆4を備え、スライド支持部2がその下部のローラ5により、水平杆4の下部を転動可能に吊り下げるように支持している。
水平杆4の両端はイヤー金具41によってトロリ線Tに固定されており、トロリ線Tは、この水平杆4を介してスライド支持部2に吊り下げられている。
【0022】
スライド支持部2は、図6に示すように、ローラ5を下部に挟んで回動可能に軸支した2枚1組のスライドプレート24と、このスライドプレート24の上に配設され、スライドプレート24の上部連結ピン25を摺動可能に挿通させる縦長溝26を備えた支持プレート27とを備えている。
支持プレート27は、上部に固定されたガイシ部3を介して吊架線Mに固定されており、スライドプレート24は、この支持プレート27の縦長溝26に上部連結ピン25が跨る状態で吊り下げられており、スライドプレート24は、この縦長溝26のストロークの範囲で上下に摺動することができる。
なお、支持プレート27には、スライドプレート24の揺動を制限するとともに、上下方向に摺動の案内をするガイド部材28が設けられている。
【0023】
かくして、各実施例の絶縁ハンガによれば、トロリ線Tを吊架線Mから吊り下げて支持する絶縁ハンガにおいて、吊架線Mに固定される上半部と、トロリ線Tに固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部2を設けることから、電車が通過する際にパンタグラフがトロリ線Tを上方に加圧しても、図7に示すように、スライド支持部2がこの加圧を吸収することができ、これにより、吊架線Mの揺動を防止し、跨線橋Kの離隔距離が短くても吊架線Mの跨線橋Kとの干渉を防止することができる。
【0024】
この場合、下半部がトロリ線Tの上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆4を備え、スライド支持部2が、該水平杆4の下部を転動可能に吊り下げるローラ5を備えることにより、トロリ線Tが水平杆4を介して長さ方向に移動することができ、これにより、トロリ線Tと吊架線Mの伸縮量の差を吸収することができる。
【0025】
また、上半部が、吊架線Mへの固定部とスライド支持部2との間にガイシ部3を備えることにより、トロリ線Tと吊架線Mの離隔距離が短くなっても、その間の絶縁性を確保することができる。
また、ガイシ部3がスライド支持部2から斜め上方に延設された1対のアーム状をなし、各ガイシ部3の先端を吊架線Mに固定することにより、一定長さのガイシ部3で絶縁性を確保しながら、トロリ線Tと吊架線Mの離隔距離を短くすることができる。
【0026】
以上、本発明の絶縁ハンガについて、その実施例に基づいて説明したが、本発明は上記実施例に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の絶縁ハンガは、パンタグラフによるトロリ線の加圧を吸収し、吊架線の揺動を防止するという特性を有していることから、例えば、吊架線と跨線橋の離隔距離が短くなるような電車線の絶縁ハンガとして広く好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の絶縁ハンガの第1実施例を示し、(a)はガイシ部が長い実施例の正面図、(b)はガイシ部が短い実施例の正面図である。
【図2】水平杆を示し、(a)はその正面図、(b)は同背面図、(c)は同断面図である。
【図3】スライド支持部を示し、(a)はその正面図、(b)は同断面図である。
【図4】連結プレートを示し、(a)はその平面図、(b)は同正面図である。
【図5】本発明の絶縁ハンガの第2実施例を示す正面図である。
【図6】スライド支持部を示し、(a)はその正面図、(b)は同断面図、(c)は支持プレートの正面図、(d)は同断面図である。
【図7】絶縁ハンガの作用を示し、(a)は第1実施例の動作図、(b)は第2実施例の動作図である。
【図8】電車線と跨線橋との関係を示し、(a)は電車線と跨線橋の離隔距離が短い例を示す説明図、(b)は電車線と跨線橋の離隔距離が長い例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0029】
1 絶縁ハンガ
2 スライド支持部
21 スライドプレート
22 連結プレート
23 ガイド部材
24 スライドプレート
25 上部連結ピン
26 縦長溝
27 支持プレート
28 ガイド部材
3 ガイシ部
4 水平杆
41 イヤー金具
5 ローラ
T トロリ線
M 吊架線
K 跨線橋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トロリ線を吊架線から吊り下げて支持する絶縁ハンガにおいて、吊架線に固定される上半部と、トロリ線に固定される下半部とを備え、該上半部と下半部との間に、下半部を定位置に吊り下げるとともに、下半部の上方への移動を摺動により吸収するスライド支持部を設けたことを特徴とする絶縁ハンガ。
【請求項2】
下半部がトロリ線の上に所定間隔をあけて略水平に固定された水平杆を備え、スライド支持部が、該水平杆の下部を転動可能に吊り下げるローラを備えたことを特徴とする請求項1記載の絶縁ハンガ。
【請求項3】
上半部が、吊架線への固定部とスライド支持部との間にガイシ部を備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の絶縁ハンガ。
【請求項4】
ガイシ部がスライド支持部から斜め上方に延設された1対のアーム状をなし、各ガイシ部の先端を吊架線に固定したことを特徴とする請求項3記載の絶縁ハンガ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2008−222089(P2008−222089A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−64645(P2007−64645)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000151036)株式会社電業 (6)