説明

絶縁層を備える薄膜共振器(FBAR)を用いて物質を検出するための装置および方法

流体の少なくとも1つの物質を検出するための装置であって、該装置は圧電音響薄膜共振器を有し、該圧電音響薄膜共振器は、少なくとも1つの圧電層と、該圧電層に配置された1つの電極層と、前記圧電層に配置された少なくとも1つの別の電極層と、流体の物質を吸着するための少なくとも1つの吸着面とを備えており、前記圧電層と電極層と吸着面は、前記電極層を電気制御することによって励振交流電場が圧電層に結合されるように互いに構成および配置されており、前記薄膜共振器は、前記圧電層に結合された励振交流電場に基づき、共振周波数fを有する共振振動に対して励振可能であり、前記共振周波数fは、前記吸着面にて吸着される物質の量に依存している、装置において、少なくとも1つの前記電極層の、前記圧電層がある側とは反対の側に直接、電極層を電気絶縁するための少なくとも1つの電気的な絶縁層が配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体の少なくとも1つの物質を検出するための装置に関し、該装置は圧電薄膜共振器を有し、該圧電薄膜共振器は、少なくとも1つの圧電層と、該圧電層に配置された1つの電極層と、前記圧電層に配置された少なくとも1つの別の電極層と、流体の物質を吸着するための少なくとも1つの吸着面とを備えており、前記圧電層と電極層と吸着面は、前記電極層を電気制御することによって励振交流電場が圧電層に結合されるように互いに構成および配置されており、前記薄膜共振器は、前記圧電層に結合された励振交流電場に基づき、共振周波数fを有する共振振動に対して励振可能であり、前記共振周波数fは、前記吸着面にて吸着される物質の量に依存している、装置に関する。装置の他に、装置を使用して物質を検出するための方法も提供される。
【0002】
冒頭に述べた形式の装置は、例えばDE10308975B4から明らかである。公知の装置は例えば、電極層と圧電層と別の電極層とが互いに層状に積層された薄膜共振器を有している。圧電層は、例えば酸化亜鉛から形成されている。上側の電極層(上部電極)は金からなり、流体の物質を吸着するための吸着面を有する。薄膜共振器は、下側の電極層(底部電極)を介してシリコン基板上に被着されている。
【0003】
シリコン基板と薄膜共振器を互いに音響結合させるために、これらの間には例えば音響インピーダンスの異なる複数のλ/4厚の層からなる音響ミラーが配置されている。
【0004】
本発明の課題は、物質を検出するための公知の装置を発展させて、質量感度を向上させることである。
【0005】
この課題を解決するために、流体の少なくとも1つの物質を検出するための以下のような装置が提供される。該装置は圧電音響薄膜共振器を有し、該圧電音響薄膜共振器は、少なくとも1つの圧電層と、該圧電層に配置された1つの電極層と、前記圧電層に配置された少なくとも1つの別の電極層と、流体の物質を吸着するための少なくとも1つの吸着面とを備えており、前記圧電層と電極層と吸着面は、前記電極層を電気制御することによって励振交流電場が圧電層に結合されるように互いに構成および配置されており、前記薄膜共振器は、前記圧電層に結合された励振交流電場に基づき、共振周波数fを有する共振振動に対して励振可能であり、前記共振周波数fは、前記吸着面にて吸着される物質の量に依存している。この装置は、少なくとも1つの前記電極層の、前記圧電層がある側とは反対の側に直接、電極層を電気絶縁するための少なくとも1つの電気的な絶縁層が配置されていることを特徴としている。電気的な絶縁層は、有利には、流体と薄膜共振器とが互いに完全に隔てられるように構成されている。
【0006】
課題を解決するために、前記装置を使用して流体の少なくとも1つの物質を検出するための以下のステップを有する方法も提供される:該方法は、a)吸着面と流体を、物質が吸着面にて吸着されるように組み合わせるステップと、b)薄膜共振器の共振周波数を決定するステップとを含む。
【0007】
薄膜共振器は例えば、下側の電極と圧電層と上側の電極からなる層状の構造を有する。下側および上側の電極層は、それぞれ圧電層の別々の側に配置されている。これらの電極層を圧電層の一方の側に配置することも可能である。
【0008】
電極層を電気制御することによって、薄膜共振器は厚み振動に対して励振することができる。液体の物質を検出するために使用されるということを鑑みると、圧電層を、電極層の制御に基づいてせん断振動に対して励振可能であるように構成すると有利である。質量感度をより高くするためには、共振周波数fを500MHz以上10GHz以下の範囲から選択すると有利である。このために、圧電層の層厚は0.1μm以上20μm以下の範囲から選択されている。
【0009】
圧電層は例えば酸化亜鉛からなる。別の適当な材料は例えば窒化アルミニウムである。電極層は、有利には1μmより薄い層厚(例えば10nm)を有する。これより数μm厚い層厚も可能である。
【0010】
特別な実施形態においては、絶縁層は無機絶縁材料を有する。この無機絶縁材料は、任意のものとすることができる。しかしながら有利には、無機絶縁材料は、金属窒化物および金属酸化物のグループから選択された少なくとも1つの化学的化合物を有する。例えば絶縁材料は、酸化アルミニウム(Al)または窒化ケイ素(Si)である。有利な実施形態においては、金属酸化物は二酸化ケイ素(SiO)である。二酸化ケイ素は、電気絶縁性が良好である他にも音響インピーダンスが低いことを特徴としており、したがって薄膜共振器に適用するためには特に適当である。
【0011】
電極層は、有利にはアルミニウムからなる。特別な実施形態では、上に絶縁層が配置されている電極層はアルミニウムを有する。アルミニウムは、電極材料として、薄膜共振器のために特に適当である。アルミニウムは電気抵抗が低い。これによって抵抗ノイズが最小になる。音響インピーダンスが小さいということも重要である。これによって、質量感度が比較的高くなる。アルミニウムの質量密度が小さいということも重要である。これに加えてアルミニウムは、音響速度が速いことも特徴としている。これによって、対応する材料における相成分が小さく維持される。
【0012】
しかしながらアルミニウム以外にも、種々異なる材料からなる多層構造のように、他の材料および材料の組み合わせも考えられる。
【0013】
薄膜共振器は、任意の基板(支持体)の上に被着させることができる。有利には薄膜共振器は、半導体基板の上に配置されている。読み出し回路を半導体基板に集積化することができる。これは例えば、CMOS(相補型金属酸化物半導体)技術によって行うことができる。省スペースな構造という観点から、薄膜共振器が、半導体基板の中に集積化された読み出し回路の上に配置されていると特に有利である。しかしながら読み出し回路を、SMD(表面実装部品)構成素子によって実現することも同じく可能である。
【0014】
吸着面は、特に特別な実施形態では絶縁層によって構成されている。このことはつまり、絶縁層が生体機能化を有することを意味している。
【0015】
しかしながら特別な実施形態によれば、吸着面は、絶縁層の上に被着された化学感応膜によって形成されている。化学感応膜は例えばプラスチック被覆とすることができる。とりわけ化学感応膜は金を有する。有利には化学感応膜は金からなる。金からなる化学感応膜は、特に生体機能化のために適当である。
【0016】
化学感応膜は、絶縁層の上に被着されている。これによって化学感応膜自体も薄膜共振器の共振周波数に対して寄与することとなる。とりわけ金の場合には質量密度が比較的高いので、質量感度をできるだけ高くすることに鑑みて、できるだけ小さい層厚が有利である。特別な装置によれば、化学感応膜は5nmから30nmの範囲からなる層厚を有する。この層厚は、所要の生体機能化を達成するために完全に充分である。と同時に、化学感応膜の小さい質量に基づいて、高い質量感度が達成される。このためのベースは、薄膜共振器の非常に高い共振周波数である。適当な材料および層厚においては、500MHz以上10GHzの範囲の共振周波数を達成することができる。
【0017】
この装置は、ガスまたはガス混合物の分析のために使用することができる。有利にはこの装置は、液体中の生体分子を検出するために使用される。
【0018】
要約すると、本発明によって以下の特別な利点が得られる:
【0019】
・本発明による流体の物質を検出するための装置は、非常にフレキシブルに構成することができる。したがってこの装置の薄膜共振器は、ウェハ(例えば半導体材料からなる)の上か、またはCMOS読み出しエレクトロニクスの上か、または絶縁層(例えばSiO)を介して薄膜共振器から隔てられているCMOS読み出しエレクトロニクスの上に被着されている。
【0020】
・とりわけアルミニウムからなる上側の電極層によって、以下の利点が実現されている:電気抵抗が小さいので、抵抗ノイズが最小化される。アルミニウムの音響インピーダンスは小さいので、薄膜共振器の質量感度が向上する。アルミニウムの質量密度が小さいことにより、結果的に質量感度が非常に高くなる。
【0021】
アルミニウムは、CMOS適合性が高いことも特徴としている。これによってCMOS回路への集積が簡単になっている。金は、このためにはむしろ不適当であろう。なぜなら金は、CMOS回路とはさほど適合性がないからである。さらに金は、質量密度が比較的高いことを特徴としている。したがって質量感度は比較的小さい。
【0022】
・絶縁層により、薄膜共振器と流体との互いの効果的な電気絶縁が実現されている。
【0023】
・絶縁材料がSiOである場合には、共振周波数の温度係数が低減する、すなわち温度変動に対する共振周波数の安定性が向上する。
【0024】
・例えばSiOからなる絶縁層を被着するためにCVDプロセスを使用する場合には、表面が平坦になる。これにより、とりわけ水中での使用時に音響損失が低減される。
【0025】
・とりわけアルミニウムからなる電極層と、二酸化ケイ素からなる絶縁層との組み合わせは有利である。アルミニウムと二酸化ケイ素の音響損失は、例えば金の場合よりも小さい。これによって質量感度は約3倍増加する。アルミニウムおよび二酸化ケイ素材料は、例えば金よりも少ない相成分を含むので、共振周波数が同じ場合には圧電層をより厚くすることができる。これによって、圧電層においてより高い相成分が存在することとなる。したがって有効な圧電結合係数が増加する。
【0026】
・圧電層の厚さが増加することにより、薄膜共振器の電気キャパシタンスが低減する。これは多数の読み出し回路にとって有利である。
【0027】
以下、本発明を複数の実施例および実施例に基づいた図面に従って詳細に説明する。図面は概略的に示されたものであり、縮尺通りに描かれたものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】流体の物質を検出するための装置の各実施形態の横断面図である。
【図2】流体の物質を検出するための装置の各実施形態の横断面図である。
【図3】流体の物質を検出するための装置の各実施形態の横断面図である。
【図4】流体の物質を検出するための装置の各実施形態の横断面図である。
【0029】
流体の物質を検出するための装置は、生体分子を検出するためのバイオセンサである。生体分子はDNAの一部である。択一的にタンパク質の形態の生体分子が検出される。
【0030】
流体2の物質を検出するための装置の必須の構成部分は、圧電音響薄膜共振器10であり、該圧電音響薄膜共振器10は、互いに積層された圧電層11と、電極層(上部電極)12と、さらなる電極層(底部電極)13とを備えている。圧電層は、酸化亜鉛からなる。酸化亜鉛層の層厚は約0.5μmである。上側の電極層はアルミニウムからなり、約100nm厚である。下側の電極層は約890nm厚である。薄膜共振器の横方向の長さは約200μmである。
【0031】
薄膜共振器は、シリコン基板5の音響インピーダンスが異なる複数のλ/4厚の層からなる音響ミラー6の上に載置されている。
【0032】
電極層12の、圧電層がある側とは反対の側121に直接、電極層12を電気絶縁するための電気的な絶縁層4が配置されている。絶縁層は約100nm厚であり、無機絶縁材料である二酸化ケイ素からなる。択一的な実施形態においては、無機絶縁材料は窒化ケイ素である。絶縁層は、CVD(化学気相成長)方法によって被着される。
【0033】
実施例1:
流体の物質を吸着するための吸着面3を形成するために、絶縁層の上に、金からなる化学感応膜7が被着されている(図1)。この被膜は、生体分子のための機能化を有する。生体分子は、吸着面にて吸着することができる。
【0034】
薄膜共振器は、CMOS技術によって基板5に集積化された読み出し回路8の上に配置されている。読み出し回路の電気絶縁のために、音響ミラー6と読み出し回路8との間に絶縁層81が設けられている。この絶縁層は、二酸化ケイ素から形成される。読み出し回路は、電気制御のために、電気コンタクト82を介して薄膜共振器の電極層と接続されている。
【0035】
実施例2:
先行する実施例とは異なり、上に薄膜共振器が配置されている音響ミラー6と読み出し回路8との間に付加的な絶縁層は設けられていない(図2)。
【0036】
実施例3:
この実施例によれば、薄膜共振器は、シリコン基板に集積化された読み出し回路の上には配置されていない(図3)。音響ミラーによって薄膜共振器と基板の音響減結合が直接行われる。図示されていない読み出し回路は、半導体基板の他の場所に集積化されているか、または外部の構成素子として実現されている。この読み出し回路は、コンタクト83を介して薄膜共振器の電極層と電気的に接続されている。
【0037】
実施例4:
この実施例は実施例1から派生している。実施例1とは異なり、絶縁層4が吸着面を形成している。絶縁層は、生体分子の吸着のために必要な生体機能化を有する。
【0038】
提示した実施例を任意に組み合わせることによって、さらなる実施形態が形成される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体(2)の少なくとも1つの物質を検出するため装置(1)であって、
該装置(1)は圧電音響薄膜共振器(10)を有し、該圧電音響薄膜共振器(10)は、
・少なくとも1つの圧電層(11)と、
・該圧電層(11)に配置された1つの電極層(12)と、
・前記圧電層(11)に配置された少なくとも1つの別の電極層(13)と、
・流体(2)の物質を吸着するための少なくとも1つの吸着面(3)とを備えており、
・前記圧電層(11)と電極層(12,13)と吸着面(3)は、
前記電極層(12,13)を電気制御することによって励振交流電場が前記圧電層(11)に結合されるように互いに構成および配置されており、
・前記薄膜共振器(10)は、前記圧電層(11)に結合された励振交流電場に基づき、共振周波数fを有する共振振動に対して励振可能であり、
・前記共振周波数fは、前記吸着面(3)にて吸着される物質の量に依存している、
装置(1)において、
前記電極層(12,13)のうちの少なくとも1つの電極層の、前記圧電層がある側とは反対の側(121)に直接、前記電極層を電気絶縁するための少なくとも1つの電気的な絶縁層(4)が配置されている
ことを特徴する装置。
【請求項2】
前記絶縁層は、無機絶縁材料を有する、
ことを特徴とする請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記無機絶縁材料は、金属窒化物および金属酸化物のグループから選択された少なくとも1つの化学的化合物を有する、
ことを特徴とする請求項2記載の装置。
【請求項4】
前記金属酸化物は二酸化ケイ素である、
ことを特徴とする請求項3記載の装置。
【請求項5】
前記絶縁層が配置されている前記電極層は、アルミニウムを有する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項記載の装置。
【請求項6】
前記薄膜共振器は、半導体基板(5)の上に配置されている、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれか一項記載の装置。
【請求項7】
前記薄膜共振器は、前記半導体基板に集積化された読み出し回路の上方に配置されている、
ことを特徴とする請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記吸着面は、前記絶縁層によって形成されている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の装置。
【請求項9】
前記吸着面は、前記絶縁層の上に被着された化学感応膜(7)によって形成されている、
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか一項記載の装置。
【請求項10】
前記化学感応膜は、金を有する、
ことを特徴とする請求項9記載の装置。
【請求項11】
前記化学感応膜は、5nmから30nmの層厚を有する、
ことを特徴とする請求項9または10記載の装置。
【請求項12】
請求項1から11のいずれか一項記載の装置(1)を使用して流体(2)の少なくとも1つの物質を検出するための方法において、
a)前記吸着面(3)と前記流体(2)を、物質が前記吸着面(3)にて吸着されるように組み合わせるステップと、
b)前記薄膜共振器(10)の共振周波数を決定するステップ
とを含むことを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−506549(P2012−506549A)
【公表日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532566(P2011−532566)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/062623
【国際公開番号】WO2010/046212
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(390039413)シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト (2,104)
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】Wittelsbacherplatz 2, D−80333 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】