説明

絶縁被覆材料及び絶縁被覆導体

【課題】 絶縁被覆材料より優れた耐熱性を有し、高温下における経時劣化が小さいとともに、実用上充分な機械的強度や絶縁性を有し、導体の絶縁被覆用として好適に用いられる絶縁被覆材料及び絶縁被覆導体を提供する。
【解決手段】 固形分14重量%以下の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中に、該耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機粉末を、該耐熱性樹脂量の30〜300重量%分散した後、該有機溶剤を除去して得られることを特徴とする絶縁被覆材料、及び該絶縁被覆材料により被覆された絶縁被覆導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大電流が流され発熱量の大きい用途に好適に用いられる導体の表面絶縁のための絶縁被覆材料、及び該絶縁被覆材料により被覆された絶縁被覆導体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車やハイブリッド自動車においては、軽量化のため部材の小型化が求められている一方、高出力を得るためには大電流が必要である。従って、その内部の配線には、高い電流密度に耐えられることが求められる。電流密度が高くなると発熱も大きくなる。バスバー等、自動車内部の配線には、表面を絶縁被覆された絶縁被覆導体が用いられるが、高い電流密度による発熱に耐えられるように、該絶縁被覆にも高い耐熱性が求められる。
【0003】
高い耐熱性を有する絶縁被覆として、従来からポリイミド樹脂が広く用いられている。ポリイミド樹脂は、250℃程度の高温においても経時的な劣化が小さく、耐熱性の優れた樹脂として知られている。しかし近年、ハイブリッド自動車について、さらに軽量化、高出力化が求められており、その内部等の配線についても、より高い耐熱性が求められてきた。そして、かかる要求を満たすためには、ポリイミド樹脂では不十分であり、より高い耐熱性を有する絶縁被覆材料が求められるようになった。
【0004】
耐熱性のより高い絶縁被覆材料として、シリカやアルミナなどの無機材料をポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂に含有させた絶縁被覆材料が知られている。例えば、特開平10−199337号公報には、ポリイミド樹脂にシリカ、アルミナなどのフィラーを、樹脂成分100重量部に対して、100重量部未満含有させた絶縁被覆材料で被覆された絶縁電線が開示されている(段落0007、段落0012)。
【0005】
特開平10−199337号公報記載の絶縁被覆材料は、固形分15重量%以上のポリイミド樹脂の有機溶剤溶液中に、シリカやアルミナ等の無機粉末を分散させて作られる(段落0015)。耐熱性を向上させるためには無機粉末量が多い方が好ましい。しかし、無機粉末量がポリイミド樹脂に対して、30重量%近くになると、又は30重量%を超えると、分散液粘度が急激に上昇し、良好な分散が得られない。その結果、実際には、脆く導体からの剥離強度も低く、絶縁性能上も不十分であり、実用性の不十分な絶縁被覆材料しか得られていなかった。
【特許文献1】特開平10−199337号公報(段落0007、段落0012)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来のポリイミド樹脂からなる絶縁被覆材料より優れた耐熱性を有し、高温下における経時劣化が小さいとともに、実用上充分な機械的強度や絶縁性を有し、導体の絶縁被覆用として好適に用いられる絶縁被覆材料を提供することを課題とする。
【0007】
本発明は、又、この絶縁被覆材料により被覆され優れた耐熱性を有し、ハイブリッド自動車内のバスバー等、高い電流密度用の配線等に好適に用いられる絶縁被覆導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中にシリカやアルミナ等の無機粉末を分散させる際に、該樹脂溶液の固形分が14重量%以下であれば、無機粉末量を、ポリイミド樹脂に対して30重量%以上としても、粘度の急激な上昇は起こらず、該耐熱性樹脂の溶液中に無機粉末が良好に分散した塗布液が得られることを見出した。そして、該塗布液の導体への塗布、溶剤の蒸散、除去により、優れた耐熱性とともに、実用上充分な機械的強度や絶縁性を有する絶縁被覆材料が得られることを見出し、本発明の絶縁被覆材料及び絶縁被覆導体を完成した。
【0009】
本発明は、その請求項1として、固形分14重量%以下の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中に、該耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機粉末を、該耐熱性樹脂量の30〜300重量%分散した後、該有機溶剤を除去して得られることを特徴とする絶縁被覆材料を提供する。
【0010】
ここで耐熱性樹脂の有機溶剤溶液とは、耐熱性樹脂又はその前駆体を有機溶剤に溶解した溶液であり、有機溶剤としては耐熱性樹脂を溶解するものであれば特に限定されない。本発明は、この有機溶剤溶液として固形分14重量%以下のものを用いることを特徴とする。固形分が14重量%を越えると、無機粉末量が耐熱性樹脂に対して30重量%以上の場合、粘度の急激な上昇が生じ、良好な分散が得られずその結果、実用上充分な剥離強度や絶縁性能が得られない等の問題が生じる。一方、固形分が小さくなると、所定の膜厚を得るために塗布回数を増す必要が生じコストアップ要因となり、又溶媒量が多くなり、高温での溶媒除去時での引火等の危険性が増す。そこで固形分は、10〜14重量%の範囲が好ましい。
【0011】
無機粉末の含有量は、耐熱性樹脂量の30〜300重量%の範囲である。含有量が30重量%未満であると、従来のポリイミド樹脂などにより構成される絶縁材料に比べて特に優れた耐熱性が得らにくい。一方、300重量%を越えると、無機粉末を耐熱性樹脂に分散する際に、例え溶液中の固形分が14重量%以下であっても、粘度の急激な上昇の問題が生じ、又得られた絶縁被覆材料を被覆した導体の加工時にクラックなどを生じやすくなり好ましくない。無機粉末の含有量は、好ましくは、耐熱性樹脂量の30〜100重量%、より好ましくは、耐熱性樹脂量の30〜50重量%の範囲である。
【0012】
本発明の絶縁被覆材料は、耐熱性樹脂又はその前駆体を有機溶剤に溶解した溶液に、無機粉末を分散した後、該有機溶剤を除去して得られる。有機溶剤の除去の方法としては、加熱による蒸散が通常採用される。
【0013】
耐熱性樹脂としては、ポリイミド樹脂(熱可塑性ポリイミドも含まれる)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィドなどが例示される。中でも20000時間連続使用温度(耐熱寿命)が250℃程度である耐熱性の高いポリイミド樹脂が好ましい。本発明の請求項2はこの好ましい態様に該当し、前記の絶縁被覆材料であって、耐熱性樹脂がポリイミド樹脂であることを特徴とする絶縁被覆材料を提供するものである。
【0014】
該無機粉末は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。本発明の請求項3はこの好ましい態様に該当し、前記の絶縁被覆材料であって、該無機粉末が、シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする絶縁被覆材料を提供するものである。
【0015】
シランカップリング剤で表面処理することにより、樹脂溶液に無機粉末を分散する際の無機粉末の局所的な凝集を防ぐとともに、無機粉末と樹脂との相溶性が向上する。従って、粘度の上昇を防ぐとの効果がより顕著になる。そして、無機粉末の含有量を増やすことが容易になり、絶縁被覆の耐熱性の向上にも寄与する。
【0016】
本発明で用いられる無機粉末とは、耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機材料を主成分とする微細粉末であり、20000時間連続使用温度300〜600℃程度のものが好ましく用いられる。具体的には、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、炭化チタン、炭化ホウ素、タングステンカーバイド、窒化ホウ素、窒化ケイ素等の熱伝導率の高いものが例示される。中でも、体積固有抵抗(室温)が10の12乗Ω・cm以上であるシリカやアルミナなどが好ましく用いられる。
【0017】
本発明の請求項4はこの好ましい態様に該当し、前記の絶縁被覆材料であって、無機粉末が、シリカまたはアルミナから選ばれることを特徴とする絶縁被覆材料を提供するものである。
【0018】
無機粉末としては、0.01〜0.05μmの中心粒子径を有するものが好ましい。このような中心粒子径を有する無機粉末を用いることにより、耐熱性樹脂との組成物中で最密充填に近い分散状態を達成でき、樹脂溶液への分散の際に粘度の上昇を起しにくく、無機粉末の含有量を増やすことが可能となり、耐熱性をより向上させることができる。
【0019】
本発明の請求項5はこの好ましい態様に該当し、前記の絶縁被覆材料であって、該無機粉末が、0.01〜0.05μmの中心粒子径を有することを特徴とする絶縁被覆材料を提供するものである。
【0020】
本発明は、その請求項6として、導体、及び該導体表面を被覆し、かつ固形分14重量%以下の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中に、該耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機粉末を、該耐熱性樹脂量の30〜300重量%分散した後、該有機溶剤を除去して得られる絶縁被覆材料からなることを特徴とする絶縁被覆導体を提供する。即ち、前記の本発明の絶縁被覆材料により、導体表面が被覆された絶縁被覆導体である。
【0021】
導体は、導電性を有するものであれば限定されないが、通常銅製である。導体上への絶縁被覆の形成は、通常、耐熱性樹脂やその前駆体などを溶解した樹脂溶液に無機粉末を分散させ、得られた液を導体上に塗布した後、加熱硬化や乾燥等により行われる。耐熱性樹脂がポリイミド樹脂の場合は、その前駆体の樹脂溶液が塗布され加熱によりポリイミド樹脂が導体上に形成される。
【0022】
本発明の絶縁被覆導体は、絶縁被覆層上に半導電層を有することが好ましい。より好ましくは、さらに、絶縁被覆と導体間にも半導電層を有する。近年、高出力化のため、ハイブリッド自動車等の配線には、より高電圧の電流が流されるようになってきているが、この場合、絶縁被覆の表面からコロナ放電が発生し、このコロナ放電により絶縁被覆の劣化が急速に進行しやすい。絶縁被覆上に半導電層が存在すると、このコロナ放電の発生を防ぐことができるので好ましい。
【0023】
また、導体表面が粗く表面に突起を有する場合は、該突起に電界集中が起こり、コロナ放電が発生しやすくなる。絶縁被覆と導体間に半導電層を有すると、電界集中を緩和し、コロナ放電の発生を防ぐことができるので好ましい。すなわち、コロナ放電開始電圧の上昇、絶縁被覆の劣化の低減、大幅な耐電圧特性の向上が可能となる。なお、本発明の絶縁被覆導体は高い耐熱性が求められるので、この半導電層にも絶縁被覆と同等以上の高い耐熱性が求められる。
【0024】
本発明の請求項7および請求項8は、この好ましい態様に該当するものである。即ち、請求項7は、導体、耐熱性樹脂及び該耐熱性樹脂量の30〜300重量%の無機粉末からなる絶縁被覆、並びに、該絶縁被覆上に設けられ、かつ該絶縁被覆と同等以上の耐熱性を有する半導電層、からなることを特徴とする絶縁被覆導体を提供するものである。
【0025】
又、請求項8は、請求項7の絶縁被覆導体であって、該絶縁被覆と同等以上の耐熱性を有する半導電層が、さらに、該導体及び該絶縁被覆間にも設けられていることを特徴とする絶縁被覆導体を提供するものである。
【0026】
本発明の絶縁被覆導体としては、断面が、矩形でかつ平角部が円弧状の平角状であるものが好ましい。断面を平角状とすることにより、小さな空間占積率で、大きな電流を流すことができ、放熱性も向上し、かつ角部の電界集中を防ぐことができるので好ましい。
【0027】
本発明の請求項9はこの好ましい態様に該当し、前記の絶縁被覆導体であって、導体の断面が平角状であることを特徴とする絶縁被覆導体を提供するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明の絶縁被覆材料は、絶縁被覆中の無機粉末の含有量が大きいので優れた耐熱性を有し、高温下における経時劣化が小さい。例えば、従来は達成困難であった、20000時間連続使用温度の250℃以上を達成することができる。又、無機材料はほとんど吸水することはないので、無機粉末の含有量を大きくすることにより高温での使用時の耐熱性樹脂の加水分解による劣化が低下するとの効果も奏する。一方、本発明の絶縁被覆材料は、実用上充分な機械的強度や絶縁性も有するので、大電流が流され発熱が大きい用途の導体の絶縁被覆用として好適に用いられる。
【0029】
又、この絶縁被覆材料により被覆された本発明の絶縁被覆導体は、優れた耐熱性を有し、ハイブリッド自動車内のバスバーやソレノイドコイル等、高い電流密度用の配線等に好適に用いられる。特に、半導電層が形成された本発明の絶縁被覆導体は、耐コロナ放電性にも優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
前記のように耐熱性樹脂としてはポリイミド樹脂が好ましい。ポリイミド樹脂は、芳香族ジアミンと芳香族カルボン酸二無水和物を反応させることにより得られ、例えば、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)の反応により得られるPMDA系ポリイミドなどの他、ポリベンズイミダゾールや3,4,9,10−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)と1,4−ジアミノベンゼン(PDA)からなるBPDA系ポリイミド等も使用できる。より具体的には、ポリイミドエナメル線用塗料として工業的に実用されているもの、デュポン社のPyre−ML、東レ社のトレニース#3000、宇部興産社製のUワニスS等が例示される。
【0031】
無機粉末として使用されるシリカとしては、日本アエロジル社製のAEROSIL50、90G、130、OX50等が挙げられ、アルミナとしては、日本アエロジル社製の酸化アルミニウムCや住友化学社製のスミコランダムAA−05、AA−2、AA−10等が挙げられる。
【0032】
無機粉末の表面処理に用いられるシランカップリング剤とは、一分子中に有機官能基と加水分解基を有し、無機材料と有機樹脂を結びつける機能を有するものであるが、本発明においては、芳香環かつアミノ基を有するものが好ましく用いられる。このようなシランカップリング剤としては、信越化学製KBM−573が例示される。シランカップリング剤による表面処理の方法は特に限定されず、乾式法、湿式法、スプレー方式などの公知の方法を採用することができる。
【0033】
無機粉末は、ポリイミド樹脂等の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液に添加され、撹拌されて分散される。前記のように、該有機溶剤溶液の固形分は14重量%以下であり、通常10〜14%以下の溶液が用いられる。本発明の絶縁被覆材料は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、耐熱性樹脂、無機粉末以外の第3成分を有していてもよい。従って、該有機溶剤溶液に、この第3成分が添加されてもよい。
【0034】
このようにして得られた樹脂溶液、即ち、耐熱性樹脂又はその前駆体が溶解され、無機粉末が分散され、必要により第3成分が添加された有機溶剤の溶液から、有機溶剤が除去され、本発明の絶縁被覆材料が形成される。樹脂溶液中に耐熱性樹脂の前駆体が溶解されている場合は、その形成過程で、重合等による耐熱性樹脂の生成が行われる。前記のように有機溶剤の除去は、加熱による蒸散が通常採用されるが、有機溶剤の除去のための加熱と、重合等による耐熱性樹脂の生成に必要な加熱を同時に行ってもよい。重合等による耐熱性樹脂の生成のための加熱は、通常、大気圧下、400℃以下で行われるが、先ず有機溶剤の沸点以下で有機溶剤の除去を行った後、昇温して耐熱性樹脂の生成のための加熱や樹脂の硬化を行ってもよい。
【0035】
本発明の絶縁被覆導体は、導体上に、前記樹脂溶液を塗布した後、有機溶剤の除去を行い、導体表面に、本発明の絶縁被覆材料からなる、絶縁被覆を形成することにより製造される。
【0036】
前記樹脂溶液を導体上に塗布する方法は特に限定されない。例えばPMDA系ポリイミドを含有する組成物を形成するためには、1,2,4,5−ベンゼンテトラカルボン酸二無水物(PMDA)と4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DDE)とを反応させて得られるポリアミド酸ワニス(前駆体の溶液)に無機粉末を分散させた液(絶縁塗料)を作製し、この絶縁塗料を導体上に塗布し焼き付ければよい。焼き付けによりポリアミド酸がポリイミド化し、無機粉末を分散したポリイミド樹脂の組成物の層(絶縁被覆)が形成される。また、所定の形状とした導体を絶縁塗料に浸漬した後引上げる含漬法も用いることができる。
【0037】
図1、図2は、それぞれ、本発明の絶縁被覆導体の一例の断面図である。図1、図2のいずれにおいても導体4の断面形状は平角状であり、平角部8は円弧を形成している。通常この円弧は、R:0.1〜0.5mmが好ましい。Rが0.1mm未満の場合は電界集中が起こりやすくなり、0.5mmを越えると導体の断面積の減少により抵抗の増加の問題が生じる。うず電流(損失)の発生の低減、絶縁被覆された導体の曲げ加工時のクラックの発生を低減するために、該断面形状の縦横比が1:4よりも扁平であることが好ましい。
【0038】
図1の例では、導体4は絶縁被覆6で覆われており、絶縁被覆6はさらに半導電層5で覆われている。その結果、コロナ放電開始電圧が上昇し、コロナ放電による絶縁劣化が防止されている。絶縁被覆6は、耐熱性樹脂と無機粉末からなり本発明の絶縁被覆材料により形成されている。
【0039】
図2の例では、さらに導体4と絶縁被覆6の間に半導電層7が設けられている。この半導電層7により、導体4上の突起への電界集中の影響が緩和され、コロナ放電による絶縁劣化が防止される。
【0040】
通常好ましくは、絶縁被覆6の厚みは10〜50μmの範囲であり、半導電層5および半導電層7の厚みは、1〜5μmの範囲である。ただし、導体の用途によっては、この好ましい範囲は変動する。コロナ放電を充分に防止するため、半導電層5および半導電層7の体積固有抵抗値は10〜10Ω・cmの範囲が好ましい。
【0041】
半導電層としては、ポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂にカーボンブラックや金属粉、例えばアルミニウム粉末などの導電性無機粒子を混合したものが例示される。この半導電層は、上記の絶縁被覆の形成方法と同様な方法により形成することができる。すなわち、耐熱性樹脂やその前駆体などを溶解した樹脂溶液に導電性無機粒子を分散させ、得られた液を、導体4上(半導電層7の場合)または絶縁被覆6上(半導電層5の場合)に塗布した後、加熱硬化や乾燥などをすることにより形成することができる。この方法により、絶縁被覆と半導電層間に隙間を生じさせることもなく、優れた耐熱性を有する半導電層を形成することができ、大幅な耐電圧の向上が可能になる。
【実施例】
【0042】
参考例
Pyre−ML(商品名:デュポン社製ポリイミドエナメル線用塗料:ポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液、樹脂濃度15重量%)を、N−メチル−2−ピロリドンで希釈し、樹脂濃度12重量%、14重量%のポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液を作製した。このようにして得られたポリイミドのN−メチル−2−ピロリドン溶液及び希釈しないPyre−ML(樹脂濃度15重量%)のそれぞれを撹拌しながら、酸化アルミニウムC(商品名:日本アエロジル社製酸化アルミニウム)を少しずつ、所定量添加した。添加後、さらにホモジナイザーを使用して10000rpmで20分間混合し、無機粉末の分散液を得た。
【0043】
このようにして得られた無機粉末の分散液の、30℃での粘度を、B型粘度計により測定した。粘度の測定値を、酸化アルミニウムCの添加量(ポリイミドに対する重量%)及び樹脂濃度との関係において、表1に示す。
【0044】
【表1】


表中の粘度は、Poiseで表わされている。
【0045】
表1から明らかなように、樹脂濃度15重量%では、酸化アルミニウム添加量の増加により、粘度も急激に増加し、30重量%ですでに100Poiseに達している。一方、本発明の範囲内である樹脂濃度12重量%及び14重量%の場合では、酸化アルミニウムを増加しても、粘度の急激な増加は見られず、50重量%以上でも充分酸化アルミニウム粉末の分散が可能な粘度である。
【0046】
実施例1〜3、比較例1
N−メチル−2−ピロリドンにポリイミド樹脂を固形分12.5重量%となるように溶解した樹脂溶液に、中心粒径0.013μmのアルミナ(酸化アルミニウムC)又は中心粒径0.030μmのシリカ(AEROSIL50)を表2に示す量添加し、撹拌して分散した。なお、用いられたアルミナ及びシリカは、該無機粉末に対して1重量%のシランカップリング剤KBM573で処理されたものである。
【0047】
得られた分散液に、φ1mmのニッケルメッキ銅線を浸漬した後、入口側温度300℃、出口側温度400℃の温度勾配を持つエナメル焼却炉にて、50秒の熱処理を行い、この浸漬〜熱処理を7回繰り返して、該銅線上に絶縁被覆を形成した。なお、比較例用として、アルミナ及びシリカを添加しない樹脂溶液を用いて、他は同条件で絶縁被覆を形成した絶縁被覆銅線を作成した。
【0048】
得られた絶縁被覆銅線の耐電圧をJIS C3003の箔巻法により測定した(n=6)。その後、該絶縁被覆銅線を330℃、又は350℃で保存した後の、耐電圧を同様に測定し(n=6)、耐電圧の経時劣化を調査した。その結果を表2に示す。
【0049】
【表2】

【0050】
アルミナやシリカを添加した実施例1〜3(本発明例)では、耐圧半減時間は、これらを添加しない比較例1に比べてはるかに長く、耐熱性に優れることが示されている。
【0051】
実施例4、5、比較例2
(1)絶縁被覆の形成
中心粒径0.013μmのアルミナ(酸化アルミニウムC)を表3の第3行に示す量用いた以外は実施例1〜3と同様にして、φ1mmのニッケルメッキ銅線上に絶縁被覆を形成し、絶縁被覆銅線を得た。
【0052】
(2)半導電層の形成
N−メチル−2−ピロリドンにポリイミド樹脂を固形分12.5重量%となるように溶解した樹脂溶液に、中心粒径0.013μmのアルミナ(酸化アルミニウムC)及びカーボンブラック(電気化学工業(株)製、デンカブラック、一次粒径:0.035μm)を表3の第6行に示す量添加し、撹拌して分散した。得られた分散液に、(1)で得られた絶縁被覆銅線を浸漬した後、入口側温度300℃、出口側温度400℃の温度勾配を持つエナメル焼却炉にて、50秒の熱処理を行い該銅線上に半導電層を形成した。なお、比較例用として、アルミナ及びカーボンブラックを添加しない樹脂溶液を用いて、他は同条件で、絶縁被覆等を形成した絶縁被覆銅線を作成した。
【0053】
得られた半導電層を有する絶縁被覆銅線の、コロナ開始電圧を測定した(n=3の平均値)。なお、10pCの電荷量の検知をコロナ開始電圧とした。その結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
半導電層を形成した実施例4、5(本発明例)では、半導電層を形成しない比較例2と比べて、高いコロナ開始電圧が得られている。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の絶縁被覆導体の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の絶縁被覆導体の他の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0057】
4 導体
5 半導電層
6 絶縁被覆
7 半導電層
8 平角部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分14重量%以下の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中に、該耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機粉末を、該耐熱性樹脂量の30〜300重量%分散した後、該有機溶剤を除去して得られることを特徴とする絶縁被覆材料。
【請求項2】
該耐熱性樹脂が、ポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の絶縁被覆材料。
【請求項3】
該無機粉末が、シランカップリング剤で表面処理されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の絶縁被覆材料。
【請求項4】
該無機粉末が、シリカ又はアルミナから選ばれることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の絶縁被覆材料。
【請求項5】
該無機粉末が、0.01〜0.05μmの中心粒子径を有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の絶縁被覆材料。
【請求項6】
導体、及び
該導体表面を被覆し、かつ固形分14重量%以下の耐熱性樹脂の有機溶剤溶液中に、該耐熱性樹脂よりも耐熱性が優れた無機粉末を、該耐熱性樹脂量の30〜300重量%分散した後、該有機溶剤を除去して得られる絶縁被覆材料、
からなることを特徴とする絶縁被覆導体。
【請求項7】
導体、
耐熱性樹脂及び該耐熱性樹脂量の30〜300重量%の無機粉末からなる絶縁被覆、並びに
該絶縁被覆上に設けられ、かつ該絶縁被覆と同等以上の耐熱性を有する半導電層、からなることを特徴とする絶縁被覆導体。
【請求項8】
該絶縁被覆と同等以上の耐熱性を有する半導電層が、さらに、該導体及び該絶縁被覆間にも設けられていることを特徴とする請求項7に記載の絶縁被覆導体。
【請求項9】
導体の断面が平角状であることを特徴とする請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の絶縁被覆導体。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−134813(P2006−134813A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−325257(P2004−325257)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】