説明

絶縁電線及び絶縁コイル

【課題】絶縁電線の最外層を融着層とする必要がなく、絶縁コイルの形成、分解を容易に行うことができ、更に放熱性を向上させることのできる絶縁電線及び絶縁コイルの提供を課題とする。
【解決手段】導線2と、絶縁層3aと、絶縁層3bとで構成され、絶縁層3a、3bを非融着性の樹脂で構成すると共に外周形状を隣接する絶縁電線1と密接する形状に構成してあることで、隣接する絶縁電線1間に隙間が生じることを防止することができる絶縁電線1及び絶縁電線1を巻回してなる絶縁コイルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及び絶縁コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁コイルに用いられる絶縁電線としては、絶縁電線の最外層を融着層とし、該融着層の外周形状を多角形や角形とする絶縁電線があった。
また絶縁コイルとしては、前記絶縁電線を用い、融着層を加熱等することで隣接する絶縁電線を融着させてコイルを形成するものがあった。
前記形式のものとして、例えば下記特許文献1、2がある。
融着層の外周形状を多角形や角形とする絶縁電線は、絶縁コイルを形成した際に隣接する絶縁電線間に隙間が生じることを防止できるメリットがある。
また隣接する絶縁電線を融着させて形成する絶縁コイルは、隣接する絶縁電線を強固に固着、一体化させ、コイル形状を保持させることができるメリットがある。
【特許文献1】特開平9−73818号公報
【特許文献2】特開2003−317547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1、2に示すような絶縁電線における問題は、何れも最外層を融着層とする必要があり、コスト面に問題があった。
また上記特許文献1、2に示すような絶縁コイルにおける問題は、コイルを形成する過程で絶縁電線に通電加熱、熱風加熱、薬品処理等の融着処理が必要であり、製造効率面に問題があった。また融着処理時に臭気が発生する等、作業環境面にも問題があった。
また隣接する絶縁電線を融着させる構成であることから、絶縁コイルの分解が容易でないという問題があった。
【0004】
そこで本発明は上記従来における問題点を解決し、絶縁電線の最外層を融着層とすることなく、絶縁コイルの形成、分解を容易に行うことができ、更に放熱性を向上させることのできる絶縁電線及び絶縁コイルの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の絶縁電線は、導線とその外周を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線であって、前記絶縁層は、非融着性の樹脂で構成すると共にその外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあることを第1の特徴としている。
【0006】
上記本発明の第1の特徴によれば、絶縁層は、非融着性の樹脂で構成してあるので、コスト面に配慮した絶縁電線とすることができる。また絶縁コイルの形成、分解を容易に行うことができる絶縁電線とすることができる。
【0007】
また、外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあるので、絶縁コイル形成時に隣接する絶縁電線間に隙間が生じることを防止できる。よって隣接する絶縁電線間に空気相が形成されることを防止でき、放熱性、耐サージ性を向上させることができる。
【0008】
また本発明の絶縁電線は、上記本発明の第1の特徴に加えて、絶縁層は、内層と外層の2層からなり、内層は導線と同じ外周形状の樹脂で構成し、外層は導線とは異なる外周形状の樹脂で構成してあることを第2の特徴としている。
【0009】
上記本発明の第2の特徴によれば、上記本発明の第1の特徴による作用効果に加えて、絶縁層は、内層と外層の2層からなる構成としてあるので、耐油性、耐水性、耐磨耗性に優れた絶縁電線とすることが可能となる。また絶縁層を2層とすることで、高温における被膜の軟化が少ない絶縁電線とすることが可能となる。更に絶縁抵抗を増大させることができ、絶縁性能を一段と高く保持させることが可能となる。また絶縁層の外周形状、厚み等を内層と外層とで異なるものとすることによるメリットを得ることが可能となる。
また内層は導線と同じ外周形状の樹脂で構成してあるので、導線の外周に同一幅の内層を形成させることができる。よって絶縁性能を高く保持させることができる。また内層の成形が容易である。
また外層は導線とは異なる外周形状の樹脂で構成してあるので、外層の外周形状を導線や内層とは独立したものとすることができる。
【0010】
また本発明の絶縁電線は、上記本発明の第2の特徴に加えて、絶縁層の内層と外層とを同一材料で構成してあることを第3の特徴としている。
【0011】
上記本発明の第3の特徴によれば、上記第2の特徴による作用効果に加えて、絶縁層の内層と外層とが同一材料で構成されていることでコストを抑えることができると共に製造効率のよい絶縁電線とすることができる。
【0012】
また本発明の絶縁電線は、上記第1〜3の何れかに記載の特徴に加えて、絶縁層は、放熱用フィラーを含有させた樹脂で構成してあることを第4の特徴としている。
【0013】
上記本発明の第4の特徴によれば、上記第1〜3の何れかに記載の特徴による作用効果に加えて、絶縁層は、放熱用フィラーを含有させた樹脂からなる構成としてあるので、放熱性を更に一段と向上させることができる。
【0014】
また本発明の絶縁コイルは、絶縁電線を巻回してなる絶縁コイルであって、コイルを構成する絶縁電線の絶縁層は、非融着性の樹脂で構成すると共に外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあることを第5の特徴としている。
【0015】
上記本発明の第5の特徴によれば、コイルを構成する絶縁電線の絶縁層は、非融着性の樹脂で構成してあるので、絶縁コイルの形成、分解を容易に行うことができる。
また絶縁層の外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあるので、絶縁コイル形成時に隣接する絶縁電線間に隙間が生じることを防止することができる。よって隣接する絶縁電線間に空気相が形成されることを防止でき、放熱性、耐サージ性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の絶縁電線及び絶縁コイルによれば、絶縁層は、非融着性の樹脂で構成することにより、絶縁コイルの形成、分解を容易に行うことが可能となる。
また絶縁層の外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成することにより、絶縁コイル形成時に隣接する絶縁電線間に隙間が生じることを防止することができる。よって絶縁コイルの放熱性、耐サージ性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下の図面を参照して、本発明の実施の形態に係る絶縁電線及び絶縁コイルを説明し、本発明の理解に供する。しかし、以下の説明は本発明の実施形態であって、特許請求の範囲に記載の内容を限定するものではない。
【0018】
図1は本発明の実施形態に係る絶縁電線の断面図である。図2は図1の絶縁電線を巻回して得られた絶縁コイルの概略を示す断面図である。
【0019】
先ず図1を参照して、本実施形態の絶縁電線1は、絶縁コイルに用いられる電線であり、導線2と、絶縁層3aと、絶縁層3bとで構成されている。
【0020】
前記導線2は、図1に示すように、断面円形の導線である。導線としては、例えば純銅や銅合金からなる導線、銀等他の金属材料からなる導線等があるが、公知の如何なる導線であってもよい。
また導線の断面形状も、四角、六角等如何なるものであってもよいし、その導径も用途に応じて適宜変更可能である。
【0021】
前記絶縁層3aは、導線2の外周に被覆された非融着性の樹脂で構成される層である。このように非融着性の樹脂を用いることで、コストを抑えた絶縁電線1とすることが可能となる。また絶縁層3aは、図1に示すように、導線2と同じ外周形状をしている。このような構成とすることで、導線2の全周に同一幅の絶縁層3aを形成させることができる。よって導線2の全周に亘って絶縁性能を高く保持させることができる。
【0022】
絶縁層3aに用いる樹脂としては、例えばポリエウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等、コイル用絶縁電線に一般的に用いられる樹脂のうち1種類、あるいは2種類以上組み合わせた樹脂を用いる事が出来る。またポリエウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等、コイル用絶縁電線に一般的に用いられる樹脂のうち1種類、あるいは2種類以上組み合わせた樹脂が2層以上の多層構造を形成していても構わない。
【0023】
また絶縁層3aを導線2の外周へ被覆させる方法は、公知の被覆技術を用いれば良く、例えば樹脂を溶剤に溶かした溶液を導体2の外周に十分に滴下させたり、溶液の浴に浸漬させたりして被覆させるディッピング法、溶液に電荷付与剤を添加した浴に浸漬して電着する電着法等が挙げられる。その後、乾燥工程により、溶剤を除去し絶縁層3aとして形成させる。
また樹脂を溶かす溶剤としては、公知のものを適用すれば良く、例えばディッピング法では、クレゾール、トルエン、キシレン、ナフサ、プロピレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、ジメチルテレフタレート、アルコール類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)が挙げられ、電着法ではアルコール類、水等が挙げられる。
【0024】
また絶縁層3aには、放熱用フィラーを含有させている。このような構成とすることで、放熱性を一段と向上させることができる。
放熱用フィラーとしては、BN、SiC、AlN、Al、SiN、SiO、MgO、ZnO、TiO等があり、これらの無機絶縁材料から適宜選択して用いることができる。例えばBNの熱伝導率は約210(W/m・K)であり、SiCの熱伝導率は270(W/m・K)であり、AlNの熱伝導率は約170(W/m・K)であり、樹脂材料の熱伝導率(0.2W/m・K前後)よりも極めて高い。またAlの熱伝導率は約36(W/m・K)であり、RN等に比べると低いが、価格が安いので、フィラーを混入させるための製造コストの増大を抑制することができる利点がある。
尚、絶縁層3aには、放熱用フィラーに加えて、酸化防止剤、潤滑剤、顔料、染料等を適宜添加しても勿論よい。また絶縁層3aの幅は、用途に応じて適宜変更可能である。
【0025】
前記絶縁層3bは、絶縁層3aの外周に被覆された非融着性の樹脂で構成される層であり、公知の被覆技術を適用して絶縁層3aの外周に被覆される。このように絶縁層3aの外周に絶縁層3bを設け、絶縁層3aを内層とし、絶縁層3bを外層とする2層構造とすることで、耐油性、耐水性、耐磨耗性に優れた絶縁電線1とすることができる。また絶縁層が2層となることで、高温における被膜の軟化が少ない絶縁電線1とすることができる。更に絶縁抵抗を増大させることができ、絶縁性能を一段と高く保持させることができる。また絶縁層の外周形状、厚み等を内層と外層とで異なるものとすることができる。
【0026】
また絶縁層3bの外周形状は、図1に示すように、導線2、絶縁層3aとは異なる正六角形としている。このような構成とすることで、図2に示すように、絶縁コイル4を形成する際に、隣接する絶縁電線1を密接させることができる。よって隣接する絶縁電線1間に隙間が生じることを防止することができる。従って、隣接する絶縁電線1間に空気相が形成されることを防止でき、放熱性、耐サージ性を向上させることができる。また絶縁電線1をコイル用絶縁電線として有効に用いることができる。
また図1に示すように、本実施形態においては、絶縁層3bは各頂点部のみに厚みを有し、その他の部分は絶縁層3aと接するように構成してある。このような構成とすることで、占積率を低下させることのない絶縁電線とすることができる。
勿論、このような構成とせず、絶縁層3aの外周に同一幅で絶縁層3bを設けることも可能である。
【0027】
絶縁層3bに用いる樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂等の様な、非融着性の熱硬化生樹脂を用いる事が出来る他、ポリエウレタン、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等、コイル用絶縁電線に一般的に用いられる非融着性の樹脂のうち1種類、あるいは2種類以上組み合わせた樹脂用いる事が出来る。また当該絶縁電線の使用温度範囲が、絶縁層3bを融着させない温度範囲である場合はポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノキシ、各種フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を用いる事も出来る。
【0028】
また絶縁層3bを絶縁層3aの外周へ被覆させる方法は、公知の被覆技術を用いれば良く、例えば樹脂を溶剤に溶かした溶液を絶縁層3aの外周に十分に滴下させたり、溶液の浴に浸漬させたりして被覆させるディッピング法、溶液に電荷付与剤を添加した浴に浸漬して電着する電着法等が挙げられる。その後、乾燥工程により、溶剤を除去し絶縁層3bとして形成させる。
また樹脂を溶かす溶剤としては、公知のものを適用すればよく、既述した溶剤を用いることができる。
また当該絶縁電線の使用温度範囲が、絶縁層3bを融着させない温度範囲であり、絶縁層3bに用いる樹脂として、ポリアミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、フェノキシ、各種フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂を用いる場合は、ディッピング法のみならず、樹脂の溶融押しによる被覆を行っても構わない。
【0029】
また絶縁層3bには、放熱用フィラーをさせている。このような構成とすることで、放熱性を一段と向上させることができる。
放熱用フィラーとしては、BN、SiC等既述した放熱用フィラーを用いることができる。
尚、絶縁層3bの外周形状は正六角形に限られるものではなく、隣接する絶縁電線を密接させることができる形状であれば、正方形、長方形、多角形等如何なる形状であってもよい。また、必ずしも絶縁層3bの各頂点部のみに厚みを有し、その他の部分は絶縁層3aと接するような構成とする必要もなく、如何なる構成であってもよい。
また絶縁層3aには、放熱用フィラーに加えて、酸化防止剤、導体密着向上剤、顔料、染料等を適宜添加しても勿論よい。また絶縁層3bには、酸化防止剤、潤滑剤、顔料、染料等を適宜添加してもよい。また絶縁層3bの幅は、用途に応じて適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、絶縁電線及び絶縁コイルとして、各種電線、各種コイル、ハイブリッド自動車用モータ等のモータのステータや変圧器などに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施形態に係る絶縁電線の断面図である。
【図2】図1の絶縁電線を巻回して得られた絶縁コイルの概略を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 絶縁電線
2 導線
3a 絶縁層
3b 絶縁層
4 絶縁コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線とその外周を被覆する絶縁層とからなる絶縁電線であって、前記絶縁層は、非融着性の樹脂で構成すると共にその外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあることを特徴とする絶縁電線。
【請求項2】
絶縁層は、内層と外層の2層からなり、内層は導線と同じ外周形状の樹脂で構成し、外層は導線とは異なる外周形状の樹脂で構成してあることを特徴とする請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
絶縁層の内層と外層とを同一材料で構成してあることを特徴とする請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
絶縁層は、放熱用フィラーを含有させた樹脂で構成してあることを特徴とする請求項1〜3の何れか1つに記載の絶縁電線。
【請求項5】
絶縁電線を巻回してなる絶縁コイルであって、コイルを構成する絶縁電線の絶縁層は、非融着性の樹脂で構成すると共に外周形状を隣接する絶縁電線と密接する形状に構成してあることを特徴とする絶縁コイル。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate