説明

絶縁電線

【課題】従来の絶縁電線の絶縁構造では導線軸方向の導線表面に沿って同種同質の絶縁物が連続しているため、絶縁物で誘電体特有の誘電体ひずみが積算され、誘電体ひずみに起因する電荷エネルギーが時間を経て線路に流れ込む結果、線路動特性が劣化する。
【解決手段】課題を解決するため最も確実で簡単な手段として図1の如く、異種又は異質で複数の絶縁物を電線軸方向の導線表面に沿って分割使用し絶縁物の連続性を遮断する結果、絶縁物の誘電体ひずみ量の総量を減少させる方法で課題を解決する手段とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線の絶縁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁電線においては、導線軸方向の導線表面に沿って導線を取り囲む形で同種同質の絶縁物で絶縁した寄線絶縁電線又は単線絶縁電線がある。絶縁電線では、絶縁物の種類また性質によって線路動特性変化が起きる現象は従来から知られていて、絶縁物の比誘電率及び誘電体損失角の少ない絶縁物を使用または開発し絶縁電線に使用されてきた。また、導線軸に対して垂直方向に異種又は異質の絶縁物を複数使用する方法などもあった。本発明絶縁構造の絶縁電線のように、異種又は異質で複数の絶縁物を導線軸方向の導線表面に沿って交互に密着させ導線を絶縁する手段による線路動特性を改善する方法は存在していなかった。
【特許文献1】特開2000―311520号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
絶縁電線の導線部に電圧が加わると電界が生じる。電界内にある誘電体である絶縁物には電界の方向に張力ひずみ、電界と垂直方向に圧力ひずみを受ける。誘電体ひずみは連続した導線表面に沿った絶縁物全体に時間を経て伝達され又、絶縁電線の導線表面絶縁物全体で生じる。誘電体ひずみによる絶縁物内の電荷エネルギーは時間を経て導線に流れ結果、線路動特性を劣化させる。
【0004】
本発明絶縁電線は、0003記載の問題点を解決することを目的とするため、導線の軸方向の導線表面に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させ導線表面を絶縁する、図1の構造を有する導線軸方向分割絶縁構造を特徴とする絶縁電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明絶縁電線は図1の如く、導線軸方向の導線表面に沿って異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させた絶縁構造にする手段により0003記載の問題点を解決した。
【発明の効果】
【0006】
以下説明は交番電界中における誘電体である絶縁物に生じる現象を前提に説明する。
【0007】
全ての絶縁電線において、誘電体である絶縁物の特性により絶縁電線の動特性が変化することは、過去から良く知られている現象である。動特性が変化する一つの要因として絶縁物内で生じる誘電体ひずみに起因する誘電体が持つ電荷エネルギーが時間を経て導線に流れ込む結果によるところが大きい。
【0008】
従来、導線を絶縁する目的で導線の軸方向の導線表面に沿って、同種同質の絶縁物を使用する絶縁方法がとられていた。導線表面を同種同質の絶縁物で絶縁すると、電界内にある誘電体である絶縁物で生じた誘電体ひずみが時間を経て絶縁物全体に伝達される。
【0009】
古典的に知られるマクスウェルのひずみ力理論では、電界内にある誘電体である絶縁物において、絶縁物は電界の方向に張力ひずみ、電界と垂直方向に圧力ひずみを受けることは従来から衆知されている事実である。この張力、圧力を総称してマクスウェルの応力という。
【0010】
以下説明のため、0009記載の張力ひずみと圧力ひずみを含めたものを誘電体ひずみと定義する。
【0011】
電界内におけるマクスウェルの電磁場の理論によると、電界内における誘電体現象は弾性体における各法則が適用されることから、一箇所で生じた誘電体ひずみは電界内にある導線表面の絶縁物全体に時間を経て伝達される。
【0012】
長さLの絶縁電線に電圧を印加した場合、任意の点で生じた誘電体ひずみは絶縁物が連続した導線表面の絶縁物内で、弾性体において力が伝達されると同様に電界内にある絶縁物全体に時間を経て伝達される。またこの誘電体ひずみは絶縁電線に使用してある導線表面の絶縁物全体でも生じる。
【0013】
従って、絶縁物内の誘電体ひずみに飽和がないと仮定し、比較的短い線路においては、電線長が増加するに従って絶縁物内の誘電体ひずみ量は電線長に比例して増加し結果、電線長が短ければ少なく、長ければ多いことは容易に推察できる。絶縁電線を例えば、音声信号伝送線路であるスピーカーケーブル等に使用した場合の音の変化量が、ケーブル長におよそ比例する現象と矛盾するものではない。
【0014】
必要長Lの絶縁電線内の誘電体ひずみ量を表す場合、横軸に電線長、縦軸に誘電体ひずみ量をとりグラフで表した場合、電線長に対して誘電体ひずみ量が増加していく角度をθとすれば、電線末端の誘電体ひずみ量は(tanθ×L)となる。よって絶縁物内の誘電体ひずみ量の総量はグラフの三角形の面積となり(1/2)×(tanθ×L)×Lとなる。
【0015】
0014記載の電線長Lにおける誘電体ひずみの総量を減少させる為には、絶縁物の連続性を遮断する方法が最も確実で効果的な方法である。
【0016】
従って、0014、0015記載の考え方において、例えば絶縁電線の絶縁物を3分割した図1の構造を有する絶縁電線内の誘電体ひずみの総量を思考した場合、一単位長の面積は長さの2乗に反比例して(1/9)、必要長では3単位を必要とする故に(1/9)×3=(1/3)倍となる。
【0017】
図1の如く、絶縁物の連続性を遮断する目的で電界内にある導線表面の絶縁物の誘電体特性が弾性体におけるひずみ力を伝達し難い性質の絶縁物Bを配置した構造にすれば絶縁物Aの連続性は遮断されることになる。但し完全に遮断できる絶縁物Bは存在せず遮断効率の良い絶縁物を選択し使用する必要がある。
【0018】
0016は本発明絶縁電線の技術思想を説明する上での記述であり、絶縁物Bにおいて誘電体ひずみを完全に遮断することは実在する絶縁物では不可能である又、絶縁物Bにおいても誘電体ひずみは生じるが例えば、加熱融着するパラフィン紙などを使用すれば0016記載の考え方が極めて有効であり、誘電体ひずみの総量を減少させ線路動特性劣化を防ぐことが可能である。
【0019】
本発明絶縁電線の絶縁構造は図1において絶縁物A及び絶縁物Bを配置する間隔及び長さ又、導線軸方向に対しての位置などを特定するものではない。
【0020】
本発明絶縁電線を、正負非対称で周期性を持たない信号例えば、音楽信号等を伝送する音声信号伝送線路等に実際に使用し比較試聴実験を行うと、従来構造の絶縁電線と本発明絶縁電線との違いが明確に音に現れる。
【0021】
周期性のある信号例えば、正弦波又は矩形波等を印加した場合においては聴感上殆ど両者の違いが認められない。理由は絶縁物内で生じる誘電体ひずみによる誘電体が持つ電荷エネルギーが時間を経て導線に流れ込む為であり、音声信号等は正負非対称で周期性を持たない信号であるため聴感上明確に効果が判別できる。
【0022】
本発明絶縁電線を絶縁物の特徴が最も顕著に表れる一例である、スピーカーケーブルに使用し、比較試聴実験を行った結果を記載する。
【0023】
本発明20分割絶縁構造の絶縁電線を使用して試作したスピーカーケーブルと従来型絶縁電線を使用して試作したスピーカーケーブルの2種を製作した。長さ2メートル、ケーブル構造は幅10mmの平行導線構造とした。固定器具はUL規格/UL94-HB RoHS対応製品のジュラコンスペーサーとナイロン66Pクリップを使用し、絶縁電線は住電日立ケーブル600V耐燃性ポリエチレン絶縁電線EMIE/F 1.25mm平方を使用した。
【0024】
0023記載のスピーカーケーブルを幅10mmの平行導線構造とした理由は、負荷回路に流れる負荷電流による導線間に生じる反発力が絶縁物に直接伝達されることを避ける為であり、導線間に働く力に起因する誘電体現象と電界に起因する誘電体現象を分けて比較試聴実験をする目的である。
【0025】
比較試聴実験には7人のテスターで行い、個人の嗜好を出来うる限り排除するため、音の輪郭が明確になるか否かを判定基準とした。
【0026】
又、音響システム、試聴する音源又音楽ジャンルなど特に定めることなく、人間の会話を録音したソースも使い、試聴場所も特定することなく行った。
【0027】
本発明絶縁電線を使用したスピーカーケーブルでは音の輪郭が極めて明確になり、人の会話を録音した音源でも会話音の輪郭が明確になることを7人のテスター全員一致で確認し極めて優れた線路動特性を持つ絶縁電線であると判定した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明絶縁電線の実施の形態について説明する。但し以下に示す実施例は本発明絶縁電線の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、製造方法や使用する電線材又は絶縁物を分割する段数及び絶縁物の種類などを、下記のものに特定するものではない。本発明絶縁電線は請求項の範囲において種々の変更を加えることが出来る。更に製造する上での手順及び製造方法なども下記のものに限定するものでもない。以下の実施例は手造りの一例であり、従来の製造方法を利用し量産を行っても良い。
【実施例1】
【0029】
住電日立ケーブル600V耐燃性ポリエチレン絶縁電線EMIE/F 1.25mm平方を使用し、必要長約900mmの本発明絶縁電線を製造する場合の実施の形態について説明する。
【0030】
以下実施例説明の為0029記載の電線を絶縁電線と呼ぶ。
【0031】
絶縁電線を必要長より約100mm長い1000mmに切断し両端を固定金具等で固定し約1kgの張力を持たせる。図1の如くケーブル端から約350mm及び650mmの2箇所をパイプ切断機等で導線を破損しないように絶縁物Aを幅5mm剥ぎ取る。
剥ぎ取った幅5mmの導線表面部にポリエチレンとは異質の絶縁物例えば、加熱融着するパラフィン絶縁物Bを巻きつけ融着させる。この作業を2箇所行う。
絶縁物Bで絶縁した箇所を、長さ約15mmの耐電圧600V肉厚熱収縮チューブCで二箇所絶縁保護する。絶縁電線の両端をそれぞれ50mm切断し必要長900mmを確保する。
以上で長さ900mm三分割絶縁構造の絶縁電線が完成する。
製造方法は本記載の実施例が制約するものではなく、絶縁物の連続性が遮断できることを目的とし自由に行ってよい。又分割数は2箇所以上限りなく無限に近くても良い。絶縁方法等は耐圧、引張り強度、折り曲げ強度などを考慮し従来の技術常識で行えばよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
正負対象で周期性を持つ信号が伝送される線路等においては本発明絶縁電線を使用する効果は聴感上では殆ど認められないが、正負非対称で周期性を持たない信号等を伝送する線路例えば、音声信号伝送線路等に使用した場合には極めて効果が高い。
【0033】
本発明絶縁電線を例えば、電子回路である音響用増幅器等の内部配線に実際に使用した場合また、スピーカーシステムの内部配線に使用した場合においても本発明絶縁電線の十分な効果が確認されている。
【0034】
導線直径、断面積の大小に関係なくどのような絶縁電線にも使用可能な絶縁構造であり又、正負非対称で周期性を持たない信号を伝送する線路であれば、殆どの箇所において効果が確認できており、産業上の利用範囲は極めて広く、社会に貢献できる絶縁電線である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明絶縁電線の構造図である。
【図2】本発明絶縁電線の外見図である。
【図3】従来の絶縁電線の構造図である。
【符号の説明】
【0036】
1 絶縁電線の導線部である。
2 絶縁電線の絶縁物Aである。
3 絶縁電線の絶縁物Bである。
4 絶縁物Bを保護する絶縁物Cである。







【特許請求の範囲】
【請求項1】
導線軸方向の導線表面に沿って同種同質の絶縁物が連続することを避け、異種又は異質で複数の絶縁物を交互に密着させ導線表面の絶縁をおこなう導線軸方向分割絶縁構造を特徴とする絶縁電線。
































【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−173135(P2007−173135A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371355(P2005−371355)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(305033000)
【Fターム(参考)】