説明

継手ヨークおよび継手

【課題】ステアリングシャフト等の軸を連結するためにフランジを撓ませるスリットを設けた構成において、腕部の変形を抑制しつつ、当該軸との強固な連結状態を確保できる継手ヨーク、および、この継手ヨークを備える継手を提供すること。
【解決手段】第1継手ヨーク21は、基部25と、1対の腕部26と、スリット27と、スリット27を挟んで対向する1対のフランジ28とを含む。基部25は、一端25A側からステアリング軸3が嵌め合わされる挿通孔29を有している。1対の腕部26は、一端25A側と逆方向へ延び出ており、十字軸23が嵌め込まれる嵌合穴31を有している。スリット27は、基部25の一端25A側から切り込まれ、徐々に幅Wが狭まっている。1対のフランジ28は、それぞれに形成された各ボルト孔33に共通のボルト50が組み付けられることによって互いに接近して挿通孔29を狭める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車のステアリング装置等に用いられて回転力を第1軸から第2軸へ伝達する継手、および、この継手を構成する継手ヨークに関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、特許文献1に開示された自動車のステアリング装置は、ステアリングと、ステアリングに連結されたステアリングシャフトと、ステアリングシャフトにつながった中間シャフトと、中間シャフトにつながったステアリングギヤユニットとを備えている。ステアリングを操舵すると、その操舵トルク(ステアリングの回転力)は、ステアリングシャフトおよび中間シャフトを順に経てステアリングギヤユニットに伝えられ、ステアリングギヤユニットは、この操舵トルクに応じて車輪を転舵させる。ステアリングシャフトと中間シャフトとは同一直線上に存在しないのが一般的であり、特許文献1のステアリング装置では、ステアリングシャフトと中間シャフトとが自在継手によって連結されている。
【0003】
この自在継手は、ステアリングシャフトの端部に連結されたヨークと、中間シャフトの端部に連結されたヨークと、十字軸とを含んでいる。各ヨークは、基部と、基部の軸方向先端縁から延出した1対の腕部とを備えている。基部は、ステアリングシャフトや中間シャフトの端部が挿通される挿通孔が形成された円筒状であり、基部の周上1箇所には、基部の軸線方向に延びて当該箇所を切断するスリットが形成されている。基部には、スリットを挟む1対のフランジが一体的に設けられている。各フランジには、基部の軸線方向と直交する方向に延びるボルト孔が形成されている。
【0004】
ヨークでは、基部の挿通孔にステアリングシャフトや中間シャフトの端部を挿通してから、各フランジのボルト孔に共通のボルトを組み付けると、スリットの幅を狭めるように1対のフランジが互いに接近する方向へ撓み、これに応じて、挿通孔が狭まる。そのため、挿通孔に挿通されたステアリングシャフトや中間シャフトの端部と基部とが密着し、ヨークとステアリングシャフトや中間シャフトとが強固に連結される。
【0005】
ヨークの各腕部には、円孔が形成されている。十字軸の4つの軸部のうち、同一直線上にある1対の軸部が、ステアリングシャフト側のヨークの各腕部の円孔に対して、軸受を介して挿通され、残り1対の軸部が、中間シャフト側のヨークの各腕部の円孔に対して、軸受を介して挿通されている。これにより、十字軸は、ステアリングシャフト側のヨークおよび中間シャフト側のヨークのそれぞれの各腕部によって回転自在に支持されている。よって、ステアリングを操舵すると、ステアリングの操舵トルクが、まず、ステアリングシャフトに伝達されることで、ステアリングシャフトを回転させ、次いで、十字軸を介してステアリングシャフトから中間シャフトに伝達されることで、中間シャフトも回転させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−299706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1記載のヨークに形成されたスリットは、均一な幅を有する直線の帯状である。特許文献1の図24(A)に示すようにスリットが各腕部の円孔の近くまで延びていると、前述したように各フランジのボルト孔にボルトを組み付けて1対のフランジを互いに接近する方向へ撓ませたときに、腕部まで撓んでしまい、円孔が変形する虞がある。円孔が変形すると、円孔に挿通された十字軸の円滑な回転が阻害されるので、自在継手においてがたつきや異音が発生する虞がある。
【0008】
かといって、特許文献1の図24(B)に示すように、スリットを各腕部の円孔から遠ざけると、スリットが短くなってしまうので、今度は、1対のフランジが撓み難くなる。フランジの撓みが不足すると、基部の挿通孔があまり狭まらなくなるので、挿通孔に挿通されたステアリングシャフトや中間シャフトの端部と基部との密着度が低下し、ヨークとステアリングシャフトや中間シャフトとの連結状態が脆弱になる。なお、設計要求に応じてヨーク全体を小型化しなければならない場合には、スリットを長くすること自体が困難になる。
【0009】
この発明は、かかる背景のもとでなされたもので、ステアリングシャフト等の軸を連結するためにフランジを撓ませるスリットを設けた構成において、腕部の変形を抑制しつつ、当該軸との強固な連結状態を確保できる継手ヨーク、および、この継手ヨークを備える継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、一端(25A)側から軸(3、5、7)が嵌め合わされる挿通孔(29)を有する基部(25)と、前記基部に一体的に設けられ、前記一端側と逆方向へ延び出ており、十字軸(23)が嵌め込まれる嵌合穴(31)が形成された1対の腕部(26)と、前記挿通孔と連通するように前記基部に形成されたスリット(27)であって、前記一端側から切り込まれ、前記挿通孔に沿って延びていて、徐々に幅(W)が狭まっているスリットと、前記基部に形成され、前記スリットを挟んで対向する1対の締付部(28)であって、前記挿通孔の軸線方向と直交する方向に延びるボルト孔(33)がそれぞれに形成されており、各ボルト孔に共通のボルト(50)が組み付けられることによって互いに接近して前記挿通孔を狭めることにより、前記挿通孔に挿通された軸と前記基部とを密着させる締付部とを含むことを特徴とする、継手ヨーク(21)である。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記スリットの幅は、前記一端側から、テーパー状に狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨークである。
請求項3記載の発明は、前記スリットの幅は、前記一端側から、階段状に狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨークである。
請求項4記載の発明は、前記スリットは、前記一端側から一定幅で切り込まれ、奥で幅が狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨークである。
【0012】
請求項5記載の発明は、前記基部において前記挿通孔を区画する内周面には、セレーション(30)が形成されており、前記基部は、前記挿通孔に挿通された軸とセレーション嵌合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の継手ヨークである。
請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の継手ヨークを含むことを特徴とする、継手(4、6)である。
【0013】
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0014】
請求項1記載の発明によれば、基部の一端側から切り込まれたスリットでは、当該一端側から離れるのに従って徐々に幅が狭まっているので、スリットを挟む1対の締付部は、当該一端側へ近付くのに従って肉薄になっている。このようにすれば、スリットを短くしてスリットの奥部分(前記一端から最も離れた部分)を腕部から遠ざけつつ、1対の締付部を撓み易くすることができる。これにより、各締付部のボルト孔にボルトを組み付けたときに、1対の締付部が良好に撓んで挿通孔が狭まることによって基部と挿通孔内の軸とが密着する一方で、腕部までもが撓むことを抑制できる。その結果、腕部の変形を抑制しつつ、当該軸と基部との強固な連結状態を確保できる。
【0015】
請求項2記載の発明によれば、幅がテーパー状に狭まったスリットは、当該スリットと同形状の歯を有するフライス工具等によって簡単に形成できる。
請求項3記載の発明によれば、スリットの幅を、階段状に狭めることによって、細かく調整できる。
請求項4記載の発明によれば、スリットの奥で幅を狭めるだけでも、1対の締付部を撓み易くすることができる。
【0016】
請求項5記載の発明によれば、1対の締付部が良好に撓んで挿通孔が狭まることによって、基部の内周面のセレーションと軸のセレーションとが噛み合って密着することから、基部と当該軸とをより強固に連結することができる。
請求項6記載の発明によれば、このような継手ヨークを含む継手では、継手ヨークにおいて、腕部の変形を抑制しつつ、基部の挿通孔に挿通された軸と基部との強固な連結状態を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1において自在継手4および自在継手6ならびにこれらの周囲の部分を抜き出して示した図である。
【図3】図3は、自在継手4(自在継手6)の周辺におけるステアリング装置1の分解斜視図である。
【図4】図4(a)は、第1ヨーク21の斜視図であり、図4(b)は、第1ヨーク21を図4(a)とは別の方向から見た斜視図である。
【図5】図5(a)は、互いに連結された状態にある第1ヨーク21およびステアリング軸3の側面図であり、図5(b)は、図5(a)のA−A線における断面図であり、図5(c)は、図5(a)のB−B線における断面図である。
【図6】図6(a)は、比較例に係る第1継手ヨーク21の側面図であり、図6(b)は、図6(a)のC−C線における断面図である。
【図7】図7(a)は、本発明の第1の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図であり、図7(b)は、図7(a)のD−D線における断面図である。
【図8】図8は、本発明の第2の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図である。
【図9】図9は、本発明の第3の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の好ましい実施の形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置1の概略構成を示す模式図である。
図1を参照して、この実施形態におけるステアリング装置1は、操舵部材2と、ステアリング軸(ステアリングシャフト)3と、自在継手4と、中間軸5と、自在継手6と、ピニオン軸7と、ラックバー8と、ラックハウジング9とを主に含んでいる。
【0019】
操舵部材2として、たとえば、ステアリング(ホイール)を用いることができる。操舵部材2には、ステアリング軸3の一端が連結されている。ステアリング軸3の他端と中間軸5の一端とが自在継手4によって連結されている。中間軸5の他端とピニオン軸7の一端とが自在継手6によって連結されている。ステアリング軸3と、中間軸5と、ピニオン軸7とは、同一直線上に存在しない。
【0020】
ピニオン軸7の他端にはピニオン7Aが一体的に設けられている。ラックバー8は、車幅方向(図1の左右方向)に長手の棒状である。ラックバー8には、ピニオン7Aと噛み合うラック8Aが形成されており、ピニオン軸7およびラックバー8によってラックアンドピニオン機構が構成されている。
ラックハウジング9は、車幅方向に長手の中空体であり、車体(図示せず)に固定されている。ラックバー8は、ラックハウジング9内に挿通され、ラックハウジング9によって、軸受等(図示せず)を介して支持されている。この状態で、ラックバー8は、車幅方向にスライド可能である。ラックバー8の両端部は、ラックハウジング9の両外側へ突出しており、ラックバー8の各端部には、タイロッド10が連結されている。タイロッド10は、ナックルアーム(図示せず)を介して転舵輪11に連結されている。
【0021】
このようなステアリング装置1において、操舵部材2が操舵されてステアリング軸3が回転されると、この回転がピニオン7Aおよびラック8Aによって、車幅方向に沿ったラックバー8のスライド(直線運動)に変換される。これにより、ラックバー8の両側の転舵輪11の転舵が達成される。
図2は、図1において自在継手4および自在継手6ならびにこれらの周囲の部分を抜き出して示した図である。図3は、自在継手4(自在継手6)の周辺におけるステアリング装置1の分解斜視図である。
【0022】
以下では、ステアリング装置1における自在継手4および自在継手6ならびにこれらの周囲の部分について詳しく説明する。
図2では、ステアリング軸3の一部、自在継手4の全体、中間軸5の全体、自在継手6の全体およびピニオン軸7の一部が図示されている。
図3を参照して、ステアリング軸3は、金属製の細長い円柱であり、その外径は、必要に応じて、軸線方向における任意の部分において縮径されたり拡径されたりしている。ステアリング軸3において、自在継手4に連結される端部3Aの外周面には、全周に亘ってセレーション15が形成されている。セレーション15全体は、ステアリング軸3の軸線方向(長手方向)から見て、環状につながったぎざぎざになっている。端部3Aには、位置決め溝16が形成されている。位置決め溝16は、U字状に窪みつつ端部3Aの周方向に延びる環状である。位置決め溝16は、端部3Aに形成されたセレーション15を、ステアリング軸3の軸線方向において二分している。
【0023】
自在継手4は、第1継手ヨーク21と、第2継手ヨーク22と、十字軸23と、軸受カップ24とを含んでいる。
図4(a)は、第1ヨーク21の斜視図であり、図4(b)は、第1ヨーク21を図4(a)とは別の方向から見た斜視図である。
第1継手ヨーク21の説明にあたり、図3だけでなく、図4も参照する。第1継手ヨーク21は、たとえば金属の鍛造によって形成されている。第1継手ヨーク21は、図3においてステアリング軸3寄りにある基部25と、1対の腕部26と、スリット27と、1対のフランジ28(締付部)とを一体的に含んでいる。
【0024】
基部25は、中空体であり、この実施形態では、略円筒状である。図3では、略円筒状の基部25の中心軸と、ステアリング軸3とが同一直線上に位置している。基部25には、その中心軸が通る位置に挿通孔29が形成されている。挿通孔29は、基部25を貫通する丸穴であり、挿通孔29が、基部25の中空部分を構成している。丸い挿通孔29の中心軸(軸線)と基部25の中心軸とは平行に延びている。基部25において挿通孔29を区画する内周面の全域には、セレーション30が形成されている。セレーション30全体は、基部25の軸線方向(中心軸が延びる方向)から見て、環状につながったぎざぎざになっている。
【0025】
1対の腕部26のそれぞれは、基部25の軸線方向に細長い薄板状であり、基部25に一体的に設けられている。腕部26は、図3の基部25におけるステアリング軸3から遠い側の端部(図3における左端部)において、周方向に180°隔てた位置に1つずつ設けられており、基部25から離れる方向(図3における左側)へ向けて延び出ている。そのため、基部25および1対の腕部26のまとまり(換言すれば、第1継手ヨーク21の全体)を、基部25の径方向外側から見ると、当該まとまりは、略U字状をなしている。基部25では、1対の腕部26の間の位置において、挿通孔29が露出されている。1対の腕部26は、平行に延びていて、それぞれの長さ方向における同じ位置には、嵌合穴31が形成されている。嵌合穴31は、基部25の径方向において腕部26を貫通する丸穴であり、腕部26において基部25から離れた先端部に形成されている。各腕部26において、相手側の腕部26と対向する面における先端には、段付き32が形成されている。腕部26において段付き32が形成された部分は、他の部分よりも肉薄になっている。
【0026】
スリット27は、基部25に形成されている。スリット27は、基部25の周上1箇所を、基部25の軸線方向における一端25A側(図3においてステアリング軸3寄りの右端側)から切り込んでいる。当該周上1箇所は、1対の腕部26のうちのいずれかの腕部26(図3における上側の腕部26)と周方向で同じ位置である。スリット27は、挿通孔29に沿って(換言すれば、基部25の中心軸に沿って)延びていて、基部25の当該周上1箇所を切断している。そのため、スリット27は、その全域において挿通孔29と連通している。なお、スリット27は、周方向で同じ位置にある腕部26の嵌合穴31には届いていない(連通していない)。スリット27については、以降でさらに説明する。また、一端25Aに関連して、各図における基部25の他端には、符号25Bを付している。各腕部26は、他端25Bから、一端25A側と逆方向へ延び出ている。
【0027】
1対のフランジ28は、基部25において、スリット27を形成するのに応じて必然的に形成された部分である。換言すれば、1対のフランジ28は、基部25においてスリット27を挟んで対向する両側の部分である。1対のフランジ28は、基部25の軸線方向に沿って平行に延びる板状である。以降では、1対のフランジ28のうち、一方(図3における手前側)をフランジ28Aとし、他方をフランジ28Bと区別することがある。各フランジ28には、ボルト孔33が形成されている。各ボルト孔33は、挿通孔29の延びる方向(挿通孔29の軸線方向)と直交する直交方向(1対のフランジ28の対向方向でもある)に延びている。フランジ28Aのボルト孔33と、フランジ28Bのボルト孔33とは、当該直交方向から見て一致している。フランジ28Bのボルト孔33における内周面にだけ、螺旋状のねじ部34が形成されている。フランジ28Aの外面(図3における手前側の側面)において、ボルト孔33が形成されている領域には、段付き35が形成されている。フランジ28Aでは、段付き35が形成された部分が、他の部分よりも肉薄になっている。
【0028】
第2継手ヨーク22は、金属製であり、第1継手ヨーク21と同様に、たとえば鍛造で形成されている。第2継手ヨーク22は、基部40と、1対の腕部41とを含んでいる。基部40は、中間軸5と直交する方向に延びる棒状である。腕部41は、基部40の長手方向における両端部に1つずつ設けられており、基部40と直交する方向(図3では第1継手ヨーク21側)に延びる板状である。1対の腕部41は、平行に延びていて、それぞれの長さ方向における同じ位置には、嵌合穴42が形成されている。嵌合穴42は、基部40の長手方向において腕部41を貫通する丸穴であり、腕部41において基部40から離れた先端部に形成されている。
【0029】
十字軸23は、ブロック状の中心部45と、中心部45から放射状に延び出た4つの軸部46とを一体的に含んでいる。各軸部46は円柱状であり、4つの軸部46のうち、1対の軸部46Aは同一直線上にあり、残り1対の軸部46Bは、軸部46Aと直交する方向に延びる同一直線上にある。そのため、4つの軸部46は、全体で十字をなしている。
軸受カップ24は、円筒状の蓋をなすカップ48と、カップ48内に嵌め込まれた環状の軸受49とを含んでいる。カップ48内に嵌め込まれた軸受49は、カップ48から外に露出されている。軸受49として、環状に配置された複数のころやニードル(図示せず)を用いることができる。軸受カップ24は、第1継手ヨーク21の2つの腕部26の嵌合穴31と、第2継手ヨーク22の2つの腕部41の嵌合穴42とに応じて、自在継手4全体で4つある。
【0030】
このような自在継手4を組み立てつつ、ステアリング軸3および中間軸5と連結する手順について説明する。
まず、第1軸受ヨーク21において各腕部26の先端に治具(図示せず)を引っ掛けてこれらの腕部26の間隔を一時的に広げる。その際、十字軸23における1対の軸部46Aのうち、一方の軸部46を、一方の腕部26の嵌合穴31に対して、1対の腕部26の間から挿通し、他方の軸部46を、他方の腕部26の嵌合穴31に対して、1対の腕部26の間から挿通する。その後、治具を各腕部26から外すと、腕部26の弾性によって、1対の腕部26の間隔が元の間隔まで狭まり、十字軸23の1対の軸部46Aが、対応する腕部26の嵌合穴31に対して外れ不能に嵌め込まれた状態になる。
【0031】
そして、各腕部26の嵌合穴31に対して、軸受カップ24を外側から対向させる。このとき、軸受カップ24では、カップ48から露出された軸受49が嵌合穴31に対向するようにする。この状態で、軸受カップ24を嵌合穴31に接近させて、嵌合穴31に嵌め込む。軸受カップ24は、嵌合穴31に対して圧入される。この際、各腕部26の段付き32には治具(図示せず)が引っ掛けられていて、各腕部26が、軸受カップ24の圧入に応じて撓まないようになっている。
【0032】
軸受カップ24の圧入が完了して状態では、各嵌合穴31に嵌め込まれた軸受カップ24の軸受49の環状部分の内側に、対応する軸部46Aが挿通されており、十字軸23は、第1軸受ヨーク21の各腕部26によって回転自在に支持されている。
次いで、第1軸受ヨーク21と同じ手順で、治具(図示せず)を用いて第2軸受ヨーク22の1対の腕部41の間隔を一時的に広げる。その際、十字軸23における残り1対の軸部46Bのうち、一方の軸部46を、一方の腕部41の嵌合穴42に対して、1対の腕部41の間から挿通し、他方の軸部46を、他方の腕部41の嵌合穴42に対して、1対の腕部41の間から挿通する。その後、治具を各腕部41から外すと、腕部41の弾性によって、1対の腕部41の間隔が元の間隔まで狭まり、十字軸23の1対の軸部46Bが、対応する腕部41の嵌合穴42に対して外れ不能に嵌め込まれた状態になる。
【0033】
そして、各腕部41の嵌合穴42に軸受カップ24を圧入によって嵌め込む。圧入が完了した状態では、各嵌合穴42に嵌め込まれた軸受カップ24の軸受49の内側に、対応する軸部46Bが挿通されており、十字軸23は、第2軸受ヨーク22の各腕部41によって回転自在に支持されている。
以上によって、自在継手4が完成する。
【0034】
図5(a)は、互いに連結された状態にある第1ヨーク21およびステアリング軸3の側面図であり、図5(b)は、図5(a)のA−A線における断面図であり、図5(c)は、図5(a)のB−B線における断面図である。
以上のように完成した自在継手4において、図3に示すように、第1継手ヨーク21の挿通孔29に対して、基部25の一端25A側からステアリング軸3の端部3Aを挿通して嵌め合わせる。挿入後のステアリング軸3は、挿通孔29と同軸状になっており、ステアリング軸3では、端部3Aのセレーション15と、基部25の挿通孔29のセレーション30とが、噛み合っている(図5(b)参照)。つまり、基部25は、挿通孔29に挿通されたステアリング軸3とセレーション嵌合している。このとき、端部3Aの位置決め溝16は、第1継手ヨーク21の各フランジ28のボルト孔33と、ステアリング軸3の軸線方向において同じ位置にある(図5(a)参照)。
【0035】
次いで、段付き35が形成されたフランジ28A側に1本のボルト50を配置する。このとき、ボルト50では、頭部50Aよりもねじ部50Bがフランジ28Aに近い位置にある。そして、ボルト50をフランジ28にねじ込んで、フランジ28Aのボルト孔33と、フランジ28Bのボルト孔33とに、この順番でねじ部50Bを通す。フランジ28Aのボルト孔33を通ったねじ部50Bは、ステアリング軸3の端部3Aの位置決め溝16に嵌り込んでからフランジ28Bのボルト孔33に通される(図5(a)および図5(c)参照)。これにより、ステアリング軸3は、軸線方向において位置決めされ、基部25の挿通孔29から外れなくなる。
【0036】
ボルト50をある程度ねじ込むと、頭部50Aが段付き35に収まるとともに、ねじ部50Bが、フランジ28Bのボルト孔33におけるねじ部34と噛み合う。この状態でさらにボルト50を所定量ねじ込むと、頭部50Aによってフランジ28Aがフランジ28B側へ押さえ付けられるとともに、フランジ28Bがねじ部50Bによってフランジ28A側へ引き寄せられることによって、フランジ28Aおよびフランジ28Bがともに撓んで互いに接近する。このように各ボルト孔33に共通のボルト50が組み付けられることによってフランジ28Aおよびフランジ28Bが互いに接近すると、これらのフランジ28を有する基部25全体が縮径し、挿通孔29が狭まる。挿通孔29が狭まったときの状態が、図5に示されている。挿通孔29が狭まることにより、ステアリング軸3の端部3Aのセレーション15と、基部25の挿通孔29のセレーション30とが、より強く噛み合っており、挿通孔29に挿通されたステアリング軸3と基部25とが密着している(図5(b)参照)。なお、図5では、説明の便宜上フランジ28Aおよびフランジ28Bがあまり撓んでいないように見えているが(図5(a)参照)、実際には、図2の自在継手6のフランジ28Aおよびフランジ28Bのように撓んでいる。
【0037】
以上により、自在継手4に対するステアリング軸3の連結が完了する。
また、図3を参照して、第2継手ヨーク22の基部40の長手方向中央部に、金属製の中間軸5の一端部5Aを連結する。第2継手ヨーク22と中間軸5とは、第1継手ヨーク21の場合と同様にセレーション嵌合してもよいし、ねじ嵌合してもよい。これにより、自在継手4に対する中間軸5の連結が完了する。
【0038】
なお、先に第1継手ヨーク21にステアリング軸3を連結するとともに、第2継手ヨーク22に中間軸5を連結してから、第1継手ヨーク21および第2継手ヨーク22に十字軸23を組み付けてもよい。
また、図2を参照して、自在継手6は、自在継手4と同じ構成(第1継手ヨーク21、第2継手ヨーク22、十字軸23および軸受カップ24)を有していて、自在継手6の第1継手ヨーク21とピニオン軸7とがセレーション嵌合し、自在継手6の第2継手ヨーク22と中間軸5の他端部5Bとがセレーション嵌合またはねじ嵌合している。
【0039】
なお、第2継手ヨーク22と中間軸5とは、セレーション嵌合またはねじ嵌合によって連結する以外に、当初から一体成形品であってもよい。
次に、第1継手ヨーク21についてさらに説明する。
図6(a)は、比較例に係る第1継手ヨーク21の側面図であり、図6(b)は、図6(a)のC−C線における断面図である。図7(a)は、本発明の第1の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図であり、図7(b)は、図7(a)のD−D線における断面図である。図8は、本発明の第2の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図である。図9は、本発明の第3の実施形態に係る第1継手ヨーク21の側面図である。なお、図6〜図9における「側面図」とは、基部25の径方向外側から見たときの側面図である。
【0040】
図6に示す第1継手ヨーク21では、スリット27が、基部25の軸線方向に沿って直線状に延びる帯状(換言すれば、細溝状)であり、その幅Wは、長さ方向(基部25の軸線方向)における全域において一定である。この場合、挿通孔29に挿通されたステアリング軸3と基部25とが密着する程度にフランジ28Aおよびフランジ28Bを撓ませるには、スリット27を長くして、スリット27の奥部分27A(基部25の一端25Aから最も遠い部分)を腕部26の嵌合穴31に極力近付ける必要がある。このときのスリット27の奥部分27Aと嵌合穴31との間隔は、符号Xで示している。
【0041】
一方、本発明の実施形態に係る第1継手ヨーク21では、スリット27の幅Wが、基部25の一端25A側から奥部分27Aへ向かうに従って徐々に狭まっている(図7〜図9参照)。
具体的には、図7に示すように、スリット27の幅Wは、一端25A側から、テーパー状に狭まっている。
【0042】
図7の場合には、破線で示すように円中心から外周縁へ向かって肉薄となる円盤状のフライス工具100を回転させながら、フライス工具100によって、基部25を一端25Aから切り込んでいく。すると、腕部26側の奥部分27Aへ向かうに従ってテーパー状に幅狭となるスリット27が形成される。
また、スリット27の幅Wは、前述したテーパー状に狭まる以外に、図8に示すように、一端25A側から、階段状に狭まっていてもよい。階段状のスリット27は、厚さの異なる複数のフライス工具100で基部25を一端25Aから順番に切り込んでいくことによって形成される。または、外周縁に向かって厚さが階段状に薄くなる1つのフライス工具100を用いて、基部25を一端25Aから一度に切削することによっても、階段状のスリット27を形成することができる。
【0043】
また、図9に示すように、スリット27の幅Wを、一端25A側から、途中まで一定で、その後はテーパー状に狭めるようにしてもよい。この場合、スリット27は、一端25A側から一定幅で切り込まれ、奥で幅Wが狭まっている。このようなスリット27は、厚さが一定のフライス工具100で基部25を一端25Aから切り込んだ後に、外周縁へ向かって肉薄となる別のフライス工具100によってさらに基部25を切り込むことによって形成される。または、外周縁に向かう途中までの厚さが一定で当該途中から外周縁に向かってテーパー状に肉薄になる1つのフライス工具100を用いて、基部25を一端25Aから一度に切削することによっても、図9に示すスリット27を形成することができる。
【0044】
以上のように、本発明の場合、基部25の一端25A側から切り込まれたスリット27では、一端25A側から離れるのに従って徐々に幅Wが狭まっているので、スリット27を挟む1対のフランジ28は、一端25A側へ近付くのに従って肉薄になっている(図7(a)、図8および図9参照)。つまり、本発明の第1継手ヨーク21では、各フランジ28の剛性を、一端25Aに近付くのに従って意図的に低下させている。このようにすれば、スリット27を短くしてスリット27の奥部分(一端25Aから最も離れた部分)27Aを腕部26(嵌合穴31)から遠ざけつつ(図7〜図9における奥部分27Aと嵌合穴31との間隔Yを参照)、1対のフランジ28を撓み易くすることができる。これにより、図5を参照して、全長の短い小型の第1継手ヨーク21であっても、各フランジ28のボルト孔33にボルト50を組み付けたときに、1対のフランジ28が良好に撓んで挿通孔29が狭まることによって基部25と挿通孔29内のステアリング軸3とが密着する一方で、腕部26までもが撓むことを抑制できる。その結果、腕部26の変形を抑制しつつ、当該ステアリング軸3と基部25との強固な連結状態を確保できる。
【0045】
さらに、1対のフランジ28が良好に撓んで挿通孔29が狭まることによって、基部25の内周面のセレーション30とステアリング軸3のセレーション15とが噛み合って密着することから、基部25と当該ステアリング軸3とをより強固に連結することができる(図5(b)参照)。
そして、図2を参照して、このような第1継手ヨーク21を含む自在継手4では、第1継手ヨーク21において、腕部26の変形を抑制しつつ、基部25の挿通孔29に挿通されたステアリング軸3と基部25との強固な連結状態を確保できる。同様に、第1継手ヨーク21を含む自在継手6でも、第1継手ヨーク21において、腕部26の変形を抑制しつつ、基部25の挿通孔29に挿通されたピニオン軸7と基部25との強固な連結状態を確保できる。
【0046】
このように腕部26の変形が抑制されれば、腕部26の嵌合穴31の変形が抑えられて嵌合穴31の真円度が保たれるので、軸受カップ24は、適正な状態で嵌合穴31に嵌め込まれた状態にあり、十字軸23を円滑に回転できるように支持できる(図2および図3参照)。これにより、十字軸23周辺でのがたつきを抑えることができるので、異音発生を抑制し、十字軸23回りにおける自在継手4、6の耐久性向上を図ることができる。また、ステアリング軸3やピニオン軸7と基部25との強固な連結状態を確保できるので、自在継手4、6では、これらの軸と基部25との連結部分での耐久性向上を図ることもできる。そして、このようながたつきを抑えることにより、操舵部材2(図1参照)の操舵フィーリング(つまり、操縦安定性)の向上を図ることもできる。
【0047】
また、図7に示すように、幅Wがテーパー状に狭まったスリット27は、当該スリット27と同形状の歯を有するフライス工具100によって簡単に形成できる。
また、図8に示すように、スリット27の幅Wを、階段状に狭めることによって、細かく調整できる。また、図9に示すようにスリット27の奥で幅Wを狭めるだけでも、1対のフランジ28を撓み易くすることができる。
【0048】
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
たとえば、自在継手4および6において、第2継手ヨーク22の構成が、第1継手ヨーク21と同じであってもよい。また、この第1継手ヨーク21および自在継手4(6)は、ステアリング装置1に限らず、同一直線上に存在しない2つの軸を連結するどのような装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0049】
3…ステアリング軸、4…自在継手、5…中間軸、6…自在継手、7…ピニオン軸、21…第1継手ヨーク、23…十字軸、25…基部、25A…一端、26…腕部、27…スリット、28…フランジ、29…挿通孔、30…セレーション、31…嵌合穴、33…ボルト孔、50…ボルト、W…幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端側から軸が嵌め合わされる挿通孔を有する基部と、
前記基部に一体的に設けられ、前記一端側と逆方向へ延び出ており、十字軸が嵌め込まれる嵌合穴が形成された1対の腕部と、
前記挿通孔と連通するように前記基部に形成されたスリットであって、前記一端側から切り込まれ、前記挿通孔に沿って延びていて、徐々に幅が狭まっているスリットと、
前記基部に形成され、前記スリットを挟んで対向する1対の締付部であって、前記挿通孔の軸線方向と直交する方向に延びるボルト孔がそれぞれに形成されており、各ボルト孔に共通のボルトが組み付けられることによって互いに接近して前記挿通孔を狭めることにより、前記挿通孔に挿通された軸と前記基部とを密着させる締付部とを含むことを特徴とする、継手ヨーク。
【請求項2】
前記スリットの幅は、前記一端側から、テーパー状に狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨーク。
【請求項3】
前記スリットの幅は、前記一端側から、階段状に狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨーク。
【請求項4】
前記スリットは、前記一端側から一定幅で切り込まれ、奥で幅が狭まっていることを特徴とする、請求項1記載の継手ヨーク。
【請求項5】
前記基部において前記挿通孔を区画する内周面には、セレーションが形成されており、前記基部は、前記挿通孔に挿通された軸とセレーション嵌合することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の継手ヨーク。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の継手ヨークを含むことを特徴とする、継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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