説明

網戸用ネットの製造方法および網戸用ネット

【課題】メズレの発生しにくい網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネットを提供する。
【解決手段】ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に配して平組織織物を製織した後、該平組織織物に温度175〜200℃で乾熱セットを施すことを特徴とする網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メズレが発生しにくい網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、網戸はマンション等で広く用いられている。網戸は窓やドア等に配設され、窓やドアを開いた状態で網戸を閉じることによって、風通しを得ながら、蚊などの虫や塵が室内に侵入を防止するという役目を果たすものである。
【0003】
これまで用いられていた網戸用ネットとしては、ポリプロピレン、塩化ビニル、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を用いてモノフィラメントを形成し、これを経糸および緯糸として平組織(メッシュ状)で織成したものがよく知られている。(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3参照)。なかでも、ポリエステルからなるモノフィラメントは繊維強度が高いため線径の小さいものを製造することができ、該ポリエステルモノフィラメントを高密度で製織することにより、蚊などの虫や塵が室内に入りにくい網戸用ネットが得られる。
【0004】
しかしながら、ポリエステルモノフィラメントからなる網戸用ネットを網戸枠に固定する際メズレが発生し、網戸用ネットの外観が損われるという問題があった。
なお「メズレ」とは、経糸および/または緯糸が部分的にズレて部分的に織密度が変化する現象のことである。
【0005】
【特許文献1】特開2002−54375号公報
【特許文献2】特開2002−227563号公報
【特許文献3】実用新案登録第3129916号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、メズレの発生しにくい網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記の課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に配して平組織織物を製織した後、該平組織織物に特定の温度で乾熱セットを施すことによりメズレの発生しにくい網戸用ネットが得られることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0008】
かくして、本発明によれば「ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に配して平組織織物を製織した後、該平組織織物に温度175〜200℃で乾熱セットを施すことを特徴とする網戸用ネットの製造方法。」が提供される。
【0009】
その際、前記ポリエステルモノフィラメントがポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントであることが好ましい。また、前記ポリエステルモノフィラメントが艶消し剤を含まないことが好ましい。また、前記ポリエステルモノフィラメントが耐光性向上剤を含むことが好ましい。また、前記ポリエステルモノフィラメントの線径が20〜200μmの範囲内であることが好ましい。また、前記平組織織物において、経糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内であり、かつ緯糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内であることが好ましい。また、前記乾熱セットの前または後の工程で染色加工を施すことが好ましい。
【0010】
また、本発明の網戸用ネットは、前記の網戸用ネットの製造方法により得られた網戸用ネットである。かかる網戸用ネットにおいて、明度指数L値が40以下となるよう染色加工が施されていることが好ましい。また、JIS L1096 B法の縫い目滑脱試験で3.5mm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メズレの発生しにくい網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネットが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に配して平組織織物を製織する。ここで、前記ポリエステルモノフィラメントを形成するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステルなどが好ましく例示される。かかるポリエステルとしては、マテリアルリサイクルまたはケミカルリサイクルされたポリエステルであってもよい。さらには、特開2004−270097号公報や特開2004−211268号公報に記載されているような、特定のリン化合物およびチタン化合物を含む触媒を用いて得られたポリエステルでもよい。なかでも、セット性や耐光性などの点でポリエチレンテレフタレートが好ましい。なお、モノフィラメントがポリプロピレンなど、ポリエステル以外のポリマーで形成される場合、線径を小さくすると十分な繊維強度が得られないおそれがあるので本発明から除外する。
【0013】
また、前記ポリエステル中には、耐光性向上剤が含まれていると、最終的に得られる網戸用ネットの耐光性が向上し好ましい。かかる耐光性向上剤としては、ベンゾトリアゾール系耐光性向上剤、トリアジン系耐光性向上剤、ベンゾフェノン系耐光性向上剤、有機Ni系耐光性向上剤などが例示される。なかでも、ベンゾトリアゾール系耐光性向上剤が特に好ましく例示される。かかる耐光性向上剤の含有量としては、織物重量に対して、0.1〜5.0重量%(owf)の範囲内であることが好ましい。また、耐光性向上剤はポリエステル中に練りこまれていてもよいが、後加工で吸尽させることが好ましい。特に染色加工と同時に耐光性向上剤の吸尽処理を行うことが好ましい。
【0014】
また、前記ポリエステル中には、艶消し剤(酸化チタン)が含まれていないことが好ましい。ポリエステル中に艶消し剤が含まれていない場合染色加工を施しても透明であるため、網戸用ネットを網戸として使用すると、屋内から屋外の景色が見え好ましい。
【0015】
なお、前記ポリエステルには、本発明の目的を損なわない範囲内で必要に応じて、微細孔形成剤、カチオン可染剤、着色防止剤、熱安定剤、難燃剤、蛍光増白剤、着色剤、帯電防止剤、吸湿剤、抗菌剤、無機微粒子、マイナスイオン発生剤等を1種又は2種以上を添加してもよい。
【0016】
前記ポリエステルモノフィラメントにおいて、その線径(単繊維の直径)は特に限定されないが、20〜200μm(より好ましくは105〜180μm)の範囲内であることが好ましい。該線径が200μmよりも大きくなると、繊維間空隙(モノフィラメント間距離)が大きくなるため、網戸用ネットのろ過機能が低下するおそれがある。逆に、該線径が20μmよりも小さいと最終的に得られる網戸用ネットの引裂き強度が低下するおそれがある。かかるモノフィラメントの線径は、経糸と緯糸とで、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0017】
前記ポリエステルモノフィラメントの繊維形態は、繊維軸方向に連続したモノフィラメント(長繊維)であれば、特に限定されず、その断面形状(繊維軸と直角方向の断面形状)も特に限定されず、丸、三角、扁平など公知の断面形状が採用でき、中空部を有するものであってもよい。なお、ポリエステルモノフィラメントの断面形状が丸以外の場合、線径は最大径(例えば、扁平断面であれば長軸方向の巾)を測定するものとする。
前記ポリエステルモノフィラメントは、常法の紡糸、延伸方法により得られるものでよく、強度、伸度の物性は特に限定されない。
【0018】
本発明において、前記ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に用いて平組織織物を製織する。ここで、織組織は平組織であることが肝要であり、綾組織や斜文組織など平組織以外の織組織ではメズレが発生するおそれがあり好ましくない。また、織物の密度としては、経糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内であり、かつ緯糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内であることが好ましい。織物の密度がこの範囲よりも小さいとろ過機能が低下するおそれがある。逆に、織物の密度がこの範囲よりも大きいと、製造が困難となるだけでなく、空隙部が小さくなりすぎて通気性が低下するおそれがある。なお、かかる織物は、レピア織機など公知の織機を用いて、常法の製織条件で製織することができる。
【0019】
本発明において、前記の織物に温度175〜200℃(好ましくは185〜200℃)で乾熱セットを施す。該乾熱セット温度が175℃よりも低いと、織物を十分に熱セットできずメズレが発生しやすくなり好ましくない。逆に、乾熱セット温度が200℃よりも高いと温度が高すぎるためポリエステルモノフィラメントの繊維強度が低下するおそれがあり好ましくない。また、かかる乾熱セットの時間としては、0.5〜2分間の範囲内であることが好ましい。乾熱セットの方法としては、通常のピンテンター機(例えば平野テクシード社製ピンテンター機)を用いて乾熱セットするとよい。
【0020】
本発明において、織物に染色加工を施すことが好ましい。例えば、織物を黒色に着色していると、網戸として使用する際、汚れが目立たないため、屋内から屋外への景観性が低下しにくく好ましい。
【0021】
前記の染色加工は前記の乾熱セット後に行うことが好ましいが、乾熱セット前に染色加工を行ってもよい。さらには、染色加工の前と後の両方で乾熱セットを行ってもよい。染色加工の前と後の両方で乾熱セットを行う場合、少なくともどちらか一方の乾熱セットにおいて、温度が175〜200℃の範囲内であればよい。
また、特開平6−158559号公報に開示されているように、染色工程で前記のような耐光性向上剤をポリエステルモノフィラメントに含有させることが好ましい。
【0022】
さらには、ポリエステルモノフィラメントの表面に金属皮膜層が形成されていると、太陽光が屋内に入り難く遮熱できるため、特に初夏の時期に感じられる暑苦しさを低減することができ好ましい。なお、前記ポリエステルモノフィラメントの表面に金属皮膜層が形成する方法としては、通常の真空蒸着法やスパッタリング法で織物の外側(外気側として使用する側の面)に皮膜する方法が好ましい。その際、金属皮膜層の厚さとしては、1.0×10−6〜1.5×10−4mmの範囲が好ましい。また、金属の種類としては、アルミニウム、銅、ニッケル、銀、クロム、チタンなどが例示される。
【0023】
また、常法の起毛加工、バフ加工、エンボス加工、カレンダー加工、プリーツ加工が施されていてもよい。さらには、難燃剤、吸湿吸水剤、マイナスイオン発生剤などの各種機能剤が付加されていてもよい。特に、織物の表面に絵柄がプリントされたり、エンボス加工により凹凸柄が付加されていると、意匠性が高まり好ましい。
【0024】
かくして得られた網戸用ネットは、前記の乾熱セットが施されているためメズレが発生しにくい。例えば、かかる網戸用ネットを網戸枠に固定する際メズレが発生しにくく、網戸用ネットの外観が損われるおそれがない。
ここで、メズレの発生しにくさを測定する指標として、JIS L1096 B法の縫い目滑脱試験で3.5mm以下(より好ましくは3mm以下)であることが好ましい。
【0025】
また、網戸用ネットに染色加工が施されている場合、明度指数L値が40以下となるよう濃色に染色加工されていると、網戸として使用する際、汚れが目立たないため、屋内から屋外への景観性が低下しにくく好ましい。
【実施例】
【0026】
次に本発明の実施例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
<L値>
マクベスカラーアイ(Macbeth color−Eye)モデルM−2020(米国、コルモーゲン社製)を使用して、光源D65、10度視野でL値を測定した。
<ろ過性>
網戸用ネットを窓に1週間設置し、微小な虫がほとんど屋内に侵入しない(3級)、微小な虫がやや侵入する(2級)、微小な虫が多数侵入する(1級)の3段階に評価した。
<風通し性>
網戸用ネットを窓に1週間設置し、網戸から風がはいってくる(3級)、網戸から風が少しはいってくる(2級)、網戸から風がほとんどはいってこない(1級)の3段階に評価した。
<屋内から屋外景観の見やすさ>
網戸用ネットを窓に1週間設置し、屋内から屋外景観が良く見える(3級)、屋内から屋外景観が少し見える(2級)、屋内から屋外景観がほとんど見えない(1級)の3段階に評価した。
<メズレ発生のし難さ>
網戸用ネットを網戸枠に固定する際、メズレが発生しない(3級)、メズレが少し発生する(2級)、メズレが発生する(1級)の3段階に評価した。
<縫い目滑脱試験>
メズレ発生のし難さを測定するため、JIS L1096 B法の縫い目滑脱試験を行った。数値(mm)が小さいほど、メズレが発生し難い。
<耐光性>
(財)建材試験センタ−で1000時間の加速テストを行った。
【0027】
[実施例1]
線径135μm(繊度200dtex)の艶消し剤を有しないポリエステルモノフィラメント(帝人モノフィラメント(株)、丸断面、ポリエチレンテレフタレート製)を経糸および緯糸に用いて、通常のレピア織機で縦糸密度30本/2.54cm、緯糸密度33本/2.54cmの織物を染色前に190℃で1分間乾熱セット(平野テクシード製ピンテンター機を使用。)し高圧130℃の条件でベンゾトリアゾール系の耐光向上剤4%(owf)と黒色の分散染料を添加し40分間染色処理し乾燥(130℃)した後、乾熱セット(温度175℃、平野テクシード製ピンテンター機を使用)で仕上げることにより網戸用ネットを得た。
【0028】
該網戸ネットにおいてL値が18.2であり屋外から屋外よく見えまた耐光性も1000時間の加速テスト((財)建材試験センタ−で測定)で4級と問題なかった。
この網戸を窓に設置して試験者3人の官能評価したところ、微小な虫がほとんど侵入しない(3級)、風どうしが良い(3級)、メズレが発生しない(3級)、屋内から屋外がよく見える(3級)と評価された。また、JISのL1096 B法の縫い目滑脱試験は2.5mmであった。
【0029】
[比較例1]
線径135μm(繊度200dtex)の艶消し剤を有しないポリエステルモノフィラメント(帝人モノフィラメント(株)、丸断面)を経糸および緯糸に用いて、通常のレピア織機で縦糸密度30本/2.54cm、緯糸密度33本/2.54cmの織物を用いて染色前に170℃で1分間セット(平野テクシード製ピンテンター機を使用。)し高圧130℃の条件でベンゾトリアゾール系の耐光向上剤4%(owf)と黒色の分散染料を添加し40分間染色処理し乾燥(130℃)した後、乾熱セット(温度170℃、平野テクシード製ピンテンター機を使用)で仕上げることにより網戸用ネットを得た。
【0030】
該網戸ネットにおいてL値が18.2であり屋外から屋外よく見え、また耐光性も1000時間の加速テスト((財)建材試験センタ−で測定)で4級と問題なかった。
しかし、網戸枠にシワが入らないように四方にテンションを掛け、押さえゴムで固定溝に押し込みネットを固定したところ、溝の外周部分にメズレが発生しネットの網目が広がってしまい均一な固定が出来なかった(1級)。また、JISのL1096 B法の縫い目滑脱試験は6mmであった。
【0031】
[比較例2]
プロピレン製モノフィラメント(線径300μm)を経糸および緯糸に用いた、経糸密度18本/2.54cm、緯糸密度18本/2.54cmの、市販の黒色の網戸ネットを実施例1と同じ網戸枠にしわの入らないように固定したところ、メズレが発生せずきれいに固定できた(3級)。この網戸を窓に設置して、試験者3人が実施例1と比較したところ、小さな虫侵入が多数侵入し(1級)、風通しはやや悪く(2級)、屋内からはネットの糸が目に入り屋外が見難くなった(2級)。また、JISのL1096 B法の縫い目滑脱試験は4mmであった。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、メズレの発生しにくい網戸用ネットの製造方法および該製造方法で得られた網戸用ネットが提供され、その工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明で得られる網戸用ネットを模式的に示すものである。
【符号の説明】
【0034】
1 ポリエステルモノフィラメント(経糸)
2 ポリエステルモノフィラメント(緯糸)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルモノフィラメントを経糸および緯糸に配して平組織織物を製織した後、該平組織織物に温度175〜200℃で乾熱セットを施すことを特徴とする網戸用ネットの製造方法。
【請求項2】
前記ポリエステルモノフィラメントがポリエチレンテレフタレートからなるモノフィラメントである、請求項1に記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステルモノフィラメントが艶消し剤を含まない、請求項1または請求項2に記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステルモノフィラメントが耐光性向上剤を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項5】
前記ポリエステルモノフィラメントの線径が20〜200μmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項6】
前記平組織織物において、経糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内であり、かつ緯糸密度が24〜70本/2.54cmの範囲内である、請求項1〜5のいずれかに記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項7】
前記乾熱セットの前または後の工程で染色加工を施す、請求項1〜6のいずれかに記載の網戸用ネットの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の網戸用ネットの製造方法により得られた網戸用ネット。
【請求項9】
明度指数L値が40以下となるよう染色加工が施されている、請求項8に記載の網戸用ネット。
【請求項10】
JIS L1096 B法の縫い目滑脱試験で3.5mm以下である、請求項8または請求項9に記載の網戸用ネット。

【図1】
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【公開番号】特開2010−65465(P2010−65465A)
【公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−233323(P2008−233323)
【出願日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【出願人】(502014086)帝人ネステックス株式会社 (17)
【Fターム(参考)】