説明

網点評価方法、網点評価装置、および網点評価プログラム

【課題】 網点セットを適切に評価することができる網点評価方法、網点評価装置、および網点評価プログラムを提供する。
【解決手段】
網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定し、網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決め、設定された網点が決定された位置で重ね合わされたときに生じる、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出し、算出した面積率と、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出し、算出した分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出し、算出した3刺激値に基づいて上記網点セットを評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価する網点評価方法、網点評価装置、および網点評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、印刷機などでカラー画像を出力する際には、例えばCMYKの4色それぞれの網点からなる網点セットが用いられてカラー画像が表現されている。このような網点セットを構成する網点の構造としては、旧来からいくつかの種類が提案されており、理想的な網点に関する理論も存在するが、近年、印刷の分野にも電子化、デジタル化が進むにつれて、網点構造をデジタルデータによって定義することによって、網点セットを構成する網点を詳細に設計することが可能となってきた。また、印刷技術の向上によって、精度の高い印刷が可能となったため、色の再現性などに優れた網点セットの設計が必要となっている。
【0003】
このような網点セットの設計などにおいては、その網点セットの性能を適切に評価することが必要である。特に、実際に印刷などでその網点セットが用いられる場合には、設計上の理想的な重ね合わせから網点がずれるいわゆる見当ずれがしばしば生じ、そのように見当ずれが生じた場合における色の変化を適切に評価して、見当ずれに強い網点構造の設計に役立てることが求められている。
【0004】
このため、従来は、見当ずれが生じた場合における網点構造の空間周波数を解析したり、見当ずれが生じたときの網点構造を印刷対象のデジタル画像を構成する画素値に実際に作用させて得られる網点構造を解析するといった評価手法が提案されている(例えば特許文献1および特許文献2参照)。
【0005】
これらの特許文献に記載された評価方法によれば、見当ずれに対する網点構造の安定性が評価されるので、このような評価方法を用いて安定した網点構造の網点セットを設計することで見当ずれに強い網点セットが得られると考えられる。
【特許文献1】特開2003−298860号公報
【特許文献2】特開2003−296732号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの特許文献に記載された技術では、網点セットが再現する色の安定性につながると考えられる網点の構造的特徴を評価に用いるので、評価結果の良し悪しは色の安定性をある程度反映しているとは期待できるものの、評価結果が良い網点セットが色の安定性が高いと保証されるものではない。むしろ、構造が変化しても、網点セットの再現色としては安定していることもよくあると考えられ、そのような再現色における安定性を直接に反映するような適切な評価が望まれている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、網点セットを適切に評価することができる網点評価方法、網点評価装置、およびコンピュータでそのような評価を行う網点評価プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明の網点評価方法は、
複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価する網点評価方法であって、
上記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定過程と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定過程と、
上記設定過程で設定された網点が前記位置決定過程で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出過程と、
上記面積率算出過程で算出された面積率と、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出過程と、
上記スペクトル算出過程で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出過程と、
上記3刺激値算出過程で算出された3刺激値に基づいて上記網点セットを評価する評価過程とを有することを特徴とする。
【0009】
ここで、上記位置決定過程は、網点の相対的な位置を直接に決める過程であっても良く、あるいは、所定の基準位置からのずれによって決める過程であっても良い。
【0010】
本発明の網点評価方法によれば、網点の重ね合わせにおける分光スペクトルを求め、その分光スペクトルから、人間の網膜が光に対して生じる反応を表した3刺激値を求めて、その3刺激値に基づいて網点セットを評価するので、網点セットによる再現色を直接に反映した適切な評価が可能である。
【0011】
本発明の網点評価方法は、「上記3刺激値算出過程が、上記スペクトル算出過程で算出された分光スペクトルと、網点の重ね合わせを観察する際の光源の発光スペクトルとに基づいて3刺激値を算出するものである」という形態も好適である。
【0012】
このような好適な形態の網点評価方法によれば、観察光源の差異も考慮した評価を行うことができる。
【0013】
また、本発明の網点評価方法は、「上記評価過程が、3刺激値から得られるLab値に基づいて上記網点セットを評価するものである」という形態も好適である。
【0014】
このような好適な形態の網点評価方法によれば、色に対する人の感覚をよく反映した評価を行うことができる。
【0015】
また、本発明の網点評価方法は、
「 上記位置決定過程が、網点の重ね合わせにおける相対的な位置を複数決めるものであり、
上記面積率算出過程と、上記スペクトル算出過程と、上記3刺激値算出過程とが、上記位置決定過程で決められた複数の位置それぞれに対応した複数の面積率、複数の分光スペクトル、複数の3刺激値を算出する過程であり、
上記評価過程が、上記3刺激値算出過程で算出された複数の3刺激値に基づいた、上記位置決定過程で決められた複数の位置それぞれで生じる色の差異によって上記網点セットを評価するものである」
という形態も好適である。
【0016】
このような好適な形態の網点評価方法によれば、いわゆる見当ずれで生じる色ずれを直接に反映した評価を行うことができる。
【0017】
上記目的を達成する本発明の網点評価装置は、
複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価する網点評価装置であって、
上記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定部と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定部と、
上記設定部で設定された網点が前記位置決定部で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出部と、
上記面積率算出部で算出された面積率と、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
上記スペクトル算出部で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出部と、
上記3刺激値算出部で算出された3刺激値に基づいて上記網点セットを評価する評価部とを備えたことを特徴とする。
【0018】
本発明の網点評価装置によれば、本発明の評価方法によって網点セットを適切に評価することができる。
【0019】
上記目的を達成する本発明の網点評価プログラムは、
コンピュータに組み込まれてそのコンピュータに、複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価させる網点評価プログラムであって、
上記コンピュータ上に、
上記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定部と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定部と、
上記設定部で設定された網点が前記位置決定部で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出部と、
上記面積率算出部で算出された面積率と、上記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
上記スペクトル算出部で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出部と、
上記3刺激値算出部で算出された3刺激値に基づいて上記網点セットを評価する評価部とを構築することを特徴とする。
【0020】
本発明の網点評価プログラムによれば、本発明の網点評価装置を構成する要素がコンピュータによって容易に実現される。
【0021】
なお、本発明にいう網点評価装置および網点評価プログラムについては、ここではその基本形態のみを示すのにとどめるが、これは単に重複を避けるためであり、本発明にいう網点評価装置および網点評価プログラムには、上記の基本形態のみではなく、前述した網点評価方法の各形態に対応する各種の形態が含まれる。
【0022】
また、本発明の網点評価プログラムがコンピュータ上に構成する設定部などといった要素は、1つの要素が1つのプログラム部品によって構築されるものであってもよく、1つの要素が複数のプログラム部品によって構築されるものであってもよく、複数の要素が1つのプログラム部品によって構築されるものであってもよい。また、これらの要素は、そのような作用を自分自身で実行するものとして構築されてもよく、あるいは、コンピュータに組み込まれている他のプログラムやプログラム部品に指示を与えて実行するものとして構築されても良い。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明の網点評価方法、網点評価装置、および網点評価プログラムによれば網点セットを適切に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0025】
図1は、本発明の一実施形態が適用されるパーソナルコンピュータを示す図である。
【0026】
この図1に示すように、パーソナルコンピュータ100は、CPU、主記憶装置、ハードディスク、通信用ボード等が内蔵された本体110、この本体110からの指示により表示画面121上に画面や文字列の表示を行うディスプレイ120、このパーソナルコンピュータ100にユーザの指示や文字情報を入力するためのキーボード130、上記表示画面121上の任意の位置を指定することにより、その指定時にその位置に表示されていたアイコン等に応じた指示を入力するマウス140を備えている。
【0027】
本体110には、CD−ROMやCD−Rが取り出し自在に装填されるCD装填口111があり、そのCD装填口111に装填されたCD−ROMやCD−Rに記憶された情報を再生するCD−ROMドライブが内蔵されている。また、本体110には、フレキシブルディスク(FD)が取り出し自在に装填されるFD装填口112もあり、そのFD装填口112に装填されたフレキシブルディスク(FD)に対し情報の記録再生を行うFDドライブも内蔵されている。
【0028】
ここでは、CD−ROMに本発明の網点評価プログラムの一実施形態が記憶されて本体110内に装填され、そのCD−ROMに記憶された網点評価プログラムがCD−ROMドライブによって読み込まれ、本体110内のハードディスクにインストールされる。
【0029】
このハードディスクにインストールされた網点評価プログラムが起動されて実行されると、パーソナルコンピュータ100は、本発明の網点評価装置の一実施形態として動作する。つまり、ここでは、パーソナルコンピュータ100と、本発明の網点評価プログラムの一実施形態とが結合することにより、本発明の網点評価装置の一実施形態を構成している。また、ここでは、網点評価装置の一実施形態として動作によって、本発明の網点評価方法の位置実施形態が実行される。
【0030】
図2は、本発明の網点評価プログラムの一実施形態を示す図である。ここでは、この網点評価プログラム300は、CD−ROM200に記憶されている。
【0031】
本発明の網点評価プログラムを記憶する記憶媒体はCD−ROMに限られるものではなく、それ以外の光ディスク、MO、フロッピー(登録商標)ディスク、磁気テープなどの記憶媒体であってもよい。また、本発明の網点評価プログラムは、記憶媒体を介さずに、通信網を介して直接にパーソナルコンピュータに供給されるものであってもよい。
【0032】
この網点評価プログラム300は、図1に示すパーソナルコンピュータ100内で実行され、そのパーソナルコンピュータ100を網点評価装置として動作させるものであり、設定部310と位置決定部320と面積率算出部330とスペクトル算出部340とLab値算出部350と評価部360とを有する。
【0033】
この網点評価プログラム300の各要素の詳細については後述する。
【0034】
図3は、本発明の網点評価装置の一実施形態の機能ブロック図である。
【0035】
この網点評価装置400は、図2の網点評価プログラム300が、図1に示すパーソナルコンピュータ100にインストールされて実行されることにより構成されるものである。
【0036】
この網点評価装置400は設定部410と位置決定部420と面積率算出部430とスペクトル算出部440とLab値算出部450と評価部460とから構成されており、これら設定部410、位置決定部420、面積率算出部430、スペクトル算出部440、Lab値算出部450、および評価部460は、図2に示す網点評価プログラム300を構成する、設定部310、位置決定部320、面積率算出部330、スペクトル算出部340、Lab値算出部350、および評価部360それぞれによってパーソナルコンピュータ100上に構成されている。このように、図3に示す網点評価装置400の各要素は、図2に示す網点評価プログラム300の各要素にそれぞれ対応するが、図3の各要素は、図1に示すパーソナルコンピュータ100のハードウェアとそのパーソナルコンピュータで実行されるOSやアプリケーションプログラムとの組合せで構成されているのに対し、図2に示す各要素はそれらのうちのアプリケーションプログラムのみにより構成されている点が異なる。
【0037】
これら設定部410、位置決定部420、面積率算出部430、スペクトル算出部440、Lab値算出部450、および評価部460は、それぞれ、本発明の網点評価装置における、設定部、位置決定部、面積率算出部、スペクトル算出部、3刺激値算出部、および評価部の各一例に相当する。
【0038】
この網点評価装置400の各要素の詳細についても後述する。
【0039】
図4は、本発明の網点評価方法の一実施形態のフローチャートである。
【0040】
この網点評価方法は、図3の網点評価装置400が動作することで実行されるものであり、設定過程(ステップS101〜ステップS103)と位置決定過程(ステップS104〜ステップS105)と面積率算出過程(ステップS106〜ステップS109)とスペクトル算出過程(ステップS110〜ステップS111)とLab値算出過程(ステップS112〜ステップS113)と評価過程(ステップS114〜ステップS116)とを有している。これらの各過程は、図3に示す網点評価装置400の各要素で実行されるものであり、図2に示す網点評価プログラム300の各要素によって各過程の処理内容が規定されている。また、これら設定過程、位置決定過程、面積率算出過程、スペクトル算出過程、Lab値算出過程、および評価過程は、本発明の網点評価方法における設定過程、位置決定過程、面積率算出過程、スペクトル算出過程、3刺激値算出過程、および評価過程の各一例に相当する。
【0041】
以下、図4に示す各ステップの詳細を説明することによって、図3に示す網点評価装置400の各要素と、図2に示す網点評価プログラム300の各要素も合わせて説明する。
【0042】
図4に示す網点評価方法が開始されると、まず、ハーフトーンスクリーンが設定される(ステップS101)。このハーフトーンスクリーンは、網点の構造や網点面積率の変化に伴う網点形状の変化を定義したものであり、網点の設計とは、即ちこれらのハーフトーンスクリーンを設計することである。ハーフトーンスクリーンは、画素値と比較される閾値の配列によって構成されており、画素値が閾値以上となっている部分は網点の一部として描画され、画素値が閾値に満たない部分は白抜け部分となる。つまり、ハーフトーンスクリーンは、連続階調の画素値で表された画像を描画と白抜けからなる2値画像に変換する役割を有している。このようなハーフトーンスクリーンは、カラー画像を出力するときに用いられるインクの各色に対して用意されるもので、本実施形態では、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)の3色それぞれについて設定される。このように設定される各色のハーフトーンスクリーンのセットが本発明にいう網点セットの一例に相当する。
【0043】
次に、CMY3色のそれぞれについて網点面積率(網%)が設定される(ステップS102)。この網点面積率(網%)は、ハーフトーンスクリーンを構成する閾値配列のうち何%が描画位置となるかを表したものであり、網点面積率が例えば40%であれば、閾値配列のうちの、閾値が小さい方の40%の部分が描画部分となり、残りの60%の部分は白抜け部分となる。このような描画部分と白抜け部分が、CMY3色のそれぞれについて求められて、CMY3色の網点の形と大きさが確定する(ステップS103)。
【0044】
図5は、図4のステップS103で得られるCMY3色の網点を模式的に示す図である。
【0045】
この図5でハッチングされている部分が描画部分であり、網点を構成している。またハッチングがない部分が白抜き部分である。網点や白抜き部分を構成している小さな四角形の1つ1つがハーフトーンスクリーンを構成する閾値の1つ1つに対応しており、さらに、これら1つ1つが画像を構成する画素に対応する。
【0046】
各色についてハーフトーンスクリーンと網%が設定されることにより、この図5に示すように、互いに形や大きさや網点の並び方が異なるCMY3色それぞれの網点が得られる。
【0047】
このようなCMY3色それぞれの網点が図4のステップS101〜ステップS103で得られる一方で、この網点評価方法では、見当ずれによって網点が相互にシフトする最大量(最大シフト量)が設定され(ステップS104)、その最大シフト量以内のシフト量が自動設定される(ステップS105)。本実施形態では、Y色の網点(Y版)に対するC色およびM色の各網点(C版、M版)のシフト量が設定され、説明の便宜上、C版およびM版のシフト方向はいずれも図5の上下方向であり、図の下方向がプラスであるものとする。また、本実施形態では、シフト量の単位として、図5に示す網点や白抜き部分を構成している小さな四角形(即ち画素)を採用するものとする。なお本発明では、網点評価の解像度を高めたい場合などには画素単位よりも細かい単位でシフト量を設定することも可能である。
【0048】
このように、網点の形と大きさが得られ、網点相互のシフト量も得られると、次に、CMY3色それぞれの網点が重なり合った網点構造を表す画像が作成される(ステップS106,ステップS107)。このような網点構造を表す画像は、設定されたシフト量を有する場合(ステップS106)とシフト量「0」の場合(ステップS107)とのそれぞれについて作成され、その作成された画像中における白色、CMYの1次色(純色)、2次色(R;レッド、Gn;グリーン、B;ブルー)、3次色(Gy;グレイ)それぞれの統計分布から各色の面積率が算出される(ステップS108,ステップS109)。
【0049】
図6は、シフト量が「0」のときに得られる網点構造の例を示す図であり、図7は、シフトが生じているときに得られる網点構造の例を示す図である。
【0050】
これらの図6,図7に示す網点構造は、図5に示すCMY3色の網点が重なり合ってできるものであり、図7では、Y版を基準として、C版が図の下方向に1シフトし、M版も図の下方向に2シフトしたときの状態が示されている。
【0051】
図6および図7それぞれのパート(A)に示されているように、CMY3色の網点が重なり合うことによって、CMY3色それぞれの1次色以外に、RGnBの2次色、およびGyの3次色も画像上に生じている。これらの各色が画像上に存在している割合が統計的に算出され、その結果が図6および図7それぞれのパート(B)に示されている。見当ずれなどによって網点が相互にシフトすることによって、例えば「画素なし」の欄に示された白色の割合は、44%から49%へと変化し、マゼンタの純色の割合は14%から7%へと変化する。
【0052】
図4のステップS108およびステップS109でこのような面積率が算出されると、次に、このような網点構造全体における分光スペクトルが、各色の分光スペクトルから合成されて算出される(ステップS110,ステップS111)。
【0053】
図8は、各色の分光スペクトルの例を示す図であり、図の横軸は波長を表し、縦軸は反射率を表している。
【0054】
図8には、白色、CMYの1次色、2次色、および3次色それぞれにおける反射率の分光スペクトルが示されている。このような分光スペクトルは、実際に用紙上などに出力されたベタの各色を測定することによって得ることができる。これら各色の分光スペクトルが、上述した面積率を重みとして足し合わされることで、網点構造全体における分光スペクトルが合成される。
【0055】
図9は、合成された分光スペクトルの例を示す図であり、ここでも図の横軸は波長を表し、縦軸は反射率を表している。
【0056】
この図9には2つの分光スペクトルが示されており、破線で示された分光スペクトルは、図6に示す、シフト量が「0」である時の分光スペクトルであり、実線で示された分光スペクトルは、図7に示すシフトが生じた場合の分光スペクトルである。これらの分光スペクトルを比較すると、シフト前後で反射率の波長依存性が少し変化していることが分かる。
【0057】
図4のステップS110およびステップS111でこのような分光スペクトルが合成されて算出されると、次に、その分光スペクトルに基づいて、図6および図7に示すような網点構造で生じる色を測色的に表すLab値が算出される(ステップS112,ステップS113)。このLab値の算出に際しては、まず、網点を観察する光源のスペクトルが用いられて、上述したような網点構造によって反射される色のスペクトルが求められる。
【0058】
図10は、光源のスペクトルの一例を示す図である。
【0059】
この図10に示すように、典型的な光源には、広い波長域に亘る丘状の部分と、いくつかの鋭いピークが存在している。このような光源のスペクトルと、図9に示す反射率のスペクトルとが掛け合わされて、網点構造によって反射される光のスペクトルが求められる。
【0060】
次に、その反射光のスペクトルに対し、3刺激値の等色関数が掛け合わされて積分されることにより、3刺激値(XYZ値)が算出される。
【0061】
図11は、3刺激値の等色関数を表す図である。
【0062】
この図11には、3刺激値(XYZ値)の各等色関数が示されており、このような等色関数が反射光のスペクトルと掛け合わされて全波長領域について積分されると、XYZ値が得られる。
【0063】
最後に、このように求められたXYZ値が、国際的に定まった所定の換算式によってLab値に換算される。例えば、図9に示す分光スペクトルと図10に示す光源のスペクトルとに基づいて最終的に得られるLab値は、シフトなしのときが
(L,a,b)=(80.068058,1.8677918,14.667547)
であり、シフトが生じた場合が
(L,a,b)=(82.740753,−1.0719514,14.274755)
である。
【0064】
図4のステップS112およびステップS113でこのようにLab値が算出されると、次に、このLab値から、シフト無しの状態とシフト有りの状態との色差ΔEが、
ΔE=(ΔL2+Δa2+Δb21/2
但し、ΔL;L値の差分、Δa;a値の差分、Δb;b値の差分
という式で算出される。
【0065】
例えば、上記に例示したLab値からは、色差ΔE=3.9924524と算出される。
【0066】
上述した各処理手順のうち、ステップS105、ステップS106、ステップS108、ステップS110、ステップS112、およびステップS114は、ステップS105でシフト量が少しずつ変えて自動設定されながら繰り返し実行され、その結果、シフト量と色差との対応関係を表すマップが作成される(ステップS115)。以下、このマップの一例を示すが、その前に、マップの元となる網点セットを示す。
【0067】
図12は、マップの元となる網点セットを示す図であり、図13は、その網点セットにおける網点の重なり合いを示す図である。
【0068】
図12にはCMY3色それぞれの網点が示されており、これらの網点が、図5に模式的に示した網点に替えて用いられて、後述する色差のマップが求められる。
【0069】
図13のパート(A)には、シフト量が「0」のときの網点構造が示されており、パート(B)には、後述するマップ中で色差が最大となるシフト量のときの網点構造が示されている。このパート(B)に示す状態でのシフト量は、C版が図の上方に1シフト、M版が図の下方に4シフトとなっている。
【0070】
図14は、網点セットに対する色差のマップの一例を示す図である。
【0071】
ここに示すマップの横軸はY版に対するC版のシフト量を表し、縦軸はY版に対するM版のシフト量を表している。この図では、マップの中央に対して下側から右側に色差の大きい領域が存在していることが分かる。
【0072】
図4のステップS115でこのようなマップが得られると、最後に、マップ中での最大色差が算出される(ステップS116)。図14に示す例では、図13のパート(B)で説明したように、C版のシフトが+1でM版のシフトが−4のときに最大色差が生じている。
【0073】
上述したステップS114で算出される個々の色差も、ステップS115で作成される色差のマップも、ステップS116で算出される最大色差も、いずれも網点セットにおける色ずれの程度を指標するものとなっており、網点セットを評価する評価値となっている。また、このような評価値は、網点セットで得られる色を直接に評価したものであるので、実際に網点セットが印刷などに用いられた場合の色の安定性が適切に評価されたものとなっている。さらに、本実施形態では、Lab値に基づいた色差によって網点セットが評価されているので、見当ずれなどに伴う色ずれの印象が適切に評価される。
【0074】
なお、以上の説明では、便宜上、網点相互のずれの方向を1次元的に限定して説明したが、本発明にいう位置決定過程および位置決定部では、1次元的なずれが決定されても良い。
【0075】
また、上記の説明では、本発明にいう評価過程および評価部の一例として、3刺激値から換算されたLab値に基づいて評価するものが示されているが、本発明にいう評価過程および評価部は、3刺激値をそのまま用いて評価するものであっても良い。このような評価では、人の印象よりも、むしろ、網点で得られるカラー画像の色変化そのものを重視した評価となる。
【0076】
また、上記の説明では、本発明にいう3刺激値算出過程および3刺激値算出部の一例として、光源のスペクトルを考慮して3刺激値を算出するものが示されているが、本発明では、例えば簡便な評価を行う場合や観察光源が不明である場合などに、光源のスペクトルが無視されて、網点構造によるスペクトルのみから3刺激値が算出されても良い。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の一実施形態が適用されるパーソナルコンピュータを示す図である。
【図2】本発明の網点評価プログラムの一実施形態を示す図である。
【図3】本発明の網点評価装置の一実施形態の機能ブロック図である。
【図4】本発明の網点評価方法の一実施形態のフローチャートである。
【図5】図4のステップS103で得られるCMY3色の網点を模式的に示す図である。
【図6】シフト量が「0」のときに得られる網点構造の例を示す図である。
【図7】シフトが生じているときに得られる網点構造の例を示す図である。
【図8】各色の分光スペクトルの例を示す図である。
【図9】合成された分光スペクトルの例を示す図である。
【図10】光源のスペクトルの一例を示す図である。
【図11】3刺激値の等色関数を表す図である。
【図12】マップの元となる網点セットを示す図である。
【図13】マップの元となる網点セットにおける網点の重なり合いを示す図である。
【図14】網点セットに対する色差のマップの一例を示す図である。
【符号の説明】
【0078】
100 パーソナルコンピュータ
110 本体部
111 CD装填口
112 FD装填口
121 表示画面
120 ディスプレイ
130 キーボード
140 マウス
200 CD−ROM
300 網点評価プログラム
310 設定部
320 位置決定部
330 面積率算出部
340 スペクトル算出部
350 Lab値算出部
360 評価部
400 網点評価装置
410 設定部
420 位置決定部
430 面積率算出部
440 スペクトル算出部
450 Lab値算出部
460 評価部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価する網点評価方法であって、
前記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定過程と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定過程と、
前記設定過程で設定された網点が前記位置決定過程で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出過程と、
前記面積率算出過程で算出された面積率と、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出過程と、
前記スペクトル算出過程で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出過程と、
前記3刺激値算出過程で算出された3刺激値に基づいて前記網点セットを評価する評価過程とを有することを特徴とする網点評価方法。
【請求項2】
前記3刺激値算出過程が、前記スペクトル算出過程で算出された分光スペクトルと、網点の重ね合わせを観察する際の光源の発光スペクトルとに基づいて3刺激値を算出するものであることを特徴とする請求項1記載の網点評価方法。
【請求項3】
前記評価過程が、3刺激値から得られるLab値に基づいて前記網点セットを評価するものであることを特徴とする請求項1記載の網点評価方法。
【請求項4】
前記位置決定過程が、網点の重ね合わせにおける相対的な位置を複数決めるものであり、
前記面積率算出過程と、前記スペクトル算出過程と、前記3刺激値算出過程とが、前記位置決定過程で決められた複数の位置それぞれに対応した複数の面積率、複数の分光スペクトル、複数の3刺激値を算出する過程であり、
前記評価過程が、前記3刺激値算出過程で算出された複数の3刺激値に基づいた、前記位置決定過程で決められた複数の位置それぞれで生じる色の差異によって前記網点セットを評価するものであることを特徴とする請求項1記載の網点評価方法。
【請求項5】
複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価する網点評価装置であって、
前記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定部と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定部と、
前記設定部で設定された網点が前記位置決定部で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出部と、
前記面積率算出部で算出された面積率と、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記スペクトル算出部で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出部と、
前記3刺激値算出部で算出された3刺激値に基づいて前記網点セットを評価する評価部とを備えたことを特徴とする網点評価装置。
【請求項6】
コンピュータに組み込まれて該コンピュータに、複数色それぞれの網点の重ね合わせでカラー画像を表現するための網点セットを評価させる網点評価プログラムであって、
前記コンピュータ上に、
前記網点セットを構成する各色の網点について形状と大きさを設定する設定部と、
網点の重ね合わせにおける相対的な位置を決める位置決定部と、
前記設定部で設定された網点が前記位置決定部で決定された位置で重ね合わされたときに生じる、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれが占める面積率を算出する面積率算出部と、
前記面積率算出部で算出された面積率と、前記複数色の純色および各混合色のそれぞれにおける分光スペクトルとを用いて、網点の重ね合わせの分光スペクトルを算出するスペクトル算出部と、
前記スペクトル算出部で算出された分光スペクトルに基づいて3刺激値を算出する3刺激値算出部と、
前記3刺激値算出部で算出された3刺激値に基づいて前記網点セットを評価する評価部とを構築することを特徴とする網点評価プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−287465(P2006−287465A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−102898(P2005−102898)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】