網膜神経細胞の機能回復剤
【課題】網膜神経細胞の機能回復剤を提供すること。
【解決手段】Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤とする。
【解決手段】Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜神経細胞の機能回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経の生存及び分化は細胞の酸化還元条件により影響される。TRX はその活性部位配列; −Cys−Gly−Pro−Cys−内にレドックス活性なジスルフィド/ジチオールを有する小さい 12 kDaの多機能タンパク質であり、タンパク質ジスルフィド還元系としてNADPH及びチオレドキシンレダクターゼにも働く(Holmgren, 1985)。いくつかの報告は、TRX−依存性レドックス制御がAP−1、 NF−kB、p53、ASK1及びp38 MAP キナーゼにより介在されるシグナル伝達に密接に関与することを示した(Hirota et al., 1997; Saitoh et al., 1998; Hashimoto et al., 1999; Ueno et al., 1999). TRXは広く分布し、種々のストレスにより誘導される(Nakamura et al., 1997; Masutani, 1999). TRX発現はまた K562 赤白血病細胞の分化誘発剤であるへミン(Kim et al., 2001), 又は網膜色素上皮細胞のサイクリックAMPアナログ(Yamamoto et al., 1997)により上昇する。TRX 遺伝子の制御領域中には、いくつかのSP−1結合モチーフ、抗酸化剤応答エレメント(ARE) 及びサイクリックAMP応答配列(CRE)がある。神経組織において、TRXは虚血後の星状膠細胞(Tomimoto et al., 1993) 及び神経損傷後の運動ニューロン (Mansur et al., 1998) において誘導される。TRX は酸化ストレスに対して細胞保護作用(Nakamura etal., 1994) 及び神経保護活性(Hori et al., 1994)を有することが知られている。さらに、トランスジェニックマウスにおけるTRXの過剰発現は病巣の虚血脳障害を軽減する(Takagi et al., 1999). TRXはまた中枢コリン作動性ニューロンの神経栄養因子として報告され、神経栄養活性を有するが(Endoh et al., 1993), その効果の分子的基礎は解明されていない。
【0003】
神経成長因子(NGF)及び脳由来神経栄養因子のようなニューロトロフィンファミリーの他のメンバーはニューロンに対し生存及び分化の促進を含む絶大な効果を有する(Lo, 1992)。NGFは、アルツハイマー病のような加齢に伴う神経変性疾患において可能性のある治療剤として報告された(Connor and Dragunow, 1998)。これらのメカニズムの現在の理解は、褐色細胞腫細胞株PC12についてのNGF作用の研究に大きく依存している(Greene and Tischler, 1976)。NGFにさらされると、PC12細胞は交感神経ニューロン様細胞に分化する。シグナルは、NGFが細胞膜上のその高活性受容体であるTrkAに結合することにより開始され(Kaplan etal., 1991)、ras及びマイトージェン活性化蛋白質キナーゼ(MAPK)カスケード(Thomas et al., 1992)により導入される。PC12細胞のNGF処理はNGF作用に重要と考えられているc−fosのような遺伝子の活性化をもたらす(Milbrandt, 1986)。NGFは、血清応答エレメント(Treisman, 1986)及びCRE(Ginty et al., 1994; Ahn et al., 1998)を含むいくつかのエレメントによりc−fos遺伝子を活性化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、神経系ないし神経細胞の再生を促進する技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、TRXが神経系ないし神経細胞の再生を促進し、視神経・網膜の再生による眼科領域での疾患の治療や、大脳皮質などの神経系ないし神経細胞の再生を促進し、神経細胞死に起因する各種疾患の治療に有用であることを見出した。
【0006】
本発明は、以下の機能回復剤に関する
項1. Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤。
項2. 前記ポリペプチド類がヒトチオレドキシンである請求項1に記載の網膜神経細胞の機能回復剤。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】NGF誘発TRX発現。図1Aは、NGFにより生じるTRXタンパク質の増加を示す。NGF (50 ng/ml) で24時間及び48時間処理されたPC12細胞を収穫し、ウェスタンブロッティングにかけて検出した。
【図1B】NGF誘発TRX発現。図1Bは、NGFにより誘発されたTRX mRNAの増大した発現を示す。NGF処理されたPC12細胞は、示された各時間で収穫され、次いでノーザンブロッティングにより分析した。
【図1C】NGF誘発TRX発現。図1Cは、NGFによるTRX遺伝子の活性化である。PC12細胞はpTRX−Luc ベクターpTRX (−1148)とpRL−TKでトランスフェクトされ、次いでNGFの存在下又は非存在下に処理された。
【図2】TRXプロモータ中でNGFに応答する領域の同定PC12細胞は、左パネルに示されるようにpTRX−LucベクターとpRL−TKでトランスフェクトされ、示された値は未処理細胞に対するNGF(50 ng/ml)−処理細胞のルシフェラーゼ活性の比を示す。この結果は、3つの独立した実験の代表例である。
【図3A】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Aは、PD98059またはNACによるPC12の分化の遮断を示す。PC12細胞はNGF (50 ng/ml)の存在下又は非存在下で2日間培養し、次いでPD98059 (50 mM)またはNAC (20 mM)の存在下にNGF (50 ng/ml)と培養した。
【図3B】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Bは、PD98059またはNACの添加によるNGF−誘発トランス活性化の阻害である。PC12細胞はpTRX (−263)−LucベクターとpRL−TKでトランスフェクトされ、次いでNGF(50 ng/ml)及びPD98059(50 mM)またはNAC (20 mM)で処理された。示された値は、NGF 50 (ng/ml)及びPD98059またはNACで処理された細胞の未処理細胞に対するルシフェラーゼ活性の比である。該結果は、3つの独立した実験の代表例である。
【図3C】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Cは、PD98059またはNACによるTRXタンパク質発現の抑制を示す。 PC12細胞は図3Aと同様に処理され、タンパク質サンプルは分画され、抗−TRX抗体でスクリーニングされた。
【図4】NGF−誘発TRX核移動の抑制図4(A)は、NGFなしで培養したPC12細胞を示し、図4(B)はNGFで処理したPC12細胞を示し、図4(C)及び図4(D)は、NGF及びPD98059(図4C)またはNAC (図4D)で処理されたPC12細胞を示す。これらの細胞は、抗−TRX mAbで染色された。
【図5】ミュータントTRX過剰発現によるNGF誘発分化の阻害。PC12細胞はpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRXまたはpBI−EGFP−dmTRX (32S/35S)ベクターでトランスフェクトされ、次いでNGF 50 (ng/ml)で処理された。24時間後、これらの細胞をレーザー共焦点顕微鏡で調べた。
【図6A】優性ネガティブミュータント型のTRXによるCRE−介在c−fos誘発の抑制。図6Aは、NGFがCREを通してc−fosを誘導することを示す。PC12細胞は、pRL−TK とともに上部パネルで示されたようにpGL3−c−fos (−40, +42)またはpGL3−c−fos (−99, +42)でトランスフェクトされ、次いでNGFで4時間処理された。示された値は未処理細胞に対するNGF処理細胞のルシフェラーゼ活性の比である。
【図6B】優性ネガティブミュータント型のTRXによるCRE−介在c−fos誘発の抑制。図6Bは、NGFによるc−fosの活性化のミュータント型TRXによる抑制を示す。PC12細胞は、上部パネルに示されるように、pRL−TKとともに、pGL3−c−fos (−99, +42)及びpcDNA3 (1g)またはpcDNA3−TRX (32S/35S) (1g)ベクターで共トランスフェクトされた。トランスフェクトされたPC12細胞はNGFで4時間処理された。示された値は、未処理細胞に対するNGF処理細胞のルシフェラーゼ活性の比である。
【図7】光照射された網膜のH−E及びTUNEL染色。網膜標本における代表的なH−E及びTUNEL染色が示される。光受容体細胞核の有意な減少が24時間後及びその後に観察された。TUNEL−陽性細胞は12時間後及びその後に観察された(矢印)。INLは核内層であり、ONLは核外層である。
【図8】網膜サンプルのTRX発現についての免疫組織化学及びウェスタンブロット。TRXについての代表的免疫組織化学が(A)に示される。TRXの核標識は光照射直後に核内層 (INL) で観察されるが(短い矢) ,24時間後或いはその後に消失した。核外層(ONL)の核標識は、光照射直後に観察され(長い矢)96時間後まで維持された。免疫標識は光照射直後(0時間)では毛様体近傍の周辺網膜(peripheral retina) では顕著ではない。TRX標識は24時間後或いはその後にRPEで観察されるが(矢印)、網膜周辺では顕著ではない(白い矢印、12時間後及び24時間後)。網膜神経及びRPEフラクションにおけるTRXについての代表的なウェスタンブロット(B), 及びバンド強度の半定量的分析(C)が示される。光照射の12時間後及び24時間後のバンド強度は光照射されていないマウスのそれと比較した誘導倍率により表される。
【図9】ビヒクル, rTRX (5 μg)またはミュータント rTRX (5 μg)で硝子体内前処理された目からの網膜サンプルの酸化された(A)及びチロシン−リン酸化された(B)タンパク質の検出. (A)網膜神経においてる酸化されたタンパク質についての代表的ウェスタンブロットが示される。光照射前(第1レーン)及びビヒクル, rTRX及びミュータントrTRX処理された目(各々第2レーン、第3レーン及び第4レーン)である。(B) 網膜神経においてチロシンリン酸化タンパク質についての代表的なウェスタンブロットが示される。光照射前(第1レーン)及びビヒクル, rTRX及びミュータントrTRX処理された目(各々第2レーン、第3レーン及び第4レーン)である。強い強度の2つのバンド及び弱い強度の3つのバンド(矢印)が光照射前に検出された。光照射直後、強い強度を有する2つのバンドの1つ(上部矢印)が増強され、弱い強度を有する1つの追加的バンド(下部矢印)がビヒクル又はミュータントrTRX−処理マウスで検出された。
【図10】組換えTRXの細胞保護効果。ビヒクル、rTRX (5 μg)またはミュータント rTRX (5 μg)で硝子体内前処理された目からの網膜サンプルの代表的H−E染色(A)及び光受容体核の数(B)が示される。光照射の96時間後 rTRX 処理された目の光受容体核の数(平均±SE, 101.3±5.1 細胞/ 100μm; n=6)はビヒクル− (63.3 ± 2.7 細胞/100μm; n=6)及びミュータント rTRX−処理された(51.4 ± 3.3 細胞/100μm; n=4) 目におけるよりも有意に大きい。P値はワン−ウェイANOVA 及びその後のBonferroni /Dunn post hocテストにより計算した。網膜サンプルにおける代表的なDNAラダー検出が(C)に示される。DNAラダー形成の分析は、ビヒクル、rTRXまたはミュータント rTRX処理された目での光曝露96時間後で検出した。ONLは核外層であり; n.s.,は統計的に有意差はないことである。
【図11】MPP+は、PC12細胞中でのTRXを減少する。35mmディッシュで終夜プレ培養されたPC12細胞(2×105/ml)は、0,0.3及び1mM MPP+を含む培地中で3時間培養し、次いで細胞ライゼートを集めた。TRXはウェスタンブロッティングにより12kDaのバンドとして認識される。
【図12】MPP+は、PC12細胞の生存度を減少する。PC12細胞(2×104/ml)は、0,0.3及び1mM MPP+とともに24時間培養された。細胞溶解パーセントはLDH放出アッセイにより測定した。
【図13】TRX過剰発現及び組換えTRXの投与はMPP+誘発損傷を抑制する。TRX過剰発現の24時間後、1mM MPP+を培地中に加え24時間インキュベートした。細胞溶解パーセントはLDH放出アッセイにより測定した。TRX過剰発現PC12細胞はLDH放出アッセイにより測定されるようにMPP+誘発損傷に抵抗性であった(図13A)。さらに、100μg/mlのrTRXの投与はまた、PC12細胞がMPP+と24時間インキュベートされたとき0.3及び1mM MPP+誘発損傷を抑制した。2つのアスタリスク(*)は統計的に有意であることを示す(**P<0.001)
【図14】代表的免疫組織化学(A);及び、野生型及びtrx−tgマウスの眼の網膜サンプルにおけるヒトTRX発現についてのウェスタンブロット(B)。GLCはガングリオン細胞層;INLは内顆粒層;ONLは外顆粒層;及びRPEは網膜色素上皮層であり、スケールバーは100μmである。
【図15】野生型及びtrx−tgマウスの網膜神経における酸化された(A)及びチロシンリン酸化された(B)タンパク質の代表的ウェスタンブロット。野生型及びtrx−tgマウスの光曝露前(−2h)(各々レーン1及び3)、並びに野生型及びtrx−tgマウスの光曝露直後(0h)(各々レーン2及び4)。
【図16】視細胞顆粒層中の8OhdGの定量的免疫組織化学分析。(A)野生型マウス(左パネル)及びtrx−tgマウス(右パネル)の光曝露24時間後の標本における8OhdGの代表的免疫組織化学分析を示す。ONLは外顆粒層;スケールバーは20μmである。(B)8OhdG指数が要約される。各カラムは平均±SEとして表される(各群でn=5)。P値はMann−Whitney U−testにより計算した。
【図17】ERG。平均a−及びb−波振幅が要約される。各カラムは平均±SEとして表される(各群でn=5)。P値はMann−Whitney U−testにより計算した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書においては、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類には、チオレドキシン活性を有するものであれば、オリゴペプチドからポリペプチド(タンパク質)まで広く含まれる。
【0009】
チオレドキシン活性を有するファミリーは、活性中心に配列−Cys−X−Y−Cys−(X及びYは同一又は異なって20種類の天然アミノ酸のいずれかを示す。)を有しており、チオレドキシンスーパーファミリー(以下、「TRXファミリー」という)と呼ばれている。
【0010】
TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−、−Cys−Pro−Tyr−Cys−、−Cys−Pro−His−Cys−、−Cys−Pro−Pro−Cys−を有するポリペプチド類を例示することができ、これらの中でも、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が好ましい。
【0011】
また、TRXファミリーに属するポリペプチドには、具体的には、ヒトを含む動物のチオレドキシン(ヒトを含む動物のADF)、大腸菌などの細菌のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン等のチオレドキシン;ヒトADF活性を有するポリペプチド(ヒトADFP);ヒト,大腸菌等のグルタレドキシン等が含まれる。
【0012】
TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、チオレドキシンが好ましく、特にヒトチオレドキシン及び酵母チオレドキシンが好ましい。酵母チオレドキシンは、酵母から単離したものでもよいが、チオレドキシンを多く含む酵母の形態で使用することもできる。
【0013】
これらTRXファミリーに属するポリペプチド類は、本発明に係る網膜神経細胞の機能回復剤に、単独で、又は2種以上組み合わせて含有させることができる。
【0014】
TRXファミリーに属するポリペプチドは、細菌(大腸菌)、酵母、植物及び動物、特にヒトを含む哺乳動物(ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、モルモット、ラット、マウス、ウサギなど)由来のいずれであってもよい。また、TRXファミリーに属するポリペプチドは、天然物を精製する方法、遺伝子組換え法により、酵母,大腸菌等から得られるものであってもよく、TRX活性を有する限り、その1又は複数のアミノ酸を置換、付加、欠失等した誘導体であってもよい。
【0015】
チオレドキシンを含む該ポリペプチド類は、酸化型であっても還元型であってもよいが、好ましくは還元型である。
【0016】
再生される神経としては、大脳(皮質、髄質)、小脳、脳幹、視神経、内耳神経、運動神経、知覚神経、脊髄、交感神経、副交感神経などが挙げられ、これらの神経に分化し得る各種幹細胞にTRXファミリーに属するポリペプチドを作用させることで、神経を再生し、神経の変性ないし神経細胞死に起因する各種神経系疾患を治療することができる。
【0017】
神経に分化し得る各種幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞、間葉系幹細胞、胚性幹細胞などが例示できる。
【0018】
本発明者らは、神経幹細胞にTRXが多く発現していることを見出しており、下記の実施例からも、TRXが幹細胞の増殖及び神経細胞への分化を促進することは明らかである。
【0019】
神経の再生により治療可能な疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、失明疾患などが例示される。
【0020】
本発明に係る網膜神経細胞の機能回復剤は、例えば神経を再生可能な各種幹細胞に適用することにより、これら幹細胞の神経細胞への分化、結果として神経の再生を促進することができる。
【0021】
神経系幹細胞の増殖及び神経細胞への分化を促進するためのTRXファミリーに属するポリペプチドの有効量としては、成人1日あたり50〜500 mg程度であり、これを1日あたり1〜3回に分けて投与することができる。
【0022】
投与経路としては、経口(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤など)及び非経口(注射剤、吸入剤、点鼻剤、坐剤など)のいずれでも投与することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明する。
実施例1
(1)細胞株及び培養
NGF, ポリエチレンイミン(PEI), PD98059及びNACはSigmaから購入した。ラット褐色細胞腫腫瘍細胞株PC12は、5% CO2 を含む湿気のある雰囲気中37℃で、10%熱不活性化ウマ血清及び5%熱不活性化胎仔ウシ血清(FCS)を有し、抗生物質(100 IU/mlのペニシリン及び100 mg/ml のストレプトマイシンを補足したRPMI 1640 (Life Technologies, Grand Island, NY)中で維持した。
・プラスミド:pTrxCAT プラスミドは公知の方法に従い構築した(Taniguchi et al., 1996)。the pTrxCAT ベクターからのHindIII−BamH I インサートは、pBluescriptII KS (+) (pTRXblue ベクターにサブクローニングした。pTRX(−1148)−Luc、pTRX (−1062)−Luc、pTRX (−352)−Luc及びpTRX (−263)−Luc ベクターはpTRXblueベクターのKpnI/BamHI フラグメントをpGL3 ベイシックベクター(Promega, WI)のKpnI/BglII部位にライゲートすることにより構築した。pTRX(−263)−LucベクターのApaI /PvuIIインサートは、切り出され、埋められ、自己ライゲートされてpTRX (−217)−Lucベクターを得た。pGL3−c−fos (−40, +42) 及びpGL3−c−fos (−99, +42) lucベクターは、Fos−40 lucのMluI/HindIIIフラグメント(Masutani etal., 1997)及びthe pFDE−lucベクターをpGL3 ベイシックベクター(Promega)のMluI/HindIII部位にサブクローニングすることにより構築した。pFDE−lucは、FDE−CAT (Trouche et al., 1993) のBamHI/HindIIIフラグメントをpGL2ベイシックベクター(Promega)のBglII−HindIIIにサブクローニングすることにより構築した。pCDSR a(alpha) −TRX及び pCDSRa −TRX(C32S/C35S)ベクターは、既述の方法により構築した(Hirota et al., 1997)。The pcDNA3TRX (32S/35S)ベクターは、既述の方法により構築した(Nishiyama et al., 1999)。pCDSRa −TRX及びpCDSRa−TRXm (Tagaya et al., 1989; Hirota et al., 1997)からのBamHIインサートは、各々pBluescript II KS (pBS−wtTRX, pBS−dmTRX)のBamHI部位にサブクローニングした。pBI−EGFP−wtTRX及びpBI−EGFP−dmTRX(32S/35S)は、各々pBS−wtTRX及びpBS−dmTRX ベクターのEcoRV/XbaIフラグメントをpBI−EGFPベクター(Clontech)のPvuII/NheI部位にライゲートすることにより構築した。すべての構築物は、Thermo Sequenase II ダイ・ターミネーター・サイクルシークエンシングキット(dye terminator cycles equencing kit)(Amersham Pharmacia)を用いた直接ヌクレオチドシークエンシングによりコントロールした。pRL−TKベクターは、Promegaから購入した。pcDNA3はInvitrogenから購入した。
・ウェスタンブロット分析
細胞を集めて氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、次いで可溶化溶液(10 mM.Tris−HCI (pH 7.4), 150 mM NaCI, 1% NP−40, 1 mM EDTA, 0.1 mM PMSF, 8 mg/mlアプロチニン及び2mg/mlロイペプチン)で氷上30分間溶解させた。抽出物を遠心分離により清澄にした。細胞可溶化液を95℃で5分間維持し、次いで15% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。分離したタンパク質をポリビニリデンジフルオライド膜(Millipore Co., Bedford,MA)に移した。該膜をT−PBS (0.05% Tween20を含むPBS)中10% (w/v)スキムミルクで終夜処理し、抗マウスTRX ウサギポリクローナル抗体(Takagi et al., 1998c)と1時間インキュベートし、次いでペルオキシダーゼ複合化抗ウサギIgG(Amershan Pharmacia Biotech)と1時間インキュベートした。エピトープをECLウェスタンブロット検出キット(Amershan Pharmacia Biotech)で可視化した。本発明者は、以前にこの抗マウス抗体がラットTRX と交差反応することを報告した(Takagi et al., 1998b)。
・ノーザンブロット分析
全RNAを製造元の仕様書に従いTRIzol試薬を用いて抽出した(Maruyama et al.,1997)。全RNA20mg を電気泳動にかけMaximum strength Nytran nylon (Schleicher and Schrul, Knee, NH )にTurbo−Blotterシステム(Schleicher andSchrul)を用いて移した。フィルターを、既述のように(Takagi et al., 1998b)ラットTRX mRNAと交差反応するマウスTRXプローブとハイブリダイズさせた。
・トランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ
PC12細胞をトランスフェクション前に35−mm ディッシュに70%コンフルエンスで播種した。血清を含まない培地中の細胞をBoussifら(Boussif et al., 1995)に記載されたようにPEI試薬を用いてトランスフェクトした。24時間後、トランスフェクトした細胞を50 ng/ml のNGF (Sigma)で処理した。 Renillaルシフェラーゼ活性により規格化したルシフェラーゼ遺伝子発現をアッセイキット(Promega, Madison, WI)を用い、ルミノメーターで24時間後に分析した。ルシフェラーゼの相対的フォールド活性化を計算した。同じ実験を3回行った。PC12細胞を、TRXの活性部位が不活性化された二方向性発現ベクターpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRX又はpBI−EGFP−dmTRXでトランスフェクトした(Ueno et al., 1999)。トランスフェクション後、NGFを培地に加えた。24時間後、細胞発現EGFPをレーザー共焦点顕微鏡により調べた。
・免疫蛍光細胞染色
PC12細胞をポリ−L−リシンでコートした培養スライド中70%コンフルエンスで染色する前に播種した。次いで、細胞を10% FCSを含むPBS中3.7%パラホルムアルデヒドで20分間室温で固定した。これを次にPBS中0.2% (W/V) TritonX−100を用いて10分間膜透過性化し、5% ウシ血清アルブミン及び10% FCSを含むPBSで20分間ブロッキングした。スライドを2mg/mlのマウスTRX抗体(富士レビオより提供)で60分間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。次いでスライドを1mg/mlのフルオレセインイソチオシアネート標識二次抗体と60分間インキュベートし、再度PBSで洗浄した。染色細胞をレーザー共焦点顕微鏡(Bio−Rad)で調べた。
・結果
PC12細胞中でのNGF誘発TRX発現
本発明者は、NGFのPC12細胞中でのTRX発現についての効果を調べた。該タンパク質発現は、NGFによりPC12細胞中で増加した(図1A)。TRX mRNAもまたNGF処理の2時間後に増加した(図1B)。NGF 処理による誘導メカニズムをさらに分析するために、本発明者は、TRX プロモータールシフェラーゼレポーターコンストラクト(TRX−Luc)でPC12細胞をトランスフェクトした。NGF による処理は、TRXプロモーター活性を有意に増強した(図1C)。
TRXプロモーター中のNGF−応答領域の同定
NGFによるTRX遺伝子の活性化のメカニズムを理解するために、TRXプロモーター領域の各種欠失ミュータントを含むルシフェラーゼ・レポーター・コンストラクトを使用した。翻訳開始部位に対し−263位〜−217位の遺伝子領域はNGF応答に必要であった。この領域はコンセンサスCREに似ている配列を含み、活性化におけるCREの関与を示す(図2)。TRX発現はPD98059又はNACにより抑制された。
【0024】
ERK阻害剤であるPD98059及びNAC (Kamata et al., 1996)は NGFによるERK−CRE介在活性化を抑制することが知られている。NGFで2日間処理すると神経突起伸長の出現を伴うPC12細胞のニューロン分化を誘発した。既報告のように、PD98059 (50mM)又はNAC (20 mM)は、PC12 cellsにおける NGF−誘発形態変化を抑制した(図3A)。次いで、本発明者はPD98059またはNACのNGF−介在TRX遺伝子活性化についての効果を試験した。PD98059 またはNACは、TRX遺伝子のNGF−誘発活性化をブロックした(図3B)。PD98059又はNACはまた、TRXタンパク質発現の減少を生じた(図3C)。
TRX のNGF−誘発核輸送は、PD98059またはNACによりブロックされる。
【0025】
ERKは、NGF処理中に細胞質から核に輸送される(Chen et al.,1992). TRXはまた、H2O2又はUV照射にさらされたときにも細胞質から核に輸送される(Hirota etal., 1997)。NGF−誘発シグナリングにおけるTRXの関与を分析するために、本発明者はNGF処理の際のTRXの細胞下局在を研究した。NGFで16時間処理した後、TRXは核に移動した。該移動はPD98059又はNACによりブロックされた(図4)。優性型TRXの過剰発現は、PC12のNGF−誘発分化をブロックした。
【0026】
本発明者は、次いでTRXがPC12細胞のNGF−依存性分化に要求されるのかを調べた。本発明者は、PC12細胞をpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRX又はpBI−EGFP−dmTRX (32S/35S)を用いて一時的にトランスフェクトし、そこでは、TRXのレドックス活性部位は不活性化された。ミュータントTRXは転写因子のTRX依存性活性化を阻害した(Ueno et al., 1999)。トランスフェクション後、NGFが培地に添加された。NGF処理の24時間後、細胞をレーザー共焦点顕微鏡で調べた。ミュータントTRXベクターでトランスフェクトされた細胞は分化の抑制を示し、一方野生型TRXベクターまたはコントロールベクターでトランスフェクトされた細胞はNGF−誘発分化を示した(図5)。
【0027】
優性なネガティブミュータント型TRXの過剰発現は、NGFによるCRE介在c−fos 誘発をブロックした。TRXは、DNA結合(Hirota et al., 1997) (Ueno et al., 1999) 又はコ−アクチベータ相互作用(Ema et al., 1999)を促進することにより各種の転写因子を制御することが報告された。それゆえ、本発明者はTRXがCREを介したNGF−介在活性化の調節に関与するかについて分析した。4時間の処理後、NGFはpGL3−c−fos (−99, +42)中でルシフェラーゼ活性の40倍の増大を生じさせたが、pGL3−c−fos (−40, +42)は増大しなかった(図6A)。レポーター遺伝子であるpGL3−c−fos (−99,+42)のNGFに対する応答は,TRXの優性なネガティブミュータントのトランスフェクションにより著しく抑制された。トランス活性化はミュータントTRXにより75%抑制された(図6B)
・考察
本研究において、本発明者はNGFがPC12細胞において、タンパク質及びmRNAレベルでTRX発現を誘導することを見出した。本発明者は、ルシフェラーゼアッセイによりTRX遺伝子の−263〜−217 bp に位置するNGF応答領域を同定した。この領域は、CRE をコンセンサスする類似物を保有するCGTCA配列を含んでいた(Montminy et al., 1986)。さらに、本発明者はERK 阻害剤であるPD98059がNGF−誘発TRX発現を抑制することを示した。NGF−誘発CRE活性化は細胞外シグナリング調節蛋白質キナーゼ(ERK) (Impey et al., 1998)により介在される。これらの結果は、TRX遺伝子がERK及びCREカスケードを通してNGFにより誘導されることを示す。さらなる研究が、NGFによるTRX遺伝子誘発メカニズムの分析について進行中である。
【0028】
本発明者はまた、NGFがPMA (Hirota et al., 1997), UV (Ueno et al., 1999)及びへミン(Kim et al., 2001)と同様にTRXの核移動を誘発することを実証した。本発明者は、ERK阻害剤であるPD98059がNGFのこの効果をブロックすることを示し、この結果はERKがTRXのNGF−誘発核移動の調節に関与することを示唆する。該核移動のメカニズム及び生理学的重要性はさらに詳細に研究されるべきである。TRXのNGF−誘発発現及び核移動はPC12細胞のNGF−誘発分化に関連するようであり、なぜならPD98059及びNACは各々NGF−誘発分化及びTRX発現だけでなく核移動を抑制するからである(図3及び4)。より重要なことには、優勢なネガティブミュータントTRXの過剰発現は、分化をほぼ完全に阻害した(図5)。これらの結果は、TRXがNGFにより誘発されるPC12の分化に必要であることを示す。
【0029】
c−fosのような遺伝子はNGFの作用に要求されると考えられた。c−fos遺伝子の上流制御領域において、CREは神経分化を誘発する各種の細胞外刺激に応答するc−fos転写の調節に決定的に重要である(Ahn et al., 1998) (Sheng et al., 1988)。本発明者は、TRXの優勢なネガティブミュータント型の過剰発現がCREを含むpGL3−c−fos (−99, +42)レポーター遺伝子のNGF−誘発活性化ブロックするが、pGL3−c−fos (−40, +42)はブロックしないことを示した。これらの結果は、TRXがc−fos発現をもたらすCREを介したNGFシグナリングに必要であることを実証する。TRXはJun/Fos (AP−1)を含むDNA−結合タンパク質の活性を調節し、核内還元分子であるレドックスファクター1(Ref−1) と相互作用する(Hirota et al., 1997)。AP−1及びRef−1は分化に関与することが報告された(Sheng and Greenberg, 1990) (Chiarini et al., 2000)。最近、本発明者は、TRX及びRef−1が転写因子とコアクチベータ間の相互作用を調節すること(Ema et al., 1999)、及びCREBの活性化がTRXにより調節されることを報告した(Hirota et al., 2000)。従って、TRXはCREBのDNA又はコアクチベータとの相互作用を増大させ、NGFシグナリングを促進するかもしれない。さらなる研究は、NGFシグナリング経路におけるTRXの関連メカニズムに必要である。
【0030】
NGFは、軸索再生を促進することが示された(Hollowell et al., 1990)。Endohらはコリン作動性ニューロンについてのTRXの神経栄養活性を報告した (Endoh et al., 1993)。本結果は、この知見を確認及び発展させ、TRXがニューロンの分化及び再生についてのNGFの効果を増強する神経栄養性コファクターであることを示唆する
NGFはまた、ニューロン生存因子としても働く。NGFは軸索切断した中隔ニューロンの死を予防することが示された(Pallage et al., 1986)。NGFがなくなるとPC12細胞のアポトーシスを生じ、これはp38 MAPK及びアポトーシスシグナリングキナーゼ1 (ASK1)により媒介される (Xia et al., 1995; Kummer et al., 1997;Kanamoto et al., 2000)。TRXはASK1及びp38 MAPKの内因性阻害剤として働くことが報告され(Saitoh et al., 1998; Hashimoto et al., 1999)、NGFの消失はまたPC 12 細胞におけるTRX発現のダウンレギュレーションを生じる(Bai, et al. unpublished observations)。これらの結果は、NGFによるTRXレベルの維持はニューロン死を予防する役割を果たすことを実証する。TRXの神経損傷に対する保護的役割が示された。TRXは虚血後の星状膠細胞で誘導される(Tomimoto et al.,1993)。トランスジェニックマウスにおけるTRXの過剰発現は、病巣の脳虚血障害(Takagi et al., 1999)及び興奮毒性海馬損傷(Takagi et al., 2000)を軽減する。アルツハイマー病患者の脳におけるTRXの減少した発現が報告されている(Lovell et al., 2000)。NGF投与は、アルツハイマー病患者のコリン作動性ニューロンを維持するために提案された(Serrano Sanchez et al., 2001)。これらの結果及び本発明の結果を総合すると、TRXの投与が神経変性疾患のような神経疾患におけるNGFの効果を増強し得ることを示す。神経変性疾患に対するTRXの治療的可能性を明らかにするためのさらなる研究が進行中である。
実施例2(網膜視細胞についてのデータ)
動物
4週齢の雄BALB/c mice (albino) を日本SLC (静岡,日本),から入手し、実験前の2〜5日間本発明者のコロニールームで飼育した。日本SLCと本発明者の実験室における光強度は300 luxであり、実験室のケージ内の光強度は20−40 luxであった。すべてのマウスを12時間 (8:00 A.M.から8:00 P.M.) の明/暗サイクルにおいて、日本SLC及び本発明者のコロニールームで維持した。
光照射
4週齢のマウスを実験前24時間暗所に置いた。瞳孔を1% 塩酸シクロペントレート点眼剤(参天製薬)で拡張した。麻酔していないマウスを8,000 luxの発散する冷白色蛍光(松下電器産業) に2時間反射インテリア(reflective interior)を備えたケージ中でさらした。すべての光照射は午前10時に開始した。光照射中の温度は25±1.5℃に維持した。照射中、両目が.同程度に照射を受けるように特別の配慮をした。
網膜組織切片の調製
ペントバルビタールによる腹腔内注射により深い麻酔を誘導後、マウスをリン酸緩衝生理食塩水(PBS) (pH, 7.4)を用いて左心室を灌流して 固定前に血液を洗い流した。次いで、PBS中0.25%グルタルアルデヒドを含む新たに調製した4%パラホルムアルデヒドで灌流した。次いで、目を取り除いた。すべての組織を既述のものと同じ固定剤で12時間4℃でパラフィン中に埋入して固定し、視神経円板を含む全網膜を有する1μmの矢状切片に切断した。7−0 絹縫合糸を目の側頭側のランドマークとしておいた。組織切片をスライドガラス上に集め、30分間キシレン及び分量を変えた一連のアルコールで処理し、切片のパラフィンを除去した。
形態計測
視神経円板を含む網膜パラフィン切片(1 μm)をヘマトキシリン−エオジン(H−E)で染色し、各切片の4つの位置のデジタル化カラー画像をPDMC le デジタル画像システム(オリンパス)を用いて得た。2つの画像を視神経円板上部100 〜800 μmの上部網膜から、及び2つを視神経円板下部100 〜800 μmの下部網膜から得た。各画像のヘマトキシリン陽性の光受容体細胞核の数をカウントし、ワン−ウェイ(one−way) ANOVA 、次いでBonfferoni/Dunn post hocテストにより比較した。
【0031】
TdT−介在dUTP ニック末端標識(TUNEL)
TUNELを、in situアポトーシス検出キット(宝酒造)を用い、1−μmパラフィン切片上で行った。3’,3’−ジアミノベンゼン(Dako, Carpinteria, CA)を発色剤として使用した。TUNEL−陽性核の数を上記のヘマトキシリン陽性細胞カウントについて使用されたのと同様な方法によりカウントした。
抗体
ウサギ 抗マウスTRX 抗体(ポリクローナル)を既報のように調製した19。
マウス及びヒトTRXの免疫組織化学
マウスTRXの免疫組織化学分析のために、本発明者はイムノペルオキシダーゼ法19を使用した。簡潔に述べると、内因性ペルオキシダーゼ活性を0.6% H2O2で不活性化した。一次抗体又はコントロール正常ウサギ血清を加え、4℃で終夜インキュベートした。ビオチン化ヤギ抗ウサギ免疫グロブリン(Biomeda, FosterCity, CA)を二次抗体として使用した。アビジン−ビオチン増幅(Biomeda)を行い、次いで基質である0.1% 3’,3’−diaminobenzidine (Dako)でインキュベートした。マウスTRXのウェスタンブロット
網膜サンプル調製法及びウェスタンブロット法は、既報のように行った15。簡潔に述べると、ペントバルビタールの腹腔内注射により深い麻酔に誘導後、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS) (pH, 7.4)を用いてマウスの左心室を灌流して 固定前に血液を洗い流し、次いで目を除去した。角膜及びレンズを目から取り除き、網膜の内層(網膜神経(neural retina))を顕微鏡下にアイカップから分離した。氷冷PBSでの灌流後の目において、光受容体細胞層と網膜色素上皮細胞層の間の接着は弱くなり、それらは容易に分離された。網膜神経(neural retina)除去後のアイカップは、網膜色素上皮細胞フラクションとして分析した。従って、このフラクションは脈絡膜及び強膜を含んでいた。等量の網膜タンパク質(5 μg protein/lane)を12%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、次いで電気泳動的にポリビニリデンジフルオライド (PVDF)膜(Millipore, Bedford, MA)に移した。ブロッキング後、膜を最初の抗体とインキュベートし、次いでペルオキシダーゼ連結第二抗体とインキュベートした。化学ルミネセンスをECLウェスタンブロット検出キット(Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)で検出した。
組換えチオレドキシン(rTRX) の硝子体内注入
5μgのrTRXまたはミュータントrTRX (TRXC32S/C35S)20又は3 μlの0.9%NaClを光照射の2時間前に硝子体内注入した。rTRXを10−μl マイクロインジェクションシリンジを備えた30−G 微細使い捨て針(Hamilton, Reno, NV)を用いて右目の側頭縁から硝子体内注入した。
チロシンリン酸化タンパク質の検出
チロシンリン酸化タンパク質はECL チロシンリン酸化検出システム(RPN 2220/1, Amersham Pharmacia Biotech)を用いて検出した。製造業者の推奨に従い、網膜神経(neural retina)のタンパク質サンプルを調製し、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル(10 μg タンパク質/レーン)上で電気泳動し、次いで電気泳動的にPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をペルオキシダーゼ連結抗ホスホチロシン抗体(PY−20, Amersham Pharmacia Biotech) とインキュベートし、次いで化学ルミネセンスをECLウェスタンブロット検出キットで検出した。
酸化タンパク質の検出
酸化タンパク質は、酸化タンパク質検出キット(OxyBlot, Intergen, Purchase, NY)を用いて既報のように検出した17。OxyBlotはカルボニル基の感受性免疫検出試薬を提供する。製造業者のプロトコールに従い、網膜神経の2,4−ジニトロフェニル(DNP)−ヒドラゾン誘導体化タンパク質サンプルを調製し、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(5 μg タンパク質/レーン)で分離し、次いでPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をタンパク質のDNP部分に特異的な一次抗体とインキュベートした。タンパク質バンドをマウスTRXに関するウェスタンブロットと同じ方法で検出した。
DNA ラダー
ヌクレオソーム間DNA切断をQuick Apoptotic DNA ladder Detection Kit (MBL, 名古屋,日本)を用いて検出した。製造業者のプロトコールに従い、網膜DNAを抽出し、1% アガロースゲルにロードして電気泳動した。ゲルをエチジウムブロミドで染色し、DNAバンドを紫外線トランスルミネーターで可視化した。
統計的分析
全ての統計的分析は、StatView ソフトウェア、 バージョン5.0 (SAS, Cary, NC).を用いるマッキントッシュのパーソナルコンピュータ上で行った。
結果
網膜における内因性TRXの発現
網膜損傷の重篤度を決定するために、網膜切片中のトータル及びTUNEL−陽性 光受容体核(図7)を光照射の前、直後、光照射後12, 24, 48及び96時間でカウントした。光照射されていないマウスの光受容体細胞数と比較して(平均± SD; 248.5 ± 11.4 細胞/ 100μm)、該数は光照射の24時間後(182.0 ± 10.7, P <0.05)及びその後(178.3 ± 18.3 細胞/ 100μm, P < 0.01 及び 50.0 ± 9.8 細胞/ 100μm, P < 0.01 、各々48時間及び96時間)に有意に減少した。TUNEL−陽性核は光照射の12時間後に観察され(平均±SD; 8.7 ± 2.2 %)、そして光照射の96時間後まで維持された (44.2 ± 6.9 %, 34.5 ± 2.4 %, 及び38.0 ± 11.7% 各々24, 48, 及び96 時間において)。.
TRXは様々な酸化ストレスに応答してアップレギュレーションされるので、本発明者は免疫組織化学(図8A)及びウェスタンブロット(図8B、C)による光酸化ストレスに網膜が応答する間のTRX発現を分析した。光照射の直後、TRXの核標識が網膜後極の核内層及び核外層において観察された; 標識は虹彩直後の網膜周辺においては有意ではない。核内層中のTRX標識は光照射の24時間後及びそれ以降に消失した。一方、核外層の標識は96時間まで維持された。光照射の24時間後、強力なTRX標識が後極の網膜色素上皮(RPE)で観察され、それは光照射後96時間まで維持された。標識は分析された時間経過を通じ、周辺網膜のRPEにおいて有意ではなかった。TRXのウェスタンブロットの結果は、TRXのアップレギュレーションが網膜神経及びRPEフラクションにおいて光照射の12時間後及び24時間後で示された(図8B及びC)。光照射の12時間後及び24時間後で、光照射前の網膜神経及びRPEフラクションの両方においてクマッシーブルー染色されたゲル中の顕著なバンドの変化はなかった(データは示さない)。
rTRX注射マウスの網膜サンプルにおける酸化及びチロシンリン酸化されたタンパク質の検出
本発明者は、rTRX, ビヒクル又はミュータントrTRX を硝子体内のキャビティに光照射前に注入したマウスの光照射後の酸化ストレスを評価するために、タンパク質の酸化及びチロシンリン酸化を分析した。
【0032】
ビヒクル又はミュータントrTRXマウスにおいて、網膜神経中の酸化されたタンパク質量は光照射直後に増大した(図9A)。ビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスと比較して、酸化されたタンパク質の量は、rTRX−処理マウスで減少した。光を照射しないマウス由来の網膜標本では、チロシンリン酸化された2本の強い強度のバンド及び3本の弱いバンドが検出された(図9B)。光照射の直後、強い強度の2つのバンドのうちの1つが増強され、弱い強度の追加の1つのバンドがビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスで検出された。ビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスと比較して、これらのバンドの増強はrTRX−処理マウスでより顕著ではなかった。
光酸化ストレスに対するrTRXの細胞保護効果
本発明者は、次いで網膜損傷に対するrTRX投与の効果を調べた。rTRX, ビヒクルまたはミュータントrTRXのいずれかを硝子体内のキャビティに光照射前に注入し、生存する光受容体細胞核をこれらの目の間で比較(図10A,B)。光照射の96時間後、光受容体細胞核の数は. ビヒクル(P<0.001)またはミュータント rTRX−処理の目(P<0.001)よりもrTRX−処理の目で有意に高かった。ヌクレオソーム間のDNAラダーはrTRX−, ビヒクル−またはミュータントrTRX−処理の目由来の網膜サンプルで評価した。光照射の36時間後、DNAラダーはビヒクル−及びミュータントrTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは検出されたが、rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは検出されなかった(データは示さない)。
【0033】
光照射の96時間後、DNAラダーはビヒクル及びミュータント rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルで検出された。これに対し、rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは減少した(図10C)。
考察
光照射は光受容体核の有意な損失の原因となる(図7)。TUNEL−陽性光受容体細胞核(図7)及びDNAラダー形成(図10C)は光照射後の網膜で観察されるので、本発明者の現在のデータはアポトーシスが光受容体細胞の細胞死の主要な経路であり、このことは以前の文献10と一致する。免疫組織化学法によると、TRXは網膜神経及びRPEの両方において、光照射後にアップレギュレートされ、虹彩のごく近傍の網膜周辺(peripheral retina)ではアップレギュレートされなかった(図8A)。ウェスタンブロッティングにおいて、TRXは網膜神経及びRPEフラクションの両方においてアップレギュレートされた(図8B及び8C)。これらを合わせると、本発明の結果はTRXが光誘導性の内因性分子であり、TRX が光による網膜神経の再生において重要な役割を果たしていることを示す。タンパク質酸化はフリーラジカル産生により生じ、srcファミリーキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びマイトージェン活性化蛋白質キナーゼを含むチロシンキナーゼが酸化ストレスにより活性化される12,22,23。本研究は、酸化及びチロシンリン酸化タンパク質の両方の光照射後の網膜神経における増強がrTRX−処理マウスで減少するが,ミュータント rTRX−処理マウスでは減少せず(図9A,B),このことはrTRXの硝子体内投与が網膜における光酸化ストレスによる網膜神経の損傷を減少し、その保存された活性部位におけるシステイン残基が光酸化ストレスの減少に重要な役割を担うことを示唆する。
【0034】
ビヒクル処理されたマウスと比較すると、光受容体細胞核及びDNAラダー形成の減少は、rTRX−処理マウスにおいて有意に除外され、一方、その効果はミュータントTRX−処理マウスで消失した(図10)。この結果は、TRXが網膜光障害において抗アポトーシス効果を有し、その保存活性部位におけるシステイン残基がこの細胞保護に重要な役割を担うことを示唆する。以前の研究は、外因性rTRXの虚血/再灌流障害の肺16、網膜18及び血管内皮障害24に対する細胞保護効果を示唆する。外因性rTRXが網膜光受容体のダメージを改善するメカニズムは知られていない細胞外空間及び細胞膜における光酸化により誘導される活性酸素種はTRX依存性ペルオキシダーゼ25又は一重項酸素又はヒドロキシラジカルに対するTRXの直接消去作用26により減少される可能性がある。他の可能性は外因性TRXが細胞膜に結合し、細胞内空間に取り込まれることである。
【0035】
以前に、アスコルビン酸27、ジメチルチオウレア28,29及びWR−779138の様な抗酸化剤に対する細胞保護効果が示された。本発明の結果は、網膜光障害に対する抗酸化剤の役割をさらに強調するものである。さらに、チオレドキシンはレドックスレギュレーター、転写因子の調節機能及びストレスシグナリングキナーゼとしての作用を発揮し得12,13、これらの作用メカニズムは網膜光ストレスに対するチオレドキシンの細胞保護効果に重要であるかもしれない。
【0036】
過剰な光はヒトの加齢に関係する黄斑変性及びおそらく網膜色素変性のいくつかの形態1,2の進行及び重篤度を増強し得る。眼科のプラクティスにおいて使用される顕微鏡の操作に由来する広いスペクトル光のハザードは光黄斑症の原因となり得る3,4。本発明は外因性TRX投与により網膜光障害保護の可能性を実証した。さらに本発明は、内因性TRXの誘導が網膜光障害に対する増大した耐性と関連することを示唆する。本発明者は、プロスタグランジンE130,31及びゲラニルゲラニルアセトン32が細胞又は組織において効果的に内因性TRXを誘導することを示した。これらのTRX誘導剤を用いたTRX増強は、ヒトの光酸化ストレス関連網膜疾患の保護のための有用な治療的戦略になり得る
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実施例3
PC12細胞を10%ウシ血清(HS)及び5%ウシ胎児血清(FCS)、100μg/mlストレプトマイシン及び100U/mlペニシリンを含むRPMI1640培地中でインキュベートした。細胞を5%CO2下の湿潤雰囲気で37℃でインキュベートした。0,0.3,1mM MPP+(1−メチル−4−フェニルピリジニウムイオン)とともに3時間インキュベーション後、PC12細胞を回収し、細胞ライゼートを調製した。TRX発現をPC12細胞中ウェスタンブロットにより検出した。簡潔に述べると、細胞ライゼートは95℃で5分間維持し、次に12%ドデシル硫酸アクリルアミドゲルにアプライし、電気泳動し(5μg/レーン)、次にトランスファーメンブラン(Millipore, Bedford, MA)に移した。0.5%Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中5%スキムミルクでブロッキング後、該メンブランを1時間、ラットTRXと交叉反応する抗マウスTRX抗体(Y.Takagi et al. J.Cereb.Blood Flow Metab. 18(1998) pp.206−214)とインキュベートした。次いで、該メンブランをペルオキシダーゼ−複合化抗ウサギイムノグロブリン抗体とインキュベートした。結合したペルオキシダーゼを製造業者の仕様書に従い化学発光(ECLTM(RPN2106, Amersham Pharmacia Biotech)ウェスタンブロット検出キット)で促進した。各サンプルにおけるTRX量をコンピュータ化されたデンシトメータ、NIHイメージを用いて各バンドの密度を分析することにより評価した。MPP+処理条件下、TRX発現はPC12細胞で減少した(図11)。類似の実験を3回行った。
【0037】
次に、本発明者は、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイによりPC12細胞の生存度に関するMPP+の効果を詳細に検討した。損傷細胞から放出されたLDHは細胞培養物のアリコートで測定された。残存する細胞性LDHをPBS中0.2%Tween20で細胞を溶解することにより得た。細胞培養物又は細胞ライゼートの50μlサンプル中のLDHは、製造業者の方法に従いLDHアッセイキット(kyokuto, Tokyo)を用いて測定した。細胞溶解パーセントを(培地中のLDH/ウェル当たりの総LDH)のLDH比として測定した。ここで、総LDHは培地+細胞ライゼートのLDHを指す。MPP+とともに培養すると、細胞生存度は用量依存的に減少した(図12)。類似の実験を3回繰り返した。
【0038】
TRXの過剰発現がMPP+誘発損傷からのPC12細胞を保護するかどうかを測定するために、PC12細胞(1×107/ml)10%HS及び5%FCSを補足したRPMI1640培地で終夜培養した。細胞を組織ディッシュから機械的に脱着させ、血清を含まないRPMI1640培地で3回洗浄し、次いで細胞を10μgのpBI−EGFP−wtTRXと混合した。pBI−EGFP−wtTRXは、pBI−EGFPコントロールベクター(Clontech)にTRX cDNA断片(Y.Tagaya et al. EMBO J. 8 (1989), pp.757−764)を連結することにより構築した。その後、細胞を5分間氷上でインキュベートし、適当な単回電気パルスにさらした。一時的なTRX過剰発現及び組換えヒトTRXの投与は、PC12細胞がMPP+と24時間インキュベートしたときのMPP+誘発損傷を抑制した(図13A、B)。
【0039】
上記の結果は、TRXが神経細胞の保護効果を有し、それによりMPP+の損傷誘発作用を抑制したことを示す。
実施例4
チオレドキシントランスジェニック(trx−tg)マウスは、β−アクチンプロモーターの制御下にヒトTRXトランスジーンを保有し、脳を含む全身でヒトTRXを発現するC57BL/6マウス(野生型)である(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)。本発明者は、ヒトTRXがtrx−tgの網膜全体で発現されていることを確認した(図14A、B)。網膜サンプルの調製法、免疫組織化学、及びウェスタンブロッティングは、既述のように行った(TakagiY. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136; Ohira A. et al., Lab. Invest., 70 (1994) 279−285)。従って、本発明者は、trx−tgマウスが強い光で誘発される網膜損傷により抵抗性であるかについて評価した。本研究の全ての方法は、Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに関するARVOステートメントに従った。
【0040】
第1に、本発明者は、抗マウスTRX抗体を用いたウェスタンブロッティングによりtrx−tg及び野生型マウスの網膜への光曝露の前後における内因性マウスTRXを分析した(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136; Ohira A. et al., Lab. Invest., 70 (1994) 279−285)。光曝露前、3−4週齢の雄マウスを暗所で48時間順応させ、その瞳孔を0.5%トロピカミド及び0.5%塩酸フェニレフリン点眼剤(参天製薬)を用いて拡張させた。麻酔していないマウスを、2時間反射型インテリアを備えたケージ中で8000 luxの拡散性の昼白色蛍光線(松下電器産業)に曝した(Wenzel A. et al., J. Neurosci., 20 (2000) 81−88)。照明中、眼が同レベルの光を受けるように注意した。光曝露前、trx−tgマウスの網膜における内因性マウスTRXの発現を野生型マウスのものと比較できた。光曝露の全24時間後、内因性マウスTRXの2倍のアップレギュレーションがtrx−tg及び野生型マウスの両方において観察され、そこでは両方のマウスにおいて顕著な相違はなかった(データは示さない)。trx−tgマウスの各組織におけるヒトTRXタンパク質の量は内因性マウスTRXタンパク質より3−6倍大きいことが報告されている(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)。さらに、β−アクチンプロモーターの活性は内因性マウスTRXプロモーターの活性と比較して十分高いと考えられる。結果として、網膜における全TRXタンパク質の量は、光曝露の前後において野生型マウスよりもtrx−tgマウスにおいて相当多いと考えられる。
【0041】
次に、本発明者は、trx−tg及び野生型マウスの光曝露後の酸化ストレスを評価するためにタンパク質の酸化及びチロシンリン酸化を分析した。酸化されたタンパク質は、既述のように(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)酸化タンパク質検出キット(OxyBlot, Intergen, Purchase, NY)を用いて検出した。該キットはカルボニル基の敏感な免疫検出のための試薬を提供する。製造業者のプロトコールに従い、2,4−ジニトロフェニル(DNP)ヒドラゾン誘導体化網膜タンパク質サンプルを調製し、12%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(10μgタンパク質/レーン)で分離し、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜に移した。ブロッキング後、膜をタンパク質のDNP部分に特異的な1次抗体とインキュベートした。次いで、タンパク質バンドをヒトTRXと同じウェスタンブロッティング法により検出した。チロシンリン酸化タンパク質をECLチロシンリン酸化検出システム(RPN 2220/l, AmershamBiosciences)を用いて検出した。製造業者の推奨に従い、網膜タンパク質サンプルを調製し、12%SDSポリアクリルアミドゲル(10μgタンパク質/レーン)で電気泳動し、次に電気泳動的にPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をペルオキシダーゼ連結抗ホスホチロシン抗体(PY−20, Amersham Biosciences)とインキュベートし、化学発光をECLウェスタンブロット検出キットで検出した。野生型マウスにおいて、網膜神経における酸化蛋白量は光曝露前と比較して光曝露直後に増大した(図15A、レーン2)。野生型マウスと比較して、酸化蛋白量はtrx−tgマウスで減少した(図15A、レーン4)。野生型マウスの網膜標本において、チロシンリン酸化タンパク質の3つの強いバンド(矢印)が光曝露前に検出された(図15B、レーン1)。光曝露直後、これらのバンドは増強され、少なくとも2つの追加のバンド(矢頭)が検出された(図15B、レーン2)。野生型マウスと比較して、これらのバンドの増大はtrx−tgマウスではあまり顕著ではなかった(図15B、レーン4)。タンパク質酸化はフリーラジカル産生の結果であり(Oliver C.N. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 87(1990) 5144−5147)、srcファミリーキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びマイトジェン活性化蛋白質キナーゼを含むチロシンキナーゼが酸化ストレスにより活性化される(Nakamura K. et al., Mol. Immunol., 33(1996) 855−865; Saitoh,M. et al., EMBO J., 17(1998) 2596−2606)。従って、この結果は、TRXの過剰発現が網膜における光酸化ストレスを減少させることを示す。
【0042】
強力な光は視細胞のDNA損傷を引き起こす(Organisciak D.T. et al., Photochem Photobiol., 70 (1999) 261−268)。光誘発DNA損傷に対する過剰発現されたTRXの細胞保護効果を評価するために、本発明者は、8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシンについての定量的免疫組織化学(8OhdG指数)を用いた。パラフィン処理網膜サンプルの調製法、アルカリホスファターゼ法を用いた8OhdGのための免疫組織化学及び8OhdG免疫染色の定量法は、既知である(Ohira A., et al., Lab. Invest., 70(1994) 279−285; Toyokuni S. et al., Lab. Invest., 76(1997) 365−374)。抗8OhdGモノクローナル抗体をNOF Corporationから購入した。8OhdG指数を計算するために、各マウスの2つの位置(上部及び下部網膜、視神経円板から約100μm)でのデジタル化されたカラー画像をデジタルイメージングシステム(PDMC le, オリンパス)を用いてPICTファイルとして得、マッキントッシュパーソナルコンピュータ上のNational Institutes of Health image version 1.61ソフトウェアを用いて分析した。光曝露前マウス系統間での視細胞の核(外顆粒層)における8OhdG指数の有意な差異はなかった(図16B、−2h)。光曝露の12時間後及び24時間後、8OhdG指数はtrx−tgマウスよりも野生型マウスで有意に高かった(各々、P<0.01及びP<0.01)(図16B、12h及び24h)。野生型マウスにおいて、強い染色が光曝露24時間後で維持された(図16A、左パネル)。一方、trx−tgマウスの外顆粒層の染色は光曝露24時間後に減少した(図16A、右パネル)。主要なDNA塩基改変産物である8OhdGはヒドロキシラジカル、一重項酸素、または光動力作用のいずれかにより誘導され、酸化的ストレス誘発DNA損傷の確立したマーカーである(Toyokuni S. et al., Lab. Invest., 76(1997) 365−374)。従って、この結果は、過剰発現したTRXが光酸化ストレスにより生じる視細胞のDNA損傷を防止することを示す。
【0043】
網膜電図記録法(ERG)は、視細胞により生じる作用電位(a−波)及びMullerグリア細胞と相互作用する内顆粒層の二次ニューロンにより生じる作用電位(b−波)の記録である。従って、a−およびb−波の振幅はこれらの最初の2つの網膜ニューロンの機能的状態を反映する。網膜機能に関する過剰発現したTRXでの効果をテストするために、本発明者は、両方のマウス系統間でa−波及びb−波を比較した。フラッシュERGはPE−3000(Tomey, Nagoya)を用いて記録した。金のコンタクトレンズ電極(直径3mm、1.5−mmベースカーブ、京都コンタクトレンズ)を左目上に置き、同一の参照電極を口内に、外側電極を左脚パッド上に置いた。光曝露前、a−波およびb−波の振幅はこれらの系統間で異ならなかった(図17,−2h)。光曝露後、a−波およびb−波の振幅は、6時間(各々、P<0.01及びP<0.05)及び12時間(各々、P<0.01及びP<0.05)で、野生型マウスと比較してtrx−tgマウスで有意に高かった(図17,6h及び12h)。従って、この結果は、過剰発現したTRXが光損傷を受けた網膜神経を再生することを示す。
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【技術分野】
【0001】
本発明は、網膜神経細胞の機能回復剤に関する。
【背景技術】
【0002】
神経の生存及び分化は細胞の酸化還元条件により影響される。TRX はその活性部位配列; −Cys−Gly−Pro−Cys−内にレドックス活性なジスルフィド/ジチオールを有する小さい 12 kDaの多機能タンパク質であり、タンパク質ジスルフィド還元系としてNADPH及びチオレドキシンレダクターゼにも働く(Holmgren, 1985)。いくつかの報告は、TRX−依存性レドックス制御がAP−1、 NF−kB、p53、ASK1及びp38 MAP キナーゼにより介在されるシグナル伝達に密接に関与することを示した(Hirota et al., 1997; Saitoh et al., 1998; Hashimoto et al., 1999; Ueno et al., 1999). TRXは広く分布し、種々のストレスにより誘導される(Nakamura et al., 1997; Masutani, 1999). TRX発現はまた K562 赤白血病細胞の分化誘発剤であるへミン(Kim et al., 2001), 又は網膜色素上皮細胞のサイクリックAMPアナログ(Yamamoto et al., 1997)により上昇する。TRX 遺伝子の制御領域中には、いくつかのSP−1結合モチーフ、抗酸化剤応答エレメント(ARE) 及びサイクリックAMP応答配列(CRE)がある。神経組織において、TRXは虚血後の星状膠細胞(Tomimoto et al., 1993) 及び神経損傷後の運動ニューロン (Mansur et al., 1998) において誘導される。TRX は酸化ストレスに対して細胞保護作用(Nakamura etal., 1994) 及び神経保護活性(Hori et al., 1994)を有することが知られている。さらに、トランスジェニックマウスにおけるTRXの過剰発現は病巣の虚血脳障害を軽減する(Takagi et al., 1999). TRXはまた中枢コリン作動性ニューロンの神経栄養因子として報告され、神経栄養活性を有するが(Endoh et al., 1993), その効果の分子的基礎は解明されていない。
【0003】
神経成長因子(NGF)及び脳由来神経栄養因子のようなニューロトロフィンファミリーの他のメンバーはニューロンに対し生存及び分化の促進を含む絶大な効果を有する(Lo, 1992)。NGFは、アルツハイマー病のような加齢に伴う神経変性疾患において可能性のある治療剤として報告された(Connor and Dragunow, 1998)。これらのメカニズムの現在の理解は、褐色細胞腫細胞株PC12についてのNGF作用の研究に大きく依存している(Greene and Tischler, 1976)。NGFにさらされると、PC12細胞は交感神経ニューロン様細胞に分化する。シグナルは、NGFが細胞膜上のその高活性受容体であるTrkAに結合することにより開始され(Kaplan etal., 1991)、ras及びマイトージェン活性化蛋白質キナーゼ(MAPK)カスケード(Thomas et al., 1992)により導入される。PC12細胞のNGF処理はNGF作用に重要と考えられているc−fosのような遺伝子の活性化をもたらす(Milbrandt, 1986)。NGFは、血清応答エレメント(Treisman, 1986)及びCRE(Ginty et al., 1994; Ahn et al., 1998)を含むいくつかのエレメントによりc−fos遺伝子を活性化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、神経系ないし神経細胞の再生を促進する技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、TRXが神経系ないし神経細胞の再生を促進し、視神経・網膜の再生による眼科領域での疾患の治療や、大脳皮質などの神経系ないし神経細胞の再生を促進し、神経細胞死に起因する各種疾患の治療に有用であることを見出した。
【0006】
本発明は、以下の機能回復剤に関する
項1. Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤。
項2. 前記ポリペプチド類がヒトチオレドキシンである請求項1に記載の網膜神経細胞の機能回復剤。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1A】NGF誘発TRX発現。図1Aは、NGFにより生じるTRXタンパク質の増加を示す。NGF (50 ng/ml) で24時間及び48時間処理されたPC12細胞を収穫し、ウェスタンブロッティングにかけて検出した。
【図1B】NGF誘発TRX発現。図1Bは、NGFにより誘発されたTRX mRNAの増大した発現を示す。NGF処理されたPC12細胞は、示された各時間で収穫され、次いでノーザンブロッティングにより分析した。
【図1C】NGF誘発TRX発現。図1Cは、NGFによるTRX遺伝子の活性化である。PC12細胞はpTRX−Luc ベクターpTRX (−1148)とpRL−TKでトランスフェクトされ、次いでNGFの存在下又は非存在下に処理された。
【図2】TRXプロモータ中でNGFに応答する領域の同定PC12細胞は、左パネルに示されるようにpTRX−LucベクターとpRL−TKでトランスフェクトされ、示された値は未処理細胞に対するNGF(50 ng/ml)−処理細胞のルシフェラーゼ活性の比を示す。この結果は、3つの独立した実験の代表例である。
【図3A】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Aは、PD98059またはNACによるPC12の分化の遮断を示す。PC12細胞はNGF (50 ng/ml)の存在下又は非存在下で2日間培養し、次いでPD98059 (50 mM)またはNAC (20 mM)の存在下にNGF (50 ng/ml)と培養した。
【図3B】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Bは、PD98059またはNACの添加によるNGF−誘発トランス活性化の阻害である。PC12細胞はpTRX (−263)−LucベクターとpRL−TKでトランスフェクトされ、次いでNGF(50 ng/ml)及びPD98059(50 mM)またはNAC (20 mM)で処理された。示された値は、NGF 50 (ng/ml)及びPD98059またはNACで処理された細胞の未処理細胞に対するルシフェラーゼ活性の比である。該結果は、3つの独立した実験の代表例である。
【図3C】PD98059またはNACによるTRX発現の抑制。図3Cは、PD98059またはNACによるTRXタンパク質発現の抑制を示す。 PC12細胞は図3Aと同様に処理され、タンパク質サンプルは分画され、抗−TRX抗体でスクリーニングされた。
【図4】NGF−誘発TRX核移動の抑制図4(A)は、NGFなしで培養したPC12細胞を示し、図4(B)はNGFで処理したPC12細胞を示し、図4(C)及び図4(D)は、NGF及びPD98059(図4C)またはNAC (図4D)で処理されたPC12細胞を示す。これらの細胞は、抗−TRX mAbで染色された。
【図5】ミュータントTRX過剰発現によるNGF誘発分化の阻害。PC12細胞はpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRXまたはpBI−EGFP−dmTRX (32S/35S)ベクターでトランスフェクトされ、次いでNGF 50 (ng/ml)で処理された。24時間後、これらの細胞をレーザー共焦点顕微鏡で調べた。
【図6A】優性ネガティブミュータント型のTRXによるCRE−介在c−fos誘発の抑制。図6Aは、NGFがCREを通してc−fosを誘導することを示す。PC12細胞は、pRL−TK とともに上部パネルで示されたようにpGL3−c−fos (−40, +42)またはpGL3−c−fos (−99, +42)でトランスフェクトされ、次いでNGFで4時間処理された。示された値は未処理細胞に対するNGF処理細胞のルシフェラーゼ活性の比である。
【図6B】優性ネガティブミュータント型のTRXによるCRE−介在c−fos誘発の抑制。図6Bは、NGFによるc−fosの活性化のミュータント型TRXによる抑制を示す。PC12細胞は、上部パネルに示されるように、pRL−TKとともに、pGL3−c−fos (−99, +42)及びpcDNA3 (1g)またはpcDNA3−TRX (32S/35S) (1g)ベクターで共トランスフェクトされた。トランスフェクトされたPC12細胞はNGFで4時間処理された。示された値は、未処理細胞に対するNGF処理細胞のルシフェラーゼ活性の比である。
【図7】光照射された網膜のH−E及びTUNEL染色。網膜標本における代表的なH−E及びTUNEL染色が示される。光受容体細胞核の有意な減少が24時間後及びその後に観察された。TUNEL−陽性細胞は12時間後及びその後に観察された(矢印)。INLは核内層であり、ONLは核外層である。
【図8】網膜サンプルのTRX発現についての免疫組織化学及びウェスタンブロット。TRXについての代表的免疫組織化学が(A)に示される。TRXの核標識は光照射直後に核内層 (INL) で観察されるが(短い矢) ,24時間後或いはその後に消失した。核外層(ONL)の核標識は、光照射直後に観察され(長い矢)96時間後まで維持された。免疫標識は光照射直後(0時間)では毛様体近傍の周辺網膜(peripheral retina) では顕著ではない。TRX標識は24時間後或いはその後にRPEで観察されるが(矢印)、網膜周辺では顕著ではない(白い矢印、12時間後及び24時間後)。網膜神経及びRPEフラクションにおけるTRXについての代表的なウェスタンブロット(B), 及びバンド強度の半定量的分析(C)が示される。光照射の12時間後及び24時間後のバンド強度は光照射されていないマウスのそれと比較した誘導倍率により表される。
【図9】ビヒクル, rTRX (5 μg)またはミュータント rTRX (5 μg)で硝子体内前処理された目からの網膜サンプルの酸化された(A)及びチロシン−リン酸化された(B)タンパク質の検出. (A)網膜神経においてる酸化されたタンパク質についての代表的ウェスタンブロットが示される。光照射前(第1レーン)及びビヒクル, rTRX及びミュータントrTRX処理された目(各々第2レーン、第3レーン及び第4レーン)である。(B) 網膜神経においてチロシンリン酸化タンパク質についての代表的なウェスタンブロットが示される。光照射前(第1レーン)及びビヒクル, rTRX及びミュータントrTRX処理された目(各々第2レーン、第3レーン及び第4レーン)である。強い強度の2つのバンド及び弱い強度の3つのバンド(矢印)が光照射前に検出された。光照射直後、強い強度を有する2つのバンドの1つ(上部矢印)が増強され、弱い強度を有する1つの追加的バンド(下部矢印)がビヒクル又はミュータントrTRX−処理マウスで検出された。
【図10】組換えTRXの細胞保護効果。ビヒクル、rTRX (5 μg)またはミュータント rTRX (5 μg)で硝子体内前処理された目からの網膜サンプルの代表的H−E染色(A)及び光受容体核の数(B)が示される。光照射の96時間後 rTRX 処理された目の光受容体核の数(平均±SE, 101.3±5.1 細胞/ 100μm; n=6)はビヒクル− (63.3 ± 2.7 細胞/100μm; n=6)及びミュータント rTRX−処理された(51.4 ± 3.3 細胞/100μm; n=4) 目におけるよりも有意に大きい。P値はワン−ウェイANOVA 及びその後のBonferroni /Dunn post hocテストにより計算した。網膜サンプルにおける代表的なDNAラダー検出が(C)に示される。DNAラダー形成の分析は、ビヒクル、rTRXまたはミュータント rTRX処理された目での光曝露96時間後で検出した。ONLは核外層であり; n.s.,は統計的に有意差はないことである。
【図11】MPP+は、PC12細胞中でのTRXを減少する。35mmディッシュで終夜プレ培養されたPC12細胞(2×105/ml)は、0,0.3及び1mM MPP+を含む培地中で3時間培養し、次いで細胞ライゼートを集めた。TRXはウェスタンブロッティングにより12kDaのバンドとして認識される。
【図12】MPP+は、PC12細胞の生存度を減少する。PC12細胞(2×104/ml)は、0,0.3及び1mM MPP+とともに24時間培養された。細胞溶解パーセントはLDH放出アッセイにより測定した。
【図13】TRX過剰発現及び組換えTRXの投与はMPP+誘発損傷を抑制する。TRX過剰発現の24時間後、1mM MPP+を培地中に加え24時間インキュベートした。細胞溶解パーセントはLDH放出アッセイにより測定した。TRX過剰発現PC12細胞はLDH放出アッセイにより測定されるようにMPP+誘発損傷に抵抗性であった(図13A)。さらに、100μg/mlのrTRXの投与はまた、PC12細胞がMPP+と24時間インキュベートされたとき0.3及び1mM MPP+誘発損傷を抑制した。2つのアスタリスク(*)は統計的に有意であることを示す(**P<0.001)
【図14】代表的免疫組織化学(A);及び、野生型及びtrx−tgマウスの眼の網膜サンプルにおけるヒトTRX発現についてのウェスタンブロット(B)。GLCはガングリオン細胞層;INLは内顆粒層;ONLは外顆粒層;及びRPEは網膜色素上皮層であり、スケールバーは100μmである。
【図15】野生型及びtrx−tgマウスの網膜神経における酸化された(A)及びチロシンリン酸化された(B)タンパク質の代表的ウェスタンブロット。野生型及びtrx−tgマウスの光曝露前(−2h)(各々レーン1及び3)、並びに野生型及びtrx−tgマウスの光曝露直後(0h)(各々レーン2及び4)。
【図16】視細胞顆粒層中の8OhdGの定量的免疫組織化学分析。(A)野生型マウス(左パネル)及びtrx−tgマウス(右パネル)の光曝露24時間後の標本における8OhdGの代表的免疫組織化学分析を示す。ONLは外顆粒層;スケールバーは20μmである。(B)8OhdG指数が要約される。各カラムは平均±SEとして表される(各群でn=5)。P値はMann−Whitney U−testにより計算した。
【図17】ERG。平均a−及びb−波振幅が要約される。各カラムは平均±SEとして表される(各群でn=5)。P値はMann−Whitney U−testにより計算した。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本明細書においては、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類には、チオレドキシン活性を有するものであれば、オリゴペプチドからポリペプチド(タンパク質)まで広く含まれる。
【0009】
チオレドキシン活性を有するファミリーは、活性中心に配列−Cys−X−Y−Cys−(X及びYは同一又は異なって20種類の天然アミノ酸のいずれかを示す。)を有しており、チオレドキシンスーパーファミリー(以下、「TRXファミリー」という)と呼ばれている。
【0010】
TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−、−Cys−Pro−Tyr−Cys−、−Cys−Pro−His−Cys−、−Cys−Pro−Pro−Cys−を有するポリペプチド類を例示することができ、これらの中でも、活性中心に配列−Cys−Gly−Pro−Cys−を有するポリペプチド類が好ましい。
【0011】
また、TRXファミリーに属するポリペプチドには、具体的には、ヒトを含む動物のチオレドキシン(ヒトを含む動物のADF)、大腸菌などの細菌のチオレドキシン、酵母のチオレドキシン等のチオレドキシン;ヒトADF活性を有するポリペプチド(ヒトADFP);ヒト,大腸菌等のグルタレドキシン等が含まれる。
【0012】
TRXファミリーに属するポリペプチドとしては、チオレドキシンが好ましく、特にヒトチオレドキシン及び酵母チオレドキシンが好ましい。酵母チオレドキシンは、酵母から単離したものでもよいが、チオレドキシンを多く含む酵母の形態で使用することもできる。
【0013】
これらTRXファミリーに属するポリペプチド類は、本発明に係る網膜神経細胞の機能回復剤に、単独で、又は2種以上組み合わせて含有させることができる。
【0014】
TRXファミリーに属するポリペプチドは、細菌(大腸菌)、酵母、植物及び動物、特にヒトを含む哺乳動物(ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、サル、モルモット、ラット、マウス、ウサギなど)由来のいずれであってもよい。また、TRXファミリーに属するポリペプチドは、天然物を精製する方法、遺伝子組換え法により、酵母,大腸菌等から得られるものであってもよく、TRX活性を有する限り、その1又は複数のアミノ酸を置換、付加、欠失等した誘導体であってもよい。
【0015】
チオレドキシンを含む該ポリペプチド類は、酸化型であっても還元型であってもよいが、好ましくは還元型である。
【0016】
再生される神経としては、大脳(皮質、髄質)、小脳、脳幹、視神経、内耳神経、運動神経、知覚神経、脊髄、交感神経、副交感神経などが挙げられ、これらの神経に分化し得る各種幹細胞にTRXファミリーに属するポリペプチドを作用させることで、神経を再生し、神経の変性ないし神経細胞死に起因する各種神経系疾患を治療することができる。
【0017】
神経に分化し得る各種幹細胞としては、神経幹細胞、網膜幹細胞、間葉系幹細胞、胚性幹細胞などが例示できる。
【0018】
本発明者らは、神経幹細胞にTRXが多く発現していることを見出しており、下記の実施例からも、TRXが幹細胞の増殖及び神経細胞への分化を促進することは明らかである。
【0019】
神経の再生により治療可能な疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、失明疾患などが例示される。
【0020】
本発明に係る網膜神経細胞の機能回復剤は、例えば神経を再生可能な各種幹細胞に適用することにより、これら幹細胞の神経細胞への分化、結果として神経の再生を促進することができる。
【0021】
神経系幹細胞の増殖及び神経細胞への分化を促進するためのTRXファミリーに属するポリペプチドの有効量としては、成人1日あたり50〜500 mg程度であり、これを1日あたり1〜3回に分けて投与することができる。
【0022】
投与経路としては、経口(錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、シロップ剤など)及び非経口(注射剤、吸入剤、点鼻剤、坐剤など)のいずれでも投与することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明する。
実施例1
(1)細胞株及び培養
NGF, ポリエチレンイミン(PEI), PD98059及びNACはSigmaから購入した。ラット褐色細胞腫腫瘍細胞株PC12は、5% CO2 を含む湿気のある雰囲気中37℃で、10%熱不活性化ウマ血清及び5%熱不活性化胎仔ウシ血清(FCS)を有し、抗生物質(100 IU/mlのペニシリン及び100 mg/ml のストレプトマイシンを補足したRPMI 1640 (Life Technologies, Grand Island, NY)中で維持した。
・プラスミド:pTrxCAT プラスミドは公知の方法に従い構築した(Taniguchi et al., 1996)。the pTrxCAT ベクターからのHindIII−BamH I インサートは、pBluescriptII KS (+) (pTRXblue ベクターにサブクローニングした。pTRX(−1148)−Luc、pTRX (−1062)−Luc、pTRX (−352)−Luc及びpTRX (−263)−Luc ベクターはpTRXblueベクターのKpnI/BamHI フラグメントをpGL3 ベイシックベクター(Promega, WI)のKpnI/BglII部位にライゲートすることにより構築した。pTRX(−263)−LucベクターのApaI /PvuIIインサートは、切り出され、埋められ、自己ライゲートされてpTRX (−217)−Lucベクターを得た。pGL3−c−fos (−40, +42) 及びpGL3−c−fos (−99, +42) lucベクターは、Fos−40 lucのMluI/HindIIIフラグメント(Masutani etal., 1997)及びthe pFDE−lucベクターをpGL3 ベイシックベクター(Promega)のMluI/HindIII部位にサブクローニングすることにより構築した。pFDE−lucは、FDE−CAT (Trouche et al., 1993) のBamHI/HindIIIフラグメントをpGL2ベイシックベクター(Promega)のBglII−HindIIIにサブクローニングすることにより構築した。pCDSR a(alpha) −TRX及び pCDSRa −TRX(C32S/C35S)ベクターは、既述の方法により構築した(Hirota et al., 1997)。The pcDNA3TRX (32S/35S)ベクターは、既述の方法により構築した(Nishiyama et al., 1999)。pCDSRa −TRX及びpCDSRa−TRXm (Tagaya et al., 1989; Hirota et al., 1997)からのBamHIインサートは、各々pBluescript II KS (pBS−wtTRX, pBS−dmTRX)のBamHI部位にサブクローニングした。pBI−EGFP−wtTRX及びpBI−EGFP−dmTRX(32S/35S)は、各々pBS−wtTRX及びpBS−dmTRX ベクターのEcoRV/XbaIフラグメントをpBI−EGFPベクター(Clontech)のPvuII/NheI部位にライゲートすることにより構築した。すべての構築物は、Thermo Sequenase II ダイ・ターミネーター・サイクルシークエンシングキット(dye terminator cycles equencing kit)(Amersham Pharmacia)を用いた直接ヌクレオチドシークエンシングによりコントロールした。pRL−TKベクターは、Promegaから購入した。pcDNA3はInvitrogenから購入した。
・ウェスタンブロット分析
細胞を集めて氷冷リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄し、次いで可溶化溶液(10 mM.Tris−HCI (pH 7.4), 150 mM NaCI, 1% NP−40, 1 mM EDTA, 0.1 mM PMSF, 8 mg/mlアプロチニン及び2mg/mlロイペプチン)で氷上30分間溶解させた。抽出物を遠心分離により清澄にした。細胞可溶化液を95℃で5分間維持し、次いで15% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動で分離した。分離したタンパク質をポリビニリデンジフルオライド膜(Millipore Co., Bedford,MA)に移した。該膜をT−PBS (0.05% Tween20を含むPBS)中10% (w/v)スキムミルクで終夜処理し、抗マウスTRX ウサギポリクローナル抗体(Takagi et al., 1998c)と1時間インキュベートし、次いでペルオキシダーゼ複合化抗ウサギIgG(Amershan Pharmacia Biotech)と1時間インキュベートした。エピトープをECLウェスタンブロット検出キット(Amershan Pharmacia Biotech)で可視化した。本発明者は、以前にこの抗マウス抗体がラットTRX と交差反応することを報告した(Takagi et al., 1998b)。
・ノーザンブロット分析
全RNAを製造元の仕様書に従いTRIzol試薬を用いて抽出した(Maruyama et al.,1997)。全RNA20mg を電気泳動にかけMaximum strength Nytran nylon (Schleicher and Schrul, Knee, NH )にTurbo−Blotterシステム(Schleicher andSchrul)を用いて移した。フィルターを、既述のように(Takagi et al., 1998b)ラットTRX mRNAと交差反応するマウスTRXプローブとハイブリダイズさせた。
・トランスフェクション及びルシフェラーゼアッセイ
PC12細胞をトランスフェクション前に35−mm ディッシュに70%コンフルエンスで播種した。血清を含まない培地中の細胞をBoussifら(Boussif et al., 1995)に記載されたようにPEI試薬を用いてトランスフェクトした。24時間後、トランスフェクトした細胞を50 ng/ml のNGF (Sigma)で処理した。 Renillaルシフェラーゼ活性により規格化したルシフェラーゼ遺伝子発現をアッセイキット(Promega, Madison, WI)を用い、ルミノメーターで24時間後に分析した。ルシフェラーゼの相対的フォールド活性化を計算した。同じ実験を3回行った。PC12細胞を、TRXの活性部位が不活性化された二方向性発現ベクターpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRX又はpBI−EGFP−dmTRXでトランスフェクトした(Ueno et al., 1999)。トランスフェクション後、NGFを培地に加えた。24時間後、細胞発現EGFPをレーザー共焦点顕微鏡により調べた。
・免疫蛍光細胞染色
PC12細胞をポリ−L−リシンでコートした培養スライド中70%コンフルエンスで染色する前に播種した。次いで、細胞を10% FCSを含むPBS中3.7%パラホルムアルデヒドで20分間室温で固定した。これを次にPBS中0.2% (W/V) TritonX−100を用いて10分間膜透過性化し、5% ウシ血清アルブミン及び10% FCSを含むPBSで20分間ブロッキングした。スライドを2mg/mlのマウスTRX抗体(富士レビオより提供)で60分間インキュベートし、次いでPBSで洗浄した。次いでスライドを1mg/mlのフルオレセインイソチオシアネート標識二次抗体と60分間インキュベートし、再度PBSで洗浄した。染色細胞をレーザー共焦点顕微鏡(Bio−Rad)で調べた。
・結果
PC12細胞中でのNGF誘発TRX発現
本発明者は、NGFのPC12細胞中でのTRX発現についての効果を調べた。該タンパク質発現は、NGFによりPC12細胞中で増加した(図1A)。TRX mRNAもまたNGF処理の2時間後に増加した(図1B)。NGF 処理による誘導メカニズムをさらに分析するために、本発明者は、TRX プロモータールシフェラーゼレポーターコンストラクト(TRX−Luc)でPC12細胞をトランスフェクトした。NGF による処理は、TRXプロモーター活性を有意に増強した(図1C)。
TRXプロモーター中のNGF−応答領域の同定
NGFによるTRX遺伝子の活性化のメカニズムを理解するために、TRXプロモーター領域の各種欠失ミュータントを含むルシフェラーゼ・レポーター・コンストラクトを使用した。翻訳開始部位に対し−263位〜−217位の遺伝子領域はNGF応答に必要であった。この領域はコンセンサスCREに似ている配列を含み、活性化におけるCREの関与を示す(図2)。TRX発現はPD98059又はNACにより抑制された。
【0024】
ERK阻害剤であるPD98059及びNAC (Kamata et al., 1996)は NGFによるERK−CRE介在活性化を抑制することが知られている。NGFで2日間処理すると神経突起伸長の出現を伴うPC12細胞のニューロン分化を誘発した。既報告のように、PD98059 (50mM)又はNAC (20 mM)は、PC12 cellsにおける NGF−誘発形態変化を抑制した(図3A)。次いで、本発明者はPD98059またはNACのNGF−介在TRX遺伝子活性化についての効果を試験した。PD98059 またはNACは、TRX遺伝子のNGF−誘発活性化をブロックした(図3B)。PD98059又はNACはまた、TRXタンパク質発現の減少を生じた(図3C)。
TRX のNGF−誘発核輸送は、PD98059またはNACによりブロックされる。
【0025】
ERKは、NGF処理中に細胞質から核に輸送される(Chen et al.,1992). TRXはまた、H2O2又はUV照射にさらされたときにも細胞質から核に輸送される(Hirota etal., 1997)。NGF−誘発シグナリングにおけるTRXの関与を分析するために、本発明者はNGF処理の際のTRXの細胞下局在を研究した。NGFで16時間処理した後、TRXは核に移動した。該移動はPD98059又はNACによりブロックされた(図4)。優性型TRXの過剰発現は、PC12のNGF−誘発分化をブロックした。
【0026】
本発明者は、次いでTRXがPC12細胞のNGF−依存性分化に要求されるのかを調べた。本発明者は、PC12細胞をpBI−EGFP, pBI−EGFP−wtTRX又はpBI−EGFP−dmTRX (32S/35S)を用いて一時的にトランスフェクトし、そこでは、TRXのレドックス活性部位は不活性化された。ミュータントTRXは転写因子のTRX依存性活性化を阻害した(Ueno et al., 1999)。トランスフェクション後、NGFが培地に添加された。NGF処理の24時間後、細胞をレーザー共焦点顕微鏡で調べた。ミュータントTRXベクターでトランスフェクトされた細胞は分化の抑制を示し、一方野生型TRXベクターまたはコントロールベクターでトランスフェクトされた細胞はNGF−誘発分化を示した(図5)。
【0027】
優性なネガティブミュータント型TRXの過剰発現は、NGFによるCRE介在c−fos 誘発をブロックした。TRXは、DNA結合(Hirota et al., 1997) (Ueno et al., 1999) 又はコ−アクチベータ相互作用(Ema et al., 1999)を促進することにより各種の転写因子を制御することが報告された。それゆえ、本発明者はTRXがCREを介したNGF−介在活性化の調節に関与するかについて分析した。4時間の処理後、NGFはpGL3−c−fos (−99, +42)中でルシフェラーゼ活性の40倍の増大を生じさせたが、pGL3−c−fos (−40, +42)は増大しなかった(図6A)。レポーター遺伝子であるpGL3−c−fos (−99,+42)のNGFに対する応答は,TRXの優性なネガティブミュータントのトランスフェクションにより著しく抑制された。トランス活性化はミュータントTRXにより75%抑制された(図6B)
・考察
本研究において、本発明者はNGFがPC12細胞において、タンパク質及びmRNAレベルでTRX発現を誘導することを見出した。本発明者は、ルシフェラーゼアッセイによりTRX遺伝子の−263〜−217 bp に位置するNGF応答領域を同定した。この領域は、CRE をコンセンサスする類似物を保有するCGTCA配列を含んでいた(Montminy et al., 1986)。さらに、本発明者はERK 阻害剤であるPD98059がNGF−誘発TRX発現を抑制することを示した。NGF−誘発CRE活性化は細胞外シグナリング調節蛋白質キナーゼ(ERK) (Impey et al., 1998)により介在される。これらの結果は、TRX遺伝子がERK及びCREカスケードを通してNGFにより誘導されることを示す。さらなる研究が、NGFによるTRX遺伝子誘発メカニズムの分析について進行中である。
【0028】
本発明者はまた、NGFがPMA (Hirota et al., 1997), UV (Ueno et al., 1999)及びへミン(Kim et al., 2001)と同様にTRXの核移動を誘発することを実証した。本発明者は、ERK阻害剤であるPD98059がNGFのこの効果をブロックすることを示し、この結果はERKがTRXのNGF−誘発核移動の調節に関与することを示唆する。該核移動のメカニズム及び生理学的重要性はさらに詳細に研究されるべきである。TRXのNGF−誘発発現及び核移動はPC12細胞のNGF−誘発分化に関連するようであり、なぜならPD98059及びNACは各々NGF−誘発分化及びTRX発現だけでなく核移動を抑制するからである(図3及び4)。より重要なことには、優勢なネガティブミュータントTRXの過剰発現は、分化をほぼ完全に阻害した(図5)。これらの結果は、TRXがNGFにより誘発されるPC12の分化に必要であることを示す。
【0029】
c−fosのような遺伝子はNGFの作用に要求されると考えられた。c−fos遺伝子の上流制御領域において、CREは神経分化を誘発する各種の細胞外刺激に応答するc−fos転写の調節に決定的に重要である(Ahn et al., 1998) (Sheng et al., 1988)。本発明者は、TRXの優勢なネガティブミュータント型の過剰発現がCREを含むpGL3−c−fos (−99, +42)レポーター遺伝子のNGF−誘発活性化ブロックするが、pGL3−c−fos (−40, +42)はブロックしないことを示した。これらの結果は、TRXがc−fos発現をもたらすCREを介したNGFシグナリングに必要であることを実証する。TRXはJun/Fos (AP−1)を含むDNA−結合タンパク質の活性を調節し、核内還元分子であるレドックスファクター1(Ref−1) と相互作用する(Hirota et al., 1997)。AP−1及びRef−1は分化に関与することが報告された(Sheng and Greenberg, 1990) (Chiarini et al., 2000)。最近、本発明者は、TRX及びRef−1が転写因子とコアクチベータ間の相互作用を調節すること(Ema et al., 1999)、及びCREBの活性化がTRXにより調節されることを報告した(Hirota et al., 2000)。従って、TRXはCREBのDNA又はコアクチベータとの相互作用を増大させ、NGFシグナリングを促進するかもしれない。さらなる研究は、NGFシグナリング経路におけるTRXの関連メカニズムに必要である。
【0030】
NGFは、軸索再生を促進することが示された(Hollowell et al., 1990)。Endohらはコリン作動性ニューロンについてのTRXの神経栄養活性を報告した (Endoh et al., 1993)。本結果は、この知見を確認及び発展させ、TRXがニューロンの分化及び再生についてのNGFの効果を増強する神経栄養性コファクターであることを示唆する
NGFはまた、ニューロン生存因子としても働く。NGFは軸索切断した中隔ニューロンの死を予防することが示された(Pallage et al., 1986)。NGFがなくなるとPC12細胞のアポトーシスを生じ、これはp38 MAPK及びアポトーシスシグナリングキナーゼ1 (ASK1)により媒介される (Xia et al., 1995; Kummer et al., 1997;Kanamoto et al., 2000)。TRXはASK1及びp38 MAPKの内因性阻害剤として働くことが報告され(Saitoh et al., 1998; Hashimoto et al., 1999)、NGFの消失はまたPC 12 細胞におけるTRX発現のダウンレギュレーションを生じる(Bai, et al. unpublished observations)。これらの結果は、NGFによるTRXレベルの維持はニューロン死を予防する役割を果たすことを実証する。TRXの神経損傷に対する保護的役割が示された。TRXは虚血後の星状膠細胞で誘導される(Tomimoto et al.,1993)。トランスジェニックマウスにおけるTRXの過剰発現は、病巣の脳虚血障害(Takagi et al., 1999)及び興奮毒性海馬損傷(Takagi et al., 2000)を軽減する。アルツハイマー病患者の脳におけるTRXの減少した発現が報告されている(Lovell et al., 2000)。NGF投与は、アルツハイマー病患者のコリン作動性ニューロンを維持するために提案された(Serrano Sanchez et al., 2001)。これらの結果及び本発明の結果を総合すると、TRXの投与が神経変性疾患のような神経疾患におけるNGFの効果を増強し得ることを示す。神経変性疾患に対するTRXの治療的可能性を明らかにするためのさらなる研究が進行中である。
実施例2(網膜視細胞についてのデータ)
動物
4週齢の雄BALB/c mice (albino) を日本SLC (静岡,日本),から入手し、実験前の2〜5日間本発明者のコロニールームで飼育した。日本SLCと本発明者の実験室における光強度は300 luxであり、実験室のケージ内の光強度は20−40 luxであった。すべてのマウスを12時間 (8:00 A.M.から8:00 P.M.) の明/暗サイクルにおいて、日本SLC及び本発明者のコロニールームで維持した。
光照射
4週齢のマウスを実験前24時間暗所に置いた。瞳孔を1% 塩酸シクロペントレート点眼剤(参天製薬)で拡張した。麻酔していないマウスを8,000 luxの発散する冷白色蛍光(松下電器産業) に2時間反射インテリア(reflective interior)を備えたケージ中でさらした。すべての光照射は午前10時に開始した。光照射中の温度は25±1.5℃に維持した。照射中、両目が.同程度に照射を受けるように特別の配慮をした。
網膜組織切片の調製
ペントバルビタールによる腹腔内注射により深い麻酔を誘導後、マウスをリン酸緩衝生理食塩水(PBS) (pH, 7.4)を用いて左心室を灌流して 固定前に血液を洗い流した。次いで、PBS中0.25%グルタルアルデヒドを含む新たに調製した4%パラホルムアルデヒドで灌流した。次いで、目を取り除いた。すべての組織を既述のものと同じ固定剤で12時間4℃でパラフィン中に埋入して固定し、視神経円板を含む全網膜を有する1μmの矢状切片に切断した。7−0 絹縫合糸を目の側頭側のランドマークとしておいた。組織切片をスライドガラス上に集め、30分間キシレン及び分量を変えた一連のアルコールで処理し、切片のパラフィンを除去した。
形態計測
視神経円板を含む網膜パラフィン切片(1 μm)をヘマトキシリン−エオジン(H−E)で染色し、各切片の4つの位置のデジタル化カラー画像をPDMC le デジタル画像システム(オリンパス)を用いて得た。2つの画像を視神経円板上部100 〜800 μmの上部網膜から、及び2つを視神経円板下部100 〜800 μmの下部網膜から得た。各画像のヘマトキシリン陽性の光受容体細胞核の数をカウントし、ワン−ウェイ(one−way) ANOVA 、次いでBonfferoni/Dunn post hocテストにより比較した。
【0031】
TdT−介在dUTP ニック末端標識(TUNEL)
TUNELを、in situアポトーシス検出キット(宝酒造)を用い、1−μmパラフィン切片上で行った。3’,3’−ジアミノベンゼン(Dako, Carpinteria, CA)を発色剤として使用した。TUNEL−陽性核の数を上記のヘマトキシリン陽性細胞カウントについて使用されたのと同様な方法によりカウントした。
抗体
ウサギ 抗マウスTRX 抗体(ポリクローナル)を既報のように調製した19。
マウス及びヒトTRXの免疫組織化学
マウスTRXの免疫組織化学分析のために、本発明者はイムノペルオキシダーゼ法19を使用した。簡潔に述べると、内因性ペルオキシダーゼ活性を0.6% H2O2で不活性化した。一次抗体又はコントロール正常ウサギ血清を加え、4℃で終夜インキュベートした。ビオチン化ヤギ抗ウサギ免疫グロブリン(Biomeda, FosterCity, CA)を二次抗体として使用した。アビジン−ビオチン増幅(Biomeda)を行い、次いで基質である0.1% 3’,3’−diaminobenzidine (Dako)でインキュベートした。マウスTRXのウェスタンブロット
網膜サンプル調製法及びウェスタンブロット法は、既報のように行った15。簡潔に述べると、ペントバルビタールの腹腔内注射により深い麻酔に誘導後、氷冷したリン酸緩衝生理食塩水(PBS) (pH, 7.4)を用いてマウスの左心室を灌流して 固定前に血液を洗い流し、次いで目を除去した。角膜及びレンズを目から取り除き、網膜の内層(網膜神経(neural retina))を顕微鏡下にアイカップから分離した。氷冷PBSでの灌流後の目において、光受容体細胞層と網膜色素上皮細胞層の間の接着は弱くなり、それらは容易に分離された。網膜神経(neural retina)除去後のアイカップは、網膜色素上皮細胞フラクションとして分析した。従って、このフラクションは脈絡膜及び強膜を含んでいた。等量の網膜タンパク質(5 μg protein/lane)を12%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)−ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動し、次いで電気泳動的にポリビニリデンジフルオライド (PVDF)膜(Millipore, Bedford, MA)に移した。ブロッキング後、膜を最初の抗体とインキュベートし、次いでペルオキシダーゼ連結第二抗体とインキュベートした。化学ルミネセンスをECLウェスタンブロット検出キット(Amersham Pharmacia Biotech, Buckinghamshire, UK)で検出した。
組換えチオレドキシン(rTRX) の硝子体内注入
5μgのrTRXまたはミュータントrTRX (TRXC32S/C35S)20又は3 μlの0.9%NaClを光照射の2時間前に硝子体内注入した。rTRXを10−μl マイクロインジェクションシリンジを備えた30−G 微細使い捨て針(Hamilton, Reno, NV)を用いて右目の側頭縁から硝子体内注入した。
チロシンリン酸化タンパク質の検出
チロシンリン酸化タンパク質はECL チロシンリン酸化検出システム(RPN 2220/1, Amersham Pharmacia Biotech)を用いて検出した。製造業者の推奨に従い、網膜神経(neural retina)のタンパク質サンプルを調製し、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル(10 μg タンパク質/レーン)上で電気泳動し、次いで電気泳動的にPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をペルオキシダーゼ連結抗ホスホチロシン抗体(PY−20, Amersham Pharmacia Biotech) とインキュベートし、次いで化学ルミネセンスをECLウェスタンブロット検出キットで検出した。
酸化タンパク質の検出
酸化タンパク質は、酸化タンパク質検出キット(OxyBlot, Intergen, Purchase, NY)を用いて既報のように検出した17。OxyBlotはカルボニル基の感受性免疫検出試薬を提供する。製造業者のプロトコールに従い、網膜神経の2,4−ジニトロフェニル(DNP)−ヒドラゾン誘導体化タンパク質サンプルを調製し、12% SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(5 μg タンパク質/レーン)で分離し、次いでPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をタンパク質のDNP部分に特異的な一次抗体とインキュベートした。タンパク質バンドをマウスTRXに関するウェスタンブロットと同じ方法で検出した。
DNA ラダー
ヌクレオソーム間DNA切断をQuick Apoptotic DNA ladder Detection Kit (MBL, 名古屋,日本)を用いて検出した。製造業者のプロトコールに従い、網膜DNAを抽出し、1% アガロースゲルにロードして電気泳動した。ゲルをエチジウムブロミドで染色し、DNAバンドを紫外線トランスルミネーターで可視化した。
統計的分析
全ての統計的分析は、StatView ソフトウェア、 バージョン5.0 (SAS, Cary, NC).を用いるマッキントッシュのパーソナルコンピュータ上で行った。
結果
網膜における内因性TRXの発現
網膜損傷の重篤度を決定するために、網膜切片中のトータル及びTUNEL−陽性 光受容体核(図7)を光照射の前、直後、光照射後12, 24, 48及び96時間でカウントした。光照射されていないマウスの光受容体細胞数と比較して(平均± SD; 248.5 ± 11.4 細胞/ 100μm)、該数は光照射の24時間後(182.0 ± 10.7, P <0.05)及びその後(178.3 ± 18.3 細胞/ 100μm, P < 0.01 及び 50.0 ± 9.8 細胞/ 100μm, P < 0.01 、各々48時間及び96時間)に有意に減少した。TUNEL−陽性核は光照射の12時間後に観察され(平均±SD; 8.7 ± 2.2 %)、そして光照射の96時間後まで維持された (44.2 ± 6.9 %, 34.5 ± 2.4 %, 及び38.0 ± 11.7% 各々24, 48, 及び96 時間において)。.
TRXは様々な酸化ストレスに応答してアップレギュレーションされるので、本発明者は免疫組織化学(図8A)及びウェスタンブロット(図8B、C)による光酸化ストレスに網膜が応答する間のTRX発現を分析した。光照射の直後、TRXの核標識が網膜後極の核内層及び核外層において観察された; 標識は虹彩直後の網膜周辺においては有意ではない。核内層中のTRX標識は光照射の24時間後及びそれ以降に消失した。一方、核外層の標識は96時間まで維持された。光照射の24時間後、強力なTRX標識が後極の網膜色素上皮(RPE)で観察され、それは光照射後96時間まで維持された。標識は分析された時間経過を通じ、周辺網膜のRPEにおいて有意ではなかった。TRXのウェスタンブロットの結果は、TRXのアップレギュレーションが網膜神経及びRPEフラクションにおいて光照射の12時間後及び24時間後で示された(図8B及びC)。光照射の12時間後及び24時間後で、光照射前の網膜神経及びRPEフラクションの両方においてクマッシーブルー染色されたゲル中の顕著なバンドの変化はなかった(データは示さない)。
rTRX注射マウスの網膜サンプルにおける酸化及びチロシンリン酸化されたタンパク質の検出
本発明者は、rTRX, ビヒクル又はミュータントrTRX を硝子体内のキャビティに光照射前に注入したマウスの光照射後の酸化ストレスを評価するために、タンパク質の酸化及びチロシンリン酸化を分析した。
【0032】
ビヒクル又はミュータントrTRXマウスにおいて、網膜神経中の酸化されたタンパク質量は光照射直後に増大した(図9A)。ビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスと比較して、酸化されたタンパク質の量は、rTRX−処理マウスで減少した。光を照射しないマウス由来の網膜標本では、チロシンリン酸化された2本の強い強度のバンド及び3本の弱いバンドが検出された(図9B)。光照射の直後、強い強度の2つのバンドのうちの1つが増強され、弱い強度の追加の1つのバンドがビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスで検出された。ビヒクル又はミュータントrTRX処理マウスと比較して、これらのバンドの増強はrTRX−処理マウスでより顕著ではなかった。
光酸化ストレスに対するrTRXの細胞保護効果
本発明者は、次いで網膜損傷に対するrTRX投与の効果を調べた。rTRX, ビヒクルまたはミュータントrTRXのいずれかを硝子体内のキャビティに光照射前に注入し、生存する光受容体細胞核をこれらの目の間で比較(図10A,B)。光照射の96時間後、光受容体細胞核の数は. ビヒクル(P<0.001)またはミュータント rTRX−処理の目(P<0.001)よりもrTRX−処理の目で有意に高かった。ヌクレオソーム間のDNAラダーはrTRX−, ビヒクル−またはミュータントrTRX−処理の目由来の網膜サンプルで評価した。光照射の36時間後、DNAラダーはビヒクル−及びミュータントrTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは検出されたが、rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは検出されなかった(データは示さない)。
【0033】
光照射の96時間後、DNAラダーはビヒクル及びミュータント rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルで検出された。これに対し、rTRX−処理マウス由来の網膜神経サンプルでは減少した(図10C)。
考察
光照射は光受容体核の有意な損失の原因となる(図7)。TUNEL−陽性光受容体細胞核(図7)及びDNAラダー形成(図10C)は光照射後の網膜で観察されるので、本発明者の現在のデータはアポトーシスが光受容体細胞の細胞死の主要な経路であり、このことは以前の文献10と一致する。免疫組織化学法によると、TRXは網膜神経及びRPEの両方において、光照射後にアップレギュレートされ、虹彩のごく近傍の網膜周辺(peripheral retina)ではアップレギュレートされなかった(図8A)。ウェスタンブロッティングにおいて、TRXは網膜神経及びRPEフラクションの両方においてアップレギュレートされた(図8B及び8C)。これらを合わせると、本発明の結果はTRXが光誘導性の内因性分子であり、TRX が光による網膜神経の再生において重要な役割を果たしていることを示す。タンパク質酸化はフリーラジカル産生により生じ、srcファミリーキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びマイトージェン活性化蛋白質キナーゼを含むチロシンキナーゼが酸化ストレスにより活性化される12,22,23。本研究は、酸化及びチロシンリン酸化タンパク質の両方の光照射後の網膜神経における増強がrTRX−処理マウスで減少するが,ミュータント rTRX−処理マウスでは減少せず(図9A,B),このことはrTRXの硝子体内投与が網膜における光酸化ストレスによる網膜神経の損傷を減少し、その保存された活性部位におけるシステイン残基が光酸化ストレスの減少に重要な役割を担うことを示唆する。
【0034】
ビヒクル処理されたマウスと比較すると、光受容体細胞核及びDNAラダー形成の減少は、rTRX−処理マウスにおいて有意に除外され、一方、その効果はミュータントTRX−処理マウスで消失した(図10)。この結果は、TRXが網膜光障害において抗アポトーシス効果を有し、その保存活性部位におけるシステイン残基がこの細胞保護に重要な役割を担うことを示唆する。以前の研究は、外因性rTRXの虚血/再灌流障害の肺16、網膜18及び血管内皮障害24に対する細胞保護効果を示唆する。外因性rTRXが網膜光受容体のダメージを改善するメカニズムは知られていない細胞外空間及び細胞膜における光酸化により誘導される活性酸素種はTRX依存性ペルオキシダーゼ25又は一重項酸素又はヒドロキシラジカルに対するTRXの直接消去作用26により減少される可能性がある。他の可能性は外因性TRXが細胞膜に結合し、細胞内空間に取り込まれることである。
【0035】
以前に、アスコルビン酸27、ジメチルチオウレア28,29及びWR−779138の様な抗酸化剤に対する細胞保護効果が示された。本発明の結果は、網膜光障害に対する抗酸化剤の役割をさらに強調するものである。さらに、チオレドキシンはレドックスレギュレーター、転写因子の調節機能及びストレスシグナリングキナーゼとしての作用を発揮し得12,13、これらの作用メカニズムは網膜光ストレスに対するチオレドキシンの細胞保護効果に重要であるかもしれない。
【0036】
過剰な光はヒトの加齢に関係する黄斑変性及びおそらく網膜色素変性のいくつかの形態1,2の進行及び重篤度を増強し得る。眼科のプラクティスにおいて使用される顕微鏡の操作に由来する広いスペクトル光のハザードは光黄斑症の原因となり得る3,4。本発明は外因性TRX投与により網膜光障害保護の可能性を実証した。さらに本発明は、内因性TRXの誘導が網膜光障害に対する増大した耐性と関連することを示唆する。本発明者は、プロスタグランジンE130,31及びゲラニルゲラニルアセトン32が細胞又は組織において効果的に内因性TRXを誘導することを示した。これらのTRX誘導剤を用いたTRX増強は、ヒトの光酸化ストレス関連網膜疾患の保護のための有用な治療的戦略になり得る
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実施例3
PC12細胞を10%ウシ血清(HS)及び5%ウシ胎児血清(FCS)、100μg/mlストレプトマイシン及び100U/mlペニシリンを含むRPMI1640培地中でインキュベートした。細胞を5%CO2下の湿潤雰囲気で37℃でインキュベートした。0,0.3,1mM MPP+(1−メチル−4−フェニルピリジニウムイオン)とともに3時間インキュベーション後、PC12細胞を回収し、細胞ライゼートを調製した。TRX発現をPC12細胞中ウェスタンブロットにより検出した。簡潔に述べると、細胞ライゼートは95℃で5分間維持し、次に12%ドデシル硫酸アクリルアミドゲルにアプライし、電気泳動し(5μg/レーン)、次にトランスファーメンブラン(Millipore, Bedford, MA)に移した。0.5%Tween20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中5%スキムミルクでブロッキング後、該メンブランを1時間、ラットTRXと交叉反応する抗マウスTRX抗体(Y.Takagi et al. J.Cereb.Blood Flow Metab. 18(1998) pp.206−214)とインキュベートした。次いで、該メンブランをペルオキシダーゼ−複合化抗ウサギイムノグロブリン抗体とインキュベートした。結合したペルオキシダーゼを製造業者の仕様書に従い化学発光(ECLTM(RPN2106, Amersham Pharmacia Biotech)ウェスタンブロット検出キット)で促進した。各サンプルにおけるTRX量をコンピュータ化されたデンシトメータ、NIHイメージを用いて各バンドの密度を分析することにより評価した。MPP+処理条件下、TRX発現はPC12細胞で減少した(図11)。類似の実験を3回行った。
【0037】
次に、本発明者は、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出アッセイによりPC12細胞の生存度に関するMPP+の効果を詳細に検討した。損傷細胞から放出されたLDHは細胞培養物のアリコートで測定された。残存する細胞性LDHをPBS中0.2%Tween20で細胞を溶解することにより得た。細胞培養物又は細胞ライゼートの50μlサンプル中のLDHは、製造業者の方法に従いLDHアッセイキット(kyokuto, Tokyo)を用いて測定した。細胞溶解パーセントを(培地中のLDH/ウェル当たりの総LDH)のLDH比として測定した。ここで、総LDHは培地+細胞ライゼートのLDHを指す。MPP+とともに培養すると、細胞生存度は用量依存的に減少した(図12)。類似の実験を3回繰り返した。
【0038】
TRXの過剰発現がMPP+誘発損傷からのPC12細胞を保護するかどうかを測定するために、PC12細胞(1×107/ml)10%HS及び5%FCSを補足したRPMI1640培地で終夜培養した。細胞を組織ディッシュから機械的に脱着させ、血清を含まないRPMI1640培地で3回洗浄し、次いで細胞を10μgのpBI−EGFP−wtTRXと混合した。pBI−EGFP−wtTRXは、pBI−EGFPコントロールベクター(Clontech)にTRX cDNA断片(Y.Tagaya et al. EMBO J. 8 (1989), pp.757−764)を連結することにより構築した。その後、細胞を5分間氷上でインキュベートし、適当な単回電気パルスにさらした。一時的なTRX過剰発現及び組換えヒトTRXの投与は、PC12細胞がMPP+と24時間インキュベートしたときのMPP+誘発損傷を抑制した(図13A、B)。
【0039】
上記の結果は、TRXが神経細胞の保護効果を有し、それによりMPP+の損傷誘発作用を抑制したことを示す。
実施例4
チオレドキシントランスジェニック(trx−tg)マウスは、β−アクチンプロモーターの制御下にヒトTRXトランスジーンを保有し、脳を含む全身でヒトTRXを発現するC57BL/6マウス(野生型)である(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)。本発明者は、ヒトTRXがtrx−tgの網膜全体で発現されていることを確認した(図14A、B)。網膜サンプルの調製法、免疫組織化学、及びウェスタンブロッティングは、既述のように行った(TakagiY. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136; Ohira A. et al., Lab. Invest., 70 (1994) 279−285)。従って、本発明者は、trx−tgマウスが強い光で誘発される網膜損傷により抵抗性であるかについて評価した。本研究の全ての方法は、Use of Animals in Ophthalmic and Vision Researchに関するARVOステートメントに従った。
【0040】
第1に、本発明者は、抗マウスTRX抗体を用いたウェスタンブロッティングによりtrx−tg及び野生型マウスの網膜への光曝露の前後における内因性マウスTRXを分析した(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136; Ohira A. et al., Lab. Invest., 70 (1994) 279−285)。光曝露前、3−4週齢の雄マウスを暗所で48時間順応させ、その瞳孔を0.5%トロピカミド及び0.5%塩酸フェニレフリン点眼剤(参天製薬)を用いて拡張させた。麻酔していないマウスを、2時間反射型インテリアを備えたケージ中で8000 luxの拡散性の昼白色蛍光線(松下電器産業)に曝した(Wenzel A. et al., J. Neurosci., 20 (2000) 81−88)。照明中、眼が同レベルの光を受けるように注意した。光曝露前、trx−tgマウスの網膜における内因性マウスTRXの発現を野生型マウスのものと比較できた。光曝露の全24時間後、内因性マウスTRXの2倍のアップレギュレーションがtrx−tg及び野生型マウスの両方において観察され、そこでは両方のマウスにおいて顕著な相違はなかった(データは示さない)。trx−tgマウスの各組織におけるヒトTRXタンパク質の量は内因性マウスTRXタンパク質より3−6倍大きいことが報告されている(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)。さらに、β−アクチンプロモーターの活性は内因性マウスTRXプロモーターの活性と比較して十分高いと考えられる。結果として、網膜における全TRXタンパク質の量は、光曝露の前後において野生型マウスよりもtrx−tgマウスにおいて相当多いと考えられる。
【0041】
次に、本発明者は、trx−tg及び野生型マウスの光曝露後の酸化ストレスを評価するためにタンパク質の酸化及びチロシンリン酸化を分析した。酸化されたタンパク質は、既述のように(Takagi Y. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 96(1999) 4131−4136)酸化タンパク質検出キット(OxyBlot, Intergen, Purchase, NY)を用いて検出した。該キットはカルボニル基の敏感な免疫検出のための試薬を提供する。製造業者のプロトコールに従い、2,4−ジニトロフェニル(DNP)ヒドラゾン誘導体化網膜タンパク質サンプルを調製し、12%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ポリアクリルアミドゲル電気泳動(10μgタンパク質/レーン)で分離し、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)膜に移した。ブロッキング後、膜をタンパク質のDNP部分に特異的な1次抗体とインキュベートした。次いで、タンパク質バンドをヒトTRXと同じウェスタンブロッティング法により検出した。チロシンリン酸化タンパク質をECLチロシンリン酸化検出システム(RPN 2220/l, AmershamBiosciences)を用いて検出した。製造業者の推奨に従い、網膜タンパク質サンプルを調製し、12%SDSポリアクリルアミドゲル(10μgタンパク質/レーン)で電気泳動し、次に電気泳動的にPVDF膜に移した。ブロッキング後、膜をペルオキシダーゼ連結抗ホスホチロシン抗体(PY−20, Amersham Biosciences)とインキュベートし、化学発光をECLウェスタンブロット検出キットで検出した。野生型マウスにおいて、網膜神経における酸化蛋白量は光曝露前と比較して光曝露直後に増大した(図15A、レーン2)。野生型マウスと比較して、酸化蛋白量はtrx−tgマウスで減少した(図15A、レーン4)。野生型マウスの網膜標本において、チロシンリン酸化タンパク質の3つの強いバンド(矢印)が光曝露前に検出された(図15B、レーン1)。光曝露直後、これらのバンドは増強され、少なくとも2つの追加のバンド(矢頭)が検出された(図15B、レーン2)。野生型マウスと比較して、これらのバンドの増大はtrx−tgマウスではあまり顕著ではなかった(図15B、レーン4)。タンパク質酸化はフリーラジカル産生の結果であり(Oliver C.N. et al., Proc.Natl.Acad.Sci. USA, 87(1990) 5144−5147)、srcファミリーキナーゼ、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ及びマイトジェン活性化蛋白質キナーゼを含むチロシンキナーゼが酸化ストレスにより活性化される(Nakamura K. et al., Mol. Immunol., 33(1996) 855−865; Saitoh,M. et al., EMBO J., 17(1998) 2596−2606)。従って、この結果は、TRXの過剰発現が網膜における光酸化ストレスを減少させることを示す。
【0042】
強力な光は視細胞のDNA損傷を引き起こす(Organisciak D.T. et al., Photochem Photobiol., 70 (1999) 261−268)。光誘発DNA損傷に対する過剰発現されたTRXの細胞保護効果を評価するために、本発明者は、8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシンについての定量的免疫組織化学(8OhdG指数)を用いた。パラフィン処理網膜サンプルの調製法、アルカリホスファターゼ法を用いた8OhdGのための免疫組織化学及び8OhdG免疫染色の定量法は、既知である(Ohira A., et al., Lab. Invest., 70(1994) 279−285; Toyokuni S. et al., Lab. Invest., 76(1997) 365−374)。抗8OhdGモノクローナル抗体をNOF Corporationから購入した。8OhdG指数を計算するために、各マウスの2つの位置(上部及び下部網膜、視神経円板から約100μm)でのデジタル化されたカラー画像をデジタルイメージングシステム(PDMC le, オリンパス)を用いてPICTファイルとして得、マッキントッシュパーソナルコンピュータ上のNational Institutes of Health image version 1.61ソフトウェアを用いて分析した。光曝露前マウス系統間での視細胞の核(外顆粒層)における8OhdG指数の有意な差異はなかった(図16B、−2h)。光曝露の12時間後及び24時間後、8OhdG指数はtrx−tgマウスよりも野生型マウスで有意に高かった(各々、P<0.01及びP<0.01)(図16B、12h及び24h)。野生型マウスにおいて、強い染色が光曝露24時間後で維持された(図16A、左パネル)。一方、trx−tgマウスの外顆粒層の染色は光曝露24時間後に減少した(図16A、右パネル)。主要なDNA塩基改変産物である8OhdGはヒドロキシラジカル、一重項酸素、または光動力作用のいずれかにより誘導され、酸化的ストレス誘発DNA損傷の確立したマーカーである(Toyokuni S. et al., Lab. Invest., 76(1997) 365−374)。従って、この結果は、過剰発現したTRXが光酸化ストレスにより生じる視細胞のDNA損傷を防止することを示す。
【0043】
網膜電図記録法(ERG)は、視細胞により生じる作用電位(a−波)及びMullerグリア細胞と相互作用する内顆粒層の二次ニューロンにより生じる作用電位(b−波)の記録である。従って、a−およびb−波の振幅はこれらの最初の2つの網膜ニューロンの機能的状態を反映する。網膜機能に関する過剰発現したTRXでの効果をテストするために、本発明者は、両方のマウス系統間でa−波及びb−波を比較した。フラッシュERGはPE−3000(Tomey, Nagoya)を用いて記録した。金のコンタクトレンズ電極(直径3mm、1.5−mmベースカーブ、京都コンタクトレンズ)を左目上に置き、同一の参照電極を口内に、外側電極を左脚パッド上に置いた。光曝露前、a−波およびb−波の振幅はこれらの系統間で異ならなかった(図17,−2h)。光曝露後、a−波およびb−波の振幅は、6時間(各々、P<0.01及びP<0.05)及び12時間(各々、P<0.01及びP<0.05)で、野生型マウスと比較してtrx−tgマウスで有意に高かった(図17,6h及び12h)。従って、この結果は、過剰発現したTRXが光損傷を受けた網膜神経を再生することを示す。
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【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤。
【請求項2】
前記ポリペプチド類がヒトチオレドキシンである請求項1に記載の網膜神経細胞の機能回復剤。
【請求項1】
Cys−Gly−Pro−Cys、Cys−Pro−Tyr−Cys、Cys−Pro−His−Cys又はCys−Pro−Pro−Cys配列を有し、チオレドキシン活性を有するファミリーに属するポリペプチド類から選ばれる1種又は2種以上を有効成分とする、網膜神経細胞の機能回復剤。
【請求項2】
前記ポリペプチド類がヒトチオレドキシンである請求項1に記載の網膜神経細胞の機能回復剤。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6A】
【図6B】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
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【図6B】
【図7】
【図8】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2012−25776(P2012−25776A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229233(P2011−229233)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2002−169204(P2002−169204)の分割
【原出願日】平成14年6月10日(2002.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(502208076)レドックス・バイオサイエンス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【分割の表示】特願2002−169204(P2002−169204)の分割
【原出願日】平成14年6月10日(2002.6.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り
【出願人】(502208076)レドックス・バイオサイエンス株式会社 (15)
【Fターム(参考)】
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