説明

緊張材用定着装置及び緊張材の定着方法

【課題】構築済みの構造体中に緊張材を定着させる上で、構造体の外部に緊張材を回転させられるだけの空間が確保されない場合や、緊張材が十分な捩じり剛性を持たない場合にも緊張材の定着を可能にする。
【解決手段】構造体8中に定着されるべき緊張材9を構造体8の構築後に定着するための定着装置において、構造体8中に回転可能な状態で埋設される定着部材2と、緊張材9が挿通可能な内径を有し、定着部材2に一端において接続され、他端において構造体8の表面に露出し、定着部材2と共に回転可能な状態で構造体8中に配置される管材3とから定着装置1を構成し、管材3を回転させることにより定着部材2を回転させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は主として構築済みの構造体中に緊張材を定着させるために使用される緊張材用定着装置、及び緊張材の定着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば構築済みの構造体中に緊張材を定着させる場合、構造体中に予め埋設されたナット等の定着部材に対し、構造体にその表面から定着部材まで形成されている挿通孔を通じて緊張材を挿入し、緊張材を定着部材に接続することが行われる(特許文献1参照)。
【0003】
この場合、緊張材の定着部材への接続は構造体の外側において行われることから、図5に示すように緊張材を回転させることによりその先端に形成されているねじ部を雌ねじの切られた定着部材に螺合させることになる(特許文献1、2参照)。図5は特許文献2の図5を示している。
【0004】
【特許文献1】特開平7−048929号公報(請求項1、段落0012、図1、図2)
【特許文献2】特開2003−313816号公報(請求項1、段落0028〜0031、図5)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、緊張材を回転させてその先端を定着部材に螺合させることは、緊張材の長さが挿通孔の長さより幾らか長い程度の大きさに留まる場合のように構造体の外部に、緊張材を回転させられるだけの空間が確保される場合に限られる。また緊張材自体が構造体外部での回転操作により緊張材の先端まで回転力を伝達できる捩じり剛性を有することも条件になる。
【0006】
従ってこれらの条件が揃わない場合には構造体の外部において緊張材を回転させ、構造体の内部に定着されるべき定着部材に定着させることができない。
【0007】
定着部材と共に、定着部材に螺合するスリーブ(圧着グリップ)を予めシース内に配置しておくことで、後から挿入される緊張材に回転を与えずに緊張材を定着部材に接続することは可能であると考えられるが、グラウトの充填により緊張材をスリーブに接合するための作業が伴うため、現場作業が複雑化し、コスト高にもなる。
【0008】
本発明は上記背景より、構造体の外部に緊張材を回転させられるだけの空間が確保されない場合や、緊張材が十分な捩じり剛性を持たない場合にも緊張材の定着を可能にする緊張材用定着装置及び緊張材の定着方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の緊張材用定着装置は、構造体中に定着されるべき緊張材を構造体の構築後に定着するための定着装置において、前記構造体中に回転可能な状態で埋設される定着部材と、前記緊張材が挿通可能な内径を有し、前記定着部材に一端において接続され、他端において前記構造体の表面に露出し、前記定着部材と共に回転可能な状態で前記構造体中に配置される管材とを備え、前記管材の回転に伴って前記定着部材が回転可能であることを構成要件とする。定着部材と管材は構造体中において緊張材の軸の回りに回転可能に埋設される。
【0010】
構造体の表面に露出し、緊張材が挿通可能な管材が構造体中の定着部材と共に回転可能であることで、直接緊張材を回転させなくても、管材を回転させることで緊張材の先端に定着部材を螺合させることが可能になる。このため、緊張材の長さ上の制限がなくなり、構造体の外部に緊張材を回転させられるだけの空間がない場合や、緊張材が捩じり剛性を持たない場合にも緊張材を定着部材に螺合させることが可能になる。
【0011】
緊張材の長さ上の制限がなくなることで、緊張材の架設区間が数m〜数10mに亘る場合にも、構造体の外部における管材の回転作業により緊張材の一端を定着させることが可能になり、橋梁等の土木構造物、建物等の建築構造物における新設での架設の他、既設構造物に対する耐震補強にも適用可能になる。
【0012】
定着部材は具体的には請求項2に記載のように構造体中に埋設されて定着される支圧部材と、この支圧部材に固定されるカバー材とに包囲されて構造体から絶縁された状態に置かれることにより、構造体中に回転可能な状態で埋設される。
【0013】
構造体の表面から定着部材までの間の挿通孔は請求項3に記載のように支圧部材に、管材を包囲するシースが接続されていることで確保される。シースは管材を全長に亘って包囲し、構造体を構成するコンクリートやモルタル等の充填材を打設、または充填するときの型枠となり、充填材がシースの内部に回り込むことを阻止する。
【0014】
緊張材の定着は請求項4に記載のように構造体中に回転可能な状態で埋設された定着部材から前記構造体の表面にまで連続して形成された挿通孔に緊張材を挿入し、この緊張材を前記定着部材に対向させたまま、前記定着部材を回転させ、この定着部材を前記緊張材に螺合させて両者を接続することにより行われる。具体的には請求項5に記載のように定着部材に接続され、構造体の表面に露出する管材を回転させて定着部材を回転させることにより定着部材を緊張材に螺合させることが行われる。
【0015】
請求項4、5に記載の緊張材の定着方法は主に請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の緊張材用定着装置を用いて行われるが、必ずしもその必要はなく、何らかの手段で定着部材を構造体中に回転可能な状態に埋設しておくことができれば、実施される。請求項5の方法は何らかの手段で定着部材と管材を構造体中に回転可能な状態に埋設しておくことができれば、実施される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1では構造体の表面に露出し、緊張材が挿通可能な管材が構造体中の定着部材と共に回転可能であることで、管材を回転させることで緊張材の先端に定着部材を螺合させることができる。従って緊張材の長さ上の制限がなくなるため、構造体の外部に空間がない場合や、緊張材が捩じり剛性を持たない場合にも緊張材を定着部材に螺合させ、接続することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図1〜図4を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0018】
図1に構造体8中に回転可能な状態で埋設される定着部材2と、緊張材9が挿通可能な内径を有し、定着部材2に一端において接続され、他端において構造体8の表面に露出し、定着部材2と共に回転可能な状態で構造体8中に配置される管材3とを備える緊張材用定着装置(以下、定着装置)1の具体例を示す。構造体8中には、回転可能な状態で埋設された定着部材2から構造体8の表面にまで挿通孔81が連続して形成される。
【0019】
構造体8は鉄筋コンクリート造の他、鉄骨鉄筋コンクリート造、あるいは繊維を混入したコンクリートやモルタル等から構築される。定着装置1は緊張材9を構築済みの構造体8中に定着させる部位を有する構造物の全般に適用され、図3に示すように建築構造物の耐震補強材としての緊張材の他、橋梁の落橋防止用の緊張材、斜張橋の斜材ケーブル等の定着に使用される。構造体8は既存であるか、新設であるかを問わない。
【0020】
定着部材2は管材3に接合され、管材3がその軸の回りに回転させられることにより管材3と共に回転する。管材3は構造体8から突出した部分から回転力を与えられることにより回転し、定着部材2を回転させる。定着部材2を回転させる上では、管材3は構造体8から突出した部分から与えられる捩じりモーメントを定着部材2に伝達できるだけの剛性を持てばよく、管材3には主に鋼管や合成樹脂の管が使用される。定着部材2と管材3の接合方法は任意であるが、図面では例えば管材3の先端にフランジ3aを形成しておき、このフランジ3aを定着部材2に突き合わせてボルト31を貫通させることにより、または溶接することにより接合している。
【0021】
管材3は構造体8から突出した部分において回転を与えるための工具や冶具に把持され、もしくは工具や冶具が係止し、この工具等により軸回りに回転させられることにより回転し、その先端に接合されている定着部材2を回転させる。図面では管材3の、構造体8からの突出部分に工具を差し込むための操作孔3bを形成し、この操作孔3bを利用して管材3を回転させるようにしている。操作孔3bは1箇所、または複数箇所形成される。
【0022】
管材3の回りには構造体8構築時の流動性を有している材料から管材3を保護するためのシース4が配置され、シース4の先端は構造体8中に定着される支圧部材5に接続される。支圧部材5は構造体8中に埋設されることによりシース4を構造体8中に定着させると共に、定着部材2が緊張材9から受ける引張力を負担しながらその力を支圧力として構造体8に伝達する。構造体8の挿通孔81はシース4の埋設によって形成される。
【0023】
支圧部材5の定着部材2側には定着部材2を構造体8から絶縁させるカバー材6が固定される。カバー材6はその内部に配置される定着部材2の回転を阻害することなく、内部を外部から遮断できればよく、カバー材6自身の形態と支圧部材5との接続方法は問われない。
【0024】
図面では定着部材2の周囲に位置する側板6aと、側板6aの一端に突き合わせられる端板6bからカバー材6を構成し、端板6bを、または端板6bと側板6aを貫通し、支圧部材5に到達するボルト等のねじ7により支圧部材5に接合している。またカバー材6と支圧部材5との間の水密性を確保するために、側板6aの支圧部材5側の端部に周方向に連続してパッキン等のシール材6cを介在させている。この他、フランジ付きの側板6aと、それに突き合わせられて接合、もしくは接着される端板6bからカバー材6を構成し、側板6aをフランジにおいてねじ等により支圧部材5に接合することもある。
【0025】
定着部材2はカバー材6内部の、支圧部材5との間で回転可能な状態に保持される。定着部材2の保持方法は問われないが、図面では支圧部材5の挿通孔5aの内周に管材3を支持させることにより、すなわち挿通孔5aの内周に管材3を下方へ係止させることにより定着部材2をカバー材6の内部で浮いた状態に保ち、回転可能な状態に保持している。
【0026】
定着部材2には緊張材9が螺合することから、ナット等、挿通孔2aに雌ねじが切られた部材が使用される。緊張材9にPC鋼棒や棒鋼等の曲げ剛性の大きい部材が使用される場合には緊張材9の端部に直接、雄ねじが形成され、その雄ねじが直接、定着部材2の挿通孔2aに螺合させられる。
【0027】
緊張材9として鉄筋やPCストランド、繊維強化材料等、曲げ剛性の期待できない部材が使用される場合には図示するように定着部材2側の先端に雄ねじ部10aが形成された圧着グリップ、スリーブ等の継手部材10が一体化させられる。継手部材10は緊張材9の回りに装着され、圧着されることにより、または隙間にグラウトが充填されることにより緊張材9に一体化させられる。
【0028】
構造体8中にはその構築前に支圧部材5とカバー材6が一体化したシース4、及び定着部材2が一体化した管材3が配置される。この内、支圧部材5とカバー材6及びシース4が構造体8中に埋め殺しされる形で構造体8を構成する前記コンクリート等の材料が打設、または充填され、構造体8が構築される。定着部材2は支圧部材5とカバー材6に包囲され、管材3はシース4に包囲された状態で、共に管材3の軸回りに回転可能な状態にある。
【0029】
緊張材9は図1に示すように管材3の端部から差し込まれ、そのまま先端、または継手部材10の先端が定着部材2の挿通孔2aに突き当たるまで挿入される。この際、緊張材9は単純に軸方向に差し込まれればよく、軸回りに回転させられる必要はない。緊張材9の先端、または継手部材10の先端が挿通孔2aに突き当たったところで、管材3が軸回りに回転させられる。
【0030】
管材3が軸回りに回転させられることで、定着部材2が回転し、緊張材9、または継手部材10の雄ねじ部10aに螺合する。定着部材2はカバー材6の内部で回転自在な状態にあるが、例えば定着部材2の軸方向両側にスペーサが配置される等により、支圧部材5とカバー材6との間で管材3の軸方向に移動しない状態に置かれることもある。その場合、管材3を回転させるのみで緊張材9を定着部材2側へ送り込み、定着部材2を緊張材9、または継手部材10の雄ねじ部10aに緊結することが可能である。
【0031】
緊張材9への緊張力の導入は緊張材9、または継手部材10の雄ねじ部10aへの定着部材2の螺合、または緊結後、緊張材9の他方の定着端を緊張することにより行われ、そのまま緊張材9の他方の定着端を定着部材に定着させることにより緊張材9の架設が完了する。緊張材9の架設完了後、シース4内、及び管材3内には緊張材9の保護のためにグラウトが充填される。グラウトはカバー材6の内部にまで充填され、定着部材2も保護される。
【0032】
図3は既存建物を耐震補強する引張ブレースとして緊張材9を用いた場合の例を示す。この例では緊張材9の下端が例えば地中に、または地上に構築される基礎に定着され、上端が既存建物の柱や梁、あるいはこれらに突設される定着部11に定着されるが、ここでの基礎が本発明での構造体8に相当する。
【0033】
緊張材9を引張ブレースとして使用する場合、緊張材9は例えば下層階の柱や梁、または基礎等と、上層階の柱、または梁等との間に架設されるが、緊張材9の架設作業は一旦、上層階まで緊張材9を上昇させた後、下層階側に定着される先端部分を上層階側から下層階側へ送り出すことにより行われる。緊張材9が上層階と下層階との間に架設された状態では緊張材9の長さと質量が大きいため、緊張材9を回転させることは不可能である。
【0034】
そこで、緊張材9を上層階と下層階との間に架設した状態にし、緊張材9の先端、または継手部材10の先端の雄ねじ部10aを定着部材2に対向させたまま、管材3を回転させることにより定着部材2を回転させ、雄ねじ10aに螺合させることが行われる。定着部材2の雄ねじ10aへの螺合により緊張材9の一端(下端)の定着が完了する。図3では緊張材9の下端を定着した構造体8(基礎)は地中に埋設されている。
【0035】
緊張材9の他端(上端)は上層階において緊張材9を緊張した後、定着部11にナット、または楔等により定着される。図3では緊張材9の上端は柱12を貫通し、柱12に関して緊張材9の架設区間の反対側に形成されている定着部11に定着される。
【0036】
図4は構造体8の構築後、定着部材2に緊張材9を接続するまでに時間(期間)が置かれるような場合に、定着部材2の挿通孔2aを一時的に、外気に曝されることによる錆の発生から保護するために、挿通孔2aに保護用雄ねじ部材13を螺合させている様子を示している。
【0037】
図4ではまた、構造体8の外部に突出する管材3の端面を塞ぎ板14によって塞いでいる。塞ぎ板14は例えば保護用雄ねじ部材13の塞ぎ板14側の端部に形成されたねじ部を貫通させ、ここにナットを螺合させることにより管材3の端面に密着した状態で保護用雄ねじ部材13に接合される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】定着装置の定着部材に対し、緊張材を連結しようとしている様子を示した断面図である。
【図2】図1のA−A線の端面図である。
【図3】定着装置に連結される緊張材を既存建物の耐震補強用のブレースとして使用した様子を示した斜視図である。
【図4】定着装置の定着部材に保護用雄ねじ部材を螺合させている様子を示した断面図である。
【図5】従来の定着装置への緊張材の連結時の様子を示した断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1………定着装置
2………定着部材
2a……挿通孔
3………管材
3a……フランジ
3b……操作孔
31……ボルト
4………シース
5………支圧部材
5a……挿通孔
6………カバー材
6a……側板
6b……端板
6c……シール材
7………ねじ
8………構造体
81……挿通孔
9………緊張材
10……継手部材
10a…雄ねじ部
11……定着部
12……柱
13……保護用雄ねじ部材
14……塞ぎ板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体中に定着されるべき緊張材を前記構造体の構築後に定着するための定着装置であり、前記構造体中に回転可能な状態で埋設される定着部材と、前記緊張材が挿通可能な内径を有し、前記定着部材に一端において接続され、他端において前記構造体の表面に露出し、前記定着部材と共に回転可能な状態で前記構造体中に配置される管材とを備え、前記管材の回転に伴って前記定着部材が回転可能であることを特徴とする緊張材用定着装置。
【請求項2】
前記定着部材は前記構造体中に埋設されて定着される支圧部材と、この支圧部材に固定されるカバー材とに包囲されて前記構造体から絶縁された状態で、前記構造体中に埋設されることを特徴とする請求項1に記載の緊張材用定着装置。
【請求項3】
前記支圧部材に、前記管材を包囲するシースが接続されていることを特徴とする請求項2に記載の緊張材用定着装置。
【請求項4】
構造体中に回転可能な状態で埋設された定着部材から前記構造体の表面にまで連続して形成された挿通孔に緊張材を挿入し、この緊張材を前記定着部材に対向させたまま、前記定着部材を回転させ、この定着部材を前記緊張材に螺合させて両者を接続することを特徴とする緊張材の定着方法。
【請求項5】
前記定着部材に、前記構造体の表面に露出する管材が接続されており、この管材を回転させて前記定着部材を回転させることを特徴とする請求項4に記載の緊張材の定着方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−57109(P2008−57109A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−231562(P2006−231562)
【出願日】平成18年8月29日(2006.8.29)
【出願人】(000237134)株式会社富士ピー・エス (20)
【出願人】(390029012)株式会社エスイー (28)