説明

緊急呼吸装置

閉ループシステムにおける能動スクラビングを用いた呼吸装置は、吐出時に空気のスクラビングを行うが、空気源からの空気は吸入の直前に能動フィルタを通過せず、吸気はその清浄な空気源からなされる。こうしたシステム及び方法は、補充空気の再加圧からの吸熱反応を利用して清浄な空気源を冷却し、快適性をさらに向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への引用
本願は、その内容全体を引用して本明細書に援用する2009年9月30日にされた米国仮特許出願第61/247,039号の利益を主張する。
【0002】
本開示は、火、煙、混入、産業災害、有毒物質、有毒ガス、または汚染が存在する環境で使用される緊急呼吸装置の分野に関する。
【背景技術】
【0003】
呼吸装置の主な目的は、呼吸に適した気体を人工的な供給源からユーザの肺まで送ることである。多くの状況で、酸素が欠乏した環境から脱出するために人が保護と酸素流を必要とするような緊急事態が発生する可能性がある。テロリストによる化学兵器、生物兵器、核兵器、または放射能兵器使用の脅威に関わる懸念によって、汚染域における救急隊員の活動を可能としたり、建造物または大量輸送車両からの避難時に占有者たちの安全確保を可能としたりするために使用できる緊急呼吸装置への関心が高まっている。こうした新たな脅威への懸念が高まる一方で、煙、微粒子、及び密閉空間における単純な空気の欠乏という既存の脅威への懸念が低くなったわけではない。
【0004】
これらの問題ため、こうした脅威にさらされる可能性のある人々に、彼らを取り巻く環境及び大気が突然危険になった場合に、そうした環境から脱出可能とする緊急呼吸装置を提供することに関心が高まっている。
【0005】
一般に、これら装置は一度だけの使用が意図されており、使用されるまで長期間の保管用に設計され、比較的簡単に使用できるよう意図され、且つ比較的限られた空気を供給するものであり(例えば、10乃至15分)、ユーザがある環境で活動するというよりは、その環境から脱出可能とすることを意図している。基本的に、この装置は、空気が欠乏するという恐れなしに人が移動し且つ活動できる時間を稼ぐのがその目的である。
【0006】
いくつかの種類のこうした用途に適した緊急呼吸装置は既に存在するが、所望の特徴を満足していないことが多い。一般に、緊急呼吸装置は閉回路として動作する。この回路では、ユーザが装置から息を吸いまた吐く際に2つの主な過程が含まれる。すなわち、装置内部への酸素の放出(酸素源)と、吐き出された気体からの二酸化炭素(CO2)の除去(「スクラビング」と呼ばれる)である。これらの過程は一般に装置内で組み合わされており、ユーザは得られる混合気体を呼吸可能となる。一般に、従来から知られている装置は、酸素源として化学酸素発生装置を使用してきた。
【0007】
スクラビングに関しては、能動的手法の方が、受動的技法に比べて一般により効率的にCO2を除去することが知られており、従って、密閉した(閉回路)呼吸システムでより長期間使用できるが、能動的スクラバーでは、典型的には、ユーザが吸着剤(adsorbent
chemical)を含むキャニスターを介して呼吸する必要がある。これには、ユーザに吸着キャニスターを介して呼吸させるノーズクリップを備えたマウスビットやマウス/ノーズカップなどのヒューマン・インタフェースを必要とする。吸着キャニスターを介した呼吸は「呼吸作業」を増加させてしまう。これにより作業負荷が増大し、快適レベルが減少し、使用者は呼吸するために一層努力する必要があるため空気の温度が上昇してしまう。
【0008】
さらに、多くの既知の装置では、吐出されたCO2は、このCO2を吸収する粒状の水酸化リチウム(LiOH)で処理することで除去されてきた。しかし、この手法は、化学酸素発生装置の振動及び他の擾乱による粒状LiOHの摩耗をしばしば引き起こしてきた。LiOHの摩耗は装置内に埃を分散させ、これがユーザの目、鼻、及びのどに強い刺激を与えていた。
【0009】
キャニスターのこれまでの使用及び動作で引き起こされうる呼吸の困難さ及び他の問題に加え、キャニスターにおけるスクラバーのCO2除去作用は発熱性であることが多く、かなりの熱を発生しかねない。マウスビットやそれに類似した装置の使用によって、これまでユーザはキャニスターを介して呼吸する必要があったので、吐出時に、これが熱い空気をキャニスターから強制的に排出させてきた。吐出が閉ループシステム(呼吸フードなど)内になされる場合、これが問題となることがあった。さらに、吸い込まれる空気もキャニスターを介するので、吸入の直前にスクラビング作用によって加熱される。さらに、化学酸素発生装置は一般に酸素を高温で放出する。米国職業安全・健康学会(NIOSH)の規則では、吸入空気は華氏120度でも安全であるとされているが、この温度の空気の吸い込みは極めて不快であり、呼吸装置の望ましくない使用中断や停止、或いはさらなる疲労を招くことがある。ユーザが緊急事態から脱出しようと試みているときには、これらは望ましくない状態である。
【0010】
これらの変動要素を総合的に考慮すると、緊急呼吸装置の分野で必要とされるものは、酸素が欠乏した環境から迅速に脱出するために、人が保護と酸素流を必要とする緊急事態で使用されるより安全でより効率的な装置及び工程である。
【発明の概要】
【0011】
本発明の分野におけるこれら及びその他の問題のため、閉ループシステムにおける能動スクラビングを用いた呼吸装置を本明細書で説明し、該装置では、吐出時に空気のスクラビングを行うが、空気源からの空気は吸入の直前に能動フィルタを通過せず、吸気はその清浄な空気源からなされる。こうしたシステム及び方法は、補充空気の再加圧からの吸熱反応を利用して清浄な空気源を冷却し、快適性をさらに向上させる。
【0012】
本明細書に記載された緊急呼吸装置は:呼吸バッグと;酸素を前記呼吸バッグに供給する酸素源と;前記呼吸バッグに接続されたスクラバー組立体であって:二酸化炭素を除去するためのスクラバーフィルタと;マウスピースと;バルブ組立体で:前記マウスピースから吐出された息を受け取り、前記吐出された息を前記スクラバーフィルタに導入しかつ通過させ、前記吐出された息は、前記二酸化炭素の少なくとも一部が除去された状態で前記呼吸バッグに進入し;前記マウスピースからの吸入空気が前記スクラバーフィルタを通過するのを制限し、前記吸入空気は前記フィルタを通過することなく前記呼吸バッグから取り入れられる、バルブ組立体とを含むスクラバー組立体とを含む。
【0013】
前記緊急呼吸装置の一実施形態では、前記呼吸バッグはフードである。別の実施形態では、前記フードは、ユーザの頭部を外部雰囲気から密封する密封メンブレンであって、前記ユーザの頭部を収容する前記フードの内部容積を画定する密封メンブレンを含む。さらに別の実施形態では、前記スクラバー組立体は、前記フードの前記内部容積の中に配置されている。
【0014】
前記緊急呼吸装置の幾つかの実施形態では、前記呼吸バッグは外部呼吸バッグである。
【0015】
前記緊急呼吸装置の別の実施形態では、前記酸素源は加圧酸素源から構成されている。別の実施形態では、前記加圧酸素源は純酸素である。
【0016】
前記緊急呼吸装置の幾つかの実施形態では、前記呼吸バッグはフルオロポリマーから構成されている。別の実施形態では、前記フルオロポリマーはポリテトラフルオロエチレンである。
【0017】
前記緊急呼吸装置の一実施形態では、前記スクラバーフィルタは二酸化炭素吸収剤から構成されている。前記緊急呼吸装置の他の実施形態では、前記二酸化炭素吸収剤は水酸化リチウムから構成されている。
【0018】
さらに別の実施形態では、前記緊急呼吸装置は、ユーザの吸入息及び吐出息がユーザの鼻から出入りすることを制限するノーズクリップをさらに含む。これらの実施形態の幾つかでは、前記マウスピースが前記吸入息及び吐出息を受け取る。
【0019】
前記緊急呼吸装置の幾つかの実施形態では、前記バルブ組立体は少なくとも1つの一方向弁を含む。他の実施形態では、前記バルブ組立体は2つの一方向弁を含む。
【0020】
さらに別の実施形態では、前記呼吸バッグは使用時に膨張する。幾つかの他の実施形態では、前記緊急呼吸装置は、前記呼吸バッグを収縮させるための緊急逃がし弁をさらに含む。
【0021】
前記緊急呼吸装置の一実施形態では、前記マウスピースはフェースマスクの一部を含む。
【0022】
他の幾つかの実施形態では、前記緊急呼吸装置がバリアパウチ内に保管される。
【0023】
一実施形態では、前記緊急呼吸装置は:呼吸バッグと;酸素を前記呼吸バッグに供給するための手段と;前記呼吸バッグに接続されたスクラバー組立体であって:二酸化炭素を除去するための手段と;吐出された息を受け取り、前記吐出された息を前記酸化炭素を除去するための手段に導入しかつ通過させる手段であって、前記吐出された息は、前記二酸化炭素の少なくとも一部が除去された状態で前記呼吸バッグに進入し、吸入される空気が前記二酸化炭素を除去するための手段を通過するのを制限し、前記吸入空気は、前記二酸化炭素を除去するための手段を通過することなく前記呼吸バッグから取り入れられる、通過させるための手段とを含むスクラバー組立体とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】フード付き緊急呼吸装置の実施形態の透視概念図を示す。
【図2】図1の実施形態の背面図である。
【図3】図1の実施形態の側面図である。
【図4】外部呼吸バッグを使用する緊急呼吸装置の実施形態の透視概念図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示は、酸素が欠乏した環境から迅速に退避するため、比較的限られた供給量の空気を備えた緊急呼吸装置(100)または(600)を記載する。一般に、本明細書で開示する装置(100)または(600)は、多くの構成部材を含んでいる。本開示では、まず、緊急呼吸装置(100)または(600)の構成部材を個別に説明する。その後で、これら構成部材は、動作する緊急呼吸装置(100)または(600)として説明する。
【0026】
図1〜3は緊急呼吸装置(100)の第一実施形態を示し、この実施形態では、吸入空気源としての避難フード(101)として動作する呼吸バッグの内部容積を利用する。装置(100)は、有毒ガス、煙、炎、化学、生物、放射能、及び核の危険要因などを含むがそれらに限定されない環境危険要因により引き起こされる危険な環境からユーザの頭部の全機能を保護するように設計されている。
【0027】
この実施形態では、装置(100)は、概して、呼吸バッグとして動作し且つユーザの首の周りを密閉する付属密封メンブレン(103)でユーザの頭部を密封する耐熱フード(101)を含む。密封メンブレン(103)は弾性を備えるのが好ましいが、通常の技能を備えた当業者であれば、例えば調節可能クリップ、紐、または引き紐を含む任意の密封体を使用できることは容易に理解するはずである。フード(101)は任意の材料で作製すればよく、予期される危険な環境しだいで耐薬品性、耐生物性、耐核性、またはその他に耐性があるものとすればよい。好適には、フード(101)は、ポリテトラフルオロエチレンなどの耐熱かつ耐薬品性のフルオロポリマー製である。フード(101)全体は好適には透明として、このシェルを介して遮るものがない完全な視野をもたらす。しかし、これらの特徴(例えば、耐熱性や完全な透明性)は何れも必須なものではない。代替的な実施形態では、例えば、フード(101)は、フード(101)を介して外を見るための小さな透明部分のみを備えた主として不透明材料製としてもよい。
【0028】
さらに、フード(101)は、環境に存在する物質、特に汚染物質、熱、煙、炎、化学、核、またはその他の類似の危険要因による侵入を防止するように設計されている。さらに、フード(101)は、首の周りをしっかりと密閉する密封メンブレン(103)を含み、このフードの内部が、煙など呼吸に適した空気を含んでいない又は高温でありうる外部雰囲気から確実に密封される。このユーザの首周りの密閉は、フード(101)の容積内部での、呼吸に適した空気を呼吸できるという利点も提供する。
【0029】
フード(101)の内部にはスクラバー組立体(301)も設けられている。また、スクラバー組立体(301)は、後に詳述する能動的スクラビングフィルタ(303)を含む。さらに、マウスピース(201)及びノーズクリップ(203)またはユーザがスクラバー組立体(301)内へ呼吸することを促す他の任意の類似構造体が取り付けられており、これらはすべてフード(101)の内部に設けられている。言い換えれば、ノーズクリップ(203)は、ユーザがフード(101)内で直接呼吸することを制限し、ユーザがマウスピース(201)を介してスクラバー組立体(301)内で呼吸することを促す。これと同一の構成が必須というわけでは決してない。重要な側面は、ユーザがスクラバー組立体(301)内に確実に息を吐き出せるようにすることである。通常の技能を備えた当業者であれば、これ以外の構成または呼吸手段でもこうした呼吸を実現できることや、これ以外の構成または呼吸手段が呼吸及びスクラビング用の単一手段を含んでよいことも容易に理解するはずである。例えば、別の実施形態では、ユーザは鼻から吸気及び吐き出しを行い、スクラバー組立体(301)内に吐き出しを行うことができる。代替的には、ユーザがスクラバー組立体(301)内に息を吐き出し、マウスピース(201)の周囲とフード(101)とから吸入する構成としてもよい。さらに、マウスピース(201)はユーザの口の中に直接入らなくてもよく、その代わり、マウスピース(201)は、単に、ユーザの口若しくは鼻またはそれら両方を覆うフェースマスクの一部としてもよい。
【0030】
一実施形態では、装置(100)は、調整器(403)を介してフード(101)内に給気する加圧酸素ボンベ(401)のような付属酸素源も含んでいる。酸素ボンベ(401)は、概して任意のサイズとしてよいが、装置(100)を使用する平均的な人に酸素を10〜30分にわたって供給するように設計され、より好適には、平均的な人に酸素を10〜15分にわたって供給するように設計される。一実施形態において、好適には、これは39、44、または60リットルの圧縮純酸素タンクであって、この圧縮酸素はフード(101)内で閉回路空気と混合され、純酸素ではない呼吸に適した空気を供給する。
【0031】
後に詳述するように、加圧酸素が好適な酸素源及び供給手段であるが、通常の技能を備えた当業者なら容易に理解するように、加圧酸素ボンベが唯一の使用可能な酸素源というわけでは決してない。代替的には、酸素源すなわち酸素供給手段は、酸素を発生する密封反応を行うタンク、携帯用酸素濃縮器、液体酸素、または純酸素若しくは濃縮酸素のその他類似した供給源または手段を含むがそれらに限定されない別の呼吸に適した酸素源としてもよい。さらに別の実施形態では、供給源すなわち供給手段は純酸素を含む必要はなく、圧縮空気、不活性ガス及び酸素、または他の混合気体であって酸素を含み概して人間の呼吸で安全なものを含むことができる。
【0032】
スクラバー組立体(301)は、概してバルブを使用する呼吸のための構造体を含む。特に、この実施形態では、スクラバー組立体は、ユーザが息を吐き、吐き出した息をマウスピース(201)及びフィルタ(303)を通すバルブ組立体(102)を含み、組立体(301)から吸入される空気、すなわち吸入される息はフィルタ(303)を通過せず、この実施形態では、フード(101)内の周囲空気から取り込まれる。このバルブ使用呼吸の一実施形態のフローチャートを図5に示し、ここでは実線の矢印は吐き出される息を示し、破線の矢印は吸入される息を示す。図5のフローチャートはフード(101)内でのバルブ使用呼吸を示すが、これは、バルブ使用呼吸の実現可能な流れの1つを例示的に示したものにすぎない。例えば、代替的な実施形態では、マウスピース(201)は呼吸バッグ(603)の外部に配置するが、図4に示した代替的な実施形態で示唆するようにこのフローチャートの残りの工程は呼吸バッグ(603)の内部で行われる。さらに、このバルブ組立体の具体的な構成は変更可能である。例えば、このバルブ組立体は、単一の一方向弁を含むことができる。代替的には、このバルブ組立体は2つの一方向弁を含むことができる。
【0033】
フィルタ(303)は、一般に、水酸化リチウム(LiOH)を含むがそれには限定されない二酸化炭素(CO2)吸着剤(スクラバー)を含む。水酸化リチウムが好適なスクラバーとして開示されているが、これが唯一のスクラバーであるわけではない。通常の技能を備えた当業者であれば容易に理解するように、ソーダ石灰、チタン酸バリウム、オルトケイ酸リチウム、リソライム(商標)、Decarbite(登録商標)粒剤、Wakolime(商標)、Dragersorb(商標)、Medisorb(商標)、またはAmsorb(商標)を含むがそれらに限定されない任意の公知スクラバーを使用できる。
【0034】
水酸化リチウムと反応させることによる二酸化炭素の除去の化学的な過程は概して発熱性であって、これは当業者にはよく理解されている。しかし、この反応の発熱的な性質は、一般に、フィルタ(303)を通過する空気がスクラビング作用によってかなり加熱されることを意味する。この装置(100)の一実施形態では、有利なことに、空気は多くの外部熱を加えられない。
【0035】
熱全体の減少は3つの側面を持つ。第一の側面として、吸入される空気は、吸入の直前にフィルタ(303)を通過しない。ユーザは、発熱性のスクラビング作用/反応に曝された空気を吸い込まないので、得られる吸気用の空気は他の既知装置に比べて低温である。第二に、空気は閉じたシステム内に存在するので、吸い込みと吐き出しとがフィルタを介する場合とくらべて、空気が発熱反応に曝される頻度は半分しかない。これは概ね発生される合計熱量が減少する結果をもたらし、従って空気を低温に維持する。第三に、装置(100)の好適な一実施形態では、酸素は圧縮酸素源を介してフードに供給される。この酸素は以前使用された酸素源(例えば、化学酸素発生装置)よりもかなり低い温度で供給され、次に、この供給酸素は、より高温の吐出されスクラビングされた空気と混合され、さらにフード(101)内に既に存在する残りの周囲空気と混合される。これは、ユーザが次に吸い込むフード(101)内の空気の温度を引き下げるという有利な作用を奏する。これら総熱量の減少の結果として、呼吸環境は概してより快適になり、呼吸システムが破損する可能性が低くなり、さらに、ユーザの疲労も減少する。
【0036】
概して、装置(100)は、緊急時には開封して迅速に装着される真空封止バリアパウチまたは他の保管用器内に保管される。この装置(100)の使用に当たって、ユーザは一般に、パウチを破って開けるかそれ以外の方法で容器を開封して装置(100)を取り出すことによって装置(100)を保管状態から取り出す。保管及び容易な使用を可能とする任意の公知容器を本発明の精神及び範囲から逸脱することなく使用できることは理解できるはずである。
【0037】
装置(100)を使用するため、ユーザは、自分の頭部を密封メンブレン(103)の開口部(107)に通すことによってフード(101)を自分の頭部に被せる。これによって、ユーザの頭部全体がフード(101)の内部容積の内に入ることになる。自分の頭部をフード(101)に入れるには、ユーザは、一般に、両手の平を互いに内側または外側に向けた状態で両手をメンブレン(103)の開口部(107)内部に入れ、両手を広げて開くことによってメンブレン(103)を引き延ばして開け、両手で開いたフード(101)を持ち上げる。次に、ユーザは、メンブレン(103)を頭に被せるように下げて頭部をフード(101)の中に入れる。手を離してメンブレン(103)を首の回りにしっかりと密閉させれば、フード(101)の内部が、呼吸に適した気体を含んでいない可能性がある外部雰囲気から確実に密閉される。
【0038】
次に、ユーザは、マウスピース(201)を咥えて口を密封し、ノーズクリップ(203)を使用して鼻を密封する(これらを実行するにはこれら物体をフード(101)材料の外側から、またはユーザの手がメンブレン(103)の内部にあるときに手で操作すればよい)。これによって、ユーザは一般に口から呼吸ができ、すべての呼吸(吸い込みと吐き出し)が確実に組立体(301)を通るようになる。一旦装着すれば、ユーザは、酸素フローバルブを操作してフード(101)内への酸素の流動を開始できる。フード(101)装着後にこうした操作を行うことが、酸素流動を開始する唯一の方法ではない。代替的には、酸素流動はユーザがフードを装着する以前に開始してもよい。或いは、装置(100)が容器から取り出されて装着中であること、または酸素流動の開始が望ましいその他の時点であることを検出するシステムのように、酸素流動はユーザが開始しなくても自動的に始まるようにしてもよい。
【0039】
ユーザは、マウスピース(203)を介して息を吸いかつ吐くことによってフード(101)内で呼吸できる。この意味で、フード(101)は呼吸バッグと、熱、煙、炎、化学、核、またはその他の類似の危険要因などの外部環境からユーザの顔を保護するシェルとの両方として有利に作用する。
【0040】
吐出すると息がバルブ組立体(102)を開放し、息がスクラバー組立体(301)内でバルブ組立体(102)を通過し、スクラバーフィルタ(303)に入ると、このフィルタが吐出された息からCO2の少なくとも一部を除去する効果がある。この息のそれ以外の物質は、吐出ポート(305)を介してスクラバーフィルタ(303)から出て、フード(101)内に入る。この吐出の空気は、一般に、スクラバーフィルタ(303)がCO2を除去する作用によって加熱されており、よって非常に高温(華氏130度より高い)になる場合がある。吐出された空気はいったんフード(101)の内部容積に入れば、フード(101)内に既に存在する空気及び酸素源(401)によりフード(101)に供給された酸素と混合する。従って、この熱はフード(101)内で分散され、一般に、フード内の空気温度は、吐出されたばかりの高温の空気より低くなる。
【0041】
酸素源(401)が、好適な様態である圧縮タンクであれば、フード(101)に供給される補充酸素は、タンク(401)内の気体が大気圧に戻ることにより一般に低温である。この冷却効果は、一般化した理想気体の法則によって予想されるように発生し、特に温度の低下に伴って圧力が低下する。従って、酸素は加圧ボンベ(401)を出る際に減圧し、この排出される酸素は低温となる。従って、この低温の補充酸素は、スクラビングされた高温の吐出空気及びフード(101)内に既に存在するそれ以外の周囲空気と混合する。これは、次にユーザが吸い込むフード(101)内の空気の温度を引き下げるという好適な作用を奏する。従来から知られている装置では、酸素源は、圧縮タンクの酸素温度よりかなり高い温度で酸素を供給していたので、結果的にフード(101)内の温度が高くなっていた。酸素源としてのこの圧縮タンクは好適ではあるが、通常の技能を備えた当業者であれば容易に理解するように必須というわけではない。上述のように、任意適切な酸素源とすればよい。
【0042】
ユーザは息を完全に吐出し終わると、吸入を開始する。ユーザの吐出から吸入への圧力変化は、スクラバー組立体(301)のバルブ組立体(102)の位置変更を引き起こし、スクラバーフィルタ(303)を空気通路から封止させる。すると、吸入される空気は異なる空気通路を介してフード(101)の容積から取り込まれる。上述したように、この吸入空気は、スクラビングされた空気と、周囲空気と、補充酸素との組合せを含む。吸入が完了すると、上述の過程が繰り返される。
【0043】
フード(101)を補充空気と共に使用することで幾つかの利点がもたらされる。第一の例としては、吸入される空気は、吸入の直前にスクラバーフィルタ(303)を通過しないのでより低温である。従って、この吸入空気は、吸入時にフィルタ(303)内部で発熱的な熱量増加反応を受けないという利点がある。さらに、補充酸素と、フード(101)内の周囲空気への高温空気の分散とが、吐出された空気の熱伝達による冷却に役立つ。これによって、吸入空気が直ちに吐出された空気だけである場合や、例えば、化学酸素発生装置を用いたときのように酸素がより高温で供給される場合と比べると、フード内の空気の加熱速度は遅くなる。さらに、フード内の空気はスクラバーフィルタ(303)を一方向にしか通過しないので、空気は濾過工程によってそれほど加熱されず、吸入空気(及びフード内の空気全般)が低温状態をなお維持する。
【0044】
補充酸素はフードに連続的に追加されているので、ユーザが呼吸するにつれ、フード内における合計気体容量の増加のため、フードは一般に膨張し始める。これによりフード(101)内の圧力が正圧となって、汚染物質が、首回りの密封体または構成要素内の任意他の不完全でありうる密封体を介して外部環境からこの閉ループ呼吸システム内へ侵入するのを妨げる助けとなる。酸素のキャニスター(401)が枯渇すると、フード(101)は収縮し始め、フード(101)を比較的早急に取り外す必要があることを示す。この時点までには、ユーザは安全な区域に到着しているはずであり、一般に一回のみの使用を意図されている装置(100)を除去し、破棄すればよい。フード(101)が加圧されているという性質によって、フード(101)の過圧及び破裂の可能性と、フード(101)の過圧環境に閉じこめられているユーザの頭部の不快感とを防止するため、図示した実施形態に示したように、フード(101)は、フード(101)が安全レベルを万一超えた場合に安全レベルまで減圧すなわち収縮するように緊急逃がし弁(105)を含むことができる。
【0045】
ここで図4を参照すると、こちらも吐出時のみにフィルタを用いる閉回路呼吸システム(600)の代替的な実施形態が示されている。図1〜3の実施形態では、補充酸素はフード(101)内に供給され、フードは頭部を覆って装着され、かつその内部から息の吸入が行われていた。ほとんどの場合はフード(101)を含めることが好ましく、その理由は、ユーザの呼吸を保護するだけでなく、汚染物質が、目、耳、またはこれら汚染物質によって影響を受けまたは感染しやすい頭部のその他の造作に接触するのを防止するからである。従って、ユーザは、図1〜3の装置(100)では、呼吸バッグとして有利に機能する頭部を囲む自給式安全環境が与えられることになる。
【0046】
しかし、状況によっては、この装置のユーザはフード(101)を使用できないこともありうる。例えば、ユーザは、緊急脱出状況においても、安全と照明確保のために必要な光源付きのヘルメットを装着していること(例えば、炭坑夫用の安全帽を装着している場合など)もありうる。これらの状況では、ヘルメットが邪魔になることがあるため、ユーザは、装置(100)を頭に完全に被ることはできない可能性もありうる。従って、こうしたユーザは、フード(101)を用いた装置(100)を安全に装着できない可能性がある。
【0047】
フード(101)が望ましくない状況では、図4に示した代替的な実施形態を使用できる。この実施形態では、装置(600)は、フード(101)を外部呼吸バッグ(601)と取り替えたものである。外部呼吸バッグ(601)は、入ってくる空気の供給源として機能し、かつユーザの呼吸ループを閉じるというフード(101)と同じ一般的な目的を果たす。しかし、これはユーザの頭部を覆うようには設計されておらず、分離しており、かつ組立体(301)及び補充空気源の包囲体として機能し、図示した実施形態では酸素源(401)も内部に封入している。
【0048】
図4に示した実施形態のユーザの呼吸パターンは、図1〜3の実施形態と概ね同一である。具体的には、ユーザはマウスピース(201)を口の中に入れ、ノーズクリップ(203)を使用して鼻を封止する。次に、ユーザはマウスピース(201)を介して通常のやり方で呼吸する。吐出された空気は組立体(301)内部に入り、この吐出された空気をスクラビングする役割を果たすフィルタ(303)を通過する。すると、吐出された空気は外部呼吸バッグ(601)内に流入し、そこでタンク(401)からの酸素及びバッグ(601)の内部容積(603)内の周囲空気と混合可能となる。
【0049】
ユーザが吸い込むと、バルブ組立体(102)またはスクラバー組立体(301)内の類似の構造体がその位置を変え、吸入される空気は、充填酸素の追加によって冷却されている(また、バッグ内の酸素タンク(401)の存在によってさらに冷却されうる)外部呼吸バッグ(601)の容積(603)から取り入れられる。上述したように、任意の酸素源を使用できるが、圧縮空気源は、他の多くの酸素源に比べ吸入される空気をより低温まで有利に冷却できるので、好適な供給源である。この空気は組立体(301)を通過し、さらに、ユーザがそれを吸い込むマウスピース(201)内に差し向けられる。そして、この吐出/吸入過程が呼吸毎に繰り返される。
【0050】
フード(101)のように、外部呼吸バッグ(601)は、一般に、充填酸素が加わることによって時間の経過と共に膨張する。酸素供給(401)が枯渇すると、バッグ(601)は収縮して、タンク(401)が空となって空気が減少していることを示す。また、図1〜3の実施形態のように、バッグ(601)は、バッグ(601)の過圧及び破裂の可能性を防止するために圧力逃がし弁(図示しない)を含んでもよい。
【0051】
好適な実施形態であると現時点で考えられているものを含む本発明を幾つかの実施形態の説明に関連して開示したが、この詳細な説明は例示を意図したものであり、本発明の範囲を限定するものではない。通常の技能を備えた当業者であれば理解できるように、本明細書で詳細に説明したもの以外の実施形態も本発明に包含される。説明した実施形態の修正及び変更は、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
緊急呼吸装置であって、
呼吸バッグと、
酸素を前記呼吸バッグに供給する酸素源と、
前記呼吸バッグに接続されたスクラバー組立体であって、
二酸化炭素を除去するためのスクラバーフィルタと、
マウスピースと、
バルブ組立体で、
前記マウスピースから吐出された息を受け取り、前記吐出された息を前記スクラバーフィルタに導入しかつ通過させ、前記吐出された息は前記二酸化炭素の少なくとも一部が除去された状態で前記呼吸バッグに進入し、
前記マウスピースからの吸入空気が前記スクラバーフィルタを通過するのを制限し、前記吸入空気は前記フィルタを通過することなく前記呼吸バッグから取り入れられる、バルブ組立体とを含むスクラバー組立体とを含む、
緊急呼吸装置。
【請求項2】
前記呼吸バッグがフードである、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項3】
前記フードは、ユーザの頭部を外部雰囲気から密封する密封メンブレンであって、前記ユーザの頭部を収容する前記フードの内部容積を画定する密封メンブレンをさらに含む、請求項2に記載の緊急呼吸装置。
【請求項4】
前記スクラバー組立体は、前記フードの前記内部容積の中に配置されている、請求項3に記載の緊急呼吸装置。
【請求項5】
前記呼吸バッグは外部呼吸バッグである、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項6】
前記酸素源は加圧酸素源から構成される、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項7】
前記加圧酸素源は純酸素である、請求項6に記載の緊急呼吸装置。
【請求項8】
前記呼吸バッグはフルオロポリマーから構成される、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項9】
前記フルオロポリマーはポリテトラフルオロエチレンである、請求項8に記載の緊急呼吸装置。
【請求項10】
前記スクラバーフィルタが二酸化炭素吸収剤から構成される、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項11】
前記二酸化炭素吸収剤は水酸化リチウムから構成される、請求項10に記載の緊急呼吸装置。
【請求項12】
ユーザの吸入息及び吐出息がユーザの鼻から出入りすることを制限するノーズクリップをさらに含む、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項13】
前記マウスピースが前記吸入息及び吐出息を受け取る、請求項12に記載の緊急呼吸装置。
【請求項14】
前記バルブ組立体は少なくとも1つの一方向弁を含む、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項15】
前記バルブ組立体は2つの一方向弁を含む、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項16】
前記呼吸バッグは使用時に膨張する、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項17】
前記呼吸バッグは、前記呼吸バッグを収縮させるための緊急逃がし弁をさらに含む、請求項16に記載の緊急呼吸装置。
【請求項18】
前記マウスピースはフェースマスクの一部を含む、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項19】
前記緊急呼吸装置はバリアパウチ内に保管される、請求項1に記載の緊急呼吸装置。
【請求項20】
緊急呼吸装置であって、
呼吸バッグと、
酸素を前記呼吸バッグに供給するための手段と、
前記呼吸バッグに接続されたスクラバー組立体であって、
二酸化炭素を除去するための手段と、
吐出された息を受け取り、前記吐出された息を前記酸化炭素を除去するための手段に導入しかつ通過させるための手段であって、前記吐出された息は前記二酸化炭素の少なくとも一部が除去された状態で前記呼吸バッグに進入し、
吸入される空気が前記二酸化炭素を除去するための手段を通過するのを制限し、前記吸入空気は、前記二酸化炭素を除去するための手段を通過することなく前記呼吸バッグから取り入れられる、通過させるための手段とを含むスクラバー組立体とを含む、
緊急呼吸装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−506505(P2013−506505A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532327(P2012−532327)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際出願番号】PCT/US2010/050976
【国際公開番号】WO2011/041589
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(512082314)エセックス ピー.ビー. アンド アール. コーポレーション (1)
【氏名又は名称原語表記】ESSEX P.B.& R. CORP.
【住所又は居所原語表記】8007Chivvis Drive, St Louis, MO 63123 (US).
【Fターム(参考)】