説明

緊急脱出用工具、及びそれを備えた自動車用緊急保安炎筒

【課題】自動車に装備されている緊急保安炎筒に組み込むことにより、別途緊急保安部品や収納箇所を増やす必要がなく、且つ、槌部の発炎筒短手方向への露出がなく、乗員の怪我の心配が少なく、さらに、リサイクル性に優れ、繰り返し使用が可能で、且つ低コストの緊急脱出用工具、及びそれを備えた自動車用緊急保安炎筒を提供すること。
【解決手段】発炎筒端部への冠着部4を備えた緊急脱出用工具1であって、自動車等の強化ガラスを割るためのハンマー部5が発炎筒の長手方向に向くように設けられたことを特徴とする。ハンマー部5の硬度が、ロックウェル硬さで60HRC以上であることが好ましい。また、緊急脱出用工具1に設けられたハンマー部5の端部にねじ加工6を施し、当該緊急脱出用工具本体3にハンマー部5を螺着できることが好ましい。また、それら緊急脱出用工具を備えたことを特徴とする自動車用緊急保安炎筒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車事故時等に用いる緊急脱出用工具、及びそれを備えた緊急保安炎筒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車事故時等に、乗員が車外へ脱出するための緊急工具には自動車の窓ガラスを叩き割るハンマーや、シートベルトを切断するハサミや刃などが多数販売されている。
【0003】
また、これら従来からある機能を複合させた緊急工具も販売されており、各自動車メーカー等からも、ハンマーとハサミを組合わせた純正オプション部品等が提供されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、ガラスを破壊するためのハンマー部を先端に有した本体に設けた中空部に、ハサミを収納した緊急工具が提案されている。異なる機能を複合させた結果として、それぞれの機能を別々に装備することなく、コンパクトに収納することが可能となっている。しかしながらこの場合は、既に装備されている緊急保安炎筒に加えて、別途装備する必要があり、結果的に、緊急保安部品の収納箇所が増えてしまうという問題を有していた。
【0005】
また、従来の緊急保安炎筒と組合わせて、発炎筒とガラス破壊等の機能を複合させたものとしては、例えば、特許文献2には、発炎筒の端部にガラス破壊用の槌部を有した把手部を設けた車載用槌が提案されており、緊急保安部品の収納箇所を増やすことなく収納することが可能となる。ところがこの場合、槌部が例えば、助手席の足元に装備された発炎筒の短手方向に露出しており、乗員が怪我をする恐れがある。また、従来の緊急保安炎筒の収納スペースに入り切らず、別途収納場所を設ける必要がある可能性があるという問題点を有していた。
【0006】
また、例えば、特許文献3には、発炎筒端部への冠着部を有した緊急工具が提案されており、一対の部品で構成される冠着部でハンマー部を挟持することにより発炎筒への組み込みが実現されている。しかしながら、環境への対策としてリサイクルを考えた場合、挟持するという構造では、異材質である冠着部とハンマー部を分別する際に、手間が掛かってしまうという問題点を有していた。
【0007】
さらに、近年では、例えば軟鉄等を使用した低価格のハンマーや、超硬合金の一種等を用いた高品位のハンマー等が提供されている。しかしながら、軟鉄製などの場合、硬度が低く、一回のガラス破壊にしか耐えられず、耐久性の観点から問題がある。また、一度の操作で確実にガラスの破壊が出来ない場合がある。また、超硬合金などの場合は非常に高い硬度を有するため、繰り返し使用には耐えるが、コストが上がってしまうという問題がある。
【0008】
【特許文献1】特開平6−179179号公報
【特許文献2】特開平10−296659号公報
【特許文献3】特開平7−237523号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上の点を鑑みなされたものであり、従来から既に装備されている緊急保安炎筒に組み込むことにより、別途緊急保安部品や収納箇所を増やす必要がなく、且つ、槌部の発炎筒短手方向への露出がなく、乗員の怪我の心配が少なく、さらに、リサイクル性に優れ、繰り返し使用が可能で、且つ低コストの緊急脱出用工具、及びそれを備えた自動車用緊急保安炎筒を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するための、請求項1に記載の発明の緊急脱出用工具は、発炎筒端部への冠着部4を備えた緊急脱出用工具1であって、自動車等の強化ガラスを割るためのハンマー部5が発炎筒の長手方向に向くように設けられたことを特徴とするものである。
【0011】
また、請求項2に記載の発明の緊急脱出用工具は、請求項1に記載の発明において、緊急脱出用工具1に設けられたハンマー部5の硬度が、ロックウェル硬さで60HRC以上であることを特徴とするものである。
【0012】
また、請求項3に記載の発明の緊急脱出用工具は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、緊急脱出用工具1に設けられたハンマー部5の端部にねじ加工6を施し、当該緊急脱出用工具本体3にハンマー部5を螺着できることを特徴とするものである。
【0013】
さらに、請求項4に記載の発明の自動車用緊急保安炎筒は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明における、緊急脱出用工具1を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果を述べる。請求項1の発明によれば、従来、装備が義務付けられている自動車用緊急保安炎筒に緊急脱出用工具1を冠着により一体化することができ、ハンマー部5を備えた緊急脱出用工具1付きの自動車用緊急保安炎筒2(以下、「工具付発炎筒」という)の作成が可能となる。この場合、該工具付発炎筒の全体がハンマー部5の打撃体となり、その結果、工具付発炎筒の全自重を打撃力とすることが出来る。また、この場合、従来からあるT字型ハンマーなどの様に、狭い空間内で振り下ろすような仕草をしなくても良い。もちろん、該工具付発炎筒においては、T字型ハンマーなどの様に振り下ろしたり、手首のスナップを使ってハンマー部5をガラスに叩き付けるような操作を行っても、容易にガラスを破壊することが可能である。
【0015】
請求項2の発明によれば、上記の効果に加え、自動車のサイドウインドウ用の強化ガラスを、一度の操作で、確実に破壊することが可能となる。従来の、例えば軟鉄等を使用した低価格のハンマー等の様に、硬度が低いために一回のガラス破壊にしか耐えられず、また、一度の操作で確実にガラスの破壊が出来ないなどといったことがなく、複数回のガラス破壊に耐えることが出来るため、例えば緊急時に、運転席側のサイドウインドウを破壊した後に、今度は助手席側のサイドウインドウを破壊することにより、複数の乗員が迅速且つ同時に車外に脱出する等といったことが可能となる。さらに、超硬合金の一種等を用いた高品位のハンマー等の様にコストの増加を招くことなく、低コストに抑えることが可能である。
【0016】
請求項3の発明によれば、請求項1、及び請求項2の効果に加え、例えば、発炎筒の使用期限切れによる更新時に回収された場合などに、緊急脱出用工具本体3とハンマー部5の分別が容易にでき、リサイクル性に優れた工具付発炎筒の作成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明において、ハンマー部5の材質としては、ロックウェル硬さで60HRC以上の硬度を有したものであれば何でも良い。また、ハンマー部5のサイズとしては、直径で5〜27mm、長さで5〜50mmのものが好ましい。直径が27mmを超えると、自動車用緊急保安炎筒2の直径を超えてしまうため、ガラス破壊時の衝撃に対する強度が保てず、また、長さが50mmを超えると車内に設置した際に邪魔になり、問題がある。逆に、直径及び長さが5mm未満では、ハンマー部5を確実にガラス面に当てることが困難となり、問題がある。また、緊急脱出用工具本体3の材質としては、成型方法によらず、窓ガラスへの打撃による衝撃に耐え得る硬さと強さを有していれば何でも良い。
【実施例】
【0018】
以下、本発明を、実施例に基づいて説明する。なお、本発明は実施例により、なんら限定されない。
【0019】
実施例
図1から図5で示すように、冠着部4を備えた、窓ガラスへの打撃の衝撃に耐え得る硬さを有した高密度ポリエチレン樹脂製の緊急脱出用工具本体3の他端に、ロックウェル硬さで65HRCの炭素工具鋼製の、端部にねじ加工部6を有するハンマー部5(直径13mm、長さ17mm)を螺着することにより、緊急脱出用工具1を製作した。
【0020】
次に、既存のJIS規格(D5711)の自動車用緊急保安炎筒2(スーパーハイフレヤー5;日本カーリット株式会社製)の端部に、製作した緊急脱出用工具1の冠着部4を嵌着することにより、緊急脱出用工具1を備えた自動車用緊急保安炎筒2を得た。
【0021】
組み立てた緊急脱出用工具1を備えた自動車用緊急保安炎筒2は、自動車用緊急保安炎筒2自体には何の変更もないため、自動車の所定位置に既存の取り付け台にそのまま取り付けることが可能であった。従って、従来通りの設置方法であることから、邪魔にもならず、美観を損ねることもない。自動車用緊急保安炎筒は、通常、車内のほぼ同じ位置の、判り易い場所に取り付けてあるため、当然、緊急脱出用工具1を備えた自動車用緊急保安炎筒2も、非常時に容易に見付けることが可能である。
【0022】
次に、組み立てた緊急脱出用工具1を備えた自動車用緊急保安炎筒2の中央部をアイスピックのように握り、ハンマー部5を普通乗用車(平成14年式ワゴンタイプ車;トヨタ自動車株式会社製)の運転席側サイドウインドウ(強化ガラス、厚さ5mm;国内ガラスメーカー製)に打ち付けたところ、自重、及びハンマー部の硬度も手伝って、一度の操作で確実に窓ガラスを容易に破壊することが出来た。さらに、同一の緊急脱出用工具1を備えた自動車用緊急保安炎筒2を用いて、同じく、助手席側サイドウインドウ(強化ガラス、厚さ5mm;国内ガラスメーカー製)を破壊した後、さらに、運転席側サイドウインドウ(強化ガラス、厚さ5mm;国内ガラスメーカー製)と同一の交換用ガラスの破壊を5回繰り返し行った場合でも、初回と遜色なく、容易に破壊することが可能であった。
【0023】
比較例
実施例で使用した自動車用緊急保安炎筒と同一サイズの、ポリプロピレン樹脂製の柄部の端部に、軟鉄製のハンマー部(ロックウェル硬さで35HRC)を有する緊急工具を使用した以外は、実施例と同様に試験した。
【0024】
この緊急工具を使用し、実施例と同様にして普通乗用車(平成14年式ワゴンタイプ車;トヨタ自動車株式会社製)の運転席側サイドウインドウ(強化ガラス、厚さ5mm;国内ガラスメーカー製)に打ち付けたところ、ガラスの破壊に強い力を要し、また、一度使用したハンマー部の先端はガラスへの打撃による衝撃で潰れており、さらに同一種のガラスを破壊することは不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、自動車事故時等に用いる緊急脱出用工具、及びそれを備えた緊急保安炎筒として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の緊急脱出用工具の側面図
【図2】本発明の緊急脱出用工具の平面図
【図3】本発明の緊急脱出用工具のA−A’断面側面図
【図4】本発明の緊急脱出用工具を備えた自動車用緊急保安炎筒の分解斜視図
【図5】本発明の緊急脱出用工具を備えた自動車用緊急保安炎筒の斜視図
【符号の説明】
【0027】
1 緊急脱出用工具
2 自動車用緊急保安炎筒
3 緊急脱出用工具本体
4 冠着部
5 ハンマー部
6 ねじ加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発炎筒端部への冠着部を備えた緊急脱出用工具であって、自動車等の強化ガラスを割るためのハンマー部が発炎筒の長手方向に向くように設けられたことを特徴とする緊急脱出用工具。
【請求項2】
緊急脱出用工具に設けられたハンマー部の硬度が、ロックウェル硬さで60HRC以上であることを特徴とする請求項1に記載の緊急脱出用工具。
【請求項3】
緊急脱出用工具に設けられたハンマー部の端部にねじ加工が施され、当該緊急脱出用工具本体にハンマー部を螺着できることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の緊急脱出用工具。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の緊急脱出用工具を備えたことを特徴とする自動車用緊急保安炎筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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