説明

緑化基礎工用ネット並びにこれを用いた緑化基礎工法及び緑化工法

【課題】凹凸がある傾斜地においても、吹付部と裸地部が設計通りの略帯状となるように、ネット展開後に微調整できるような緑化基礎工用ネット、これを用いた緑化基礎工法及び緑化工法を提供する。
【解決手段】傾斜地に生育基盤を略帯状に造成する緑化工法に用いる緑化基礎工用ネットであって、本体である粗網目構造のネットと、密網目構造のネットと、を備え、前記密網目構造のネットは、該密網目構造のネットの面全体が前記粗網目構造のネットの面の一部に重ねられ、該粗網目構造のネットの面上に部分的に接合されており、かつ、前記粗網目構造のネットと前記密網目構造のネットとの接合部において、双方のネットが一定範囲で相対的に可動であるように接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面や斜面等の傾斜地において生育基盤を吹き付けて緑化を行う緑化工法に関し、特に、生育基盤を略帯状に吹き付けることにより、導入された植物群落の中に周辺から植物が自然侵入しやすい空間(ギャップ)が形成され、それにより植生遷移が速やかに進行し自然回復が促される緑化工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、法面や斜面等の傾斜地の緑化工法として、イネ科外来草本類、マメ科外来草本類、マメ科低木類、または国内産自生種の種子等を吹き付ける植生基材吹付工(厚層基材吹付工)が広く適用されている。しかし、このような緑化工法では、傾斜地の全面に生育基盤を吹き付けるため、それにより形成された植物群落では、導入植物が長期間に亘り高密度で旺盛に生育する。その結果、周辺からの植物の自然侵入が進まず、植生遷移が停滞するという問題があった。
【0003】
この問題を解決するための手段として、緑化工で形成した植物群落の中に、周辺からの植物が自然侵入しやすい空間を人為的に形成する工法が提示されている。これは、生育基盤を非面的に(裸地を残して部分的に、あるいは略帯状に)吹き付ける緑化工法である(特許文献1、2)。
【0004】
そして、傾斜地に対して非面的に生育基盤を吹き付ける緑化工法においては、その緑化基礎工法として、粗網目構造のネットと密網目構造のネットを組み合わせた緑化基礎工用ネットが用いられている(特許文献3)。これは、本体である粗網目構造のネットに密網目構造のネットを部分的に重ねて密着させたものである。なお、粗網目構造のネットのみの部分が、生育基盤を吹き付ける吹付部となり、密網目構造のネットを重ねた部分が生育基盤を吹き付けない裸地部となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−224429号公報
【特許文献2】特開2000−352057号公報
【特許文献3】特開2001−220750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献3の緑化基礎工用ネットを用いた緑化基礎工法では、施工効率及び傾斜地保護の観点から次のような問題点があった。
【0007】
特許文献3のような従来の緑化基礎工用ネットは、土砂系傾斜地のように表面が平滑な場合には支障がないが、岩質法面のように表面に凹凸がある場合には、緑化基礎工用ネットを傾斜地に展開した後、生育基盤を非面的に吹き付ける際に、吹付部と裸地部の各々の幅を、設計に合うように間隔調整することが困難となる。
【0008】
その結果、緑化基礎工用ネットにおける密網目構造のネットの部分が設計通りの直線状とならず波状にずれてしまったり、裸地部と吹付部の幅が一定に揃わなくなったりする問題があった。このような状態が生じると、緑化基礎工法完了後に吹き付けられる生育基盤も、自ずから波状又は不均一な幅となってしまい、問題であった。
【0009】
さらに、粗網目構造のネットに密網目構造のネットを部分的に接合した緑化基礎工用ネットの製品は、通常、ロール状に巻いたり、折り畳んだりした状態の梱包体として出荷され、現場に搬入される。そして、現場では、製品の梱包を解き、傾斜地等に緑化基礎工用ネットを展開する。その際に、密網目構造のネットが、粗網目構造のネットの幅方向両端に引っ掛かり、ネットの展開が円滑にできないという問題もあった。
【0010】
またさらに、緑化基礎工法の施工においては、緑化基礎工用ネットを法肩部から下方向に転がすようにしたり、法尻部から上方向にロープ等で引きずり揚げるようにしたりして展開しても、双方のネットが絡み合うことなく円滑に展開できることが要求される。双方のネットが絡み合うと、それを解消するために作業員は、絡み合った位置まで傾斜地上を移動しなければならず、負担が大きかった。
【0011】
またさらに、密網目構造のネットには、生育基盤を吹き付けしない裸地部すなわち地山を保護する役割がある。しかし、粗網目構造のネットに接合された密網目構造のネットが地山に十分に密着しなければ、生育基盤を吹き付けられていない裸地部の表層土砂が移動して落石等が発生するという問題がある。
【0012】
またさらに、略帯状に生育基盤を吹き付ける工法は、従来の全面緑化工法と比較して、生育基盤を吹き付ける位置を、吹付前に予め定める必要があることから、短期間で施工を完了させるためには、生育基盤を吹き付ける位置の位置出し作業を極力容易にすることが求められていた。その位置出しの際には、法面防災上、風化しやすい法肩部をしっかりと保護するために、法肩部が生育基盤の吹付部となるように(法肩部が裸地部とならないように)する必要があった。
【0013】
近年では、生物多様性の保全という観点から、遺伝子レベルでの保全を目的として種子や苗木などの植物材料を使用しない緑化(自然侵入促進工)が求められる場合がある。生育基盤を非面的に造成する工法は、コスト削減、及び緑化工で発生する二酸化炭素の削減にも有効な方法であり、これを、自然侵入促進工としても適用できる必要がある。
【0014】
以上の問題点に鑑み、以下のような緑化基礎工用ネット並びに緑化基礎工及び緑化工法が要望されている。
(1)凹凸がある傾斜地においても、吹付部と裸地部が設計通りの略帯状となるように、ネット展開後に微調整できるような緑化基礎工用ネットであること。
(2)展開時に、粗網目構造のネットと密網目構造のネットが互いに引っかかったり、絡み合ったりせず、円滑に展開できるような緑化工基礎工用ネットであること。
(3)傾斜地に生育基盤を略帯状に造成する工法は、法面保護工に分類される工種であるという観点から、第三者影響度を満足させるために、裸地部の土砂移動や落石の発生等を防止できるような緑化工基礎工用ネット及び緑化基礎工であること。
(4)法肩部の強化のために法肩部が生育基盤の吹付部となることを確保すること。
(5)生育基盤を非面的、すなわち略帯状に吹き付ける緑化工法を、自然侵入促進工として適用できること。
【0015】
本発明は、上記の要望を実現する緑化基礎工用ネット並びに緑化基礎工及び緑化工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するべく、本発明は、以下の態様の構成を提供する。
本発明による第1の態様は、傾斜地に生育基盤を略帯状に造成する緑化工法に用いる緑化基礎工用ネットであって、本体である粗網目構造のネットと、密網目構造のネットと、を備え、前記密網目構造のネットは、該密網目構造のネットの面全体が前記粗網目構造のネットの面の一部に重ねられ、該粗網目構造のネットの面上に部分的に接合されており、かつ、前記粗網目構造のネットと前記密網目構造のネットとの接合部において、双方のネットが一定範囲で相対的に可動であるように接合されていることを特徴とする。
【0017】
上記の緑化基礎工用ネットにおいて、前記粗網目構造のネットが所定の幅を有し、前記密網目構造のネットの幅が、前記粗網目構造のネットの幅と同じか又はそれよりも短いことが好適である。
【0018】
上記の緑化基礎工用ネットにおいて、前記粗網目構造のネットが所定の幅を有する菱形金網であり、該菱形金網の幅方向両端部に折返し部を形成されていることが好適である。
【0019】
上記の緑化基礎工用ネットにおいて、前記粗網目構造のネットが所定の幅と不特定の長さを有し、前記密網目構造のネットを接合した該粗網目構造のネットは、長さ方向において巻かれた状態又は折り畳まれた状態の梱包体として梱包されており、かつ、前記傾斜地に該梱包体を展開した際に該密網目構造のネットが該粗網目構造のネットよりも地山側に位置するように、前記梱包体が梱包されていることが好適である。
【0020】
上記の緑化基礎工用ネットにおいて、前記梱包体において、前記巻かれた状態又は折り畳まれた状態とする巻取り又は折畳みの始端の部分が前記密網目構造のネットを接合した部分であり、終端の部分が前記粗網目構造のネットのみの部分であり、始端の部分と終端の部分の間には、前記粗網目構造のネットのみの部分と前記密網目構造のネットを接合した部分とが交互に設けられていることが好適である。
【0021】
本発明による第2の態様は 前記傾斜地に対し上記いずれかに記載の緑化基礎工用ネットを展開し、設計通りの位置出しとなっているか否かを確認し、設計通りとなっていない場合は前記接合部を動かして前記密網目構造のネットの位置を調整した後、前記緑化基礎工用ネットを固定手段により前記傾斜地に固定することを特徴とする緑化基礎工法である。また、この緑化基礎工法において、緑化基礎工用ネットを、前記密網目構造のネットが前記粗網目構造のネットよりも地山側に位置するように固定することが好適である。
【0022】
本発明による第3の態様は、前記傾斜地に対し、上記の緑化基礎工法を施工した後、前記粗網目構造のネットのみの部分に対して生育基盤を吹き付ける緑化工法である。
【0023】
上記の緑化工法において、前記生育基盤に種子を混合しないことが好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明による緑化基礎工用ネットは、密網目構造のネットが粗網目構造のネットと接合されているが、同時に粗網目構造のネットに対して一定範囲で可動であるので、緑化基礎工用ネットを傾斜地に展開した後に、裸地部と吹付部の間隔を調整することができる。
また、密網目構造のネットが地山に密着するので、裸地部の表層保護効果が増大し、落石等の発生を防止できる。
【0025】
本発明による緑化基礎工用ネットは、密網目構造のネットの幅が粗網目構造のネットの幅と同じか又はそれより短いので、あるいは、粗網目構造のネットの幅方向両端が折り返されているので、粗網目構造のネットと密網目構造のネットが引っかかったり、絡み合ったりしない。これにより、緑化基礎工用ネットを法面に展開して張り付ける作業の施工性が向上する。
【0026】
本発明による緑化基礎工用ネットを用いて緑化基礎工法を施工した後、略帯状に生育基盤を造成する緑化工法においては、緑化基礎工用ネットの施工完了後に吹付部の位置出しも完了するので、工期短縮、経費節減を図ることができる。
【0027】
本発明による緑化基礎工用ネットを用いることにより、傾斜地に対し、略帯状に生育基盤を造成する緑化工法において、法肩部に吹付部が位置するように、容易に位置出しをすることができる。
【0028】
本発明による緑化基礎工用ネットを用いて緑化基礎工法を施工した後、粗網目構造のネットのみの部分に生育基盤の吹き付けを行うことにより、略帯状の生育基盤を容易に吹き付け造成することができる。
【0029】
本発明による緑化基礎工用ネットを用いて緑化基礎工法を施工した後、生育基盤を吹き付ける緑化工法にあたり、植生基材に種子を混合せずに吹き付けることにより、自然侵入促進工として適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a)は、緑化基礎工用ネットを傾斜地に張り付けした場合の概略的な側断面図である。(b)は、梱包体の別の実施例を示す概略的な一部側断面図である。
【図2】(a)は、緑化基礎工用ネットの一実施例の展開平面図であり、(b)は、密網目構造のネットの平面図であり、(c)は、接合部における接合に用いる止めリングであり、(d)は、緑化基礎工用ネットを持ち上げた状態における(a)のA−A概略断面図である。
【図3】(a)(b)はそれぞれ、緑化基礎工用ネットの別の実施例の概略的な展開平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ、本発明の実施形態を説明する。
図1(a)は、緑化基礎工用ネットを傾斜地に張り付けした場合の概略的な側断面図である。(b)は、梱包体の別の実施例を示す概略的な一部側断面図である。
【0032】
図1(a)に示すように、本発明の緑化基礎工用ネット1が、傾斜地10に対して法肩部(傾斜地10の上端)から梱包を解かれて展開され、アンカーピン4を用いて張り付けられている。なお、図1では、本発明の構成を分かり易く示すために、傾斜地10の地山と緑化基礎工用ネット1との間隙、並びに、緑化基礎工用ネット1における粗網目構造のネット2と密網目構造のネット3との間隙を、誇張して示している。実際には、これらの間隙はゼロである(すなわち双方が接触している)か、極めて僅かである。
【0033】
法肩部には、粗網目構造のネット2のみの部分が位置し、略帯状に生育基盤を吹き付ける緑化工法における吹付部7となる。上端の吹付部7の直下には、密網目構造のネット3を接合した部分が位置し、この部分は裸地部6となる。傾斜方向において、密網目構造のネット3を接合した部分と粗網目構造のネット2のみの部分が交互に位置する。すなわち、裸地部6と吹付部7が交互に位置する。本実施例では、法尻部(傾斜地10の下端)には、密網目構造のネット3を接合した部分が位置して裸地部6となっているが、別の実施例として、法尻部に粗網目構造のネット2が位置して吹付部7となってもよい。裸地部6と吹付部7の各々の傾斜方向における長さは、任意に設定できる。アンカーピン4の打設本数も特に限定されるものではなく、アンカーピン以外の固定手段により張り付けてもよい。
【0034】
展開前の緑化基礎工用ネット1は、例えば、梱包体5のようにロール状に巻かれた状態で梱包されている。この梱包体5は、展開すると、密網目構造のネット3が地山側に位置するように巻かれている。図1(b)は、梱包体5の別の実施例を示す。このようにジグザグに折り畳んだ状態で梱包してもよい。この場合も、展開すると、密網目構造のネット3が地山側に位置するように折り畳まれている。図1(b)に示す梱包体5の実施例は、粗網目構造のネット2と密網目構造のネット3の境界部付近で折り畳まれているが、折り畳む位置はこの形状に限定されず、梱包の都合により任意の位置で折り畳んでもよい。緑化基礎工用ネット1の梱包体5は、法肩部から下方に転がして展開するか、又は、法尻部から上方に引き揚げて展開する。
【0035】
本発明の緑化基礎工用ネット1は、本体である粗網目構造のネット2と、複数枚の密網目構造のネット3とを備えている。1枚の密網目構造のネット3は、その密網目構造のネット3の面全体が粗網目構造のネット2の面の一部に重ねられ、粗網目構造のネット2に対し部分的に接合されている。この両ネットの接合された部分を「接合部」と称する。図示の例では、密網目構造のネット3の周縁の一部のみが接合部9となっている。接合部9の形態は、特に限定しないが、後述する図2において具体例を説明する。
【0036】
本発明では、従来の二重ネットのように双方のネット2、3を密着し一体化させるように張り付けず、部分的に接合するのみである。このように、双方のネット2、3を部分的に接合することにより、緑化基礎工用ネット1を、密網目構造のネットを下側にして持ち上げた際に、密網目構造のネット3が粗網目構造のネット2のネットから下方に少し垂れ下がる形状となることができる(後述の図2(d)参照)。
【0037】
このような形態の緑化基礎工用ネット1とすることにより、傾斜地に緑化基礎工用ネット1を展開した際に、表面に凹凸があっても、密網目構造のネット3を地山に密着させることができる(もちろん、完全に密着させることはできないが、従来の双方のネット同士が密着している緑化基礎工用ネットと比較すれば、大幅に地山に対して密着しやすくなる)。これにより、密網目構造のネット3により地山の表層を保護する効果が得られる。なお、特に密網目構造のネット3を地山に対して密着する必要がない場合や、密網目構造のネット3を地山側に位置させることが支障となるような場合には、粗網目構造のネットが地山側になるようにしてもよい。このようにしても、生育基盤を略帯状に吹き付ける緑化工法の緑化基礎工用ネットとしての効果は十分に発揮される。
【0038】
さらに、粗網目構造のネット2と密網目構造のネット3との接合部9において、双方のネットが一定範囲で相対的に可動であるように接合されている。これにより、傾斜地10に緑化基礎工用ネット1を展開した後に、裸地部6となる密網目構造のネット3の部分の位置を、上下左右前後にすなわち2次元的あるいは3次元的に調整することが可能となる。この結果、裸地部6及び吹付部7の略帯状の間隔を、設計通りにしっかり位置出しすることが可能となる。緑化基礎工用ネット1を用いた本発明による緑化基礎工法は、次のように施工する。先ず、傾斜地10に対し緑化基礎工用ネット1を展開し、裸地部6と吹付部7となる部分について設計通りの位置出しとなっているか否かを確認し、設計通りとなっていない場合は接合部9を動かして密網目構造のネット3の位置を調整した後、緑化基礎工用ネット1をアンカーピン等の固定手段により傾斜地10に固定する。
【0039】
一般的には傾斜地10には凹凸があるため、従来技術のように粗網目構造のネット2と密網目構造のネット3とを密着した構造にしてしまうと、緑化基礎工用ネット1を展開した後に、密網目構造のネット3の部分の位置を微修正することはできない。
【0040】
図2(a)は、図1に示した緑化基礎工用ネットの一実施例の展開平面図であり、(b)は、密網目構造のネットの平面図であり、(c)は、接合部における接合に用いる止めリングであり、(d)は、緑化基礎工用ネットを持ち上げた状態における(a)のA−A概略断面図である。
【0041】
図2(a)に示すように、本実施例では、粗網目構造のネット2は、所定の幅と適宜の長さを有する反物状の本体を構成する。一方、図2(b)に示す密網目構造のネット3は、粗網目構造のネット2と同等の幅と所定の長さを有する長方形であるが、この形状に限定されない。粗網目構造のネット2の長さは、巻取り始端から巻取り終端までの不特定の長さであり、製造及び取扱い等の便宜により設定する。長さ方向は、傾斜地に展開したときの傾斜方向となる。
【0042】
粗網目構造のネット2の幅は、例えば、1〜2m程度である。粗網目構造のネット2は、例えば、線径2mm、網目50mm×50mmの菱形金網である。密網目構造のネット3は、粗網目構造のネット2よりも網目が細かく、例えば樹脂ネットである。密網目構造のネット3は、粗網目構造のネット2に対し全面的に接着や熱着させるのではなく、部分的に接合されており、かつ双方のネットが一定範囲で相対的に可動である接合部9にて接合されている。好適な可動接合手段は、例えば、図2(c)に示すようなC型の止めリング8である。C型の止めリング8に、双方のネットの適宜の筋線を引っ掛けることにより接合する。図示の例では、密網目構造のネット3の周縁を一定間隔毎に止めリング8により粗網目構造のネット2に接合している。他の例として、結束具により双方のネットの筋線同士を緩めに結束する手段があるが、接合部が可動な状態であれば、接合手段はこれらに限定されるものではない。
【0043】
隣り合う2つの接合部9の間隔は、任意に設定可能であるが、あまり広くすると密網目構造のネット3が下垂(図2(d)参照)しすぎてしまい、梱包や展開時の作業性が悪化するため、上述のネット幅及び網目を例とした場合、5〜50cm間隔、さらに好適には20〜30cm間隔を目安とする。
【0044】
また、図2(a)では、密網目構造のネット3の周縁のみを接合部9としているが、密網目構造のネット3の弛みが大きすぎる場合には、例えば、密網目構造のネット3の中央部分にも接続部9を設けることにより、弛みを適度に調整できる。
【0045】
さらに、図2(a)に示すように、粗網目構造のネット2が菱形金網である場合には、幅方向両端に折り曲げ加工(ナックル加工)を施すことにより、折返し部2aを形成することが好適である。折返し部2aの幅は、例えば、粗網目構造のネット2の1網目分とする。これにより、粗網目構造のネット2に密網目構造のネット3を部分的に接合した場合でも、密網目構造のネット3の材質に関わらず双方の絡み合いを防止することができる。
【0046】
折り曲げ加工自体は公知の技術であり、菱形金網を展開する際に絡み合いを防止する効果が知られている。本発明の開発段階における実験により、菱形金網に密網目構造のネット3を部分的に接合した緑化基礎工用ネット1における絡み合いを防止する手段としても、折り曲げ加工が有効であることが確認された。ここで注意すべき点は、折り曲げ加工により、菱形金網自体の絡み合いを防止できることは公知であるが、菱形金網に部分的に接合された密網目構造のネット3が当該菱形金網と絡み合うという、従来技術における問題点までも解決できるという点である。菱形金網の折り曲げ加工については、幾つかの方法が公知であるが、これまでの実験により、水平ナックル加工及び完全ナックル加工のいずれも有効であることを確認した。
【0047】
またさらに、図2(a)に示すように、緑化基礎工用ネット1の巻取り始端に接続しろ2bを設けておくと、2枚の緑化基礎工用ネット1同士を長さ方向において接合する場合に、施工性が向上する。図示のように、巻取り始端の部分に密網目構造のネット3の部分が位置し、巻取り終端の部分に粗網目構造のネット2のみの部分が位置するようにすると、接続しろ2bを用いて2枚の緑化基礎工用ネット1を継ぎ足した場合にも、継ぎ足し部分において2種のネット2、3が交互に位置することになる。接続しろ2bの長さは、例えば、粗網目構造のネット2の1網目分とする。このような接続しろ2bを設けることにより、緑化基礎工用ネット1同士の接合作業の際に、密網目構造のネット3が支障とならず、円滑に作業することができる。この長さ方向におけるネット同士の接合は、例えば、鉄線を折り込んだり、アンカーピンや結束線等を用いたりして行う。
【0048】
図3(a)(b)はそれぞれ、緑化基礎工用ネットの別の実施例の概略的な展開平面図である。図3(a)は、密網目構造のネット3の幅を一端において短縮し、粗網目構造のネット2の一端よりも内方に位置させた実施例である。図3(b)は、密網目構造のネット3の幅を両端において短縮し、粗網目構造のネット2の両端よりも内方に位置させた実施例である。これにより、密網目構造のネット3の片側又は両側に、粗網目構造のネット2のみの部分が形成される。このように、密網目構造のネット3の幅を短縮することによっても、粗網目構造のネット2と密網目構造のネット3の絡み合いを防止することができる。
【0049】
加えて、緑化基礎工用ネット1を展開して張り付ける際、2枚の緑化基礎工用ネット1を幅方向において接合する場合に、緑化基礎工用ネット1同士の重ね合わせ目として利用することができる。これにより、密網目構造のネット3の使用量を削減でき、経済性や施工性が向上する。
【0050】
密網目構造のネット3の幅の短縮寸法は特に限定しないが、上述のネット幅及び網目を例とした場合、粗網目構造のネット2の幅よりも1〜2cm程度短くするだけでも、効果が得られることが実験で確認された。例えば、粗網目構造のネット2の網目を1単位として、短縮寸法を何単位とするかを決定することが、実用的である。
【0051】
ここで、再び図1(a)(b)を参照しつつ、緑化基礎工用ネット1の梱包体5及びこれを用いた緑化基礎工法の好適な実施例について、さらに説明する。
法面緑化において一般的に用いられている菱形金網や樹脂ネットは、通常、施工の際に表裏を意識する必要はない。しかし、本発明においては、緑化基礎工用ネット1における密網目構造のネット3が粗網目構造のネット2から地山側に若干垂れ下がる形態をとることにより、効果が発揮される。従って、密網目構造のネット3が地山側となるように梱包体5を展開して張り付ける必要がある。そのため、緑化基礎工用ネット1の梱包方法すなわち梱包体5の形態は、施工性を左右する重要な要件と云える。
【0052】
密網目構造のネット3を粗網目構造のネット2に接合した接合部9は、それ以外の部分よりも厚みを有している。従って、密網目構造のネット3の厚さや材質によっては、折り畳んで梱包することが、困難となる場合がある。従って、緑化基礎工用ネット1は、ロール状に巻いて梱包体5とすることが好適である。また、ロール状に巻く際には、粗網目構造のネット2が内側に、密網目構造のネット3が外側となるようにすることが、好適である。これにより、梱包体5を、法肩部から下方へ転がしながら展開する場合も、法尻部からロープ等で引き揚げながら展開する場合も、密網目構造のネット3を容易に地山側に配置させることができる。
【0053】
さらに、図1(a)に示すように、傾斜地10に梱包体5を展開した際に、傾斜地10の上端には粗網目構造のネット2のみの部分が位置する。これは、傾斜地10が法面である場合、構造的に法肩部は風化しやすいため、十分に粗網目構造のネットの上に吹き付けられる生育基盤にて保護する必要があるからである。従って、法面に生育基盤を略帯状に造成する工法を適用する場合には、法肩部が吹付部となるように位置出しすることが望ましい。一方、傾斜地10の下端には、いずれのネットが位置してもよい。梱包体5は、このような展開配置となるように梱包されていることが、好適である。
【0054】
また、本発明の緑化基礎工用ネット1は、略帯状に生育基盤を造成するために用いられるので、傾斜地10の上端と下端の間では裸地部と吹付部が交互に設定される。すなわち、粗網目構造のネット2のみの部分と、密網目構造のネット3の部分とが交互になるように、密網目構造のネット3が粗網目構造のネット2に対して接合されている。
【0055】
具体的には、巻かれた状態又は折り畳まれた状態の梱包体5において、巻取り又は折畳みの始端の部分(ロール状に巻かれた状態の場合は中心部分)が密網目構造のネット3を接合した部分となるようにし、終端の部分(ロール状に巻かれた状態の場合は外周部分)が粗網目構造のネット2のみの部分となるようにする。そして、それらの部分の間には、粗網目構造のネット2のみの部分と前記密網目構造のネット3を接合した部分とが交互に設けられる。これにより、法肩部から転がして展開する場合も、法尻部から引き揚げて展開する場合も、法肩部に、吹付部つまり粗網目構造のネット2のみの部分を位置させることができる。
【0056】
本発明による緑化基礎工用ネット1を用いた緑化工法は、次のように行う。
先ず、上述の通り、緑化基礎工用ネット1を傾斜地に張り付ける緑化基礎工法を行う。この時点で、吹付部となるべき部分の位置出しが完了している。次に、緑化基礎工用ネット1の粗網目構造のネット2のみの部分に生育基盤を吹き付ける。これにより、略帯状の生育基盤を非面的に容易に吹き付けることが実現され、作業効率が増大する。
【0057】
さらに、上記の緑化工法においては、生育基盤に種子を混合しないことが好適である。これにより、略帯状の生育基盤を吹き付けた吹付部7において法面を保護する一方、生育基盤を吹き付けていない裸地部6において飛来する種子を早期に捕捉する。飛来する種子はいずれ吹付部にも定着し、吹付部の生育基盤から肥料養分が裸地部にも供給される形となり、裸地部に自然侵入した植物の生育を促す効果も期待できる。この結果、本発明の緑化基礎工用ネット1による緑化工法を、自然侵入促進工として応用することが実現される。当然ながらこの場合、生育基盤として耐侵食性の大きい材料を用いることが必要である。
【0058】
また、密網目構造のネット3が地山側に少し下垂して地山と接する状態となることにより、裸地部の土砂移動を物理的に抑制する。それと同時に、周辺から飛来する種子を捕捉する効果を高めることができる。種子の捕捉効率をより高めるためには、密網目構造のネット3を立体構造にすると有効である。
【0059】
本発明による、生育基盤に種子を混合せずに非面的に造成する緑化工法を、実際の法面(法面勾配1:0.8の切土法面)に対して試験的に施工した。その結果、裸地部には施工4ヶ月後には風散布種のイタドリ、ススキ、ヨモギ、メヒシバ等の草本植物が自然侵入し、その後は徐々に吹付部にも植物が自然侵入するようになり、1年7ヶ月後にはアカマツ、アカメガシワ等の木本植物が自然侵入することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
法面に生育基盤を略帯状に造成する緑化工法は、コスト縮減と二酸化炭素の排出量を削減できる工法であって、全面緑化に代わる工法として社会に貢献する。生育基盤を非面的に造成することにより、緑化工事で形成させる植物群落内に空間(ギャップ)を人為的に創出し、周囲から飛来する種子や鳥などにより散布される種子を効率よく裸地部が捕捉する。この結果、生物多様性に配慮した、周辺環境と調和する傾斜地緑化が実現される。
【符号の説明】
【0061】
1:緑化基礎工用ネット
2:粗網目構造のネット
2a:折返し部
2b:接続しろ
3:密網目構造のネット
4:アンカー
5:ロール梱包体
6:裸地部
7:吹付部
8:止めリング
9:接合部
10:傾斜地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
傾斜地に生育基盤を略帯状に造成する緑化工法に用いる緑化基礎工用ネットであって、
本体である粗網目構造のネットと、密網目構造のネットと、を備え、
前記密網目構造のネットは、該密網目構造のネットの面全体が前記粗網目構造のネットの面の一部に重ねられ、該粗網目構造のネットの面上に部分的に接合されており、かつ、
前記粗網目構造のネットと前記密網目構造のネットとの接合部において、双方のネットが一定範囲で相対的に可動であるように接合されていることを特徴とする、緑化基礎工用ネット。
【請求項2】
前記粗網目構造のネットが所定の幅を有し、前記密網目構造のネットの幅が、前記粗網目構造のネットの幅と同じか又はそれよりも短いことを特徴とする、請求項1に記載の緑化基礎工用ネット。
【請求項3】
前記粗網目構造のネットが所定の幅を有する菱形金網であり、該菱形金網の幅方向両端部に折返し部を形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の緑化基礎工用ネット。
【請求項4】
前記粗網目構造のネットが所定の幅と不特定の長さを有し、前記密網目構造のネットを接合した該粗網目構造のネットは、長さ方向において巻かれた状態又は折り畳まれた状態の梱包体として梱包されており、かつ、前記傾斜地に該梱包体を展開した際に該密網目構造のネットが該粗網目構造のネットよりも地山側に位置するように、前記梱包体が梱包されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の緑化基礎工用ネット。
【請求項5】
前記梱包体において、前記巻かれた状態又は折り畳まれた状態とする巻取り又は折畳みの始端の部分が前記密網目構造のネットを接合した部分であり、終端の部分が前記粗網目構造のネットのみの部分であり、始端の部分と終端の部分の間には、前記粗網目構造のネットのみの部分と前記密網目構造のネットを接合した部分とが交互に設けられていることを特徴とする請求項4に記載の緑化基礎工用ネット。
【請求項6】
前記傾斜地に対し請求項1〜5のいずれかに記載の緑化基礎工用ネットを展開し、設計通りの位置出しとなっているか否かを確認し、設計通りとなっていない場合は前記接合部を動かして前記密網目構造のネットの位置を調整した後、前記緑化基礎工用ネットを固定手段により前記傾斜地に固定することを特徴とする緑化基礎工法。
【請求項7】
前記緑化基礎工用ネットを、前記密網目構造のネットが前記粗網目構造のネットよりも地山側に位置するように固定することを特徴とする請求項6に記載の緑化基礎工法。
【請求項8】
前記傾斜地に対し、請求項6又は7に記載の緑化基礎工法を施工した後、前記粗網目構造のネットのみの部分に対して生育基盤を吹き付けることを特徴とする、緑化工法。
【請求項9】
前記生育基盤に種子を混合しないことを特徴とする、請求項8に記載の緑化工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−144890(P2012−144890A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3298(P2011−3298)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 発行者名 :日本緑化工学会 刊行物名 :日本緑化工学会誌 Journal of the Japanese Society of Revegetation Technology 巻数 :第36巻 号数 :第2号 発行年月日:平成22年11月30日
【出願人】(392012261)東興ジオテック株式会社 (28)
【Fターム(参考)】