説明

線状体保護部材及びコールド成形型

【課題】線状体を曲げ容易に保護するとともに、軽量性と緩衝性に優れた線状体保護部材を製造するための技術を提供する。
【解決手段】線状体を覆って保護する線状体保護部材である。線状体保護部材は、不織布がホットプレスされることにより形成され、保護対象となる前記線状体の延在方向に沿って延びる経路規制部分と、不織布がホットプレスされることにより形成され、前記経路規制部分よりも曲げ容易な曲げ許容部分と、を有し、前記曲げ許容部分の外周面には、凹部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両等に配索される電線などの線状体を保護する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤーハーネスを保護する保護部材に関する技術が特許文献1に開示されている。特許文献1では、ワイヤーハーネスを樹脂被覆材で保護されている。該樹脂被覆材は、らせん状に凹部が連続するように溝周面に凹凸部が形成された金型を用いて形成される。このような樹脂製被覆材の外周面には、螺旋状に凹部が形成される。このような樹脂製被覆材を採用した場合、ワイヤーハーネス自体の曲げを容易にしつつ、かつ電線などの線状体を保護することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−317555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のように保護部材は樹脂製であるため、重量が重くなるという問題がある。また、樹脂性の保護部材の場合、ある程度の剛性を有するため、周囲の部材に接触することによって、異音が発生しやすい。そのため、曲げ容易性を備えつつ、かつ、軽量、緩衝性に優れた保護部材が求められている。
【0005】
そこで本発明は、線状体を曲げ容易に保護するとともに、軽量性と緩衝性に優れた線状体保護部材を製造するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、第1の態様は、線状体を覆って保護する線状体保護部材であって、不織布がホットプレスされることにより形成され、保護対象となる前記線状体の延在方向に沿って延びる経路規制部分と、不織布がホットプレスされることにより形成され、前記経路規制部分よりも曲げ容易な曲げ許容部分とを有し、前記曲げ許容部分の外周面に、凹部が形成されている。
【0007】
また、第2の態様は、第1の態様に係る線状体保護部材において、前記曲げ許容部分の不織布の目付量が、前記経路規制部分の不織布の目付量より小さい。
【0008】
また、第3の態様は、第1または2の態様に係る線状体保護部材において、前記経路規制部分と前記曲げ許容部分とは、圧縮度合、加熱温度及びプレス時間のうち少なくとも一つを異ならせて前記不織布をホットプレスすることにより形成されている。
【0009】
また、第4の態様は、第1から3までのいずれか1項の態様に係る線状体保護部材において、前記曲げ許容部分の内周面に、凹部が形成されている。
【0010】
また、第5の態様は、ホットプレスされた不織布を冷却することによって、線状体を覆って保護する線状体保護部材を成形するコールド成形型であって、前記不織布が設置するための空間を形成する設置空間形成部に、凸部が形成されている。
【0011】
また、第6の態様は、第5の態様に係るコールド成形型において、前記凸部が形成された装着部材を着脱自在に装着される装着部を有している。
【発明の効果】
【0012】
第1態様に係る線状体保護部材によると、曲げ容易部分に形成された凹部に沿って曲げやすくなる。また、不織布を加工するため、軽量かつ緩衝性に優れた線状体保護部材を形成することができる。
【0013】
第2の態様に係る線状体保護部材によると、経路規制部分よりも曲げ許容部分を曲げやすく形成することができる。
【0014】
第3の態様に係る線状体保護部材によると、ホットプレスする際の圧縮度合、加熱温度及びプレス時間のうち少なくとも一つを異ならせることで、経路規制部分と曲げ許容部分を形成することができる。
【0015】
第4の態様に係る線状体保護部材によると、内周面に凹部が形成されていることによって、より曲げやすくなる。
【0016】
第5の態様に係るコールド成形型によると、不織布加熱後の冷却時に、線状体保護部材に凹部を形成することができる。したがって、線状体保護部材に曲げ容易とする凹部を形成することができる。
【0017】
第6の態様に係るコールド成形型によると、装着部材を装着することで、不織布に凹部を形成することができる。したがって、コールド成形型に凹部を形成する必要がなくなる。また、線状体保護部材に形成すべき凹部の形状を変更する場合にも、柔軟に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る線状体保護部材の概略斜視図である。
【図2】曲げ許容部分が曲げられている線状体保護部材の概略斜視図である。
【図3】成形前の線状体保護部材を示す概略斜視図である。
【図4】コールド成形型の一例を示す概略断面図である。
【図5】治具の概略斜視図である。
【図6】第2実施形態に係る線状体保護部材の概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施形態に係る線状体保護部材について説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成はあくまでも例示であり、本発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
{1. 第1実施形態}
{線状体保護部材}
図1は、第1実施形態に係る線状体保護部材20の概略斜視図である。また図2は、曲げ許容部分24が曲げられている線状体保護部材20の概略斜視図である。
【0021】
線状体保護部材20は、電線10を被覆して保護するための部材として用いられる。電線10としては、車両等において各種電気機器間を相互接続するするためのワイヤーハーネスを構成するものが想定される。本願の線状体保護部材20による保護対象物は、1本の電線10であってもよいし、複数本の電線10であってもよい。また、電線10以外の線状体(例えば光ファイバケーブルなど)を保護対象とすることもできる。本実施形態では、複数の電線10が束ねられた電線束12が保護対象である場合を例にして説明する。
【0022】
線状体保護部材20は、不織布30をホットプレスすることにより形成されている。不織布30としては、加熱工程を経ることにより硬くなる不織布を適用することができる。具体的に不織布30としては、互いに絡み合う基本繊維と接着樹脂(バインダとも呼ばれる。)とを含むものを用いることができる。接着樹脂は、基本繊維の融点よりも低い融点(例えば、摂氏110度〜115度)を有する樹脂を利用することができる。
【0023】
このような不織布において、基本繊維の融点よりも低く、かつ、接着樹脂の融点よりも高い加工温度に加熱されると、接着樹脂が溶融して基本繊維間に染みこんでいく。その後、不織布が接着樹脂の融点よりも低い温度になることにより、基本繊維同士が結合された状態で接着樹脂が硬化する。これにより、不織布が過熱前の状態よりも硬化して、所要の成型状態に維持されるようになる。
【0024】
接着繊維は、粒状のものであってもよいし、繊維状のものであってもよい。芯繊維の外周に接着樹脂層を形成してバインダ繊維を構成し、これを基本繊維と絡み合わせるようにしてもよい。この場合の芯繊維としては、上記基本繊維と同材料のものを用いてもよい。
【0025】
上記基本繊維としては、接着樹脂の融点で遷移状態を保つことができればよく、樹脂繊維の他、各種繊維を用いることができる。また、接着樹脂としては、基本繊維の融点よりも低い融点を持つ熱可塑性樹脂繊維を用いることができる。
【0026】
基本繊維と接着樹脂の組合せとしては、基本繊維をPET(ポリエチレンテレフタレート)、の樹脂繊維とし、接着樹脂をPETとPEI(ポリエチレンイソフタレート)の共重合樹脂とした例が挙げられる。この場合、基本繊維の融点はおよそ摂氏250度であり、接着樹脂の融点はおよそ摂氏110度〜150度である。このため、不織布が摂氏110度〜250度の温度に加熱されると、接着樹脂が溶融し、溶融せずに繊維状を保つ基本繊維間に染みこむ。そして、不織布が接着樹脂の融点よりも低い温度になると、接着樹脂が基本繊維同士を結合した状態で固化する。これにより、不織布は硬化して所定の成形形状を維持する。
【0027】
また、ホットプレスとは、加工対象物である不織布を金型間に挟み込み、加熱状態で金型に圧力を加えて不織布を成型加工することをいう。線状体保護部材20を製造するのに適したホットプレス加工の例については、後に詳述する。
【0028】
線状体保護部材20は、電線束12を被覆する形状を有している。本実施形態では、線状体保護部材20は、不織布が電線束12の長手方向の一部を覆った状態でホットプレスされることにより形成されている。線状体保護部材20は、電線束12の長手方向略全体を覆っていてもよい。
【0029】
図3は、成形前の線状体保護部材20を示す概略斜視図である。本実施形態では、一枚の不織布(不織布30)で電線束12が包み込まれた状態で、当該不織布30がホットプレスされることにより、線状体保護部材20が形成されている。このため、線状体保護部材20の内周面は、電線束12を覆った状態で不織布30がホットプレスされる状態で電線束12に密着している。
【0030】
なお、電線束12を複数枚の不織布30で覆い、それらをホットプレスすることにより一体化させて、線状体保護部材20を形成するようにしてもよい。
【0031】
図1に戻って、線状体保護部材20は、保護対象である電線束12の延在方向に沿って経路規制部分22,22と、曲げ許容部分24とを有している。経路規制部分22及び曲げ許容部分24は、電線束12を一定形状に維持できる程度の硬さを有している。経路規制部分22は、電線束12が一方向に直進的に延びるように、経路規制する部分である。曲げ許容部分24は、経路規制部分22によって直線的に延びる電線束12が所要の方向に曲がることを許容しつつ経路規制する部分である。
【0032】
本実施形態では、一つの曲げ許容部分24を挟むようにして2つの経路規制部分22が形成されている。このため、図2に示したように、経路規制部分22,22の間の位置において、電線束12を曲げて配設できるようになっている。
【0033】
線状体保護部材20は、少なくとも一つの曲げ許容部分24を有していればよい。例えば、複数の経路規制部分22と複数の曲げ許容部分24とが、電線束12の延在方向に沿って交互に形成されていてもよい。また、経路規制部分22と曲げ許容部分24とは、明確な略線状境界で区別される必要はない。経路規制部分22と曲げ許容部分24との接続部分において、電線束12の延在方向が、連続的もしくは段階的に曲がるように構成されていてもよい。つまり、曲げ許容部分24を有する線状体保護部材20とは、電線束12(または電線10)の延在方向を、一方向から他方向へ変更する特性を有することを意味している。
【0034】
経路規制部分22は略直線状に延在する形状とされ、保護対象である電線束12を直線状に維持する構成とされている。ただし、経路規制部分22は、必ずしも直線状である必要はない。例えば、経路規制部分22の代わりに、弧状に曲がる等して、電線束12を弧状に延在する形態等の経路規制部分を設けてもよい。また、本実施形態では、経路規制部分22は、直方筒状(つまり、横断面(線状体保護部材20の延在方向に垂直な断面)が正方形または長方形状)に形成されているが、円筒状(横断面が円形(楕円形を含む))に形成されていてもよい。
【0035】
曲げ許容部分24の外周面には、長手方向に交差する方向(ここでは直交する方向)に沿って延びる凹部が形成されている。より詳細には、曲げ許容部分24の両側の外側面に、凹部と凸部とを交互に繰り返す凹凸構造24aが形成されている。凹凸構造24aは、縦断面(線状体保護部材20の延在方向に平行な断面)において、凹部と凸部とがのこぎり状に連続する形状となっている。この凹凸構造24aは、後述する金型成形において形成される。曲げ許容部分24にこのような凹凸構造24aを設けることにより、凹凸構造24aの凹部に沿って折れやすくなる。つまり、凹部の延びる方向に沿って曲げることが容易になる。このようにして、曲げ許容部分24は、経路規制部分20よりも曲げ容易となっている。
【0036】
なお、凹凸構造24aは、曲げ許容部分24の片側の側面だけに設けられていてもよい。また、外周面の全面に凹凸構造24aが設けられていてもよい。このとき、外周面に沿って環状(またはらせん状)に延びるように、凹部(溝)を形成してもよい。
【0037】
上記線状体保護部材20によって保護された電線束12を車両に敷設する際には、曲げ許容部分24で電線束12が曲げられることにより、車両のボディ及び車両搭載部品等の間の設置スペースに沿って電線束12を配設することができる。この状態では、電線束12のうち線状体保護部材20によって覆われた部分は、当該線状体保護部材20によって他の部分との接触が抑制されるように保護される。また、電線束12のうち、線状体保護部材20によって覆われた部分は、経路規制部分22,22及び曲げ許容部分24の形態に応じて形態が維持される。
【0038】
さらに、不織布30は、電線束12を覆った状態でホットプレス加工される。これにより、ホットプレス加工後の不織布30は、電線束12の外周面に略隙間なく密着させることができる。したがって、線状体保護部材20を電線束12にしっかりと固定でき、線状体保護部材20の位置ずれ等を抑制できる。また、線状体保護部材20と電線束12との隙間を抑制することができるため、振動等に起因する線状体保護部材20と電線束12との間の接触音等を抑制することもできる。このように、不織布30を加工することにより、緩衝性に優れた線状体保護部材20を形成することができる。また、不織布30を加工することにより、軽量性に優れた線状体保護部材20を形成することができる。
【0039】
{線状体保護部材20の製造方法}
次に、線状体保護部材20の製造方法について説明する。
【0040】
線状体保護部材20は、(a)不織布30を加熱することにより、経路規制部分22と曲げ許容部分24とを加熱軟化状態とする工程と、(b)加熱軟化状態の不織布30を曲げ許容部分24に凹部を形成しつつ、冷却して硬化させる工程とを経て製造される。なお、ここでいう硬化とは、内部の電線束12を所要の配索経路に沿って規制することができる程度の剛性を持つ程度の硬化をいい、少なくとも曲げ許容部分24においては、作業者の取り扱いに応じて若干変形可能な程度の硬化をいう。
【0041】
まず、図3に示したホットプレス前の線状体保護部材20が、図示を省略するホットプレス用成形型(図示せず。)に設置される。このホットプレス用成形型としては、例えば上型と下型とを組み合わせることによって、略直方体形状の溝を形成するものが想定される。この溝内に、線状体保護部材20を形成するための不織布30で覆われた電線束12を設置し、ホットプレスを行う。このとき、外部のヒーターまたはホットプレス用成形型に内蔵されたヒーターによって、不織布30の接着樹脂が溶融する温度にまでホットプレス用成形型の内部が加熱される(ホットプレス)。このホットプレス加工により、線状体保護部材20が電線束12の延在方向に沿って略直方体状に延びるように成形される。
【0042】
上記ホットプレス加工が完了すると、線状体保護部材20がホットプレス用成形型から取りだされる。このとき、接着樹脂が完全に固化よりも前(線状体保護部材20の温度が接着樹脂の融解温度以下になる前)に、線状体保護部材20がホットプレス成形型から取り出される。取り出された線状体保護部材20は、コールド成形型40内に設置される。
【0043】
図4は、コールド成形型40の一例を示す概略断面図である。図4は、コールド成形型40を縦に(長手方向に垂直に)切ったときの切り口(縦断面)を示している。また、図5は、治具50の概略斜視図である。コールド成形型40は、下型42と上型44とで構成されている。下型42は、金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(状面)に下型面421が形成されている。下型面421は、概略的には、上方及び両端部に開口する直方溝を形成する。また、上型44は、金属等により形成された長尺部材であり、その一主面(下面)に上型面441が形成されている。上型44は、下型42の下型面421によって形成される直方溝に装着される。これにより、コールド成形型40の内部にホットプレス後の線状体保護部材20を設置する設置空間40Sが形成される。つまり、本実施形態では、下型42の下型面421と上型44の上型面441とにより、設置空間形成部46が形成されている。
【0044】
下型面421の中央部付近と上型面441の中央部付近とには、治具50,50(装着部材)が着脱自在に装着される装着部を備えている。図5に示したように、治具50の上面には、複数の凸部が形成されている。より具体的には、治具50の上面には、V字形状の凸部と凹部とが連続する凹凸構造が形成されている。下型面421または上型面441の装着部にこのように、コールド成形型40においては、治具50が装着されることによって、前記直方溝に凹凸構造が形成されることとなる。この凹凸構造が線状体保護部材20に押し当てられることにより、曲げ許容部分24の外周面に凹凸構造24aが形成される。
【0045】
なお、治具50は、下型面421または上型面441に対して、例えば図示しないボルトなどの固定手段により取り付けられる。もちろん、係止爪や接着テープなどを利用して取り付けるようにしてもよい。また、下型面421と上型面441とに、必ずしも全く同一の治具50を装着する必要はない。曲げ許容部分24の外周面に凹部形状を形成できるのであれば、どのような形状の治具が下型面421または上型面441に装着することができる。
【0046】
ホットプレス用成形型から取り出された線状体保護部材20は、治具50が下型面421に取り付けられた下型42の直方溝に設置される。そして治具50が上型面441に取り付けられた上型44が該直方溝に挿入され、上側から線状体保護部材20を押圧するように上型44が装着される。この状態で、線状体保護部材20が十分に冷えるまで(少なくとも、接着樹脂が固化するまで)所定時間の間放置される。
【0047】
以上のような工程を経ることにより、図1に示した曲げ許容部分24を有する線状体保護部材20が形成される。
【0048】
このように不織布30を採用した場合、加熱と冷却とを別の成形型で行うことができる。また、凹凸構造を形成するために、ホットプレス用成形型に凹凸構造24aに対応する形状部分を設けなくてすむ。したがって、ホットプレス用成形型の製造コストを抑えることができる。
【0049】
さらに、コールド成形型40において線状体保護部材20を成形する際には、治具50を用いて線状体保護部材20に凹凸構造24aを形成することができる。したがって、治具50を交換するだけで、様々な形状の凹凸構造24aを線状体保護部材20に形成することができる。したがって、凹凸構造24aの形状変更にも柔軟に対応することができる。
【0050】
なお、曲げ許容部分24の曲げ容易性を調整するため、ホットプレス前の不織布30の目付量(基本繊維の単位面積当たりの重量)を、経路規制部分22と曲げ許容部分24とで異ならせてもよい。例えば、曲げ許容部分24の目付量を300〜500グラム毎平方メートルとし、経路規制部分22の目付量を800〜1000グラム毎平方メートルとしてもよい。このように、曲げ許容部分24の目付量を経路規制部分22の目付量よりも小さくすることで、曲げ許容部分24をより曲げやすく形成することができる。なお、これらの目付量の数値は単なる例示であり、適宜変更してもよいことはいうまでもない。
【0051】
経路規制部分22と曲げ許容部分24とで目付量を変えた場合、通常、経路規制部分22と曲げ許容部分24とで、電線束12周りでの平均密度(線状体保護部材20の外周周りと厚み方向(電線束12に密着する内周面と外周面との間の厚み方向)において平均化した密度)が異なる。
【0052】
また、曲げ許容部分24の曲げ容易性を調整するため、経路規制部分22と曲げ許容部分24とを、それぞれ異なる不織布材質で形成した不織布30をホットプレスするようにしてもよい。
【0053】
不織布材質とは、本線状体保護部材20の材料となる不織布としての材質をいい、不織布材質が異なる場合とは、基本繊維及び接着樹脂の少なくとも一方の材料が異なる場合、接着樹脂の混入量が異なる場合等を含む。
【0054】
不織布材質が異なれば、通常、ホットプレス後の曲げ容易性は異なる。つまり、基本繊維及び接着樹脂の強度に応じて、不織布をホットプレスした後の曲げ容易性は異なる。また、接着樹脂の融点、含有量等を変更すると、ホットプレスした後の基本繊維同士の接合度合が異なるため、曲げ容易性は異なると考えられる。そこで、経路規制部分22は、比較的強度が強い基本繊維或は接着樹脂を含む、融点が低い接着樹脂を含む、または接着樹脂の含有量が多い等の不織布材質を適用してもよい。また曲げ許容部分24には、比較的強度が低い基本繊維或は接着樹脂を含む、融点が高い接着樹脂を含む、または接着樹脂の含有量が少ない等の不織布材質を適用してもよい。
【0055】
この場合、一枚の不織布30中に不織布材質が異なる部分を領域に分けて作分けたものを用いてもよいし、または、不織布材質が異なる複数枚の不織布を電線束12に巻き付けて不織布30を形成するようにしてもよい。
【0056】
経路規制部分22と曲げ許容部分24とで不織布材質を異ならせた場合、例えば、ホットプレスの条件(後述する圧縮度合、加熱温度、プレス時間等)が同じであっても経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分けることができるというメリットがある。
【0057】
また、曲げ許容部分24の曲げ容易性を調整するため、経路規制部分22と曲げ許容部分24とで、不織布30をホットプレスする際の圧縮度合、加熱温度及びプレス時間のうち少なくとも一つを異ならせてもよい。
【0058】
ホットプレスする際の圧縮度合は、例えば、電線10の延在方向に対して略直交する面において、ホットプレス前の不織布30の断面積に対するホットプレス後の不織布30の断面積の比率によって評価することができる。不織布30をホットプレスする際の圧縮度合が大きければ、基本繊維がより密に絡まるとともに、接着樹脂が不織布の内部迄よく融けて基本繊維をより強固に結合する。このため、ホットプレス後の不織布30はより硬くなる。一方、不織布をホットプレスする際の圧縮度合が小さければ、基本繊維は比較的粗な状態に維持されるとともに、接着樹脂は融け難くなる。このため、基本繊維同士の結合強度は比較的弱くなる。したがって、不織布30は、電線束12を覆う形態を維持できる程度には加工されるものの、曲げ容易な程度の柔軟性を得ることができる。このため、不織布30のうち相対的に大きい圧縮度合でホットプレスした部分を経路規制部分22とし、相対的に小さい圧縮度合でホットプレスした部分を曲げ許容部分24とすることができる。
【0059】
例えば、曲げ許容部分24の圧縮度合いを小さくする場合、コールド成形型40に設置された治具50がホットプレス後の不織布30の曲げ許容部分24に負荷する押圧力を弱めればよい。例えば、下型42または上型44の治具50が設置される部分に、治具50を収納する凹部を設ければよい。このようなコールド成形型40にホットプレス後の不織布30を設置した場合、不織布30に対する治具50の押圧位置を不織布30の中心線から相対的に遠ざけることができる。これにより、不織布30の曲げ許容部分24が治具50から受ける押圧力を小さくすることができるため、曲げ許容部分24の圧縮度合を小さくすることができる。
【0060】
また、ホットプレス成形型において、ホットプレス前の不織布30の曲げ許容部分24を押圧する力を弱くすることにより、この部分の圧縮度合を小さくするようにしてもよい。例えば、ホットプレス成形型の不織布30の収納部分のうち、曲げ許容部分24に対応する部分の断面開口面積を、経路規制部分22に対応する部分の断面開口面積よりも大きくすればよい。これにより、経路規制部分22曲げ許容部分24とで、圧縮度合を異ならせることができる。
【0061】
圧縮度合を変えて経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分けた場合、通常、経路規制部分22と曲げ許容部分24とで、電線束12周りでの平均密度(線状体保護部材20の外周周りと厚み方向(電線束12に密着する内面と外周面との間の厚み方向)において平均化した密度)が異なる。
【0062】
また、不織布30をホットプレスする際の加熱温度が高ければ、接着樹脂は内部迄よく溶けて基本繊維をより強固に結合するため、ホットプレス後の不織布30はより硬くなる。一方、不織布30をホットプレスする際の加熱温度が小さければ、接着樹脂はあまり溶けないため基本繊維同士の結合強度は弱く、比較的柔軟に保たれる。このため、不織布30のうち相対的に高い加熱温度でホットプレスした部分を経路規制部分22とし、相対的に低い加熱温度でホットプレスした部分を曲げ許容部分24とすることができる。
【0063】
また、不織布30をホットプレスする際の加熱時間が長ければ、接着樹脂は内部迄よく溶けて基本繊維をより強固に結合するため、ホットプレス後の不織布30はより硬くなる。一方、不織布をホットプレスする際の加熱時間が短ければ、接着樹脂はあまり溶けないため基本繊維同士の結合強度は弱く、比較的柔軟に保たれる。このため、不織布30のうち経路規制部分22を相対的に長い加熱時間でホットプレスし、曲げ許容部分24を相対的に短い加熱時間でホットプレスした部分を曲げ許容部分24とすることができる。
【0064】
なお、加熱温度を変更することで経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分ける場合には、ホットプレス成形型の加熱温度を、経路規制部分22の対応部分と曲げ許容部分24の対応部分とで、分割して温度制御するようにするとよい。
【0065】
また、プレス時間を変えることで経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分ける場合には、経路規制部分22と曲げ許容部分24とをそれぞれ別々のホットプレス成形型でホットプレスすればよい。
【0066】
なお、上述した圧縮度合、加熱温度、加熱時間うち2つ以上の条件を異ならせて、経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分けてもよい。また、上述した不織布の目付量、不織布材質、ホットプレスする際の圧縮度合、加熱温度及びプレス時間の各条件のうち2つ以上の条件を異ならせて、経路規制部分22と曲げ許容部分24とを作分けてもよい。
【0067】
{2. 第2実施形態}
第1実施形態では、電線束12を不織布30包み込んだ状態でホットプレス加工することにより、線状体保護部材20が形成されている。しかしながら、不織布のみをホットプレス加工して線状体保護部材を成形した後、電線束12をその内部に挿通するようにしてもよい。
【0068】
図6は、第2実施形態に係る線状体保護部材20Aの概略斜視図である。本実施形態に係る線状体保護部材20Aは、電線束12とは独立して、不織布30のみを図示を省略するホットプレス成形型においてホットプレスすることにより形成される。
【0069】
具体的に線状体保護部材20Aは、直線状に経路規制する経路規制部分22A,22Aと、経路規制部分22A,22Aに挟まれる曲げ許容部分24Aとを有している。そして、経路規制部分22A及び曲げ許容部分24Aは、横断面が略U字状となるように上部が開放された形状を有している。この上部の開口部分から電線束12が挿入され、経路規制部分22A,22Aまたは曲げ許容部分24Aによって電線束12の配索経路が規制される。
【0070】
曲げ許容部分24Aのうち底部から立設する両壁部の外側面(外周面)には、凹凸構造24b,24bが形成されており、両壁部の内側面(内周面)には、凹凸構造24c,24cが形成されている。さらに本実施形態では、上記両壁部のそれぞれは、上面視においてジグザグに折れ曲がる蛇腹構造を有している。
【0071】
本実施形態では、曲げ許容部分24Aの両側の壁部において、外側および内側の凹凸構造24b,24cに凹部が形成される。したがって、曲げ許容部分24Aは、力が加えられたときに、この凹部に沿って曲がりやすくなっている。特に、本実施形態では、両側の壁部が、蛇腹構造になっているため、伸縮しやすい。つまり、線状体保護部材20Aに曲げの力が加わった場合には、曲げ許容部分24Aにおいて、両側の壁部のうち一方が収縮し、他方が伸長することにより曲がる。このようにして、曲げ許容部分24Aは、経路規制部分22Aよりも曲げ容易に形成される。
【0072】
本実施形態に係る線状体保護部材20Aによると、外周面だけでなく、内周面にも凹部を形成することで、より曲げやすくなる。したがって、線状体保護部材20Aをよりフレキシブルに取り扱うことができるため、線状体配索の作業性を向上することができる。
【0073】
{3. 変形例}
以上、実施形態について説明してきたが、本発明は上記のようなものに限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【0074】
例えば、第1実施形態では、曲げ許容部分24の凹凸構造を形成するために、治具50をコールド成形型40に装着している。しかしながら、コールド成形型40自体に、治具50が持つ凹凸構造が形成されていてもよい。また、ホットプレス用成形型に治具50を適用してもよい。これにより、ホットプレスしたときに、曲げ許容部分24に凹凸構造を形成することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、不織布30のホットプレスと冷却とが、それぞれ別の成形型(ホットプレス用成形型とコールド成形型40)で行われているが、同一の成形型で行われてもよい。つまりホットプレス用成形型にて不織布30を加熱した後、該ホットプレス用成形型において冷却するようにしてもよい。このとき、ホットプレス用成形型に治具50を適用することで、曲げ許容部分24を成形するようにしてもよい。
【0076】
また、上記各実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせたり省略したりすることができる。
【符号の説明】
【0077】
10 電線
12 電線束
20,20A 線状体保護部材
22A,22A 経路規制部分
24,24A 曲げ許容部分
24a,24b,24b 凹凸構造
30 不織布
40 コールド成形型
40S 設置空間
42 下型
44 上型
46 設置空間形成部
50 治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状体を覆って保護する線状体保護部材であって、
不織布がホットプレスされることにより形成され、保護対象となる前記線状体の延在方向に沿って延びる経路規制部分と、
不織布がホットプレスされることにより形成され、前記経路規制部分よりも曲げ容易な曲げ許容部分と、
を有し、
前記曲げ許容部分の外周面に、凹部が形成されている線状体保護部材。
【請求項2】
請求項1に記載の線状体保護部材において、
前記曲げ許容部分の不織布の目付量が、前記経路規制部分の不織布の目付量より小さい線状体保護部材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の線状体保護部材において、
前記経路規制部分と前記曲げ許容部分とは、圧縮度合、加熱温度及びプレス時間のうち少なくとも一つを異ならせて前記不織布をホットプレスすることにより形成されている線状体保護部材。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項に記載の線状体保護部材において、
前記曲げ許容部分の内周面に、凹部が形成されている線状体保護部材。
【請求項5】
ホットプレスされた不織布を冷却することによって、線状体を覆って保護する線状体保護部材を成形するコールド成形型であって、
前記不織布が設置するための空間を形成する設置空間形成部に、凸部が形成されているコールド成形型。
【請求項6】
請求項5に記載のコールド成形型において、
前記凸部が形成された装着部材を着脱自在に装着される装着部を有しているコールド成形型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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