説明

線状埋設金属物体探査方法及び探査装置

【課題】 埋設金属管等に曲線部分、分岐部分が存在し、埋設金属管等が輻輳している場合にあっても、埋設金属管等に商用電流、信号電流等が流されている場合にあっても、深度測定時に極力誤差を生じさせないようにする。
【解決手段】 線状埋設金属物体1に交流信号を流し、それにより発生した磁界の変化を探査コイル2によって検出して、線状埋設金属物体の埋設位置及び深度を探査する線状埋設金属物体探査方法であって、少なくとも2つの埋設深度測定方法を採用し、それらによる測定結果に基づいて深度測定値を補正する。又、離散的に深度測定信号を検出し、所定時間内における最高値に近い複数の検出値及び最低値に近い複数の検出値を除去した後、残存するその他の検出値を平均し、演算処理した結果を当該時間内における深度測定値とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス管、水道管等の埋設金属管、電力ケーブル、通信ケーブル等の埋設ケーブル等の線状埋設金属物体に微小な交流電流を流通させ、線状埋設金属物体に沿って発生する磁界を検出することによって、線状埋設金属物体の埋設位置及び深度を探査する線状埋設金属物体探査方法及び探査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
無限長直線状導体を流通する交流電流によって発生する磁界は、無限長直線状導体を中心として同心円状に形成され、その強さは無限長直線状導体からの距離に反比例することが知られている。
このような性質を利用して、従来、埋設金属管、埋設ケーブル等の線状埋設金属物体の探査方法が種々提案され、かかる探査方法を適用する埋設金属物体探査装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3065242号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、埋設金属管、埋設ケーブル等の線状埋設金属物体は、現実的には、無限長直線状導体と見做せる訳ではなく、埋設金属管等には曲線部分、分岐部分が存在し、又、埋設金属管等が輻輳している場合もある。そのような場合には、埋設金属管等の曲線部分、分岐部分、又、他の埋設金属管等の影響によって、発生した磁界が歪み、深度測定時に誤差を生じる。
【0005】
又、埋設金属管等には商用電流、各種の信号電流等が流されており、これら電流によっても磁界が発生し、これら磁界は雑音として検出されるから、深度測定時に誤差を生じさせる要因となった。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて為されたものであり、埋設金属管等に曲線部分、分岐部分が存在し、又、埋設金属管等が輻輳している場合にあっても、さらには、埋設金属管等に商用電流、信号電流等が流されている場合にあっても、深度測定時に極力誤差を生じさせないようにした線状埋設金属物体探査方法及びそれを適用した探査装置を提供することを目的とする。
【0007】
又、本発明は、上記線状埋設金属物体探査方法を適用した線状埋設金属物体探査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の線状埋設金属物体探査方法は、少なくとも2つの埋設金属物体探査方法を採用し、それらによる測定結果に基づいて深度測定値を補正することを特徴とする。
【0009】
又、離散的に深度測定信号を検出し、所定時間内における最高値に近い複数の検出値及び最低値に近い複数の検出値を除去した後、残存するその他の検出値を平均して、当該時間内における深度測定値とすることを特徴とする。
【0010】
本発明の線状埋設金属物体探査装置は、上記線状埋設金属物体探査方法を適用したことを特徴とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。
ここで、図1は、埋設金属物体探査装置における探査コイルと埋設金属管との位置関係を模式的に示す説明図、図2は、埋設金属管が輻輳している場合において、各種測定方法によって深度測定を実施した時の誤差を示すグラフ、図3は、埋設金属管の分岐部分の近傍において、各種測定方法によって深度測定を実施した時の誤差を示すグラフ、図4は、 埋設金属管の分岐部分の近傍において、深度測定を実施した時の位置関係を示す説明図である。
【0012】
埋設金属管、埋設ケーブル等の線状埋設金属物体の探査方法としては、従来、幾つもの探査方法が提案されているが、ここでは、埋設金属物体の直上において探査コイルを所定距離引き上げて測定する方法と、埋設金属物体の直上から探査コイルを水平方向に移動させて測定する方法について説明する。
【0013】
先ず、微小導体dlに電流Iが流れている場合、dlから距離rにある点Pに生じる磁界の強さdHは、
dH=(Isinθ)/(4πr)・dl ・・・(1)
で与えられる。ここで、θは微小長さdlと、微小長さdlと点Pとを結ぶ線分との為す角であり、磁界の方向は微小長さdlと点Pを含む面に垂直で、右ネジの法則に従う。
直線状無限長導体に電流Iが流れている場合には、
H=I/(2πr) ・・・(2)
となる。ここで、rは点Pと無限長導体との距離である。
【0014】
巻き数Nのコイルを貫通する磁束φが変化すると、コイルに起電力を生じる。この起電力eは、
e=−N(dφ)/(dt) ・・・(3)
となる。
コイルが交流磁界Hsin(ωt)中に在るとすると、起電力eは、
e=NSμHωcos(ωt)・cosφ ・・・(4)
となる。ここで、μはコイル芯材の実効透磁率、Sはコイルの断面積、φはコイル断面の法線と磁界との為す角である。
【0015】
図1に示すように、探査コイル2から垂直距離yの位置に、直線状に充分長い金属管1が埋設されており、金属管1には電流Isin(ωt)が流れているとする。この金属管1の直上付近に、地表に平行に探査コイル2を配置した場合、探査コイル2に発生する起電力は、次の式で与えられる。
=k((y)/(x+y))Iωsin(ωt) ・・・(5)
ここで、xは金属管1の直上から探査コイル2までの水平距離、kは探査コイル2によって定まる定数である。
式(5)から、起電力eは金属管1の直上位置で最大となり、その大きさは金属管1を流れる電流に比例し、深度yに反比例する。
【0016】
先ず、金属管1の直上位置において、探査コイル2をΔy引き上げた場合について考察する。
探査コイル2を引き上げる前の起電力は式(5)にx=0を、又、引き上げた後の起電力は式(5)にx=0及びy=y+Δyを代入することによって求めることができ、その比をEとすると、
=y/(y+Δy) ・・・(6)
となる。
式(6)から、探査コイル2の引き上げ前後の起電力を測定し、その比を求めることによって、金属管1の埋設深度yを測定することができる。
【0017】
次に、探査コイル2を金属管1の直上位置から水平方向にΔx移動した場合について考察する。
移動前の起電力は式(5)にx=0を、又、移動後の起電力は式(5)にx=x+Δxを代入することによって求めることができ、その比をEとすると、
=(y)/(Δx+y) ・・・(7)
となる。
式(7)から、探査コイル2の移動前後の起電力を測定し、その比を求めることによっても、金属管1の埋設深度yを測定することができる。
【0018】
探査コイル2を金属管1の直上位置から水平方向に移動させて、金属管1の埋設深度yを測定する方法としては、次のような方法も挙げられる。
金属管1の直上位置において、探査コイル2に発生する起電力は、式(5)にx=0を代入して求められ、
=k(1/y)Iωsin(ωt) ・・・(8)
となる。
又、金属管1の直上位置から水平方向に、埋設深度yと同距離だけ離れて位置した場合の起電力は、式(5)にx=yを代入して求められ、
=k(1/2y)Iωsin(ωt) ・・・(9)
となる。
すなわち、探査コイル2を金属管1の直上位置から水平方向に移動させ、探査コイル2に発生する起電力が直上位置における起電力の1/2になる点を求めると、金属管1の直上位置からの水平移動距離xは埋設深度yに等しくなる。よって、この水平移動距離xを測定することによって、金属管1の埋設深度yを求めることができる。
【0019】
上記の各測定方法においては、何れも、埋設金属管1、すなわち、線状埋設金属物体が直線状無限長導体であるとして、埋設深度を計算しているが、線状埋設金属物体が直線状と見做されない場合等においては、上記の各測定方法によって埋設深度を正確に測定できるとは限らない。
例えば、埋設金属管が輻輳している場合には、図2に示すように、探査コイル2を金属管1の直上位置において所定距離引き上げる測定方法を適用した方が、埋設深度の測定誤差は小さくなる。逆に、図4に示すように、埋設金属管に分岐部分が存在する場合には、図3に示すように、探査コイル2を金属管1の直上位置から水平方向に移動する測定方法を適用した方が、埋設深度の測定誤差は小さくなる。
【0020】
従来の埋設金属物体探査装置においては、探査性能を向上させる為に、又、外来雑音の影響を軽減する為に、2本のコイルを上下平行に配置し、逆極性となるように結線した差動コイルを用いるのが一般的であるが、このような埋設金属物体探査装置においても、埋設深度の測定誤差に関する傾向は、上記と同様である。
【0021】
以上の考察から、埋設金属物体探査装置に2以上の埋設金属物体探査方法を実施する手段を具有させ、深度を測定する場所の状況に対応させて、最適な測定方法を選択するようにすれば、従来の埋設金属物体探査装置に比較して、深度測定における誤差を大幅に低減することができる。
【0022】
次に、深度測定信号を離散的に検出し、所定の信号処理をすることによって、深度測定値から不要な磁界による雑音を除去する方法について説明する。
【0023】
埋設金属管、埋設ケーブルには商用電流、各種の信号電流等が流れており、これら電流によっても磁界が発生し、これら磁界は雑音となって深度測定時に誤差を生じさせる要因となっていた。
【0024】
埋設金属物体探査装置では、このような雑音の影響を軽減するために、狭帯域のフィルターを採用するのが普通であるが、フィルターの通過帯域内における雑音は除去することはできない。
深度測定において誤差要因となる最大のものは、突発的に入力されるスパイクノイズであるが、このスパイクノイズは、アナログ的手法によって除去することは困難であり、測定信号をディジタル処理することによって除去することが可能となる。
【0025】
このスパイクノイズを除去する手法として、離散的信号検出手段によって3個の信号値を採取し、それらの中間値を真の測定値とするディジタル処理を行なうメディアンフィルターを採用することが考えられる。
【0026】
しかし、狭帯域フィルターを採用した埋設金属物体探査装置においては、スパイクノイズの立ち上がり及び立ち下がりは緩やかになるため、通常のメディアンフィルターによっては、このようなスパイクノイズを除去するには不十分であった。
【0027】
そこで、本発明の埋設金属物体探査装置においては、離散的信号検出手段によって深度測定信号を検出し、所定時間内における最高値に近い複数の検出値及び最低値に近い複数の検出値を除去した後、残存するその他の検出値を平均し、演算処理した結果を当該時間内における深度測定値とするようにした。
【0028】
これによって、通過帯域を10Hzとするフィルターを採用した埋設金属物体探査装置において、30msecの間隔で20データをサンプリングし、最高値及び次に高い検出値と、最低値及び次に低い検出値とを除去し、残存する検出値を平均することによって、雑音の影響を無視できるほどの結果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】埋設金属物体探査装置における探査コイルと埋設金属管との位置関係を模式的に示す説明図である。
【図2】埋設金属管が輻輳している場合において、各種測定方法によって深度測定を実施した時の誤差を示すグラフである。
【図3】埋設金属管の分岐部分の近傍において、各種測定方法によって深度測定を実施した時の誤差を示すグラフである。
【図4】埋設金属管の分岐部分の近傍において、深度測定を実施した時の位置関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 埋設金属管
2 探査コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状埋設金属物体に交流信号を流し、それにより発生した磁界の変化を探査コイルによって検出して、線状埋設金属物体の埋設位置及び深度を探査する線状埋設金属物体探査方法であって、
少なくとも2つの埋設深度測定方法を採用し、それらによる測定結果に基づいて、深度測定値を補正することを特徴とする線状埋設金属物体探査方法。
【請求項2】
少なくとも、探査コイルを垂直方向に移動して埋設深度を測定する方法と、探査コイルを水平方向に移動して埋設深度を測定する方法と、を採用したことを特徴とする請求項1に記載の線状埋設金属物体探査方法。
【請求項3】
離散的に深度測定信号を検出し、所定時間内における最高値に近い複数の検出値及び最低値に近い複数の検出値を除去した後、残存するその他の検出値を平均して、当該時間内における深度測定値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の線状埋設金属物体探査方法。
【請求項4】
線状埋設金属物体に交流信号を流すことによって発生した磁界の変化を検出する探査コイルと、検出した信号を出力する検出信号出力手段と、を有する線状埋設金属物体探査装置であって、
少なくとも2つの埋設深度測定方法を実行できる埋設深度測定手段を有し、それら埋設深度測定手段による測定結果に基づいて、深度測定値を補正することを特徴とする線状埋設金属物体探査装置。
【請求項5】
前記埋設深度測定手段は、少なくとも、探査コイルを垂直方向に移動して埋設深度を測定する方法と、探査コイルを水平方向に移動して埋設深度を測定する方法と、を実行できることを特徴とする請求項4に記載の線状埋設金属物体探査装置。
【請求項6】
さらに、離散的に深度測定信号を検出する離散的信号検出手段を有することを特徴とする請求項4又は5に記載の線状埋設金属物体探査装置。
【請求項7】
前記離散的信号検出手段は、所定時間内における最高値に近い複数の検出値及び最低値に近い複数の検出値を除去した後、残存するその他の検出値を平均して、当該時間内における深度測定値とすることを特徴とする請求項6に記載の線状埋設金属物体探査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−284386(P2006−284386A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−105248(P2005−105248)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000112691)フジテコム株式会社 (9)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)