説明

線管類の支持装置

【課題】クリップと、クリップに嵌め込まれる弾性材製のインサートと、クリップを所定箇所に支持する取付部と、を備える線管類の支持装置において、線管類の保持性(固定性)を確保しつつ、線管類の外周を被覆するように装着されるインサートのクリップへの組付性を高める。
【解決手段】クリップ16は、バネ性を持つ板材から形成され、インサート18に外嵌する保持部22と、保持部22の内側へインサート18を嵌め込むための開口部24と、を備える。インサート18は、筒状体の中空部30(図3、参照)を貫通する線管類13との間に空洞32を生じるように設定され、中空部30の両端に線管類を抑え込む小径部34を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、線管類の支持装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の支持装置として特許文献1〜特許文献3に開示されるようなものがある。
【0003】
特許文献1に開示のものは、断面U字状の保持部を備える。保持部は、バネ性を持つ板材から形成され、線管類の外周に外嵌される。保持部に取付部が備えられ、取付部を所定箇所に装着することにより、保持部が外嵌する線管類を所定の配索状態に支持する。
【0004】
特許文献2および特許文献3に開示のものは、保持部が1組の半割部品から構成される。線管類は、半割部品間に挟まれ、半割部品の合フランジ間をネジで締めることによって取り付けられる。線管類の保持性(締付力)を高めるため、保持部の半割部品と線管類との間に線管類の外周を覆う弾性部材が設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−230123号公報
【特許文献2】特開平08−326966号公報
【特許文献3】特表2005−511992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両においては、各種の線管類が配置され、その一部については、互いに変位する車両部材間(例えば、シャシフレームとこれに懸架装置を介して支持されるアクスルとの間)に這わされるものもある。このような線管類を支持する手段として特許文献1に開示のものを適用する場合を想定すると、バネ性を持つ保持部は、線管類に簡単かつ容易に組み付けられるものの、車両の振動や車両部材間の変位に対する線管類の保持性が十分に得られず、線管類がずれやすい、という不具合が考えられる。その点、特許文献2および特許文献3に開示のものは、保持部と線管類との間に弾性部材を介在させてネジで半割部品を締め付けるので、線管類の保持力は十分に得られるものの、ネジ締め等が必要なこともあり、組付性が良くない、という不具合が考えられる。
【0007】
この発明は、このような不具合を踏まえてなされたものであり、線管類に対する、組付性を良好に確保しつつ、保持力が十分に得られる、支持装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、クリップと、前記クリップに嵌め込まれるインサートと、前記クリップを所定箇所に支持する取付部と、を備え、前記インサートは、線管類の外周を被覆する筒状体に形成され、前記クリップは、バネ性を持つ板材から形成され、前記インサートに外嵌する保持部と、前記保持部の内側へ前記インサートを嵌め込むための開口部と、を備え、前記インサートは、弾性を持つ材料から形成され、筒状体の中空部を貫通する線管類との間に空洞を生じるように設定され、前記中空部の両端に線管類を抑え込む小径部を備えることを特徴とする線管類の支持装置である。
【発明の効果】
【0009】
第1の発明においては、インサート(筒状体)が線管類の外周に組み付けられる。インサートは、クリップに保持部の開口部から嵌め込まれ、保持部によって支持される。クリップは、所定箇所に取付部を介して支持されることになる。この場合、インサートは、弾性を持つ材料から形成され、筒状体とその中空部を貫通する線管類との間に空洞を生じる設定にあって、空洞の分、筒状体が潰れるように変形可能のため、筒状体の外径に比してクリップ側の開口部の開口幅が小さくても、線管類を被覆するインサートをクリップ側の保持部へ開口部から簡単かつ容易に組み付けることができる。筒状体を貫通する線管類は、中空部の小径部によって抑え込まれる。つまり、筒状体の、中空部の小径部における、弾性により、線管類が動くのを抑える十分な保持力が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の実施形態を説明する車両の一部斜視図である。
【図2】同じく支持装置の構成を示す斜視図である。
【図3】同じく図2のZ-Z断面図である。
【図4】同じくインサートの断面図である。
【図5】同じく支持装置の説明図である。
【図6】同じく支持装置の説明図である。
【図7】同じく支持装置の説明図である。
【図8】同じく支持装置の説明図である。
【図9】同じく支持装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図に基づいて、この発明の実施形態を説明する。
【0012】
図1は、車両のアンチロック・ブレーキ・システムにおいて、車輪速センサのハーネス(線管類)への適用例を示すものである。図1において、10はシャシフレームであり、はアクスルであり、11はブレーキ作動用配管のホース構造体(エアホースやオイルホース)であり、ホース構造体11は、アクスル12とシャシフレーム10との間に這わされる。
【0013】
13が車輪速センサのハーネスであり、図示の場合、シャシフレーム10側の部材に取り付けられる支持装置(図示せず)と、アクスル12側の部材12Aに取り付けられる支持装置14と、ホース構造体11の外周に組み付けられる支持装置15と、によって保持される。
【0014】
図2〜図5において、ホース構造体11の外周に組み付けられる支持装置15の構成を説明する。
【0015】
支持装置15は、クリップ16と、クリップ16に嵌め込まれるインサート18と、クリップ16を所定箇所に支持する取付部20と、から構成される。
【0016】
クリップ16は、バネ性を持つ帯状の板材(例えば、ばね鋼板)を曲げ加工することによって形成され、インサート18に外嵌する保持部22と、その内側へインサート18を嵌め込むための開口部24と、を備える。
【0017】
保持部22は、断面U字状に形成され、断面U字状の両端から一体に延びる先が括れ部24aに形成される。開口部24は、1対の括れ部24aによって形成され、各括れ部24aから一体に延びる先がホース構造体11に外嵌するクランプ20aに形成される。
【0018】
クランプ20aは、クリップ16を所定箇所に支持する取付部20を構成するものであり、1対の断面円弧状の湾曲部26によって形成される。各湾曲部26から一体に延びる先が括れ部28aに形成され、1対の括れ部28aによって湾曲部26の内側へホース構造体11を嵌め込むための開口部28が形成される。
【0019】
インサート18は、弾性を持つ材料(例えば、ラバー)から筒状体に形成される。筒状体18(インサート)は、ハーネス13にこれを被覆するように装着される。筒状体18の内側(中空部30)は、これを貫通するハーネス13との間に空洞32(図3、参照)を生じる設定になり、中空部30(図4、参照)の両端にハーネス13を抑え込む小径部34が設けられる。
【0020】
インサート18の外周にクリップ18の保持部22を位置決めする鍔状の凸部36が筒状体18の両端に形成される。筒状体18は、周壁の1箇所に軸方向へ延びるスリット38が形成され、スリット38を押し開くことによってハーネス13への装着が容易に行えるようになっている。
【0021】
ホース構造体11は、ホース11aとこれを被覆する保護カバー11bとから構成される(図6、参照)。11bは、ホース11aの保護カバー11bである。
【0022】
図3〜図5において、インサート18の空洞32や小径部34について、さらに詳しく説明する。
【0023】
筒状体18の胴部(両端の凸部36を除く)の外径C(図4、参照)に対し、クリップ16の保持部22の開口幅A(1対の括れ部24a間の距離寸法)は、A<Cに設定される(図5、参照)。これにより、クリップ16の保持部22の内側にインサート18の胴部を嵌め込むと、1対の括れ部24aによって保持部22からインサート18が脱落するのが抑えられる。
【0024】
ホース構造体11の外径は、ハーネス13の貫通するインサート18の胴部の外径Cより大きい。そのため、クリップ16の保持部22の開口幅Aに対し、クランプ20aの湾曲部26の開口幅(1対の括れ部28a間の距離寸法)は、大きく設定される。40はクリップ16の剛性を高めるべく設定されるリブ(図2、参照)であり、プレス加工によって保持部22の外周を隆起させる(保持部22の内周は凹む)形に設けられる。
【0025】
筒状体18の胴部を保持部22へ嵌め込む際は、図5に示すように空洞32が潰れる形に筒状体18が変形可能のため、筒状体18の胴部を保持部22へ嵌め込む組付力が軽減される。筒状体18は、保持部22の内側に嵌め込まれると、弾性によって空洞が復元するようになる。従って、クリップ16の保持部22の内径Bに対し、インサート18の胴部の外径Cは、C≧B、この例においては、B=Cに設定される(図4,図5、参照)。
【0026】
空洞32は、弾性を持つインサート18の自然状態において、中空部30の両端の小径部34間の径をD(図4、参照)、ハーネス13の径をH(図3、参照)、とすると、E=D−Hから計算される寸法E(図示せず)に規定される。中空部30の小径部34の径G(図4、参照)は、ハーネス13の径Hに対し、G<Hに設定されるのである。
【0027】
このような構成により、ハーネス13にインサート18が組み付けられる。インサート18は、クリップ16の保持部22の内側へ開口部24を通して嵌め込まれる。クリップ16は、クランプ20によってホース構造体11に取り付ける。筒状体18の両端外周に保持部22の両端を係止する1対の凸部36を備えるので、クリップ16とインサート18との位置決めが図れ、両者の軸方向へのズレが抑えられる。
【0028】
インサート18は、弾性を持つ材料から形成され、筒状体18とその中空部30を貫通するハーネス13との間に空洞32を生じる設定であって、空洞32の分、筒状体18が潰れるように変形可能のため、筒状体18の外径Cに比して保持部22の開口幅Aが小さくても、ハーネス13の貫通するインサート18をクリップ16の保持部22へ簡単かつ容易に組み付けることができる。
【0029】
筒状体18を貫通するハーネス13は、中空部30の小径部34によって抑え込まれる。つまり、筒状体18の、中空部30の小径部34において、弾性を持つ材料(ラバー)により、ハーネス13が動くのを抑える十分な保持力が得られるのである。
【0030】
図6〜図9において、前記のインサート18と異なり、空洞32および小径部34を持たない、肉厚(内径および外径)が一定のインサート18A(筒状体)を用いる場合について、説明する。クリップ16は、前記と構成が同一のものとする。図7の(a)は、クリップ16へインサート18Aを嵌め込む際の説明図であり、図7の(b)は、ホース構造体11へクリップ16を取り付ける際の説明図である。
【0031】
筒状体18Aの内径D(図4、参照)がハーネスの外径H(図3、参照)と同等に設定される。従って、インサート18Aは、ハーネス13に隙間(空洞)を生じることなく装着される。筒状体18Aの外径C(図4、参照)は、中空部を隙間なく貫通するハーネス13に対する保持力を確保するため、クリップ16の保持部22の内径Bに対し、C>Bの設定が必要となる。そうすると、保持部18Aの開口部22の幅Aに対し、C>Aの差が大きくなってしまうため、保持部22へのインサート18Aの嵌め込みに大きな組付力が要求される(図8、参照)。組付力を小さくするため、筒状体18Aの外径Cを、C=Aに近づけると、今度は、保持部22の内径Bに対し、C>Bの差が小さくなり、場合によっては、C<Bとなりかねないので、インサート18Aおよびその中空部を隙間なく貫通するハーネス13に対する保持性(固定性)が損なわれるという結果となってしまう(図9、参照)。
【0032】
図2〜図5のインサート18においては、空洞32およびその両端に小径部34を備えるので、前記のようにハーネス13に対する保持性(固定性)を十分に確保しつつ、ハーネスの貫通するインサート18の保持部22への組付性が高められるのである。
【0033】
図3,図4において、中空部30の小径部34の幅、言い換えれば、空洞32の幅Fは、鍔状の凸部36間の幅M(言い換えれば、クリップ18の保持部22の幅)に対し、F≦M、この例においては、F<Mに設定され、W=M−Fがクリップ16の保持部22と中空部30の両端の小径部34とのオーバラップ量となる。
【0034】
従って、G<Hの小径部34のオーバラップ量Wを調整することにより、インサート18をクリップ16の保持部22の内側へ嵌め込むの必要な組付力を変化させることが可能となる。オーバラップ量Wを大きく取ると、保持部22の開口部24にインサート18の胴部を嵌め込む際に必要な組付力が大きくなり、オーバラップ量Wを小さく取ると、その組付力は小さくなる。
【0035】
中空部30の小径部34の径Gは、ハーネスの径Hに対し、G<Hに設定されるが、G<Hの差により、筒状体18のハーネス13に対する保持力(ハーネスの動きを抑える力)を調整することができる。
【0036】
ハーネス13は、アクスル12側とシャシフレーム10側との間において、ホース構造体11上の所定箇所に支持される。アクスル12は、シャシフレーム10に対し、動き(懸架スプリングの伸縮に伴う変位)を生じるが、インサート18の小径部34により、ハーネス13のズレを抑える十分な保持力が得られるのである。
【0037】
アクスル12側の部材に取り付けられる支持装置14(図1、参照)については、図2〜図5の場合とクリップを所定箇所に支持する取付部20が異なり、それ以外の構成については、実質的に同一である。
【0038】
図1において、クリップ16Aの保持部22は、断面U字状に形成され、断面U字状の一端から一体に延びる先が括れ部に形成され、断面U字状の他端から一体に延びる先は平板がL字状に折れ曲がるブラケット20Aに形成される。保持部22の開口部は、括れ部とブラケットの平板(断面U字状の一端を真っ直ぐに延長する部分)とから形成され、その部分からさらに平板が外側へL字状に折れ曲がる先が取付部20に形成される。クリップ16Aは、L字状の折曲部から先の平板(取付部)を締結することにより、所定箇所(アクスル12側の部材12A)に取り付けられる。20Bは取付部20を締結するボルト,ナットを示す。
【0039】
この例においても、インサート18の構成は、図2〜図5の場合と実質的に同一のため、インサート18の空洞32および小径部34によって同様の効果が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明に係る線管類の支持装置は、前記の実施形態に限らず、車両以外のものに用いられる各種の線管類の支持装置として広く適用可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 シャシフレーム
11 ホース構造体
12 アクスル
13 ハーネス(線管類)
14,15 支持装置
16 クリップ
16A クリップ
18 インサート(筒状体)
20 取付部
20a クランプ
22 保持部
24 開口部
24a 括れ部
26 湾曲部
28 開口部
28a 括れ部
30 中空部
32 空洞(隙間)
34 中空部の小径部
36 鍔状の凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリップと、前記クリップに嵌め込まれるインサートと、前記クリップを所定箇所に支持する取付部と、を備え、
前記インサートは、線管類の外周を被覆する筒状体に形成され、
前記クリップは、バネ性を持つ板材から形成され、前記インサートに外嵌する保持部と、前記保持部の内側へ前記インサートを嵌め込むための開口部と、を備え、
前記インサートは、弾性を持つ材料から形成され、筒状体の中空部を貫通する線管類との間に空洞を生じるように設定され、前記中空部の両端に線管類を抑え込む小径部を備えることを特徴とする線管類の支持装置。
【請求項2】
前記インサートは、前記筒状体の周壁の1箇所が軸方向へ延びるスリットによって切断されることを特徴とする請求項1に記載の支持装置。
【請求項3】
前記インサートは、前記筒状体の両端外周に前記保持部の両端を係止する1対の凸部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の支持装置。
【請求項4】
前記インサートは、前記中空部の小径部間の径Dが、前記線管類の径Hに対し、D>Hに設定され、前記空洞はE=D−Hの寸法Eに規定されることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の支持装置。
【請求項5】
前記インサートは、前記中空部の小径部の径Gが、前記線管類の径Hに対し、G≦Hに設定されることを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1つに記載の支持装置。
【請求項6】
前記筒状体の外径Cは、前記保持部の内径Bに対し、C≧Bに設定され、前記保持部の開口部の開口幅Aは、前記筒状体の外径Cに対し、A<Cに設定されることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1つに記載の支持装置。
【請求項7】
前記中空部の小径部間の距離寸法Mは、前記筒状体の凸部間の距離寸法Fに対し、M≦Fに設定されることを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1つに記載の支持装置。
【請求項8】
前記線管類は、車両に配線されるハーネスであることを特徴とする請求項1〜請求項7の何れか1つに記載の支持装置。
【請求項9】
前記ハーネスは、車両のアンチロック・ブレーキ・システムにおいて、車輪速センサのハーネスであり、前記取付部は、ブレーキ作動用配管のホース構造体に外嵌するクランプに構成され、前記保持部を形成する板材の両端から一体に延びる先に形成されることを特徴とする請求項8に記載の支持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−184781(P2012−184781A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46441(P2011−46441)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000003908)UDトラックス株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】