説明

締付状態検出装置および締付状態検出方法

【課題】トルクレンチを用いて螺合部の締付を行ったときの締付状態を検出することを目的とする。
【解決手段】本発明の締付状態検出装置40は、トルクレンチを30用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出装置40であって、トルクレンチ30により螺合部を螺回させたときにトルクレンチ30に作用するトルクTが設定された着座トルクTsから設定された設定トルクTfに達したときのトルクレンチ30の差分角度θdが設定された範囲内にあるか否かに基づいて締付状態が正常であるか否かを判定する判定部43を備えている。これにより、締付状態が正常であるか否かの検出を行うことができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルクレンチを用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出装置および締付状態検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
作業機は下部走行体に上部旋回体を設置して構成し、上部旋回体にはブームとアームとバケットとからなる掘削手段を備えるようにしている。この掘削手段を構成するブームとアームとバケットとを駆動する為に油圧シリンダが設けられており、このうちアームのシリンダ(アームシリンダ)はブームの上部位置に設けられる。
【0003】
アームシリンダは2本の配管を接続して構成され、これらの配管はブームの表面に沿うようにして設けられる。また、配管は強度等の観点から金属パイプで形成される。ただし、ブームの俯抑動作時に曲げられることがあることから、この部位ではホースが用いられる。
【0004】
よって、2本の配管は、曲がらない部位が金属パイプ(以下、パイプ)で、曲がる部位は、曲げ方向に可撓性を持たせるために可撓性のあるホースで形成する。そして、パイプとホースとの間はカップリング機構により連結する。パイプの先端にはネジ部を形成し、ホースの先端には口金を設けて、この口金にナット部を設ける。そして、ナット部にネジ部を螺合して所定の締付力を作用させることで、2本の配管の接続を行う。これにより、2つの配管を回転させることなく連結できるようになり、これが所謂ユニオン式の接続機構となる。
【0005】
2本の配管(ホースとパイプ)の接続部から漏れを生じないようにしなければならない。このために、シール機能を持たせたリング状の弾性シール部材を挿嵌する。パイプの先端には弾性シール部材を嵌合するためのリング状のシール溝を形成しておき、当該シール溝に弾性シール部材を嵌合することにより挿嵌させる。シール溝に嵌合したときには、弾性シール部材はパイプの当接面(座面)から所定量突き出すようになっている。
【0006】
この状態で、螺合部(ナット部とネジ部とをネジ締めにより螺合する部位)に締付力を作用させる。これにより、ネジ部の座面はナット部を設けた側の口金の端面(当接面)に押し付けられるようになり、弾性シール部材に撓みが生じる。そして、所定量押し込むように締付力を作用させることで、弾性シール部材によるシール機能が果たされるようになる。
【0007】
螺合部の締付はトルクレンチを用いて行う。トルクレンチはナット部に係合するヘッド部と軸部と握り部とを有して構成しており、ヘッド部はソケット式やモンキー式等といった方式がある。ヘッド部をナット部に係合させた状態で回転させると、ナット部とネジ部との間に締付力が作用する。トルクレンチは、このときに作用するトルクの値を表示することが可能になっている。トルクの値を表示することが可能なトルクレンチとして特許文献1に開示されている技術がある。
【0008】
この文献のトルクレンチはロードセルを有している。ロードセルは締め付けの際にヘッド部から力を受けることにより生じる歪みを検出する弾性体により構成されるセンサである。ロードセルにはブリッジ回路に構成した4つの歪ゲージを設けており、締め付けによる荷重が作用したときに歪ゲージの変形を検出して、電気信号に変換する。そして、この変換した電気信号を信号処理することで、トルク値をデジタル表示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2010−137294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ネジ部とナット部とを螺合する螺合部に締付力を作用させるときに、適切なトルクがかかるように管理しなければならない。トルクが不足する場合には、配管の接続部に緩みが発生して気密漏れが生じる。甚だしい場合には、配管の接続部が分離する。一方、過剰なトルクが作用すると、ネジ部やナット部のねじ山が変形する等の損傷が生じる。よって、螺合部の締付を適切なトルクで行うように管理することで、トルク不足やトルク過多を生じないようにしている。
【0011】
特許文献1のトルクレンチを用いることにより、トルクの値を認識することができ、適切なトルクになるまで螺合部に対して締付力を作用させることができる。ただし、トルクが所定の値(適切な値)であると認識されたとしても、依然として締付状態が正常でない場合を生じることがある
【0012】
前述したように、シール溝に弾性シール部材を挿嵌して2本の配管を螺合により締め付けて接続している。このとき、シール溝に弾性シール部材が挿嵌されていない場合或いは挿嵌されていても不適正な位置に挿嵌されている場合がある。この場合には、トルクレンチのトルクが所定の値(適切な値)になったとしても、締付力が過剰或いは不足する。つまり、締付状態としては正常ではないものとなる。
【0013】
そこで、本発明は、トルクレンチを用いて螺合部の締付を行ったときの締付状態を検出することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
以上の課題を解決するため、本発明の締付状態検出装置は、トルクレンチを用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出装置であって、前記トルクレンチにより前記螺合部を螺回させたときに作用するトルクが設定された着座トルクから設定された設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度が設定された範囲内にあるか否かに基づいて前記締付状態が正常であるか否かを判定する判定部を備えたことを特徴とする。
【0015】
トルクレンチとしては、このトルクレンチに作用するトルクとトルクレンチの回転角度を検出できる手段とを備えた構成する。トルクレンチを用いて螺合部の締付を行うと、トルクレンチの回転初期では実質的にトルクが作用しないか、或いは僅かなトルクが作用した状態で回転をする。そして、実質的に締付が始まると、トルクが連続的に増大することになる。
【0016】
この連続的にトルクが増大するようになったときに、それを着座トルクとし、着座トルクの発生後に適正な締付力が作用したときを設定トルクとする。設定トルクは、螺合部に緩みが生じず、しかも螺合部等が損傷するような過剰な締付力が作用しない状態である。判定部では着座トルクから設定トルクに至るまでにトルクレンチを回転させたときの回転角度が設定された範囲内であるか否かを判定している。これにより、トルクレンチの回転角度に基づいて締付状態が正常であるか否かを判定できる。
【0017】
また、前記判定部は、着座時の前記トルクの勾配である着座時トルク勾配が設定された勾配閾値よりも小さく、且つ前記着座トルクから前記設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度を差分角度として、この差分角度が設定された角度閾値よりも小さいときに前記締付状態が正常であり、それ以外は異常であると判定することを特徴とする。
【0018】
着座時トルク勾配が勾配閾値以上となっているか、または差分角度が角度閾値以上となっているときには、締付状態が正常ではないことが検出され、それ以外の場合は締付状態が正常であることが検出される。従って、着座時トルク勾配が勾配閾値以上であることを検出した時点で警報を発生するように構成すると、その時点で締付状態の異常を検出して、締付作業を停止することができる。これにより、螺合部に過剰なトルクが作用して損傷することを未然に防止できる。前記の警報はアラーム等を鳴動させてもよいし、表示部に所定の情報を表示させて作業者に了知させるものであってもよい。
【0019】
また、前記判定部は、前記着座時トルク勾配が前記勾配閾値以上のときには、前記螺合部に挿嵌される弾性シール部材がこの弾性シール部材を嵌合させるシール溝に挿嵌されていない異常であることを検出することを特徴とする。
【0020】
着座時トルク勾配が勾配閾値以上となったときは、その時点で締付状態が異常であるだけでなく、少ない回転角度で急激にトルクが上昇していることを検出できる。これにより、その時点で、締付状態に異常を生じているということだけなく、シール溝に弾性シール部材が挿嵌されていないといった異常の種類までも特定することができる。
【0021】
また、前記判定部は、前記着座時トルク勾配が前記閾値勾配よりも小さく、且つ前記差分角度が前記角度閾値以上であるときに前記弾性シール部材が前記シール溝に対して不適正な位置に挿嵌されている異常であることを検出することを特徴とする。
【0022】
着座時トルク勾配が勾配閾値よりも小さい場合でも、差分角度が角度閾値以上であれば、締付状態が正常ではなく、異常であることを認識することができる。そして、着座トルクから設定トルクまで大きな回転角度となっているため、発生している異常はシール溝に対して弾性シール部材が不適正な位置に挿嵌されている異常であることまで特定することができる。
【0023】
また、トルクレンチを用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出方法であって、前記トルクレンチに作用するトルクが設定された着座トルクから設定された設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度が設定された範囲内にあるか否かに基づいて前記締付状態が正常であるか否かを判定することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】油圧ショベルの全体構成図である。
【図2】ホースとパイプとを接続した状態を示す図である。
【図3】ホースとパイプとを接続する前の状態を示す図である。
【図4】ホースとパイプとの接続部位の断面図である。
【図5】締付状態検出装置の構成を示すブロック図である。
【図6】判定部の判定処理の内容を示す図である。
【図7】締付状態が正常であるときの角度とトルクおよび着座時トルク勾配との関係を示すグラフである。
【図8】弾性シール部材の挿嵌位置が不適正であるときの角度とトルクおよび着座時トルク勾配との関係を示すグラフである。
【図9】弾性シール部材が挿嵌されていないときの角度とトルクおよび着座時トルク勾配との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、トルクレンチを用いて作業機の2本の配管を螺合により締め付けて接続したときの螺合部の締付状態を検出している。勿論、2つの部材を螺合により締め付けて接続したときに、螺合部の締付状態を検出するものであれば任意のものに適用することができる。例えば、ナットにネジを螺合により締め付けたときの締付状態を検出するような場合に適用することができる。
【0026】
図1は作業機として油圧ショベルを示している。この油圧ショベルは履帯式の下部走行体1に旋回装置2を介して上部旋回体3を設置して構成している。上部旋回体3にはオペレータが搭乗する運転室4が設けられており、また各種機械や器具等を収納した機械室建屋5が設けられている。
【0027】
上部旋回体3には掘削手段10としてのブーム11とアーム12とバケット13とが設けられている。ブーム11はブームシリンダ11aにより駆動され、アーム12はアームシリンダ12aにより駆動され、バケット13はバケットシリンダ13aにより駆動される。各シリンダ11a、12a、13aは油圧シリンダである。また、アーム12の先端はリンク機構14を介してバケット13と接続されている。
【0028】
ブームシリンダ11aおよびバケットシリンダ13aにはそれぞれ2本の配管15を接続している。また、ブレーカ等の他のフロントアタッチメントを装着したときのために、さらに余分の配管を設けてもよい。これらの配管15がブーム11の表面に沿うようにして設けられる。
【0029】
配管15は強度等の観点から金属パイプ(以下、パイプ)で形成することが望ましいが、上部旋回体3のフレーム内を通ってブーム11の背面までは、ブーム11の俯抑動作時に曲げられることがあることから、少なくともこの部位では可撓性のあるホースを用いる。よって、ホースとパイプとはブーム11の背面における下部位置で連結される。これらホースとパイプとにより配管15が構成される。
【0030】
ホース16とパイプ17とは螺合により接続を行う。図2はホース16とパイプ17とを螺合により接続した状態を示しており、図3は接続する前の状態を示している。ホース16は配管15を構成する一方側の配管となっており、パイプ17は相手側の配管を構成している。パイプ17は端部近傍位置でブーム11に固定されており、ホース16は固定しないままにパイプ17に接続される。
【0031】
ホース16の端部には雌カップリング部材18が連結して設けられ、パイプ17の端部には雄カップリング部材19が連結して設けられる。図3に示すように、雌カップリング部材18は口金20にナット部21を連結して設けたものである。且つ、口金20とナット部21との間には、外径が口金20よりも大きく、ナット部21よりも小さい六角部22が設けられている。この六角部22はホース16と一体的に構成されており、ナット部21を回転するときに回り止めを行うために設けている。
【0032】
雄カップリング部材19はネジ部23と六角部24とを設けて構成している。この六角部24はロック用のナットであり、パイプ17に一体的に固定されている。ナット部21をネジ部23に螺合して締付を行った後に六角部21に対してナット部21を回り止めする。これにより、ネジ部23にナット部21が螺合され、2つの六角部22、24により回り止めされた状態で所定の締付力が作用される。従って、ホース16とパイプ17とが接続されて雌カップリング部材18と雄カップリング部材19とが接続される。ネジ部23にナット部21を螺合した部位を螺合部15aとする。
【0033】
図4は螺合部15aの断面を示している。この図に示すように、ネジ部23はナット部21に螺合される。ネジ部23の当接面(座面)23aにはリング状のシール溝25を形成している。このシール溝25にリング状の弾性シール部材26を嵌合する。つまり、ネジ部23をナット部21に螺合するときには、ネジ部23に弾性シール部材26を挿嵌した状態で螺合を行う。
【0034】
弾性シール部材26の厚みはシール溝25の深さよりも大きくしている。よって、シール溝25に弾性シール部材26を嵌合したときには、弾性シール部材26は座面23aよりも突出した状態になる。この状態で、ネジ部23をナット部21に螺合して螺合部15aを形成する。
【0035】
この螺合により、ネジ部23の座面23aは口金20の当接面27に近接していき、弾性シール部材26(の面)が口金20の当接面27に当接(着座)する。そして、さらに螺合を行う。これにより、弾性シール部材26は当接面27に押し付けられて撓みが生じる。このため、ホース16とパイプ17との間の接続部位(螺合部15a)にシール機能を持たせることができ、気密性が確保される。
【0036】
螺合部15aの螺合にはトルクレンチを用いる。トルクレンチはナット部21に係合するヘッド部と軸部と握り部とを有して構成される。ヘッド部としてはソケット式やモンキー式等のヘッド部を用いることができる。ヘッド部にナット部21を係合した状態で回転させると、ナット部21の締付が行われる。このトルクレンチは締付トルクを検出することができ、またトルクレンチの回転角度の検出も行うことが可能になっている。
【0037】
図5はトルクレンチ30および締付状態検出装置40の構成を示している。トルクレンチ30はトルク検出部31と回転角度検出部32とを備えている。トルク検出部31はトルクレンチ30のヘッド部がナット部21を係合して回転したときに作用するトルク値をトルクTとして検出する。回転角度検出部32はトルクレンチ30の回転角度θを検出する。回転角度θは所定の基準角度から回転した角度になる。トルクTおよび回転角度θの情報は締付状態検出装置40に出力される。
【0038】
締付状態検出装置40は演算部41とメモリ42と判定部43と表示部44とを有して構成している。演算部41はトルク検出部31からトルクTを入力し、回転角度検出部32から回転角度θを入力する。そして、回転角度θの変化量に対するトルクTの変化量をトルク勾配Cとして演算する。
【0039】
メモリ42は演算部41に入力されるトルクTおよび回転角度θを記憶し、また演算部41が演算したトルク勾配Cを記憶する。判定部43はメモリ42が記憶した値に基づいて、螺合部15aの締付状態が正常であるか、および異常である場合には異常の種類を判定する。表示部44は判定部43が判定した結果を表示する。締付状態検出装置40はトルクレンチ30の一部に設けてもよいし、トルクレンチ30とは別個の装置として設けてもよい。
【0040】
次に、締付状態検出装置40を用いて螺合部15aの締付状態を検出する動作について説明する。トルクレンチ30のヘッド部にナット部21を係合して回転させる。これにより、ネジ部23の座面23aはナット部21の側の口金20の当接面27に近接していく。そして、弾性シール部材26が当接面27に当接する。
【0041】
このときが着座状態であり、着座前ではトルクレンチ30を回転させても実質的にトルクTは作用しない。一方、弾性シール部材26が当接面27に当接した後に締付を行っていくと、弾性シール部材26が撓められることになるため、作用するトルクTは連続的に上昇していく。
【0042】
判定部43には着座時のトルクT(着座トルクTs)が予め設定されている。この着座トルクTsは着座を検出するために設定された値になり、起点となるトルクになる。着座トルクTsは弾性シール部材26が撓みはじめたときに発生するトルクTとするが、弾性シール部材26が当接面27に接触したときのトルクTとしてもよいし、弾性シール部材26がある程度撓んだときのトルクTとしてもよい。ただし、座面23aと当接面27とが接触する前でなくてはならない。
【0043】
トルクTが着座トルクTsに達したことをトルク検出部31が検出することにより、着座したことを検出する。そして、着座したときの回転角度を着座角度θsとして検出する。この着座角度θsはメモリ42に記憶される。
【0044】
演算部41は回転角度θの変化量に対するトルクTの変化量をトルク勾配Cとして演算する。つまり、トルク勾配Cは微分値(dT/dθ)になる。メモリ42には着座時のトルク勾配Cが着座時トルク勾配Csとして記憶される。
【0045】
そして、着座時からさらにトルクレンチ30を回転させることにより、螺合部15aの締付が行われていくと共にトルク検出部31が検出するトルクTが上昇する。このときには、回転角度検出部32が検出する回転角度θも変化している。演算部41は随時トルクTおよび回転角度θを入力しており、回転角度θごとにトルク勾配Cを検出している。そして、検出したトルク勾配Cをメモリ42に記憶していく。
【0046】
トルクレンチ30のトルクTには所定の締付トルクを設定トルクTfとして設けるようにしている。この設定トルクTfは螺合部15aに緩みを生じず、且つ螺合部15aのねじ山等が損傷するような過剰な締付力が作用しないようなトルクTであり、予めトルクTの終点トルクとして設定されている。よって、トルクTが設定トルクTfに到達した時点でトルクレンチ30による締付を終了する。この締付の終了のために、設定トルクTfに達した時点で、警報を発するようにすることができる。なお、設定トルクTfは任意の値に設定することができる。
【0047】
この設定トルクTfに達したときにおける回転角度検出部32が検出する回転角度θを終点角度θfとしてメモリ42に記憶させる。従って、メモリ42には着座角度θs、終点角度θfおよびトルク勾配Cが入力されて記憶される。このとき、メモリ42には複数のトルク勾配Cが記憶されているが、着座時のトルク勾配Cを着座時トルク勾配Csとしてメモリ42に記憶する。
【0048】
一方、判定部43にはパラメータとして所定の値が予め設定されている。前述したように、着座トルクTsおよび設定トルクTfはパラメータとして設定されている。また、着座角度θsと終点角度θf(設定トルクTfに達したときの回転角度θ)との間の差分角度θsf(=θf−θs)を判定するための角度閾値θtrがパラメータとして設定される。さらに、着座時トルク勾配Csを判定するための勾配閾値Ctrがパラメータとして判定部43に設定される。
【0049】
以上のパラメータおよび入力を用いて、判定部43は所定の判定処理を行う。判定部43が行う判定処理の内容を図6に示す。まず、判定部43にパラメータ(着座トルクTs、設定トルクTf、角度閾値θtrおよび勾配閾値Ctr)の設定がされる(設定処理S1)。
【0050】
そして、トルク検出部31、回転角度検出部32および演算部41により着座角度θs、終点角度θfおよび着座時トルク勾配Csが検出されて入力される(検出処理S2)。最初に、判定部43は第1の判定処理S3を行う。この第1の判定処理S3は着座時トルク勾配Csが勾配閾値Ctrよりも小さいか否かを判定している。着座時トルク勾配Csが勾配閾値Ctrよりも小さい場合には、着座時に急激なトルクTが作用していないことになる。よって、当該第1の判定処理S3をクリアして、第2の判定処理S4に進む。
【0051】
第2の判定処理S4は差分角度θsf(=θf−θs)が角度閾値θtrよりも小さいか否かを判定している。この第2の判定処理S4では、シール溝25における弾性シール部材26の挿嵌位置が適正であるか不適正であるかを判定している。
【0052】
差分角度θsfは着座角度θsから終点角度θfに至るまでのトルクレンチ30の回転角度であり、つまり着座トルクTsから設定トルクTfに到達するまでの間に回転したトルクレンチ30の角度になる。弾性シール部材26の挿嵌位置が不適正な場合、つまりシール溝25から弾性シール部材26がはみ出している場合には、弾性シール部材26が座面23aと当接面27との間で噛み込んだ状態になる。
【0053】
弾性シール部材26は所定の弾性を有している。よって、弾性シール部材26を噛み込んだ状態で螺合部15aを螺合して締付を行っていくと、回転角度θの変化量に対してトルクTの変化量は小さくなる。つまり、トルクレンチ30の回転角度θを大きくしても、トルクTはそれほど上昇しない。
【0054】
換言すれば、着座トルクTsから設定トルクTfに至るまでの間に回転した角度(差分角度θsf)が大きくなる。角度閾値θtrはシール溝25に適正に弾性シール部材26が挿嵌されていたときにおける差分角度θsfの上限値を規定する閾値になっている。よって、差分角度θsfが角度閾値θtrよりも小さければ、シール溝25における弾性シール部材26の挿嵌位置は適正であることが認識される。
【0055】
従って、この場合には、弾性シール部材26が挿嵌され且つ適正な位置に挿嵌されていることが認識されている。これにより、螺合部15aの締付状態は正常であることが検出される(検出処理S5)。そして、締付状態が正常であること(異常がないこと:エラーコードなし)が表示部44により表示される。
【0056】
図7は締付状態が正常であると判定されたときの差分角度θsf、トルクT、着座時トルク勾配Csを示している。図中において、横軸が角度になっており、2つの縦軸のうち1つがトルクT、もう1つが着座時トルク勾配Csを示している。この図に示すように、着座トルクTs(θs)から設定トルクTf(θf)に達するまでの差分角度θsは角度閾値θtrよりも小さくなっており、且つ着座時トルク勾配Csは勾配閾値Ctrよりも小さくなっている。従って、この場合には、締付状態が正常であることが検出される。
【0057】
一方、第2の判定処理S4をクリアしない場合、つまり図8に示すように差分角度θsfが角度閾値θtr以上になっている場合には、弾性シール部材26の挿嵌位置が不適正であることが検出される(検出処理S6)。よって、この場合には、判定部43は締付状態が異常であると判定する。このとき、単に締付状態が異常であると判定するのではなく、弾性シール部材26の挿嵌位置が不適正であることを検出している。つまり、異常の種類まで特定をしている。この異常に対応するコードをエラーコード1とする。
【0058】
そして、表示部44にエラーコード1を表示する。これにより、トルクレンチ30を用いて締付を行っている作業者はエラーコード1を視認することで、螺合部15aの締付状態が異常であり、且つその異常が弾性シール部材26の挿嵌位置が不適正であることを認識できる。
【0059】
第1の判定処理S3をクリアしないと判定された場合には、弾性シール部材26がシール溝25に挿嵌されていないことを検出する(検出処理S7)。つまり、第1の判定処理S1において、図9に示すように、着座時トルク勾配Csが勾配閾値Ctr以上となっており、着座時において急激なトルクTが作用していることになる。着座時に急激なトルクTが作用するのは、弾性シール部材26がシール溝25に挿嵌されていない場合である。
【0060】
よって、第1の判定処理S3をクリアしない場合には、弾性シール部材26が挿嵌されていないことが検出される。判定部43はその旨を示すエラーコード2を発生させる。そして、表示部44にエラーコード2を表示する。これにより、作業者は螺合部15aの締付状態が異常であり、且つ弾性シール部材26が挿嵌されていない異常であることを認識できる。つまり、異常の種類が特定される。
【0061】
よって、判定部43は締付状態が正常であるか異常であるか、および異常であるときにはその異常の種類(エラーコード1〜2)を検出する。そして、これを表示部44に表示することで、作業者は螺合部15aの締付状態の良否および異常の種類を認識することができる。つまり、異常を生じている場合には、異常の種類を特定するエラーコードを表示部44に表示しているため、作業者は表示されたエラーコードに応じた対応を採ることができる。
【0062】
異常の種類を示すエラーコードは表示部44に表示されるが、これを音による認識をさせてもよい。例えば、正常であるか否かおよびエラーコードを音声で読み上げることや、エラーコードに応じた音を発生させるようにしてもよい。これにより、作業者は表示部44を視認することなく、正常であるか否かおよび異常である場合にはその異常の種類を認識することができる。
【0063】
ここで、締付状態が正常であるか否かの判定については、差分角度θsfに基づいて認識することができる。第2の判定処理S4では、差分角度θsfが角度閾値θtrよりも小さければ締付状態が正常であることを検出しているが、差分角度θsfが過剰に小さい場合も、やはり締付状態の異常を検出することができる。
【0064】
つまり、差分角度θsfが少ない場合ということは、少ない回転角度θで着座トルクTsから終点トルクTfに達するということになる。つまり、少ない回転角度θでトルクTが着座トルクTsから設定トルクtfにまで急上昇することになる。これは、主に前述した弾性シール部材26が挿嵌されてない場合に生じることであるが、この場合もやはり締付状態の異常となる。
【0065】
第1の判定処理S3では、着座トルク勾配Csと勾配閾値Ctrとを比較して弾性シール部材26が挿嵌されていない場合を検出していたが、差分角度θsfが過剰に少ないことを検出することによっても認識することができる。この場合の差分角度θsfの下限値をθα(予め設定するパラメータ:弾性シール部材26が挿嵌されていないことを検出するための差分角度θsf)とすると、「θsf>θα」によって、弾性シール部材26が挿嵌されているか否かを検出できる。
【0066】
つまり、締付状態が異常であるか否かは、着座トルクTsから設定トルクTfに到達するまでの回転した回転角度θ(差分角度θsf)が所定範囲内にあるか否かに基づいて判定することができる。つまり、「θα<θsf<θtr」に基づいて判定することができる。この条件を満たせば締付状態が正常であることが認識され、それ以外の場合は締付状態が異常であることが認識される。これにより、締付状態が正常であるか否かを差分角度θsfに基づいて判定することができるようになる。
【0067】
以上のようにして、締付状態検出装置40によりトルクレンチ30の締付状態を検出することで、螺合部15aに適正な締付力が作用したことを認識している。そして、締付が適正でない場合においては、どのような異常が生じたかを検出できる。特に、弾性シール部材26が装着されていないときには、ナット部21に過剰な締付力が作用する前の段階でその異常を認識でき、螺合部15aに対して大きなダメージを与えるのを未然に防止できる。
【符号の説明】
【0068】
25 シール溝
26 弾性シール部材
30 トルクレンチ
31 トルク検出部
32 回転角度検出部
40 締付状態検出装置
41 演算部
42 メモリ
43 判定部
44 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルクレンチを用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出装置であって、
前記トルクレンチにより前記螺合部を螺回させたときに作用するトルクが設定された着座トルクから設定された設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度が設定された範囲内にあるか否かに基づいて前記締付状態が正常であるか否かを判定する判定部を備えたこと
を特徴とする締付状態検出装置。
【請求項2】
前記判定部は、
着座時の前記トルクの勾配である着座時トルク勾配が設定された勾配閾値よりも小さく、且つ前記着座トルクから前記設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度を差分角度として、この差分角度が設定された角度閾値よりも小さいときに前記締付状態が正常であり、それ以外は異常であると判定すること
を特徴とする請求項1記載の締付状態検出装置。
【請求項3】
前記判定部は、
前記着座時トルク勾配が前記勾配閾値以上のときには、前記螺合部に挿嵌される弾性シール部材がこの弾性シール部材を嵌合させるシール溝に挿嵌されていない異常であることを検出すること
を特徴とする請求項2記載の締付状態検出装置。
【請求項4】
前記判定部は、
前記着座時トルク勾配が前記閾値勾配よりも小さく、且つ前記差分角度が前記角度閾値以上であるときに前記弾性シール部材が前記シール溝に対して不適正な位置に挿嵌されている異常であることを検出すること
を特徴とする請求項3記載の締付状態検出装置。
【請求項5】
トルクレンチを用いて螺合部を締め付けたときの締付状態を検出する締付状態検出方法であって、
前記トルクレンチに作用するトルクが設定された着座トルクから設定された設定トルクに達したときの前記トルクレンチの回転角度が設定された範囲内にあるか否かに基づいて前記締付状態が正常であるか否かを判定すること
を特徴とする締付状態検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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