説明

編機

【課題】挿入部材例えば編針を持つ編機において挿入部材の駆動バットが針床に沈下している時、長手方向における挿入部材の運動が確実に阻止されるか又は少なくとも限定されるようにする。
【解決手段】 編機の少なくとも1つの針床(100)の針溝(10)内に、駆動バット(13)を持つ挿入部材(1)例えば編針が長手方向移動可能に設けられ、挿入部材(1)に少なくとも1つのストッパ面(14)が形成され、駆動バット(13)が針床(100)へ沈下する際、ストッパ面(14)が拘束面(101)に当接する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの針床を持つ編機であって、針床の針溝内に、挿入部材特に編針が長手方向に移動可能に設けられ、挿入部材が駆動バットを持ち、挿入部材が選択されない場合、駆動バットが針床の上側から突出しないものに関する。
【背景技術】
【0002】
挿入部材の駆動バットの持上げにより、バットを編成システムのカム曲面に係合させ、カム曲面の推移に応じて、針溝内で往復運動させることができる。どの時点に駆動バットが針床から持上げられるかに応じて、駆動バットを異なるカム曲面により捕捉することができ、それによりいわゆる多方技術を実現することができる。挿入部材が編針であると、駆動バットを捕捉するカム曲面に応じて、編針が編目を形成するか、又はタックを挿入することができる。バットが持上げられないと、バットは沈下した不動作位置に留まる。駆動バットを針床へ沈下させて、編成システムによる挿入部材の運動が行われないようにするため、例えばいわゆるプレッサカムが公知である。これらのカムにより、針の駆動バットが特定の時点に針床へ押込まれ、こうしてカムとの係合を解除される。これに反し持上げカムでは、針又は他の挿入部材の駆動バットが、カム又は他の挿入部材により持上げられる。カム通過後、駆動バットが能動的に又はばね力により針床へ押戻される。
【0003】
プレッサカム及び持上げカムはその構造に比較的費用がかかるので、異なる動作時点を持つカムも提案され、針とはまり合いで結合される付加的な素子が弾性的に応力をかけられる位置へもたらされて固定される。特定のカム通過時点にこの固定が解消され、それにより針の駆動バットがカムと係合せしめられる。更に弾性的な針幹を持つ針が公知であり、針幹の端部に駆動バットが設けられ、針幹のばね力が、駆動バットを針床内へ沈下される位置に保つ。しかしこれらの針は非常に不安定なので、駆動バットがカム曲面の作用を受けると、針が長手方向に曲がる可能性がある。
【0004】
すべての解決策において、挿入部材の駆動バットの確実な持上げ及び沈下のほかに、挿入部材の駆動バットがカム曲面と係合しない時、即ち駆動バットが不動作位置にあるか又は駆動バットが持上げられない時、挿入部材が針溝の長手方向における望ましくない運動特に前進運動を行わないことも重要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の基礎になっている課題は、挿入部材の駆動バットが針床に沈下している時、長手方向における挿入部材の運動が確実に阻止されるか又は少なくとも限定される編機を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、少なくとも1つの針床を持つ編機であって、針床の針溝内に、挿入部材特に編針が長手方向に移動可能に設けられ、挿入部材が駆動バットを持ち、挿入部材が選択されない場合、駆動バットが針床の上側から突出しないものにおいて、挿入部材に少なくとも1つのストッパ面が形成され、挿入部材の駆動バットが針床内へ沈下される場合、ストッパ面が、挿入部材の長手方向に対して横向きに向けられる少なくとも1つの拘束面に当接することによって、解決される。
【0007】
本発明により構成される編機は、選択されていないか又は選択過程にある挿入部材の長手方向移動可能性を少なくとも限定するか、又はこのような長手方向移動可能性を完全に排除する。挿入部材が編針であると、それにより、針が選択されていなくても、糸を介して針運動方向に作用する力によってこれらの針が意に反して前方へ引張られるのを、防止することができる。それにより対向する針との衝突、及び針かぎにある編目への不利な影響を回避することができる。
【0008】
更に駆動バットが針床から完全に持上げられる場合にのみ、ストッパ面がもはや拘束面に当接しないように、編機が形成されていると、選択過程中に挿入部材の長手方向移動も排除することができる。これは、特に第1の挿入部材の長手方向においてその駆動バットの下へ押される第2の挿入部材を介して駆動バットの持上げが行われる時に、重要である。選択挿入部材の前進運動により選択すべき挿入部材へその長手方向に作用する力成分を、それにより補償することができる。その際挿入部材の当接面は、選択過程中に常にただ1つの拘束面に当接する必要はなくて、例えばまず第1の拘束面に当接し、それから第2の拘束面に当接することもできる。
【0009】
1つ又は複数の拘束面が例えば針床の針溝底にある段部として構成されている。その場合駆動バットが沈下すると、駆動バットが大きく持上げられるまで、挿入部材の少なくとも1つのストッパ面がこの段部に当接している。
【0010】
しかし少なくとも1つの拘束面が、挿入部材の長手方向に対して横向きに延びる線により形成されていることも可能である。針床全体に横向きに通される線又は条片は、各針溝のための拘束面の製造の構造的に簡単で安価な可能性を与える。
【0011】
しかし拘束面の少なくとも一部をカムに設けることもできる。この場合挿入部材のストッパ面をなるべく挿入部材の駆動バットに設けることができる。
【0012】
拘束面を形成するために線を設ける場合、挿入部材のストッパ面がなるべくU字状に延びる断面を持ち、線がストッパ面のUの両脚辺の間へ導入可能である。こうして挿入部材の拘束が、針溝に沿って両方の移動方向に行われる。更に又はその代わりに、挿入部材の長手方向に対して横向きに向けられる平らな面を形成する当接面を設けることができる。
【0013】
その際ストッパ面は原理的に挿入部材の任意の個所に設けられていてもよいが、なるべく駆動バットの範囲に設けられている。これは、特に駆動バットが挿入部材の後端部に設けられていると、特に有利である。バットが針床に沈下していると、ストッパ面も針床へ没入し、そこに設けられる拘束面と共同作用することができる。
【0014】
拘束面及び/又は当接面は、なるべく摩耗の少ない材料から製造するか、又は摩耗を少なくする被覆を備えるか、又は熱処理することができる。適当な被覆を設けるほかに、別の部材によるこれらの面の外装も問題になる。当接面及び拘束面の幾何学的形成によっても、摩耗を少なくすることができる。例えば丸められる縁により面を区画し、かつ/又は面自体を湾曲することができる。
【0015】
編機の好ましい構成では、駆動バットが、それに作用するばね力とは逆向きに持上げ可能である。これは、挿入部材の選択の終了の際、駆動バットがその針床に沈下した初期位置へ自動的に戻ることを意味する。これにより、針溝の長手方向に見て幅の狭い針床が製造される。なぜならば、駆動バットを持上げるために、例えば持上げシンカの形の駆動素子を設けさえすればよいからである。この場合カムも比較的簡単に形成される。プレッサカム技術をなくすことができる。
【0016】
挿入部材が針溝内に揺動可能に設けられ、駆動バットが挿入部材の揺動運動により持上げ可能であると、同じような利点が得られる。この場合も、挿入部材が選択素子の作用を受けない場合、駆動バットが針床へ沈下するその初期位置を自動的にとるように、挿入部材を形成することができる。
【0017】
特に簡単なカム構造を実現するために、挿入部材がただ1つの駆動バットを持っていると、さらに有利である。その場合この1つのバットのために、適当なカム曲面を編成システムに設けさえすればよい。
【0018】
編針は1つの部分から構成されるか、又は複数の部分から構成される。
【0019】
本発明による編機の挿入部材を持つ針床の好ましい実施例が、図面により以下に詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】 挿入部材として編針及び持上げシンカを持つ針溝の範囲における針床の断面を編針の選択過程の異なる段階で示す。
【図2】 第2の針床の図1に相当する断面を編針の選択過程の異なる段階で示す。
【図3】 別の構成の編針を持つ図2の針床の断面を選択過程の異なる段階で示す。
【図4】 持上げシンカ及び編針を持つ第3の針床の断面を編針の選択過程の異なる段階で示す。
【図5】 編針の選択過程の異なる段階中における別の構成の編針を持つ図1の針床の断面図を示す。
【図6】 持上げシンカ及び編針を持つ第4の針床の断面を編針の選択過程の異なる段階で示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1のa〜cは、編針1が挿入されている第1の針床100の針溝10の断面を示し、編針のただ1つの駆動バット13が針幹11の可撓脚辺12に設けられている。
【0022】
図1aは、編針1が選択されない場合における編針1及び持上げシンカ2の初期位置が示されている。駆動バット13は、針溝10から編針1が脱落するのを防止する針床の覆い帯片200を越えて突出していない。持上げシンカ2も、適当な帯片210により脱落を防止されている。持上げシンカ2は、ここには図示してないカムに係合可能なバット22を持ち、それにより持上げシンカ2は長手方向に移動可能である。図1aでは、持上げシンカ2が不動作位置にある。編針1の駆動バット13は針床100へ殆ど完全に沈下している。駆動バット13は、その針幹11に近い側にストッパ面14を持ち、このストッパ面14が針床100の拘束面101に当接している。持上げシンカ2は、その編針1に近い側に斜面21を持ち、歯口間隙300の方へ持上げシンカ2の移動により、この斜面21が編針1の駆動バット13の斜面15に当接可能である。
【0023】
さて図1bに示すように、持上げシンカ2が矢印30の方向に移動されると、編針1の斜面15が持上げシンカ2の斜面21上を上方へ滑り、それにより駆動バット13が矢印40の方向へ持上げられる。図1bに示す中間位置では、編針1の駆動バット13は引き続き針床の拘束面101に接触したままなので、編針1も同様に矢印30の方向へ一緒に動かされない。
【0024】
図1cは、最も前の位置にある持上げシンカ2を示す。この位置で斜面21の先端が、針床100のストッパ面101より下の溝102内にある。持上げシンカ2は今や編針1に対して針溝床を形成し、編針1の駆動バット13は完全に持上げられている。今や駆動バット13はここには示されてないカムにより捕捉されて、編針1を押出すことができる。
【0025】
図2のa〜cは第2の針床100′の断面を示し、その針溝10′に再び図1のように編針1及び持上げシンカ2が挿入されている。しかしここでは拘束面120が、針溝10′を通って横向きに張られる線120により形成され、駆動バット13が図2cに示す位置へ完全に持上げられていない限り、編針1のストッパ面14に当接する。
【0026】
図3のa〜cは図2のa〜cに相当する針床100′の断面図を示しているが、針溝10′にはその代りに形成される編針1′が挿入されて、U字状断面のストッパ面16をその駆動バット13′の所に持っているので、駆動バット13′が完全に沈下されているか(図3a)、又は図3bに示す中間位置に保持されている限り、線120がストッパ面16のUの両脚辺の間へ導入可能である。図3cに示すように駆動バット13′が完全に持上げられると初めて、線120がストッパ面16の脚辺外にあるので、駆動バット13は線120を越えて滑ることができ、即ち編針1′は押出し運動及び引込み運動を行うことができる。
【0027】
図4のa〜eは、図1による編針1及び持上げシンカ2を持つ針床100の断面を再び示す。しかしここでは、針床100の上にカム130を持つカム板140が設けられて、針床の上側を越える駆動バット13の特定の浮上高さから、編針1の長手方向における行程を限定する。
【0028】
図4aは、不動作位置にある持上げシンカ2及び編針1を示す。駆動バット13は針床100へ完全に沈下している。図4bでは中間位置へ持上げられている。この位置でそのストッパ面14はまだ針床の拘束面101に当接している。更にカム130は駆動バット13用の別のストッパ面を形成し、したがって駆動バット13の前端面も同様にストッパ面を形成する。図4cでは、編針1の駆動バット13が完全に持上げられている。拘束面101はもはや作用しない。しかしカム130は拘束面として引続き駆動バット13に係合している。図4dに示すように、カム板140の面へカム130が持上げられることにより初めて、すべての拘束面101及びカム130が編針1に係合しないので、編針1は今や長手方向に自由に動くことができる。図4eにおいてカム130が乗越えられると、駆動バット13の釈放が行われる。
【0029】
図5のa〜cには、図1のa〜cに相当する針床100の断面図が示され、持上げシンカ2のそばに第3の構成の編針1″が挿入されている。この針1″は、駆動バット13″がここでは可撓性ではなく剛性の脚辺17に設けられているという点で、針1及び1′とは相違している。従って矢印30の方向へ持上げシンカ2の前進の際、駆動バット13″が持上げられるだけでなく、針1″全体が図5のb及びcに示すように揺動される。しかし押出し方向における編針1″の拘束は、図1の編針1におけるのと同じように、駆動バット13″にあるストッパ面14″及び針床100にある拘束面101を介して行われる。
【0030】
図6のa〜dは別の針床100″の断面を示し、持上げシンカ2のほかに第4の構成の編針1′′′が示されている。編針1′′′は駆動バット13′′′の下側に凹所18を持ち、図6aに示すように、駆動バット13′′′がその不動作位置へ沈下する際、線120′がこの凹所18へ入ることができる。凹所18の幅は線120′の直径より大きい。それにより沈下した不動作位置で編針1′′′が、凹所18の幅から線120′の直径を差引いた範囲内で長手方向運動を行うことができ、即ち不動作位置で編針1′′′が、長手方向にある程度の遊びを持っている。図6のa及びbは、駆動バット13′′′の不動作状態で編針1′′′の長手方向運動の終端位置を示している。図6aでは、線120′が凹所18の左のストッパ18′に当接し、図6bでは右のストッパ18″に当接している。
【0031】
図6cは、編針1′′′の方へ持上げシンカ2の移動により、駆動バット13′′′がどのように持上げられるかを示している。その際凹所18のストッパ面18′が線120′に当接し、それにより編針1′′′がその前進運動を抑制される。持上げシンカ2が更に前方へ動かされると、図6dに示すように、駆動バット13′′′がその動作位置へ持上げられる。この位置で編針1′′′は、ここには図示されてないカムにより捕捉され、カムにより押出し運動及び引込み運動せしめられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの針床を持つ編機であって、針床(100,100′)の針溝(10,10′)内に、挿入部材特に編針(1,1′,1″,1′′′)が長手方向に移動可能に設けられ、挿入部材(1,1′,1″,1′′′)が駆動バット(13,13′,13″,13′′′)を持ち、挿入部材(1,1′,1″,1′′′)が選択されない場合、駆動バット(13,13′,13″,13′′′)が針床(100,100′)の上側から突出しないものにおいて、挿入部材(1,1′,1″,1′′′)に少なくとも1つのストッパ面(14,14′,14″,18′,18″)が形成され、挿入部材(1,1′,1″,1′′′)の駆動バット(13,13′,13″,13′′′)が針床(100,100′)内へ沈下される場合、ストッパ面(14,14′,14″,18′,18″)が、挿入部材(1,1′,1″)の長手方向に対して横向きに向けられる少なくとも1つの拘束面(101,120,120′,130)に当接することを特徴とする、編機。
【請求項2】
駆動バット(13,13′,13″,13′′′)が針床(100,100′)から完全に持上げられる場合にのみ、ストッパ面(14,14′,14″,18′,18″)がもはや拘束面(101,120,130)に当接しないことを特徴とする、請求項1に記載の編機。
【請求項3】
拘束面(101,101′)が針床(100,100′)の針溝床底にある段部として構成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の編機。
【請求項4】
拘束面(120,120′)が、挿入部材の長手方向に対して横向きに延びる線(120)により形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の編機。
【請求項5】
挿入部材(1)のストッパ面(16)がU字状に延びる断面を持ち、線(120)がストッパ面(16)のUの両脚辺の間へ導入可能であることを特徴とする、請求項4に記載の編機。
【請求項6】
挿入部材(1′′′)が線(120′)用の凹所(18)を持ち、凹所(18)の幅が線(120′)の直径より大きいことを特徴とする、請求項4に記載の編機。
【請求項7】
少なくとも1つの拘束面がカム(130)に設けられていることを特徴とする、請求項1〜6の1つに記載の編機。
【請求項8】
ストッパ面(14,14′,14″,18′,18″)が、挿入部材の長手方向に対して横向きに向けられる平らな面であることを特徴とする、請求項1〜7の1つに記載の編機。
【請求項9】
少なくとも1つのストッパ面が駆動バット(13,13′,13″,13′′′)の範囲に設けられていることを特徴とする、請求項1〜8の1つに記載の編機。
【請求項10】
駆動バット(13,13′,13″,13′′′)が挿入部材(1,1′,1″,1′′′)の後端部に設けられていることを特徴とする、請求項1〜9の1つに記載の編機。
【請求項11】
駆動バット(13,13′)が、それに作用するばね力とは逆向きに持上げ可能であることを特徴とする、請求項1〜10の1つに記載の編機。
【請求項12】
挿入部材(1″)が針溝(10)内に揺動可能に設けられ、駆動バット(13″)が挿入部材(1″)の揺動運動により持上げ可能であることを特徴とする、請求項1〜11の1つに記載の編機。
【請求項13】
挿入部材(1,1′,1″,1′′′)がただ1つの駆動バット(13,13′,13″,13′′′)を持っていることを特徴とする、請求項1〜12の1つに記載の編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−140745(P2012−140745A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−290573(P2011−290573)
【出願日】平成23年12月16日(2011.12.16)
【出願人】(591114995)ハー・シユトル・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング・ウント・コンパニー・コマンデイトゲゼルシャフト (16)
【Fターム(参考)】