説明

編物用延伸仮撚加工糸

【課題】一般に用いられる加工糸を使用すると、編物にした時、手触り感がガサツクという問題や染めムラ等の品質バラツキの問題を解決し、ソフト性、伸縮性を有する編物を得ることが出来る延伸仮撚加工糸を供給する。
【解決手段】
下記(1)〜(6)の特性を満足した合成繊維からなる編物用延伸仮撚加工糸とすることによって達成できる。
(1)伸縮復元率(CR)が5.0%以上5%15.0%以下
(2)発現伸長率(TR)が0.5%以上5.0%以下
(3)最大収縮応力値が0.1cN/dtex以上1.0cN/dtex以下。(4)交絡数が4以上50以下。
(5)沸騰水収縮率が5.0〜15.0%
(6)沸騰水収縮率のバラツキが8%以下

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、仮撚加工糸に関し、ソフト性、ふくらみ感に優れた、従来の延伸糸や仮撚加工糸とは異なる新感覚な風合いを有する品質バラツキの無い織編物を提供できる仮撚加工糸に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維は、機械的特性をはじめ様々な優れた特性から一般衣料用分野をはじめ各種分野に広く利用されている。衣料用途では天然繊維をターゲットとして品質の改良が行われ、特に延伸糸に不足する嵩高性を持たせるため、延伸と同時に仮撚加工を施し、嵩高感のある風合いを得てきた。仮撚加工を施すと、織編物にした際に手触り感がガサツク、ソフト感が不足するという問題があったが、合成繊維の未延伸糸を加撚前に加熱体により加熱した後、該加熱体から糸条が離れる点とは異なる、加熱体と仮撚具との間の位置に設けた撚り止め装置を加撚開始点として、仮撚加工を連続して行うことで、ソフト性、伸縮性に優れた仮撚加工糸を提供することが知られている(特許文献1参照)。同様に合成繊維の未延伸糸を加撚前に加熱体により加熱した後、該加熱体から糸条が離れる点とは異なる、加熱体と仮撚具との間の位置に設けた撚り止め装置を加撚開始点として、延伸仮撚加工を連続して行う製法も知られている(特許文献2参照)。しかし、いずれも沸騰水収縮率のバラツキが大きく、特に編物での収縮バラツキによる染めムラの発生が起こり、工業上生産には適さなかった。
【特許文献1】特開2001−271237号公報(請求項1、段落番号[0022])
【特許文献2】特開2001−271236号公報(請求項1、段落番号[0006])
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、上記従来技術の欠点を改良し、編物において、ソフト性、伸縮性に優れ、染めムラ等の品質バラツキの無い仮撚加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、下記(1)〜(6)の特性を満足した合成繊維糸条からなる編物用延伸仮撚加工糸によって、達成できる。
(1)伸縮復元率(CR)が5.0%以上5%15.0%以下
(2)発現伸長率(TR)が0.5%以上5.0%以下
(3)最大収縮応力値が0.1cN/dtex以上1.0cN/dtex以下。(4)交絡数(CF値)が4以上50以下。
(5)沸騰水収縮率が5.0〜15.0%
(6)沸騰水収縮率のバラツキが8%以下
【発明の効果】
【0005】
本発明の延伸仮撚加工糸を用いることにより、従来の仮撚加工糸が有していた編物にした際に手触り感がガサツク、ソフト感が不足するという問題や染めムラ等の品質バラツキの課題を改善した、ソフト性、伸縮性に優れた編物を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明でいう合成繊維糸条は、ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の熱延伸が可能な合成繊維糸条をいい、ポリエステル繊維が最も汎用的で好ましい。本発明における仮撚加工糸は、伸縮復元率(CR)が5.0%以上15.0%以下のものであり、好ましくは6.0%以上14.0%以下であり、さらに好ましくは6.0%以上13.0%以下である。CRが5.0%未満であると、製織、あるいは編み立て後の伸縮が小さく、織編物の膨らみ感が低下する。また、CRが15.0%を越えると織編物の染色仕上げ後の捲縮発現が大きく、染色仕上げ工程後の伸縮が大きくなり、織編物の構造が大きく変化してソフト性が乏しくなる。なお、伸縮復元率(CR)は、JIS L1019Tを用い、以下の測定法により測定して求める。すなわち、検尺機を用いて初期張力:(0.088×繊度(dtex))cNで、カセ長50cm、巻き数10回のかせを作り、これを90℃の熱水中に20分間浸漬後、吸取紙または布で水を切り、水平状態で自然乾燥させる。このかせ巻きを室温の水中に入れ、規定の初荷重と定荷重を掛けた状態での試料長:aを測定する。次に、定荷重を取り除き、試料に初荷重のみが負荷した状態で3分間水中で放置し、3分後の試料長:bを測定し、下式により伸縮復元率CR(%)を計算する。なお、初荷重と定荷重は下式により求めたものを使用する。
【0007】
CR(%)=((a−b)/a)×100
初荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.002
×0.9807×巻取回数×2
定荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.1
×0.9807×巻取回数×2
また、本発明における仮撚加工糸は捲縮発現伸長率(TR)が0.5%以上5.0%以下であることが重要である。TRが0.5%未満であると織物、あるいは織物にした後の伸縮が小さく、織編物の膨らみが乏しくなる。またTRが5.0%より高くなると織編物の染色仕上げ後の捲縮発現が大きく形態差による品質バラツキにつながる。望ましくは0.6%以上3.0%以下であり、更に望ましくは0.6%以上1.0%以下である。捲縮発現伸長率(TR)は、次の方法により求める。すなわち、検尺機を用いて初張力:(0.088×繊度(dtex))cNでカセ長50cm、巻き数20回のかせを作り、初荷重をかけ、150±2℃で5分間乾熱処理する。乾熱処理後、初荷重を掛けた状態での試料長:aを測定する。次に、初荷重を外し、定荷重を掛けた状態での試料長:bを測定し、下式により捲縮伸長率TR(%)
を計算する。なお、初荷重と定荷重は下式により求めたものを使用する。
【0008】
TR(%)=((b−a)/b)×100
初荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.00166
×0.9807×巻取回数×2
定荷重(cN)=(繊度(dtex)/1.111)×0.1
×0.9807×巻取回数×2
また、本発明における仮撚加工糸は、最大収縮応力値が0.1cN/dtex以上1.0cN/dtex以下であることが必要であり、好ましくは0.1cN/dtex以上0.5cN/dtex以下であり、更に好ましくは0.1cN/dtex以上0.3cN/dtex以下である。最大収縮応力値が1.0cN/dtexを超えると染色仕上げ地の収縮が大きくなり、織編物のソフト性が損なわれる。尚、最大収縮応力値は、次の方法により求める。すなわち、カネボウエンジニアリング社製熱応力測定器(タイプKE−2S)を用い、紐状にした試料を0.088cN/dtexの初荷重をかけた後、2.5℃/secの速度で昇温し、発生する応力をチャート上に記録した。収縮応力値は、チャートから読みとった応力を繊度で除し、cN/dtexで表した。
【0009】
また、本発明における仮撚加工糸は低捲縮であるために交絡数が4以上50以下有するものである。交絡数が50を越えると、染色仕上げの工程後に交絡が残るため製品品位が悪くなり、また4未満では解舒性が低下し、解舒張力の変動により糸切れ等の問題が発生し編み加工性が悪化する。望ましくは、5以上45以下であり、更に望ましくは6以上40以下である。なお、交絡数は、次の方法により求める。すなわち、JIS−L1013(1992)の規定に準じ、ロシルド社製インタングルメントテスター(型式:R2040)を用いて測定した値である。
【0010】
また、本発明における仮撚加工糸は、沸騰水収縮率が5.0%以上15.0%以下であることが必要であり、好ましくは6%以上13%以下、更に好ましくは6%以上12%以下である。沸騰水収縮率が5%より低くなると生機をリラックス熱処理をした際の収縮率が小さく嵩高性やボリューム感が乏しくなる。15%より高いと熱寸法安定性に劣るのみでなく、収縮バラツキによる染色バラツキが発生する。本発明における沸騰水収縮率バラツキは8%以下が必要であり、好ましくは7%以下であり、更に好ましくは6%以下である。8%より高いと織編後収縮バラツキによる形態差が発生し、品位異常の発生が散発する。尚、沸騰水収縮率は、次の方法により求める。すなわち、枠周1.000mの検尺機で表示繊度の1/11.1gで10回巻きのカセを採取し、定荷重を掛けた状態での試料長:aを測定する。次に荷重を無くした状態で100℃で15分間沸騰水処理を行い、風乾後定荷重を掛けた状態での試料長:bを測定し、下式により沸騰水収縮率を求める。
【0011】
沸騰水収縮率(%)=((a−b)/a)×100
定荷重(g)=表示繊度(dtex)×10×2×(1/11.1)
また、本発明における仮撚加工糸は実撚が4t/m以上15t/m有するものであることが好ましい。望ましくは、4以上14t/m以下であり、更に望ましくは4t/m以上13t/m以下である。単糸間の絡みと同時にマルチフィラメントでの収束のためであるが、実撚が15t/mを越えると染色仕上げの工程後に単糸の移動が不十分になりソフト性に欠けるものとなる。
【0012】
上述した延伸仮撚加工糸は、具体的には以下の方法で得ることが出来る。すなわち、合成繊維の未延伸糸を加撚前に加熱した後、加熱体と仮撚り具との間で加熱体と糸条とが離れる点とは異なる位置に撚り止め装置を設け、撚り止め装置を加撚開始点として延伸仮撚りし、その後、ガラス転移点温度以上でかつ加撚前に加熱した温度以下に加熱された引き取りロールで熱セットを実施するものである。ガラス転移点はリガク株式会社製のTAS−200を使用し昇温速度10℃/分にて測定した。仮撚前に加熱した温度と引き取りロールの温度差は5℃から20℃程度が沸収バラツキ低減には好ましく、更に好ましくは5℃から10℃が良い。温度差が5℃より小さいと捲縮特性が乏しく、温度差が20℃より大きいと沸収バラツキが大きくなる。雰囲気温度のバラツキによる沸収バラツキ低減のために各加熱体の周囲に断熱効果のある囲いを設置することも好ましい。
【0013】
さらに具体的に図面に示す実施例に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明の延伸仮撚加工糸の製造方法の一例を示す工程図である。図1において、未延伸糸1はフィードロール2を経て加熱ロール3とセパレートロール4に数回巻き付けられて予備加熱され、撚り止め装置6、仮撚り具7、ガラス転移点温度以上でかつ加熱ロール3の温度以下に加温された加熱引き取りロール8の間で、加熱ロール3と糸条が離れる点5とは異なる点に設けた撚り止め装置6を加熱開始点として、延伸仮撚りと熱セットを連続的に施される。ついで加熱していないストレッチロール9に巻いた後、巻取装置10で巻き取られる。本発明において実撚がかかっていることが望ましいので、巻取装置10は、トラベラがリングを滑走するタイプの装置で示した。
【0015】
本発明の上記方法によると、仮撚りは予備加熱温度の糸の温度で撚がかかるため軽微な捲縮特性を有し、ソフト性に優れる。また、従来の仮撚り加工法とは異なり、撚開始点では加熱しないため、単糸間に均一な熱がかかっているので糸切れ、毛羽などの発生は極力抑えられる。更に引き取りロール温度をガラス転移点以上で加熱ロールの温度以下とすることにより、収縮率を適正化し、バラツキを低減することが可能となり本発明の仮撚加工糸は高品位の編物を得ることが出来る。また、延伸仮撚りの速度は、適宜設定できるが、400m/分以上1500m/分の範囲が好ましい。また、延伸仮撚り後にガラス転移点温度以上仮撚温度以下のロールで熱セットを施しているため捲縮を残した状態であることで、収縮率の安定性が優れる。更に加熱ロール、引き取りロールの前面および上下部にカバーを設置することで更に環境温度や風の影響を受けることなく捲縮特性や収縮率を安定化することができる。また、繊維断面形状に特に制限は無いが、断面形状保持のためには予備加熱温度を150℃以下とすることが好ましい。
【実施例】
【0016】
実施例1
36ホールの紡糸口金を使用して、紡糸速度2600m/分で高速紡糸して得たポリエチレンテレフタレートの未延伸糸を加熱ロール温度100℃延伸倍率1.75倍、仮撚り数3200t/m、速度1000m/分で仮撚り具で仮撚りしながら延伸し、引き取りロール温度90℃で熱セットした糸を引き取りローラとストレッチローラ間で交絡圧空圧0.2MPaにて交絡を掛けパーンに巻き取り、84dtexの仮撚加工糸を製造した。この延伸仮撚糸のCRは11%、TRは0.8%、収縮応力MAX値は0.12cN/dtex、CF値は30、沸騰水収縮率は11%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは5%であり、巻き取った際の実撚数は10T/mであった。これらの糸を30本使用して丸編みを作り通常使われる条件で染色仕上げを行った。比較例として、加熱ロールの温度、引き取りローラの温度、交絡圧圧空、実撚数を変更し、30本の原糸の平均沸騰水収縮率および沸騰水収縮率のR(MAX−MIN)の異なる表1のサンプルを採取した。実施例1で巻き取られた糸を使った編物は触感評価により、適切なCRとTRの結果を得られ良好なソフト性、ふくらみ感共に優れており、沸騰水収縮率バラツキが小さく染めムラの発生は無かった。
【0017】
実施例2
加熱ロール温度を95℃、引き取りロール温度を85℃とした以外は実施例1と同様とし巻き取った結果、CRは10%、TRは0.6%、収縮応力MAX値は0.11cN/dtex、CF値は25、沸騰水収縮率は12%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは6%であり、巻き取った際の実撚数は10T/mであった。実施例1と同様の条件にて、丸編み、染色仕上げを行った結果、ソフト性、ふくらみ感共に良好で、染めムラの発生も無かった。
【0018】
実施例3
実撚数を変更した以外は実施例1と同様とし巻き取った結果、この延伸仮撚糸のCRは11%、TRは0.9%、収縮応力MAX値は0.13cN/dtex、CF値は3、沸騰水収縮率は12%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは6%であり、巻き取った際の実撚数は17T/mであった。実施例と同様の条件にて、丸編み、染色仕上げを行った結果、ふくらみ感や染めムラの発生等無かったが、ややソフト性に欠けるものとなった。
【0019】
比較例1
引き取りロール温度を30℃とする以外は実施例1と同様とし巻き取った結果、この延伸仮撚糸のCRは25%、TRは3.3%、収縮応力MAX値は0.12cN/dtex、CF値は28、沸騰水収縮率は39%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは18%であり、巻き取った際の実撚数は9T/mであった。実施例と同様の条件にて、丸編み、染色仕上げを行った結果、ソフト性、ふくらみ感は良好であったが、染めムラの発生があった。
【0020】
比較例2
引き取りロール温度を120℃とする以外は実施例1と同様とし巻き取った結果、この延伸仮撚糸のCRは6%、TRは0.2%、収縮応力MAX値は0.11cN/dtex、CF値は32、沸騰水収縮率は4%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは4%であり、巻き取った際の実撚数は11T/mであった。実施例と同様の条件にて、丸編み、染色仕上げを行った結果、ふくらみ感に乏しいものとなった。
【0021】
比較例3
交絡圧空圧を0.1MPaとする以外は実施例1と同様とし巻き取った結果、この延伸仮撚糸のCRは12%、TRは0.9%、収縮応力MAX値は0.11cN/dtex、CF値は3、沸騰水収縮率は11%、沸騰水収縮率の個々のバラツキは5%であり、巻き取った際の実撚数は11T/mであった。実施例と同様の条件にて、丸編み、染色仕上げを行った結果、高次加工時の解舒性が悪く丸編み加工性が悪化した。
【0022】
比較例4
一般に用いられているヒーター内を加撚しながら糸条を走行させ熱セットを行う仮撚加工糸を実施例と同様の条件にて、丸編み、条件で染色仕上げを行った結果、ややガサツキ感がある風合いとなった。
【0023】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の編物用延伸仮撚加工糸の製造方法の一例を示す工程図である。
【符号の説明】
【0025】
1:未延伸糸
2:フィードロール
3:加熱ロール
4:セパレートロール
5:加熱ロールと糸条が離れる点
6:撚り止め装置
7:仮撚り具
8:加熱引き取りローラ
9:ストレッチロール
10:巻取装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)〜(6)の特性を満足した合成繊維糸条からなる編物用延伸仮撚加工糸。
(1)伸縮復元率(CR)が5.0%以上15.0%以下
(2)発現伸長率(TR)が0.5%以上5.0%以下
(3)最大収縮応力値が0.1cN/dtex以上1.0cN/dtex以下。(4)交絡数(CF値)が4以上50以下。
(5)沸騰水収縮率が5.0〜15.0%
(6)沸騰水収縮率のバラツキが8%以下
【請求項2】
実撚を4t/m以上15t/m以下有していることを特徴とする請求項1記載の編物用延伸仮撚加工糸。

【図1】
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【公開番号】特開2006−214038(P2006−214038A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28390(P2005−28390)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】