説明

緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法

【課題】 いかなる方向で使用する場合でもソケット内に嵌入させた上部ナットや下部ナットの位置ずれや脱落を防止するとともに、締め付け途中でロックしてしまうのを防止することができ、操作性や作業性を高めて緩み止めナットを連続的な操作によってスムーズに雄ネジに締結することができる緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法を提供する。
【解決手段】 上部ナット嵌入部34、上部ナット保持手段5を有する内ソケット3と、内ソケット3を軸線方向にスライド自在に挿入させる挿入孔41、下部ナット嵌入部42、下部ナット保持手段6を有する外ソケット4Aと、内ソケット3を外ソケット4Aの先端部に臨ませる第1位置と、内ソケット3を外ソケット4Aの先端面から後方に退避させる第2位置との間をスライドさせて内ソケット3と外ソケット4Aとの相対位置を切り換える位置切換手段7とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソケットレンチに関するものであり、特に複数のナットから構成される緩み止めナットを連続的な操作によって雄ネジに締結するのに好適な緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のナットから構成されて緩み止め機能を発揮する緩み止めナットを締結するための工具が知られている。例えば、特許第2564473号公報に記載のダブルナット用ソケットは、ナットを収容しうるナット係合凹所が連続して同軸上に複数個形成されている(特許文献1)。各ナット係合凹所は、対応するナットの角部と係合しうる複数個の角部を有し、これら角部同士の間には、底部側のナット係合凹所に収容されるナットの角部が通過しうる複数個の角部が形成されている。そして、開口端から二番目以下の各ナット係合凹所は、それぞれに対応するナットの厚さより若干深く形成されている。
【0003】
これにより、各ナットは所定の隙間を隔てた状態で各ナット係合凹所に収容されるため、ソケットを回転させて各ナットをボルトに螺着する場合、ナット同士が密着せず、互いにロックすることがないとされている。
【0004】
【特許文献1】特許第2564473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載された発明においては、各ナット係合凹所が、単にナットと略同形状に形成されているだけである。このため、例えばソケットの開口部を下向き(図4に示す向きと逆向き)に使用する場合、上部ナットがナット係合凹所から抜け落ちてしまうおそれがある。また、下部ナットが下方にずり落ちて上部ナットと接触し、結局、締結作業時にロックしてしてまうおそれがある。つまり、特許文献1のソケットは、開口部が上向きとなるような使用方法に限られ、そのような場面でしか上述した作用効果を十分に発揮できないという問題がある。
【0006】
また、上記特許文献1における第2実施形態では、内ソケットがコイルバネによって外ソケットから突出する方向に付勢されており、締結作業時には、ボルトの端部が常にナットにより軸線方向に押圧されるようになっている。このため、ソケットを回転させている間は、常にコイルバネの付勢力に対抗する力を加えていなければならず操作性が悪い。また、ボルトのヘッド部を逆方向に押さえ付けていなければ、ボルトが下孔から抜けてしまうおそれがあり作業性が悪いという問題がある。
【0007】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、いかなる方向で使用する場合でもソケット内に嵌入させた上部ナットや下部ナットの位置ずれや脱落を防止するとともに、締め付け途中でロックしてしまうのを防止することができ、操作性や作業性を高めて緩み止めナットを連続的な操作によってスムーズに雄ネジに締結することができる緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチの特徴は、下部ナットと、この下部ナットより小径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット用ソケットレンチであって、先端部に形成されて前記上部ナットを嵌入させる上部ナット嵌入部、およびこの上部ナット嵌入部内に嵌入された前記上部ナットを保持する上部ナット保持手段を有する内ソケットと、この内ソケットを軸線方向にスライド自在に挿入させる挿入孔、この挿入孔の先端部に設けられ前記下部ナットを嵌入させる下部ナット嵌入部、およびこの下部ナット嵌入部内に嵌入された前記下部ナットを保持する下部ナット保持手段を有する外ソケットと、前記上部ナットを前記内ソケット内に嵌入し、あるいは前記上部ナットを締結するために前記内ソケットを前記外ソケットの先端部に臨ませる第1位置と、前記下部ナットを前記外ソケット内に嵌入し、あるいは前記下部ソケットを締結するために前記内ソケットを前記外ソケットの先端面から後方に退避させる第2位置との間をスライドさせて前記内ソケットと前記外ソケットとの相対位置を切り換える位置切換手段とを有している点にある。
【0009】
また、本発明において、前記上部ナット保持手段は、前記内ソケットの側壁を前記上部ナット嵌入部内に貫通した上部ナット保持用貫通孔と、この上部ナット保持用貫通孔から前記上部ナット嵌入部内に突出して前記上部ナットの外側面に当接する上部ナット押圧部材と、この上部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記上部ナットを嵌入位置で押圧保持する上部ナット付勢部材とを有しており、前記下部ナット保持手段は、前記外ソケットの側壁を前記下部ナット嵌入部内に貫通した下部ナット保持用貫通孔と、この下部ナット保持用貫通孔から前記下部ナット嵌入部内に突出して前記下部ナットの外側面に当接する下部ナット押圧部材と、この下部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記下部ナットを嵌入位置で押圧保持する下部ナット付勢部材とを有していることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明において、前記位置切換手段は、前記外ソケットの側壁を前記挿入孔内に貫通した位置決め用貫通孔と、この位置決め用貫通孔から前記挿入孔内に突出される位置決め凸部材と、この位置決め凸部材に付勢力を付与する位置決め付勢部材と、前記内ソケットが前記第1位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該内ソケットの外側面に設けられた第1位置決め溝と、前記内ソケットが前記第2位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該内ソケットの外側面に設けられた第2位置決め溝と、前記第1位置決め溝および前記第2位置決め溝を軸線方向に沿って連続的に繋げたスライド溝とを有していることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る緩み止めナット締結方法の特徴は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の緩み止めナット用ソケットレンチを使用して下部ナットと、この下部ナットより小径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット締結方法であって、前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとの相対位置を前記第1位置に設定する第1位置設定工程と、前記上部ナット嵌入部に前記上部ナットを嵌入する上部ナット嵌入工程と、前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第2位置に設定する第2位置設定工程と、前記下部ナット嵌入部に前記下部ナットを嵌入する下部ナット嵌入工程と、前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記下部ナットおよび前記上部ナットを前記雄ネジに螺合させる螺合工程と、前記下部ナットを被締結物に対して締結する下部ナット締結工程と、前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第1位置に設定して前記下部ナット嵌入部から前記下部ナットを離脱させる下部ナット離脱工程と、前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記上部ナットを前記下部ナットに対して締結することでロックさせるロック工程とを有する点にある。
【0012】
また、本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチの特徴は、下部ナットと、この下部ナットと同径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット用ソケットレンチであって、スライド軸部材と、このスライド軸部材を軸線方向にスライド自在に挿入させる挿入孔、この挿入孔の先端部に形成されて前記上部ナットおよび前記下部ナットを嵌入させるナット嵌入部、このナット嵌入部内に嵌入された前記上部ナットを保持する上部ナット保持手段、および前記ナット嵌入部内に嵌入された前記下部ナットを保持する下部ナット保持手段とを有するソケットと、前記スライド軸部材の先端部が前記外ソケットの先端部から前記上部ナットの高さと略同一の距離を後方に退避した第1位置と、前記スライド軸部材の先端部が前記第1位置から前記下部ナットの高さ超の距離を後方に退避した第2位置との間をスライドさせて前記スライド軸と前記ソケットとの相対位置を切り換える位置切換手段とを有している点にある。
【0013】
また、本発明において、前記上部ナット保持手段は、前記ソケットの側壁を前記ナット嵌入部内に貫通した上部ナット保持用貫通孔と、この上部ナット保持用貫通孔から前記ナット嵌入部内に突出して前記上部ナットの外側面に当接する上部ナット押圧部材と、この上部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記上部ナットを嵌入位置で押圧保持する上部ナット付勢部材とを有しており、前記下部ナット保持手段は、前記ソケットの側壁を前記ナット嵌入部内に貫通した下部ナット保持用貫通孔と、この下部ナット保持用貫通孔から前記ナット嵌入部内に突出して前記下部ナットの外側面に当接する下部ナット押圧部材と、この下部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記下部ナットを嵌入位置で押圧保持する下部ナット付勢部材とを有していることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明において、前記位置切換手段は、前記ソケットの側壁を前記挿入孔内に貫通した位置決め用貫通孔と、この位置決め用貫通孔から前記挿入孔内に突出される位置決め凸部材と、この位置決め凸部材に付勢力を付与する位置決め付勢部材と、前記スライド軸部材が前記第1位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該スライド軸部材の外側面に設けられた第1位置決め溝と、前記スライド軸部材が前記第2位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該スライド軸部材の外側面に設けられた第2位置決め溝と、前記第1位置決め溝および前記第2位置決め溝を軸線方向に沿って連続的に繋げたスライド溝とを有していることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る緩み止めナット締結方法の特徴は、請求項5から請求項7のいずれかに記載の緩み止めナット用ソケットレンチを使用して下部ナットと、この下部ナットと同径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット締結方法であって、前記位置切換手段によって前記スライド軸部材と前記ソケットとの相対位置を前記第2位置に設定する第2位置設定工程と、前記ナット嵌入部に前記上部ナットを嵌入する上部ナット嵌入工程と、前記ナット嵌入部に前記下部ナットを嵌入する下部ナット嵌入工程と、前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記下部ナットおよび前記上部ナットを前記雄ネジに螺合させる螺合工程と、前記下部ナットを被締結物に対して締結する下部ナット締結工程と、前記位置切換手段によって前記スライド軸部材と前記ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第1位置に設定して前記ナット嵌入部から前記下部ナットを離脱させる下部ナット離脱工程と、前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記上部ナットを前記下部ナットに対して締結することでロックさせるロック工程とを有する点にある。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、いかなる方向で使用する場合でもソケット内に嵌入させた上部ナットや下部ナットの位置ずれや脱落を防止するとともに、締め付け途中でロックしてしまうのを防止することができ、操作性や作業性を高めて緩み止めナットを連続的な操作によってスムーズに雄ネジに締結することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法の実施形態について図面を用いて説明する。
【0018】
図1から図7は、それぞれ本第1実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Aを示す正面図、平面図、背面図、底面図、右側面図、左側面図、および図2の7A−7A線断面図、である。
【0019】
本第1実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Aは、下部ナット21Aと上部ナット22Aとの組み合わせからなる緩み止めナット2Aを雄ネジに締結するためのものであり、主として、上部ナット22Aを嵌入させるための内ソケット3と、下部ナット21Aを嵌入させるための外ソケット4Aと、上部ナット22Aおよび下部ナット21Aをそれぞれ嵌入位置で保持するための上部ナット保持手段5および下部ナット保持手段6と、内ソケット3および外ソケット4Aをスライドさせて相対位置を切り換えるための位置切換手段7とから構成されている。
【0020】
まず、本第1実施形態において締結対象となる緩み止めナット2Aについて説明する。図10および図11に示すように、緩み止めナット2Aは、被締結物Yを締結物Xに締結するための下部ナット21Aと、この下部ナット21Aを緩ませないように締結後にロック状態にするための上部ナット22Aとから構成されている。下部ナット21Aおよび上部ナット22Aは、略六角ナット形状に形成されており、下部ナット21Aが上部ナット22Aよりも大径に形成されている。各ナットのネジ穴23は、同一径に形成されており、同一の雄ネジに螺合するようになっている。
【0021】
また、上部ナット22Aには、図10(a)に示すように、下部ナット21Aに対向する下面側から突出するように、略円錐台形状の凸部24が形成されている。この凸部24は、ネジ穴23の軸心と一致するように配置されており、下方に向けて縮径するように形成されている。一方、下部ナット21Aには、図11(b),(d)に示すように、上部ナット22Aに対向する上面側に、上部ナット22Aの凸部24と嵌合する略円錐台形状の凹部25が形成されている。この凹部25は、ネジ穴23の軸心から所定の偏心量だけ偏心された位置に配置されており、下方に向けて縮径するように形成されている。
【0022】
なお、本第1実施形態のように、上部ナット22Aの対辺長さを下部ナット21Aの対辺長さよりも小さく形成すれば、材料費が削減されるだけではなく、上部ナット22Aと下部ナット21Aとを取り違えることがない。また、両ナットを締め付けた外観は意匠的にも優れており、別途、カバーを被せて隠したりする必要がない。また、上部ナット22Aの対角長さを下部ナット21Aの対辺長さよりも小さく形成すれば、上部ナット22Aの角がほとんど下部ナット21Aの外側に突出することがなくなるため、上部ナット22Aの締め付けの程度がはっきりと視認されるし、作業者が角部に指等を引っ掛けて怪我をしてしまうおそれがない。
【0023】
また、本第1実施形態では、下部ナット21Aの凹部25をネジ穴23の軸心に対して偏心させているが、これに限られるものではなく、下部ナット21Aの凹部25をネジ穴23の軸心に一致させ、上部ナット22Aの凸部24をネジ穴23の軸心に対して偏心させるようにしてもよい。いずれの場合でも、上部ナット22Aの対角長さの半分の値に、凸部24または凹部25の偏心量を加算した値が、下部ナット21Aの対辺長さの半分の値以下となるように形成すれば、上部ナット22Aの角部が完全に下部ナット21Aの外側に飛び出ることがなくなり、締め付け量の視認および締め付け作業の点で最大限に効果を発揮し得るようになっている。
【0024】
以下、本第1実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Aの各構成部についてより詳細に説明する。図12から図17に示すように、内ソケット3は、外ソケット4Aに嵌入される外形が断面略六角形状のスライド部31と、このスライド部31の後端部に設けられる外形が断面略円形状のヘッド部32とを有し、その軸線方向に雄ネジを挿通させる挿通孔33が形成されている。また、内ソケット3の先端部には、上部ナット22Aを嵌入させる内形が断面略六角形状の上部ナット嵌入部34が形成されており、後端面には、図示しない締結レバーを接続するための内形が断面略四角形状のレバー接続部35が形成されている。
【0025】
本第1実施形態において、上部ナット嵌入部34は、凸部24を含まない上部ナット22Aの六角側面高さHよりも深い凹状に形成されており、上部ナット22Aを嵌入させたとき、上部ナット22Aの下面が内ソケット3の先端面から突出しないようになっている。これにより、上部ナット22Aの下面が下部ナット21Aの上面と当接することがない。なお、上部ナット嵌入部34の深さは、必ずしも六角側面高さH以上にしなければならないものではなく、上部ナット22Aが下部ナット21Aに接触しなければ、六角側面高さHより浅くしても構わない。例えば、後述するように内ソケット3の第2位置を上部ナット22Aが下部ナット21Aに接触しない程度の後方側に設定されている場合には、上部ナット22Aが内ソケット3から多少飛び出していても締結力が得られるのであれば問題ない。
【0026】
また、図13および図14に示すように、スライド部31の外側面には、上部ナット保持手段5を構成する上部ナット保持用収容凹部36が軸線方向に沿って細長く形成されている。そして、この上部ナット保持用収容凹部36の先端側端部には、上部ナット嵌入部34内に貫通する上部ナット保持用貫通孔51が穿孔されており、後端側端部には固定ネジSを螺合させる図示しない固定ネジ穴が形成されている。また、後述するように、スライド部31の外側面には、位置切換手段7としての第1位置決め溝74A、第2位置決め溝75A、およびこれらを繋ぐスライド溝76が軸線方向に沿って形成されている。
【0027】
外ソケット4Aは、図18から図23に示すように、内側に軸線方向に沿って挿入孔41が形成された略円筒状に構成されている。前記挿入孔41は、その断面形状が内ソケット3のスライド部31を挿入しうる略六角形状に形成されており、内ソケット3と外ソケット4Aとを軸線方向に互いにスライド自在に嵌入させるとともに、軸線回りには互いに回転できないようになっている。
【0028】
また、本第1実施形態では、挿入孔41が下部ナット21Aと同一の断面形状に形成されているため、その先端部が下部ナット21Aを嵌入させる下部ナット嵌入部42として機能するようになっている。なお、本第1実施形態では、加工性の良さとコスト減を考慮して、挿入孔41と下部ナット嵌入部42とを一連の同一形状に形成しているが、これに限られるものではなく、挿入孔41はスライド部31を軸線方向にスライドさせるとともに、軸線回りの回転を規制し得る形状であれば、下部ナット嵌入部42と異なる断面形状であってもよい。
【0029】
また、図1,図8および図18に示すように、外ソケット4Aには、その外側面に下部ナット保持手段6を構成する下部ナット保持用収容凹部43が軸線方向に沿って細長く形成されている。そして、この下部ナット保持用収容凹部43の先端側端部には、下部ナット嵌入部42内に貫通する下部ナット保持用貫通孔61が穿孔されており、後端側端部には固定ネジSを螺合する図示しない固定ネジ穴が形成されている。
【0030】
また、本第1実施形態において、外ソケット4Aの後端部近傍には、図23に示すように、後述する位置切換手段7を構成する位置決め用貫通孔71が形成されている。そして、この位置決め用貫通孔71に対応する位置に、位置決め付勢部材嵌入凹溝44が周方向に形成されている。位置決め付勢部材嵌入凹溝44は、後述する位置決め付勢部材73の厚さ以上の深さに形成されている。
【0031】
上部ナット保持手段5は、上部ナット22Aを上部ナット嵌入部34内の所定の嵌入位置で押圧保持する役割を果たすものであり、本第1実施形態では上部ナット22Aを上部ナット嵌入部34内に完全に収容した位置で保持するようになっている。上部ナット保持手段5は、上部ナット保持用収容凹部36と、上部ナット保持用貫通孔51と、上部ナット押圧部材52と、上部ナット付勢部材53とから構成されている。
【0032】
上部ナット保持用貫通孔51は、前述した内ソケット3の上部ナット保持用収容凹部36内において上部ナット嵌入部34内に貫通されている。また、本第1実施形態において、上部ナット押圧部材52および上部ナット付勢部材53は、図24に示すような板バネから構成されている。上部ナット押圧部材52は、上部ナット保持用貫通孔51から上部ナット嵌入部34内に突出し、上部ナット22Aの外側面に当接するように屈曲されている。また、上部ナット付勢部材53は、上部ナット保持用収容凹部36に収容されうる程度の板厚に形成されており、ネジ止め用の円形穴53aを有している。
【0033】
また、下部ナット保持手段6は、下部ナット21Aを下部ナット嵌入部42内に嵌入させた嵌入位置で押圧保持する役割を果たすものであり、本第1実施形態では下部ナット21Aを下部ナット嵌入部42内に完全に収容した位置で保持するようになっている。下部ナット保持手段6は、下部ナット保持用収容凹部43と、下部ナット保持用貫通孔61と、下部ナット押圧部材62と、下部ナット付勢部材63とから構成されている。
【0034】
下部ナット保持用貫通孔61は、前述した外ソケット4Aの下部ナット保持用収容凹部43内において下部ナット嵌入部42内に貫通されている。また、下部ナット押圧部材62および下部ナット付勢部材63は、上部ナット保持手段5と同様、板バネから構成されており、前記下部ナット押圧部材62は、下部ナット保持用貫通孔61から下部ナット嵌入部42内に突出して下部ナット21Aの外側面に当接するように屈曲されている。また、下部ナット付勢部材63は、下部ナット保持用収容凹部43に収容されうる程度の板厚に形成されており、ネジ止め用の円形穴63aを有している。
【0035】
そして、図16および図17に示すように、上部ナット保持手段5は、その上部ナット押圧部材52が上部ナット保持用貫通孔51を挿通されて上部ナット嵌入部34内に突出するように、内ソケット3の上部ナット保持用収容凹部36内にネジ止めされる。これにより、上部ナット付勢部材53は、上部ナット押圧部材52に径方向内方の付勢力を付与するようになっている。また、下部ナット保持手段6は、図21および図22に示すように、その下部ナット押圧部材62が下部ナット保持用貫通孔61を挿通されて下部ナット嵌入部42内に突出するように、外ソケット4Aの下部ナット保持用収容凹部43内にネジ止めされる。これにより、下部ナット付勢部材63は、下部ナット押圧部材62に径方向内方の付勢力を付与するようになっている。
【0036】
つぎに、位置切換手段7について説明する。位置切換手段7は、内ソケット3と外ソケット4Aとの相対位置を切り換える役割を果たすものであり、主として、位置決め付勢部材嵌入凹溝44と、位置決め用貫通孔71と、位置決め凸部材72と、位置決め付勢部材73と、第1位置決め溝74Aと、第2位置決め溝75Aと、スライド溝76とから構成されている。
【0037】
図23に示すように、位置決め用貫通孔71は、前述した外ソケット4Aの位置決め付勢部材嵌入凹溝44において挿入孔41内に貫通するように形成されている。また、位置決め凸部材72は、図25に示すように、略凸形状に形成されており、位置決め用貫通孔71に挿入されて挿入孔41内に突出する長さを有している。位置決め付勢部材73は、位置決め付勢部材嵌入凹溝44内に嵌め入れられて位置決め凸部材72を挿入孔41の内方に付勢する役割を果たすものである。本第1実施形態において、位置決め付勢部材73は板バネから構成されており、外ソケット4Aの外径よりも小径のリング状に形成されている。
【0038】
また、図14に示すように、第1位置決め溝74Aおよび第2位置決め溝75Aは、内ソケット3のスライド部31の外側面に軸線方向に沿って所定の間隔を隔てて形成されており、位置決め凸部材72と嵌合しうる凹状に形成されている。そして、スライド溝76は、第1位置決め溝74Aおよび第2位置決め溝75Aを軸線方向に沿って連続的に繋ぐように直線状に形成されている。
【0039】
なお、本第1実施形態において、第1位置決め溝74Aおよび第2位置決め溝75Aは、位置決め凸部材72の突出長さと同等もしくはそれよりも深い溝に形成されており、スライド溝76は、位置決め凸部材72の突出長さよりも浅い溝に形成されている。そして、位置決め凸部材72が、各溝に位置決め付勢部材73によって弾力的に嵌入されることによって、第1位置決め溝74Aと第2位置決め溝75Aとの間をスライド溝76を介してスムーズに切り換え可能とされる。
【0040】
また、本第1実施形態において、位置決め凸部材72を取り付ける際には、まず、外ソケット4Aに形成された位置決め用貫通孔71に、第1位置決め溝74A、第2位置決め溝75Aおよびスライド溝76を対応させるようにして内ソケット3を挿入する。そして、位置決め凸部材72を位置決め用貫通孔71に挿入してから位置決め付勢部材73を外ソケット4Aの位置決め付勢部材嵌入凹溝44内に巻きつける。これにより、位置決め凸部材72は、位置決め付勢部材73によって挿入孔41内方へ弾力性をもって保持される。
【0041】
また、第1位置決め溝74Aと第2位置決め溝75Aとの間隔は、内ソケット3と外ソケット4Aとのスライドする移動範囲を考慮して設定される。本第1実施形態では、図8,図9に示すように、内ソケット3の先端面が外ソケット4Aの先端面とほぼ一致する位置を第1位置とし、この第1位置において位置決め凸部材72が第1位置決め溝74Aに嵌入するように設定されている。また、図7に示すように、内ソケット3の先端面が第1位置から下部ナット21Aの高さと略同一の距離で後方に退避された位置を第2位置とし、この第2位置において位置決め凸部材72が第2位置決め溝75Aに嵌入するように設定されている。
【0042】
なお、本第1実施形態では、上部ナット嵌入部34の深さを上部ナット22Aの六角側面高さHよりも大きく設定しているため、第2位置を上記のように下部ナット21Aの高さ程度に退避させるだけで上部ナット22Aの下面が下部ナット21Aの上面に当接してしまうことがない。一方、仮に上部ナット嵌入部34の深さを上部ナット22Aの六角側面高さHと略同一に設定する場合には、内ソケット3の先端面が第1位置から下部ナット21Aの高さ超の距離を後方に退避した位置を第2位置と設定することによって、上部ナット22Aの下面が下部ナット21Aの上面に当接するのを防止しうる。
【0043】
また、第1位置および第2位置は、上述した位置に限られるものではなく、第1位置は、内ソケット3を外ソケット4Aの先端部に臨ませて、上部ナット22Aを上部ナット嵌入部34に嵌入しうる位置、あるいは上部ナット22Aを締結しうる位置であればよい。また、第2位置は、内ソケット3を外ソケット4Aの先端面から後方に退避させて上部ナット22Aが下部ナット21Aに接触しない位置であって、下部ナット21Aを下部ナット嵌入部42に嵌入しうる位置、あるいは下部ナット21Aを締結しうる位置であればよい。
【0044】
なお、本第1実施形態では、内ソケット3のスライド部31の軸線方向長さを外ソケット4Aの軸線方向長さに一致させている。これにより、内ソケット3のヘッド部32が外ソケット4Aの後端面に当接する位置が第1位置になるため、確認が容易であり操作性が高い。
【0045】
つぎに、このような構成を備えた本第1実施形態における緩み止めナット用ソケットレンチ1Aの作用および緩み止めナットの締結方法について図26を参照しつつ説明する。
【0046】
本実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Aによって、緩み止めナット2AをボルトBに締結する場合、まず、図26(a)に示すように、内ソケット3を第1位置にスライドさせて設定する。このとき、位置決め凸部材72は、スライド溝76内をスライドしている間は、位置決め付勢部材73の付勢力に対抗して径方向外方に退避した状態でスライドする。そして、位置決め凸部材72が第1位置決め溝74Aの位置まで移動すると、位置決め付勢部材73の付勢力をもって第1位置決め溝74A内に嵌入する。これにより、緩み止めナット用ソケットレンチ1Aが容易かつスムーズに第1位置に設定されるとともに、ずれにくい。また、上部ナット嵌入部34が外ソケット4Aの先端部まで移動されるため、上部ナット22Aを嵌入させ易い。
【0047】
つづいて、上部ナット22Aを上部ナット付勢部材53の付勢力に抗して内ソケット3の上部ナット嵌入部34に嵌入する。上部ナット22Aは上部ナット付勢部材53の付勢力をもって上部ナット押圧部材52により所定の嵌入位置で押圧保持される。これにより、嵌入された上部ナット22Aは、上部ナット押圧部材52との間に発生する摩擦力により、上部ナット嵌入部34内での位置ずれや脱落が防止される。
【0048】
また、本第1実施形態では、上部ナット22Aを上部ナット嵌入部34の底面に当接するまで嵌入することで、上部ナット22Aの六角側面が内ソケット3内に完全に収容される。
【0049】
つぎに、図26(b)に示すように、内ソケット3のヘッド部32を後方へ引っ張り、内ソケット3を第2位置までスライドさせる。このとき、位置決め凸部材72が、スライド溝76を経由して第2位置決め溝75Aまで移動すると、位置決め付勢部材73の付勢力によって第2位置決め溝75A内に嵌入する。これにより、緩み止めナット用ソケットレンチ1Aが容易かつスムーズに第2位置に設定されるとともに、その第2位置がずれにくい。
【0050】
つづいて、下部ナット21Aを下部ナット付勢部材63の付勢力に抗して下部ナット嵌入部42内に嵌入する。下部ナット21Aは下部ナット付勢部材63の付勢力をもって下部ナット押圧部材62により所定の嵌入位置で押圧保持される。これにより下部ナット21Aは下部ナット嵌入部42内で位置ずれや脱落が防止される。なお、下部ナット21Aを内ソケット3の先端面に当接するまで下部ナット嵌入部42内に嵌入させても、上部ナット22Aは、その六角側面の下面が内ソケット3の先端面よりも奥側に引き込んだ位置まで嵌入されているため、下部ナット21Aの上面と上部ナット22Aの下面が当接することはなく、締結時にロックしない間隔を隔てた状態に保持される。
【0051】
つづいて、図26(c)に示すように、締結物Xおよび被締結物Yの下孔hに挿通されたボルトBに、下部ナット21Aおよび上部ナット22Aを螺合させる。具体的には、まず、ボルトBの端部に下部ナット21Aのネジ穴23を合わせた後、内ソケット3のヘッド部32に形成されたレバー接続部35に締結レバー(図示せず)を差し込み、緩み止めナット用ソケットレンチ1Aを締め付け方向に回転させる。これにより、下部ナット21AをボルトBに螺合する。
【0052】
このとき、上部ナット保持手段5および下部ナット保持手段6が、上部ナット22Aおよび下部ナット21Aをそれぞれの嵌入位置で保持している。このため、仮に緩み止めナット用ソケットレンチ1Aを下向きで使用する場合でも、上部ナット22Aや下部ナット21Aが下方にずれたり、上部ナット嵌入部34や下部ナット嵌入部42から脱落してしまうことがない。
【0053】
さらに緩み止めナット用ソケットレンチ1Aを締め付け方向に回転させると、上部ナット22Aが、下部ナット21Aと所定の間隔を隔てた状態でボルトBに螺合し、前記上部ナット22Aおよび前記下部ナット21Aは、常に所定の間隔を隔てた状態で螺進し、締め付け作業途中にロックしてしまうことがない。
【0054】
つづいて、先に下部ナット21Aを被締結物Yに締結した後、図26(d)に示すように、外ソケット4Aを後方に引き寄せ、第1位置までスライドさせる。これにより、下部ナット21Aが下部ナット嵌入部42から離脱し、上部ナット22Aのみが上部ナット嵌入部34に嵌入された状態となる。そして、緩み止めナット用ソケットレンチ1Aをさらに締め付け方向に回転させると、上部ナット22Aのみが螺進し、図26(e)に示すように、下部ナット21Aに対して強固に締め付けることができる。
【0055】
このとき、本第1実施形態では、上部ナット22Aの凸部24が、下部ナット21Aの偏心された凹部25に圧接しながら下方に移動し、嵌入される。このため、ボルトBには、その径方向において互いに反対方向の剪断力が発生し、高い緩み止め効果を発揮するようになっている。
【0056】
以上のような本第1実施形態によれば、
1.緩み止めナット用ソケットレンチ1Aをいかなる方向に向けて使用する場合でも、下部ナット21Aや上部ナット22Aの位置ずれや脱落を防止して、作業性を向上することができる。
2.締結作業途中で下部ナット21Aと上部ナット22Aがロックするのを防止することができる。
3.第1位置と第2位置とで内ソケット3と外ソケット4Aとの相対位置を切り換えて、締結作業時の操作性を向上することができる等の効果を奏する。
【0057】
つぎに、本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法の第2実施形態について図27から図47を参照しつつ説明する。なお、上述した第1実施形態の構成と同等または相当する構成については同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0058】
本第2実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Bの特徴は、第1実施形態とは異なる同径の下部ナット21Bおよび上部ナット22Bの組み合わせからなる緩み止めナット2Bを締め付ける点にある。具体的には、第1実施形態の構成のうち、内ソケット3に換えてスライド軸部材8を使用するとともに、外ソケット4Aに換えてソケット4Bを使用し、このソケット4Bに下部ナット21Bおよび上部ナット22Bの双方を嵌入させる構成となっている。
【0059】
スライド軸部材8は、図35から図40に示すように、上部ナット嵌入部34および上部ナット保持手段5を備えていない点を除き、第1実施形態の内ソケット3と同等の形状に形成されている。つまり、スライド軸部材8は、ソケット4B内を摺動しうる外形が断面六角形状に形成されたスライド部31と、ヘッド部32とを有している。そして、スライド部31には、上部ナット22Bを保持する機構が備えられておらず、下部ナット21Bを締結する第2位置と上部ナット22Bを締結する第1位置とを切り換えるための第1位置決め溝74B、第2位置決め溝75B、およびスライド溝76が形成されている。
【0060】
また、ソケット4Bは、図41から図46に示すように、上部ナット保持手段5を備えている点を除き、第1実施形態の外ソケット4Aと同等の形状に形成されている。つまり、ソケット4Bは、スライド軸部材8をスライド自在に挿通する内形が断面六角形状の挿入孔41を備えており、下部ナット保持手段6、上部ナット保持手段5、位置切換手段7を備えている。このうち上部ナット保持手段5は、上部ナット22Bの嵌入される位置に合わせて上部ナット保持用貫通孔51が穿孔されており、上部ナット押圧部材52が挿通孔33内に突出するように固定されている。なお、上部ナット保持手段5は、図43に示すように、下部ナット保持手段6とは反対側の外側面に設けられている。
【0061】
そして、前述したスライド軸部材8に形成された第1位置決め溝74Bおよび第2位置決め溝75Bの形成位置を定める第1位置および第2位置は以下のように設定されている。つまり、第1位置は、図33に示すように、スライド軸部材8の先端面がソケット4Bの先端面から上部ナット22Bの高さと略同一の距離を後方に退避した位置とし、この第1位置において、位置決め凸部材72が第1位置決め溝74Bに嵌入するように設定される。また、第2位置は、図34に示すように、スライド軸部材8の先端面が第1位置から下部ナット21Bの高さ超の距離を後方に退避した位置とし、この第2位置において、位置決め凸部材72が第2位置決め溝75Bに嵌入するように設定される。
【0062】
したがって、本第2実施形態では、緩み止めナット用ソケットレンチ1Bが第2位置に設定されたとき、ソケット4Bの挿入孔41の先端部が、下部ナット21Bおよび上部ナット22Bを嵌入させるナット嵌入部45として機能するようになっている。
【0063】
以上のような本第2実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチ1Bによって締結物Xと被締結物Yとを締結する場合、まず、図47(a)に示すように、スライド軸部材8を後方に引っ張り第2位置までスライドさせて設定する。これにより、ソケット4Bの先端部にナット嵌入部45が開口されるため、先に上部ナット22Bを嵌入させた後、つづけて図47(b)に示すように、下部ナット21Bを嵌入させる。
【0064】
このとき、ナット嵌入部45は、下部ナット21Bおよび上部ナット22Bの合計高さよりも大きい深さ寸法に形成されている。このため、上部ナット22Bをスライド軸部材8の先端面に当接するまで嵌入させるとともに、下部ナット21Bの下面が、ソケット4Bの先端面と一致するように下部ナット21Bを嵌入させれば、上部ナット22Bと下部ナット21Bとの間には両者が接触しないような所定の間隔が隔てられる。そして、上部ナット保持手段5および下部ナット保持手段6が所定の間隔を隔てた嵌入位置において上部ナット22Bおよび下部ナット21Bを押圧保持する。
【0065】
つづいて、図47(c)に示すように、締結物Xおよび被締結物Yの下孔hに挿通されたボルトBに、下部ナット21Bおよび上部ナット22Bを螺合させる。このとき、上部ナット保持手段5および下部ナット保持手段6が、上部ナット22Bおよび下部ナット21Bをそれぞれ押圧保持しているため、緩み止めナット用ソケットレンチ1Bをいかなる方向に向けても、下部ナット21Bや上部ナット22Bの収容位置がずれたり、ナット嵌入部45から脱落してしまうことがない。また、下部ナット21Bと上部ナット22Bは、常に所定の間隔を隔てた状態で螺入されるため、締め付け作業途中でロックしてしまうことを確実に防止できる。
【0066】
つぎに、先に被締結物Yに当接する下部ナット21Bを強固に締結した後、図47(d)に示すように、ソケット4Bを後方に引き寄せ、第1位置までスライドさせる。これにより、下部ナット21Bがナット嵌入部45から離脱し、上部ナット22Bのみをナット嵌入部45に嵌入させた状態となる。したがって、緩み止めナット用ソケットレンチ1Bをさらに締め付け方向に回転させると、図47(e)に示すように、下部ナット21Bにつづけて上部ナット22Bを締結し緩み止めをすることができる。
【0067】
以上のような本第2実施形態によれば、同径の下部ナット21Bおよび上部ナット22Bからなる緩み止めナット2Bを締結する場合でも、第1実施形態と同様に、作業性や操作性を向上させられる等の効果を奏することができる。
【0068】
なお、本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチおよび緩み止めナット締結方法は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0069】
例えば、上述した各実施形態では、上部ナット保持手段5および下部ナット保持手段6として、板バネを使用しているが、これに限られるものではなく、上部ナット嵌入部34、下部ナット嵌入部42あるいはナット嵌入部45内に突設されて、下部ナット21A,21Bあるいは上部ナット22A,22Bを保持しうるものであれば、ゴム等のような弾性体を設けるようにしてもよい。
【0070】
また、上述した各実施形態では、内ソケット3あるいはスライド軸部材8の後端面に形成されたレバー接続部35に、締結レバー等の回転用工具を挿入して緩み止めナット用ソケットレンチを回転させているが、これに限られるものではなく、内ソケット3あるいはスライド軸部材8の後端部に回転用のハンドルを予め一体的に形成するようにしてもよい。
【0071】
また、上述した第1実施形態では、凸部24および凹部25を備えた上部ナット22Aおよび下部ナット21Aを使用しているが、凸部24や凹部25のない緩み止めナットにも適用可能である。
【0072】
さらに、上述した各実施形態では、2つの組み合わせからなる緩み止めナットを締結する場合について説明したが、これに限られるものではなく、3つ以上の組み合わせからなる緩み止めナットを締結しうるように構成することもできる。
【0073】
この場合、具体的には、第1実施形態の構成において、上部ナット22Aよりも小径の第3ナットを備えた緩み止めナットを締結するには、内ソケット3よりも小径の第3ソケットに、第3ナット嵌入部と第3ナット保持手段を設けるとともに、位置切換手段7によって、第3ソケットと内ソケット3との相対位置を上述した第1位置と第2位置のごとき関係にある切り換え可能に構成する。この場合、第1位置に相当する第3位置は、内ソケット3と第3ソケットの先端面が略一致する位置に設定し、第2位置に相当する第4位置は、第3ソケットの先端面が、第1位置から第3ナットの高さと略同一の距離で後方に退避された位置に設定すればよい。
【0074】
また、第2実施形態の構成において、上部ナット22Bおよび下部ナット21Bと同径の第3ナットを備えた緩み止めナットを締結するには、ソケット4Bに別途、第3ナット保持手段を設けるとともに、位置切換手段7によって、ソケット4Bとスライド軸部材8との相対位置を第3位置にも設定しうるように構成する。この場合、第3位置は、スライド軸部材8の先端部が第2位置から第3ナットの高さ超の距離を後方に退避した位置に設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチの第1実施形態を示す正面図である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図1の背面図である。
【図4】図1の底面図である。
【図5】図1の右側面図である。
【図6】図1の左側面図である。
【図7】図2の7A−7A線断面図である。
【図8】本第1実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチを第1位置に設定した状態の正面図である。
【図9】本第1実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチを第1位置に設定した状態における図2の7A−7A線断面図である。
【図10】本第1実施形態における緩み止めナットの上部ナットを示す(a)正面図、(b)平面図、(c)底面図、(d)図10(b)の10d−10d線断面図である。
【図11】本第1実施形態における緩み止めナットの下部ナットを示す(a)正面図、(b)平面図、(c)底面図、(d)図10(b)の11d−11d線断面図である。
【図12】本第1実施形態の内ソケットの正面図である。
【図13】図12の平面図である。
【図14】図12の背面図である。
【図15】図12の右側面図である。
【図16】図12の左側面図である。
【図17】図13の17A−17A線断面図である。
【図18】本第1実施形態の外ソケットの正面図である。
【図19】図18の平面図である。
【図20】図18の底面図である。
【図21】図18の右側面図である。
【図22】図20の22A−22A線断面図である。
【図23】図21の23A−23A線断面図である。
【図24】本第1実施形態の上部ナット保持手段および下部ナット保持手段を示す(a)正面図、および(b)24b−24b線断面図である。
【図25】本第1実施形態の位置決め凸部材を示す(a)正面図、および(b)平面図である。
【図26】本第1実施形態における緩み止めナット用ソケットレンチの使用方法を示す図である。
【図27】本発明に係る緩み止めナット用ソケットレンチの第2実施形態を示す正面図である。
【図28】図27の平面図である。
【図29】図27の背面図である。
【図30】図27の底面図である。
【図31】図27の右側面図である。
【図32】図27の左側面図である。
【図33】本第2実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチを第1位置に設定した状態の断面図である。
【図34】本第2実施形態の緩み止めナット用ソケットレンチを第2位置に設定した状態の断面図である。
【図35】本第2実施形態のスライド軸部材の正面図である。
【図36】図35の背面図である。
【図37】図35の底面図である。
【図38】図35の右側面図である。
【図39】図35の左側面図である。
【図40】図38の40A−40A線断面図である。
【図41】本第2実施形態のソケットの正面図である。
【図42】図41の平面図である。
【図43】図41の背面図である。
【図44】図41の底面図である。
【図45】図41の右側面図である。
【図46】図45の46A−46A線断面図である。
【図47】本第2実施形態における緩み止めナット用ソケットレンチの使用方法を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
1A,1B 緩み止めナット用ソケットレンチ
2A,2B 緩み止めナット
3 内ソケット
4A 外ソケット
4B ソケット
5 上部ナット保持手段
6 下部ナット保持手段
7 位置切換手段
8 スライド軸部材
21A,21B 下部ナット
22A,22B 上部ナット
23 ネジ穴
24 凸部
25 凹部
31 スライド部
32 ヘッド部
33 挿通孔
34 上部ナット嵌入部
35 レバー接続部
36 上部ナット保持用収容凹部
41 挿入孔
42 下部ナット嵌入部
43 下部ナット保持用収容凹部
44 位置決め付勢部材嵌入凹溝
45 ナット嵌入部
51 上部ナット保持用貫通孔
52 上部ナット押圧部材
53 上部ナット付勢部材
53a 円形穴
61 下部ナット保持用貫通孔
62 下部ナット押圧部材
63 下部ナット付勢部材
63a 円形穴
71 位置決め用貫通孔
72 位置決め凸部材
73 位置決め付勢部材
74A,74B 第1位置決め溝
75A,75B 第2位置決め溝
76 スライド溝
B ボルト
S 固定ネジ
X 締結物
Y 被締結物
h 下孔
H 六角側面高さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部ナットと、この下部ナットより小径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット用ソケットレンチであって、
先端部に形成されて前記上部ナットを嵌入させる上部ナット嵌入部、およびこの上部ナット嵌入部内に嵌入された前記上部ナットを保持する上部ナット保持手段を有する内ソケットと、
この内ソケットを軸線方向にスライド自在に挿入させる挿入孔、この挿入孔の先端部に設けられ前記下部ナットを嵌入させる下部ナット嵌入部、およびこの下部ナット嵌入部内に嵌入された前記下部ナットを保持する下部ナット保持手段を有する外ソケットと、
前記上部ナットを前記内ソケット内に嵌入し、あるいは前記上部ナットを締結するために前記内ソケットを前記外ソケットの先端部に臨ませる第1位置と、前記下部ナットを前記外ソケット内に嵌入し、あるいは前記下部ソケットを締結するために前記内ソケットを前記外ソケットの先端面から後方に退避させる第2位置との間をスライドさせて前記内ソケットと前記外ソケットとの相対位置を切り換える位置切換手段と
を有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項2】
請求項1において、前記上部ナット保持手段は、前記内ソケットの側壁を前記上部ナット嵌入部内に貫通した上部ナット保持用貫通孔と、この上部ナット保持用貫通孔から前記上部ナット嵌入部内に突出して前記上部ナットの外側面に当接する上部ナット押圧部材と、この上部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記上部ナットを嵌入位置で押圧保持する上部ナット付勢部材とを有しており、
前記下部ナット保持手段は、前記外ソケットの側壁を前記下部ナット嵌入部内に貫通した下部ナット保持用貫通孔と、この下部ナット保持用貫通孔から前記下部ナット嵌入部内に突出して前記下部ナットの外側面に当接する下部ナット押圧部材と、この下部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記下部ナットを嵌入位置で押圧保持する下部ナット付勢部材とを有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記位置切換手段は、前記外ソケットの側壁を前記挿入孔内に貫通した位置決め用貫通孔と、この位置決め用貫通孔から前記挿入孔内に突出される位置決め凸部材と、この位置決め凸部材に付勢力を付与する位置決め付勢部材と、前記内ソケットが前記第1位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該内ソケットの外側面に設けられた第1位置決め溝と、前記内ソケットが前記第2位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該内ソケットの外側面に設けられた第2位置決め溝と、前記第1位置決め溝および前記第2位置決め溝を軸線方向に沿って連続的に繋げたスライド溝とを有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の緩み止めナット用ソケットレンチを使用して下部ナットと、この下部ナットより小径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット締結方法であって、
前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとの相対位置を前記第1位置に設定する第1位置設定工程と、
前記上部ナット嵌入部に前記上部ナットを嵌入する上部ナット嵌入工程と、
前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第2位置に設定する第2位置設定工程と、
前記下部ナット嵌入部に前記下部ナットを嵌入する下部ナット嵌入工程と、
前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記下部ナットおよび前記上部ナットを前記雄ネジに螺合させる螺合工程と、
前記下部ナットを被締結物に対して締結する下部ナット締結工程と、
前記位置切換手段によって前記内ソケットと前記外ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第1位置に設定して前記下部ナット嵌入部から前記下部ナットを離脱させる下部ナット離脱工程と、
前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記上部ナットを前記下部ナットに対して締結することでロックさせるロック工程と
を有することを特徴とする緩み止めナット締結方法。
【請求項5】
下部ナットと、この下部ナットと同径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット用ソケットレンチであって、
スライド軸部材と、
このスライド軸部材を軸線方向にスライド自在に挿入させる挿入孔、この挿入孔の先端部に形成されて前記上部ナットおよび前記下部ナットを嵌入させるナット嵌入部、このナット嵌入部内に嵌入された前記上部ナットを保持する上部ナット保持手段、および前記ナット嵌入部内に嵌入された前記下部ナットを保持する下部ナット保持手段とを有するソケットと、
前記スライド軸部材の先端部が前記外ソケットの先端部から前記上部ナットの高さと略同一の距離を後方に退避した第1位置と、前記スライド軸部材の先端部が前記第1位置から前記下部ナットの高さ超の距離を後方に退避した第2位置との間をスライドさせて前記スライド軸と前記ソケットとの相対位置を切り換える位置切換手段と
を有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項6】
請求項4において、前記上部ナット保持手段は、前記ソケットの側壁を前記ナット嵌入部内に貫通した上部ナット保持用貫通孔と、この上部ナット保持用貫通孔から前記ナット嵌入部内に突出して前記上部ナットの外側面に当接する上部ナット押圧部材と、この上部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記上部ナットを嵌入位置で押圧保持する上部ナット付勢部材とを有しており、
前記下部ナット保持手段は、前記ソケットの側壁を前記ナット嵌入部内に貫通した下部ナット保持用貫通孔と、この下部ナット保持用貫通孔から前記ナット嵌入部内に突出して前記下部ナットの外側面に当接する下部ナット押圧部材と、この下部ナット押圧部材に付勢力を付与して前記下部ナットを嵌入位置で押圧保持する下部ナット付勢部材とを有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項7】
請求項4または請求項5において、前記位置切換手段は、前記ソケットの側壁を前記挿入孔内に貫通した位置決め用貫通孔と、この位置決め用貫通孔から前記挿入孔内に突出される位置決め凸部材と、この位置決め凸部材に付勢力を付与する位置決め付勢部材と、前記スライド軸部材が前記第1位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該スライド軸部材の外側面に設けられた第1位置決め溝と、前記スライド軸部材が前記第2位置にあるときに前記位置決め凸部材が当接する当該スライド軸部材の外側面に設けられた第2位置決め溝と、前記第1位置決め溝および前記第2位置決め溝を軸線方向に沿って連続的に繋げたスライド溝とを有していることを特徴とする緩み止めナット用ソケットレンチ。
【請求項8】
請求項5から請求項7のいずれかに記載の緩み止めナット用ソケットレンチを使用して下部ナットと、この下部ナットと同径の上部ナットとの組み合わせからなる緩み止めナットを雄ネジに締結するための緩み止めナット締結方法であって、
前記位置切換手段によって前記スライド軸部材と前記ソケットとの相対位置を前記第2位置に設定する第2位置設定工程と、
前記ナット嵌入部に前記上部ナットを嵌入する上部ナット嵌入工程と、
前記ナット嵌入部に前記下部ナットを嵌入する下部ナット嵌入工程と、
前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記下部ナットおよび前記上部ナットを前記雄ネジに螺合させる螺合工程と、
前記下部ナットを被締結物に対して締結する下部ナット締結工程と、
前記位置切換手段によって前記スライド軸部材と前記ソケットとをスライドさせて相対位置を前記第1位置に設定して前記ナット嵌入部から前記下部ナットを離脱させる下部ナット離脱工程と、
前記緩み止めナット用ソケットレンチを締め付け方向に回転させて、前記上部ナットを前記下部ナットに対して締結することでロックさせるロック工程と
を有することを特徴とする緩み止めナット締結方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate