説明

縦型焼成炉

【課題】縦型の焼成炉において生じることのある燃焼ガスの偏流を防止してガスの流通の均一さを確保し、それによって焼きムラがない均質な製品を与えるとともに、燃料効率が高く、したがって燃焼コストが低い焼成を可能にした焼成炉を提供する。
【解決手段】縦型焼成炉の炉体1の頂部において、炉壁に対して同心円板の形状を有し、炉内の横断面の面積の15〜40%を占める広さをもった狭め板21と、狭め板の周囲にある狭め筒22とからなる内側狭め手段2を、支持棒4によって保持するとともに、炉の外壁から中心に向かって耐火物の内壁を超えて延びるドーナツ型の形状を有し、炉内の横断面の面積の10〜25%を占める広さをもった外側狭め手段3を設け、外側狭め手段の内側の縁が狭め筒に対向するように構成する。その部分における炉内の横断面の狭め率を25〜65%とすることにより、炉内のガスの偏流が減少する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縦型の焼成炉の改良に関し、炉内のガスの流れを均一化して焼きムラをなくすとともに、焼成コストを低減した焼成炉に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば石灰石を焼成して生石灰を製造する焼成炉としては、ロータリーキルンが多用されているが、一方で、シャフトキルンと呼ばれる縦型の炉も、条件によっては好適であるため、依然として使用されている。縦型の焼成炉の操業は、よく知られているように、適当なサイズに破砕した原料と、これも適切な粒径の燃料、代表的にはコークスの粉末とを混合して行なう。連続操業法であれば、炉頂からこの混合物を供給するとともに下方から空気を送給し、燃料の燃焼熱により焼成を行なって、製品を炉底から順次取り出す。
【0003】
このような操業において重要なのは、炉内の横断面に関してガスの流通が均一に行なわれ、各部分における発熱が均一に生じることであ。炉内のガスの流通が均一に行なわれないと、局部的に過剰な加熱が行なわれる一方で局部的な加熱不足が生じて、焼成品の品質に問題が生じる。ガスの偏流を防ぐことにより、焼きムラがなく、均質な製品が得られるとともに、燃料の効率が高い焼成が可能になる。
【0004】
環境への配慮から、ほぼすべての場合に、炉頂からの排ガスは粉塵の除去装置を通過させてから排出する。粉塵の除去装置としてはバグフィルターが用いられているが、排ガスが高温のまま到達すると、フィルターが焼損する危険がある。燃焼ガスに偏流があると、排ガスが高温のままで炉を出ることがあり、このような焼損につながる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、縦型の焼成炉において生じることのある燃焼ガスの偏流を防止し、炉内の横断面に関しガスの流通の均一さを確保し、それによって焼きムラがない均質な製品を与えるとともに、燃料効率が高く、したがって燃焼コストが低い焼成を可能にし、かつ、バグフィルターの焼損の危険をなくした焼成炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の縦型の焼成炉は、図1に示すように、炉体(1)の頂部において、炉の外壁に対して同心円板の形状を有し、炉内の横断面の面積の15〜40%を占める広さをもった狭め板(21)と、狭め板の周囲にある狭め筒(22)とからなる内側狭め手段(2)を、支持棒(4)によって保持するとともに、炉の外壁から中心に向かって耐火物の内壁を超えて延びるドーナツ型の形状を有し、炉内の横断面の面積の10〜25%を占める広さをもった外側狭め手段(3)を設け、外側狭め手段の内側の縁が狭め筒に対向するように構成し、その部分における炉内の横断面の狭め率を25〜65%とすることにより、炉内のガスの偏流を減少させた縦型焼成炉である。図1において、符号(11)は炉体の内壁に張った耐火煉瓦を、符号(5)は原料装入装置を、それぞれ示す。
【発明の効果】
【0007】
炉頂に内側狭め手段(2)および外側狭め手段(3)を設けたことにより、炉内を上昇する燃焼ガスの流路が、炉の上部で絞られるため、より多くの燃焼ガスが通過する部分では、通過ガス流に対する抵抗がより大きくなり、相対的にその部分の流速が低くなるとともに、流量が減少する。このようにして、炉内のガスの偏流が減少し、流れが均一化する。焼成炉における燃焼ガスの流れが均一になれば、原料の焼成が均一に行なわれて、焼きムラのない良質の製品を得ることができる。
【0008】
焼成炉の燃焼ガスは、粉塵除去装置の背後に設けたブロアで吸引されて炉頂を出るが、炉頂狭め装置によって流路を絞ることは、この燃焼ガスがストレートに吸引されることに対する抵抗となって、不必要な、または不相当な高い流速で高温の燃焼ガスが炉頂を通過することを防止し、燃焼ガスが高温のままで吸引されることを阻止する。その結果、高温の排ガスにより粉塵除去装置のフィルターバッグが焼損されることが防止できる。これらの作用があいまって、焼成炉における燃料効率が改善され、焼成のコストが低下する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
内側狭め手段(2)を構成する狭め板(21)は、炉体(1)の上部において排ガスの流路を狭くするものであり、その作用が均一になるよう、炉の内壁と同心円状の板とする。工作する上で便宜であれば、適宜の多角形としてもよい。狭める度合は、上記のように、炉の横断面の面積の15〜40%を占める広さをもつものとする。通常は、20〜30%の広さが適切である。配置する位置は、炉の上端ないし直上または上端から炉の内径の1/5以内の距離、下方に下がった範囲内からえらぶ。
【0010】
狭め板とともに内側狭め手段(2)を構成する狭め筒(22)は、狭め板の周囲を取り囲む筒状の物体であればよく、その高さは、狭め板の直径の1/2〜直径の範囲内とする。この下限より短いと、狭め効果が低くなるが、上限を超えると効果は飽和するので、あまり長いものは無用である。狭め板と狭め筒との位置関係は、図示したような、狭め板から狭め筒が下方に垂下する断面が逆U字型のほか、狭め板が狭め筒の内部にある、断面がH字型のものであってもよいし、狭め板が狭め筒の下部にある断面がU字型のものであってもよい。
【0011】
狭め筒(22)の形状は、円筒形が理想的であるが、これも工作上の便宜を考えて、断面が狭め板の形状に対応する多角形とすることもできる。工作の煩雑さをいとわなければ、狭め筒にテーパをもたせた逆円錐台形の形状も好ましい。内側狭め手段(2)の設置は、炉頂を掛け渡した、適宜の支持棒(4)を用いて行なえばよい。燃焼ガスの温度に耐える上で必要があれば、表面に耐火物の被覆を設けてもよいが、石灰石の焼成による生石灰の製造の場合、炉頂付近の排ガスの温度は300℃程度であるから、通常はそのような対策を講じる必要がなく、内側狭め手段を適宜の鋼板で製造しただけでよい。内側狭め手段は、焼成炉の操業に当って、炉内に充填した被焼成物および燃料の混合物と接触しないか、または一部だけ接触する程度の位置に設置し、またそのように充填を行なって操業するのが適切である。
【0012】
外側狭め板(3)は、ドーナツ型であって、炉壁の耐火物を超えて中心に向かう形状である。図示したものは、内側ほど下方に向かう傾斜を有していて、この形状が炉内のガスの流れを均一にする上で効果的であるが、傾斜は不可欠ではない。外側狭め板の内縁(31)は、前記のように、狭め筒に対向するところに位置させる。図示した例では、外側狭め板の内縁が狭め筒の下端に対向する位置にある。ガス流路はこの部分で最も狭められ、前記した「狭め率」は、そこで流路の何%が遮蔽されたかという値である。「狭め率」の下限25%は、これより狭め方が少ないとガス流均一化の効果が低く、上限65%は、通常の設備における、ガス吸引手段の能力の限界から与えられるものである。既存の焼成炉に対して本発明を適用する場合は、狭め率は40〜50%が最適である。
【実施例】
【0013】
図1に示した形状および寸法の、12角形の狭め板の端から12枚の板が垂下して狭め筒を形成している内側狭め手段(2)と、ドーナツ型で内側に向かって下る傾斜を有する外側狭め手段(3)とを、鋼板で製作した。内側狭め手段を、縦型焼成炉の炉頂から30センチほど上方において、直径方向に掛け渡した3本の支持棒で支持して設置し、外側狭め手段を、炉頂から30センチほど上方に外縁が位置するように溶接して設置した。この焼成炉において、内側狭め手段が流路を狭める率は21.3%、外側狭め手段が狭める率は28.4%であって、合わせて約50%の狭め率が実現している。
【0014】
このようにして改良を加えた焼成炉(A炉およびB炉)を用いて、石灰石の焼成による生石灰の製造を行なった。内外の狭め手段の設置により、炉頂における排ガスの温度が、設置前は100℃に達していたものが、50℃台に低下して、フィルターバッグの寿命が長くなった。AおよびBの両炉における稼動3ヶ月間の焼成熱原単位の平均値を、改良前の原単位と比較して下の表に示し、原単位の低減効果を併記する。製品である生石灰について、焼きムラ低減の効果を、塩酸活性度のバラツキで調べたところ、バラツキは改良前の半分以下に低下していた。
【0015】
表1

【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の改良された縦型焼成炉の炉頂付近の構造を、一部は切り欠いて内部を示した図であって、上段は縦断面を、下段は横断面をそれぞれ示す。
【符号の説明】
【0017】
1 炉体
11 耐火煉瓦
2 内側狭め手段
21 狭め板
22 狭め筒
3 外側狭め手段
31 内縁
4 支持棒
5 原料装入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉体(1)の頂部において、炉の外壁に対して同心円板の形状を有し、炉内の横断面の面積の15〜40%を占める広さをもった狭め板(21)と、狭め板の周囲にある狭め筒(22)とからなる内側狭め手段(2)を、支持棒(4)によって保持するとともに、炉の外壁から中心に向かって耐火物の内壁を超えて延びるドーナツ型の形状を有し、炉内の横断面の面積の10〜25%を占める広さをもった外側狭め手段(3)を設け、外側狭め手段の内側の縁が狭め筒に対向するように構成し、その部分における炉内の横断面の狭め率を25〜65%とすることにより、炉内のガスの偏流を減少させた縦型焼成炉。
【請求項2】
炉頂における炉内の横断面の狭め率を40〜50%の範囲に選んだ請求項1の縦型焼成炉。
【請求項3】
内側狭め手段(2)が、狭め板(21)の周囲から狭め筒(22)が垂下する構造であり、外側狭め手段(3)が、外側から内側に向かって下る傾斜を有し、その内側の縁(31)が狭め筒の下端に対向するように構成した請求項1の縦型焼成炉。

【図1】
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