説明

縫合針

【課題】 一つの基端面に1本の縫合糸の両端又は2本の縫合糸を取り付けることができる縫合針であって、従来よりも太い縫合糸を容易かつ確実に取り付けることができるものを提供する。
【解決手段】 縫合針の基端面13から軸方向に止まり穴11を設け、その止まり穴11に縫合糸12を挿入してかしめることにより縫合糸12を取り付ける縫合針10であって、止まり穴11が一つの基端面13に2か所穿けられており、1本の縫合糸12の両端又は2本の縫合糸を取り付けることができることを特徴とする。また、この2か所穿けられた止まり穴が一部で結合し、基端面における止まり穴の全体形状が、8の字形状となっていることにしても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腱縫合や眼科手術等に用いられる縫合針に関し、特に一つの基端面に1本の縫合糸の両端又は2本の縫合糸を取り付ける縫合針及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
縫合針の基端面に軸方向に沿った止まり穴を穿け、その穴に縫合糸の一端を挿入してかしめた縫合糸付きの縫合針(アイレス縫合針)は従来から使用されている。そして、このような縫合針のなかには、例えば腱縫合に用いられるループ状糸付き外科用針や眼科針のように、一つの止まり穴に1本の縫合糸の両端を取り付けて、縫合糸がループを形成するようにしたもの(特許文献1参照)や二つの縫合針を2本の縫合糸で繋いだものがある。
【0003】
図5は、特許文献1に示された従来のループ状糸付き外科用針の基端部を示す図であり、(a)は基端部の断面図、(b)は(a)のI−I断面図である。このように2本の縫合糸22を取り付ける際は、まず縫合針20の基端面に止まり穴21を2本の縫合糸22が自由にゆったりと収容できる大きさに穿け、その止まり穴21の形状が楕円形になるように少しだけ止まり穴21を圧縮する。そして、楕円形となった止まり穴21に2本の縫合糸22を挿入した後、基端部をかしめるという手順により行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−307052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、この場合は、2本の縫合糸が余裕を持って挿入できる程度に止まり穴の径を大きくする必要があり、そのため、縫合針の径に対して、あまり太い縫合糸を使用することができないという問題がある。また、止まり穴の径を大きくすると、止まり穴の壁厚が薄くなり、かしめたときに止まり穴の壁に割れや変形が生じることになる。
【0006】
また、楕円形の止まり穴に2本の縫合糸を挿入した場合は、かしめたときに2本の縫合糸と止まり穴の壁との間に隙間G1が残り易いため、糸の引抜き耐力は大きくならず、さらに、楕円形に圧縮された止まり穴は、穴底に向かって穴径が小さくなるので、穴底付近に隙間G2ができ、縫合糸を穴底まで深く挿入することができないという問題もある。
【0007】
また、一つの止まり穴を穿けた後、それを楕円形に変形させるダイスと、2本の縫合糸を挿入してからかしめるためのダイスの計2つのダイスが少なくとも必要になるため、作業が煩雑になるという問題もある。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、一つの基端面に1本の縫合糸の両端又は2本の縫合糸を取り付ける縫合針であって、従来よりも太い縫合糸であっても、容易かつ確実に取り付けることができるものを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る縫合針は、縫合針の基端面から軸方向に止まり穴を設け、その止まり穴に縫合糸を挿入してかしめることにより縫合糸を取り付ける縫合針であって、止まり穴が一つの基端面に2か所穿けられており、1本の縫合糸の両端又は2本の縫合糸を取り付けることができるものである。
【0010】
ここで、2か所穿けられた止まり穴が一部で結合し、基端面におけるその止まり穴の全体形状が、8の字形状となっていることにしても良い。
【0011】
また、止まり穴の内面の少なくとも一部が、放電加工面であることにしても良い。
尚、本発明でいう「止まり穴」とは、基端面に軸方向に沿って穿けられた各止まり穴を指し、「止まり穴の全体形状」とは、2か所の止まり穴を全体としてみた形状のことを指し、止まり穴が結合しているときは結合した止まり穴の形状のことを指す。
【発明の効果】
【0012】
2か所穿けられた止まり穴に縫合糸を挿入することから、縫合糸の太さに合わせた径の止まり穴を穿ければよいので、従来に比べて太い縫合糸でも挿入しやすく、また、引抜き耐力は向上する。
【0013】
また、基端面における各止まり穴を一部で結合させ、つまり接するか共有部分を有するようにして全体形状を8の字形状とすると、各止まり穴の中心が基端面の中心に近付くため、かしめたとき、かしめ力が止まり穴の外周全体に伝わりやすくなり、各止まり穴が円形になりやすくなる。そのため、断面円形である縫合糸を全方位から確実に保持することができ、壁厚を厚くできることと相俟って、引抜き耐力を向上させることができる。
さらに、止まり穴の少なくとも一部を放電加工により形成して、止まり穴の内面の少なくとも一部をざらつきのある放電加工面とすることにより、縫合糸を保持しやすくする構成とすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の縫合針に縫合糸の両端を取り付けたものの斜視図である。
【図2】2本の縫合糸を取り付けた他の実施例を示す図である。
【図3】本発明の縫合針の端面図であり、(a)は穴が分かれているもの、(b)は穴の一部が結合しているものである。
【図4】本発明の縫合針の製造工程を示す図であり、(a)は丸棒を加工した状態、(b−1),(b−2)はプレス加工を施した状態、(c−1),(c−2)は止まり穴を穿けた基端面、(d−1),(d−2)は曲げ加工を施した状態である。
【図5】従来のループ状糸付き外科用針の基端部を示す図であり、(a)は基端部の断面図、(b)は(a)のI−I断面図である。
【図6】従来の、止まり穴が一つのループ状糸付き外科用針の引抜き耐力の試験結果を示すグラフである。
【図7】本発明の、止まり穴が二つのループ状糸付き外科用針の引抜き耐力の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の縫合針に縫合糸の両端を取り付けたものの斜視図であり、図2は2本の縫合糸を取り付けた他の実施例を示す図である。
【0016】
図1に示した実施例では、1本の縫合糸12の両端を縫合針10の基端面13に穿けられた止まり穴11に挿入し、縫合針10の基端部をかしめて取り付けることで、縫合糸12はループを形成して取り付けられる。一方、図2の実施例は、2本の縫合針10,10を2本の縫合糸12,12で繋いだものである。これらの縫合針10は腱縫合や眼科手術などに用いられるものであり、一つの基端面13に二つの止まり穴11を設け、2本の縫合糸12を取り付けるという構成は同じであり、このような一つの基端面13に止まり穴11を二つ設けるような構成は、これまでにはないものである。そこで、本発明の縫合針10の基端面13について、詳細に説明する。
【0017】
図3は、本発明の縫合針の端面図であり、(a)は穴が分かれているもの、(b)は穴の一部が結合しているものを示している。これらはいずれも、止まり穴11を一つの基端面13に対して2か所穿けることを特徴としている。
【0018】
これらの止まり穴11の径は、取り付ける縫合糸12の太さに合わせて決定することになる。つまり、穴径を糸径よりも大きくすれば良いので、糸径が0.51mmの縫合糸に対し、穴径が0.52mmでも挿入することができる。一方、一つの止まり穴に2本の縫合糸を挿入しようとすると、糸径2本分よりもさらに余裕を持った穴径が必要になる。そのため、従来は、針径1.28mmの縫合針に対しては、穴径0.97mmの止まり穴を一つ設け、その止まり穴に2本分の縫合糸を挿入できる糸径のループ状糸付き外科用針しか製造できなかったけれども、本発明のように二つの止まり穴11を設ける場合は、従来では不可能であった針径1.28mmの縫合針に糸径0.53mmの縫合糸をループ状に取り付けることが可能になる。さらに、1本の縫合糸に対し一つの止まり穴を設けているので、縫合糸を止まり穴の穴底に接するまで深く挿入することも可能となる。
【0019】
止まり穴11の全体形状は、図3(a)のように一つの基端面13に二つの止まり穴11,11をそれぞれ独立に穿けた形状でも良いし、図3(b)のように二つの止まり穴11の一部が結合した8の字形状の止まり穴11になっていても良い。二つの止まり穴が、独立していたり8の字形状であれば、縫合糸12を挿入後にかしめたとき、図5(a)で示したような隙間G1ができないから、従来に比べて縫合糸12と止まり穴11の壁とが密着し易く、引抜き耐力が向上する。ここで、二つの止まり穴11の中心間隔が狭く、結合した止まり穴11の全体形状が楕円や長孔の形状になっているときは、図5(a)に示した従来例と同じように隙間G1ができてしまうため、引抜き耐力の向上を図ることができない。したがって、止まり穴11の全体形状としては、二つが独立しているか、若しくは、結合して8の字形状になっている必要がある。
【0020】
二つの止まり穴11の全体形状について、発明者らがさらに実験を行い追究したところ、二つの止まり穴11が独立に穿けられたものは、各止まり穴11の中心が基端面13の中心から離れているために、かしめたときにかしめ力が各止まり穴11の外周全体に伝わりにくくなり、各止まり穴11が楕円形等になりやすいことがわかった。それに対し、二つの止まり穴11が結合して8の字形状になっているのものは、各止まり穴11の中心が基端面13の中心に近付くため、かしめたときにかしめ力が各止まり穴11の外周全体に伝わりやすくなり、各止まり穴11が円形になりやすいことがわかった。そのため、止まり穴11の全体形状を8の字形状にすると、断面円形である縫合糸12を全方位から確実に保持することができるという利点がある。
【0021】
なお、止まり穴11を2か所穿ける場合において、縫合針10が湾曲縫合針のときは、二つの止まり穴11の配置を限定するものではない。つまり、術式により、縫合針の基端面13から見た湾曲方向(湾曲を通る仮想平面)に対し直角方向に並んでいる配置や、水平方向に並んでいる配置や、斜め交差方向に並んでいる配置等がある。
【0022】
次に、このような縫合針の製造方法を説明する。図4は、本発明の縫合針の製造工程を示す図であり、(a)は丸棒を加工した状態、(b−1),(b−2)はプレス加工を施した状態、(c−1),(c−2)は止まり穴を穿けた基端面、(d−1),(d−2)は曲げ加工を施した状態である。なお、ここでは湾曲縫合針で断面が丸いものについて例示しているが、角針等であっても基本的には同様の工程になる。
【0023】
縫合針の製造においては、まずは、丸棒の加工が行われる。ここでは、ステンレス製の針金を伸線加工し、図4(a)に示すような、尖端部分30aの加工までを行った製造途中の縫合針30が得られる。
【0024】
次に、手術において持針器で挟持するときに縫合針を確実に把持するため、図4(b−1),(b−2)に示すように、縫合針30の側面に平坦部15を設ける目的で、プレス加工が行われる。持針器を用いて患部を縫合することから、湾曲縫合針の場合、湾曲の内側と外側に平坦部15を設ければ良い。平坦部15は、図4(b−1)のように、持針器で挟持する部分、つまり、基端部と尖端部分30aを除いた縫合針30の本体部分(破線部分)のみにプレス加工を施して形成しても良いし、図4(b−2)のように、本体部分から基端部までプレス加工を施して形成しても良い。図4(b−2)のように基端部まで平坦部15を形成した場合は基端部を楕円形断面とすることが出来、図4(b−1)の場合等の円形断面に比較し、止まり穴を大きく形成することができる。
【0025】
また、このプレス加工は、本発明の場合には、マーキングという意味も有している。この後の工程で穿けられる二つの止まり穴11は、縫合針の基端面13から見た湾曲方向に対して直角方向又は水平方向又は斜め交差方向等に並ぶように穿けることから、プレス加工により形成された平坦部15,15は、止まり穴11を穿けるときに縫合針30の向きを確認するマーキングになるからである。
【0026】
図4(c−1),(c−2)は、それぞれ図4(b−1),(b−2)の縫合針30に穴あけ加工を施した基端面13を示すものである。プレス加工によって形成された平坦部15,15は、湾曲の内側と外側になるように設けているので、図4(c−1),(c−2)のように二つの止まり穴11,11が縫合針の基端面13から見た湾曲方向に対して直角方向に並ぶように穿けるためには、平坦部15の面に対して平行に並ぶように穿ければ良い。湾曲方向に対して水平方向、斜め交差方向に並ぶように穿ける場合も同様に、平坦部15の面を基準にして向きを確認することができる。
【0027】
穴あけ加工は、放電加工又はドリルによって一つずつ行われる。しかしドリルによる穴あけでは穿けられるサイズが限定され、眼科針等、小さいサイズの縫合針については基端面に二カ所の穴を穿けるのは困難である。また、レーザーによる穴あけでは、止まり穴の中心と縫合針の中心が異なることから、芯合わせが難しく、また、スパッタが止まり穴の内部にも飛散して縫合糸の挿入が困難になるという問題がある。これに対し、放電加工であればこのような問題はなく、狭い箇所でもまっすぐな穴を穿けることが可能である。尚、一つ目の穴をドリルで穿け、二つ目の穴を放電加工で穿ける、というように、二カ所の穴のうち少なくとも一つの穴を放電加工で穿けるようにすれば、小さいサイズのものも含めて基端面に二カ所の穴を穿けることは可能である。
放電加工により止まり穴11を穿けた場合、止まり穴11の内面はざらつきのある放電加工面となっている。止まり穴11の内面がざらついていると縫合糸を保持しやすくなり、引抜き耐力を向上させることができる。
【0028】
最後に、図4(d−1),(d−2)に示すように、縫合針10の曲げ加工が行われる。ここで、図4(d−1)は、図4(b−1)の縫合針10に曲げ加工を施した図であり、図4(d−2)は、図4(b−2)の縫合針10に曲げ加工を施した図である。湾曲の方向は、前述したとおり、プレス加工によって設けられた平坦部15を湾曲の内側と外側になるようにすれば良い。なお、直線状の縫合針を製造する場合には、曲げ加工の工程は不要である。
【0029】
以上のようにして製造された縫合針10の止まり穴11に、縫合糸の両端又は2本の縫合糸を挿入して、かしめることにより、腱縫合に用いられるループ状糸付き外科用針や眼科針として、使用することができるようになる。なお、本発明の縫合針10であれば、基端部をかしめるのは、1回だけで済むので、かしめ用のダイスも一つで良いという利点がある。
【0030】
尚、前述の図4(b−1),(b−2)に示したプレス加工は、針の種類によっては行わない場合もあり、また、穴あけ加工の後に行う場合もある。さらに、図4(b−1),(b−2)のプレス加工と図4(d−1),(d−2)の曲げ加工を同時に行うことのできる装置にセットして、平坦部15と湾曲を同時に形成するようにしても良い。
【0031】
図6は、従来の、止まり穴が一つのループ状糸付き外科用針の引抜き耐力の試験結果を示すグラフであり、図7は、本発明の、止まり穴が二つのループ状糸付き外科用針の引抜き耐力の試験結果を示すグラフである。
【0032】
それぞれ、外径1.28mmの縫合針に、外径0.516mm(USP規格2号)の縫合糸の両端を挿入し、1.14mmに圧縮されるかしめ用ダイスを使用してかしめ、ロードセルを使用してUSP規格に準じた糸引抜試験を行った。従来の、止まり穴が一つのループ状糸付き外科用針の場合は穴径を1.0mmとし、本発明の、止まり穴が二つのループ状糸付き外科用針の場合は各止まり穴の穴径を0.58mmとした。また、かしめ回数は、従来のループ状糸付き外科用針は10回としたが、本発明のループ状糸付き外科用針は2回とした。尚、引抜規格(USP)は、個々値が6.86N以上であり、平均値が17.6N以上である。
【0033】
試験結果によれば、従来のループ状糸付き外科用針は最大荷重が4.4Nとなり、規格を満たすことはできなかったが、本発明のループ状糸付き外科用針は、5本の試験片について試験を行ったところ、最大荷重の最小値が31.6N、平均値が37.5Nとなって規格を満たすことができたとともに、従来のループ状糸付き外科用針と比較し、8倍以上と、大幅に引抜き耐力を向上させることができた。
【符号の説明】
【0034】
10,20 縫合針
11,21 止まり穴
12,23 縫合糸
13 基端面
15 平坦部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫合針の基端面から軸方向に止まり穴を設け、前記止まり穴に縫合糸を挿入してかしめることにより縫合糸を取り付ける縫合針であって、
前記止まり穴が一つの基端面に2か所穿けられており、1本の縫合糸の両端又は2本の縫合糸を取り付けることができることを特徴とする縫合針。
【請求項2】
2か所穿けられた前記止まり穴が一部で結合し、基端面における前記止まり穴の全体形状が、8の字形状となっていることを特徴とする請求項1に記載の縫合針。
【請求項3】
前記止まり穴の内面の少なくとも一部が、放電加工面であることを特徴とする請求項1又は2に記載の縫合針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−66639(P2013−66639A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208646(P2011−208646)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(390003229)マニー株式会社 (66)
【Fターム(参考)】