説明

縫製品の構成材料としての銅基合金補強線及びその製造方法。

【課題】 従来の縫製品の構成材料は、特に形状保持の衣料の製造において、ステンレス繊維を使用しているので、縫針の先端折片など有害物の検出において、検針器が誤作動を起こし、正確な検出除去のためには、支障があり、全体の生産性を低下させるという問題点があつた。また、鉄製ボタンなどを銅製品に代えて、この問題を改善しようとする新技術も提案されているが、ステンレスの代わりになる銅合金としては、強度が不足し、形状保持のためには問題があった。本発明は上記の危険鉄片の検出の不正確の改善と代替え材料としての銅基合金の強度を改善することと、該危険物の探知の正確化とを目的課題とするものである。
【解決手段】 本発明では衣料の形状保持のための材料として、非磁性の銅基合金で高強度のものを、開発し、新規な金属組成物と独特な製造方法を、この技術分野に適用することにより、正確に縫針等有害物の有無を検出できるようにして解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衣料等縫製品の構成材料として、内部に危険な縫い針の折片が存在する場合に、その除去工程機能を確実にし、安全な衣料を市場に供給するための銅基合金からなる衣類の新規補強線及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、衣料等の縫製品にあっては、縫製作業時に針の一部(主として針先)が折損してそのまま繊維製品内に残留してしまうことがあり、かかる折損針以外にも、種類の要因により、縫製作業時等において折損針に類する微小な金属片が混入、付着して危険商品となることがある。そこで、磁性金属探知機能を有する検針器を用いて、縫製品に折損針等が残留していないということを出荷前に探知することが行われている。
他方、衣料等の縫製品は形状が長期にわたって保持されていることが要求される。特にこれらの縫製品が下着に用いられる場合は、電気洗濯機で強力な洗浄が行われる。150回以上の洗濯が行われる場合が多い。このような時でも形状が保持されていて破壊を起こさないことが要求される。更に、金属補強線は表面硬度が高いため、プラスチックでコ−チングして表面硬度を低くして使用することが多い。この場合には、身体に密着した下着などの衣類では硬くて身体に違和感があるので、膜厚100μm以上と高くするため、粉体塗装が行われる場合が多い。粉体塗装の場合は430〜450℃の高温で作業することがあり、高い温度で強度の劣化が起こらないことも必要である。
【0003】
また、従来にあっては、金属補強線の構成材として、一般にJISに規定されている引張り強さ490N/mm2以上、ビッカ−ス硬さ187以上の、性能値を有する、SUS304ステンレス線が使われている。
【0004】
これに関連した従来技術には次のようなものが存在している。
特開平10−121168の銅基合金は、その技術課題は、縫製品に付属される金属ボタン、スナップ、ホック等の金属付属品であって、検針器を誤作動させることのない金属付属品の構成材料として好適する銅基合金を提供することを課題とする。而して、その解決手段は、マンガン0.5〜6.0重量%、ニッケル0.1〜4.0重量%、亜鉛10〜35重量%含有し、且つ残部が銅及び不可避同伴不純物からなる金属組成をなすものであり深絞り加工性に優れ且つ導電率の極めて低いものである。
【特許文献1】特開平10−121168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来技術は、縫製品の工程における金属有害破片の検針器において金属ボタン、スナップ等による誤作動を是正することを目的としているが、それだけではボタン等をつける前に、織物中より有害な針先破片を含んだ部分を取り除くための必要な工程のためには、殆ど役には立たないという問題点があり、織物自体の縫製段階で有害鉄片を除去する工程の非能率の改善の問題が解決されてていない。
また、従来使用されているステンレス線は検査時発生する渦電流のため磁性金属探知機の一種である検針器に反応しにくい非磁性線であっても、補強線の大きさ、形状、配置等によっては、折損針等が存在していないにもかかわらず、検針器が反応して誤作動してしまうことがあった。更に、銅基合金としての導電率が27%台IACSのJISC2600,JISC2680などの、Cu−Zn合金つまり黄銅は磁性金属探知器に反応しない非磁性金属ではあるが、黄銅型の金属付属品のある場合も検針器が反応して誤動作をおこすのは導電率が高いため発生した渦電流によるためと言われている。このため、検針器の感度や探知スピ−ドを落したり工夫がなされているが、誤作動を回避するための解決策としては不充分であった。感度を落すのみでは、微小な折損針等の探知が不確実なものとなり、感度および探知スピ−ドを落すと、探知作業効率が低下してコスト高となる問題があった。また、補強線の形状配置等は機能上から必然的に決められるものであり、そのデザインに制限があることは商品価値を落としていた。
本発明は、上記従来技術の欠点、問題点を解決し、縫製品の工程において、商品購入者にとって危険である、針先の破片等を完全に摘出して、消費者に常に安全な衣類商品を供給しうるように、新規なる手段を提供することを目的課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記問題点を解決するため次の手段構成をとる。
その第1の特徴は縫製品の補強材料として使用する異形線であって、亜鉛を23〜25重量%、ニッケルを17〜18重量%、マンガンを0.2〜0.4重量%含有し、且つ残部が銅および不可避的不純物からなる金属組成を有する縫製品の構成材料としての銅基合金補強線であることである。
【0007】
而してその第2の特徴は縫製品の形状保持を目的とする補強線を製造する方法であって亜鉛を23〜25重量%、ニッケルを17〜18重量%、マンガンを0.2〜0.4重量%含有し、且つ残部が銅および不可避的不純物からなる金属組成を有する銅基合金を連続鋳造後、冷間加工と焼鈍する工程を繰り返し、次いで560〜590℃で0.5〜2時間光輝焼鈍を行って、更に、加工度60〜70%で最終伸線を行い、断面の大きさを、(0.7〜1.0mm)×(2.1×3.0mm)とし、引張強さ850N/mm2 以上、ビッカ−ス硬さ210〜250に硬化させる工程順序により製造する縫製品の構成材料としての銅基合金補強線の製造方法であることである。
【0008】
更に、本発明の手段構成について詳細に説明する。非磁性金属である本発明合金は強度が高く、表面硬度も高いことが要求され、しかも耐蝕性も要求されるめがねフレ−ム、枠つるなどの用途にも使われている。また、Zn量の更に高いバネ用洋白JISC7701合金はスイッチ,リレ−,コネクタ−などに使われている。
【0009】
本発明は、このような点に着目して、ステンレス鋼線に代わって検針器に反応しない縫製品の構成材料としてのきわめて好適なる銅基合金補強線をその手段として構成する。
【発明の効果】
【0010】
1)以上の詳細な説明により判明した通り、本発明の銅基合金および製造方法により検針器使用に際し、誤作動を起こさない縫製品の構成材料として強度の高い補強線を効率よく確実に製造することが出来る。
2)従来技術では、縫製品衣料中に縫針先端等の有害危険物が残留することがあるが、本発明の構成材料によれば、有害物を完全に除去できるので、縫製商品は全く安全となる顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の最良の形態に関し、先ず本発明の合金組成の限界について説明する。
Mnは脱酸、脱硫を行うために添加するものであり0.4重量%以上の添加はそれ以上の効果の向上は望めない。またMnが多くなると空気中の水分と反応して水素ガスを発生するので、該金属の鋳造欠陥を生ずる。
【0012】
Znは加工硬化性を向上させ且つ導電性を低下させ強度を向上させる。23%以下では強度が低く、25%以上では表面硬度が高く、伸び率が1%以下と低い。
【0013】
Niは加工硬化性を向上させ色調がきれいで柔らかみのある銀白色を呈するものであり導電率を低下させ強度を向上させる。17%以下では強度が低く、18%以上ではその効果が飽和される。
【0014】
次に製造方法の限定理由について説明する。上記組成の銅基合金を横型連続鋳造機を通してビレットにし、次にロッドミルで中間圧延した後、雰囲気焼鈍、酸洗と中間伸線を数回繰返した後、更に不活性ガス中で光輝焼鈍を行い、最終伸線機で加工度60〜70%の最終異形線伸線を行って製造される。光輝焼鈍の温度条件を560〜590℃で、30分〜2時間と設定したのは、560℃以下ではその後の塗装工程で強度の低下が起こるためであり、590℃以上では最終伸線工程で伸線を行ったとき引張強度が得られないためである。焼鈍時間30分以下では強度向上効果がなく、2時間以上ではその効果が変わらないためである。
【0015】
最終伸線機での加工度60%以下では強度向上が期待できず、70%を超えるともろくなる。また本発明の洋白は高周波溶解炉で木炭被覆下に大気溶解した後、横型連続鋳造機で10〜50mmφのビレットに鋳造される。
その後、上記方法で得られたビレットを冷間加工と焼鈍を繰返して断面角形の線材(以下角線という)に成形した。光輝焼鈍後、超硬ダイスを用いて断面丸の線材に伸線する。ロ−ル圧延の後角線に伸線される。この場合加工度は次式によりあらわされる。
加工度=(光輝焼鈍時の断面積−最終伸線後の断面積)/光輝焼鈍時の断面積
本発明の場合、この加工度は60〜70%である。またこの異形線の断面の大きさは、
(0.7〜1.0)×(2.1〜3.0)mm2である。
【実施例】
【0016】
実施例として、表1に示す金属組成を有する本発明に係わる銅基合金を高周波溶解炉により木炭被覆下において大気溶解、鋳造して30φのロッドに鋳造した。ロッドミルによる加工と焼鈍を繰返し行って2.9φのワイヤ−に製造した。その後光輝焼鈍を行い加工度60%の伸線を行って1.62φのワイヤ−を製造した。その後ロ−ル圧延を行い、
0.82×2.48mm2の角線に製造した。最後に仕上伸線を行い0.8×2.40
mm2 の角線を製造して補強線に供した。補強線の性能は引っ張り強さ、伸び率導電率表面硬度検針器反応試験機による反応の有無塗装後の電気洗濯機による100本の異形線を15分で150回まわして折れた数を%で示した。結果を表2に示した。
【0017】
【表1】

【0018】
【表2】

【0019】
30%黄銅からZn含有率を25,18,10%と低下させると強度が低下し、IACS27%から10%以下に低下する。Ni含有率を10,14,18%と高くすると強度は高くなり、IACSは27%から10%以下に低下する。Znが25%、Niが18%の本発明合金が最高の強度を示し、低いIACSを示した。本発明合金の補強線は検針器反応試験で誤作動を起こさず、150回以上の洗濯でも全く破壊を起こさなかった。
尚、表1中の試料1の合金の加工条件を変化させた時の性能値を表3に示した。
【0020】
【表3】

【0021】
上記実験例で示したように、560〜590℃で光輝焼鈍を行い、加工度60〜70%で最終伸線加工することで、強度850N/mm2以上、伸び率2%以上、ビッカ−ス硬さ210〜250の補強線が製造され、電気洗濯機での破壊も全く起こらなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
従来の衣類は、その縫製工程の段階で鋼質の針先その他鉄片などが混入し、繊維製品特に肌着は危険な状態にあった。この原因は従来の形状保持繊維中に使用されているステンレス繊維により、危険鉄片の磁性による選別を困難にしていたからである。そこで本発明では形状保持のための繊維に銅基合金で特に磁性がなく、引張強度も大なるものを開発しし、危険鉄片選別可能で安全な縫製用材料に適用する。これをこの分野の産業界に提供せんとするものである。消費者はすべて安全な衣料を購入することを望んでいる。従って、本発明の産業上利用可能性は極めて大であることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫製品の補強材料として使用する異形線であって、亜鉛を23〜25重量%、ニッケルを17〜18重量%、マンガンを0.2〜0.4重量%含有し、且つ残部が銅および不可避的不純物からなる金属組成を有することを特徴とする縫製品の構成材料としての銅基合金補強線。
【請求項2】
縫製品の形状保持を目的とする補強線を製造する方法であって、亜鉛を23〜25重量%、ニッケルを17〜18重量%、マンガンを0.2〜0.4重量%含有し、且つ残部が銅および不可避的不純物からなる金属組成を有する銅基合金を連続鋳造後、冷間加工と焼鈍する工程を繰り返し、次いで560〜590℃で0.5〜2時間光輝焼鈍を行って、更に、加工度60〜70%で最終伸線を行い、断面の大きさを、(0.7〜1.0mm)×(2.1×3.0mm)とし、引張強さ850N/mm2以上、ビッカ−ス硬さ210〜250に硬化させる工程順序により製造することを特徴とする縫製品の構成材料としての銅基合金補強線の製造方法。

【公開番号】特開2006−206962(P2006−206962A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−20623(P2005−20623)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(399031621)清峰金属工業株式会社 (3)
【Fターム(参考)】