説明

縮合燐酸エステルの精製方法

【課題】縮合燐酸エステルの酸価やアルカリ金属の種類や量、ならびに処理条件などに影響されることなしに、酸価が低く、アルカリ金属含有量が少ない上に、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量を抑制することで、さらに優れた耐熱性、耐加水分解性および貯蔵安定性に優れた縮合燐酸エステル類を安定的に得るための精製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】粗製の縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理し、さらにアルカリ性水溶液でアルカリ処理して精製するにあたり、予め前記粗製の縮合燐酸エステルを有機溶剤の存在下または非存在下にアルカリ性水溶液で中和処理して前記粗製の縮合燐酸エステル中の酸性物質を除去することにより、前記エポキシ化合物での処理におけるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の生成を抑制することを特徴とする縮合燐酸エステルの精製方法により、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂の可塑剤または難燃剤として有用な縮合燐酸エステルの精製方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、酸価が低く、かつ耐熱性、貯蔵安定性および耐加水分解性に優れた縮合燐酸エステルを安定的に得るための精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燐酸エステルは、オキシ塩化リンとアルコール類またはフェノール類とを脱塩化水素反応させる方法などにより合成される。しかし、この合成方法ではエステル化を完結させることが困難であるために、合成された燐酸エステルは、通常、原料由来のリン酸や塩化物などに起因していくらかの酸価を示す。
【0003】
酸価を示す物質は燐酸エステルの耐熱性、貯蔵安定性および耐加水分解性などの物性に悪影響を及ぼすので、合成された粗製の燐酸エステルは、酸価を低下させるために、通常酸価を示す物質を除去する精製処理に付される。精製処理としては、塩基性物質を用いた中和、例えば、水酸化ナトリウムのようなアルカリ金属水酸化物を用いた湿式中和からなる精製、炭酸カルシウムや水酸化マグネシウムのようなアルカリ土類金属化合物を用いた乾式中和と水洗とからなる精製や蒸留精製などが挙げられる。
【0004】
しかしながら、アルカリ金属水酸化物を用いて高粘度の燐酸エステルを湿式中和する場合には、水相と油相の分離性が悪く、その処理に時間を要するだけでなく、分離後の油相に比較的多量(例えば、数十〜数百ppm)のアルカリ金属が残存するという問題がある。アルカリ金属は燐酸エステルの耐熱性および耐加水分解性に悪影響を及ぼすので、アルカリ金属の残存は好ましくない。
【0005】
そこで、このような高粘度の燐酸エステルを有機溶剤で希釈して粘度を低下させ、また塩析処理を行うことによって、水相と油相の分離性を向上させて、燐酸エステル中のアルカリ金属の残存量を低減させる方法が提案されている。
例えば、有機溶剤で希釈した燐酸エステルを中和した後に多量の温水で洗浄する方法や、多量の有機溶剤で希釈した燐酸エステルを高濃度(10重量%以上)の水酸化ナトリウム水溶液で中和する方法がある。しかし、これらの方法を工業的に行うためには多くの問題がある。
【0006】
中和後に多量の温水で洗浄する方法では、高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で中和する方法や後述するエポキシ化合物を用いた方法と比較して、アルカリ金属を含む不純物の除去効率が低い上に、多量の水を用いることから処理効率が低下する。高濃度の水酸化ナトリウム水溶液で中和する方法は、条件が適切であればアルカリ金属を含む不純物を効率よく除去できるが、その不純物と高濃度の水酸化ナトリウムのため、廃水処理の負荷が大きくなる上に、多量の溶剤を用いるために処理効率が低下する。さらに処理条件が不適切な場合には燐酸エステルが分解することがある。このようなアルカリ金属の残存の問題は、乾式中和においても同様に生ずる。また、一部の燐酸エステルでは、湿式中和の際に、粗製の燐酸エステルを含む混合物全体が乳化して、水相と油相の分離不良を起こすこともある。
【0007】
蒸留精製は、上記のようなアルカリ金属の残存の問題なしに精製処理できるが、縮合燐酸エステルでは分子量が大きく、精製処理自体が困難になるという問題がある。
また、アルカリ金属以外にも、燐酸エステルの耐熱性、貯蔵安定性および耐加水分解性などの物性に悪影響を及ぼす不純物がある。このような不純物としては、エステル化が完結していない未反応の化合物、リン酸またはアルコール類と反応触媒とが結合した化合物、原料由来の他の微量不純物などが挙げられる。
これらの不純物を除去するには、上記の中和や蒸留などの精製処理のみでは難しく、分留効率の高い精留装置が必要になる。しかし、このような装置は高価であり、製品の歩留りが低下するのでコスト高になるという問題がある。
【0008】
これらの問題を解決する方法として、本願出願人は、粗製の有機燐酸エステルをエポキシ化合物で処理し、さらにアルカリ性水溶液で処理して精製する有機燐酸エステルの精製方法を開発した(特許第4293748号公報:特許文献1参照)。
この方法は、燐酸エステル中の不純物をエポキシ化合物と反応させ、その生成物を水で加水分解させて水溶性の化合物に変換させ、得られた水溶性の化合物をアルカリ性水溶液で処理することにより、有機燐酸エステル中の不純物を除去するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4293748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のエポキシ化合物で処理する方法では、有機燐酸エステルの酸価を低減すると共にアルカリ金属を含む不純物を効率よく除去することができる。
しかしながら、この方法を縮合燐酸エステルに適用した場合には、縮合燐酸エステルの不純物としてのヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物が増加することがある。これは、エポキシ化合物での処理により、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物が生成されているためと考えられる。
【0011】
このようなヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物を含有する縮合燐酸エステルを、難燃剤や可塑剤としてポリカーボネート/アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(PC/ABS)樹脂や変性ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂などに添加した場合、その含有量が縮合燐酸エステル中に1重量%程度であれば、それらの成形加工温度においてエステル交換を起こさないか、起こしても僅かであり、物性低下を引き起こすことは少ない。
【0012】
しかしながら、このようなヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物を含有する縮合燐酸エステルを、難燃剤や可塑剤として、PC/ABS樹脂や変性PPE樹脂などより成形加工温度の高い樹脂に用いる場合、またはPC/ABS樹脂や変性PPE樹脂などであっても大型あるいは薄肉の成形品を得るために用いて、これまでよりも高い流動性が必要になる場合には、より高い成形加工温度やより長い加温時間が要求される。このような温度条件では、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の影響が大きくなり、着色や加熱減量の増加などの物性低下を起こすことが考えられる。
したがって、縮合燐酸エステルが、より高い成形加工温度(例えば、300℃以上)においても良好な性能を発揮するためには、酸価が低いことやアルカリ金属の含有量が少ないことに加えて、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量の少ないことが要求される。
【0013】
本発明は、上記のような問題を解決し、縮合燐酸エステルの酸価やアルカリ金属の種類や量、ならびに処理条件などに影響されることなしに、酸価が低く、アルカリ金属含有量が少ない上に、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量を抑制することで、さらに優れた耐熱性、耐加水分解性および貯蔵安定性に優れた縮合燐酸エステル類を安定的に得るための精製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、粗製の縮合燐酸エステルから酸価を示す不純物(以下「酸性物質」ともいう)を除去するためにエポキシ化合物で処理した場合に、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物として一般式(III):
【化1】

【0015】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基であり、R5は2価の有機基であり、nは1以上の整数である)
で表される燐化合物が生成されることを見出した。
【0016】
そこで、粗製の縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理する前に予め中和処理を行い、酸性物質の含有量を低減させることにより、エポキシ化合物での処理において一般式(III)で表されるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の生成を抑制できることを意外にも見出し、本発明を完成するに到った。
【0017】
かくして、本発明によれば、粗製の縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理し、さらにアルカリ性水溶液でアルカリ処理して精製するにあたり、予め前記粗製の縮合燐酸エステルを有機溶剤の存在下または非存在下にアルカリ性水溶液で中和処理して前記粗製の縮合燐酸エステル中の酸性物質を除去することにより、前記エポキシ化合物での処理におけるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の生成を抑制することを特徴とする縮合燐酸エステルの精製方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、縮合燐酸エステルの酸価やアルカリ金属の種類や量、ならびに処理条件などに影響されることなしに、酸価が低く、アルカリ金属含有量が少ない上に、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量を抑制することで、さらに優れた耐熱性、耐加水分解性および貯蔵安定性に優れた縮合燐酸エステル類を安定的に得るための精製方法を提供することができる。
本発明の縮合燐酸エステルの精製方法は、縮合燐酸エステルの耐熱性、耐加水分解性、貯蔵安定性などの物性に悪影響を与える不純物をより効果的に除去することができ、しかも縮合燐酸エステルの着色原因となるアルカリ金属化合物を用いても、処理後にアルカリ金属の残存が殆どなく、着色や加熱減量も改善できる。
このように本発明の方法で精製された縮合燐酸エステルは、酸価が低く、かつ耐熱性、耐加水分解性および貯蔵安定性に優れているので、可塑剤や難燃剤として樹脂に添加しても、樹脂の成形温度において安定であり、組成変化を生じることがない。
【0019】
本発明によれば、中和処理が粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とアルカリ性水溶液との混合工程、油水分離により油相を回収する油水分離工程、得られた油相を水洗して油相中の水溶性成分を除去する水洗工程および得られた油相中の水分を除去する脱水工程を含む場合に、中和処理が粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して1〜20モル当量のアルカリを含みかつ濃度0.01〜10重量%のアルカリ性水溶液を用いて行われる場合に、中和処理が温度60〜90℃で0.5〜2時間行われる場合に、中和処理がアルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて行われる場合に、アルカリ金属炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである場合に、さらに優れた上記の効果が得られる。
【0020】
本発明によれば、縮合燐酸エステルが一般式(I):
【化2】

【0021】
(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基であり、R5は2価の有機基であり、nは1以上の整数である)で表される化合物である場合に、さらに優れた上記の効果が得られる。
【0022】
本発明によれば、エポキシ化合物での処理が中和処理された、粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とエポキシ化合物との混合工程および未反応のエポキシ化合物の回収工程を含む場合に、アルカリ処理がエポキシ化合物で処理された、粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とアルカリ性水溶液との混合工程および油水分離により油相を回収する油水分離工程を含む場合に、さらに優れた上記の効果が得られる。
【0023】
本発明によれば、エポキシ化合物で処理された粗製の縮合燐酸エステルをアルカリ処理前に予め水および/または酸性水溶液で処理する場合に、アルカリ処理された縮合燐酸エステルをさらに水洗処理および/または水蒸気蒸留処理に付す場合に、さらに優れた上記の効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の縮合燐酸エステルの精製方法は、粗製の縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理し、さらにアルカリ性水溶液でアルカリ処理して精製するにあたり、予め粗製の縮合燐酸エステルを有機溶剤の存在下または非存在下にアルカリ性水溶液で中和処理して粗製の縮合燐酸エステル中の酸性物質を除去することにより、エポキシ化合物での処理におけるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の生成を抑制することを特徴とする。
【0025】
(縮合リン酸エステル)
本発明の方法で処理される縮合燐酸エステルは、通常、樹脂の可塑剤および/または難燃剤として用いられる、当該分野で公知の化合物であるが、その合成に伴う不純物を含む限り、特に限定されない。
【0026】
このような縮合燐酸エステルは、一般式(I):
【化3】

(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基であり、R5は2価の有機基であり、nは1以上の整数である)
で表わされる化合物が好ましい。
【0027】
一般式(I)においてR1〜R4で表される芳香族炭化水素基としては、炭素数6〜15のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル、クレジル、キシリル、ジメチルフェニル、2,4,6-トリメチルフェニル、エチルフェニル、ブチルフェニル、ノニルフェニルなどが挙げられる。
【0028】
一般式(I)においてR5の2価の有機基としては、アルキレン基、アリーレン基などが挙げられる。具体的には、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、テトラメチレン、エチルエチレンなどのアルキレン基、(o-、m-またはp-)フェニレン、次の式(1)〜(4)で表される基などのアリーレン基が挙げられる。
【0029】
【化4】

【0030】
これらの中でも、アリーレン基や式(1)〜(3)で表される基が好ましく、(o-、m-またはp-)フェニレン基や式(1)で表される基がさらに好ましい。
一般式(I)の縮合燐酸エステル化合物は、n=1で示される二量体のみならず、n=2以上の多量体を含む。本発明の方法で処理される縮合燐酸エステルは、これらの単独化合物だけでなく、これらの混合物であってもよく、さらにn=0の化合物を含んでいてもよい。
【0031】
具体的には、アルキレンビス[リン酸ジフェニル]、アルキレンビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)メチルフェニル]、レゾルシンビス[リン酸ジフェニル]、レゾルシンビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)メチルフェニル]、レゾルシンビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)エチルフェニル]、レゾルシンビス[リン酸ビス(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-または3,5-)ジメチルフェニル]、ヒドロキノンビス[リン酸ジフェニル]、ヒドロキノンビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)メチルフェニル]、ヒドロキノンビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)エチルフェニル]、ヒドロキノンビス[リン酸ビス(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-または3,5-)ジメチルフェニル]、ビスフェノールAビス[リン酸ジフェニル]、ビスフェノールAビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)メチルフェニル]、ビスフェノールA[リン酸ジ(o-、m-またはp-)エチルフェニル]、ビスフェノールAビス[リン酸ビス(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-または3,5-)ジメチルフェニル]などが挙げられる。
【0032】
本発明の方法で処理される粗製の縮合燐酸エステルは、その合成に伴う不純物、例えば、反応触媒として用いたアルカリ金属化合物やルイス酸化合物、反応触媒に由来するリン酸の1つの結合手に金属(反応触媒中の金属)が付加した化合物、反応触媒中の金属を介してリン酸ジエステルが結合して形成されたダイマー、原料化合物であるリン酸と反応触媒とが結合した化合物、アルコール類またはフェノール類と反応触媒とが結合した化合物、エステル化が完結していない未反応の化合物(P−Cl結合を有する化合物)などを含有する。本発明では、これらの化合物を総称して「不純物」という。
【0033】
本発明の精製方法は、これらの不純物を効率的に除去することを目的とするものであり、処理される縮合燐酸エステルは、不純物を含むという意味で「粗製の縮合燐酸エステル」と称する。
【0034】
縮合燐酸エステルは、当該分野で公知の方法により得られ、一般に、無触媒あるいはルイス酸触媒(例えば、塩化アルミニウム、塩化マグネシウムまたは四塩化チタンなど)の存在下で、オキシハロゲン化燐を適当なフェノール類およびジヒドロキシ化合物と反応させることにより得られる。
【0035】
例えば、芳香族ビスホスフェートは、ルイス酸触媒の存在下でオキシ塩化燐を芳香族モノヒドロキシ化合物(1価のフェノール)と反応させ、得られたジアリールホスホロハリデートを、前記の触媒の存在下で芳香族ジヒドロキシ化合物(2価のフェノール)と反応させることにより得られる(例えば、特開平5−1079号公報参照)。
【0036】
また、芳香族ビスホスフェートは、オキシ塩化リンを芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させ、次いで未反応のオキシ塩化リンを除去した後、さらに芳香族モノヒドロキシ化合物と反応させることによっても得られる(特開昭63−227632号公報参照)。
また、芳香族ビスホスフェートは、オキシ塩化燐を、芳香族モノヒドロキシ化合物と芳香族ジヒドロキシ化合物との混合物と反応させることによっても得られる。
【0037】
上記の縮合燐酸エステルの製造において用いられるフェノール類としては、フェノール、(o-、m-またはp-)メチルフェノール、(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-または3,5-)ジメチルフェノール、ナフトールなどの1価のフェノール類、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノールなどの2価のフェノール類が挙げられる。
【0038】
縮合燐酸エステルの製造において、反応触媒の使用量、オキシハロゲン化燐とフェノール類およびジヒドロキシ化合物との使用割合、反応温度、反応時間などの反応条件は、適宜設定される。
このようにして製造される縮合燐酸エステルは、通常、不純物を多く含有しているが、本発明の精製方法によれば、このような粗製の縮合燐酸エステルから不純物を効率的に除去することができる。
【0039】
本発明の精製方法は、一般式(I)の縮合燐酸エステルの何れにも適用できるが、次の一般式(II)で表される縮合燐酸エステルは、従来の精製方法では酸価を低下させることが特に困難な化合物であり、本発明の好適な実施態様である。
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、Q1、Q2、Q3およびQ4はそれぞれ独立して炭素数1〜6のアルキル基であり、R6およびR7はメチル基であり、m1、m2、m3およびm4はそれぞれ独立して0〜3の整数であり、n1およびn2はそれぞれ独立して0〜2の整数であり、xは1〜5の整数である)
【0042】
一般式(II)においてQ1〜Q4で表される炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシルのような直鎖状のアルキル基、イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、tert-ペンチル、neo-ペンチル、メチルペンチルなどの分枝鎖状のアルキル基が挙げられる。
【0043】
一般式(II)の縮合燐酸エステルの中でも、ビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)、ビスフェノールAビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)メチルフェニル]、ビスフェノールAビス[リン酸ジ(o-、m-またはp-)エチルフェニル]およびビスフェノールAビス[リン酸ビス(2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-または3,5-)ジメチルフェニル]が特に好ましい適用対象である。
処理される粗製の縮合燐酸エステルには固体と液体があり、本発明の精製方法はいずれの形態にも適用できるが、取り扱いの点では液体が好ましい。
【0044】
縮合燐酸エステルが固体の場合、あるいは液体であっても高粘度である場合には、予めその固体または液体を有機溶剤に溶解させて本発明の方法を適用するのが好ましい。
その際に用いられる有機溶剤は、縮合燐酸エステルを溶解させることができ、かつ後記のように推測されるエポキシ化合物の作用を阻害しないものであれば特に限定されない。具体的には、トルエン、キシレン、ジクロロベンゼンなどの芳香族系溶剤、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族系溶剤が挙げられる。
【0045】
その溶液中の縮合燐酸エステルの濃度は、縮合燐酸エステルや用いる有機溶剤の種類により適宜設定すればよく、通常50〜90重量%程度である。
縮合燐酸エステルの濃度が低過ぎる場合には、混合工程における反応種の濃度が低く、精製処理自体が困難になる上に、処理が可能な場合でも、溶液量が多くなるために、同容量の設備では処理量が低下し、処理量を維持するにはより大きな設備を要し、加温に要するエネルギーも多くなるなど、効率が低下する。
一方、縮合燐酸エステルの濃度が高過ぎる場合には、溶液粘度が高くなり、混合工程における混合が不十分となり、油水分離工程における分離が困難となり、精製処理が困難となることがある。
縮合燐酸エステルの合成において、上記のような溶剤を用いた場合には、その溶剤と縮合燐酸エステルとを分離することなしに本発明の方法を適用することができ、溶剤を分離する場合であっても、その溶剤が縮合燐酸エステル中に残存しても本発明の精製処理に支障はない。
【0046】
反応に触媒を用いた場合には常法により洗浄除去するのが好ましい。例えば、リン酸や塩酸、蓚酸などの酸性水溶液と接触させ、触媒由来の不純物を水溶液側に抽出することで除去できる。また、必要に応じてさらに水で洗浄することによって、触媒由来の不純物をさらに低減させることもできる。
【0047】
(中和処理)
本発明の精製方法では、まず、有機溶剤の存在下または非存在下にアルカリ性水溶液で中和処理(湿式中和)する。この中和処理により、粗製の縮合燐酸エステルに含まれる酸性物質を除去する。
続くエポキシ化合物による処理では、酸性物質の一部とエポキシ化合物から一般式(III)で表されるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物が生成すると考えられるため、酸性物質を低減することでエポキシ化合物での処理における一般式(III)の燐化合物の生成を抑制できるものと考えられる。
中和処理は、粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とアルカリ性水溶液との混合工程、油水分離により油相を回収する油水分離工程、得られた油相を水洗して油相中の水溶性成分を除去する水洗工程および得られた油相中の水分を除去する脱水工程を含むのが好ましい。
【0048】
中和処理に用いるアルカリ性水溶液は、縮合燐酸エステルの精製を阻害せず、酸性物質を低減できるものであれば特に限定されない。本発明において、アルカリ性とは、pH8〜13程度の範囲を意味する。
アルカリ性水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物および炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩の水溶液が挙げられる。これらの中でも、縮合燐酸エステルの分解を起こし難く、処理効率も比較的高いことから、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属水酸化物の水溶液が好ましく、炭酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液が特に好ましい。
【0049】
アルカリ性水溶液は、中和処理前における粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して1〜20モル当量のアルカリを含むのが好ましい。
アルカリ量が粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して1モル当量未満の場合には、酸性物質を充分に除去することができないことがある。一方、アルカリ量が粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して20モル当量を超える場合には、アルカリ分の除去が困難になるばかりでなく、乳化状態になり分離処理に悪影響を及ぼすことがある。より好ましいアルカリ量は粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して1〜10モル当量であり、さらに好ましくは1〜5モル当量である。
【0050】
アルカリ性水溶液は、0.01〜10重量%の濃度を有するのが好ましく、より好ましい濃度は0.1〜2重量%である。
その使用量は、上記のアルカリ量から算出すれば、粗製の縮合燐酸エステルに対して1〜100重量%、好ましくは5〜50重量%である。なお、アルカリ水溶液の量によっては処理後の分離を容易にするため、静置前に水を加えてもよい。
【0051】
アルカリ性水溶液による中和処理は、60〜90℃で行われるのが好ましい。
処理温度が60〜90℃の範囲であれば、縮合燐酸エステルが加水分解を受けず、処理系内に導入したアルカリ成分により効率的に不純物を除去することができる。より好ましい処理温度は70〜90℃の範囲である。
処理時間は、処理量や設備により適宜設定されるが、0.01〜2時間が好ましく、0.1〜1.5時間がより好ましい。
【0052】
次いで、得られた縮合燐酸エステルを含む混合溶液を静置し油水分離して、不純物が移行した水相を除去し(油水分離工程)、必要に応じて得られた油相を水で洗浄して油水分離により油相を回収し(水洗工程)、さらに減圧などの公知の方法により脱水する(脱水処理)。
【0053】
(エポキシ化合物での処理)
次いで、中和処理された縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理する。このエポキシ化合物での処理により、縮合燐酸エステルに含まれる不純物中の酸性物質がエポキシ基でマスキングされる。
エポキシ化合物での処理は、中和処理された、粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とエポキシ化合物との混合工程および未反応のエポキシ化合物の回収工程を含むのが好ましい。
【0054】
エポキシ化合物は、その骨格中に1個以上のエポキシ基を有する脂肪族化合物、芳香族化合物、脂環式化合物または複素環式化合物のいずれであってもよい。
脂肪族エポキシ化合物としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、3,4-エポキシブタノール、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル(例えば、エポキシ当量が200または400のもの)、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0055】
脂環式エポキシ化合物としては、1-メチル-1,4-エポキシシクロヘプタン、2,3-エポキシシクロペンタノン、3,4-エポキシシクロオクテン、2,3-エポキシノルボルナン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)-1,3-ジオキソラン、1,2-エポキシ-1-イソプロピル-4-メチル-4-シクロヘキセン、4,5-エポキシ-1-イソプロピル-4-メチル-1-シクロヘキセン、1-(グリシジルオキシメチル)-3,4-エポキシシクロヘキサン、2,3-エポキシ-3,5,5-トリメチルシクロヘキサノン、ビス(2,3-エポキシシクロペンチル)エーテルなどが挙げられる。
【0056】
芳香族、複素環およびその他のエポキシ化合物としては、フェニルグリシジルエーテル、p-tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、トリグリシジルトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、o-フタル酸ジグリシジルエステル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、グリシジルフタルイミド、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテルおよびビスフェノールFジグリシジルエーテル、ならびにこれらの付加反応物などが挙げられる。
上記のエポキシ化合物の中でも、安全性が高くかつ容易に入手できる点から、液状の脂肪族エポキシ化合物が好ましく、プロピレンオキシドおよびブチレンオキシドが特に好ましい。
【0057】
エポキシ化合物での処理の条件は、特に限定されず、縮合燐酸エステルやエポキシ化合物の物性や反応性などに応じて適宜選定される。
中和処理により縮合燐酸エステルは中性あるいは中性に近い状態となるが、エポキシ化合物での処理の反応性は酸性条件の方が高いため、エポキシ化合物での処理前に燐酸や塩酸などの酸を適宜添加してもよい。但し、酸の量が多いと精製後の酸価が高くなることがあるため、エポキシ化合物での処理前の酸価が0.02〜0.10KOHmg/gとなるよう調整することが望ましい。
また、エポキシ基は水分と反応するので、中和処理した縮合燐酸エステルをエポキシ化合物での処理前に予め脱水しておくことが好ましい。
【0058】
エポキシ化合物には気体や液体があるが、その形状に応じた処理法を用いることが望ましい。例えば、気体状のエチレンオキシドを用いる場合には、縮合燐酸エステルに挿入管を通してエチレンオキシドを吹き込みながら処理すればよい。
また、液体状のプロピレンオキシドを用いる場合には、縮合燐酸エステルにプロピレンオキシドを滴下しながら処理するか、縮合燐酸エステルにプロピレンオキシドを添加した後、処理すればよい。
【0059】
エポキシ化合物の使用量は、理論的には燐酸エステルの酸価対応量で充分であるが、中和処理によりエポキシ化合物と反応する酸性物質が低減しており、理論量のエポキシ化合物では、反応種の濃度が低く、反応性が低下することがある。反応を完結させるには、一定濃度以上のエポキシ化合物が必要と考えられるため、酸価対応量ではなく、反応系内のエポキシ化合物濃度を基準に設定する必要がある。
エポキシ化合物の使用量は多いほど反応性は高くなると考えられるが、低沸点のエポキシ化合物を用いた場合にその使用量が多くなると、反応液の沸点が低下して反応に必要な温度を維持できず、反応性が低下することがある。そのため、エポキシ化合物は、粗製の縮合燐酸エステルの0.001〜3.0重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0060】
エポキシ化合物による処理は、40〜160℃で行われるのが好ましい。
処理温度が40℃未満の場合には、処理時間が長くなることがある。一方、処理温度が160℃を超える場合には、縮合燐酸エステルが着色したり、処理中に沸騰が激しく起こることがある。より好ましい処理温度は80〜140℃である。
上記の温度範囲は一般式(II)の縮合燐酸エステルをプロピレンオキシドまたはブチレンオキシドで処理する場合に、それらの沸点や反応性の点から特に好ましい。
処理時間は、通常、1〜2時間程度で充分である。例えば、一般式(II)の縮合燐酸エステルをプロピレンオキシドで処理する場合には1時間程度、同じくブチレンオキシドで処理する場合には2時間程度である。
【0061】
エポキシ化合物での処理後の燐酸エステルには未反応のエポキシ化合物が含まれていることがあり、そのまま次の処理を行うことも可能であるが、エポキシ化合物は水との接触で分解するため、次の処理前に未反応のエポキシ化合物を減圧などの公知の方法により回収する(回収工程)ことが望ましい。回収したエポキシ化合物は再利用することもでき、処理効率の向上につながる。
【0062】
(アルカリ処理)
次いで、エポキシ化合物で処理した縮合燐酸エステルを、アルカリ性水溶液でアルカリ処理する。
アルカリ処理は、エポキシ化合物で処理された、粗製の縮合燐酸エステルもしくは有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液とアルカリ性水溶液との混合工程および油水分離により油相を回収する油水分離工程を含むのが好ましい。
【0063】
このアルカリ処理の前に、エポキシ化合物で処理された縮合燐酸エステルを予め水および/または酸性水溶液(好ましくは水)で処理(中間処理)するのが好ましい。ここで、酸性水溶液としては、濃度0.01〜1重量%の塩化水素、リン酸などの水溶液が挙げられる。
中間処理により、エポキシ化合物でマスキングされた不純物中の酸性物質が加水分解されて、アルカリ処理による不純物の除去効率を高めることができる。
水および酸性水溶液の使用量は、粗製の縮合燐酸エステルに対して0.1〜5重量%程度、好ましくは0.2〜2重量%である。処理回数は、通常1回で充分であるが、必要に応じて処理を繰り返してもよい。
具体的には、例えば、エポキシ化合物で処理した縮合燐酸エステルに、水を添加して5分間〜3時間程度攪拌し、必要に応じて、静置して水相と油相とを分離し、水相を除去する。
【0064】
次いで、エポキシ化合物で処理した縮合燐酸エステル、またはさらに中間処理した縮合燐酸エステルに、アルカリ性水溶液を加えてアルカリ処理する。このアルカリ処理により、エポキシ化合物での処理においてエポキシ基でマスキングされた不純物中の酸性物質が、水溶性の化合物に変換される。
【0065】
アルカリ処理で用いるアルカリ性水溶液としては、縮合燐酸エステルの精製を阻害しないものであれば特に限定されない。
アルカリ性水溶液としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ金属炭酸塩、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物および炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどのアルカリ金属炭酸水素塩の水溶液が挙げられる。これらの中でも、縮合燐酸エステルの分解を起こし難く、処理効率も比較的高いことから、アルカリ金属炭酸塩の水溶液が好ましく、炭酸ナトリウム水溶液が特に好ましい。
【0066】
アルカリ性水溶液は、エポキシ化合物での処理前における粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して、0.1〜5モル当量のアルカリを含むのが好ましい。
アルカリ量が粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して0.1モル当量未満の場合には、縮合燐酸エステルを充分に精製することができないことがある。一方、アルカリ量が粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して5モル当量を超える場合には、アルカリ分の除去が困難になるばかりでなく、乳化状態になり分離処理に悪影響を及ぼすことがある。より好ましいアルカリ量は粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して0.5〜1モル当量である。
【0067】
アルカリ性水溶液は、例えば、アルカリが炭酸ナトリウムである場合には、0.001〜2重量%の濃度を有するのが好ましく、より好ましい濃度は0.002〜0.2重量%である。
その使用量は、少ないと処理が不十分となり、逆に多いと処理効率が低下することがある。縮合燐酸エステルに対して1〜100重量%、好ましくは5〜50重量%である。
【0068】
アルカリ性水溶液による中和処理は、60〜120℃で行われるのが好ましい。
処理温度が60〜120℃の範囲であれば、縮合燐酸エステルが加水分解を受けず、処理系内に導入したアルカリ成分により効率的に不純物を加水分解させることができる。より好ましい処理温度は70〜95℃の範囲である。
処理時間は、処理温度に応じて適宜選定され、処理温度が60〜120℃の範囲であれば、0.1〜10分程度で充分である。処理温度が高いほど短時間で処理を完了できる。
【0069】
次いで、アルカリ処理した縮合燐酸エステルを含む混合溶液を静置して、アルカリ処理で水溶性の化合物に変換された不純物を水相として除去する。また、必要に応じてさらに水で洗浄(水洗処理)することによって、アルカリ残分をさらに低減させることができる。この洗浄処理の具体的な操作は、前記のアルカリ処理に先立って行われる水での処理と同様である。
このようにして、最終的に耐熱性、耐加水分解性、貯蔵安定性などに悪影響を及ぼす水溶性の不純物が除去される。
【0070】
次いで、縮合燐酸エステルに残留する水を除去する。これにより、精製された縮合燐酸エステルが得られる。
水を除去する方法としては、当該分野で一般的に用いられている方法を適用することができるが、減圧下で蒸留するのが好ましい。粗製の縮合燐酸エステルが固体の場合に、それを溶解させるために用いた溶媒および粗製の縮合燐酸エステルの合成時に用いられて残留する有機溶媒は、この減圧下の蒸留により水と共に除去される場合もあるが、該溶媒を除去するためには、縮合燐酸エステルを脱水乾燥後、水蒸気蒸留を行うのが好ましい。
【0071】
また、上記の溶媒を用いない場合であっても、水を除去した後、さらに水蒸気蒸留を行うのが好ましい。これにより、水に溶解し難い低沸点の不純物(例えば、合成原料のフェノールなど)を除去することができる。
すなわち、第2のアルカリ性水溶液でアルカリ処理した縮合燐酸エステルを、さらに水洗および/または水蒸気蒸留を行うのが好ましい。
【0072】
本発明の精製方法では、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量を抑制しつつ、エポキシ化合物での処理により酸性物質やアルカリ金属を除去することで、これら熱的に不安定な不純物を低減することができ、優れた精製効果が得られる。
本発明の精製方法では、比較的低温で処理が行われるので、処理時の副反応を抑制でき、縮合燐酸エステルの酸価の低減が妨げられない。
【0073】
(縮合リン酸エステルの用途)
本発明の精製方法で得られる縮合燐酸エステルは、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)系樹脂、耐衝撃性スチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン(SAN)系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリアクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂、およびエポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、フェノール系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、メラミン系樹脂、尿素樹脂などの熱硬化性樹脂の難燃剤として用いることができる。
【0074】
本発明の方法で得られる縮合燐酸エステルは、酸価が低く、金属含有量およびヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の含有量が少ないために、樹脂の成形加工の際の高い処理温度によっても分解しないので、耐熱性および耐着色性に優れた高品質の樹脂成形品を得ることができる。
上記の樹脂成形品は公知の方法により得ることができる。例えば、難燃剤、樹脂および必要に応じて他の樹脂用添加剤を、単軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダーミキサー、ロールなど、汎用の装置を単独または組み合わせて混合および溶融混練して樹脂組成物を得、得られた樹脂組成物を公知の成形機により板状、シート状およびフィルム状に加工することにより得られる。
【実施例】
【0075】
本発明を以下の合成例、実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲が限定されるものではない。
【0076】
(合成例)
オキシ塩化リン969gとビスフェノールA350gとを、塩化マグネシウム3.5gを触媒として常圧下で反応させ、過剰のオキシ塩化リンを減圧除去後、さらにフェノール568gを加えて、理論量の塩化水素が発生するまで減圧下で反応を続けた。このようにして得られた反応混合物1062gに溶剤としてトルエン424.8gを加えた後、触媒を除去するために9.7%リン酸水溶液74.3gを加えて85℃で30分間攪拌し、続けて約85℃の水223gを追加して、静置して油相を分離した。
さらにこの油相に水297.4gを加えて85℃で30分間撹拌した後、静置して水相を除き、次式で表されるビスフェノールAビス(リン酸ジフェニル)を主成分とする粗反応生成物1486g(溶剤を含む)を得た。この粗反応生成物は、酸価が0.5KOHmg/gの液体であった。
【0077】
【化6】

【0078】
(実施例)
(中和処理)
合成例で得られた粗反応生成物(溶剤としてのトルエンを含む粗製の縮合燐酸エステル、濃度71.4重量%)1486gに、1.89重量%炭酸ナトリウム水溶液74.3g(2モル当量)を加えて、85℃で6分間(0.1時間)撹拌し(混合工程)、続けて85℃の水143.2gを追加して、静置して油相を分離した(油水分離工程)。
次いで、得られた油相に水222.9gを加えて80℃で10分間撹拌した後、静置して油相を分離する操作を2回繰り返した(水洗工程)。
中和処理の油相の酸価は、0.005KOHmg/gと非常に低かった。続いて行うエポキシ化合物での処理の反応性を向上させるために、燐酸(85%水溶液)を0.08g添加し、減圧により脱水を行った(脱水工程)。
得られた反応生成物は溶剤を含めて1440g、酸価は0.056KOHmg/gであった。
【0079】
(エポキシ化合物での処理)
脱水済みの反応生成物(溶剤としてのトルエンを含む、濃度71.4重量%)にブチレンオキシド14.4g(粗反応生成物の1.4重量%、溶剤を含む粗反応生成物の1重量%)を添加し、120℃で2時間反応させた(混合工程)。
その後30分かけて130℃まで昇温し、さらに130℃で10分間維持して、蒸留により未反応のブチレンオキシドを回収した(回収工程)。なお、ブチレンオキシドと共に溶剤のトルエンも一部回収されるため、回収終了後トルエンの沸点以下まで冷却後、回収したトルエンと同量のトルエン135.9gを追加した。
【0080】
(付加処理としての中間処理)
次いで、この反応混合物を90℃に冷却し、水14.4g(溶剤を含む粗製物に対して1重量%)を添加して2時間攪拌した。
【0081】
(アルカリ処理)
続いて、0.014重量%炭酸ナトリウム水溶液290.8g(酸価相当量の1/2モル当量)を加えて、85℃で0.5分間攪拌し(混合工程)、静置して油相を分離した(油水分離工程)。
【0082】
(溶剤除去と付加処理としての水蒸気蒸留処理)
分離した油相を、80℃の水288gで洗浄し、減圧によるトルエン除去を行い、さらに140℃/20mmHgで水蒸気蒸留を2時間行うことにより、残存フェノールなどの不純物を除去して、精製品1035g(収率:97.5%)を得た。
得られた精製品の酸価は0.01KOHmg/gで、そのNa含有量は0.9ppmであった。
【0083】
(比較例1:エポキシ化合物での処理)
合成例と同様にして得られた粗反応生成物1486gを脱水し、ブチレンオキシド4.8g(粗反応生成物とブチレンオキシドとのモル比は、粗反応生成物の酸価を基準にして1:5である)を添加し、120℃で2時間反応させた(エポキシ化合物での処理)。
続いて、0.12重量%の炭酸ナトリウム水溶液300g(酸価相当量の1/2モル量)を加えて、85℃で15分間攪拌し(アルカリ処理)、静置して油相を分離した。
分離した油相を、80℃の水296gで洗浄し、続いて140℃/20mmHgで水蒸気蒸留を2時間行うことにより、残存フェノールなどの不純物を除去して、精製品1036g(収率:97.6%)を得た。
得られた精製品の酸価は0.01KOHmg/gで、そのNa含有量は0.7ppmであった。
【0084】
(比較例2:中和処理)
合成例と同様にして得られた粗反応生成物1486gを実施例と同様に中和処理した。次いで湯洗いを実施例と同様に行ったが、エポキシ化合物での処理を行わない場合、金属が残存し易いことから湯洗いを6回行った。
その後、水蒸気蒸留を実施例と同様に行い、精製品1036g(収率:97.6%)を得た。
得られた精製品の酸価は0.02KOHmg/gで、そのNa含有量は2ppmであった。
【0085】
実施例、比較例1および比較例2で得られた精製品について、上記の酸価およびNa含有量に加え、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物のLC(液体クロマトグラフ)分析による面積%および触媒に由来するMg含有量を測定した。Na含有量およびMg含有量を原子吸光分析により測定し、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物のLC分析による面積%を次の測定機器および測定条件によるLC分析により測定した。また、処理前の粗製の縮合燐酸エステルについても同様に測定した。
【0086】
測定機器
LC分析装置:
送液ユニット(株式会社島津製作所製、型番:LC−10AD)
カラムオーブン(株式会社島津製作所製、型番:CTO−10A)
デガッサー(株式会社島津製作所製、型番:DGU−14A)
【0087】
測定条件
移動相 :アセトニトリル(AN)/水
流量 :1.0ml/分
カラム :ODS−80TM
カラム温度:40℃
検出器 :UV(株式会社島津製作所製、型番:SPD−10Avp)
UV波長 :254nm
サンプル :0.2g/25ml(AN/水=75/25(v/v))10μl
グラジエント条件: 時間(分) AN/水(v/v)
0 75/25
0.01 75/25
10 83/17
15 99/1
30 99/1
30.1 STOP
ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物のピークの保持時間:4.7分
【0088】
実施例、比較例1および比較例2で得られた精製品の品質を実施した処理と共に表1に示す。
【0089】
【表1】

【0090】
合成例では反応を完結させるため、フェノールを過剰に用いており、処理前の粗製の燐酸エステルには3重量%程度のフェノールを含有するが、フェノールは精製時に水蒸気蒸留にて除去されることから、実施例や比較例との比較のため、表1の処理前の組成値は、フェノールを除いた値を記載している。
【0091】
実施例と比較例を比較すると、実施例は表に示した各項目の値が低いことが分かる。これに対し、比較例1ではヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物が、比較例2では酸価および金属含有量が実施例より高い。
比較例1では処理前の状態でエポキシ化合物での処理を行うのに対し、実施例では中和処理後の、組成としては比較例2に近い状態でエポキシ化合物での処理を行っており、エポキシ化合物での処理時の酸価(酸性物質)がヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の増減に影響することが分かる。
比較例2の中和処理は、比較例1のエポキシ化合物での処理と比較して、ヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物は少ないが、湯洗い回数が多いにも拘らず、実施例および比較例1と比較して、酸価が高く、金属含有量が多い。金属でNa含有量が多いのは、トルエンを加えることで改善しているとは言え、分離性がよくないためと考えられる。さらにMg含有量も多いが、Mgと酸性物質の一部が非水溶性の塩を形成することで残存したものと考えられる。
【0092】
実施例、比較例1および比較例2で得られた精製品について、耐熱色相および加熱減量を測定した。
(耐熱色相)
精製品8gを内径27.5mmのガラス瓶に入れ、それぞれ280℃および320℃で1時間の条件で処理し、色相を測定した。
280℃および320℃における色相は、実施例が最も低い。
320℃では比較例2において濃色固形物が生成し、測定不可となり、実施例および比較例1と比較することができない。この固形物は、分解により生じた炭化物と考えられる。
したがって、固形物がなく、着色の少ない実施例が最も優れていることがわかる。
【0093】
(加熱減量)
精製品10mgを示差熱測定器にて測定した。
空気雰囲気(300ml/分)下、30℃より125℃/分で昇温し、280℃に達してから2時間または320℃に達してから1時間温度を維持し、重量減少の割合を測定した。実施例および比較例共に減量が見られるが、実施例の減量率が最も少なく、劣化が少ないことがわかる。温度で比較すると280℃の減量率は比較的少なく、実施例と比較例の差も少ないのに対し、320℃の減量率は比較的大きく、特に比較例1の減量率が大きい。このことからヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の影響が大きいことがわかる。
を示している。
実施例、比較例1および比較例2で得られた耐熱試験の結果を表2に示す。
【0094】
【表2】

【0095】
表1に示すように、本発明の方法で精製された縮合燐酸エステルは、従来の方法で精製された縮合燐酸エステルに比べて不純物が少なく、その結果として表2に示すように耐熱性に優れていることがわかる。
また、上記の結果から、本発明の方法で精製された縮合燐酸エステルは、貯蔵安定性および耐加水分解性にも優れていることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗製の縮合燐酸エステルをエポキシ化合物で処理し、さらにアルカリ性水溶液でアルカリ処理して精製するにあたり、予め前記粗製の縮合燐酸エステルを有機溶剤の存在下または非存在下にアルカリ性水溶液で中和処理して前記粗製の縮合燐酸エステル中の酸性物質を除去することにより、前記エポキシ化合物での処理におけるヒドロキシ炭化水素基を有する燐化合物の生成を抑制することを特徴とする縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項2】
前記中和処理が、前記粗製の縮合燐酸エステルもしくは前記有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液と前記アルカリ性水溶液との混合工程、油水分離により油相を回収する油水分離工程、得られた油相を水洗して油相中の水溶性成分を除去する水洗工程および得られた油相中の水分を除去する脱水工程を含む請求項1に記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項3】
前記中和処理が、前記粗製の縮合燐酸エステルの酸価に対して1〜20モル当量のアルカリを含みかつ濃度0.01〜10重量%のアルカリ性水溶液を用いて行われる請求項1または2に記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項4】
前記中和処理が、温度60〜90℃で0.01〜2時間行われる請求項1〜3のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項5】
前記中和処理が、アルカリ金属炭酸塩またはアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いて行われる請求項1〜4のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属炭酸塩が炭酸ナトリウムであり、前記アルカリ金属水酸化物が水酸化ナトリウムである請求項5に記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項7】
前記縮合燐酸エステルが、一般式(I):
【化1】

(式中、R1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立して芳香族炭化水素基であり、R5は2価の有機基であり、nは1以上の整数である)
で表される化合物である請求項1〜6のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項8】
前記エポキシ化合物での処理が、前記中和処理された、前記粗製の縮合燐酸エステルもしくは前記有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液と前記エポキシ化合物との混合工程および未反応のエポキシ化合物の回収工程を含む請求項1〜7のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項9】
前記アルカリ処理が、前記エポキシ化合物で処理された、前記粗製の縮合燐酸エステルもしくは前記有機溶剤の粗製の縮合燐酸エステル溶液と前記アルカリ性水溶液との混合工程および油水分離により油相を回収する油水分離工程を含む請求項1〜8のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項10】
前記エポキシ化合物で処理された粗製の縮合燐酸エステルを、前記アルカリ処理前に予め水および/または酸性水溶液で処理する請求項1〜9のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。
【請求項11】
前記アルカリ処理された縮合燐酸エステルを、さらに水洗処理および/または水蒸気蒸留処理に付す請求項1〜10のいずれか1つに記載の縮合燐酸エステルの精製方法。