説明

縮退系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法

【課題】πスタック型の充填構造をとる縮体系大環状化合物、その結晶及び製造方法の提供。
【解決手段】式(1)


[式(1)中、nは0〜7のうちのいずれかの整数を示す。]の縮退系大環状化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、縮退系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機半導体材料は、軽量性、成型性及び柔軟性に優れることから、次世代電子材料として有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタ等の新しい有機デバイスへの応用が期待されている。このような有機半導体材料に用いる有機化合物としては、分子間凝集力が強いため高い結晶性を有し、高いキャリア移動度が得られるという観点から、ポリアセンを用いて設計されたものが注目されており、例えば、非特許文献1には有機トランジスタの材料としてアントラセンのオリゴマーが記載されており、非特許文献2には有機半導体材料としてアントラセンの誘導体が記載されている。
【0003】
しかしながら、非特許文献1〜2に記載の化合物は、ポリアセンが直鎖状に並んだ構造であるため、芳香環と水素原子との間の相互作用(CH−π相互作用)に由来して、アセン同士が重ならない、いわゆるヘリンボン型の構造を有する結晶を形成する。従って、このような化合物の結晶においては、分子間のπ軌道同士の接触面積が小さくなり、励起エネルギー移動及び電荷移動の効率が低くなるという問題や、バンド内状態密度が低くなるという問題を有していた。
【0004】
一方、非特許文献3には、層状に集積されるベンゼンやフェナントレンからなる環状の化合物が記載されている。しかしながら、非特許文献3に記載の化合物は、有機半導体材料等として応用することを前提として設計されておらず、また、π面に対して垂直方向(x軸方向)に化合物が円柱状に積み重なった構造を有しているため、有機半導体材料として用いる場合にはy軸方向への電荷の移動が不十分になるという問題や、単にπ面が一方向に拡張されていることにより酸化状態において不安定になるという問題を有していた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】イトウら、Angew.Chem.Int.Ed.、2003年、42、No.10、1159−1162頁
【非特許文献2】アンドウら、Chem.Mater.、2005年、Vol.17、No.6、1261−1264頁
【非特許文献3】Pisulaら、Chem.Asian.J.、2007年、2、51−56頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、πスタック型の充填構造をとることが可能な縮体系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、有機半導体材料等に利用する化合物を設計する際において、従来はHOMO(最高占有分子軌道)とLUMO(最低占有分子軌道)とのエネルギー差を小さくすることに重点が置かれていたのに対して、前記エネルギー差を小さくすることよりも、HOMO及びLUMOのそれぞれの状態密度を高めること、すなわち、軌道数を増やして電子が移動し易い状態にすることに重点を置くことを見出し、複数のナフタレンを単結合により大環状化合物とすることにより、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明の縮退系大環状化合物は、下記一般式(1):
【0009】
【化1】

【0010】
[式(1)中、nは0〜7のうちのいずれかの整数を示す。]
で表わされることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明の縮退系大環状化合物の結晶は、前記本発明の縮退系大環状化合物からなり、πスタック型の充填構造を有することを特徴とする。
【0012】
本発明の縮退系大環状化合物の製造方法は、下記一般式(2):
【0013】
【化2】

【0014】
[式(2)中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表わされるハロゲン化ナフタレンをカップリング反応せしめることにより、前記本発明の縮退系大環状化合物を得ることを特徴とするものである。
【0015】
本発明において、πスタック型の充填構造とは、図1Aの本発明の縮退系大環状化合物の結晶の縦断面の好適な一実施形態を示す模式図及び図1Bの本発明の縮退系大環状化合物の結晶の横断面の好適な一実施形態を示す模式図において示すように、それぞれの縮退系大環状化合物におけるナフチレン基同士が重なることによって芳香環のπ面が互いに平行に重なり、π軌道同士の接触面積が大きなπスタック型となっており、且つ、上下(縦断面(図1A)方向)に隣接する化合物同士が積層され、左右(横断面(図1B)方向)に隣接する化合物同士が一定の距離(a)をなして配向している充填構造(魚鱗状構造)をいう。
【0016】
このように、本発明の縮退系大環状化合物においては、πスタック型の充填構造をとることが可能であるため、π軌道同士の接触面積が大きくなり、その結果として、本発明の縮退系大環状化合物及びその結晶を有機半導体材料として用いた場合に、励起エネルギー移動及び電荷移動の効率が高くなること、バンド内状態密度が高くなること、酸化状態においても安定であること、及びx軸方向及びy軸方向の双方向への電荷の移動が円滑になされることが可能となると本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、πスタック型の充填構造をとることが可能な縮退系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】本発明の縮退系大環状化合物の結晶の縦断面の好適な一実施形態を示す模式図である。
【図1B】本発明の縮退系大環状化合物の結晶の横断面の好適な一実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0020】
先ず、本発明の縮退系大環状化合物について説明する。本発明の縮退系大環状化合物は、下記一般式(1):
【0021】
【化3】

【0022】
[式(1)中、nは0〜7のうちのいずれかの整数を示す。]
で表わされることを特徴とするものである。本発明の縮退系大環状化合物は前記一般式(1)で表わされる大環状構造を有することにより、前記πスタック型の充填構造をとることが可能となり、また、芳香環からなる大環状の構造であるため、得られる結晶において、ドーパントを含有することが可能となる。
【0023】
前記一般式(1)で表わされる縮退系大環状化合物において、ナフチレン基の繰り返し数nは0〜7のうちのいずれかの整数であり、前記nが0のときには前記一般式(1)で表わされる縮退系大環状化合物は[5]−シクロ−2,7−ナフチレンである。これらの整数が前記下限未満では、環のひずみが大きくなるために化合物を得ることが困難となり、他方、前記上限を超えると環化よりも鎖状の伸長が優先的になるために化合物を得ることが困難となる。また、ナフタレン環に生じるひずみが小さく、且つ、得られる化合物の構造が剛直になる傾向にあるという観点から、前記ナフチレン基の繰り返し数nは1又は2であることが好ましい。
【0024】
前記縮退系大環状化合物の具体例としては、前記一般式(1)においてナフチレン基の繰り返し数nが0である、下記式(3):
【0025】
【化4】

【0026】
で表わされる[5]−シクロ−2,7−ナフチレン;前記一般式(1)においてナフチレン基の繰り返し数nが1である、下記式(4):
【0027】
【化5】

【0028】
で表わされる[6]−シクロ−2,7−ナフチレン;前記一般式(1)においてナフチレン基の繰り返し数nが2である、下記式(5):
【0029】
【化6】

【0030】
で表わされる[7]−シクロ−2,7−ナフチレン等が挙げられる。
【0031】
本発明の縮退系大環状化合物は、IR(赤外吸収スペクトル)、H−NMR、13C−NMR、MS(MALDI TOF)、元素分析により同定することができる。
【0032】
次いで、本発明の結晶の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の説明及び図面中、同一又は相当する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0033】
図1Aは、本発明の縮退系大環状化合物の結晶の縦断面の好適な一実施形態の模式図であり、図1Bは、本発明の縮退系大環状化合物の結晶の横断面の好適な一実施形態の模式図である。図1A及び図1B中、結晶を構成する縮退系大環状化合物は[7]−シクロ−2,7ナフチレンであるが、本発明の縮退系大環状化合物の結晶を構成する縮退系大環状化合物としては、これに制限されるものではなく、前記一般式(1)で表わされることを特徴とする本発明の縮退系大環状化合物であればよい。
【0034】
本発明の縮退系大環状化合物の結晶は、前記本発明の縮退系大環状化合物からなり、πスタック型の充填構造を有することを特徴とするものである。
【0035】
本発明の縮退系大環状化合物の結晶がπスタック型の充填構造を有する状態としては、隣接する縮退系大環状化合物間の距離(a)は0.25〜0.35nmであることが好ましく、0.30nmであることがより好ましい。このような距離(a)が前記下限未満では、共有結合距離に近づくために化合物同士の静電反発が大きくなる傾向にあり、他方、前記上限を超えると環状化合物間の距離が長くなるためにπ軌道同士の相互作用がなくなる傾向にある。さらに、本発明の縮退系大環状化合物の結晶中の縮退系大環状化合物の密度としては、1.00〜1.50g/cmであることが好ましい。
【0036】
このような本発明の縮退系大環状化合物の結晶構造は、X線回折により同定することができる。
【0037】
また、本発明の縮退系大環状化合物の結晶としては、有機半導体材料として用いる場合にはその用途に応じてドーパントを含有していることが好ましい。前記ドーパントとしては、有機分子、無機分子及び原子からなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。前記有機分子としては、テトラシアノキノジメタン(TCNQ)に代表されるような電子不足分子やテトラチアフルバレン(TTF)に代表される電子豊富分子等が挙げられ、前記無機分子としては、金属錯体等が挙げられ、前記原子としてはリチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属等が挙げられる。これらの中でも、電子輸送層にドープすることにより、得られる半導体の性能が向上する傾向にあるという観点から、アルカリ金属からなる群から選択される少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0038】
このようなドーパントの含有量としては、前記縮退系大環状化合物の結晶において、1019〜1021atoms/cmであることが好ましい。このような含有量が前記下限未満では、電荷の注入を助ける働きが弱くなる傾向にあり、他方、前記上限を超えるとドーパントの量が多くなりすぎるため半導体としての性質を示しにくくなる傾向にある。
【0039】
次いで、本発明の縮退系大環状化合物の製造方法について説明する。本発明の縮退系大環状化合物の製造方法は、下記一般式(2):
【0040】
【化7】

【0041】
[式(2)中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表わされるハロゲン化ナフタレンをカップリング反応せしめることにより、本発明の縮退系大環状化合物を得ることを特徴とする。
【0042】
本発明に用いられるハロゲン化ナフタレンは、前記一般式(2)で表わされる。前記一般式(2)中において、Xはハロゲン原子を示す。このようなハロゲン原子としては、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が挙げられ、カップリング反応において十分な反応性を有するという観点から、臭素(Br)であることが好ましい。
【0043】
前記カップリング反応としては、上記本発明の縮退系大環状化合物を製造することが可能な方法であればよく、公知のカップリング反応を適宜採用することができ、例えば、鈴木カップリング反応、スティルカップリング反応、熊田カップリング反応、ウルマン反応、山本カップリング反応、根岸カップリング反応、檜山カップリング反応、並びに、これらの反応を組み合わせた反応等が挙げられる。これらの中でも、得られる縮退系大環状化合物の収率が高く、反応に用いる材料の入手が容易であるという観点から、山本カップリング反応を用いることが好ましい。
【0044】
また、前記カップリング方法においては、有機溶媒を用いることができ、前記有機溶媒としては、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼン、キシレン、メシチレン、DMSO等が挙げられ、1種を単独で、又は2種以上を混合して用いてもよい。これらの中でも、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、ベンゼンを用いることが好ましい。また、このような有機溶媒を用いる場合には、用いるハロゲン化ポリアセンや採用するカップリング反応によっても異なるが、副反応を抑制するという観点から、十分に脱酸素処理を施してから用いることが好ましく、また、遮光下において、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下において用いることがより好ましい。
【0045】
さらに、本発明の縮退系大環状化合物の製造方法においては、反応を進行させるために、適宜、アルカリや適当な触媒を添加することが好ましい。これらのアルカリや触媒としては、採用するカップリング反応に応じて選択することができ、例えば、前記アルカリとしては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、リン酸三カリウム、酢酸カリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等が挙げられ、前記触媒としては、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル等のニッケル触媒、銅触媒、パラジウム触媒、プラチナ触媒、鉄触媒等が挙げられる。このようなアルカリや触媒の中でも、反応に用いる前記有機溶媒に十分に溶解するものを用いることが好ましく、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルを用いることが好ましい。また、前記アルカリの添加量としては、前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレン1モルに対して、2〜5モルとすることが好ましい。また、前記触媒の添加量としては、触媒としての有効量であればよく、特に制限されないが、前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレン1モルに対して、0.1〜2.5モルとすることが好ましい。このようなアルカリ及び触媒の添加量が前記下限未満では、反応の効率性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、それ以上の添加が無駄となり、経済性が低下する傾向にある。
【0046】
このようなアルカリや触媒を混合する方法としては特に制限されず、例えば、前記ハロゲン化ナフタレンと前記有機溶媒とを含有する反応液をアルゴンや窒素等の不活性雰囲気下で攪拌しながらゆっくりとアルカリ及び/又は触媒の溶液を添加する方法や、アルカリ及び/又は触媒を含有する溶液に前記反応液をゆっくりと添加する方法等が挙げられる。前記混合により得られる混合液(反応液)における前記アルカリ及び/又は触媒と前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレンとの総濃度は環化をより促進するために高希釈条件にするという観点から、1〜15質量%(5〜50mM)であることが好ましい。
【0047】
また、前記カップリング反応の条件としては、遮光下、不活性ガス雰囲気中において行うことが好ましい。前記不活性ガスとしては、例えば、窒素ガスやアルゴンガス等が挙げられる。前記カップリング反応の温度としては、用いる有機溶媒等によって異なるが、20〜80℃であることが好ましい。前記カップリング反応の反応時間としては、特に制限されず、用いるハロゲン化ポリアセンや採用するカップリング反応によっても異なり、目的の重合度に達したときを反応時間の上限としてもよいが、1〜24時間程度であることが好ましい。
【0048】
なお、前記カップリング反応を停止させる場合は、用いるハロゲン化ポリアセンや採用するカップリング反応によっても異なるが、前記反応液に、例えば、水、希塩酸等を添加することが好ましい。また、前記カップリング反応後は、酸洗浄、アルカリ洗浄、中和、水洗浄、有機溶媒洗浄、再沈殿、遠心分離、抽出、カラムクロマトグラフィー、透析等の慣用の分離操作、精製操作、乾燥その他の操作による純化処理を適宜施すことが好ましい。
【0049】
本発明の縮退系大環状化合物の製造方法の好適な実施形態の一例として、ニッケル触媒と、上記一般式(2)においてXがBrである2,7−ジブロモナフタレンとを混合し、山本カップリング反応により2,7−ジブロモナフタレンを重合反応せしめて[7]−シクロ−2,7−ナフチレンを得る方法を挙げて説明する。
【0050】
前記ニッケル触媒としては、公知のものを適宜用いることができ、例えば、0価のニッケルであるビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルと、1,5−シクロオクタジエンと、2,2’−ビピリジンとを等モル比で有機溶媒中に溶解することにより得られるニッケル触媒や、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルと、トリフェニルホスフィンとを等モル比で有機溶媒中に溶解することにより得られるニッケル触媒を用いることができる。このようなニッケル触媒の添加量としては、特に制限されないが、前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレン1モルに対して、2モル以上とすることがより好ましい。
【0051】
また、前記重合反応としては、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド等の有機溶媒中で反応を行うことが好ましい。また、このような有機溶媒としては、副反応を抑制するという観点から、十分に脱気してあることが好ましい。
【0052】
前記ニッケル触媒と、前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレンとの混合方法としては、特に制限されず、前述のとおりである。前記混合により得られる混合液(反応液)におけるニッケル触媒及び前記一般式(2)で表されるハロゲン化ナフタレンの総濃度は1〜15質量%であることが好ましい。
【0053】
また、前記重合反応の条件としては、遮光下、不活性ガス雰囲気中において行うことが好ましく、前記重合反応の温度としては、用いる有機溶媒等によって異なるが、20〜80℃であることが好ましい。前記重合反応の反応時間としては、特に制限されず、目的の重合度に達したときを反応時間の上限としてもよいが、1〜24時間程度であることが好ましい。
【0054】
このように本発明の縮退系大環状化合物の製造方法においては、ナフタレン同士の連結に簡便で反応条件の緩和な単結合生成を用いることができるため、容易に効率よく本発明の縮退系大環状化合物を製造することができる。
【0055】
次いで、本発明の縮退系大環状化合物の結晶の製造方法について説明する。本発明の結晶は、本発明の縮退系大環状化合物を結晶化することで得られる。前記本発明の縮退系大環状化合物は、単に自己集積することでπスタック型の充填構造を有する結晶となることができるため、前記結晶化の方法としては、特に制限されず、用いる縮退系大環状化合物及びその製造方法に応じて公知の方法を適宜採用することができる。このような結晶化の方法としては、例えば、晶析、昇華、蒸着等の方法が挙げられる。前記結晶化においては、有機半導体材料として用いる場合に微量の不純物が及ぼす影響を抑制するという観点から、前記縮退系大環状化合物をさらに精製して純度を上げて用いることが好ましく、このような純度としては、HPLC、TGA、DSCや不純物金属分析等によって測定される純度が99.99%以上であることが好ましい。前記精製方法としては、用いる縮退系大環状化合物やその製造方法に応じて公知の方法を適宜採用することができ、例えば、ゲル濾過、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、中圧カラムクロマトグラフィー等の各種クロマトグラフィー;再結晶;昇華精製;及びこれらを組み合わせた精製方法が挙げられる。
【0056】
また、前記ドーパントを含有する場合においては、さらに前記縮退系大環状化合物の結晶に前記ドーパントを添加することが好ましい。前記ドーパントの添加方法としては、特に制限されず、公知の方法を採用することができ、例えば、気相ドーピング、液相ドーピング、固相ドーピング等を挙げることができる。前記ドーパントの添加は前記本発明の縮退系大環状化合物の結晶製造時又は製造後に行ってもよいし、本発明の縮退系大環状化合物の結晶あるいは本発明の縮退系大環状化合物を用いて本発明の縮退系大環状化合物の結晶を備える有機半導体等を形成する際に同時に行ってもよい。前記有機半導体等の形成と同時に前記ドーパントの添加を行う場合には、例えば、本発明の縮退系大環状化合物とドーパントとを共蒸着する方法、本発明の縮退系大環状化合物とドーパントとが溶解した溶液を塗布又は印刷する方法等を用いることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、各実施例において、得られた化合物又は結晶の測定は、以下の方法により行った。
【0058】
(融点測定)
得られた化合物の結晶を粉末にしてガラス管に入れ、IA9100 MK3(Electrothermal Engineering社製、測定条件:20〜400℃オイル中))を用いて測定した。
【0059】
(スペクトル測定)
IR(赤外吸収スペクトル):得られた化合物を粉末にし、Nicolet iS10 FTIR(Thermo Scientific社製、測定条件:500〜4000cm−1)を用いて測定した
H−NMR:CDCl又はo−ジクロロベンゼン−dを溶媒として、400MHz又は500MHzにおいて、LA400(JEOL社製)、LA500(JEOL社製)、AVANCE 400(Bruker社製)を用いて測定した
13C−NMR:CDClを溶媒として、100MHzにおいて、LA400(JEOL社製)、LA500(JEOL社製)、AVANCE 400(Bruker社製)を用いて測定した
MS(MALDI TOF):得られた化合物をマトリックス(TCNQ)と乳鉢ですり潰して混合した後、シクロヘキサン中に分散せしめて測定用の基盤上に塗布しVoyager TMDE STR SI−3(Biosystems社製、検出方法:reflector、レーザー強度:1300、測定範囲:500〜2000(m/z))を用いて測定した。
【0060】
(元素分析)
得られた化合物1mgを精密天秤で量りとり、ヘリウムと酸素との混合ガス雰囲気下で燃焼せしめ、生成したHO、CO、NをCHN分析装置(JM−10、ヤナコ社製)及びハロゲン分析装置(HNS−15/HSU−20、ヤナコ社製)を用いて定量した。
【0061】
(X線回析)
先ず、得られた化合物の結晶をパラフィン中に分散させ、顕微鏡下で約0.1mm角の結晶をゴニオヘッドの針の上にのせた。次いで、X線解析装置(Bruker APEX II CCD diffractometer、Bruker社製、測定条件:100K、分析方法:SHELX program)を用いて、前記ゴニオヘッドを回転させながら結晶の全ての角度からX線を照射して得られた反射のパターンにより構造解析を行った。
【0062】
(実施例1:[5]−シクロ−2,7−ナフチレン)
先ず、遮光下、窒素ガス雰囲気下において、2,2’−ビピリジン(7.20g、46mmol、ヘキサンで再結晶することにより精製したもの)、1,5−シクロオクタジエン(6.15mL、46mmol)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル(II)(12.7g、46mmol)の混合物に、脱気したトルエン(94mL、活性アルミナと銅触媒のカラムを用いた溶媒精製装置により精製したもの)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(94mL、水酸化カルシウムで乾燥させ減圧蒸留により精製したもの)を加え、80℃で30分間撹拌した。次いで、温度を80℃に保ったまま、前記混合物に2,7−ジブロモナフタレン(6.29g、22mmol)のトルエン溶液(360mL)を1時間かけて滴下した。そのまま1時間撹拌した後に室温(25℃)になるまで放冷し、1M塩酸(400mL)を加えてさらに1時間撹拌して固体を析出せしめ、前記固体を濾過により回収して粗生成物Aを得た。得られた粗生成物Aにトルエン(100mL)を添加して得られた有機層を水(300mL)で洗浄し、次いで食塩水(300mL)で洗浄した。洗浄後の有機層に硫酸マグネシウムを添加して溶液を乾燥せしめ、濾過により硫酸マグネシウムを除去し、エバポレーター及び真空ポンプによる減圧によって濃縮することにより、化合物1の粗生成物Bを得た。得られた粗生成物Bをゲル濾過クマトグラフィー(溶出液:クロロホルム)を用いて精製し、クロロホルムを蒸気拡散法によってアセトニトリルと溶媒交換することにより化合物1の結晶を得た。収量は25mgであり、収率は0.9%であった。
【0063】
得られた化合物1の融点測定を行ったところ、350℃で分解反応が生じた。得られた化合物1におけるIR測定、H−NMR測定、13C−NMR測定、MS測定の結果は以下のとおりであり、得られた化合物1は[5]−シクロ−2,7−ナフチレンであった。
【0064】
IR:
3049(w)、2922(w)、1725(w)、1627(w)、1501(w)、1462(w)、1351(w)、1222(w)、1133(w)、899(m)、826(s)、760(w)、666(w)、652(w)cm−1
H−NMR(400MHz、CDCl):
δ 7.97(d、J=6.6Hz、10H)、8.00(d、J=6.6Hz、10H)、8.56(s、10H);
13C−NMR(100MHz、CDCl):
δ 124.3、127,3、132.1、134.8;
MS:
m/z calcd for C5030[M] 630 found 631。
【0065】
(実施例2:[6]−シクロ−2,7−ナフチレン)
先ず、実施例1と同様にして粗生成物Aを得た。これにクロロホルム(5L)を添加してクロロホルムに溶解しなかった固体を濾過により回収し、これに1−メチルナフタレン(5L)を添加して240℃で30分間攪拌し、1−メチルナフタレンに溶解しなかった固体を濾過により回収して室温(25℃)になるまで放冷した。次いで、得られた溶液に該溶液と同量のクロロホルムを加え、一晩(12時間)静置して固体を析出せしめ、析出した固体を濾過により回収し、化合物2の結晶を得た。収量は870mgであり、収率は31%であった。
【0066】
得られた化合物2における融点測定、IR測定、H−NMR測定、MS測定、元素分析の結果は以下のとおりであり、得られた化合物2は[6]−シクロ−2,7−ナフチレンであった。
【0067】
融点:mp>400℃;
IR:
3060(w)、3016(w)、1632(w)、1603(w)、1508(w)、1469(w)、1358(w)、1282(w)、1220(w)、1155(w)、918(w)、887(m)、834(m)、821(s)、757(w)、660(w)cm−1
H−NMR(500MHz,o−ジクロロベンゼン−d):
δ 8.15(s、24H)、8.74(s、12H);
MS:
m/z calcd for C6036[M] 756 found 757;
元素分析:
calcd for C13283Cl([6]−シクロ−2,7−ナフチレン:1−メチルナフタレン:クロロホルム=2:1:1) C、89.30:H、4.71:Cl、5.99 found C 88.25:H 4.96:Cl 4.53。
【0068】
(実施例3:[7]−シクロ−2,7−ナフチレン)
先ず、実施例1と同様にして粗生成物Aを得た。これにクロロホルム(5L)を添加し、クロロホルムに溶解しなかった固体を濾過により除去した。次いで、得られたクロロホルムの抽出液を濃縮,乾燥し,そこにo−ジクロロベンゼン(900mL)を加え、150℃で1時間加熱し固体を全て溶解させた.室温に戻して12時間静置して固体を析出せしめ、析出した固体を濾過により回収し、化合物3の結晶を得た。収量は400mgであり、収率は12%であった。
【0069】
得られた化合物3における融点測定、IR測定、H−NMR測定、MS測定、元素分析の結果は以下のとおりであり、得られた化合物3は[7]−シクロ−2,7−ナフチレンであった。
【0070】
融点:mp>400℃;
IR:
3059(w)、1630(w)、1607(w)、1506(w)、1454(w)、920(w)、896(w)、839(w)、829(s)、731(w)cm−1
H−NMR(400MHz、CDCl):
δ 7.91(d、J=6.6Hz、14H)、8.05(d、J=6.6Hz、14H)、8.43(s、14H);
MS:
m/z calcd for C7042[M] 882 found 883;
元素分析:
calcd for C538326Cl16([7]−シクロ−2,7−ナフチレン:o−ジクロロベンゼン=7:8) C,87.82:H,4.47:Cl7.71 found C 88.08:H 4.60:Cl 8.01。
【0071】
(実施例4〜8)
実施例1と同様にして得られた粗生成物AにおいてMS測定を行った。測定結果は以下のとおりであり、粗精製物Aにおいては、[8]−シクロ−2,7−ナフチレン(実施例4)、[9]−シクロ−2,7−ナフチレン(実施例5)、[10]−シクロ−2,7−ナフチレン(実施例6)、[11]−シクロ−2,7−ナフチレン(実施例7)、[12]−シクロ−2,7−ナフチレン(実施例8)が生成されていることが確認された。
【0072】
<実施例4:[8]−シクロ−2,7−ナフチレン>
MS:m/z calcd for C8048[M] 1008 found 1009
<実施例5:[9]−シクロ−2,7−ナフチレン>
MS:m/z calcd for C9054[M] 1134 found 1135
<実施例6:[10]−シクロ−2,7−ナフチレン>
MS:m/z calcd for C10060[M] 1260 found 1261
<実施例7:[11]−シクロ−2,7−ナフチレン>
MS:m/z calcd for C11066[M] 1387 found 1387
<実施例8:[12]−シクロ−2,7−ナフチレン>
MS:m/z calcd for C11066[M] 1513 found 1513。
【0073】
(実施例9〜10)
実施例1、3により得られた化合物1、3の結晶について、それぞれ結晶のX線回析を行った。解析結果は以下のとおりであり、いずれの結晶もπスタック型の充填構造であることが確認された
<実施例9:[5]−シクロ−2,7−ナフチレン>
Crystal Data (100K):MW=671.83、MF=C5233N、P21/n、Monoclinic、a=90.00°、b=113.43°、g=90.00°、Z=8、a=14.69Å、b=28.71Å、c=17.43Å、V=6742.6Å、R=9.45%、wR2=30.24%、GOF=0.925
<実施例10:[7]−シクロ−2,7−ナフチレン>
Crystal Data (100K):MW=961.14、MF=C7648、Pbca、Orthorhombic、α=90.00°、β=90.00°、γ=90.00°、Z=8、a=22.46Å,b=12.54Å、c=36.03Å、V=10143.8Å、R=6.84%、wR2=17.81%、GOF=1.029。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上説明したように、本発明によれば、πスタック型の充填構造をとることが可能な縮退系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法を提供することが可能となる。
【0075】
本発明の縮退系大環状化合物は前記πスタック型の充填構造をとることが可能であり、また、本発明の縮退系大環状化合物の結晶はこのような構造を有するため、本発明の縮退系大環状化合物及び結晶を有機半導体材料として用いた場合に、励起エネルギー移動及び電荷移動の効率が高くなること、バンド内状態密度が高くなること、酸化状態においても安定であること、及びx軸方向及びy軸方向の双方向への電荷の移動が円滑になされることが可能となる。
【0076】
また、本発明の縮退系大環状化合物の製造方法によれば、簡便な方法で効率よく前記本発明の縮退系大環状化合物を製造することができる。従って、本発明の縮退系大環状化合物、並びに、その結晶及び製造方法は、有機EL、有機太陽電池、有機トランジスタ等の新しい有機デバイスに用いる有機半導体材料に応用することができ、非常に有用である。
【符号の説明】
【0077】
a…縮退系大環状化合物間の距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

[式(1)中、nは0〜7のうちのいずれかの整数を示す。]
で表わされることを特徴とする縮退系大環状化合物。
【請求項2】
請求項1に記載の縮退系大環状化合物からなり、πスタック型の充填構造を有することを特徴とする縮退系大環状化合物の結晶。
【請求項3】
下記一般式(2):
【化2】

[式(2)中、Xはハロゲン原子を示す。]
で表わされるハロゲン化ナフタレンをカップリング反応せしめることにより、請求項1に記載の縮退系大環状化合物を得ることを特徴とする縮退系大環状化合物の製造方法。


【図1A】
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【図1B】
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【公開番号】特開2012−121861(P2012−121861A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275387(P2010−275387)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】