説明

繊維ボード及びその製造方法

【課題】目付のばらつきが小さく均質な繊維ボード、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】植物性繊維1(ケナフ繊維等)と熱可塑性樹脂繊維(ポリプロピレン繊維等)とを混合してウェブを形成し、その後、ウェブを構成する繊維同士を交絡(ニードルパンチ法等)させて繊維マットを形成し、次いで、繊維マットを加熱圧縮してなる繊維ボード100であって、植物性繊維は、原料繊維が、水分の存在下に攪拌されることにより捲縮処理されている。また、繊維ボードの製造方法は、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成するウェブ形成工程、ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成するマット形成工程、及び繊維マットを加熱圧縮して繊維ボードを成形するボード成形工程、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維ボード及びその製造方法に関する。更に詳しくは、本発明は、捲縮処理された植物性繊維、及びこの植物性繊維を結着している熱可塑性樹脂を含有し、目付のばらつきが小さく均質な繊維ボード、及びこのような繊維ボードを、通常の繊維ボードの製造工程によって容易に得ることができる繊維ボードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のドアトリム等の車両用部材に用いられる繊維ボードとして、天然繊維及び熱可塑性樹脂繊維を用いてなる製品が知られている。また、これらの製品は、通常、天然繊維と熱可塑性樹脂繊維との混合物を交絡させ、圧縮成形して製造されており、例えば、エアレイ装置により、搬送コンベア上に各々の繊維を供給し、交絡及び加熱圧縮等の工程を経て製造されている。この繊維ボードは、目付のばらつきが小さく均質である必要があるが、従来、目付がばらついていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−91975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前述の従来の状況に鑑みてなされたものであり、捲縮処理された植物性繊維、及びこの植物性繊維を結着している熱可塑性樹脂を含有し、目付のばらつきが小さく均質な繊維ボード、及びこのような繊維ボードを、通常の繊維ボードの製造工程によって容易に得ることができる繊維ボードの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下のとおりである。
1.植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成し、その後、前記ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成し、次いで、前記繊維マットを加熱圧縮してなる繊維ボードであって、
前記植物性繊維は、原料繊維が、水分の存在下に攪拌されることにより捲縮処理されていることを特徴とする繊維ボード。
2.前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である前記1.に記載の繊維ボード。
3.植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成するウェブ形成工程、前記ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成するマット形成工程、及び前記繊維マットを加熱圧縮して繊維ボードを成形するボード成形工程、を備える繊維ボードの製造方法であって、
前記植物性繊維は、原料繊維を、水分の存在下に攪拌することにより捲縮処理されていることを特徴とする繊維ボードの製造方法。
4.前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である前記3.に記載の繊維ボードの製造方法。
5.前記捲縮処理は、処理容器と、前記処理容器の内部に配された回転翼とを備える処理装置内に、前記原料繊維を投入し、前記回転翼を回転させて攪拌することによりなされる前記3.又は4.に記載の繊維ボードの製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の繊維ボードは、植物性繊維が捲縮処理されており、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維との分散性に優れたウェブが形成されるため、このウェブを用いてなる繊維マットがより均質なものとなり、この繊維マットを用いてなる繊維ボードであるため、目付のばらつきが十分に小さく均質である。
また、熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である場合は、捲縮処理された植物性繊維との均一な混合が容易となり、より均質であり、より目付のばらつきの小さい繊維ボードとすることができる。
本発明の繊維ボードの製造方法によれば、植物性繊維を捲縮処理する工程は必要であるものの、繊維ボードの製造工程は、特定の操作及び装置を要することなく、通常の繊維ボードの製造工程によって、目付のばらつきが十分に小さく均質な繊維ボードを容易に得ることができる。
また、熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である場合は、捲縮処理された植物性繊維と容易に、且つ均一に混合することができ、より均質であり、より目付のばらつきの小さい繊維ボードを製造することができる。
更に、捲縮処理が、処理容器と、処理容器の内部に配された回転翼とを備える処理装置内に、原料繊維を投入し、回転翼を回転させて攪拌することによりなされる場合は、簡易な装置、操作によって、植物性繊維をより容易に、且つ十分に捲縮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】捲縮処理された植物性繊維の模式図である。
【図2】図1の捲縮処理された植物性繊維の一部を拡大した図であり、植物性繊維がフィブリル化されている様子を説明するための模式図である。
【図3】図1の捲縮処理された植物性繊維の他部を拡大した図であり、図2のフィブリルが幹繊維に巻き付いている様子を説明するための模式図である。
【図4】板状の本発明の繊維ボードを斜め方向からみた図であり、目付のばらつきが小さく均質であることを説明するための模式図である。
【図5】処理容器と回転翼とを備え、植物性繊維の捲縮処理に用いられる処理装置の横断面の模式的な説明図である。
【図6】板状の従来の繊維ボードを斜め方向からみた図であり、目付のばらつきが大きく(目付の大きい密な部分Aと、目付の小さい粗な部分Bとを有する。)不均質であることを説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を、図1〜5を参照しながら詳しく説明する。
ここで示される事項は例示的なもの及び本発明の実施形態を例示的に説明するためのものであり、本発明の原理と概念的な特徴とを最も有効に且つ難なく理解できる説明であると思われるものを提供する目的で述べたものである。この点で、本発明の根本的な理解のために必要である程度以上に本発明の構造的な詳細を示すことを意図してはおらず、図面と合わせた説明によって本発明の幾つかの形態が実際にどのように具現化されるかを当業者に明らかにするものである。
【0009】
本発明の繊維ボード100は、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成し、その後、ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成し、次いで、繊維マットを加熱圧縮してなる繊維ボードである(図4参照)。また、植物性繊維1は、原料繊維が、水分の存在下に攪拌されることにより捲縮処理されている(図1〜3参照)。
【0010】
また、本発明の繊維ボードの製造方法は、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成するウェブ形成工程、ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成するマット形成工程、及び繊維マットを加熱圧縮して繊維ボードを成形するボード成形工程、を備える。また、用いる植物性繊維は、原料繊維を、水分の存在下に攪拌することにより捲縮処理されている(図1〜3参照)。
【0011】
[1]植物性繊維
前記「植物性繊維1」は、原料繊維を、水分の存在下に攪拌することにより捲縮処理してなる捲縮繊維である。植物性繊維1は捲縮繊維であればよく、繊維形状は特に限定されない。例えば、螺旋を描くように回転している部分、折れ曲がった部分、及び略直線状の部分等を有し、繊維全体の形状は複雑である。より具体的には、植物性繊維1は、肉眼等で巨視的に観察したときは、図1のように、螺旋を描くように回転している部分1a、折れ曲がっている部分1b、及び略直線状の部分1cを、それぞれ少なくとも1箇所備えることが多く、不定形の複雑な形状を有している。
【0012】
また、本発明のように、水分の存在下に攪拌されて捲縮処理される植物性繊維1を、電子顕微鏡等により微視的に観察した場合、図2、3のような微細構造を備えていることが分かる。即ち、植物性繊維1は、図2のように、フィブリル化され、幹繊維11の周面からフィブリル12が枝分かれした部分を有する。更に、図3のように、フィブリル12が幹繊維11の周囲に不規則に巻き付いている部分を有する(絡み付いているといってもよく、フィブリル12が幹繊維11の周面に接している部分もあり、周面から離れて浮き上がっている部分もある、幹繊維に絡み付いたフィブリル12a参照)。また、この他に、フィブリル化されず、幹繊維11がそのまま残存している部分もある。更に、植物性繊維1は、全体的にみて、略直線状の部分もあり、弧状の部分もある。このような構造であるため、特にフィブリル12が幹繊維11の周囲に不規則に巻き付くことにより、幹繊維11の複数箇所に応力が分散して加わり、これによって捲縮が生成するのではないかと推察される。
【0013】
更に、植物性繊維1の捲縮度も特に限定されないが、JIS L 1013に基づいて測定した伸縮伸長率が2〜30%となるような捲縮度であることが好ましい。このような捲縮度であれば、より目付のばらつきが小さい繊維ボード100とすることができる。また、熱可塑性樹脂繊維として捲縮繊維を用いることもでき、この場合、植物性繊維1の捲縮度と、熱可塑性樹脂繊維の捲縮度とは大差のないことが好ましく、捲縮度の差は10%以下(各々の繊維の伸縮伸長率の差を百分率で表した数値である。)であることが好ましい。このように両繊維の捲縮度に大差がなければ、植物性繊維1と熱可塑性樹脂繊維とをより均一に混合することができ、より均質な繊維ボード100とすることができる。
【0014】
[2]捲縮処理方法
捲縮処理の方法は、原料繊維を、水分の存在下に攪拌することを除いて特に限定されない。前記「水分の存在下に攪拌する」とは、水分が含有されている原料繊維、又は水分が含有されるとともに付着している原料繊維、を用いて攪拌することを意味する。更に、乾燥後、水分を含有させた原料繊維、又は乾燥後、水分を含有させるとともに付着させた原料繊維、を用いて攪拌することを意味する。更に、乾燥させた原料繊維に水分を散布する等の方法により、水分を共存させて攪拌することを意味する。
【0015】
原料繊維に含有させることができる水分量は、原料繊維の種類にもよるが、原料繊維と水分との合計量を100質量%とした場合に、20〜80質量%、特に40〜60質量%である。この水分量でも捲縮処理は可能であるが、含有される水分のみでは不十分であるときは、水分を含有させるとともに付着させることが好ましい。付着させることができる水分量も原料繊維の種類によるが、原料繊維を100質量部とした場合に、30〜120質量部、特に60〜90質量部であることが好ましい。付着した水分量が30〜120質量部であれば、十分な捲縮度の植物性繊維を効率よく得ることができる。尚、乾燥させた原料繊維に水分を散布等する場合は、原料繊維と水分との質量割合は、水分を付着させるときと同様であればよく、水分を過剰に共存させる必要はない。
【0016】
前述のように、水分の存在下に攪拌して捲縮処理するときに用いる装置は特に限定されないが、例えば、図5のような処理装置10を用いることができる。この処理装置10は、装置本体となる円筒容器31、円筒容器31の内部で回転軸32aに軸支されて回転する回転翼32を備える。また、円筒容器31の上方側部には原料繊維投入口33が設けられている。更に、円筒容器31の下方底部、通常、円筒容器31の上下方向の下方側1/3程度の範囲には処理水排出孔34が設けられている。
【0017】
原料繊維投入口33は、円筒容器31の長さ方向の略全体に亘って設けられていることが好ましい。この場合、円筒容器31の長さ方向の略全体に亘って連続して開口している断面が長方形の原料繊維投入口33であってもよく、円筒容器31の長さ方向の略全体に亘って間欠的に設けられた複数の原料繊維投入口33であってもよい。また、処理水排出孔34は、通常、円筒容器31の下方底部の全面に均等に設けられており、偏在していてもよいが、特に偏在させる必要はない。
【0018】
前述のような処理装置を用いて捲縮処理する場合、前述の原料繊維に対する水分量、及び装置の運転条件、構造等によって捲縮度を調整することができる。水分量は、前述の原料繊維に対する水分量より多くすることもでき、このように多量の水分を共存させれば、原料繊維を十分に洗浄することができるとともに、解繊させ、捲縮させることができる。この場合、水分量が過多であると、捲縮処理の効率が低いため、原料繊維を100質量部としたときに、水分量は20〜200質量部、特に30〜90質量部とすることが好ましい。一方、前述のように、水分を含有させるとともに付着させた原料繊維を用いるとき、及び乾燥させた原料繊維に水分を散布等しながら攪拌するときのように、水分量が比較的少なくても、原料繊維の解繊と捲縮とは十分に行うことができる。
【0019】
また、装置の運転条件及び構造、例えば、回転翼32の回転数、及び回転翼32の構造等によって捲縮度を調整することもできる。この場合、回転翼32の構造等、装置の構造を改変するのはコストの面で不利であり、回転翼32の回転数等、運転条件の設定変更によって捲縮度を調整することが好ましい。より具体的には、図5のような処理装置10において、処理装置10を原料繊維の洗浄で使用する場合があり、回転翼32の回転数を原料繊維の洗浄のみを目的として運転するときと比べて、1.2〜1.8倍、特に1.4〜1.6倍(例えば、洗浄のみを目的とするときに800rpmであった回転数を1200rpmにする。)にすることで、より捲縮度の高い植物性繊維1とすることができる。
【0020】
[3]植物性繊維の原料繊維
原料繊維としては、ケナフ、ジュート麻、マニラ麻、サイザル麻、雁皮、三椏、楮、バナナ、パイナップル、ココヤシ、トウモロコシ、サトウキビ、バガス、ヤシ、パピルス、葦、エスパルト、サバイグラス、麦、稲、竹、針葉樹(杉、檜等)、広葉樹及び綿花などの各種の植物が有する繊維が挙げられる。これらの植物性繊維は1種のみ用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらのうちでは、成長が極めて早い一年草であり、優れた二酸化炭素吸収性を有し、大気中の二酸化炭素量の削減、森林資源の有効利用等に貢献することができるケナフが有する繊維が好ましい。また、植物のうちの用いる部位は特に限定されず、非木質部、木質部、葉部、茎部及び根部等の植物を構成するいずれの部位であってもよい。更に、特定部位のみを用いてもよいし、2箇所以上の異なる部位を併用してもよい。
【0021】
ケナフは木質茎を有する早育性の一年草であり、アオイ科に分類される植物である。このケナフとしては、学名におけるhibiscus cannabinus及びhibiscus sabdariffa等、並びに通称名における紅麻、キューバケナフ、洋麻、タイケナフ、メスタ、ビムリ、アンバリ麻及びボンベイ麻等が挙げられる。植物性繊維としてケナフが有する繊維を用いる場合、強靱な繊維を有する靭皮と称される外層部分を用いることができる。また、植物性繊維としては、ジュート麻が有する繊維も好ましく、このジュート麻としては、黄麻(コウマ、Corchorus capsularis L.)等のシナノキ科の植物などが挙げられる。
【0022】
捲縮処理に供される原料繊維の繊維長は、通常、10mm以上である。繊維長が10mm以上であれば、より高い機械的特性(曲げ強さ及び曲げ弾性率等を意味する。以下同様である。)を有する繊維ボードとすることができる。この繊維長は、10〜150mm、特に20〜100mmであることが好ましい。繊維長は、JIS L1015における直接法と同様にして原料繊維を伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で測定した値である。また、原料繊維の繊維径は、通常、1mm以下である。繊維径が1mm以下であれば、特に高い曲げ強さを有する繊維ボードとすることができる。この繊維径は、0.01〜1mm、特に0.05〜0.7mmであることが好ましい。繊維径は、繊維長を測定した原料繊維について、繊維の長さ方向の中央部における径を光学顕微鏡を用いて測定した値である。
【0023】
更に、原料繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は100mm以下(通常、10mm以上)であることが好ましい。平均繊維長が100mm以下の原料繊維を用いることにより、この原料繊維と熱可塑性樹脂繊維とを含有する均質なウェブを容易に形成することができる。この平均繊維長は、JIS L1015に準拠する直接法により、単繊維を無作為に1本ずつ取り出し、伸張させずに真っ直ぐに延ばし、置尺上で繊維長を測定し、合計200本について測定した平均値である。また、原料繊維の平均繊維径は1000μm以下(通常、10μm以上)であることが好ましい。この平均繊維径は、無作為に単繊維を1本ずつ取り出し、繊維の長さ方向の中央部における繊維径を光学顕微鏡を用いて実測し、合計200本について測定した平均値である。
【0024】
植物性繊維には、要求性能によっては、カーボン繊維、ガラス繊維等を配合し、併用することもできる。これにより、繊維成形体の曲げ強さ等をより向上させることができる。カーボン繊維、ガラス繊維等を配合する場合、これらの無機繊維の配合量は、植物性繊維を100質量部としたときに、200質量部以下、特に100質量部以下とすることが好ましい。
【0025】
[4]熱可塑性樹脂繊維
前記「熱可塑性樹脂繊維」は特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を用いてなる繊維を使用することができる。この熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、エチレン/プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ポリエステル樹脂、ポリスチレン、AS樹脂、ABS樹脂等のポリスチレン樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、及びポリアセタール樹脂などが挙げられる。
【0026】
更に、前述の各種の熱可塑性樹脂は、植物性繊維の表面に対する親和性を高めるため、変性された樹脂であってもよい。また、熱可塑性樹脂は、紡糸することができれば2種以上を併用してもよいが、1種のみ用いられることが多い。
【0027】
熱可塑性樹脂繊維としては、ポリオレフィン樹脂繊維及びポリエステル樹脂繊維が好ましく、ポリオレフィン樹脂繊維がより好ましい。
ポリオレフィン樹脂繊維を構成するポリオレフィン樹脂は、未変性のポリオレフィン樹脂であってもよく、変性されたポリオレフィン樹脂であってもよい。未変性のポリオレフィン樹脂である場合、プロピレン単独重合体、エチレン/プロピレンランダム共重合体、エチレン/プロピレンブロック共重合体等のプロピレン系重合体が好ましい。
【0028】
前述の共重合体としては、プロピレンと、エチレン及び/又は炭素数4〜20のα−オレフィンとの共重合体が好ましく、α−オレフィンとしては、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−ペンテン−1、4−メチル−ヘキセン−1、4,4−ジメチルペンテン−1等が挙げられる。プロピレン系重合体としては、プロピレン単独重合体がより好ましい。更に、変性されたポリオレフィン樹脂である場合、例えば、カルボン酸又は酸無水物を用いて酸変性された変性ポリオレフィン樹脂等を用いることができる。
尚、未変性樹脂と変性樹脂とを併用することもできる。
【0029】
また、ポリエステル樹脂繊維を構成するポリエステル樹脂としては、生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂が好ましい。この生分解性を有する脂肪族ポリエステル樹脂としては、ヒドロキシカルボン酸系脂肪族ポリエステル樹脂(乳酸、リンゴ酸、グルコース酸、3−ヒドロキシ酪酸等のヒドロキシカルボン酸の単独重合体、及び2種以上の酸を用いた共重合体等)、カプロラクトン系脂肪族ポリエステル樹脂(ポリカプロラクトン、上記のヒドロキシカルボン酸のうちの少なくとも1種とカプロラクトンとの共重合体等)、二塩基酸ポリエステル樹脂(ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート等)などか挙げられる。
【0030】
熱可塑性樹脂繊維の繊維長は、通常、10mm以上である。繊維長が10mm以上であれば、熱可塑性樹脂繊維間が十分に交絡され、且つ植物性繊維との交絡も容易であり、より高い曲げ強さ等を有する繊維ボードとすることができる。繊維長は、10〜150mm、特に20〜100mmであることが好ましい。この繊維長は植物性繊維の場合と同様にして測定することができる。また、繊維径は、通常、1〜1500μmである。繊維径が1〜1500μmであれば、ウェブ形成時に、熱可塑性樹脂繊維が切断することなく、熱可塑性樹脂繊維と植物性繊維とが均一に混合され、含有されるウェブとすることができる。この繊維径は、5〜700μm、特に8〜500μmであることが好ましい。この繊維径も植物性繊維の場合と同様にして測定することができる。
【0031】
更に、熱可塑性樹脂繊維の平均繊維長及び平均繊維径も特に限定されないが、平均繊維長は100mm以下(通常、10mm以上)であることが好ましい。平均繊維長が100mm以下の熱可塑性樹脂繊維を用いることにより、この熱可塑性樹脂繊維と植物性繊維とを含有する均質なウェブを容易に形成することができる。平均繊維長は植物性繊維の場合と同様にして測定することができる。また、平均繊維径は100μm以下(通常、1μm以上)であることが好ましい。この平均繊維径も植物性繊維の場合と同様にして測定することができる。
【0032】
熱可塑性樹脂繊維の形状は特に限定されず、直線状、曲線状及び螺旋状等のいずれであってもよいが、繊維マット形成時に、捲縮繊維である植物性繊維と十分に交絡させるためには、熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部は捲縮繊維であることが好ましい。熱可塑性樹脂繊維のうちの捲縮繊維の割合は特に限定されず、熱可塑性樹脂繊維全体を100質量%とした場合に、30質量%以上、特に50質量%以上であることが好ましい(全量が捲縮繊維であってもよい。)。熱可塑性樹脂繊維の捲縮度も特に限定されないが、JIS L 1013に基づいて測定した伸縮伸長率が2〜30%となるような捲縮度であることが好ましく、この捲縮度は、前述のように、植物性繊維の捲縮度と大差のないことが好ましい。
【0033】
更に、熱可塑性樹脂繊維としては、通常、酸化防止剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、抗菌剤、防かび剤及び着色剤等の各種の添加剤が配合された熱可塑性樹脂を用いてなる繊維が用いられる。
【0034】
[5]製造方法
前記「ウェブ形成工程」では、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とが混合されたウェブが形成される。このウェブの形成方法は特に限定されず、所定の割合で混合された植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とからなる混合物を、例えば、乾式法の混綿装置に供することで形成することができる。この乾式法としては、エアレイ法及びカード法が挙げられる。乾式法とする理由は、植物性繊維が吸水性を有するため、湿式法とした場合、高度に乾燥するための工程を必要とするためである。更に、乾式法のうちでは、エアレイ法が特に好ましい。このエアレイ法は、解きほぐされた混合物を、空気流によって、例えば、搬送コンベア上に供給し、分散させ、堆積させて、搬送コンベア上に、ウェブを形成する方法であり、各々の繊維が均一に分散されたウェブとするのに適した形成方法である。
【0035】
ウェブ形成に用いられる植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維との割合は特に限定されない。植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維との合計を100質量%とした場合に、植物性繊維は10〜95質量%、特に20〜90質量%、更に30〜80質量%であることが好ましい。植物性繊維が10〜95質量%であれば、繊維ボードを補強するという植物性繊維の作用効果が十分に発現される。また、ウェブの目付は特に限定されないが、200〜3000g/m、特に500〜2000g/mであることが好ましい。また、ウェブの厚さも特に限定されないが、10〜700mm、特に100〜500mmであることが好ましい。
【0036】
前記「マット形成工程」では、ウェブを構成する各々の繊維同志、即ち、植物性繊維同志、熱可塑性樹脂繊維同志、及び植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維、を交絡させることにより繊維マットが形成される。交絡の方法は特に限定されないが、ニードルパンチ法が用いられることが多い。更に、ウェブには、ニードリング前に、必要に応じて加圧処理等を施してもよい。
尚、ニードリングは、ウェブの片面側のみからでもよく、両面側からでもよいが、両面側から実施することが好ましい。
【0037】
繊維マットは、2層のウェブを用いて形成することもできる。このように2層のウェブが積層されてなる積層ウェブであっても、ニードリングによって各々のウェブの境界が判別し難くなるほど、植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを十分に交絡させることができ、この繊維マットを用いて均質な繊維ボードを製造することができる。
【0038】
前記「ボード形成工程」では、繊維マットが加熱圧縮され繊維ボードが形成される。また、加熱圧縮の後、加圧冷却されて所定形状の繊維ボードが形成される。この加熱圧縮工程では、繊維マットを、熱可塑性樹脂繊維の形成に用いられた熱可塑性樹脂が溶融する温度で加熱圧縮し、その後、加圧冷却して所定厚さの成形体とすることにより繊維ボードを製造することができる。このように繊維マットを圧縮しながら加熱することにより、植物性繊維の表面への溶融樹脂の濡れを向上させ、植物性繊維間を十分に結着させることができ、所定厚さの繊維ボードとすることができる。
【0039】
更に、本発明の繊維ボードの製造方法は、ウェブ形成工程、マット形成工程及びボード形成工程の他、通常、マットを目的の寸法にカットする裁断工程、マットを目的の形状にカットするトリミング工程を備えている。また、繊維ボードを用いた製品の外観を向上させること等を目的として各種の樹脂フィルム及び各種の材質からなる表皮材を貼着する圧着工程を備えていてもよい。
【0040】
本発明の繊維ボードの用途は特に限定されず、例えば、車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、並びに家具及び建築関連分野等の広範な用途において用いることができる。更に、この繊維ボードは、特に、上記分野における内装材、外装材、構造材等として好適である。
【0041】
車両関連分野では、ドア基材、パッケージトレー、ピラーガーニッシュ、スイッチベース、クオーターパネル、アームレストの芯材、ドアトリム、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル、デッキトリム、バンパー、スポイラー、カウリング等の部材が挙げられる。また、船舶関連分野及び航空機関連分野では、パッケージトレー、アームレストの芯材、シート構造材、コンソールボックス、ダッシュボード、各種インストルメントパネル等の部材が挙げられる。更に、家具及び建築関連分野では、机、椅子、棚、箪笥等の家具の表装材及び構造材、並びにドア表装材、ドア構造材等の住宅用部材などが挙げられる。
その他、包装体、収容体(トレイ等)、保護用部材、パーティション部材等として用いることもできる。
【0042】
尚、前述の記載は単に説明を目的とするものでしかなく、本発明を限定するものと解釈されるものではない。本発明を典型的な実施態様を挙げて説明したが、本発明の記述及び図示において使用された文言は、限定的な文言ではなく、説明的および例示的なものであると理解される。ここで詳述したように、その態様において本発明の範囲又は精神から逸脱することなく、添付の特許請求の範囲内で変更が可能である。ここでは、本発明の詳述に特定の構造、材料及び実施態様を参照したが、本発明をここにおける開示事項に限定することを意図するものではなく、寧ろ、本発明は添付の特許請求の範囲内における、機能的に同等の構造、方法、使用の全てに及ぶものとする。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の繊維成形体の製造方法は、車両関連分野、船舶関連分野、航空機関連分野、家具及び建築関連分野等における内装材などの広範な技術分野において利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
100、101;繊維ボード、A;目付の大きい密な部分、B;目付の小さい粗な部分、1;植物性繊維、1a;螺旋を描くように回転している部分、1b;折れ曲がっている部分、1c;直線状の部分、11;幹繊維、12;フィブリル、12a;幹繊維に絡み付いたフィブリル、2;熱可塑性樹脂繊維が溶融し植物性繊維を結着させている熱可塑性樹脂、10;捲縮装置、31;円筒容器、32;回転翼、32a;回転軸、33;原料繊維投入口、34;処理水排出孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成し、その後、前記ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成し、次いで、前記繊維マットを加熱圧縮してなる繊維ボードであって、
前記植物性繊維は、原料繊維が、水分の存在下に攪拌されることにより捲縮処理されていることを特徴とする繊維ボード。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である請求項1に記載の繊維ボード。
【請求項3】
植物性繊維と熱可塑性樹脂繊維とを混合してウェブを形成するウェブ形成工程、
前記ウェブを構成する繊維同士を交絡させて繊維マットを形成するマット形成工程、
及び前記繊維マットを加熱圧縮して繊維ボードを成形するボード成形工程、
を備える繊維ボードの製造方法であって、
前記植物性繊維は、原料繊維を、水分の存在下に攪拌することにより捲縮処理されていることを特徴とする繊維ボードの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂繊維の少なくとも一部が捲縮繊維である請求項3に記載の繊維ボードの製造方法。
【請求項5】
前記捲縮処理は、処理容器と、前記処理容器の内部に配された回転翼とを備える処理装置内に、前記原料繊維を投入し、前記回転翼を回転させて攪拌することによりなされる請求項3又は4に記載の繊維ボードの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−36140(P2013−36140A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−173381(P2011−173381)
【出願日】平成23年8月8日(2011.8.8)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】