説明

繊維ロープ

【課題】さつま差しされたストランドがさつま差し部から抜け出るのを防止することができるようにした繊維ロープを提供することである。
【解決手段】複数のストランド3の撚り合わせから成るロープ本体2の端末部を折り返し、解きほぐされたストランド3のさつま差しによりフック20が接続されるループ4と、さつま差し部5とを形成する。さつま差しされたストランド3の端末部にスリーブ6を嵌合し、ストランド3のスリーブ6から突出する端末の加熱溶融によりスリーブ6を抜け止めする溶融結束部7を形成し、スリーブ6の端部に対する溶融結束部7の係合によってストランド3を抜け止めする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、端末部にループを有する繊維ロープに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高所で作業を行なう場合、安全帯ランヤードが用いられる。この安全帯ランヤード30は、図6に示すように、ループ付きの繊維ロープ31と、その繊維ロープ31の端末のループ32に接続されたフック33とから成り、体をあずけて使用するU字つり用ランヤードと、墜落防止だけを目的とする一本つり用ランヤードに分類される。
【0003】
ここで、繊維ロープ31は、撚り合わされた複数のストランド35から成るロープ本体34の端末部を折り返し、その折り返された端末部の複数のストランド35の撚りを解きほぐし、各ストランド35のさつま差しによりさつま差し部36を形成すると共にループ32を形成している。また、さつま差しされたストランド35の端末に焼き止めと称される溶融結束部37を形成して各ストランド35を形成する複数のヤーンの撚りが解きほぐされるのを防止している。
【0004】
上記のようなU字つり用安全帯ランヤード30では、図7に示すように、パイプ等の構造物Aにかけ回され、その両端部が作業者Mの腰部に締付けられた安全帯40に接続され、作業者Mは上記U字つり用安全帯ランヤード30に体重をあずける状態で作業を行なう場合が多い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、U字つり用安全帯ランヤード30を用いる高所作業では、繊維ロープ31の端末のさつま差し部36が構造物Aに接触する状態で作業される場合がある。このとき、作業者Mの作業姿勢が頻繁に変更されると、さつま差し部36が構築物Aとの接触部でずれ動き、そのずれ動きによりさつま差し部36のさつま差しされたストランド35に引張り力が繰り返し負荷されてさつま差し部36から抜け出す場合があった。
【0006】
ここで、複数のストランド35のうち、1本のストランド35がさつま差し部36から抜け出すと、さつま差し部36に弛みが生じ、このとき、万一作業者が落下してU字つり用安全帯ランヤード30に作業者を受け止める墜落防止時の衝撃的な引張り荷重が負荷されると、さつま差しされた残りのストランド35もさつま差し部36から抜け出して、さつま差し部36が解け、U字つり用安全帯ランヤード30は、本来の墜落防止としての機能を発揮しなくなるという問題が発生する。
【0007】
この発明の課題は、さつま差しされたストランドがさつま差し部から抜け出すのを防止することができるようにした繊維ロープを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、第1の発明においては、複数のストランドの撚り合わせから成るロープ本体の端末部を折り返し、その端末部の解きほぐされた複数のストランドのさつま差しによるさつま差し部の形成によってループを形成した繊維ロープにおいて、前記さつま差しされた各ストランドの端末部にスリーブを嵌合し、各ストランドの前記スリーブから突出する端末の加熱溶融によってスリーブの内径より大径の溶融結束部を設けた構成を採用したのである。
【0009】
ここで、スリーブとして、各ストランドのさつま差し後に切断除去される円錐部を先端に有し、その円錐部の大径端部に周溝から成るカット部が設けられたものを採用することにより、解きほぐされたストランドの端末にスリーブを嵌合することにより、上記スリーブは円錐部を先端に有するため、ストランドの撚り合わせ間にスムーズに差し込むことができ、ストランドのさつま差しを容易に行なうことができる。
【0010】
ストランドのさつま差し後は、カット部からの切断によって円錐部を除去し、ストランドのスリーブ先端から突出する部分の加熱溶融によってスリーブ抜け止め用の溶融結束部を形成する。
【0011】
上記スリーブの材質は任意であり、合成樹脂製とすると、金型成形することができるため、コストの低減を図ることができる。
【0012】
また、第2の発明においては、複数のストランドの撚り合わせから成るロープ本体の端末部を折り返し、その端末部の解きほぐされた複数のストランドのさつま差しによるさつま差し部の形成によってループを形成した繊維ロープにおいて、ロープ挿通孔を中心に有するリング状の結束具をロープ本体に嵌合し、その結束具のロープ挿通孔の周りにストランドと同数のストランド挿通孔を設け、各ストランド挿通孔に前記さつま差しされた各ストランドの端末部を挿通し、ストランド挿通孔から突出するストランドの端末の加熱溶融によってストランド挿通孔の内径より大径の溶融結束部を設けた構成を採用したのである。
【発明の効果】
【0013】
第1の発明のように、さつま差しされたストランドの端末部にスリーブを嵌合して、ストランドの端末にスリーブ抜け止め用の溶融結束部を設けたことにより、さつま差し部が構造物に接触する状態で、そのさつま差し部に引張り荷重が繰り返し負荷されると、スリーブがさつま差し部のストランドと係合して抜け止めされ、その抜け止め状態のスリーブに対する溶融結束部の係合によってストランドの端末部は抜け止めされることになる。このため、ストランドがさつま差し部から抜け出るという不都合の発生はなく、複数のストランドを撚り合わせ状態に確実に保持し、墜落防止としての機能を常に確保し、安全性に優れた繊維ロープを得ることができる。
【0014】
第2の発明のように、ロープ本体に嵌合した結束具のストランド挿通孔にストランドを挿通し、そのストランドの端末の加熱溶融によってストランド挿通孔の内径より大径の溶融結束部を設けたことにより、第1の発明と同様に、さつま差し部が折れ曲がる状態でさつま差しされたストランドに引張り荷重が繰り返し負荷されると、端末の溶融結束部が結束具のストランド挿通孔の開口縁に係合することになる。このため、さつま差しされたストランドがさつま差し部から抜け出すことはなく、複数のストランドは撚り合わせた状態に確実に保持され、安全性に優れた繊維ロープを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態を図1乃至図5に基づいて説明する。図1および図2は、安全帯ランヤードを示す。この安全帯ランヤードは、この発明に係る繊維ロープ1と、その繊維ロープ1の端末に接続されたフック20とから成る。
【0016】
繊維ロープ1は、複数のストランド3の撚り合わせから成るロープ本体2を有し、そのロープ本体2の端末部は折り返され、その端末部の解きほぐされた複数のストランド3のさつま差しによってフック20の接続用のループ4と、さつま差し部5とが設けられている。
【0017】
さつま差し部5を形成する複数のストランド3の端末部には合成樹脂から成るスリーブ6が嵌合され、各ストランド3の上記スリーブ6の先端から外部に臨む端末は、加熱溶融によって溶融結束部7が設けられている。
【0018】
溶融結束部7は、ストランド3を形成する複数のヤーンを結束してヤーンが解きほぐされるのを防止している。また、溶融結束部7はスリーブ6の内径より大径とされてスリーブ6を抜け止めしている。
【0019】
実施の形態で示す安全帯ランヤードは上記の構造から成り、その安全帯ランヤードは、図7に示す場合と同様に、構造物Aにかけ回されるU字吊り状態での使用によって作業者の安全性を確保する。
【0020】
上記のような使用状態において、さつま差し部5が構造物Aにかかる折れ曲がりの状態でさつま差し部5がずれ動くと、さつま差しされたストランド3に引張り荷重が負荷されることになる。このとき、ストランド3の端末に嵌合したスリーブ6がさつま差し部5のストランド3に当接して抜け止めされ、その抜け止めされたスリーブ6の開口端に溶融結束部7が係合し、その係合によってストランド3は抜け止めされる。
【0021】
このように、ストランド3の端末部にスリーブ6を嵌合し、ストランド3の端末に溶融結束部7を形成してスリーブ6を抜け止めすることによって、そのストランド3がさつま差し部5から抜け出すのを防止することができ、さつま差し部5に弛みが生じることがないので、墜落防止としての機能を常に確保し、安全性に優れた安全帯ランヤードを得ることができる。
【0022】
図3(I)は、スリーブ6の他の例を示す。このスリーブ6は、ストランド3の端末部に嵌合される円筒部6aと、その円筒部6aの先端に設けられた円錐部6bとを有し、その円錐部6bと円筒部6aの連設部位に周溝から成るカット部6cを設けている。
【0023】
上記の構成から成るスリーブ6を解きほぐされた複数のストランド3のそれぞれの端末部に嵌合することにより、ストランド3の撚り合わせ間にスリーブ6をスムーズに挿入することができるため、ストランド3のさつま差しを容易に行なうことができる。
【0024】
なお、ストランド3のさつま差しによるさつま差し部5の形成後は、カット部6cでの切断によって円錐部6bを除去し、円筒部6aから突出するストランド3の端末を加熱溶融して円筒部6aを抜け止めする溶融結束部7を形成する。
【0025】
図4および図5は、繊維ロープ1の他の例を示す。この例では、ロープ本体2にロープ挿通孔11を中心に有する樹脂製の結束具10を嵌合し、その結束具10のロープ挿通孔11の周りにストランド3と同数のストランド挿通孔12を等間隔に設け、各ストランド挿通孔12にさつま差しされたストランド3の端末部を挿通し、各ストランド挿通孔12から突出するストランド3の端末を加熱溶融してストランド挿通孔12の内径より大径の溶融結束部7を設けている。
【0026】
上記の構成から成る繊維ロープ1においては、さつま差しされたストランド3に引張り力が繰り返し負荷されると、ストランド挿通孔12の開口に溶融結束部7が係合し、その係合によってストランド3は抜け止めされる。このため、さつま差し部5に弛みが生じることはなく、墜落防止としての機能を常に確保し、安全性に優れた繊維ロープを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明に係る繊維ロープを採用した安全帯ランヤードの正面図
【図2】繊維ロープの端末部を示す断面図
【図3】(I)はスリーブの他の例を示す正面図、(II)はスリーブの円錐部を切断して抜け止めした状態を示す断面図
【図4】繊維ロープの他の例を示す一部切欠正面図
【図5】図4のV−V線に沿った拡大断面図
【図6】従来の安全帯ランヤードを示す正面図
【図7】安全帯ランヤードの使用状態を示す斜視図
【符号の説明】
【0028】
2 ロープ本体
3 ストランド
4 ループ
5 さつま差し部
6 スリーブ
6b 円錐部
6c カット部
7 溶融結束部
10 結束具
11 ロープ挿通孔
12 ストランド挿通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のストランドの撚り合わせから成るロープ本体の端末部を折り返し、その端末部の解きほぐされた複数のストランドのさつま差しによるさつま差し部の形成によってループを形成した繊維ロープにおいて、前記さつま差しされた各ストランドの端末部にスリーブを嵌合し、各ストランドの前記スリーブから突出する端末の加熱溶融によってスリーブの内径より大径の溶融結束部を設けたことを特徴とする繊維ロープ。
【請求項2】
前記スリーブが、各ストランドのさつま差し後に切断除去される円錐部を先端に有し、その円錐部の大径端部に周溝から成るカット部が設けられた請求項1に記載の繊維ロープ。
【請求項3】
複数のストランドの撚り合わせから成るロープ本体の端末部を折り返し、その端末部の解きほぐされた複数のストランドのさつま差しによるさつま差し部の形成によってループを形成した繊維ロープにおいて、ロープ挿通孔を中心に有するリング状の結束具をロープ本体に嵌合し、その結束具のロープ挿通孔の周りにストランドと同数のストランド挿通孔を設け、各ストランド挿通孔に前記さつま差しされた各ストランドの端末部を挿通し、ストランド挿通孔から突出するストランドの端末の加熱溶融によってストランド挿通孔の内径より大径の溶融結束部を設けたことを特徴とする繊維ロープ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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