説明

繊維処理剤およびこれを用いた合成繊維の製造方法

【課題】 合成繊維の紡績の高速化が実現でき、かつ、1−WAY化にも対応できる繊維処理剤およびこれを用いた合成繊維の製造方法を提供することである。
【解決手段】 繊維処理剤は、合成繊維製造のための紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で使用される繊維処理剤であって、A成分と、B成分と、C成分とを必須成分として含み、これらの成分の合計量に対して、A成分の配合割合が60〜80重量%であり、B成分の配合割合が3〜15重量%であり、C成分の配合割合が15〜35重量%である。合成繊維の製造方法は、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、上記繊維処理剤を原料合成繊維に付与する製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維処理剤およびこれを用いた合成繊維の製造方法に関する。本発明は、さらに詳しくは、合成繊維製造のための紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で使用される繊維処理剤およびこれを用いた合成繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成繊維紡績用繊維処理剤としては、従来から、各種のアルキル燐酸エステル塩を主成分とし、ノニオン活性剤を配合したものが広く用いられている。中でも、平均炭素数16〜22のアルキル燐酸エステルカリウム塩を主成分とし、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル系活性剤またはポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル系活性剤とポリオキシアルキレンアルキルアミンとを配合した繊維処理剤が主流として用いられている。
【0003】
上記繊維処理剤は高温多湿条件下であっても粘着性が小さいため、ローラー巻付や脱落スカムの発生が少ないという特性を有している。
【0004】
近年、合成繊維製造のための仕上工程のうちでも、紡績各工程の高速化が著しい。たとえば、カード工程では、従来の紡出速度は100m/min程度であったが、近年の紡出速度は150m/min以上である。また、精紡工程では、従来のスピンドル回転数は16000rpm程度であったが、近年のスピンドル回転数は20000rpm以上である。このような事情から、紡績各工程の高速化に対応できる繊維処理剤に対する要望が高くなっている。しかしながら、上記従来の繊維処理剤は、高速化に十分に対応できておらず、制電性不足、繊維損傷(白粉)発生、糸質不良等の点で問題がある。
【0005】
上記問題のうち、制電性に関してはカチオン活性剤を少量添加することにより改良する手法がある。しかし、カチオン活性剤は一般的に粘着性が大きいので、カチオン活性剤を使用することによって繊維処理剤の特長が減殺させることになる。また、カチオン活性剤は対金属摩擦が高く、しかも、油膜強度も弱い。このために、カチオン活性剤では繊維損傷や糸質不良等の問題は解決できない。
【0006】
一方、高速紡績対応の繊維処理剤として、パラフィンワックス系成分を配合した繊維処理剤が種々提案されている(特許文献1〜3等参照)。パラフィンワックス系成分を配合することにより、対金属摩擦が低下し、油膜強化が図れるこのために、繊維損傷やドラフト性不良等の問題が解決されている。
【特許文献1】特許第3222215号公報
【特許文献2】特開2002−20971号公報
【特許文献3】特開2004−204363号公報
【0007】
しかし、パラフィンワックス系成分は繊維−繊維間の摩擦を下げる効果が大きい。このため、同成分を使用した繊維処理剤では集束性が不足し、カードおよび練条時のケンス収容長の低下や精紡時のフライ発生増加等の問題がある。
【0008】
一方、近年新設される繊維工場では、1−WAYで操業するケースが多くなってきている。1−WAYとは、紡糸・延伸・仕上各工程において同一の繊維処理剤を付与する処理方法を意味する。1−WAY工程では、各工程で同一の繊維処理剤で処理させるので繊維上の付着組成は常に同一である。したがって、当該繊維の品質のばらつきの因子を減らすことができる。また、繊維処理剤の水性液のマスターバッチを統合できるので、付帯設備を合理化することができる。
【0009】
しかしながら、現状は、1−WAY化および高速化の両方に対応できる繊維処理剤については、十分に開発されていない。たとえば、上記で説明したパラフィンワックス系成分を配合した高速紡績用繊維処理剤では、いずれも濡れ性が著しく悪く、それに追随して湿潤対金属摩擦が高く、延伸時の繊維切断・不均一延伸が起こる。したがって、この高速紡績用繊維処理剤を仕上時に繊維に付与することは可能であるが、そのまま紡糸・延伸時に繊維に付与することは適切でない。つまり、この高速紡績用繊維処理剤では1−WAY化に対応できていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、合成繊維の紡績の高速化が実現でき、かつ、1−WAY化にも対応できる繊維処理剤およびこれを用いた合成繊維の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者は鋭意検討した結果、長鎖アルキル燐酸エステルを主成分として、短鎖アルキル燐酸エステルと、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルおよびポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルから選ばれる少なくとも1種とを配合した繊維処理剤によって、上記課題が解決されることを見出し、本発明に到達した。
本発明にかかる繊維処理剤は、合成繊維製造のための紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で使用される繊維処理剤であって、炭素数16〜22のアルキル燐酸エステルカリウム塩からなるA成分と、炭素数6〜8のアルキル燐酸エステルカリウム塩からなるB成分と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルおよびポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルから選ばれる少なくとも1種のC成分とを必須成分として含み、これらの成分の合計量に対して、A成分の配合割合が60〜80重量%であり、B成分の配合割合が3〜15重量%であり、C成分の配合割合が15〜35重量%である。
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、これを構成するアルキル基の炭素数が8〜14であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12であると好ましい。
前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルにおいて、これを構成するアルケニル基の炭素数が8〜18であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12であると好ましい。
前記ポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルにおいて、これを構成するアルキル基の炭素数が6〜12であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12であると好ましい。
前記繊維処理剤が水をさらに含む水性液となっており、A成分、B成分およびC成分の合計量が繊維処理剤全体に占める配合割合が0.01〜20重量%であると好ましい。
本発明にかかる合成繊維の製造方法は、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、上記繊維処理剤を原料合成繊維に付与する方法である。
前記紡糸工程、延伸工程および仕上工程のうちで紡糸工程でのみ前記繊維処理剤が付与されると好ましい。他の繊維処理剤が前記延伸工程および仕上工程では付与されないとさらに好ましい。
合成繊維に付着したA成分、B成分およびC成分の合計量が合成繊維の0.1〜0.3重量%となるように調整されると好ましい。
合成繊維がポリエステル繊維であると好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の繊維処理剤は、合成繊維の紡績の高速化(すなわち、仕上工程の高速化)が実現でき、かつ、1−WAY化にも対応できる。また、たとえば、本発明の繊維処理剤によって処理されたポリエステル短繊維では、カード・練条・粗紡・精紡等の各仕上工程を高速化しても、精紡フライの増加などの副作用を伴うことなしに、静電気の発生、繊維損傷を抑制でき、良好なドラフト性が得られる。したがって、良好な紡績糸が得られる。
本発明の合成繊維の製造方法では、合成繊維の紡績の高速化(すなわち、仕上工程の高速化)が実現でき、また、繊維処理剤は良好な濡れ性を有するので紡糸・延伸工程で付与することができ、1−WAY化にも対応できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
〔繊維処理剤〕
本発明の繊維処理剤は、A成分、B成分およびC成分を必須成分として含む繊維処理剤である。
本発明の繊維処理剤は、合成繊維製造のための紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で使用される。したがって、本発明の繊維処理剤は、紡糸工程、延伸工程および仕上工程のいずれか1つの工程で使用されていてもよいが、紡糸工程および延伸工程、延伸工程および仕上工程、紡糸工程および仕上工程から選ばれる2つからなる工程で使用されると好ましく、紡糸工程、延伸工程および仕上工程の3つからなる工程で使用されると、1−WAY化にも対応でき、さらに好ましい。また、紡糸工程、延伸工程および仕上工程のうちで紡糸工程でのみ本発明の繊維処理剤が使用されると特に好ましく、この場合、他の繊維処理剤が延伸工程および仕上工程では使用されないと最も好ましい。各工程の内容等については後述する。
以下、本発明の繊維処理剤を構成する各成分を説明する。
【0014】
<A成分>
A成分は、炭素数16〜22のアルキル燐酸エステルカリウム塩であり、繊維に平滑性および油膜強度と若干の制電性を付与する成分である。なお、ここで、炭素数16〜22とは、アルキル燐酸エステルカリウム塩を構成するアルキル基の炭素数が16〜22であるという意味である。
A成分としては、たとえば、セチル燐酸カリウム、マルガリル燐酸カリウム、ステアリル燐酸カリウム、n−ノナデシル燐酸カリウム、アラキジル燐酸カリウム、n−ヘンエイコシル燐酸カリウム、ベヘニル燐酸カリウム等が挙げられる。なかでも、A成分がステアリル燐酸カリウムであると、高速紡績時の制電性、巻付防止性、スカム防止性および延伸工程における濡れ性のバランスが良いという点で好ましい。A成分は、これらのアルキル燐酸エステルカリウム塩のうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
【0015】
A成分としては、たとえば、下記化学式(A1)で示されるモノアルキル燐酸ジカリウム(A1成分)、下記化学式(A2)で示されるジアルキル燐酸モノカリウム(A2成分)、下記化学式(A3)で示されるモノアルキル燐酸モノ水素モノカリウム(A3成分)および下記化学式(A4)で示される縮合燐酸アルキルエステルのカリウム塩(A4成分)等を挙げることができる。下記化学式(A4)で示されるA4成分は、その1例で燐酸が縮合した2量体となった構造に基づくものであるが、さらに縮合した3量体、4量体、5量体、・・・・等となった構造に基づくものでもよい。A成分は、これらの成分のうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。無論、A成分は、これらの成分の4種から構成されていてもよい。A成分は、通常、これらの成分の混合物を意味する。
【0016】
【化1】

【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
(但し、上記化学式(A1)〜(A4)において、Rは炭素数16〜22のアルキル基である。)
としては炭素数16〜22のアルキル基であれば、特に限定はないが、たとえば、
セチル基、マルガリル基、ステアリル基、n−ノナデシル基、アラキジル基、n−ヘンエイコシル基、ベヘニル基等のアルキル基を挙げることができる。これらのうちでも、炭素数16〜22のアルキル基としては、セチル基、マルガリル基、ステアリル基が好ましく、ステアリル基が特に好ましい。
【0021】
は直鎖のアルキル基が好ましく、分岐したアルキル基では直鎖のアルキル基と比較して若干粘着性が高くなり、ローラー巻付やスカム発生が若干多くなることがある。
の炭素数は、16〜22であり、好ましくは16〜18、特に好ましくは18である。Rの炭素数が16未満であると、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなるほか、油膜強度が弱くなり高速紡績時の繊維損傷が発生しやすくなることがある。一方、Rの炭素数が22超であると、濡れ性および制電性が悪くなることがある。
【0022】
A成分はカリウム塩であるが、塩の形態がナトリウム塩やリチウム塩の場合は、制電性が悪くなり、アミン塩では油膜強度が弱くなり高速紡績時の繊維損傷が発生しやすくなることがある。
A成分の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、炭素数16〜22のアルコールを無水燐酸と反応させて酸性アルキル燐酸エステルとし、さらに水酸化カリウムで中和して製造できる。
【0023】
炭素数16〜22のアルコールとしては、炭素数16〜22の鎖式飽和第1級アルコールが好ましく、たとえば、セチルアルコール、マルガリルアルコール、ステアリルアルコール、n−ノナデシルアルコール、アラキジルアルコール、n−ヘンエイコシルアルコール、ベヘニルアルコール等を挙げることができる。これらのアルコールを1種または2種以上使用してもよい。
上記製造方法でA成分を製造した場合、得られるA1成分〜A4成分のモル比率は、おおむね(A1成分)>(A2成分)>(A4成分)>(A3成分)を満たすが、A1成分およびA2成分の比率は同等または逆転する場合もある。
【0024】
本発明の繊維処理剤中のA成分の配合割合は、A成分、B成分およびC成分の合計量に対して、60〜80重量%であり、好ましくは65〜75重量%、さらに好ましくは65〜70重量%である。A成分の配合割合が60重量%未満であると、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなるほか、油膜強度が弱くなり高速紡績時の繊維損傷が発生しやすくなることがある。一方、A成分の配合割合が80重量%超であると、集束性が悪くなるほか、濡れ性が悪くなることがある。
【0025】
<B成分>
B成分は、炭素数6〜8のアルキル燐酸エステルカリウム塩であり、繊維に制電性と若干の集束性および油膜強度を付与する成分である。なお、ここで、炭素数6〜8とは、アルキル燐酸エステルカリウム塩を構成するアルキル基の炭素数が6〜8であるという意味である。
B成分としては、たとえば、n−ヘキシル燐酸カリウム、n−ヘプチル燐酸カリウム、n−オクチル燐酸カリウム等が挙げられる。なかでも、B成分がn−ヘキシル燐酸カリウムであると、高速紡績時の制電性、巻付防止性およびスカム防止性のバランスが良いという点で好ましい。B成分は、これらのアルキル燐酸エステルカリウム塩のうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
【0026】
B成分としては、たとえば、下記化学式(B1)で示されるモノアルキル燐酸ジカリウム(B1成分)、下記化学式(B2)で示されるジアルキル燐酸モノカリウム(B2成分)、下記化学式(B3)で示されるモノアルキル燐酸モノ水素モノカリウム(B3成分)および下記化学式(B4)で示される縮合燐酸アルキルエステルのカリウム塩(B4成分)等を挙げることができる。下記化学式(B4)で示されるB4成分は、その1例で燐酸が縮合した2量体となった構造に基づくものであるが、さらに縮合した3量体、4量体、5量体、・・・・等となった構造に基づくものでもよい。B成分は、これらの成分のうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。無論、B成分は、これらの成分の4種から構成されていてもよい。B成分は、通常、これらの成分の混合物を意味する。
【0027】
【化5】

【0028】
【化6】

【0029】
【化7】

【0030】
【化8】

【0031】
(但し、上記化学式(B1)〜(B4)において、Rは炭素数6〜8のアルキル基である。)
としては炭素数6〜8のアルキル基であれば、特に限定はないが、たとえば、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等のアルキル基を挙げることができる。これらのうちでも、n−ヘキシル基が特に好ましい。
【0032】
は直鎖のアルキル基が好ましく、分岐したアルキル基では直鎖のアルキル基と比較して若干粘着性が高くなり、ローラー巻付やスカム発生が若干多くなることがある。
の炭素数は、6〜8であり、特に好ましくは6である。Rの炭素数が6未満であると、界面活性が乏しくなるので繊維から脱落しやすくスカムの原因となることがある。一方、Rの炭素数が8超であると、制電性が悪くなり、また、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。
【0033】
B成分はカリウム塩であるが、塩の形態がナトリウム塩やリチウム塩の場合は、制電性が悪くなり、アミン塩では油膜強度が弱くなり高速紡績時の繊維損傷が発生しやすくなることがある。
B成分の製造方法については、特に限定はないが、たとえば、炭素数6〜8のアルコールを無水燐酸と反応させて酸性アルキル燐酸エステルとし、さらに水酸化カリウムで中和して製造できる。
【0034】
炭素数6〜8のアルコールとしては、炭素数6〜8の鎖式飽和第1級アルコールが好ましく、たとえば、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、n−オクチルアルコール等を挙げることができる。これらのアルコールを1種または2種以上使用してもよい。
上記製造方法でB成分を製造した場合、得られるB1成分〜B4成分のモル比率は、おおむね(B1成分)>(B2成分)>(B4成分)>(B3成分)を満たすが、B1成分およびB2成分の比率は同等又は逆転する場合もある。
【0035】
本発明の繊維処理剤中のB成分の配合割合は、A成分、B成分およびC成分の合計量に対して、3〜15重量%であり、好ましくは3〜10重量%、さらに好ましくは5〜8重量%である。B成分の配合割合が3重量%未満であると、制電性が不足することがある。一方、B成分の配合割合が15重量%超であると、高温多湿時の吸湿性が強くなるので粘着性が大きくなり、ローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。
【0036】
<C成分>
C成分は、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルおよびポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルから選ばれる少なくとも1種であり、繊維に集束性を付与し、また繊維処理剤の繊維への濡れ性を付与する成分である。C成分は、1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
ポリオキシアルキレンアルキルエーテルとしては、たとえば、これを構成するアルキル基の炭素数が8〜14であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である化合物(以下、C1成分ということがある。)を挙げることができる。C1成分は下記化学式(C1)で表現することができる。
【0037】
【化9】

【0038】
(但し、化学式(C1)において、Rは炭素数8〜14のアルキル基、AOはオキシアルキレン基、n1は平均3〜12である。)
化学式(C1)において、Rは炭素数8〜14のアルキル基であれば、特に限定はない。Rの炭素数が8未満であると、濡れ性が低くなることがある。一方、Rの炭素数が14超であると、常温で固体状となるため集束性が悪くなることがある。Rはどちらかというと直鎖が好ましいが、若干の分岐構造を有しても差し支えない。
【0039】
としては、たとえば、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、ラウリル基、n−トリデシル基、ミリスチル基、2−エチルヘキシル基、iso−ウンデシル基、iso−トリデシル基、2−ドデシル基、3−ドデシル基、2−トリデシル基、3−トリデシル基等を挙げることができる。
化学式(C1)において、AOはオキシアルキレン基であり、たとえば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等を挙げることができる。なかでも、オキシアルキレン基としては、制電性および濡れ性の点で、オキシエチレン基が好ましい。
【0040】
オキシアルキレン基がオキシエチレン基を含む場合、オキシアルキレン基全体に占めるオキシエチレン基の割合は、好ましくは75モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
オキシアルキレン基が2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、それぞれ種類の異なるオキシアルキレン基の結合形式については、特に限定はなく、ブロック状、ランダム状、交互状のいずれの結合形式であってもよい。
【0041】
化学式(C1)において、n1はオキシアルキレン基の数を示し、平均3〜12である。n1が平均3未満の場合は、濡れ性が低くなることがある。一方、n1が平均12超の場合は、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。n1の平均値は、一般には平均付加モル数ということもある。オキシアルキレン基の数の平均(平均付加モル数)は、C1成分1モル当たりに含まれるオキシアルキレン基の総モル数を意味する。
C1成分としては、たとえば、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンミリスチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンミリスチルエーテル等が挙げられる。C1成分は、これらのうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
【0042】
C1成分は、たとえば、n−オクチルアルコール、ラウリルアルコール等の鎖式飽和アルコールに、触媒存在下で、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加反応させて製造される。
【0043】
次に、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルとしては、たとえば、これを構成するアルケニル基の炭素数が8〜18であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である化合物(以下、C2成分ということがある。)を挙げることができる。C2成分は下記化学式(C2)で表現することができる。
【0044】
【化10】

(但し、化学式(C2)において、Rは炭素数8〜18のアルケニル基、AOはオキシアルキレン基、n2は平均3〜12である。)
化学式(C2)において、Rは炭素数8〜18のアルケニル基であれば、特に限定はなく、2重結合部分の結合形態は、シスおよびトランスのいずれでもよい。Rの炭素数が8未満であると、濡れ性が低くなることがある。一方、Rの炭素数が18超であると、常温で固体状となるため集束性が悪くなることがある。Rはどちらかというと直鎖が好ましいが、若干の分岐構造を有しても差し支えない。
【0045】
としては、たとえば、3−ドデセニル基、オレイル基、エライジル基等を挙げることができる。
化学式(C2)において、AOはオキシアルキレン基であり、たとえば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等を挙げることができる。なかでも、オキシアルキレン基としては、制電性および濡れ性の点で、オキシエチレン基が好ましい。
【0046】
オキシアルキレン基がオキシエチレン基を含む場合、オキシアルキレン基全体に占めるオキシエチレン基の割合は、好ましくは75モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
オキシアルキレン基が2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、それぞれ種類の異なるオキシアルキレン基の結合形式については、特に限定はなく、ブロック状、ランダム状、交互状のいずれの結合形式であってもよい。
【0047】
化学式(C2)において、n2はオキシアルキレン基の数を示し、平均3〜12である。n2が平均3未満の場合は、濡れ性が低くなることがある。一方、n2が平均12超の場合は、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。n2の平均値は、一般には平均付加モル数ということもある。オキシアルキレン基の数の平均(平均付加モル数)は、C2成分1モル当たりに含まれるオキシアルキレン基の総モル数を意味する。
C2成分としては、たとえば、ポリオキシエチレン3−ドデセニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンエライジルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン3−ドデセニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエライジルエーテル等が挙げられる。C2成分は、これらのうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
C2成分は、たとえば、3−ドデセン1−オール、オレイルアルコール、エライジルアルコール等の鎖式不飽和アルコールに、触媒存在下で、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加反応させて製造される。
【0048】
次に、ポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルとしては、たとえば、これを構成するアルキル基の炭素数が6〜12であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である化合物(以下、C3成分ということがある。)を挙げることができる。C3成分は下記化学式(C3)で表現することができる。
【0049】
【化11】

【0050】
(但し、化学式(C3)において、Rは炭素数6〜12のアルキル基、AOはオキシアルキレン基、n3は平均3〜12である。)
化学式(C3)において、Rは炭素数6〜12のアルキル基であれば、特に限定はない。Rの炭素数が6未満であると、濡れ性が低くなることがある。一方、Rの炭素数が12超であると、常温で固体状となるため集束性が悪くなることがある。Rはどちらかというと直鎖が好ましいが、若干の分岐構造を有しても差し支えない。
【0051】
としては、たとえば、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、ラウリル基、2−エチルヘキシル基、iso−ノニル基、iso−デシル基、iso−ウンデシル基、2−オクチル基、3−オクチル基、2−ノニル基、3−ノニル基、2−2−ドデシル基、3−ドデシル基等を挙げることができる。
化学式(C3)において、AOはオキシアルキレン基であり、たとえば、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等を挙げることができる。なかでも、オキシアルキレン基としては、制電性および濡れ性の点で、オキシエチレン基が好ましい。
オキシアルキレン基がオキシエチレン基を含む場合、オキシアルキレン基全体に占めるオキシエチレン基の割合は、好ましくは75モル%以上、特に好ましくは100モル%である。
【0052】
オキシアルキレン基が2種以上のオキシアルキレン基から構成される場合、それぞれ種類の異なるオキシアルキレン基の結合形式については、特に限定はなく、ブロック状、ランダム状、交互状のいずれの結合形式であってもよい。
化学式(C3)において、n3はオキシアルキレン基の数を示し、平均3〜12である。n3が平均3未満の場合は、濡れ性が低くなることがある。一方、n3が平均12超の場合は、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。n3の平均値は、一般には平均付加モル数ということもある。オキシアルキレン基の数の平均(平均付加モル数)は、C3成分1モル当たりに含まれるオキシアルキレン基の総モル数を意味する。
【0053】
化学式(C3)において、Cに置換するRおよびO(酸素原子)の位置関係(配向性)はオルト、メタ、パラいずれでもよい。
C3成分としては、たとえば、ポリオキシエチレンヘキシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンデシルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等が挙げられる。C3成分は、これらのうちの1種から構成されていてもよく、または、2種以上から構成されていてもよい。
【0054】
C3成分は、たとえば、オクチルフェノール、ノニルフェノール等の鎖式飽和アルキル基を有するフェノールに、触媒存在下で、エチレンオキシド等のアルキレンオキシドを付加反応させて製造される。
【0055】
本発明の繊維処理剤中のC成分の配合割合は、A成分、B成分およびC成分の合計量に対して、15〜35重量%であり、好ましくは20〜30重量%、さらに好ましくは22〜30重量%である。C成分の配合割合が15重量%未満であると、濡れ性が低くなり、また繊維の集束性が不足することがある。一方、C成分の配合割合が35重量%超であると、粘着性が大きくなりローラー巻付やスカム発生が多くなる他、油膜強度が弱くなり高速紡績時の繊維損傷が発生しやすくなることがある。
【0056】
<その他成分>
本発明の繊維処理剤は、上記で説明したA成分、B成分およびC成分以外の成分(その他成分)を含有していてもよい。
その他成分としては、本発明の効果を損なわない範囲で、たとえば、水;他の界面活性剤;消泡剤;防腐剤;脂肪酸アルキルエステル、パラフィンワックス、ジメチルシリコーン成分等の平滑剤等を挙げることができる。特に、合成繊維製造のための仕上工程で使用される場合、本発明の繊維処理剤が平滑剤をさらに含むことがある。
本発明の繊維処理剤が水をさらに含む水性液(エマルション)になっていると、外観安定性および流動性という点で好ましい。
【0057】
本発明の繊維処理剤が水性液の場合、A成分、B成分およびC成分の合計量が繊維処理剤全体に占める配合割合については、特に限定はないが、好ましくは0.01〜20重量%、さらに好ましくは0.02〜10重量%である。A成分、B成分およびC成分の合計量が繊維処理剤全体に占める配合割合が、0.01重量%未満であると、所望の性能が得られない場合があり、繊維処理剤の給油工程において高めの含液率(給油される繊維処理剤重量の繊維重量に対する比率)が必要となるため、液垂れが多くなることがある。一方、20重量%超であると、繊維処理剤の安定性が悪くなり、沈殿が発生したり、溶液が増粘したりすることがある。
【0058】
<繊維処理剤の製造方法>
本発明の繊維処理剤は、A成分と、B成分と、C成分と、必要に応じてその他成分とを混合することによって製造でき、それぞれの成分の混合順序については特に限定はない。A成分およびB成分は、上記に示すとおり、通常中和して製造されるので、本発明の繊維処理剤は、好ましくは、A成分を含む水性液と、B成分を含む水性液と、C成分と、必要に応じてその他成分とを混合することによって製造される。
本発明の繊維処理剤は、さらに好ましくは、A成分を含む水性液(たとえば、A成分の濃度35〜40重量%)と、B成分を含む水性液とC成分とを予め混合して得られる混合液(たとえば、B成分およびC成分の合計の濃度70〜90重量%)と、必要に応じてその他成分とを混合することによって製造される。
【0059】
本発明の繊維処理剤を製造するための原料を取扱、保管、運搬等する場合、A成分は、これ以外の成分(具体的には、B成分、C成分および必要に応じて使用するその他の使用成分から選ばれる少なくとも1種)と共存させない方が好ましい。A成分にこれ以外の成分を共存させた場合、得られる本発明の繊維処理剤の製品安定性が悪くなり、経時により分離や凝集などの外観不良を起こすことがある。なお、B成分およびC成分を共存させても、得られる本発明の繊維処理剤の製品安定性は良好であり問題はない。もちろん、B成分およびC成分を混合せずに、別々に分けておいてもよい。
【0060】
〔合成繊維の製造方法〕
本発明の合成繊維の製造方法は、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、上記で説明した繊維処理剤を原料合成繊維に付与する製造方法である。紡糸工程、延伸工程および仕上工程のうちで紡糸工程でのみ本発明の繊維処理剤が付与されると好ましく、他の繊維処理剤が延伸工程および仕上工程では付与されないとさらに好ましい。
(原料)合成繊維については、特に限定はなく、たとえば、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等を挙げることができる。なかでも、合成繊維がポリエステル繊維であると、繊維の耐久性や他の繊維との混紡のしやすさの点で好ましい。また、合成繊維は紡績工程に供される場合には短繊維が好ましい。なお、短繊維とは、延伸後に所定の長さに切断されたステープルファイバーを意味し、長繊維とは、延伸後、連続繊維の形態で巻き取って製品となるフィラメントを意味する。
【0061】
紡糸工程、延伸工程および仕上工程における処理速度については特に限定はない。紡糸工程および延伸工程において合成繊維が特に短繊維で生産能力を上げる場合には、高速化ではなく設備の大型化で対処する場合がほとんどである。
以下では、合成繊維がポリエステル繊維である場合において、紡糸工程、延伸工程および仕上工程について、詳しく説明する。
【0062】
<紡糸工程>
紡糸工程では、ポリエステル原料が溶融紡糸され、次いで、得られた原料ポリエステル繊維のサブトウに対して集束性・平滑性を付与し、ガイド等の磨耗防止のために、繊維処理剤(以下、紡糸工程で付与される繊維処理剤を紡糸用繊維処理剤ということがある。)が原料ポリエステル繊維に付与される。紡糸用繊維処理剤は、通常、A成分、B成分およびC成分の合計量が占める割合が0.05〜1.0重量%である水性液(エマルション)となっており、紡糸後のトウに浸漬法またはローラータッチ法で給油される。通常、紡糸用繊維処理剤を付与されたトウは、一旦ケンスに収容されることが多いが、繊維生産設備によってはケンスに収容することなく直ぐに延伸工程に供されることもある。従って、紡糸工程において延伸用繊維処理剤をも併せて付与することも多い。
本発明の合成繊維の製造方法では、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、本発明の繊維処理剤を原料合成繊維に付与すればよい。したがって、本発明の繊維処理剤を延伸工程および/または仕上工程で付与する場合は、紡糸用繊維処理剤が本発明の繊維処理剤でなくてもよいが、紡糸用繊維処理剤が本発明の繊維処理剤であると好ましい。また、ポリエステル繊維の生産設備によっては、ポリエステル繊維に必要な本発明の繊維処理剤全量を紡糸工程で付与することもでき、この場合には給油設備の合理化という点で魅力的である。また、給油設備の合理化という点では、他の繊維処理剤が延伸工程および仕上工程では付与されないのが好ましいことは言うまでもない。
【0063】
<延伸工程>
延伸工程では、紡糸工程で得られる紡糸用繊維処理剤を付与したトウに対して、十分な延伸性を得るために繊維処理剤(以下、延伸工程で付与される繊維処理剤を延伸用繊維処理剤ということがある。)が付与される。延伸用繊維処理剤では、均質な付着性が要求される。すなわち、延伸用繊維処理剤では、良好な濡れ性と、湿潤時の対金属摩擦が低いこととが要求される。延伸用繊維処理剤の濡れ性が悪いと不均一に付着して摩擦特性が不均一になるため延伸斑が起こり、最悪の場合には繊維処理剤の付着していない部分が発生して繊維切断やガイド磨耗が発生する。また、湿潤時の対金属摩擦が高い場合にも延伸時の抵抗が大きくなり延伸斑の原因となる。
延伸用繊維処理剤は、通常、A成分、B成分およびC成分の合計量が占める割合が0.05〜1.0重量%である水性液(エマルション)となっており、延伸前のトウに浸漬法またはローラータッチ法で給油される。通常、延伸用繊維処理剤は、前述の紡糸用繊維処理剤と同一のものが使用されることが多く、繊維生産設備によっては延伸工程での繊維処理剤付与は省略されることもある。
【0064】
本発明の合成繊維の製造方法では、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、本発明の繊維処理剤を原料合成繊維に付与すればよい。したがって、本発明の繊維処理剤を紡糸工程および/または仕上工程で付与する場合は、延伸用繊維処理剤が本発明の繊維処理剤でなくてもよいが、延伸用繊維処理剤が本発明の繊維処理剤であると好ましい。
紡糸用繊維処理剤および/または延伸用繊維処理剤として、本発明の繊維処理剤を用いない場合、紡糸工程および延伸工程で付与される繊維処理剤の合計量は、繊維重量に対して0.05重量%以下が好ましく、0.03%以下がさらに好ましい。上記繊維処理剤の合計量が0.05重量%超では、本発明の繊維処理剤によって発揮される効果が損なわれることがある。
【0065】
なお、上記で述べた「繊維処理剤の合計量」とは、繊維に付与された繊維処理剤の乾燥重量を繊維重量で割った値をさす。また、「乾燥重量」とは試料を赤外線ランプ照射下110℃で乾燥し、150秒間の揮発分の変動幅が、0.15%以下になった時(恒量時)の重量を意味する。
延伸工程の評価は、実際に延伸工程を行い評価するのが好ましいことは言うまでのないが、簡易には、上記濡れ性および湿潤時の対金属摩擦を評価して代替することもできる。
【0066】
<仕上工程>
仕上工程では、カードおよび練条工程の静電気防止(制電性)、カードおよび練条工程における集束性、練条、粗紡および精紡工程の巻付防止(平滑性・低粘着性)、カードおよび精紡工程での繊維損傷防止(油膜強度)のために、(その他特殊用途において吸水性(再湿潤性)などを付与することもある)繊維処理剤(以下、仕上工程で付与される繊維処理剤を仕上用繊維処理剤ということがある。)が付与される。高速紡績用仕上用繊維処理剤では通常の紡績用仕上用繊維処理剤よりも高度な制電性、平滑性、油膜強度が要求される。本発明の繊維処理剤は前記特性を兼ね備えている。
仕上用繊維処理剤は、通常、A成分、B成分およびC成分の合計量が占める割合が0.2〜3.0重量%である水性液(エマルション)となっており、その付与方法は巻縮工程前または巻縮工程後にトウに浸漬法またはローラータッチ法で給油してもよく、または、切断工程後にスプレー法によって給油してもよい。
【0067】
本発明の合成繊維の製造方法では、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、本発明の繊維処理剤を原料合成繊維に付与すればよい。したがって、本発明の繊維処理剤を紡糸工程および/または延伸工程で付与する場合は、仕上用繊維処理剤が本発明の繊維処理剤でなくてもよい場合もあるが、仕上用繊維処理剤はなるべく本発明の繊維処理剤であることが好ましい。また、紡糸用繊維処理剤や延伸用繊維処理剤とは異なり、仕上用繊維処理剤は、脂肪酸アルキルエステル、パラフィンワックス、ジメチルシリコーン成分等の平滑剤が本発明の効果を損なわない範囲で含まれていても良い。
本発明の仕上用繊維処理剤は、高速紡績用に最適である。なお、本発明において高速紡績とはカード工程では紡出速度が150m/min以上、精紡工程ではスピンドル回転数は20000rpm以上であることを意味する。
【0068】
<繊維処理剤の付与>
本発明の製造方法において、合成繊維に付着したA成分、B成分およびC成分の合計量は、合成繊維の種類等によっても異なるが、0.1〜0.3重量%、好ましくは0.12〜0.18重量%、さらに好ましくは0.12〜0.15重量%となるように調整される。合成繊維に付着したA成分、B成分およびC成分の合計量が、0.1重量%未満であると、制電性が不足するほか、繊維損傷が多くなることがある。一方、合計量が、0.3重量%超であると、ローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。
先染綿(一旦短繊維として製造された綿を先に染色処理し、その後に仕上用繊維処理剤を付与して製造される綿)の場合は、紡糸用繊維処理剤や延伸用繊維処理剤は染色工程にて脱落するので、A成分、B成分およびC成分の合計量について、0.2〜0.3重量%となるように調整されていると好ましい。0.2重量%未満では制電性が不足するほか、繊維損傷が多くなることがある。0.3重量%超であると、ローラー巻付やスカム発生が多くなることがある。
なお、上記で述べた「合成繊維に付着したA成分、B成分およびC成分の合計量」とは、「付着量」ということもあり、繊維に付与されたA成分、B成分およびC成分の合計乾燥重量を繊維重量で割った値をさす。また、「乾燥重量」とは試料を赤外線ランプ照射下110℃で乾燥し、150秒間の揮発分の変動幅が、0.15%以下になった時(恒量時)の重量を意味する。
【0069】
<1−WAY化>
本発明の合成繊維の製造方法では、紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも2つの工程(具体的には、紡糸工程および延伸工程、延伸工程および仕上工程、紡糸工程および仕上工程)で、本発明の繊維処理剤を付与すれば好ましく、紡糸工程、延伸工程および仕上工程全てで本発明の繊維処理剤を付与すればさらに好ましい。また、紡糸工程、延伸工程および仕上工程のうちで紡糸工程でのみ本発明の繊維処理剤が使用されると特に好ましく、この場合、他の繊維処理剤が延伸工程および仕上工程では使用されないと最も好ましい。
紡糸工程、延伸工程および仕上工程の各工程で付与される本発明の繊維処理剤は、それぞれ、成分や組成は異なっていてもよいが、成分および組成の少なくとも1方が同一であると好ましく、両方が同一であると、繊維処理剤の製造工程を簡略化できるためさらに好ましい。また、繊維生産設備によっては紡糸工程において繊維処理剤の必要量全量を給油することも可能であり、この場合には延伸工程および仕上工程での給油設備が不要となるので、設備の大幅な合理化が実現できる。
【実施例】
【0070】
以下に本発明を実施例および比較例によって説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、各実施例および比較例における評価項目と評価方法は以下の通りである。以下では、「部」および「%」は、いずれも「重量部」および「重量%」を意味する。
【0071】
(実施例1〜10および比較例1〜8)
表1および2に示す各成分を混合して、繊維処理剤(1)〜(11)および比較繊維処理剤(1)〜(7)をそれぞれ調製した。この内、実施例(11)はC成分にポリオキシエチレン(n=8、平均)ステアリルエーテルを使用した。なお、表に示す数値は、配合した各成分の重量部を示す。
このようにして調製した繊維処理剤(1)〜(11)および比較繊維処理剤(1)〜(7)について、下記評価方法にしたがって物性を評価し、結果をそれぞれ表3および4に示した。なお、表3は紡糸・延伸性に関する評価結果を示し、表4は紡績性に関する評価結果をそれぞれ示す。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
上記表1および2において、括弧内に示す数値nは、それぞれの化合物におけるオキシエチレン基の数の平均を示す(nは、それぞれの化合物におけるオキシエチレン基の平均付加モル数を示す)。
比較例1〜4ではA成分、B成分およびC成分を含有している。しかしながら、比較例1ではA成分が過多であり、比較例2ではA成分が過少であり、比較例3ではB成分が過多であり、比較例4ではB成分が過少である。比較例5の比較繊維処理剤は、B成分の代わりにn−デシル燐酸カリウムを含む。比較例6の比較繊維処理剤は従来公知の一般紡績用繊維処理剤であり、比較例7の比較繊維処理剤は従来公知の高速紡績用繊維処理剤である。
【0075】
[評価方法]
(1)エマルションの調製
実施例および比較例の繊維処理剤について、それぞれ約70℃の温水で、有効成分(A成分、B成分およびC成分の合計量)の濃度が0.5重量%になるように、希釈した。
【0076】
(2)延伸性の評価
上記(1)で得られた希釈繊維処理剤それぞれについて、紡糸・延伸工程に必要な特性(エマルションの濡れ性、湿潤対金属摩擦)を下記評価方法の(3)および(4)に従って、評価した。また、紡糸性のモデル評価を下記評価方法の(5)に、延伸性のモデル評価を下記評価方法の(6)に従って評価した。
(3)エマルションの濡れ性
有効成分(A成分、B成分およびC成分の合計量)の濃度が0.5重量%のエマルションを用意し、液温50℃に加温して、2×2cm角のポリエステル製フェルトを浮かべ、沈み込むまでの時間(単位:秒)を測定した。
【0077】
(4)湿潤対金属摩擦
脱脂したポリエステルマルチフィラメント(トータル167dtex、48本)を摩擦体(直径3cmの梨地ピン)に接触角450°になるように巻き、ここに有効成分が0.5重量%のエマルションを滴下しながら3cm/minの速度で引っ張り、そのときの摩擦力(単位:g)を測定した。その際の温度条件は20℃である。図1はその概略図を示す。
【0078】
(5)紡糸性の評価(紡糸トウのケンス収容性)
紡糸速度1000m/min、3718穴/錘を持つ錘からポリエステル繊維を溶融紡糸し、0.1%および1.0%濃度の試料エマルションを繊維重量に対して20重量%で繊維に付与して、油剤付与後のトウのケンスへの収容状態を確認した。この条件は繊維処理剤必要量全量を紡糸工程で付与することを前提とした条件である。判定基準は下記の通りである。
○:トウが問題なくケンスに収容される
×:トウがケンスに収容できない
(6)延伸性の評価
(5)で得られた未延伸トウを用い、引っ張り強伸度試験機を用いて把持長10cm、引張速度10cm/minで1分間延伸し、その間にトウの切断が発生するか否かを確認した。判定基準は下記の通りである。
○:延伸中にトウは切断しない
×:延伸中にトウが切断する
【0079】
(7)紡績評価用ポリエステル短繊維
上記(1)で得られた希釈繊維処理剤50gをそれぞれ使用して、紡糸・延伸し、巻縮付与した原料繊維(太さ1.45dtex、長さ38mmのポリエステル短繊維、繊維処理剤の付着量は0.03%)100gに対して、評価対象の繊維処理剤を付着量0.13%になるようにスプレー処理し(総付着量は0.16重量%)、80℃の温風乾燥機の中で2時間乾燥した。乾燥後に得られたポリエステル短繊維を、それぞれ、評価環境条件下で温湿度調節させた後、下記評価方法の(7)〜(13)に従って評価した。
【0080】
(8)制電性試験
上記(7)で準備したポリエステル短繊維をミニチュアオープナーで開繊した後、20℃×45%RHの条件下で温湿度調節し、ミニチュアカード機に通して、ウェブを作製した。さらにそのカードウェブをミニチュア練条機に通して練条スライバーを作製した。カード工程および通過時の発生静電気量を測定し、評価した。なお、カード工程においては高速カードの苛酷なコーミングアクションを想定した条件としてシリンダー回転数970rpm(設定可能な最高回転数)で行い、これを5回繰り返して、5回目の発生静電気量(単位:kV)を測定した。
【0081】
(9)精紡ローラー巻付試験(粘着性の判断)
上記(8)の制電性試験で作製した練条スライバーを用い、30℃×65%RHに温湿度調節して、未処理護謨ローラーを用い、糸を切断してニューマーに吸引させた状態で15分間精紡を行い、ローラーに巻付くごとにピンセットで除去してその回数を数える。
【0082】
(10)高速精紡試験
それぞれの繊維処理剤で処理したポリエステル短繊維をミニチュア紡機で開繊、カード、練条、粗紡の各工程を経て粗糸を作製し、下記条件にてリング精紡を行なった。
精紡機 :RX−240NEW−EST/E(豊田自動織機)
スピンドル回転数:20000rpm
リング径 :38mm
トータルドラフト:180倍
糸番手 :30番
温湿度 :20℃×45%RH
精紡時間 :45分
【0083】
(11)精紡時のフライ発生量(集束性の判断)
精紡の際にフロントトップローラーにクリアラーを取り付け、精紡中に発生したフライをクリアラーで回収し、その重量(単位:mg)を測定した。
【0084】
(12)精紡時の白粉発生量(油膜強度の判断)
精紡の際に当該錘のセパレーターおよびリングテーブル面に黒色ビロードを貼り付け、リング周りから発生する繊維屑をビロード上に捕集し、精紡終了後に当該ビロードを回収して目視比較した。判定基準は下記の通りである。
◎:白粉はほとんど認められない。
○:白粉がわずかに認められる。
△:白粉が多く認められる。
×:白粉が著しく多く認められる。
【0085】
(13)紡績糸の糸質
上記精紡評価で作製した紡績糸について自動糸斑試験機を用いてU%を測定した。U%とは図2に示すようにある測定長(L)を選び、その区間内の糸太さの平均値(X)、−100%、起点(A)、終点(B)で囲われる面積をFとし、区間内の糸の太さの変動(むら曲線)と(X)で囲われる面積をfとすると、U(%)=(f/F)×100で表される。この値が小さいほど糸斑が少なく、糸質が良好であると判断される。
【0086】
【表3】

【0087】
紡糸トウのケンス収容性および延伸性の欄の数値は付与した紡糸用繊維処理剤のエマルション濃度を示す。
表中で下線を示した部分は、問題ありと判定される。
【0088】
【表4】

【0089】
表中で下線を示した部分は、問題ありと判定される。
表3および表4からも明らかなように、本発明の繊維処理剤(実施例1〜10)では紡績工程を高速化しても発生静電気量が少なく、精紡時のフライや白粉の発生も少なく、糸質の良好な紡績糸が得られた。実施例1〜10では、濡れ性や湿潤対金属摩擦も一般紡績用繊維処理剤(比較例6)とほぼ同レベルであり、延伸時のトウの切断もないので、紡糸・延伸用繊維処理剤と使用しても問題ない。なお、実施例(11)では、比較例(1)および(7)ほどではないが、前述の実施例1〜10に比べると精紡時のフライが若干多い。
それに対して、本発明の繊維処理剤の成分を用いてもその成分比が不適切な場合(比較例1〜4)や、B成分を用いない場合(比較例5)では所望の紡績性は得られない。従来公知の高速紡績用繊維処理剤(比較例7)では、精紡時の白粉が少なく、糸質の良好な紡績糸が得られているが、精紡時のフライ発生が多い。さらに、濡れ性が著しく悪く、それに随伴して湿潤対金属摩擦も高く、それが原因となって延伸時にトウの切断が発生しやすい。さらに紡糸トウのケンス収容性も不良なので紡糸・延伸用繊維処理剤としては不適切であると判断される。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】湿潤対金属摩擦の測定方法を示す模式図。
【図2】U%の定義を示す模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維製造のための紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で使用される繊維処理剤であって、
炭素数16〜22のアルキル燐酸エステルカリウム塩からなるA成分と、炭素数6〜8のアルキル燐酸エステルカリウム塩からなるB成分と、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルおよびポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルから選ばれる少なくとも1種のC成分とを必須成分として含み、これらの成分の合計量に対して、A成分の配合割合が60〜80重量%であり、B成分の配合割合が3〜15重量%であり、C成分の配合割合が15〜35重量%である、繊維処理剤。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレンアルキルエーテルにおいて、これを構成するアルキル基の炭素数が8〜14であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である、請求項1に記載の繊維処理剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレンアルケニルエーテルにおいて、これを構成するアルケニル基の炭素数が8〜18であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である、請求項1または2に記載の繊維処理剤。
【請求項4】
前記ポリオキシアルキレン(アルキルフェニル)エーテルにおいて、これを構成するアルキル基の炭素数が6〜12であり、オキシアルキレン基の数が平均3〜12である、請求項1〜3のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項5】
水をさらに含む水性液となっており、A成分、B成分およびC成分の合計量が繊維処理剤全体に占める配合割合が0.01〜20重量%である、請求項1〜4のいずれかに記載の繊維処理剤。
【請求項6】
紡糸工程、延伸工程および仕上工程から選ばれる少なくとも1つの工程で、請求項1〜5のいずれかに記載の繊維処理剤を原料合成繊維に付与する、合成繊維の製造方法。
【請求項7】
前記紡糸工程、延伸工程および仕上工程のうちで紡糸工程でのみ前記繊維処理剤が付与される、請求項6に記載の合成繊維の製造方法。
【請求項8】
他の繊維処理剤が前記延伸工程および仕上工程では付与されない、請求項7に記載の合成繊維の製造方法。
【請求項9】
合成繊維に付着したA成分、B成分およびC成分の合計量が合成繊維の0.1〜0.3重量%となるように調整される、請求項6〜8のいずれかに記載の合成繊維の製造方法。
【請求項10】
合成繊維がポリエステル繊維である、請求項6〜9のいずれかに記載の合成繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−63713(P2008−63713A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−201577(P2007−201577)
【出願日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【出願人】(000188951)松本油脂製薬株式会社 (137)
【Fターム(参考)】