説明

繊維強化複合材製回転体とその製造方法

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、繊維強化複合材製の円板状の回転体、特に高速度で回転する蓄エネルギー用のフライホイールとして好適な繊維強化複合材製回転体及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】フライホイールは、超高速で円板を回転することにより回転エネルギーを蓄積するシステム(flywheel energy storage system)の回転体として使用されるものであり、この回転体のコンパクト化を図るためには、高周速に耐え得る材料を選ぶことが必要となる。その際、比強度(強度/比量)が高いことが材料選定の基準となり、そこで特に大形フライホイールの場合、高強度炭素繊維強化プラスチックなどの繊維強化複合材が注目されている。
【0003】この繊維強化複合材製の回転体としては、例えばフィラメントワインディング(filament winding)法の成形により、樹脂を含浸させた強化繊維を周方向に巻回したものが提案されている。しかし、この回転体は異方性が大きく、また繊維の配向方向である円周方向の強度は非常に大きいが、半径方向の強度は繊維と直交する方向であるので極端に小さい。
【0004】このため、回転体の成形過程で硬化時に生じる半径方向の引張の残留応力によって周方向にクラックが生じる。また残留応力が大きくない場合でも、回転時の遠心力によって生じる半径方向の応力と重畳して、比較的低い回転数で周方向に沿ってクラックが生じ、回転体が破損しやすい。
【0005】そこで半径方向の強度を向上させるため、半径方向にも繊維を配向させた回転体が提案されている。図4は例えば特開昭61−31739号公報に示された従来の回転体の構成を示す分解斜視図である。また、図5はその回転体の外形を示す斜視図である。同図において、1は円板状の回転体であり、強化繊維2が周方向に配向され、マトリックス材3と複合した繊維強化複合材からなる周方向強化層4と、強化繊維2が半径方向に配向され、マトリックス材3と複合した繊維強化複合材からなる半径方向強化層5とが交互に積層されて一体化されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】従来の回転体は以上のように構成されているので、半径方向強化層の強化繊維の密度は内径側から外径側に移るにつれて減少していき、例えば半径方向強化層の外径が内径の10倍あるとすると、外径側と内径側の繊維密度は10倍異なることになる。
【0007】このため、回転体の特に半径方向強化層の半径方向の強度が外径側に移行するにつれて小さくなるという問題点があり、また内径側では繊維密度が大きくなるので、軸方向に分厚くなるという問題点があり、高性能の回転体が得られないという問題点があった。
【0008】この発明は、上記のような問題点を解消するためになされたもので、周方向のみならず半径方向の強化繊維の密度が均一で、周方向及び半径方向の強度が均一となり、高性能の繊維強化複合材製回転体及びこの回転体を容易に得ることが可能な繊維強化複合材製回転体の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】この発明に係る繊維強化複合材製回転体及びその製造方法は、次のように構成したものである。
【0010】(1)半径方向及び周方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材製回転体において、一方向に強化繊維を配向させた扇形のセグメントを複数枚放射状に並べて形成した半径方向強化層と、周方向に強化繊維を配向させて形成した周方向強化層とを設け、これらの半径方向強化層と周方向強化層を交互に積層して一体化した。
【0011】(2)繊維強化複合材製回転体の製造方法において、一方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材の板材から切り出した扇形のセグメントを複数枚放射状に並べて円板状の半径方向強化層を形成する工程と、フィラメントワインディング法により周方向に強化繊維を巻回した繊維強化複合材から円板状の周方向強化層を形成する工程と、前記半径方向強化層と周方向強化層を交互に積層させて接着剤により接合して一体化する工程とを具備した。
【0012】(3)繊維強化複合材製回転体の製造方法において、一方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材の板材から扇形のセグメントを複数枚切り出し、これらを放射状に並べて接着剤により接合して一体となった円板状の半径方向強化層を得る工程と、この工程により得られた半径方向強化層を複数枚並べ、その間にフィラメントワインディング法により強化繊維を巻回して周方向強化層を形成することにより半径方向強化層と周方向強化層とが交互に積層された回転体を得る工程とを具備した。
【0013】
【作用】この発明の繊維強化複合材製回転体においては、前記(1)の構成により、周方向の強度が均一であるばかりでなく、半径方向の強度も均一となり、均一な強度分布が得られる。
【0014】また、この発明の繊維強化複合材製回転体の製造方法においては、前記(2)または(3)の工程により、容易に強度分布の均一な回転体が得られる。
【0015】
【実施例】以下、この発明の実施例を図面ついて説明する。
【0016】実施例1図1は実施例1による繊維強化複合材製回転体の構成を示す分解斜視図であり、図4と同一符号は同一構成部分を示している。図において、1は半径方向及び周方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材製の回転体で、周方向に強化繊維2を配向させマトリックス材3と複合して形成した繊維強化複合材からなる周方向強化層4a,4b……と、一方向(ここでは半径方向)に強化繊維2を配向させマトリックス材3と複合して形成した半径方向強化層5a,5b,5c……とを交互に積層して一体化した構成となっている。ここで、半径方向強化層5a,5b,5c……は、従来のものと異なり、扇形のセグメント6を複数枚放射状に並べて形成されている。
【0017】図2は上記セグメント6の平面図を示したものである。このセグメント6は、上述のように扇形になっており、その中心線Aと平行に等間隔で強化繊維2を配向した繊維強化複合材から形成されている。そして、このセグメント6を複数枚放射状に並べて接合することにより、半径方向強化層5a,5b,5c……が形成されている。
【0018】また、周方向強化層4a,4b……は、前述のフィラメントワインディング法(テープワインディング法を含む)により、強化繊維2を周方向に配向させた繊維強化複合材から形成されている。
【0019】このように構成された繊維強化複合材製の回転体1は、周方向のみならず半径方向においても強化繊維の密度が均一となる。したがって、周方向及び半径方向の強度が均一となり、強度分布が均一な高性能のフライホイールとして利用される。
【0020】なお、上記強化繊維2としては、炭素繊維,ガラス繊維,アラミド繊維などがあるが、炭素繊維を使用するのが好ましい。また、マトリックス材3としては、エポキシ樹脂などの樹脂材のほか、金属なども使用できる。
【0021】次に、上記構成の回転体1の製造方法について説明する。この回転体1の製造工程としては、半径方向に強化繊維2を配向させた繊維強化複合材の板材から切り出した扇形のセグメント6を複数枚放射状に並べて円板状の半径方向強化層5a,5b,5c……を形成する工程と、フィラメントワインディング法により周方向に強化繊維2を巻回した繊維強化複合材から円板状の周方向強化層4a,4b……を形成する工程と、前記半径方向強化層5a,5b,5c……と周方向強化層4a,4b……を交互に積層させて接着剤により接合して一体化する工程とを有していればよい。
【0022】
【0023】すなわち、まず図2に示すように、炭素繊維等の強化繊維2を平行に等密度で配向させた後、エポキシ樹脂等のマトリックス材3と複合させ、繊維強化複合材の板材7を形成する。そして、このように一方向に強化繊維2を配向させた繊維強化複合材の板材7から扇形にセグメント6を切り出し、このセグメント6を放射状に並べて円板状の半径方向強化層5a,5b,5c……を形成する。
【0024】一方、フィラメントワインディング法により、マトリックス材3を含浸させた強化繊維2を周方向に巻回した繊維強化複合材によって円板状の周方向強化層4a,4b……を形成する。次いで、上記半径方向強化層5a,5b,5c……とこの周方向強化層4a,4b……とを交互に積層し、接着剤により接合して一体化することにより繊維強化複合材製の回転体1を製造することができる。
【0025】このようにして製造された回転体1は、半径方向強化層5a,5b,5cを、一方向繊維強化複合材の板材7から切り出したセグメント6を並べて形成したため、半径方向の強化繊維2の密度は一定であり、従来のものに比較して回転体1の半径方向、特に外径側の強度を向上させることができ、さらに周方向の強化繊維2の密度も均一なので、その強度分布も均一となる。
【0026】実施例2図3は実施例2による回転体1の製造方法を示す断面図である。前述の実施例1では、複数のセグメント6からなる半径方向強化層5a,5b,5c……と周方向強化層4a,4b……とを接着剤にて接着結合させた場合について説明したが、図3に示すように、セグメント6を接着剤にて円板状に一体結合させた複数の半径方向強化層5a,5b,5c……を、回転軸8にスぺーサ9を介して取付け、その半径方向強化層5a,5b,5c……間の空間10にフィラメントワインディング成形により、マトリックス材3を含浸した強化繊維2を巻回して硬化させることにより、周方向強化層4a,4b……を形成し、一体化させることができる。
【0027】この方法によれば、周方向強化層4a,4b……の形成と同時に全体を一体化することができ、回転体1の製造が容易になる。また、このようにして製造された回転体1の強度分布は、周方向強度が均一であるばかりでなく、半径方向強度も均一となる。
【0028】なお、上記の実施例では、各半径方向強化層5a,5b,5c……のセグメント6が同じ位置に重なるように積層した例を示したが、各層の位相を変えて、セグメント6の位置がずれるように積層することもでき、この場合半径方向の強度は大きくなる。
【0029】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、一方向に強化繊維を配向させた扇形のセグメントを並べて形成した半径方向強化層と、周方向強化層とを積層して一体化したので、周方向のみでなく、半径方向の強化繊維の密度を均一にすることができ、これにより周方向及び半径方向の強度を均一にすることができ、高性能の回転体を得ることができるという効果がある。
【0030】また、この発明の製造方法によれば、一方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材の板材から切出した扇形のセグメントを並べた半径方向強化層と、周方向強化層とを接着剤により接合して一体化するようにしたので、上記のような繊維強化複合材回転体を、簡単な装置と操作により、容易に製造することができる。
【0031】また、この発明の製造方法によれば、セグメントを並べて接合した半径方向強化層間にフィラメントワインディング法により周方向強化層を形成するようにしたので、上記のほか周方向強化層の形成と、全体の一体化を同時に行うことができ、製造工程がより簡素化される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1による回転体の構成を示す分解斜視図である。
【図2】図1のセグメントの平面図である。
【図3】実施例2による回転体の製造方法を示す断面図である。
【図4】従来の回転体の構成を示す分解斜視図である。
【図5】回転体の斜視図である。
【符号の説明】
1 回転体
2 強化繊維
3 マトリックス材
4a,4b 周方向強化層
5a,5b,5c 半径方向強化層
6 セグメント
7 板材
なお、図中同一符号は同一または相当部分を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 半径方向及び周方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材製回転体において、一方向に強化繊維を配向させた扇形のセグメントを複数枚放射状に並べて形成した半径方向強化層と、周方向に強化繊維を配向させて形成した周方向強化層とを設け、これらの半径方向強化層と周方向強化層を交互に積層して一体化したことを特徴とする繊維強化複合材製回転体。
【請求項2】 一方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材の板材から切り出した扇形のセグメントを複数枚放射状に並べて円板状の半径方向強化層を形成する工程と、フィラメントワインディング法により周方向に強化繊維を巻回した繊維強化複合材から円板状の周方向強化層を形成する工程と、前記半径方向強化層と周方向強化層を交互に積層させて接着剤により接合して一体化する工程とを有していることを特徴とする繊維強化複合材製回転体の製造方法。
【請求項3】 一方向に強化繊維を配向させた繊維強化複合材の板材から扇形のセグメントを複数枚切り出し、これらを放射状に並べて接着剤により接合して一体となった円板状の半径方向強化層を得る工程と、この工程により得られた半径方向強化層を複数枚並べ、その間にフィラメントワインディング法により強化繊維を巻回して周方向強化層を形成することにより半径方向強化層と周方向強化層とが交互に積層された回転体を得る工程とを有していることを特徴とする繊維強化複合材製回転体の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3124984号(P3124984)
【登録日】平成12年10月27日(2000.10.27)
【発行日】平成13年1月15日(2001.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−4489
【出願日】平成5年1月14日(1993.1.14)
【公開番号】特開平6−210748
【公開日】平成6年8月2日(1994.8.2)
【審査請求日】平成10年4月20日(1998.4.20)
【出願人】(000180368)四国電力株式会社 (95)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【参考文献】
【文献】特開 昭54−54177(JP,A)
【文献】特開 昭53−128666(JP,A)
【文献】特開 昭61−31739(JP,A)
【文献】特開 昭56−34425(JP,A)
【文献】特開 昭52−1371(JP,A)