説明

繊維強化部材の製造方法

【課題】マトリックス樹脂が繊維強化基材の全体に十分に含浸され、定形材による厚みの増加が可及的に抑止された、高品質な繊維強化部材を製造することのできる繊維強化部材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明による繊維強化部材の製造方法は、通気性を有し、射出成形時の圧力に対して潰れ易い定形材3と、単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体4と、を成形型10のキャビティC内に載置し、マトリックス樹脂をキャビティC内に射出し、定形材3を潰すことによって繊維強化部材100を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化基材に樹脂が含浸硬化してなる繊維強化部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
航空機や船舶、自動車などの構造部材として使用される、繊維強化基材に樹脂が含浸硬化してなる繊維強化部材の製造方法においては、ドライな繊維強化基材をたとえば複数枚積層して成形型内に配設し、マトリックス樹脂を射出しながら圧縮する射出圧縮法が一般に用いられている。なお、最終成形品に対してキャビティの嵩が高く設定されている射出圧縮法に対し、最終成形品の嵩とキャビティの嵩が同程度に設定されるRTM法(レジン・トランスファー・モールディング)も一般に用いられている方法である。なお、このRTM法を適用した成形法に関する技術が特許文献1に開示されており、具体的には、成形型を構成する上型と下型双方のキャビティ面にガラスマットを配設し、その内部に発泡体を配設しておき、樹脂を注入することによって発泡体を溶解させ、発生するガスを成形型外へ放出する成形方法となっている。
【0003】
ところで、上記する射出圧縮法やRTM法においては、成形型内の繊維強化基材にマトリックス樹脂を射出し、圧縮することで繊維強化プラスチック部材(FRP)を製造するに際し、マトリックス樹脂材料に対する繊維強化基材の流動抵抗が大きいことから、強化繊維基材へのマトリックス樹脂の拡散と含浸が不十分であるという課題が生じていた。
【0004】
上記課題に対し、成形型内を減圧雰囲気として含浸を促進させる方策や、比較的高硬度のネット(フローメディアと称されるネットなど)を使用して樹脂流れを確保する方策、さらには、基材をプリフォームで固めた後に成形型内に注入する方策などが提案されている。
【0005】
しかし、実際には、減圧雰囲気としても依然として含浸が不十分であることが本発明者によって特定されている。また、高硬度のネットを使用する場合には、射出樹脂を面的に拡散させることはできても、射出圧縮後に該ネットの厚みがそのまま成形部品の厚み増となってしまうという課題がある。さらに、基材を予めプリフォームで固めてしまい、これをキャビティ内で積層した後に射出圧縮する場合には、キャビティ内から余剰樹脂やガスをキャビティ外へ抜くことが困難となってしまう。
【0006】
したがって、いずれの方策もそれぞれに固有の課題を有しており、十分な対策とは言い難いのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平5−96567号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記する問題に鑑みてなされたものであり、繊維強化基材へのマトリックス樹脂の拡散および含浸性に優れ、かつ、成形品の厚み増加を可及的に抑止することのできる繊維強化部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による繊維強化部材の製造方法は、通気性を有し、射出成形時の圧力に対して潰れ易い定形材と、単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体と、を成形型のキャビティ内に載置し、マトリックス樹脂をキャビティ内に射出し、定形材を潰すことによって繊維強化部材を製造するものである。
【0010】
本発明の製造方法は、通気性を有し、射出成形時の圧力に対して潰れ易い定形材と繊維強化基材とを積層させてキャビティ内に載置し、キャビティ内に射出されたマトリックス樹脂をこの定形材を介して面的に流通させて繊維強化基材内に効果的に含浸させ、さらには、射出成形時の圧力にて定形材を潰すことにより、最終成形品の一部となる定形材を可及的に薄層とすることのできる製造方法に関するものである。
【0011】
本発明の製造方法における「射出成形」とは、一般的な射出成形法(可動型を移動させて加圧するものではなく、完全に閉じたキャビティ内に溶融樹脂を高圧充填する方法)や、既述する射出圧縮法(キャビティ内に余空間を設けておき、溶融樹脂の充填後に可動型を移動させて加圧成形する方法)、RTM法を含む意味である。中でも、比較的大規模な繊維強化部材を成形する場合は、マトリックス樹脂の含浸性がより良好な射出圧縮法が好ましい。
【0012】
また、ここでいう「射出成形時の圧力」とは、一般的な射出成形法の場合にはキャビティ内に高圧充填された溶融樹脂から受ける圧力を意味しており、射出圧縮法の場合には、加圧成形時に受ける圧力を意味している。
【0013】
ここで、繊維強化基材とは炭素繊維やガラス繊維、ケプラー繊維やジュートなどの短繊維や長繊維が一定の配向で整列された基材、もしくはかかる長繊維が2以上の配向をもって編みこまれた基材のことである。また、繊維強化基材に含浸されるマトリックス樹脂は、液状エポキシ樹脂をはじめとする任意の樹脂材料が使用される。この繊維強化基材にマトリックス樹脂が含浸硬化された繊維強化部材として、炭素繊維強化部材(CFRP)やガラス繊維強化部材(GFRP)などを挙げることができる。
【0014】
また、定形材は、たとえばキャビティの内面に適合する面形状を有しており、通気性(マトリックス樹脂の拡散流動性)に優れ、たとえば射出成形時の圧力に対して潰れ易い任意の素材からなるものである。かかる性能を有する定形材として、軟質ウレタンフォーム(軟質ポリウレタンフォームを含む)(たとえば、エバーライト(登録商標、ブリヂストンケミテック株式会社製))や、フェルト材などを挙げることができる。なお、このフェルト材として、その硬さが25%CDL(1.6〜6.4kgf/100cm)であり、その通気度が20cc/cm・sec以上であるものが好ましい。
【0015】
本発明による繊維強化部材の製造方法によれば、通気性に優れ、射出成形時に潰れ易い素材からなる定形材を繊維強化基材の一方面に密着させることにより、射出されたマトリックス樹脂の拡散流動性が促進され、繊維強化基材全体への樹脂の含浸が十分に担保される。しかも、射出成形時の圧力によって定形材が容易に潰されることから、最終成形品の嵩(厚み)に対する定形材の厚みは極めて薄いものとなり、十分な品質を確保することにも繋がる。
【0016】
また、本発明による繊維強化部材の製造方法の好ましい実施の形態は、成形型を構成する下型のキャビティ面上に前記定形材を載置し、該定形材の上に単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体を載置し、成形型を構成する上型と下型を型閉めし、マトリックス樹脂を下型に形成された樹脂注入口からキャビティ内の前記定形材に射出するものである。
【0017】
成形型内への繊維強化基材および定形材の載置態様としては、大きく2つの形態を挙げることができる。
【0018】
その一つは、成形型を構成する下型のキャビティ面上に単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体を載置し、この繊維強化基材上に定形材を載置して上型と下型を型閉めし、射出成形する方法である。この方法では、マトリックス樹脂の面的な流動促進の観点から、上型からマトリックス樹脂をキャビティ内に供給するのが好ましい。
【0019】
他の一つは、下型のキャビティ面上に定形材を載置し、定形材上に繊維強化基材を載置した後に射出成形する方法である。この方法では、同様にマトリックス樹脂の面的な流動促進の観点から、下型からマトリックス樹脂をキャビティ内に供給するのが好ましい。
【0020】
下型のキャビティ面に定形材を直接載置する方法では、特に成形される繊維強化部材が平面のほかに湾曲面等を有する複雑な形状の場合に、まず、かかる複雑形状に適合した定形材を下型に精度よく設置することができ、結果として、より品質に優れた繊維強化部材を成形することができる。
【0021】
下型のキャビティ面に定形材を直接載置する方法は、さらに、余剰樹脂や射出成形時に発生するガスを上型を介して成形型外に放出し易いという利点も有している。
【発明の効果】
【0022】
以上の説明から理解できるように、本発明の繊維強化部材の製造方法によれば、通気性に優れ、射出成形時の圧力によって潰され易い定形材を使用することにより、マトリックス樹脂が繊維強化基材の全体に亘って拡散/含浸され、定形材による厚みの増加が可及的に抑止された、高品質な繊維強化部材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1〜図4は順に本発明の製造方法の一実施の形態を説明するフロー図である。なお、図示例は、下型のキャビティ面に定形材を載置するものであるが、下型のキャビティ面に繊維強化基材を載置し、その上に定形材を載置する方法であってもよい。また、図示例は3層積層構造の繊維強化基材から繊維強化部材を成形する場合を示しているが、単層の繊維強化基材であっても、2層もしくは4層以上の繊維強化基材の積層体から繊維強化部材が形成されてもよいことは勿論のことである。
【0024】
本発明の繊維強化部材の製造方法を図1から順を追って説明する。
【0025】
図1は、下型1のキャビティ面12に定形材3が載置された状況を説明した図である。図示する下型1のキャビティ面12は、平面や湾曲面、湾曲多段面などからなる複雑形状を呈しており、最終成形品である繊維強化部材の形状に適合したものとなっている。
【0026】
下型1と、下型1のキャビティ面12に適合するキャビティ面21を有する上型2とから成形型10が構成される。なお、上型2には、ガス抜きおよび余剰樹脂抜き用の不図示の管路が埋設されている。
【0027】
本製造方法は、下型1のキャビティ面12に定形材3を直接載置する方法であり、定形材3に直接的にマトリックス樹脂を提供する目的で、下型1にマトリックス樹脂の注入口11が複数設けられている。なお、具体的な射出成形法は、完全に閉じたキャビティ内にマトリックス樹脂を高圧充填する一般の射出成形法のほか、下型1と上型2を型閉めし、マトリックス樹脂の充填中はわずかにキャビティを拡大し、充填が完全に終了した後にたとえば上型2を可動させて加圧成形する射出圧縮法であってもよい。
【0028】
ここで、定形材3は、通気性(マトリックス樹脂の拡散流動性)に優れ、さらには、射出成形時に高圧充填されたマトリックス樹脂から受ける圧力によって容易に潰される素材から形成されており、たとえば、多孔質の軟質ポリウレタンフォームから形成される。なお、この軟質ポリウレタンフォームを使用した市販品として、エバーライト(登録商標、ブリヂストンケミテック株式会社製)を使用することができる。軟質ポリウレタンフォームからなる定形材3は、射出成形時の圧力(たとえば2〜3気圧(0.2〜0.3MPa)程度)で、初期の厚みの1割程度の厚みまで潰すことが可能である。
【0029】
また、定形材3の形状は、下型1のキャビティ面12の形状に適合する面形状に形成されており、その厚み:tは、所望量のマトリックス樹脂を拡散流動させるに必要な厚みを要し、成形される繊維強化部材の大きさに依存するものの、たとえば2mm程度に設定できる。軟質ポリウレタンフォームからなる定形材3の初期の厚み:tが2mm程度に設定される場合、射出成形後の繊維強化部材の一側面に密着する定形材3の厚みは0.2mm程度と極めて薄いものとなる。
【0030】
図1に示すように下型1のキャビティ面12上に定形材3を載置したら、次いで、図2に示すように単層の繊維強化基材43,42,41を順次積層して繊維強化基材の積層体4を形成する。この繊維強化基材41,42,43は、炭素繊維やガラス繊維などの長繊維が多数の配向をもって編みこまれた基材である。
【0031】
下型1のキャビティ面12上に定形材3を載置し、この上に繊維強化基材の積層体4を載置したら、図3に示すように、下型1と上型2を型閉めし、下型1に形成された注入口11を介してキャビティC内にマトリックス樹脂を射出する(図中のX方向)。
【0032】
ここで、マトリックス樹脂は液状エポキシ樹脂をはじめとする任意の樹脂材料が使用される。
【0033】
注入口11からキャビティC内へ射出されたマトリックス樹脂は、通気性に優れた定形材3内を面内方向に効果的に拡散流動していく(図中のY1方向)。次いで、面的に広がったマトリックス樹脂は、繊維強化基材の積層体4内をその厚み方向に含浸し(図中のY2方向)、マトリックス樹脂が積層体4の全体に亘って含浸される。
【0034】
射出される樹脂量や射出速度は不図示の制御機構によって制御されており、図4aに示すごとく、キャビティ内の圧力Pが0.2〜0.3MPa程度となるまでマトリックス樹脂の射出が実行され、この圧力Pが定形材3に作用することとなる。なお、射出圧縮によって加圧成形する際にも、可動型の移動が同程度のキャビティ内圧力となるまで制御される。
【0035】
定形材3はこの作用圧力Pにより、図4bに示すごとく、初期の厚み:tからたとえばその1割程度の厚み:t’にまで潰されて薄層となる。
【0036】
定形材3が所望の厚みまで潰されるとともに、繊維強化基材の積層体4の全体に含浸されたマトリックス樹脂Mが硬化することにより、所望形状および規模の繊維強化部材100が成形される。
【0037】
上記する本発明の製造方法によれば、通気性に優れ、射出成形時の圧力によって潰され易い定形材3を成形型内に設置するステップを従来の製造方法に組み込むだけで、成形型に多数の注入口を設けることなく、マトリックス樹脂を繊維強化基材の全体に亘って十分に含浸させることが可能となる。しかも、定形材3が射出成形時に作用する圧力によって効果的に潰されることにより、定形材による最終成形品の厚みの増加を可及的に抑止することをも可能とする。したがって、従来の製造方法に比して高品質な繊維強化部材を、製造コストを高騰させることなく製造することができる。
【0038】
以上、本発明の実施の形態を図面を用いて詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計変更等があっても、それらは本発明に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の製造方法を説明するフロー図であり、下型のキャビティ面に定形材が載置された状況を説明した断面図である。
【図2】図1に続く本発明の製造方法を説明するフロー図であり、定形材の上に繊維強化基材が載置された状況を説明した断面図である。
【図3】図2に続く本発明の製造方法を説明するフロー図であり、型閉め後にマトリックス樹脂が射出されている状況を説明した断面図である。
【図4】(a)は射出成形時の圧力が定形材に作用している状況を説明した図であり、(b)は定形材が潰されてできる繊維強化部材を示した断面図である。
【符号の説明】
【0040】
1…下型、11…注入口、12…キャビティ面、2…上型、21…キャビティ面、3…定形材、41,42,43…単層の繊維強化基材、4…繊維強化基材の積層体、10…成形型、100…繊維強化部材、C…キャビティ、M…マトリックス樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性を有し、射出成形時の圧力に対して潰れ易い定形材と、単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体と、を成形型のキャビティ内に載置し、
マトリックス樹脂をキャビティ内に射出し、定形材を潰すことによって繊維強化部材を製造する、繊維強化部材の製造方法。
【請求項2】
成形型を構成する下型のキャビティ面上に前記定形材を載置し、該定形材の上に単数の繊維強化基材もしくは複数の繊維強化基材の積層体を載置し、成形型を構成する上型と下型を型閉めし、マトリックス樹脂を下型に形成された樹脂注入口からキャビティ内の前記定形材に射出する、請求項1に記載の繊維強化部材の製造方法。
【請求項3】
前記定形材が軟質ウレタンフォームもしくはフェルト材のいずれか一方からなる、請求項1または2に記載の繊維強化部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−248511(P2009−248511A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−101526(P2008−101526)
【出願日】平成20年4月9日(2008.4.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】