説明

繊維構造体の表面処理法

【課題】ブラスト加工を利用し、繊維構造物表面に蓄光顔料や他の顔料又は染料を安定的に定着して独得な色彩表面あるいは蓄光性を有する独得な表面処理を形成する。
【解決手段】繊維構造体の表面処理において、処理領域2内に蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を混入した研磨材を圧力空気と共に導入し、該領域に圧力空気の旋回流を一端側3より他端側4に向かって生起させて、該圧力空気の旋回流中を通じて繊維構造体を挿通し、該構造体表面に前記旋回流を接触させて構造体表面を研磨すると共に、該研磨表面上に前記蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を付着させ、付着後、その表面を夫々の性質,用途にもとづいて加熱又はコーティングなどにより前記蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を繊維構造体表面に定着せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は糸,布帛など繊維構造体の表面に顔料(蓄光顔料を含む)又は染料を付与し、定着させる繊維構造体の表面処理法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維構造体に顔料,染料を付着させるには従来より浸染,プリント,吹付等、種々の手段が広く行なわれているが、近時、蓄光顔料等の使用も試みられ、蓄光顔料を原料樹脂に溶融しておいて紡糸する場合と、糊剤に蓄光顔料を配合混入し、この配合物を所定の低温度乾燥及び低温度乾燥に次ぐ所定の高温度乾燥により蓄光顔料を糸状繊維表面に付着させること(例えば特許文献1参照)などが知られている。
【特許文献1】特開2004−107828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記従来の顔料,染料の付着では新鮮味に欠け、また蓄光顔料の付着で従来の糊剤に蓄光顔料を配合混入する方法では、糊剤の混入により顔料の付着に際し色彩の変化を生じ易く、また糊剤の脱落により同時に顔料,染料が脱落して外観を低下させることがあった。
【0004】
そこで本発明は上述の如き実状に対処し、本発明者が先に開発したブラスト加工装置を使用することを見出し、ブラスト加工基材に顔料(蓄光顔料を含む)又は染料を混入しブラスト噴射を行って、それら蓄光顔料あるいは顔料,染料を傷の中に付着させて、その良好な定着をはかり、独得な繊維構造物の表面処理を達成することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、上記目的に適合する本発明の特徴は、繊維構造体の表面処理において、処理領域内に顔料又は染料を混入した研磨材を含有させた圧力空気を導入し、該領域に圧力空気の旋回流を一端側より他端側に向かって生起せしめて、、該圧力空気の旋回流中を通じて繊維構造体を挿通し、該構造体表面に前記旋回流を接触させて構造体表面を研磨すると共に、該研磨表面上に顔料又は染料を付着させ、その後、付着された顔料,染料を夫々の性質,用途にもとづいて適切な方法で前記顔料又は染料を繊維構造体表面に定着せしめることにある。
【0006】
この場合、処理領域の糸出口端側に吸引装置を接続しも処理領域内を定圧下に維持せしめると共に顔料又は染料を混入した研磨材を含む圧力空気を処理領域出口側で吸引し、回収することが望ましい。また、処理に際しては、上記研磨材含有圧力空気の圧力と糸の進行速度等を調整することが好ましく、圧力空気の流速を可及的糸速の10倍以上とすることが有利である、なお、研磨材としては、既知の研磨材の使用も可能であるが、スチール,アルミあるいはアルミナや窒化珪素,炭化珪素,ガラスなどのセラミックス粉末を用いることがより有効である。
【0007】
なお、前記顔料又は染料の定着方法としては、顔料,染料の夫々の性質,用途にもとづいて適切な方法が採用され、通常の顔料,染料では加熱などが用いられるが、蓄光顔料の如き耐熱性に劣るものはその上にコーティングを施して加熱することが好ましい。本発明表面処理法が適用される繊維構造体は、糸に限らず布帛も含まれる。
【0008】
かくして上記本発明方法により、処理領域に糸などを挿通し、顔料又は染料適宜配合、混入した研磨材を含む圧力空気を導入して糸表面あるいは周りを旋回流に接触させるときは、該旋回により糸の表面に叢生している毛羽は伏せているものも立毛されて上記圧力空気により研磨されて毛羽ががとられ、平滑化し、またフィブリルも除去され表面の地肌が改善される。
【0009】
そして研磨材と一体となって衝突した顔料又は染料を上記研磨された表面に付着させて既知の加熱等により定着し、顔料が特に蓄光顔料の場合は熱かけると老化し易く、脱落し易いことからコーティングにより被覆し、所要温度で加熱等の方法で乾燥させて定着させることにより、その処理領域は頗る短くて済み、表面処理の能率の大幅な向上とすることは勿論、据付スペース面積の大幅低減を達成する。しかも、かかる高能率処理が可能で、蓄光顔料その他の顔料あるいは染料により表面処理された良好な糸などを得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明は以上のように蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を混入した研磨材を含む圧力空気の旋回流を利用するものであり、繊維構造物の表面を研磨すると同時に研磨材に混入された蓄光顔料や他の顔料あるいは染料が研磨材によって傷つけられた傷の中に付着され、通常の顔料又は染料はそのまま加熱等により定着されるが、特に蓄光顔料の場合は爾後のコーティング,加熱等によって確実に定着され、繊維構造物の表面にランダムにつけられる蓄光顔料や他の顔料あるいは染料により印刷とは異なる不規則で再現性がない独得の繊維構造物を得ることができる。
【0011】
殊に蓄光顔料の場合には紫外線を多く含んだ光を照射した後に暗所で発光し、その発光が顔料の組成により赤,橙,青,黄緑になるものが長時間の残光を肉眼で認めることができ、頗る多彩な繊維構造体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、更に本発明方法の具体的な態様を糸処理について添付図面に示す実施装置に従って説明する。
【0013】
図1は本発明に係る方法を実施する処理装置の要部の1例を示しており、1は装置本体、2は処理領域で、該処理領域2には一端側入口3より他方側出口4に向かって略中心を貫通して表面処理が施される糸Yが挿通されるようになっており、その一端側の外周には糸Yの進行方向に対して角度をなして、かつ偏心して蓄光材又は蓄光顔料あるいは顔料又は染料が選択的に混入された研磨材を含む圧力空気を一端側より他端側に向かって処理領域2内で旋回流を生起させるよう導入する導入口5が設けられていると共に、他端側には上記導入された前記研磨材含有の圧力空気を吸引回収する吸引機構が接続されていて、処理領域2内を稍低圧に維持させると共に、上記研磨材含有圧力空気の回収を図っている。
【0014】
なお、上記装置において、圧力空気導入口5は処理領域2に対し糸進行方向と同じ方向に圧力空気の旋回流が流れるように配置することが効果的であり、通常は処理領域2に対し糸進行方向に対して可及的側方より好ましくは略90°に近い角度をなして偏心的に導入するようにする。
【0015】
ところで、本発明においては可及的旋回流と糸表面の接触をはかることが重要であるので、旋回流の流体を急激な速度とすることは余り得策と云えず、糸の進行速度と圧力空気の旋回流速度とは適宜処理領域2の長さによって異なってくる。例えば糸の進行速度が遅いときは圧力空気の流速も余り早いのは必要としないが、糸の進行速度を早くした場合には圧力空気の流速も早くしたほうが有利である。
【0016】
なお、処理領域2を形成する部材は研磨材含有の圧力空気が接触することから耐摩耗性材料であることが好ましく、例えば酸化チタン,ダイヤモンド等が好適である。また、処理領域2は前述のように出口側端部には吸気源(図示せず)に接続された吸引機構が設けられ、圧力解放区間6を形成すると共に、研磨材含有圧力空気を吸引して吸引通路7より研磨材を分離回収し、再使用に供し得るように配慮されている。
【0017】
しかして、本発明方法は上記装置を利用して、研磨材中に蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を適宜選択的に混入してこれら蓄光顔料や他の顔料あるいは染料を研磨材によるブラストと同時にブラスト傷の中に付着させることが重要である。なお付着された前記顔料又は染料はその後、その性質,用途に基づいて80〜130℃の温度で加熱して定着し、特に顔料が蓄光顔料を用いたときはその付着後、熱をかけると老化し易く蓄光性がなくなるためコーティング剤をその上からカバーリングし、比較的低温度、好ましくは100℃〜120℃の温度で加熱して確実に定着させるようにする。
【0018】
ここでブラスト基材の上記研磨材は既知の研磨材でもよいが、前述の如くスチール,アルミあるいはアルミナや窒化珪素,炭化珪素の如きセラミックス粉末が好ましく回収し再使用することが経済上、有利である。
【0019】
また、蓄光顔料は紫外線等で刺激した後、その刺激を停止した後もかなりの時間にわたり残光が肉眼で認められるものであり、本発明においては使用される蓄光材には通常、N夜光(Lumi Nova)(商標 根本特殊化学株式会社製)が用いられる。なお、蓄光顔料としては市販のものもあり、通常その使用が可能で、適宜選択して用いることができる。
【0020】
また、表面処理が施される繊維構造物は綿糸,絹糸,レーヨン,改質レーヨン,ボリノジックの外、各種合成繊維糸ならびにこれらによる編織布帛が一般的であるが、定着のためのコーティング、加熱等を考慮する必要があるときは、ブラストならびにこれら後処理に耐える強度が求められることは云うまでもなく、そのため、通常、ポリエステル等の合成繊維糸ならびにそれらの糸により編織された布帛が好ましい。勿論、布帛表面の処理においては、例えば抜き型を置き、上記研磨材に混入した顔料,染料を吹き付け、これを定着させることも可能である。しかし処理領域を通過させる本発明方法は効率上、好適である。
【0021】
かくして本発明では糸表面の処理においては挿通される糸Yの回りに旋回流を生起させて糸表面と接触させることにより行なわれるが、このとき糸速と、圧力空気の圧力、流速は夫々、相関関係を有し、圧力空気の流速は糸速に対し同じ方向の流れで、かつ早い速度であること、通常、圧力空気の流速は糸速に比し10倍以上、好ましくは10〜40倍とすることが好適である。しかし、これら糸速と圧力あるいは圧力空気流の流速は必ずしも一定ではなく、繊維構造体の種類により、また表面処理の能率面ならびに処理効果の面から適宜、変更、調整することが好ましい。
【0022】
次に本発明処理の糸速と導入圧力空気の関係について例示すると、例えば蓄光顔料や他の顔料あるいは染料と研磨材を含む7Kg圧の圧力空気を導入し、処理領域で20万回/分の回転を与えてこの旋回流中に糸を糸速度400m/分で挿通すると糸は1m当たり500回の回転による表面処理が行なわれることになり、研磨材によるブラストと、その傷中へ蓄光顔料や他の顔料あるいは染料が極めて効果的に付着させられ、蓄光顔料の場合には引き続きコーティングした後、120℃以下で加熱することによって表面処理された糸が得られる。
【0023】
以上より、本発明は特に高圧ブラストの如き機構を用いる必要をなくして蓄光顔料や他の顔料あるいは染料の定着コストを大幅に低減し、かつ装置の据付けスペースの大幅軽減と、処理能率の大幅な向上を達成し、蓄光顔料や他の顔料あるいは染料の定着による独得の繊維表面を有する繊維構造物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明を実施する装置の1例を示す概要図である。
【符号の説明】
【0025】
1:装置本体
2:処理領域
3:一端側入口
4:他方側出口
5:圧力空気導入口
6:圧力解放区間
7:吸引通路
Y:糸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体の表面処理において、処理領域内に顔料又は染料を混入した研磨材を含有させた圧力空気を導入し、該領域に圧力空気の旋回流を一端側より他端側に向かって生起せしめて、該圧力空気の旋回流中を通じて繊維構造体を挿通し、該構造体表面に前記旋回流を接触させて構造体表面を研磨すると共に、該研磨表面上に顔料又は染料を付着させ、その後、適宜方法により定着せしめることを特徴とする繊維構造体の表面処理法。
【請求項2】
処理領域の出口端側に吸引装置を接続して処理領域内を低圧下に維持させると共に、顔料又は染料を混入せしめた研磨材を含む空気流を吸引し回収する請求項1または2記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項3】
顔料又は染料を混入した研磨材を含む圧力空気の流速を繊維構造体の進行速度より早く、10倍以上とする請求項1,2または3記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項4】
研磨材がセラミックス粉末である請求項1,2,3または4記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項5】
付着した顔料又は染料の定着方法が加熱である請求項1〜4の記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項6】
顔料が蓄光顔料であり、付着した後の定着方法がコーティング材による被覆と加熱である請求項1〜4の何れか1項に記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項7】
繊維構造体が糸である請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維構造体の表面処理法。
【請求項8】
繊維構造体が布帛である請求項1〜6の何れか1項に記載の繊維構造体の表面処理法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−101279(P2008−101279A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282129(P2006−282129)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(591134317)大阪ボビン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】