説明

繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法

【課題】従来から繊維構造物に抗菌抗黴性能を付与することはさかんに取り組まれており、洗濯などによる抗菌抗黴性能の低下や風合いの低下などの問題も考慮されてはいるが、要求される性能が高度化していることもあいまって、十分に満足できる性能を提供することができなくなってきている。本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、風合い、吸湿性、吸水性などの個々の繊維構造物に求められる特性を低下させることなく、当該繊維構造物に抗菌抗黴性能を付与する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維にpH1〜6の範囲内で熱処理を施してなる銀担持アクリロニトリル系繊維を繊維構造物の構成繊維として5〜15重量%含有せしめることを特徴とする繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維構造物に抗菌抗黴性能を付与する方法および該方法を施して得られた繊維構造物を含有する繊維製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、社会の成熟化や高齢化の進展、豊かで快適な生活環境を求める傾向に伴い、健康の維持、増進に対する要望が高まり、より清潔で快適な衣料、寝装、インテリア製品或いは生活資材等の出現が望まれている。このような清潔さ、快適さを実現する手段として抗菌抗黴性能を付与することがさかんに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ジデシルジメチルアンモニウムの多官能有機酸塩の溶液を繊維に含浸させる抗菌性繊維の製造法が開示されている。ジデシルジメチルアンモニウムの多官能有機酸塩のような4級アンモニウム塩は有機系抗菌剤であり、加工性に優れ従来から多く利用されているが、繰り返し洗濯した場合には、脱落して、次第に抗菌抗黴性能が失われてしまうという問題がある。
【0004】
また、特許文献2には、ゼオライトやアパタイトなどの無機担体に銀などの抗菌性金属を担持させてなる無機抗菌剤を無機分散剤で水に分散させた抗菌加工剤に、カチオン界面活性剤などの存在下に繊維品を浸漬させる抗菌加工法が開示されている。該加工法によって加工された繊維品は、バインダーを使用した場合よりも風合いが向上するとされているが、加工前の繊維品に比べれば風合いが低下することは避けられない。また、摩擦などによって無機抗菌剤が脱落して効果が低下しやすいという問題もある。
【0005】
さらに、特許文献3には、活性炭やゼオライトに銀イオンを担持させた無機抗菌剤をポリエステルなどの合成繊維に練り込んだ抗菌性繊維を綿繊維と混紡または混織した抗菌性繊維製品の製造方法が開示されている。しかしながら、十分な抗菌効果を得るためには抗菌性繊維の混率を少なくとも2割以上とすることが求められており、相当量の抗菌性繊維を混合しなくてはならない。このため、綿繊維に由来する風合い、染色性や吸湿性などの特性が少なからず損なわれてしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平10−331069号公報
【特許文献2】特開2002−370911号公報
【特許文献3】特開平7−109672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、これまでにも繊維構造物に抗菌抗黴性能を付与することはさかんに取り組まれており、洗濯などによる抗菌抗黴性能の低下や風合いの低下などの問題も考慮されてはいるが、要求される性能が高度化していることもあいまって、十分に満足できる性能を提供することができなくなってきている。本発明は、かかる現状に基づきなされたものであり、風合い、吸湿性、吸水性などの個々の繊維構造物に求められる特性を低下させることなく、当該繊維構造物に抗菌抗黴性能を付与する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の目的を達成するために鋭意検討を進めた結果、以下に示す本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明は以下の手段により達成される。
(1)銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維にpH1〜6の範囲内で熱処理を施してなる銀担持アクリロニトリル系繊維を繊維構造物の構成繊維として5〜15重量%含有せしめることを特徴とする繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
(2)銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維がアニオン性官能基を有するものであることを特徴とする(1)に記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
(3)熱処理が、100〜160℃の湿熱または乾熱処理であることを特徴とする(1)または(2)に記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
(4)銀担持アクリロニトリル系繊維の銀含有量が1〜100mmol/kgであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
(5)繊維構造物が綿繊維を含有するものであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
(6)上記(1)〜(5)のいずれかに記載の付与方法で抗菌抗黴性能を付与せしめた繊維構造物を少なくとも一部に有する繊維製品。
(7)繊維製品が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、インソール、靴の内張り材、パジャマ、バスローブ、タオル、バスマット、カーペット、毛布、寝具、カーテン、椅子張り地の中から選択されることを特徴とする(6)に記載の繊維製品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、パジャマ、バスローブ、タオル、バスマット、カーペット、毛布、寝具、カーテン、椅子張り地などの様々な繊維構造物に、繊維構造物が本来有する特徴を損なわずに耐久性に優れた抗菌抗黴性能を付与することが可能である。すなわち、本発明に採用される銀担持アクリロニトリル系繊維は抗菌抗黴性能が優れており、加えて光照射により抗菌抗黴性能を高めることができるという、いわゆる光触媒活性をも有しているので少量の使用で十分な効果が得られる。また、銀担持アクリロニトリル系繊維中の銀含有量が少量であるので着色もほとんど起こらない。さらに、該繊維は4級アンモニウムなどの有機系抗菌剤に比べて耐久性が高いので、本発明によって得られる繊維構造物は繰り返し洗濯しても抗菌抗黴性能が低下しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明においては、抗菌抗黴性能を発現する有効成分として、銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維に、pH1〜6の範囲内で熱処理を施してなる銀担持アクリロニトリル系繊維を採用する。該繊維は、熱処理を施すことで光触媒活性が付与され、熱処理前の銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維に比較して、より高い抗菌抗黴性能を発現するものとなる。このため、繊維構造物中に多量に含有せしめなくても十分な効果が得られ、従来の抗菌性繊維では十分な効果を得ることが難しかった少量添加での抗菌抗黴性能の発現が可能である。通常の場合であれば、繊維構造物の構成繊維として5〜15重量%、好ましくは7〜10重量%含有せしめればよく、10重量%未満の含有量でも効果が得られる。このように銀担持アクリロニトリル系繊維の含有量が少量でよいため、該繊維を含有せしめたことによる繊維構造物の風合いや染色性などの特性への影響はほとんどなく、もともと繊維構造物が有していた特性を維持したまま、抗菌抗黴性能を付与することが可能である。
【0011】
本発明における繊維構造物とは、通常の方法によって製造される糸、ヤーン、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体及びこれらの組み合わせによる複合体を総称して指すものである。
【0012】
上記の銀担持アクリロニトリル系繊維の原料となる銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維は、アクリロニトリル系重合体から形成された繊維であって、銀系化合物を含有するものである限り特に制約はなく、かかるアクリロニトリル系重合体は、好ましくは60重量%以上、更に好ましくは80%重量以上のアクリロニトリルと公知のモノマーとの共重合体を用いることができる。
【0013】
共重合に用いられるモノマーとしては、重合性不飽和ビニル化合物などのアクリロニトリルと共重合するものであれば特に限定はなく、例えば酢酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、臭化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル又はビニリデン類;アクリル酸メチル、メタアクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類(以下、(メタ)アクリルの記載はアクリルとメタアクリルの両方を表現するものとする);(メタ)アクリルアミド等のアクリルアミド類;スチレン、メタアリルスルホン酸ソーダ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、p−スチレンスルホン酸ソーダ、ビニルスルホン酸ソーダ等のスルホン酸基含有単量体;(メタ)アクリル酸、マレイン酸等のカルボン酸基含有単量体等を使用することができるが、銀系化合物を効率的に含有させるため、スルホン酸基あるいはカルボン酸基含有単量体等のアニオン性官能基含有単量体を0.1〜20重量%含有することが望ましい。
【0014】
繊維に含有せしめるべき銀系化合物の量としては、特に限定はないが、最終的に得られる銀担持アクリロニトリル系繊維において銀含有量が好ましくは1〜100mmol/kg、より好ましくは1〜50mmol/kgとなるようにするのが良い。このように少量の銀含有量で十分な抗菌抗黴性能が得られるため、繊維が加熱や経時変化によって着色する問題はほとんど起こらず、コストも低く抑えられ工業的にも有利である。
【0015】
かかる銀系化合物をアクリロニトリル系繊維に含有せしめる方法としては、特に制約はなく、例えば、特開平3−199418号公報に開示されている方法、すなわちアクリロニトリル系繊維を製造するに際し、乾燥、熱緩和工程前のゲル構造繊維を銀系水溶液で連続的に処理し、繊維に銀系化合物を含有させる方法や特開昭52−92000号公報や特開平7−243169号公報に開示されている方法、すなわち通常の方法によりアクリロニトリル系繊維を製造した後、後加工により銀系化合物を含有させる方法を挙げることができる。
【0016】
本発明に採用する銀担持アクリロニトリル系繊維は、上述のようにして得られた銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維に、pH1〜6好ましくはpH2〜4の範囲内で熱処理を施すことによって得ることができる。かかる熱処理の方法としては特に限定されるものではないが、100〜160℃の湿熱又は乾熱で処理する方法が好ましく、例えば、銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維をpH1〜6の酸性水溶液に浸漬し水切りした繊維を、オートクレーブ中でスチームにより湿熱処理する方法、あるいは水切りした繊維をそのまま熱風乾燥機にて乾熱処理する方法などが挙げられる。なお処理時間は処理温度を勘案して設定される。
【0017】
ここで熱処理時のpHが1未満の場合には、繊維物性が著しく阻害され、pHが6を超える場合には、光触媒活性が付与されない。また、熱処理温度が100℃未満の場合は、処理時間が長くなり工業的に有利な方法ではなく、160℃を超える場合には銀担持アクリロニトリル系繊維の色相や強伸度等の物性を阻害するため好ましくない。
【0018】
以上のようにして得られた銀担持アクリロニトリル系繊維を繊維構造物に含有せしめる方法としては、特に限定はなく、他の繊維と混綿、混紡、混織等を行うことで含有せしめればよい。なお、他の繊維としては特に制約はなく、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維、レーヨン、キュプラなどの再生繊維、アクリル、ナイロン、ポリエステル、ビニロンなどの合成繊維などの通常使用される繊維で構わない。
【0019】
特に他の繊維が綿である場合、すなわち綿繊維を主とする繊維構造物に対して、抗菌抗黴性能を付与したい場合、本発明の抗菌抗黴性能付与方法は好適である。綿繊維は肌に柔らかく吸水性に富む性質を有することから、様々な繊維構造物に加工して利用されているが、一方でかびがつきやすいという欠点を有している。本発明の方法によれば、銀担持アクリロニトリル系繊維の含有量が少量でよいため、綿繊維の肌に柔らかく吸水性に富む性質を生かしたまま、抗菌抗黴性能を付与することが可能となる。このように綿繊維の特徴を利用したい場合、繊維構造物中の綿繊維の含有量は50〜95重量%、好ましくは85〜95重量%であることが望ましい。
【0020】
以上に述べてきた本発明の方法によって得られる繊維構造物としては、糸、ヤーン、フィラメント、織物、編物、不織布、紙状物、シート状物、積層体、綿状体及びこれらの組み合わせによる複合体などが挙げられる。これらの繊維構造物は、そのままあるいはさらに加工をすることで、タオル類、衣類、敷物類、履物類などの皮膚に直接接したり、菌やかびが付着したりする製品のに好適に使用することができる。具体的な製品としては、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、インソール、靴の内張り材、パジャマ、バスローブ、タオル、バスマット、カーペット、毛布、寝具、カーテン、椅子張り地などを挙げることができる。
【実施例】
【0021】
以下に本発明の理解を容易にするために実施例を示すが、これらはあくまで例示的なものであり、本発明の要旨はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例中、部及び百分率は特に断りのない限り重量基準で示す。また、以下の製造方法において記述する銀含有量および抗菌抗黴性能は下記の方法で測定したものである。
【0022】
(1)銀含有量
試料繊維0.1gを、95%の濃硫酸と62%の濃硝酸溶液で湿式分解した溶液を日本ジャ−レルアッシュ(株)製原子吸光分析装置AA855型を用いて原子吸光度を測定して求めた。
【0023】
(2)抗菌性
JIS L1902 定量試験(菌液吸収法)に基づいて、下記数式により殺菌活性値および静菌活性値を求めた。なお、生菌数の測定は混釈平板培養法で実施し、無加工布としては標準綿布を使用した。
殺菌活性値=logA − logC
静菌活性値=logB − logC
ここで、A=無加工布の接種直後に回収した菌数、B=無加工布の18時間培養後に回収した菌数、C=加工布の18時間培養後に回収した菌数、である。社団法人繊維評価技術協議会の繊維製品認証基準では、抗菌防臭加工は静菌活性値>2.2、制菌加工(一般用途)は殺菌活性値≧0、とされている。
(3)抗黴性
1/20サブロー液体培地で調製した菌液を試料に接種し、27±1℃のインキュベーターで18時間培養後の試料上の生菌数を測定した。
(4)洗濯方法
JIS L0217 103号の試験方法によって実施した。洗剤はJAFET標準洗剤を使用した。
【0024】
[銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維の製造例1]
常法に従って重合して得られたアクリロニトリル91.1%、アクリル酸メチルエステル8.6%、メタアリルスルホン酸ソーダ0.3%からなるアクリロニトリル系重合体を、濃度45%のロダンソーダ水溶液に溶解し、重合体濃度が12%である紡糸原液を作成した。該原液を10%、−3℃のロダンソーダ水溶液中に公知である口金を用いて押し出し、水洗、延伸、熱処理を行い、アクリロニトリル系繊維(繊維A)を作成した。次いで、銀を該繊維に導入するため、20mmol/lに調整した硝酸銀水溶液1000mlを1%の硝酸水溶液でpH3に調整した溶液中に繊維Aを100g投入して、98℃で10分間処理を行い、水洗、乾燥した後、10mmol/lに調整したシュウ酸ナトリウム水溶液1000mlに投入して、98℃で10分間処理を行い、水洗、乾燥を行い、銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維(繊維B)を作成した。
【0025】
[銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維の製造例2]
AN95%、酢酸ビニル5%からなるアクリロニトリル系重合体を用い、硝酸銀水溶液での処理時間を30分とした以外は銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維の製造例1と同様にして、銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維(繊維C)を作成した。
【0026】
上述の如くして得られた銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維(繊維B、C)を、硝酸でpHを調整した水溶液に浸漬した後、水切りして、オートクレーブ(熱処理温度が100℃を超える場合)もしくは熱風乾燥機(熱処理温度が100℃以下の場合)に入れ、表1に示したpH、温度で熱処理し、繊維No.1〜6の6種類の繊維を作成した。繊維No.7は銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維の製造例1の銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維(繊維B)そのものである。
【0027】
【表1】

【0028】
[実施例1〜5、比較例1〜2]
繊維No.1〜7について、それぞれの繊維10%とコットン90%とを紡績時混綿し、常法にしたがい綿紡績方法にて綿番手20/1の紡績糸を得た。該紡績糸をチーズ状で晒し処理を行った後、タオル織機を用いタオルを作成した。得られたタオルについて、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P、logA=4.3、logB=7.0)および大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301、logA=4.4、logB=7.5)を用いて抗菌性を評価した結果を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
実施例1〜5においてはいずれも殺菌活性値が0を大きく上回り、菌の増殖抑制効果を超えて、菌数を減少させる効果、すなわち制菌効果が得られた。一方、比較例1で使用した繊維No.6は熱処理を施しているものの、処理温度が低く、pHを7としているため、結局光触媒活性が十分に付与されずに抗菌性が低くなったものと思われる。また、比較例2で使用した繊維No.7は熱処理を施していないため、光触媒活性が付与されず、制菌加工のレベルには達しないものであった。
【0031】
[実施例6〜7、比較例3〜4]
繊維No.2とコットンを表3に示す割合で紡績時混綿した以外は実施例1と同様にして、タオルを作成した。得られたタオルについて、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P、logA=4.3、logB=7.0)を用いて抗菌性を評価した結果を表3に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
比較例3では、銀担持アクリロニトリル系繊維の含有量が少ないため、抗菌性が低くなったものと思われる。一方、比較例4では、銀担持アクリロニトリル系繊維の含有量が多いため、抗菌性が高くなっているが、実施例7と比較すると銀担持アクリロニトリル系繊維の含有量の差に対して、抗菌性の差はわずかであり、銀担持アクリロニトリル系繊維を15重量%を超えて含有させることは、効率的ではない。
【0034】
[実施例8〜10]
上述の銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維の製造例1において、硝酸銀水溶液の濃度を表4のように変更したこと以外は同様にして得た銀系化合物含有アクリロニトリル系繊維を、硝酸でpHを調整した水溶液に浸漬した後、水切りして、オートクレーブに入れ、pH3、温度120℃で熱処理し、繊維No.8〜10の3種類の繊維を作成し、銀含有量の測定した。また、これらの繊維について、実施例1と同様にして、タオルを作成し、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P、logA=4.3、logB=7.0)を用いて抗菌性を評価した。結果を表4に示す。
【0035】
【表4】

【0036】
表4からわかるように、銀含有量の増加に伴い抗菌性が向上するが、銀含有量の少ない実施例8においても実用的な抗菌性能が得られた。また、実施例10では高い抗菌性能が得られたが、使用した繊維No.10には僅かに着色がみられた。これは銀含有量が多いために加熱処理時の着色が顕在化したものではないかと考えられる。
【0037】
[実施例10]
繊維No.2を12%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維K8G0−1.7T38を88%、混綿し、常法に従って紡績して綿番手30/1の紡績糸を作製した。これを常法の木綿混紡品染色方法(アクリル繊維:カチオン染料、綿:反応染料)にて黒色に染色した。得られた糸を常法に従って編み立て、靴下を作成した。得られた靴下について洗濯前および洗濯10回後の抗菌性能を黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P、logA=4.2、logB=7.0)および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae ATCC 4352、logA=4.4、logB=7.4)を用いて評価した。表5に示すように得られた靴下は優れた抗菌性を有するものであった。
【0038】
【表5】

【0039】
[実施例11]
繊維No.2を10%、日本エクスラン工業株式会社製アクリル繊維K85−1.3T51を40%、同社製吸水アクリル繊維K626−1.7T51を50%混綿し、常法に従って紡績し、メートル番手3/15の紡績糸を得た後、カセ枠周200cmで重量250gのカセを作成した。作成したカセを常法に従ってカチオン染料で染色し、吸水柔軟剤で吸水処理を施した。吸水処理を施したカセから、5/32ゲージのミシンタフト機で、パイル長さ12mm、目付け800g/mのバスマットを作成した。得られたバスマットについて、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus ATCC 6538P、logA=4.3、logB=7.1)および大腸菌(Escherichia coli NBRC 3301、logA=4.4、logB=7.5)を用いて抗菌性を評価した。表6に示すように得られたバスマットは優れた抗菌性を有するものであった。
【0040】
【表6】

【0041】
また、上記で作成したバスマットについて、2種類の白癬菌を用いて抗黴性を評価した。表7に示すように得られたバスマットは真菌に対しても効果を有するものであった。
【0042】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維にpH1〜6の範囲内で熱処理を施してなる銀担持アクリロニトリル系繊維を繊維構造物の構成繊維として5〜15重量%含有せしめることを特徴とする繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
【請求項2】
銀系化合物を含有するアクリロニトリル系繊維がアニオン性官能基を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
【請求項3】
熱処理が、100〜160℃の湿熱または乾熱処理であることを特徴とする請求項1または2に記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
【請求項4】
銀担持アクリロニトリル系繊維の銀含有量が1〜100mmol/kgであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
【請求項5】
繊維構造物が綿繊維を含有するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の繊維構造物の抗菌抗黴性能付与方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の付与方法で抗菌抗黴性能を付与せしめた繊維構造物を少なくとも一部に有する繊維製品。
【請求項7】
繊維製品が、肌着、腹巻き、サポーター、マスク、手袋、靴下、ストッキング、インソール、靴の内張り材、パジャマ、バスローブ、タオル、バスマット、カーペット、毛布、寝具、カーテン、椅子張り地の中から選択されることを特徴とする請求項6に記載の繊維製品。

【公開番号】特開2006−249609(P2006−249609A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67379(P2005−67379)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000004053)日本エクスラン工業株式会社 (58)
【Fターム(参考)】