説明

繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法

【課題】解砕工程などの煩雑な工程を必要としないで繊維径が0.4μm以下の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を製造することができる方法を提供する。
【解決手段】硫酸マグネシウム水溶液に、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子と水酸化マグネシウム粒子とが分散されている分散液を、常圧下、50℃以上、かつ該分散液の沸点以下の温度に加熱することによって、水の存在下での硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムを前記繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子の表面に析出させ、次いで該分散液から繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を取り出すことからなる製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
塩基性硫酸マグネシウム[MgSO4・5Mg(OH)2・3H2O]の繊維状粒子は、紙、樹脂及びゴムなどの強化材料、あるいはろ過材の原料として利用されている。
【0003】
繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法として、特許文献1には、硫酸マグネシウム水溶液に水酸化マグネシウムまたは酸化マグネシウムをその濃度が25質量%以下になるように分散させた後、100〜300℃、好ましくは120〜300℃の温度で水熱反応させる方法が開示されている。この特許文献の実施例では、平均繊維径が0.5〜1.0μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子が得られている。
【0004】
特許文献2には、水熱反応を特には必要としない繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法として、可溶性硫酸塩含有水溶液に酸化マグネシウム粉末を分散させた分散液を、好ましくは常圧下60℃以上、沸点以下の温度で、加熱反応させて、繭状塩基性硫酸マグネシウムを生成させ、次いで該繭状生成物に強力剪断力を作用させて解砕する方法が開示されている。この特許文献の実施例では、繊維径が最も細いもので0.2〜0.3μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子が得られている。
【特許文献1】特開昭56−149318号公報
【特許文献2】特開平3−122012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
樹脂材料の補強材料として用いる繊維状塩基性硫酸マグネシウムは、細い繊維の方が、太い繊維よりも樹脂の弾性率を向上させる効果が大きく好ましい。しかしながら、前記特許文献1に記載されている水熱合成法を利用して繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を製造すると、繊維径が0.4μm以下の細い繊維状粒子を得ることは難しい。一方、前記特許文献2には繊維径が0.2〜0.3μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子が開示されている。しかしながら、前記特許文献2に開示されている繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法は、繭状塩基性硫酸マグネシウムを解砕する工程が必要となるという問題がある。
従って、本発明の目的は、解砕工程などの煩雑な工程を必要としないで繊維径が0.4μm以下の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、硫酸マグネシウム水溶液に、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子と水酸化マグネシウム粒子とが分散されている分散液を、常圧下、50℃以上、かつ該分散液の沸点以下の温度にて加熱反応させる事により、加圧条件下での反応と比較して細い繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を解砕工程を必要とせずに製造することが可能となることを見出した。
【0007】
従って、本発明は、硫酸マグネシウム水溶液に、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子と水酸化マグネシウム粒子とが分散されている分散液を、常圧下、50℃以上、かつ該分散液の沸点以下の温度に加熱することによって、水の存在下での硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムを前記繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子の表面に析出させ、次いで該分散液から繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を取り出すことからなる平均繊維径が0.4μm以下である繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法にある。
【0008】
本発明の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法の好ましい態様は、次の通りである。
(1)分散液中の加熱前の繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子量が、分散液中の硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムの理論量と繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子量との合計量に対して1〜90質量%の範囲となる量である。
(2)分散液中の加熱前の硫酸マグネシウム量が0.5〜40質量%である。
(3)分散液中の加熱前の水酸化マグネシウム粒子量が、硫酸マグネシウム量1モルに対して0.01〜5.0モルの範囲となる量である。
(4)分散液の加熱前のpHが6.9〜8.8の範囲にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法を利用することによって、平均繊維径が0.4μm以下の繊維径が細い繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を工業的に有利に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、先ず、硫酸マグネシウム水溶液に、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子と水酸化マグネシウム粒子とが分散されている分散液を用意する。
【0011】
上記分散液に分散されている繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子は、平均繊維径が0.30〜0.60μmの範囲にあって、平均繊維長さが8〜30μmの範囲にあることが好ましい。種粒子となる繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子は、従来の水熱法を利用して製造したものを使用することができる。また、水熱法を利用して製造した繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を種粒子に用い、本発明の方法に従って、常圧で合成した繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を種粒子に用いることもできる。種粒子の繊維径が細い方が、得られる繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の繊維径は細くなる傾向にある。分散液中の種粒子量は、分散液中の硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムの理論量と繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子量との合計量に対して1〜90質量%の範囲となる量であることが好ましい。
【0012】
分散液中の硫酸マグネシウム量は0.5〜40質量%にあることが好ましい。
【0013】
水酸化マグネシウム粒子は、平均粒子径が0.1〜10μmの範囲にあることが好ましい。分散液中の水酸化マグネシウム粒子量は、硫酸マグネシウム量1モルに対して0.01〜5.0モルの範囲となる量であることが好ましい。
【0014】
分散液のpHは6.9〜8.8の範囲にあることが好ましい。
【0015】
本発明では、上記の分散液を、常圧下、50℃以上、かつ該分散液の沸点以下の温度に加熱する。この加熱によって、水の存在下での硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応により塩基性硫酸マグネシウムが生成し、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子の表面に析出して、種粒子は成長する。本発明の方法では従来の水熱法と比較して、種粒子が長さ方向に先細って成長するため、長く成長した粒子が折れるなどにより、繊維径の細い粒子が生成して、種粒子よりも平均粒子径の細い繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子が生成すると考えられる。
【0016】
分散液の加熱温度は、90℃以上であることが好ましく、特に95℃以上であることが好ましい。加熱は分散液を撹拌しながら行なうことが好ましい。加熱時間は、一般に0.5〜20時間の範囲である。
【0017】
加熱後の分散液中の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子は、ろ過、デカンテーション及び遠心分離などの公知の固液分離法を用いて回収することができる。回収した繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子は、通常は水洗して、残留する硫酸マグネシウム分を除いた後に乾燥を行なう。
【0018】
上記のようにして得られる繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子は、通常は、平均繊維径が0.1〜0.4μmの範囲にあって、平均繊維長さが8〜30μmの範囲にある。この繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子は、樹脂及びゴムなどの強化材料、あるいはろ過材の原料として利用することができる。
【実施例】
【0019】
[実施例1]
水道水655.8gに硫酸マグネシウム七水塩491.4gを溶解し、硫酸マグネシウム水溶液を1147g調製した。次に、硫酸マグネシウム水溶液を撹拌しながら、該水溶液に平均繊維長が15.8μm、平均繊維径が0.50μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子(モスハイジ粉状物、宇部マテリアルズ(株)製)3.6gを種晶として加えた。さらに、該水溶液に宇部マテリアルズ製の水酸化マグネシウムスラリー(濃度:34.6質量%)を69.0g加えて、pHが8.4の混合物を調製した。
この混合物を、内容積1Lのヒータと撹拌機とを備えた反応容器に投入し、混合物を撹拌機で撹拌しながら、ヒータで混合物の温度を約100℃に加熱した。混合物の加熱を開始してから混合物のpHは徐々に低下し、300分経過後にはpHは7.0にまで低下した。
【0020】
その後、反応容器から混合物を取り出して、ヌッチェにより吸引ろ過して固形分を回収した。固形物を該固形分に対して約60質量倍の蒸留水で洗浄した。洗浄後、固形物を乾燥機にて105℃の温度で一晩乾燥した。得られた乾燥固形分のX線回折パターンを測定した結果、該X線回折パターンは塩基性硫酸マグネシウムのX線回折パターンと一致し、該乾燥固形分は塩基性硫酸マグネシウムであることが確認された。また、この塩基性硫酸マグネシウムを電子顕微鏡を用いて観察した結果、平均繊維長が19.9μm、平均繊維径が0.38μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子であり、原料の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子よりも平均繊維径が細くなっていることが確認された。
【0021】
[実施例2]
上記実施例1で得られた平均繊維長が19.9μm、平均繊維径が0.38μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を種晶として用いたこと以外は、上記実施例1と同様の操作を行なって乾燥固形物を得た。
得られた乾燥固形分のX線回折パターンを測定した結果、該X線回折パターンは塩基性硫酸マグネシウムのX線回折パターンと一致し、該乾燥固形分は塩基性硫酸マグネシウムであることが確認された。また、この塩基性硫酸マグネシウム粒子を電子顕微鏡を用いて観察した結果、平均繊維長が22.4μm、平均繊維径が0.34μmの繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子であり、原料の繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子よりも平均繊維径がさらに細くなっていることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸マグネシウム水溶液に、繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子と水酸化マグネシウム粒子とが分散されている分散液を、常圧下、50℃以上、かつ該分散液の沸点以下の温度に加熱することによって、水の存在下での硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムを前記繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子の表面に析出させ、次いで該分散液から繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子を取り出すことからなる平均繊維径が0.4μm以下である繊維状塩基性硫酸マグネシウム粒子の製造方法。
【請求項2】
分散液中の加熱前の繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子量が、分散液中の硫酸マグネシウムと水酸化マグネシウム粒子との反応で生成する塩基性硫酸マグネシウムの理論量と繊維状塩基性硫酸マグネシウム種粒子量との合計量に対して1〜90質量%の範囲となる量である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
分散液中の加熱前の硫酸マグネシウム量が0.5〜40質量%である請求項1もしくは2に記載の製造方法。
【請求項4】
分散液中の加熱前の水酸化マグネシウム粒子量が、硫酸マグネシウム量1モルに対して0.01〜5.0モルの範囲となる量である請求項1乃至3のうちのいずれかの項に記載の製造方法。
【請求項5】
分散液の加熱前のpHが6.9〜8.8の範囲にある請求項1乃至4のうちのいずれかの項に記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−280422(P2009−280422A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131979(P2008−131979)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(000119988)宇部マテリアルズ株式会社 (120)
【Fターム(参考)】