説明

繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法

【課題】繊維長が数百ミクロンメートル以上と長く、均一であり、しかも、細孔特性が制御され、0.1ml/g以上のマイクロ孔容量を有する、繊維状多孔質シリカ粒子を短時間に合成する効率的な方法を提供する。
【解決手段】酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を、金属塩の存在下で反応させ、0.10〜0.25ml/gのマイクロ孔容量を有する繊維状多孔質シリカ粒子を得る。混合・攪拌反応を30℃以上50℃未満で、30分〜2時間、熟成反応を30〜100℃で、30分〜10時間行うことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法に関するものであり、より詳細には、0.1ml/g以上のマイクロ孔容量を有し、マイクロ孔を通して連結したメソ孔が、規則的に配列された、繊維長数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸エステルをシリカ源として用いて、メソ孔およびマイクロ孔のそれぞれの大きさおよび容量を制御する研究は、多方面でなされている。同時に、実用化を踏まえた多孔質シリカ粒子の合成においては、粒子のマクロ形態を制御することも重要であり、これまで、球状、ロッド状、膜、モノリス、繊維状などの形態の合成例が知られている。
【0003】
たとえば、界面活性剤として非イオン性界面活性剤であるトリブロック共重合体を用い、これとケイ酸エステルを用いた多孔質シリカ粒子の合成方法が、Science誌(非特許文献1)とJACS誌(非特許文献2)に掲載された。該当報告によると、非イオン界面活性剤(Pluronic P123=EO20PO70EO20)を攪拌溶解させた強酸性溶液に、テトラエチルオルソシリケートを滴下して20時間攪拌した後、80℃において一晩熟成させ得られたシリカ前駆体を洗浄、室温において乾燥、500℃で焼成し、マイクロ孔とメソ孔を有する多孔質シリカ粒子を得られるとしている。
また、テフロン容器内で、前記非イオン界面活性剤P123を水および塩酸の混合液に35℃において一晩攪拌した後、攪拌したままテトラエチルオルソシリケートを滴下し、5分間攪拌した後、混合液を35℃で20時間、さらに異なる温度で24時間熟成させたものを、ろ過および洗浄し、乾燥および550℃で焼成することより、ロッド状のメソポーラスシリカ粒子を得る方法も知られている(非特許文献3)。
【0004】
しかしながら、これらの方法では、残念ながら、反応に長時間を要し、また均一で長尺状の繊維状多孔質シリカ粒子を得ることが困難であった。
【0005】
一方、非イオン性界面活性剤として前記したP123を用い、塩化カリウムを38℃下で、塩酸水溶液に溶解させ、攪拌の下、テトラエチルオルソシリケートを加え、24時間、攪拌した後、100℃で24時間、オートクレーブ加熱を行い、繊維状のメソポーラスシリカ粒子を合成する方法も提案されている(非特許文献4及び非特許文献5)。
【0006】
しかし、この方法は、攪拌時間が長く、更には24時間の熟成が必要となる等の長時間の合成やオートクレーブ加熱が必要であり、また得られた合成物についても、マイクロ孔容量が0.05ml/g以下と小さく、KCl塩の添加によって0.01ml/gとさらに減少している。(非特許文献5、比較例1)
また、繊維の長さや幅など、繊維全体の均一性が必ずしも十分なものではなかった。当該研究目的が、生成物の水蒸気、熱水等の水熱条件下での生成物の安定性向上にあり、その向上にはマイクロ孔の存在が重要であるとしながら、当該合成方法では金属塩の添加がむしろ障害となっていることが明らかである。
【0007】
【非特許文献1】D. Zhao, J. Feng, Q. Huo, N. Melosh, G. H. Fredrckson, B. F.Chmelka, G. D. Stucky; Science, Vol. 279, 548, 1998
【非特許文献2】D. Zhao, Q. Huo, J. Feng, B. F. Chmelka, G. D. Stucky; J. Am. Chem.Soc., Vol. 120, No.24, 6024, 1998
【非特許文献3】A. Sayari, B. H. Han, Y. Yang; J. Am. Chem. Soc., Vol. 126, No. 44,14348, 2004
【非特許文献4】C. Yu, J. Fan, B. Tian, D. Zhao; Chem. Mater., Vol. 16, No.5, 889,2004
【非特許文献5】F. Zhang, Y. Yan, H. Yang, Y. Meng, C. Yu, B. Tu, D. Zhao; J. Phys.Chem. B, Vol. 109, 8723, 2005
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたものであって、繊維長が数百ミクロンメートル以上と長く、均一であり、しかも、細孔特性が制御され、0.1ml/g以上のマイクロ孔容量を有する、繊維状多孔質シリカ粒子を短時間に合成する効率的な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、上記の課題を解決するため、鋭意検討した結果、比較的安価な非イオン性界面活性剤を構造制御試薬として使用し、この酸性水溶液に、シリコンアルコキシド等のケイ酸エステルを混合すると共に該反応系に金属塩を添加して反応を行うと、短時間で、繊維長が長く、均一であり、しかも、マイクロ孔容量を一定量以上に保持できるよう、細孔特性が制御された、長さ数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、この出願によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を、金属塩の存在下で反応させ、0.10〜0.25ml/gのマイクロ孔容量を有する繊維状多孔質シリカ粒子を得ることを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈2〉酸性水溶液と非イオン性界面活性剤を含む混合溶液と上記金属塩とケイ酸エステル及び水を含む混合液を混合・攪拌し、生成する反応懸濁液を熟成した後、繊維状多孔質シリカ前駆体を濾別し、ついで該前駆体中の非イオン界面活性剤を除去することを特徴とする〈1〉に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈3〉混合・攪拌反応を30℃以上50℃未満で、30分〜2時間行うことを特徴とする上記〈1〉又は〈2〉に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈4〉熟成反応を30〜100℃で、30分〜10時間行うことを特徴とする上記〈1〉から〈3〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈5〉酸性水溶液が塩酸水溶液であることを特徴とする上記〈1〉から〈4〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
〈6〉非イオン界面活性剤がポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオシキドを含むトリブロック共重合体であることを特徴とする上記〈1〉から〈5〉の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、ケイ酸エステルをシリカ原料としてこれまで極めて困難であった、長繊維状でマイクロ孔容量が大きく、且つマイクロ孔がメソ孔に通じ、均一で、しかも細孔特性が制御された繊維状多孔質シリカ粒子を簡便かつ短時間に合成することができる。
このようにして得られる繊維状多孔質シリカ粒子は、多数のマイクロ孔による強い吸着能と、長いメソ孔を移動することによる長い滞留時間が、見かけ上より高い吸着能として発現し、加えて吸着分子がメソ孔内を移動する際の抵抗が小さく、高い粒子内拡散能が発揮されるため、シリカ特有の易脱離能は損なわれない。
この有機的に連結するマイクロ孔とメソ孔の協同的な吸着現象は、繊維長が長く、マイクロ孔容量が大きい程、高い吸着能が発現するので、形状選択能を発揮して効率的に種々の有用な分子、イオンをトラップすることができ、工業用および環境保全の両面で有用な、分子篩い、触媒担体、触媒さらにはセンサー等の機能性セラミックス素材として活用できる。とくに、繊維状というマクロ形態を活かした、高性能吸着剤としての利用価値が極めて高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法は、酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を、金属塩の存在下で反応させて、マイクロ孔容積0.10〜0.25ml/gを有し、好ましくは、長さ数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子を製造することを特徴としている。
【0012】
すなわち、本発明方法においては、非イオン性界面活性剤の自己組織化を利用し、混合溶液内において規則構造を形成した非イオン性界面活性剤ミセルを鋳型として、ケイ酸エステルを非イオン性界面活性剤、オキソニウムイオン、陰イオンを介した相互作用により非イオン性界面活性剤ミセルの周囲に配列させ、最後に焼成によって非イオン性界面活性剤ミセルの鋳型部分のみを除去することにより、得られるシリカに非イオン性界面活性剤ミセル由来の規則的な細孔構造を付与することを基本とするものであるが、反応系に金属塩を添加することによって、反応溶液を均質化することで、ミセル構造の安定化を図り、繊維状形態の基本構造単位と考えられる個々のロッド状粒子の伸張を促す反応温度において、短時間の攪拌工程を経由することによって、ロッド状粒子間の連結を促進させ、さらに一定温度で熟成させ、均質で長い繊維状多孔質シリカ粒子を効率的に得ることを本旨とする。
本発明のマイクロ孔容量を一定量以上に保持し、且つ長さ数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子を効率的に製造するための好ましい条件を更に詳細に説明する。
本発明の繊維状多孔質シリカ粒子はほぼ同じ大きさのロッド状粒子(基本粒子)の連鎖体であり(図1(a)及び(b))、その前駆体であるシリカ種と界面活性剤とのロッド状ナノ複合体の生成、成長、連鎖の過程を厳密に制御することによって、繊維長並びにマイクロ孔容積が決定される。
繊維長を長くするためには、上記ロッド状ナノ複合体の長さ自体がまず図1に示すように1〜2μmに成長する反応条件でなければならない。反応系内に添加された金属塩は、水分子との強い相互作用によって、水分子と界面活性剤との相互作用を弱め、界面活性剤はより疎水的になる。この結果、反応系がより均質化することで、ミセルの形成が促進され、さらに高次ミセル構造の安定化を図り、本発明においては繊維状粒子の基本構造単位であるロッド状ナノ複合体間の一様な連鎖が促され、最終的に長さの均質な繊維状多孔質シリカ粒子が生成することになる。
一方、ロッド状ナノ複合体の長さは、攪拌反応の温度に強く依存する。本発明で使用する非イオン界面活性剤(ポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオシキドを含むトリブロック共重合体P123)とシリカ種との塩酸水溶液中での協同的な秩序形成において、比較的低温(30℃未満)並びに50℃超では、ロッド状ナノ複合体は1μm以上には伸張しない。さらに、1μm以上に伸張する温度範囲であっても、攪拌時間によっては、球状ナノ複合体となってしまうことがあり、繊維状粒子が得られない。またロッド状ナノ複合体となっても1μm以上に成長することはなく、さらに成長したとしても短い繊維状粒子となってしまう。
すなわち、図2は、攪拌時間が短い場合の例(比較例2)で、攪拌温度45℃で、20分間攪拌して得られた最終生物のSEM像であり、基本粒子は、球状ナノ複合体となり、粒子形態は繊維状に成長することはない。
図3は、攪拌時間が長い場合の例(比較例3)であり、攪拌温度45℃で、20時間攪拌して得られた最終生物のSEM像であり、ロッド状粒子は1μm以上であるが、繊維長は不均一で、しかも短く、この特徴は攪拌時間3時間経過後から既に認められる。
このことは、熟成温度によって、メソ孔径が変化することから明らかなように(実施例5)、本繊維状多孔質粒子の前駆体が、“準安定状態”にあることに起因している。即ち、攪拌時間を長くすると、一旦成長した繊維状多孔質粒子の前駆体が短く、しかも不揃いになることを示している。
また、本発明に係る、非イオン界面活性剤を使用して得られるシリカ多孔性粒子のメソ孔とマイクロ孔は、それぞれ疎水部(ポリプロピレンオキシド基)と親水部(ポリエチレンオキシド基)の除去された後の痕跡として形成される。この時、両者の親疎水性の程度は反応条件に敏感であり、メソ孔と同時にマイクロ孔の大きさや量は反応条件によって大きな影響を受ける。例えば、マイクロ孔容量は、反応条件、特に熟成温度や攪拌温度ばかりでなく、攪拌時間にも敏感であり、攪拌時間が長くなる程マイクロ孔容量は減少し、たとえば、比較例3の場合(攪拌時間20時間)、0.1ml/g未満となってしまう。
さらに、シリコンアルコキシドを原料とする場合、シリカの縮合が進行するに従いアルコールが発生し、生成物の形態並びに細孔特性に影響することから、反応系からアルコールを除去する操作が一般に行われるが、非特許文献5のように、攪拌時間を24時間として、熟成反応を100℃で24時間行った場合には、マイクロ孔容量は0.01ml/gと著しく小さくなってしまう。
したがって、本発明において、長さ数百ミクロンメートル以上且つマイクロ孔容量0.10〜0.25ml/gを有する繊維状多孔質シリカ粒子を製造するためには、ロッド状ナノ複合体が1μm以上に伸張する条件下で、特に金属塩の添加と攪拌時間を短くすることが極めて重要なファクターとなる。
【0013】
これまでに、繊維状粒子の生成を促進するためには、原料混合比の他に、攪拌速度と攪拌時間、並びに攪拌及び熟成反応温度等の基本的な反応条件を厳密に制御することが重要であるとされているが、従来の方法の多くは、長時間攪拌することが一般的で、その間に繊維状形状が破壊され、短い繊維状粒子しか得ることができず、また多数のミクロ孔を形成することが困難であった。さらに、ケイ酸エステルをシリカ原料とする場合、広い反応条件で伸張したロッド状粒子が生成することが分かっているが、ロッド状粒子を有効に連結するためには、上記の基本的な反応条件を制御するだけでは難しい。
本発明の、ケイ酸エステルをシリカ原料とした繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法は、上記の基本的な反応条件を踏まえつつ、反応溶液全体の均質化に有効な金属塩の添加によって、マイクロ孔容量を0.10〜0.25ml/gに保持したまま、均質で長い繊維状多孔性シリカ粒子が得られるという、従来の技術常識では予期することのできない知見を踏まえて完成されたものである。
マイクロ孔容量が0.10ml/g未満であると、高い吸着能が発揮されず、またマイクロ孔容量が0.25ml/gを超えるものは、高い吸着能が期待されるもののその合成が困難となる。
【0014】
すなわち、金属塩を添加しなくても、ロッド状粒子自体の生成は認められるが、ロッド状粒子同士の連結すなわち繊維形状は金属塩の添加の有無により大きな影響を受けることが判明した。
本発明で使用できる金属塩としては、強酸性下の反応溶液中において、シリケート骨格内のSiを置換し難い金属塩であれば良く、例えば、Na、K、Li、Ca、Mg、Al、Zr、Ti、Co及びNi等の金属塩が挙げられる。
また、塩の種類は、特に制約されず、塩化物、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機塩やその水和物のいずれも使用することができる。また、これらの金属塩は、単独でもあるいは2種以上併用して用いることもできる。
【0015】
つぎに、本発明の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法について詳述する。本発明の方法においては、酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を反応させて繊維状多孔質シリカ粒子を製造する方法において、反応系に上記の金属塩の少なくとも1種を存在させることが必要である。
【0016】
これらの原料成分や金属塩の添加方法や添加順序には制限はなく、酸性水溶液と非イオン性界面活性剤を含む混合溶液に金属塩を添加し、ついで、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を混合してもよく、また、酸性水溶液と非イオン性界面活性剤および金属塩を含む混合溶液にケイ酸エステル及び水を含む混合液を添加してもよく、また、酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、水およびケイ酸エステルを含む混合溶液の調製後30分以内、好ましくは10分以内に、金属塩を添加してもよい。
【0017】
本発明においては、好ましくは、攪拌下の酸性水溶液と非イオン性界面活性剤を含む混合溶液に上記金属塩を添加後、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を滴下する。
攪拌条件たとえば攪拌温度や攪拌時間は、原料や金属塩の種類あるいは所望とする繊維状多孔質シリカ粒子の特性などを考慮することによって適宜定められるが、特に、本願の製造方法は、攪拌温度と攪拌時間が最終生成物の形状と細孔特性に影響を与えるため、攪拌温度は30℃以上50℃未満、好ましくは40℃以上50℃未満、攪拌時間は30分〜2時間、好ましくは40分〜2時間である。
【0018】
このような攪拌により、一定時間経過後、反応液が懸濁し、白色生成物が生成する。つぎに、本発明においては、この反応懸濁液を熟成する。
熟成条件たとえば熟成温度や熟成時間は、原料や金属塩の種類あるいは所望とする繊維状多孔質シリカ粒子の特性などを考慮することによって適宜定められるが、通常、熟成温度は30℃〜100℃、好ましくは35〜100℃、より好ましくは35〜80℃、熟成時間は30分間〜10時間、好ましくは1時間〜9時間、より好ましくは3時間〜6時間である。
【0019】
このような熟成を行った後、反応液から固体生成物を濾過などの手段により分離し、乾燥、焼成することにより、所望とする繊維状多孔質シリカ粒子を得る。
この固体生成物は、その中に非イオン界面活性剤を含有する繊維状多孔質シリカ前駆体粒子であり、乾燥、焼成することにより、該粒子から除去され、非イオン界面活性剤由来のミセルに基づく細孔が形成される。
乾燥、焼成条件には特に制限はないが、通常、室温で1日程度乾燥させ、500℃以上、好ましくは550℃以上で1時間程度焼成する。
【0020】
つぎに、本発明で用いる原料およびその配合比について説明する。
酸性水溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、酢酸等の無機酸や有機酸が使用されるが、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸を用いるのがよく、中でも、塩酸が好ましい。
【0021】
非イオン性界面活性剤非イオン性界面活性剤としては、ポリエチレンオキシドーポリプロピレンオキシド-ポリエチレンオキシド(PEO−PPO−PEO)からなる分子量約2000から約13000程度の様々な重合比のトリブロック共重合体を使用することができる。
【0022】
本発明で使用される、非イオン性界面活性剤において、ブロック共重合体の重合比や各種ポリマーの平均分子量に特に制限は持たないが、反応温度以下で酸に溶解するものが好ましい。特に、トリブロック共重合体(PEO−PPO−PEO)において、その重量平均分子量は約4000乃至約8000であることが望ましい。
【0023】
本発明で使用されるケイ酸エステルとしては、Si―アルコキシドで、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケート、テトライソプロピルオルソシリケート、テトラ−n―ブチルオルソシリケート等を用いることが可能であり、中でもテトラエチルオルソシリケート(以下TEOSと略す)が好ましく使用される。
【0024】
出発原料の混合モル比は、ケイ酸エステル:非イオン界面活性剤:酸:水:金属塩=1:0.015〜0.02:5.50〜6.5:150〜220:0.16〜3.0である。
【0025】
また、本発明の製造方法によれば、ヘキサゴナル構造と呼ばれる、周期的に配列する細孔を有し、その細孔容量や細孔径は、反応温度や反応時間、原料の組成比、添加する無機塩の種類によって、容易にコントロールが可能である。また、ミクロンオーダーの繊維状多孔質シリカ粒子の前駆体を、短時間内に製造できる。
【0026】
以下、本発明方法の最も好ましい態様を記載する。
本発明の繊維状多孔質シリカ粒子の合成では、非イオン性界面活性剤(Pluronic P123)と塩酸とを攪拌混合しながら均質溶液となってから金属塩を添加し、ついでTEOSと水の混合溶液を滴下し、反応溶液を調製する。
【0027】
上記の反応溶液を、30℃以上50℃未満好ましくは40℃以上50℃未満で30分間以上好ましくは40分間〜2時間の範囲の一定温度下において攪拌した後、攪拌を停止し、直ちに30〜100℃好ましくは35〜80℃において30分間〜10時間好ましくは3時間〜6時間熟成し、白色の固体生成物を得る。この生成物をろ過・洗浄し、反応後懸濁液から固体生成物を分離し、室温〜100℃で十分乾燥させる。最後に500℃以上、好ましくは550℃以上で1時間以上焼成を行い、マイクロ孔容量0.10〜0.25ml/g、長さ数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子を得る。
【実施例】
【0028】
次に本発明を実施例によって更に具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって限定されない。尚、実施例で行った各試験方法は下記の方法に依った。
【0029】
(測定法)
(1) 全体観察:日本電子製JSM5300(走査型電子顕微鏡)を使用し、加速電圧10kV、WD11mmで観察した。
(2) 比表面積・細孔径分布:日本ベル製BELSORP miniを使用し、液体窒素温度で測定した窒素吸着等温線からBET比表面積を求め、全細孔容量はメソ孔容量とミクロ孔容量の合計として、tプロット法により求めた。また、マクロ孔容量はtプロット法により算出した。細孔径分布は、BJH法により解析した。
【0030】
(実施例1)
非イオン性界面活性剤であるトリブロック共重合体Pluronic P123 (PEO20PPO70PEO20)(平均分子量5800)(Aldrich;以下、単にP123ともいう)塩酸とを45℃において約550rpmで攪拌した。10分後に塩化ナトリウムを添加し、さらに10分後TEOSと水の混合液を添加した。本実施例では、添加する塩化ナトリウムの量を変化させ、混合溶液のモル比は、TEOS:P123:HCl:HO:NaCl=1:0.017:5.85:199:0.166−2.99とした。この混合溶液をさらに1時間攪拌した後、攪拌を停止し、予め80℃に保温した恒温水槽に移し3時間熟成させた。反応懸濁液から固体生成物を濾別し、60℃で充分乾燥させた後、600℃で1時間加熱して有機成分を除去して繊維状多孔質シリカ粒子を得た。表1に合成条件を示し、これに対応する生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。図4に、実施例1−5の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【0031】
(実施例2)
実施例1において、塩酸濃度を表1に記載の濃度に代えた以外は実施例1−5と同様にして、繊維状多孔質シリカ粒子を得た。得られた生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、攪拌時間を表1に記載した条件に代えた以外は実施例1−5と同様にして、繊維状多孔質シリカ粒子を得た。得られた生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。
【0033】
(実施例4)
実施例1において、熟成時間を表1に記載した条件に代えた以外は実施例1−5と同様にして、繊維状多孔質シリカ粒子を得た。得られた生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。
【0034】
(実施例5)
実施例1において、攪拌温度と熟成温度を表1に記載した条件に代えた以外は実施例1と同様にして、繊維状多孔質シリカ粒子を得た。得られた生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。
【0035】
(実施例6)
実施例1において、金属塩を表1に記載した金属塩に代えた以外は実施例1−5と同様にして、繊維状多孔質シリカ粒子を得た。得られた生成物の、比表面積、全細孔容量、マイクロ孔容積、細孔径(メソ孔直径)を表2に示す。実施例6−3及び実施例6−8のSEM像をそれぞれ図5および図6に示す。なお、金属塩の添加量を変化させた実施例1の場合を除き、添加する金属塩の物質量は、反応溶液中において電離した陰イオンの物質量が1.49モルになるように調整した。また実施例6−1のように、添加する金属塩の陰イオンが2価の場合には0.75モル添加し、実施例6に含まれる他の実施例の場合と反応溶液中の電荷が同等になるようにした。
【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【産業上の利用の可能性】
【0038】
本発明の製造方法は、ケイ酸エステルをシリカ原料とする多種多様なメソポア多孔性シリカ材料に関する従来の合成法と比較し、金属塩を添加するだけの単純な反応系において、マイクロ孔容積0.1ml/g以上で、長さ数百ミクロンメートル以上の繊維状多孔質シリカ粒子を極めて短時間で合成できることから工業規模への応用も容易であり、更に、製造される繊維状多孔質シリカ粒子は、高比表面積、細孔径の均一性、単分散性等の特徴を併せ持つことから、形状選択能を利用した分子篩、吸着剤や、高分散性繊維状粒子であることを利用した樹脂添加剤、ガス分離膜、加えて触媒担体、触媒、クロマトグラフ用担体としての利用に適する。
すなわち、本発明による繊維状多孔質シリカ粒子は、樹脂添加剤、インク吸着用フィラー、調湿剤、増粘剤等の用途に利用される。さらに、繊維状形態を利用して単独乃至他の無機物質および有機化合物と混合することによりフェルト様に加工成型し、各種フィルター素材として広く利用することが可能である。さらに、メソ孔と連結して共存するマイクロ孔を利用して粒子内拡散能に優れた環境汚染排出ガス状物質等の浄化プロセスへの応用、あるいはゼオライトやシリカゲルに代わるシリカ多孔体として新規用途を導くことが期待される。また、細孔表面を金属及び金属酸化物等で化学修飾することによって種々の触媒の開発にも展開可能である。さらには、高耐熱環境下における多孔性材料や複合材料等として種々の用途が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)ロッド状粒子のFE−SEM像 (b)ロッド状粒子の連鎖体の模式図
【図2】比較例2の多孔質シリカ粒子のSEM写真
【図3】比較例3の多孔質シリカ粒子のSEM写真
【図4】実施例1−5で得た繊維状多孔質シリカ粒子のSEM写真
【図5】実施例6−3で得た繊維状多孔質シリカ粒子のSEM写真
【図6】実施例6−8で得た繊維状多孔質シリカ粒子のSEM写真

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性水溶液、非イオン性界面活性剤、ケイ酸エステル及び水を含む混合液を、金属塩の存在下で反応させ、0.10〜0.25ml/gのマイクロ孔容量を有する繊維状多孔質シリカ粒子を得ることを特徴とする繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【請求項2】
酸性水溶液と非イオン性界面活性剤を含む混合溶液と上記金属塩とケイ酸エステル及び水を含む混合液を混合・攪拌し、生成する反応懸濁液を熟成した後、繊維状多孔質シリカ前駆体を濾別し、ついで該前駆体中の非イオン界面活性剤を除去することを特徴とする請求項1に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【請求項3】
混合・攪拌反応を30℃以上50℃未満で、30分〜2時間行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【請求項4】
熟成反応を30〜100℃で、30分〜10時間行うことを特徴とする請求項1から3の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【請求項5】
酸性水溶液が塩酸水溶液であることを特徴とする請求項1から4の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。
【請求項6】
非イオン界面活性剤がポリエチレンオキシド−ポリプロピレンオキシド−ポリエチレンオシキドを含むトリブロック共重合体であることを特徴とする請求項1から5の何れかに記載の繊維状多孔質シリカ粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−195587(P2008−195587A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−34419(P2007−34419)
【出願日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成18年度環境省委託研究「高い分子移動拡散性を有するマイクロ−メソ多孔体を利用したVOC処理技術の開発に関する研究」、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】