説明

繊維状混合物およびその製造方法

【課題】 土木・建築材料の生産性を保持しつつ、石綿を含有せずとも充分な強度を有する土木・建築材料を製造可能な繊維状組成物となりうる繊維状混合物を提供する。
【解決手段】繊維状に解繊されたパルプを含むパルプ組成物50〜95重量部に対してホルマイト鉱物5〜50重量部を混合している繊維状混合物により、土木・建築材料の生産性を保持しつつ、石綿を含有せずとも充分な強度を有する土木・建築材料を製造可能な繊維状組成物となりうる繊維状混合物が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土木・建築材料の強度を補強する繊維状組成物として使用可能な繊維状混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
窯業系の土木・建築材料(例えばセメントスレート、スラグ石膏板、厚物外壁板、セメント系モルタル等)を製造する際、その強度を補強する補強材として繊維状物質の含まれる繊維状組成物が添加されてきた。特に、補強材となる繊維状組成物の1つとして石綿が好ましく用いられてきた。たとえば、土木・建築材料が丸網式抄造機や長網式抄造機等による湿式抄造方法や、押出し成形方法等により成形される際、石綿は、土木・建築材料の原料を水中に分散させた原料スラリーに配合されて用いられた。石綿を配合された原料スラリーは、その固形成分の定着性、保水性、分散性、濾水性、強度等に優れ、土木・建築材料を成形するにあたり作業性、生産性を向上させ、養生中にクラックを生じ難くし、そして、土木・建築材料の機械的強度を高めることができ、土木・建築材料の製造コストをよく抑えることができる。さらに、石綿がモルタルに添加される場合には、モルタルを塗工する際にたれやクラックの発生を抑えることができる。
【0003】
しかし、昭和55〜56年頃に米国などから石綿公害問題が提起されると、日本国内でも土木・建築材料における石綿使用量を5%以下に削減するよう要請されるようになった。さらに元号が平成になる頃になると、土木・建築材料への石綿使用量を一層削減することが要請され、土木・建築材料製造会社は各社全力をあげて石綿を使用しない土木・建築材料製品の開発を図り、そうして漸次開発された製品を石綿不使用製品、いわゆるノンアスベスト製品として市販を開始するようになった。そして、このようなノンアスベスト製品の開発に歩調をあわせるように石綿の使用量は年を追うごとに減少し、今日に到っている(例えば、非特許文献1等)。
【0004】
【非特許文献1】J M West,BSc 他1名、「ノンアスベスト繊維強化セメントの耐久性(3)」、月刊建築仕上技術、(株)工文社、1993年3月号、76頁〜77頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでの土木・建築材料としてのノンアスベスト製品は、その強度や製造効率などの点で更なる改善が期待されている状態にある。
【0006】
本発明者らは、充分な強度を有する土木・建築材料を形成可能な繊維状組成物であって石綿を使用しない繊維状組成物を鋭意研究し、繊維状に解繊されたパルプを含むパルプ含有組成物にホルマイト鉱物を混合した繊維状混合物が繊維状組成物として有効であることを見出し、本願発明を完成するに到った。
【0007】
本発明は、土木・建築材料の生産性を保持しつつ、石綿を含有せずとも充分な強度を有する土木・建築材料を製造可能な繊維状組成物となりうる繊維状混合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、(1)繊維状に解繊されたパルプを含むパルプ組成物50〜95重量部に対してホルマイト鉱物5〜50重量部を混合していることを特徴とする繊維状混合物、(2)パルプ組成物は、灼熱減量が60〜90%の製紙スラッジである上記(1)記載の繊維状混合物、(3)ホルマイト鉱物は、平均長さが1μmの繊維状の結晶構造を備える上記(1)又は(2)に記載の繊維状混合物、(4)パルプ組成物とホルマイト鉱物の配合量の合計に対して10〜25重量%のシリカヒュームが配合されている上記(1)から(3)のいずれかに記載の繊維状混合物、(5)パルプを含有するパルプ組成物50〜95重量部と、ホルマイト鉱物5〜50重量部とを混合して、パルプを繊維状に解繊するとともにホルマイト鉱物を破砕することを特徴とする繊維状混合物の製造方法、を要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の繊維状混合物は、繊維状に解繊されたパルプと、ホルマイト鉱物とを含んでおり、またホルマイト鉱物は、繊維状の結晶構造を有する鉱物であるから、繊維状のパルプと繊維状のホルマイト鉱物とが物理的に絡み合い、これによりこの繊維状混合物を添加された物の強度を向上させることができる。したがって、この繊維状混合物によれば、石綿を用いることなく充分な強度を有する土木・建築材料の製造が可能になる。また、このようなホルマイト鉱物は、平均長さが1μmの繊維状の結晶構造を備えることが好ましい。
【0010】
本発明の繊維状混合物には、パルプ組成物が用いられるが、また故紙パルプを用いることができる。またこのパルプ組成物として乾燥した製紙スラッジを用いることができるので、本発明によれば、パルプ製造会社、洋紙製造会社、板紙製造会社等の抄紙工場における抄紙工程で排出される汚泥である製紙スラッジを乾燥することにより、腐敗による悪臭も無く、運搬も容易となり効率よく処理でき、パルプの効果的なリサイクルに貢献できる。
【0011】
本発明の繊維状混合物は、パルプ組成物とホルマイト鉱物とを一定の配合比率で含有しており、これを土木・建築材料を成形するための原料スラリーに添加した際に、原料スラリーの保水性と濾水性を適度なものにすることができる。したがって、本発明の繊維状混合物によれば、繊維状混合物の添加された原料スラリーを用いて丸網式抄造機にて原料スラリーの固形成分を積層形成して土木・建築材料となす場合、積層形成される各層間で層間剥離が生じる虞を抑制でき、土木・建築材料の生産効率を向上させることができる。
【0012】
また、本発明の繊維状混合物は、セメント系モルタルに添加された場合、セメント系モルタルのたれやクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明の繊維状混合物の製造方法によれば、製造コストを抑えつつ繊維状混合物を製造することができる。また、この製造方法によれば、故紙パルプとホルマイト鉱物を同時に破砕と解繊ができきるため均一な繊維混合物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
繊維状混合物は、繊維状に解繊されたパルプを含有するパルプ組成物50〜95重量部と、ホルマイト鉱物5〜50重量部とからなる。
【0015】
パルプ組成物としては、故紙パルプ(製紙スラッジを含む)のほか、新聞紙や厚紙などの古紙、広葉樹の木材パルプ、針葉樹の木材パルプなどを用いることができ、これらを適宜組合わせすることもできる。
【0016】
特にパルプ組成物に製紙スラッジを用いることは、パルプ組成物を純パルプのみとする場合にくらべ、パルプ組成物の原料コストを削減できる利点があることから好ましく、また、製紙スラッジ中のパルプはある程度解繊されているので、他の故紙や紙パルプを使用する場合とも比べてみても、解繊時間の短縮を図ることができるという点からも好ましい。
【0017】
なお、製紙スラッジは、各種製紙会社の抄紙工程から排出される汚泥であり、セルロースを成分とするパルプ繊維と、填料として使用される無機物質からなる。
【0018】
故紙パルプは、灼熱減量が60〜90%であることが好ましい。灼熱減量が60%よりも小さいと、故紙パルプが製紙スラッジである場合において、その製紙スラッジに含まれるパルプの含有量が過度に少なく、その成形性に悪影響を与え、また灼熱減量が、90%よりも大きいと、故紙パルプが製紙スラッジである場合において、その製紙スラッジに含まれるパルプの含有量が多くなりすぎ、これを用いて土木・建築材料を製造した場合に、その土木・建築材料の防火性能が著しく低下する虞がある。
【0019】
ホルマイト鉱物は、通常、珪酸マグネシウムを主成分とする粘土鉱物であるが、これには含水マグネシウム・アルミニウム・シリケートなどのマグネシウムとアルミニウムと珪酸を含有する鉱物が含まれる。具体的には、本発明の繊維状混合物に用いるホルマイト鉱物としては、パリゴルスカイト(アタパルジャイト)、堆積岩由来のセピオライトを挙げることができ、これらを適宜混合し用いてもよい。
【0020】
ただし、このホルマイト鉱物としては、石綿を含有するセピオライトは除かれる。セピオライトのなかでも、変成岩由来のセピオライトは、石綿がごく微量に不純物として混在している可能性が示唆されており、本発明においては、ホルマイト鉱物として変成岩由来のセピオライトを使用しないことが好ましい。
【0021】
ホルマイト鉱物は、平均長さが1μmの繊維状の結晶構造を備えることが好ましい。
【0022】
本発明の繊維状混合物は、パルプ組成物50〜95重量部とホルマイト鉱物5〜50重量部とを混合して原料混合物となし、その原料混合物を破砕機などを用いて破砕することでパルプ組成物に含まれるパルプを繊維状に解繊し、またホルマイト鉱物を砕いて繊維状にすることにより製造できる。
【0023】
破砕機としては、破砕と解繊を同時にできることが好ましく、従来より公知な、(株)奈良機械製作所・自由粉砕機、(株)増野製作所・ニューミクロシクロマット等の解繊機などを用いることができる。
【0024】
なお、本発明の繊維状混合物には、シリカヒュームが配合されていてもよい。
シリカヒュームは、パルプ組成物とホルマイト鉱物の配合量の合計に対して10〜25重量%配合されることが好ましい。
シリカヒュームの配合量が10重量%より小さいと、繊維混合物を土木・建築材料に用いたとき強度発現が少なくなる虞があり、25重量%よりも大きいと、スラグ石膏系に繊維混合物を配合した場合に、アルカリ質の消耗が多く硬化不良を起こす虞がある。
【0025】
本発明の繊維状混合物は、土木・建築材料の製造に使用される原料スラリーに添加して用いることができる。
なお、土木・建築材料は、これを構成する原料を水に分散させた原料スラリーを用い、丸網式抄造機による抄造方法(ハチェック式)や長網式抄造機による抄造方法(フローオン式)等といった従来より公知な方法で製造できる。
【0026】
本発明の繊維状混合物は、セメント系モルタルに添加、また石灰系モルタルに添加し、それぞれのモルタルに使用する事ができる。
【0027】
本発明の繊維状混合物は、原料スラリーの濾水性と保水性を適度な状態にすることができ、原料スラリーの固形成分に含まれる水分量を適量にして土木・建築材料を製造する際の層間剥離や生産性の低下といった問題を抑制できる。
すなわち、例えば丸網式抄造機を用い、原料スラリー中の固形成分からなる層を幾重にも積層させた積層構造を形成して土木・建築材料を製造する場合、積層構造を構成する各層に含まれる水分量が少なすぎて層間剥離を生じる虞を低減できるとともに、積層構造を構成する各層に含まれる水分量が過剰になって、積層構造の形成後に行われる養生に長時間を要して土木・建築材料の生産性が低下してしまう虞も抑えられる。
【実施例】
【0028】
実施例1
表1に示すような組成の製紙スラッジ(含水量15%)と、ホルマイト鉱物としてパリゴルスカイトを表2に示すような配合比率で混合し原料混合物を調整した。さらに、この原料混合物を破砕機にて破砕し、繊維状混合物を得た。
【0029】
破砕機としては、解繊機((株)増野製作所製、ニューミクロシクロマット)が用いられた。この解繊機は、破砕対象物を、空気の高速渦流による圧力変動で高周波振動させることで破砕するものであり、破砕対象物の破砕を行う破砕槽と、空気の高速渦流を発生させるローターと、空気を破砕槽に吸引させるファンとを備える。
このような破砕機を用い、上記のように調整された原料混合物を破砕機の破砕槽に導き、ローターの回転数が毎分2500回転、空気の吸引量が30〜50m3/分にて製紙スラッジに含有されるパルプを解繊するとともにホルマイト鉱物(パリゴルスカイト)を破砕し、繊維状混合物を得た。
【0030】
(表1)

なお、表1において製紙スラッジの組成は絶乾時の分析値である。
【0031】
(表2)

【0032】
得られた繊維状混合物について、濾水性試験を実施した。この濾水性試験は、JIS P 8121(パルプのろ水度試験方法)に準じ、繊維状混合物のスラリー濃度3.0重量%、および5.0重量%にて実施された。結果は表3に示されるとおりである。
【0033】
(表3)

【0034】
実施例2、比較例1、2
表2に示すように製紙スラッジとホルマイト鉱物を配合した他は、実施例1と同様にして繊維状混合物を得て、濾水性試験を行った。結果は表3に示す。
【0035】
実施例3、4
表2に示すように製紙スラッジとホルマイト鉱物のパリゴスカイトと、シリカヒュームを配合したほかは実施例1と同様にして繊維状混合物を得て、その繊維状混合物について濾水性試験を行った。結果は表3に示す。
【0036】
実施例5
実施例1で得られた繊維状混合物を用いて土木・建築部材としてのスラグ石膏板を次に示すように製造した。
【0037】
[原料スラリーの調整]
原料スラリーは、水砕スラグ(千葉リバーメント社製、品番 高炉スラグ微粉 JISA 6206)、二水石膏、消石灰、マイカ(クラレトレーデング社製、品番 クラライトマイカ60C)、セピオライト(中国産変成岩由来品)、パーライト(三井金属鉱業社製、品番 4209)、パルプ(南信パルプ社製、品番NUKP)、耐アルカリ性ガラス繊維(日本電気硝子社製、品番ARG-6S-750)、リサイクル粉と、さらに本発明の繊維状混合物(実施例1で得られたもの)とを表4に示すような配合量にて混合して適量の水を加え原料スラリーを作成する。
【0038】
(表4)

単位:重量%
【0039】
なお、表4において、リサイクル粉は、製造されたスラグ石膏板で工程上廃材となりたる板を砕いたものである。
【0040】
スラグ石膏板は、上記原料スラリーを用い、丸網式抄造機による成形方法(ハチェック式)にて製造された。
【0041】
[丸網式抄造機]
スラグ石膏板の製造に用いた丸網式抄造機は、図1に示すように、原料スラリー14を纏着可能なフェルト等からなるシート材を配したベルト1を矢印F方向に送り出す送出ロール2と、送り出されたベルト1のシート材表面に原料スラリー14の固形成分を纏着させることでその固形成分をベルト1に転写する上下一対の転写ロール3を配しており、さらにベルト1に纏着した固形分纏着物を脱水する脱水装置6と、脱水装置6で脱水された固形分纏着物をベルト1から剥離させるとともに、その剥離された固形分纏着物を巻き取る巻取ロール7と、固形分纏着物の剥離されたベルト1を送出ロール2に戻す剥離ロール8とを配している。なお、固形分纏着物とは、ベルト1に纏着された原料スラリー14の固形成分をいうものとする。
【0042】
転写ロール3は、ロール面が網状の抄き網ロール5を有するとともに、その抄き網ロール5を原料スラリー14の注入されるスラリー槽13内に配しており、抄き網ロール5のロール面は、少なくとも部分的に原料スラリー14に浸漬されている。
【0043】
[スラグ石膏板の成形・養生]
上記のように調整された原料スラリーをスラリー槽13に注入し、丸網式抄造機にて原料スラリー中の固形成分を所望の形状に成形した。
【0044】
丸網式抄造機においては、送出ロール2の回動に応じてベルト1が送り出されると、送り出されたベルト1は、転写ロール3の間を通ずる。転写ロール3の抄き網ロール5はスラリー槽13の原料スラリー14に少なくとも部分的に浸漬されているため、転写ロール3における抄き網ロール5の回動に伴ないその外周面(ロール面)を形成する網面上に原料スラリー14が付着する(抄き上げられる)。ベルト1は、抄き網ロール5のロール面にシート材表面を対面させており、転写ロール3の間を通じると、シート材表面に原料スラリー14を纏着される。このときベルト1には、原料スラリーの固形分がシート材表面上に積層されて固形分纏着物が形成される。固形分纏着物は、ベルト1に随伴して脱水装置6に送られて脱水される。固形物纏着物の脱水の程度は、製造されるスラグ石膏板の組成等の条件に応じて適宜選択される。脱水された固形分纏着物は、ベルト1とともに巻取ロール7に送られるとベルト1から剥離されるとともに巻取ロール7に巻き取られる。なお固形分纏着物を剥離されたベルト1は、剥離ロール8から送出ロール2へ送られる。
【0045】
固形分纏着物は、巻取ロール7が1回転するごとに巻取ロール7の外周面(ロール面)に順次積層される。巻取ロール7の周囲に固形分纏着物が巻き取られて、固形分纏着物の層の厚みが予め定められた大きさになると、固形分纏着物の層は、その厚み方向に切断されて巻取ロール7から分離される。
【0046】
こうして巻取ロール7から分離された固形分纏着物は、原料スラリーの固形分からなる層を積層した積層体となっており、この積層体が室内養生庫で24時間(35±5℃、湿度80%以上)養生された後、蒸気養生庫で20時間(60±5℃、湿度100%)蒸気養生され、スラグ石膏板が得られた。
【0047】
得られたスラグ石膏板について、次に示すように、その生産性を評価し、さらに曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。結果は、表5に示されるとおりである。
【0048】
[生産性]
生産性試験は、実抄造成形時に於いて、1時間当りの巻き取り枚数で評価する。
【0049】
[曲げ強度]
曲げ強度は、JIS A 5430(繊維強化セメント板)に準じて測定された。
【0050】
[かさ比重]
かさ比重は、JIS A 5430(繊維強化セメント板)に準じて測定された。
【0051】
[吸水による長さ変化率]
吸水による長さ変化率は、JIS A 5430(繊維強化セメント板)に準じて測定された。
【0052】
[防火性能]
防火性能はJIS A 1301に準じて次に示すように評価された。
難燃1級 :難燃1級の基準まで満たしている。
難燃2級 :難燃2級の基準まで満たしている。
【0053】
(表5)

【0054】
実施例6、7、および比較例5、6、7
表4に示すような組成で原料スラリーを作製した他は、実施例5と同様に、スラグ石膏板を得て、スラグ石膏板を製造するにあたっての生産性を評価し、スラグ石膏板の曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。結果は、表5に示されるとおりである。
【0055】
実施例8
実施例2で得られた繊維状混合物を用いて建築部材としてのセメントスレートを製造した。このセメントスレートは、次のように調整された原料スラリーを用い、実施例5と同様に丸網式成形機による成形方法にて製造された。
【0056】
[原料スラリーの調整]
原料スラリーは、普通セメント(太平洋セメント社製、品番普通ポルトランドセメントJIS R 5210)、シリカヒューム(エルケム社製、品番エルケムマイクロシリカ 940U)、マイカ(クラレトレーディング社製、品番 60C)、セピオライト(中国産変成岩由来品)、炭酸カルシウム、パルプ(南信パルプ社製、品番NUKP)、ビニロンファイバー(クラレ社製、品番RMH182×6)、耐アルカリ性ガラス繊維(日本電気硝子社製、品番(ARG-6S-750)、リサイクル粉と、さらに本発明の繊維状混合物とを表6に示すような配合量にて混合して適量の水を加えて原料スラリーを作成する。
【0057】
(表6)

単位:重量%
【0058】
なお、表6において、リサイクル粉は、製造されたセメントスレートで、工程上廃材となりたる板を砕いたものである。
【0059】
得られたセメントスレートついて、その生産性を評価し、さらに曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。なお、生産性の評価や物性の測定、防火性能の評価は、実施例5と同様に実施された。結果は、表7に示されるとおりである。
【0060】
(表7)

【0061】
実施例9、10、および比較例8、9、10
表6に示すような組成で原料スラリーを作製した他は実施例8と同様にしてセメントスレートを得て、セメントスレートを製造するにあたっての生産性を評価し、セメントスレートの曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。結果は、表7に示されるとおりである。
【0062】
実施例11
実施例1で得られた繊維状混合物を用いて土木・建築部材としての厚物外壁板を製造した。この厚物外壁板は、次のように調整された原料スラリーを用い、長網式成形機による成形方法(フローオン式)にて製造された。
【0063】
[原料スラリーの調整]
原料スラリーは、普通セメント(太平洋セメント社製、品番普通ポルトランドセメントJIS R 5210)、水砕スラグ(千葉リバメント社製、品番 高炉スラグ微粉末 JIS A 6206)、シリカヒューム(エルケム社製、品番エルケムマイクロシリカ 940U)、パーライト(三井金属鉱業社製、品番R4209)、パルプ(南信パルプ社製、品番NUKP)、ビニロンファイバー(クラレ社製、品番RMH182×6)、リサイクル粉と、さらに本発明の補強材組成物とを表8に示すような配合量にて混合して適量の水を加え原料スラリーを作成する。
【0064】
[長網式抄造機]
厚物外壁板の製造に用いた長網式抄造機は、図2に示すように、原料スラリー14を纏着可能なフェルト等からなるシート材を備えたベルト1を矢印F方向に送り出す送出ロール2と、送り出されたベルト1のシート材表面に原料スラリーを流し入れるスラリー流入装置9と、ベルト1に纏着された固形分纏着物を脱水する脱水装置6と、脱水装置6で脱水された固形分纏着物をベルト1から剥離させるとともにベルト1を送出ロール2に送る(戻す)剥離ロール8とを配している。
【0065】
スラリー流入装置9は、原料スラリーを注入するスラリー注入口10を供えたスラリー槽11と、スラリー槽11から原料スラリーをベルト1表面上に流すスラリー流出口12を備える。
【0066】
[厚物外壁板の成形・養生]
上記のように調整された原料スラリーをスラリー注入口10からスラリー槽11に注入し、長網式抄造機にて原料スラリー中の固形成分を所望の形状に成形した。
【0067】
長網式抄造機においては、送出ロール2の回動に応じてベルト1が矢印F方向にスラリー流入装置9に向かって送り出される。スラリー流入装置9では、スラリー槽11に注入された原料スラリーが、順次送り出されてくるベルト1のシート材表面上に、スラリー槽11に注入された原料スラリーがスラリー流出口12より流出する。
原料スラリーがベルト1上に流出すると原料スラリーの固形成分がベルト1のシート材表面に纏着する。このとき、ベルト1には固形分纏着物が水分を含みつつシート材表面上に積層された状態が形成される。ベルト1のシート材上の固形分纏着物は、脱水装置6に送られて脱水される。脱水の程度は、土木・建築材料の組成等に応じて適宜選択される。脱水された固形分纏着物は、剥離ロール8の回動に応じてベルト1から剥離され、板状の固形分纏着物が得られる。なお、ベルト1は、固形分纏着物を剥離された後、送出ロール2へ送られる。
【0068】
固形分纏着物は、室内養生庫で24時間(35±5℃、湿度80%以上)養生された後、蒸気養生庫で20時間(70±5℃、湿度100%)蒸気養生され、厚物外壁板が得られる。
【0069】
(表8)

単位:重量%
【0070】
なお、表8において、リサイクル粉は、製造された厚物外壁板で、工程上廃材となりたる板を砕いたものである。
【0071】
得られた厚物外壁板ついて、その生産性を評価し、さらに曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。なお、生産性の評価や各物性の測定、防火性能の評価は、実施例5と同様に実施された。結果は、表9に示されるとおりである。
【0072】
(表9)

【0073】
実施例12、13、および比較例11、12、13
表8に示すような組成で原料スラリーを作製した他は実施例11と同様にして厚物外壁板を得て、厚物外壁板を製造するにあたっての生産性を評価し、厚物外壁板の曲げ強度、かさ比重、吸水による長さ変化率といった物性を測定し、その防火性能を評価した。結果は、表9に示されるとおりである。
【0074】
実施例14
実施例1で得られた繊維状混合物を用いて土木・建築部材としてのセメント系モルタルを製造した。
【0075】
セメント系モルタルは、普通セメント(太平洋セメント社製、品番 普通ポルトランドセメントJIS R 5210)、砂(東北珪砂社製、品番4,5,6号混合体)、繊維状混合物を表10に示すような配合量で規定量の水を加えて混合することで作製された。
【0076】
(表10)

単位:g
【0077】
得られたセメント系モルタルついて、次のように亀裂試験、透水性試験、防火試験、曲げ試験、施工時表面仕上がり試験を行った。結果は、表11に示されるとおりである。
【0078】
[亀裂試験]
亀裂試験は、JIS A 1401 (左官用セメントモルタル試験 )に準じて行なわれ、次のように評価した。
○ : 亀裂が見られない。
× : 亀裂が見られる。
【0079】
[曲げ試験]
曲げ試験は、JIS A 5430(繊維強化セメント板)に準じて行なわれた。
【0080】
[施工時表面仕上がり試験]
施工時表面仕上がり試験は、配合セメントモルタルで実塗工を実施することによって行なわれ、その試験の評価は、外観目視にてモルタルの「のび」具合、「たれ」の状態を評価することで行なわれた。
○ : 「のび」、「たれ」ともに見られない。
× : 「のび」や「たれ」が見られる。
【0081】
[透水性試験]
透水性試験は、JIS A 1401(左官用セメントモルタル試験 )に準じて行なわれ、基準を満たす(合格)か否かによってその評価が行なわれた。
【0082】
[防火性能]
防火性能はJIS A 1301(建築物の木造部分の防火試験)に準じて次に示すように評価された。
難燃1級 :難燃1級の基準まで満たしている。
難燃2級 :難燃2級の基準まで満たしている。
【0083】
(表11)

【0084】
実施例15、16、および比較例14
表10に示すような組成でモルタルを作製した他は実施例14と同様にしてセメント系モルタルを得て、亀裂試験、透水性試験、防火試験、曲げ試験、施工時表面仕上がり試験を行った。結果は、表11に示されるとおりである。
【0085】
このように本発明の繊維状混合物によれば、窯業系の土木・建築材料を製造する際に添加されることで、土木・建築材料の生産性を向上させることができ、また、製造された土木・建築材料の強度等の物性をバランスよく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】丸網式抄造機を用いた土木・建築部材の製造方法を説明するための説明図である。
【図2】長網式抄造機を用いた土木・建築部材の製造方法を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0087】
1 ベルト
2 送出ロール
3 転写ロール
5 抄き網ロール
6 脱水装置
7 巻取ロール
8 剥離ロール
9 原料スラリー送出装置
10 原料スラリー流入口
11、13 原料スラリー槽
12 原料スラリー流出口
14 原料スラリー
F 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状に解繊されたパルプを含むパルプ組成物50〜95重量部に対してホルマイト鉱物5〜50重量部を混合していることを特徴とする繊維状混合物。
【請求項2】
パルプ組成物は、灼熱減量が60〜90%の製紙スラッジである請求項1記載の繊維状混合物。
【請求項3】
ホルマイト鉱物は、平均長さが1μmの繊維状の結晶構造を備える請求項1又は2に記載の繊維状混合物。
【請求項4】
パルプ組成物とホルマイト鉱物の配合量の合計に対して10〜25重量%のシリカヒュームが配合されている請求項1から3のいずれかに記載の繊維状混合物。
【請求項5】
パルプを含有するパルプ組成物50〜95重量部と、ホルマイト鉱物5〜50重量部とを混合して、パルプを繊維状に解繊するとともにホルマイト鉱物を破砕することを特徴とする繊維状混合物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−204313(P2007−204313A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−24697(P2006−24697)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(301039332)ユニオン化成株式会社 (1)
【出願人】(506037711)関東化成株式会社 (1)
【出願人】(506036529)大竹工業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】