説明

繊維製品のクリーニング用サイジング剤

【課題】繊維に染み込んだ悪臭の徐放といった二次被害を防止する可能な繊維製品のクリーニング用サイジング剤の提供。
【解決手段】糊剤にβ−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを添加したサイジング剤を、繊維製品に適用してサイジング処理を行うと、特定のシクロデキストリンを含んだ糊剤が繊維の周囲や間隙を覆い、脱臭作用を有するシクロデキストリンの存在により、繊維製品に一旦取り込まれた臭気の徐放は抑止ないし抑制される。さらに、臭気が取り込まれたシクロデキストリンを含むサイジング剤は、その繊維製品を再クリーニングする度に、その水洗工程で洗浄除去され、仕上げのサイジング処理により新しいサイジング剤に入れ替わる。すなわち、クリーニングの度に徐放抑制作用の更新を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維製品のクリーニング時に、その仕上げとして行われるサイジング(糊付け)処理に用いられるサイジング剤に関し、さらに詳しくは衣類に染み付く臭いの徐放を制御し得るサイジング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
悪臭は、動植物の有機物が細菌などの微生物により腐敗や分解を受けて生じる他に、壁紙や塗料などから大気中に放出される揮発性有機物、自動車の排気ガスやタバコの煙などの形でも発生しており、騒音と共に日常生活の中で人に不快感を与えるものとなっている。悪臭は人の本能的な嗅覚センシングによって識別され単に嫌悪感を引き起こすだけに止まらない。悪臭の多くは人の健康を害する化学物質であり、その速やかなる消臭除去は、身近な健康面からも最近特に強く求められていることである。
【0003】
悪臭を消臭或いは除去する方法としては、活性炭、シリカゲル、ゼオライトといった多孔質物質を用いる吸着法、酸化チタンなどの光触媒や酸化剤などにより悪臭を分解する化学反応法、悪臭を包接固定したり、人に好まれる香料で押さえ込むマスキング法などが実用化されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、悪臭による害は、なにも悪臭発生の現場だけで終わる話ではない。悪臭発生の現場で衣類やカーテンなどの繊維製品に染み込んだ悪臭は、悪臭の原因が無くなった後にも、長時間にわたり繊維から徐々に染み出してきて回りに二次被害を与えることは日常よく経験されることである。発生源対策だけでなく、上述した繊維からの臭気の徐放といった二次被害への対策も昨今強く望まれていることである。
【0005】
本発明の目的は、繊維製品に一旦取り込まれた臭気成分の繊維からの徐放を抑止ないし抑制することによって、上述した二次被害の問題を解決しようとするものである。本発明者らはこの問題の解決に鋭意取り組み、繊維製品に対する一連のクリーニング作業の中では仕上げ工程に属するサイジング処理に着目し、そこで使われる糊剤に、脱臭作用を有することが知られているシクロデキストリンを添加すれば、被処理繊維に徐放抑制機能を付与できるのではないかとの着想を得、その実現に向けて検討を続けた。そして、繊維にコシと張りを与える糊剤の作用をシクロデキストリンは阻害しないことをまず確認し、さらに驚くべきことに、特定のシクロデキストリンにのみ前記徐放抑制作用が認められるとの知見を得て本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、糊剤にβ−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを添加した繊維製品のクリーニング用サイジング剤である。さらに、本発明の第2の課題解決手段は、ポリビニルアルコール及び/又はデンプンを糊剤とし、それにβ−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを添加した繊維製品のクリーニング用サイジング剤である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のサイジング剤を、衣類、寝具、カーペット、カーテンなどの繊維製品に適用してサイジング処理を行うと、特定のシクロデキストリンを含んだ糊剤が繊維の周囲や間隙を覆い、脱臭作用を有するシクロデキストリンの存在により、繊維製品に一旦取り込まれた臭気の徐放は抑止ないし抑制される。さらに、臭気が取り込まれたシクロデキストリンを含むサイジング剤は、その繊維製品を再クリーニングする度に、その水洗工程で洗浄除去され、仕上げのサイジング処理により新しいサイジング剤に入れ替わる。すなわち、クリーニングの度に徐放抑制作用の更新を行うことができる。
【発明の実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のサイジング剤は、糊剤と特定のシクロデキストリンとからなり、水溶液(サイジング溶液と称す。)の形で使用される。サイジング溶液は、それを繊維製品にスプレーしたり、又は繊維製品をサイジング溶液中に浸漬したりすることで、クリーニング作業の仕上げ工程で使用される。そして、このサイジング処理により繊維製品に担持されたサイジング溶液は、乾燥によって、それに含まれるサイジング剤が紡織された繊維の周囲や間隙を覆うことで、繊維相互を一時的に接着して繊維製品に適度な張りやコシを与え、更には肌触りを良くし、布地の平滑性の向上といったことも見られる。サイジング溶液中の糊剤の濃度は、サイジング処理において繊維製品に担持されるサイジング溶液の量を勘案して、繊維製品に付着する糊剤の量(繊維1kgあたりの乾燥重量)が0.1〜5.0gとなるように適宜選択されるのが良い。
【0009】
糊剤としては、コーンスターチ、小麦デンプンなどのデンプン類、トラガカントゴム、アラビアゴムなどの天然ゴム類、ゼラチン、ニカワ、ガゼインなどのタンパク類(以上、天然及び天然由来糊)、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース類、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ソーダ、ポリビニルピロリドン(以上、合成糊)等、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0010】
上記糊剤の中では、変質しやすく長期保存には向かないが、安価で繊維どうしの接着性が良く適度に張りのある仕上がりが得られるデンプン(STと称す。)と、接着性ではSTに及ばないが品質と供給が安定しているポリビニルアルコール(PVAと称す。)とが好ましく、更にPVAとSTの混合物は両者がそれぞれの短所を長所で補い合う関係であることから特に好ましい糊剤である。
【0011】
PVAには、ケン化度が90%未満の部分ケン化PVAとケン化度90%以上の完全ケン化PVAとがあるが、前者は繊維へのサイジング剤の付着性(付着量の増加)、後者は繊維どうしの接着性(接着強度の向上)に優れ、いずれもその特性を踏まえて使用され得る。
【0012】
本発明のサイジング剤にはβ−シクロデキストリン(分子量1135)またはγ−シクロデキストリン(分子量1297)が添加される。これらのシクロデキストリンには臭気に対する強い徐放抑制作用があり、徐放抑制作用の弱いα−シクロデキストリンとは区別される。シクロデキストリンの好ましい添加量は、糊剤に対する比率(シクロデキストリンの重量/糊剤の重量)として0.05〜1.0の範囲である。シクロデキストリンの比率が0.05未満では、臭気の徐放抑制が十分でなく、1.0を超えると、サイジング処理された繊維が硬くなりすぎる。
【0013】
サイジング剤には、さらに可塑剤、シリコーンエマルジョンなどを添加することができる。シリコーンエマルジョンは、クリーニング仕上げ品の肌触りなど風合いの改質、アイロン仕上げ時のアイロン滑り向上などに有効であり、糊剤に対する比率として0.01〜0.1の範囲で用いられ得る。
【0014】
サイジング剤への可塑剤の添加は、繊維どうしの接着性をさらに改善するのに有効である。可塑剤の具体例としては、グリセリン、プロピレングリコール等のグリコール類、ブチルカルビトール等が挙げられるが、これらの中でもグリセリンが特に好ましい。可塑剤の好ましい添加量は、糊剤に対する比率として0.05〜0.5の範囲である。可塑剤の比率が0.05未満では、接着性の向上がまだ十分でなく、0.5を超えると、可塑剤のブリードが問題となる。
【実施例1】
【0015】
<試験布地の作製>
JIS染色堅ろう度試験用添付白布((財)日本規格協会製)の毛、綿(かなきん3号)及びポリエステルの3種類の白色布地を用意し、家庭用洗濯機を用いて洗浄脱脂して乾燥した後、それぞれを10cm角に裁断して試験布地とした。続いて、各試験布地を温度60℃、気圧1Torr、20時間の条件で減圧乾燥して、サイジング処理に供した。減圧乾燥された試験布地の重量は、毛で3.74〜3.76g、綿で3.24〜3.36g、ポリエステルで2.55〜2.57gの範囲であった。
<試験布地のサイジング処理>
【0016】
約500cmの水にPVA(東京化成(株)製、ケン化度98%)7gとST(日澱化学(株)製、ラスターゲンFK)3gを攪拌しながら添加し、80℃まで昇温して均一溶液になったら室温になるまで放冷し、水を加えて1000cmとし、濃度1%(重量/容量%)、PVA/ST比=7/3の糊剤溶液を得た。さらに、この糊剤溶液を用い、β−シクロデキストリン(メルシャン(株)製RINDEX−B)を添加して、シクロデキストリン濃度1mMのサイジング溶液を調整した。
続いて、サイジング溶液100cm中に、毛、綿及びポリエステルのそれぞれの試験布地を浸漬し、攪拌しながら温度20℃で1時間放置した後、布地をローラ搾り機にかけてサイジング溶液の担持量を調節してから、ドラフト内で2時間自然乾燥させ、サイジング処理布地を得た。試験布地へのサイジング剤の付着量は、このサイジング処理布地を温度60℃、気圧1Torr、20時間の条件でさらに減圧乾燥したものの重量増加から試験布地1kgあたりに換算して求めたところ、毛で1.4g、綿で2.15g、ポリエステルで2.24gであった。
【0017】
<臭気の吸脱着試験>
検知管による臭気ガスの採取分析を可能にするガス採取孔(栓付き)が設けられた、内容積3000cmのデシケータを用意し、毛、綿及びポリエステルのサイジング処理布地のそれぞれについて試験を行った。
まず、サイジング処理布地を2.5cm×10cmの長方形に裁断し、デシケータに投入した。続いて、臭気成分としてトリクロロエチレン(1,1,2−トリクロロエテン、TCEと称す。)をデシケータに所定量注入して気化させ、1時間静置した後、デシケータからサイジング処理布地を取り出し、ドラフトに移して10分間清浄な空気に曝した。さらに、この10分間ベンチレーションされたサイジング処理布地を、清浄な空気が入ったデシケータに投入し、密閉状態で3時間放置して、その間にサイジング処理布地から放出される臭気成分の量をデシケータ内のガス濃度として測定した。なお、デシケータへのTCEの注入量は、サイジング処理布地を入れない状態で、注入から1時間後のTCEの器内濃度が300ppmとなる量を実験で求めて用いた。TCEのガス濃度の測定は、検知管(ガステック(株)製)を用い、デシケータに設けられたガス採取孔からガスを採取して行った。
【0018】
吸脱着試験の結果、毛、綿及びポリエステルのいずれのサイジング処理布地においても、3時間放置後のデシケータ内のガス濃度は、0ppmであり、β−シクロデキストリンを含むサイジング剤で処理された試験布地においては、臭気の徐放はまったく認められなかった。
【実施例2】
【0019】
β−シクロデキストリンに代えて、γ−シクロデキストリン(メルシャン(株)製RINDEX−C)を用いた以外は実施例1と同様にして試験を行った。
吸脱着試験の結果、毛、綿及びポリエステルのいずれのサイジング処理布地においても、3時間放置後のデシケータ内のガス濃度は、0ppmであり、γ−シクロデキストリンを含むサイジング剤で処理された試験布地においても、臭気の徐放はまったく認められなかった。
【比較例1】
【0020】
シクロデキストリンを一切添加せず、濃度1%(重量/容量%)、PVA/ST比=7/3の糊剤溶液をサイジング溶液として用いた以外は、実施例1と同様にして試験を行った。試験布地へのサイジング剤の付着量は、毛で1.03g、綿で1.20g、ポリエステルで1.96gであった。
吸脱着試験の結果、3時間放置後のデシケータ内のガス濃度は、毛で5ppm、綿で4.5ppm、ポリエステルで7ppmあり、シクロデキストリンを含まないこの従来処方のサイジング剤で処理された試験布地においては、吸着実験で布地に取り込まれた臭気の長期に及ぶ徐放は明らかである。
【比較例2】
【0021】
β−シクロデキストリンに代えて、α−シクロデキストリン(メルシャン(株)製RINDEX−A)を用いた以外は実施例1と同様にして試験を行った。
吸脱着試験の結果、3時間放置後のデシケータ内のガス濃度は、毛で3ppm、綿で4ppm、ポリエステルで5ppmあり、α−シクロデキストリンを含むサイジング剤で処理された試験布地においては、従来処方と比べ若干の改善がみられるものの、臭気の徐放抑制はまだ不十分であった。
【0022】
上述した臭気の吸脱着試験においては、サイジング処理布地が入ったデシケータにTCE注入してから1時間経過後のデシケータ内のTCE濃度は100〜120ppmであり、設定された初期濃度300ppmと考え合わせると、サイジング処理布地へのTCEの強い吸着が確認されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糊剤にβ−シクロデキストリンまたはγ−シクロデキストリンを添加したことを特徴とする、繊維製品のクリーニング用サイジング剤。
【請求項2】
糊剤がポリビニルアルコール及び/又はデンプンである、請求項1に記載の繊維製品のクリーニング用サイジング剤。

【公開番号】特開2007−224479(P2007−224479A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81719(P2006−81719)
【出願日】平成18年2月24日(2006.2.24)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.関東学院大学工学部、研究報告、第49巻1号、平成17年9月16日発行 2.社団法人日本繊維製品消費科学会、繊維製品消費科学、第47巻1号、平成18年1月25日発行
【出願人】(592246381)株式会社ミズホケミカル (7)
【Fターム(参考)】