説明

織機における緯糸貯留装置

【課題】単一の回転ドラムに貯留する複数の緯糸の各貯留量を同一にできる緯糸貯留装置を提供する。
【解決手段】緯糸Y1は緯糸案内レバー15の糸押さえ33により緯糸係止ピン21に係止されて巻付けが開始される。緯糸Y1は設定された回転ドラム13の回転数により1ピック分の長さを巻付けられ、貯留される。緯糸Y2が緯入れされる場合は、制御部36から電動モータ38へ緯糸Y1と異なる回転数信号が発信され、巻付け初期には回転ドラム13の低速回転数で巻付けられ、その後は回転ドラム13の高速回転数で巻付けられ、貯留される。従って、緯糸Y2は緯糸Y1と異なる回転ドラム13の回転数で巻付けられることにより、緯糸Y2の配置に起因する巻付け長さの差が補われて巻付け、貯留される。このため、緯糸貯留装置は単一の回転ドラム13においても、緯糸Y1及び緯糸Y2を同一の長さに巻付け、貯留することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、複数の給糸部を備えた織機における緯糸貯留装置に関する。
【背景技術】
【0002】
緯糸を断片的に緯入れする無杼織機において、緯入れ時における緯糸の引き出し抵抗や引き出し抵抗のばらつきを減少するために、給糸部から引き出した緯糸をドラムの周面に貯留した後、緯入れに供するドラム式緯糸貯留方法が実施されている。特に、2以上の同種又は異種の緯糸を使用する多色織物用の織機においては、使用する緯糸数と同数の緯糸貯留ドラムを必要とし、緯入れ機構の外方に複数の給糸部と複数の緯糸貯留ドラムを設置しなければならない。このため、1台の織機の占有面積が拡大されるとともに緯糸貯留装置全体の構成が複雑になり、またコストアップにもなるなどの不具合がある。
【0003】
上記の不具合を解消する技術として、例えば、特許文献1には、複数の固定緯糸供給部(給糸部に該当する)に対して単一の回転ドラムを用いて緯糸を貯留する発明が開示されている。特許文献1によれば、多色緯糸供給装置は、連続回転する回転ドラムの外周面の近傍位置に、複数の緯糸を並列に張架しておく。緯入れ作用に先行して次期緯入れ対象の緯糸は、緯糸案内レバーによって回転ドラムの軸心方向に変位され、回転ドラム上の緯糸係留ピンに係留されることにより、回転ドラムに巻付けられ、貯留される。
【0004】
緯糸係留ピンは、設定された時期にカム等の機械的な手段により作動され、回転ドラム上に突出あるいは回転ドラム内に没入される。緯糸案内レバーは、複数の緯糸に対応して複数設置され、それぞれスプリングによって回転ドラムの軸心方向に傾動するように付勢されているが、常時は緯糸案内レバー毎に設けられたソレノイドにより傾動を規制されている。次期緯入れ対象の緯糸に対応する緯糸案内レバーのソレノイドは、織物組織あるいは織柄を決定するパターンカードからの緯入れ信号に基づき作動され、緯糸案内レバーの規制を解除する。規制を解除された緯糸案内レバーは、スプリングによって傾動され、次期緯入れ対象の緯糸を回転ドラム上の緯糸係留ピンと係留する位置に案内する。従って、緯糸は回転ドラムに巻付けられ、貯留される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭48−42164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、複数の固定緯糸供給部から緯入れ機構に張架された各緯糸は、単一の回転ドラムの周囲に干渉しないように間隔を開けて配列されている。従って、緯糸案内レバーによって回転ドラムの周面に案内された各緯糸の位置は、緯糸係留ピンの突出位置からの距離が異なる形態となる。一方、緯糸係留ピンは、緯入れに先立ち、緯糸を貯留するために回転ドラムから突出する時期及び緯入れのために回転ドラム内に没入し、緯糸を解放する時期が一定に設定されている。
【0007】
なお、緯糸の解放時期(緯糸係留ピンの没入時期)は緯入れを行うために絶対的なタイミングであり、変更することができない。また、緯糸係留ピンの突出時期は、カム等の機械的手段により作動されるため、変更することができない。このような構成において、回転ドラムに1回の緯入れに必要な長さ、即ち1ピック分の長さの緯糸を貯留しようとすると、緯糸係留ピンの突出位置あるいは没入位置から各緯糸の案内位置までの距離が異なるために、各緯糸の貯留量にばらつきが出る問題がある。例えば、1の緯糸を1ピック分の長さを貯留できるように設定すると、他の緯糸は1ピック分より長い緯糸を貯留するか、1ピック分より短い緯糸を貯留することになる。このため、他の緯糸は、いずれの場合も緯入れ不良となる恐れがある。
【0008】
本願発明は、単一の回転ドラムに貯留する複数の緯糸の各貯留量を同一にできる緯糸貯留装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1は、複数の給糸部の下流に単一の回転ドラムが配設され、前記回転ドラムに、前記回転ドラムの外周面に進退可能な緯糸係止ピンが配設されるとともに前記複数の給糸部に対応して前記給糸部の緯糸を前記緯糸係止ピンに案内する複数の緯糸案内レバーが配設され、選択された前記給糸部の緯糸を前記緯糸案内レバーにより前記緯糸係止ピンに係止させて前記回転ドラムに巻付け、貯留する織機における緯糸貯留装置において、前記複数の給糸部から引き出されている各緯糸が前記緯糸係止ピンの緯糸解放位置からの前記回転ドラムの外周面上の距離の差に応じて、前記緯糸毎に貯留量が同じとなるように前記緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの回転数を異ならせたことを特徴とする。
【0010】
請求項1によれば、緯糸の巻付け時に、選択された緯糸の案内される位置に応じて回転ドラムの回転数を異ならせることにより、全ての緯糸の貯留量を同一にすることができ、緯糸の貯留量のばらつきに起因して発生する緯入れ不良を防止することができる。
【0011】
請求項2は、前記回転ドラムの回転数は、前記緯糸解放位置から最も離れて配置された緯糸の巻付け時の回転数を基準にして他の位置に配置された緯糸の巻付け時の回転数を設定したことを特徴とする。請求項2によれば、緯糸解放位置から最も離れて配置された緯糸の巻付け時における回転ドラムの回転数を基準にするため、他の緯糸の巻付けに必要な回転ドラムの回転数は配置された緯糸間の距離の差に対応して順次変更すれば良く、回転ドラムの回転数の設定が容易である。
【0012】
請求項3は、前記緯糸解放位置から最も離れて配置された緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの回転数を前記回転数に設定し、他の位置に配置された緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの巻付け初期の回転数を前記回転数よりも低く設定するとともに前記巻付け初期よりも後の回転数を前記回転数よりも高く設定したことを特徴とする。請求項3によれば、他の位置に配置された緯糸の巻付け時における回転ドラムの回転数の変更において、回転ドラムの初期回転数よりも巻付け後半の回転数が高くなるように設定することにより、貯留される緯糸の長さを揃えるだけでなく、織機の回転との同期が取り易いという利点がある。
【0013】
請求項4は、前記緯糸案内レバーは、移動又は待機をソレノイドにより制御され、前記緯糸係止ピンに対する緯糸の案内をカム機構により制御されることを特徴とする。請求項4によれば、緯糸案内レバーの選択と動作を電気的な制御と機械的な制御の組合せにより行うため、緯糸係止ピンへの緯糸の係止を確実に行わせることができる。また、織物組織あるいは織柄等から作成された緯入れパターンの緯入れ信号に基づくソレノイドの作動タイミングのばらつきをカム機構により吸収することができ、ソレノイドの作動タイミングの設定が容易になる。
【発明の効果】
【0014】
本願発明は、複数の給糸部に対して単一の回転ドラムを使用して緯糸の貯留を行う織機の緯糸貯留装置において、各緯糸の貯留量を同一にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エアジェット織機の緯糸貯留装置を示す平面図である。
【図2】緯糸貯留装置のカム機構とカムフォロアの転動状態を示す正面図である。
【図3】図2に示したカム機構の断面図である。
【図4】回転ドラムに対する緯糸の位置関係を示す側面図である。
【図5】緯糸の巻付け及び緯入れと回転ドラムの回転数との関係を説明するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本願発明の実施形態を図1〜図5に基づいて説明する。図1は、緯入れ機構として空気流の噴射により緯入れを行う2本の緯入れノズル1、2及び2体の給糸部3、4を備えた多色織物用のエアジェット織機における緯糸貯留装置を示している。緯入れノズル1及び緯入れノズル2は、織物組織あるいは織柄に基づき作成された緯入れパターンのプログラムを備えた制御部36の指令信号により緯入れ動作を行う。緯入れノズル1の上流側には、カム等の機械的な駆動源により作動される緯糸把持部5及び緯糸把持部5を挟んで配列された緯糸ガイド6、7が設けられている。同様に、緯入れノズル2の上流側には、緯糸把持部8及び緯糸把持部8を挟んで配列された緯糸ガイド9、10が設けられている。緯糸把持部5、8は緯入れ開始時及び緯入れ終了時に緯糸Y1、Y2の開放及び把持を行う。給糸部3、4の近傍には、緯糸ガイドを板ばねにより支持したテンサー11、12が設けられ、給糸部3、4から引き出される緯糸Y1、Y2はそれぞれテンサー11、12から緯糸ガイド6、7、9、10に張架され、緯入れノズル1、2に至る。
【0017】
給糸部3、4と給糸部3、4の下流となる緯糸把持部5、8との間には、単一の回転ドラム13と、回転ドラム13と一体回転可能なカム機構14と、給糸部3、4に対応する2体の緯糸案内レバー15、16とが配設されている。回転ドラム13は、截頭円錐形の筒体で形成され、電動モータ38の伝動機構39に連結する被動ギヤ17及び筒状の回転軸18を介して図1の矢印方向に回転される。回転ドラム13及び回転軸18の内部には、回転ドラム13の軸心X方向に往復移動可能に嵌入された駆動ロッド19が設けられている。
【0018】
回転ドラム13の内壁部には、L字型リンク20が回動可能に取り付けられている。L字型リンク20の一端は駆動ロッド19の端部と連結し、L字型リンク20の他端は緯糸係止ピン21を構成する。緯糸係止ピン21は回転ドラム13に穿設された孔37(図4参照)に対応して配置され、孔37を通して回転ドラム13の内部と回転ドラム13の外周面13A上との間を進退可能である。緯糸係止ピン21は、軸心X方向への駆動ロッド19の往動に伴い回転ドラム13の外周面13A上に進出し、また、軸心X方向への駆動ロッド19の復動に伴い回転ドラム13内に後退する。従って、駆動ロッド19、L字型リンク20及び緯糸係止ピン21は、緯糸係止ピン21の進退動作を伴いながら、回転ドラム13とともに回転する。
【0019】
カム機構14は、図2及び図3に示すように、円板カム22により構成され、中心に回転軸18が嵌合する軸孔23が穿設されている。円板カム22は周面に形成されたカム面のほぼ半分が一定の半径に形成された山部24、残りのほぼ半分が山部24よりも漸次小径となる谷部25として形成されている。谷部25の最も小径の位置には、カム面と同心円状に形成された屋根26により覆われた溝カム部27が設けられている。溝カム部27よりも円板カム22の回転方向(図2の矢印方向)側の谷部25には、円板カム22の周面外方が開放された導入開口カム部28が設けられ、回転方向手前側の谷部25には、円板カム22の周面外方が開放された導出開口カム部29が設けられている。
【0020】
緯糸案内レバー15、16は、位相が異なるのみで構造が同一であるため、緯糸案内レバー15についてのみ構造を説明する。また、緯糸案内レバー15の説明に使用した符号は、緯糸案内レバー16の説明に援用する。緯糸案内レバー15は、垂直レバー30と水平レバー31とをL字型に一体化した本体を有し、回転ドラム13の軸心Xに向けて接近及び離間する方向に移動可能に設けられている。垂直レバー30はカム機構14に向けて延出し、水平レバー31は回転ドラム13の外周面13Aの外方で軸心Xと平行となるように延出している。また、緯糸案内レバー15はばね機構としてのスプリング35により軸心Xに向けて接近する方向に付勢されている。
【0021】
垂直レバー30は下端に、カム機構14の円板カム22に形成されたカム面に接触するカムフォロア32を備え、水平レバー31は回転ドラム13の外周面13Aに対向する糸押え33を備えている。糸押え33は、緯糸案内レバー15が回転ドラム13の軸心Xから最も離間した位置において、図1に仮想線で示した緯糸Y1に僅かに接触しない状態となる(図1における緯糸案内レバー16の糸押え33と緯糸Y2との位置関係を参照)。従って、緯糸Y1は回転ドラム13への巻付けが停止された状態となる。
【0022】
垂直レバー30の側方には、アクチュエータとして構成されたソレノイド34が配設され、ソレノイド34は制御部36からの緯入れパターンに基づく指令信号により突出動作又は後退動作を行う。ソレノイド34の突出動作は垂直レバー30の一部に係合して緯糸案内レバー15の移動を規制するため、緯糸案内レバー15が回転ドラム13の軸心Xから最も離間した位置に保持される。従って、ソレノイド34は、制御部36からの指令に基づき緯糸案内レバー15の規制と移動とを選択的に制御することができる。なお、図1に示した符号Tは経糸、Wは織布、Kは緯糸切断装置である。
【0023】
図4において、回転ドラム13に対する緯糸Y1及び緯糸Y2の位置関係を説明する。回転ドラム13の外周において、緯糸Y1はテンサー11から緯糸ガイド7に張架され、緯糸Y2は緯糸Y1と干渉しないように間隔を空けて配置されている。図4の例では、緯糸Y2は、緯糸Y1とほぼ180度の間隔を空け、対象位置となるようにテンサー12から緯糸ガイド10に張架されている。緯糸Y1と緯糸Y2との間には、回転ドラム13の外周面13Aにおける長さLの距離が生じている。給糸部が3体以上設置されるような場合は、通常、回転ドラム13の外周囲を等分に分割した形で配置される。例えば、給糸部が4体設置されるような場合、4本の緯糸は90度の間隔を空けて配置される。従って、各緯糸間には、必ず配置された間隔に応じた外周面13Aにおける距離の差が生じることになる。
【0024】
一方、緯糸Y1又は緯糸Y2を係止するための緯糸係止ピン21の進出時期は、駆動ロッド19を駆動するカム等により規定されており、緯糸係止ピン21は図4の実線で示すように、回転ドラム13の回転方向で見て、緯糸Y1及び緯糸Y2の位置よりも手前となる位置で進出する。また、緯糸Y1又は緯糸Y2を解放するための緯糸係止ピン21の後退時期は、緯入れパターンにおいて設定されている緯入れ開始時期であり、図4の仮想線で示した位置となる。このため、回転ドラム13が駆動されると、緯糸係止ピン21により係止された後、解放される(仮想線で示す緯糸係止ピン21の位置)までに外周面13A上に巻付けられた緯糸Y1と緯糸Y2の長さには、長さLの距離の差が生じることになる。
【0025】
本願発明の実施形態では、緯糸Y1又は緯糸Y2が選択された場合に、制御部36により回転ドラム13を駆動する電動モータ38の回転数制御を行うように構成している。なお、本実施形態では、制御のための基準は、緯糸Y1又は緯糸Y2の解放位置(仮想線で示す緯糸係止ピン21の位置)に設定している。制御基準として緯糸解放位置を選択した理由は、緯入れ時期と同一である緯糸解放時期は織成において変更不可の条件であるが、緯糸Y1又は緯糸Y2を係止するために緯糸係止ピン21が突出する時期は、駆動手段をカムで無く、電気的なアクチュエータを使用すれば、係止可能なタイミングで自由に変更可能なためである。
【0026】
制御部36には、図4の例で、緯糸解放位置から回転ドラム13の回転方向と反対方向に最も離れて配置される緯糸Y1を巻付ける回転数に対し、他の緯糸Y2を巻き付ける場合、回転ドラム13の回転数が異なるように設定されている。即ち、緯糸係止ピン21による緯糸Y2の係止時期から緯糸Y2の緯入れ時期である緯糸係止ピン21による緯糸Y2の解放時期までの初期の回転数は、緯糸Y1における回転数よりも低い回転数に設定される。また、緯糸Y2の解放後、巻付け終了までの回転数は、緯糸Y1よりも高く設定されている。
【0027】
従って、緯糸Y1は回転ドラム13により1ピック分の長さが貯留され、緯糸Y2は初期の低回転数に加えて後半の高回転数により長さLの距離の差を補い、1ピック分の長さが貯留されることになる。このため、単一の回転ドラム13に対して複数の緯糸Y1及び緯糸Y2が位相を変えて配置された構成において、1ピック分に相当する長さの巻付け、貯留量を共に得ることができる。なお、緯糸Y2を巻付ける場合に、回転ドラム13の回転数を低速から高速に変動させた設定は、織機の回転との同期が取り易いという利点がある。
【0028】
本願発明の実施形態における作用を図1、図2、図4及び図5に基づき説明する。緯入れ順序としては、図5に示すように、まず緯糸Y1が緯入れされ、次に緯糸Y2が緯入れされるものとする。織機の運転中、緯糸Y1の緯入れ開始に先立ち、駆動ロッド19が図1の右方へ往動し、緯糸係止ピン21が回転ドラム13の外周面13A上に進出する(図4の実線参照)。同時に、制御部36から緯糸Y1の巻付け指令信号が発信されることにより、ソレノイド34が後退作動して、垂直レバー30との係合を解除し、垂直レバー30の規制、即ち緯糸案内レバー15の規制を解除する。
【0029】
緯糸案内レバー15はスプリング35の付勢力により回転ドラム13の軸心Xに向けて移動する。この移動過程で、糸押え33は図1の仮想線位置にある緯糸Y1と係合し、緯糸Y1を回転ドラム13の外周面13A側に移行する。また、カムフォロア32が図2の32Aで示す導入開口カム部28に圧接されるため、緯糸案内レバー15は導入開口カム部28のカム面に従って移動する。なお、導入開口カム部28はカム面の作用範囲を広く設定している。このため、カムフォロア32と導入開口カム部28のカム面との接触時期がずれても問題を生じない。従って、ソレノイド34は、緯糸案内レバー15の規制解除タイミングの設定が自由になるとともに、ソレノイド34に生じる規制解除タイミングのばらつきを導入開口カム部28によって吸収させることができる。
【0030】
カムフォロア32が溝カム部27に導入された時点(図2の32B参照)で、緯糸案内レバー15は緯糸Y1を緯糸係止ピン21と係合可能な実線で示す位置(図1参照)に移行する。緯糸案内レバー15の移動位置は溝カム部27によって規定され、織機の振動等に影響されること無く安定に保たれる(図2の32C参照)。このため、緯糸Y1は緯糸係止ピン21によって確実に係止され、回転ドラム13の一定回転数により外周面13Aへの巻付けが開始される。
【0031】
緯糸Y1の巻付けが開始されると、カムフォロア32は、溝カム部27において図2の32Dの位置に達し、導出開口カム部29に導出される。従って、緯糸案内レバー15は導出開口カム部29のカム面により、回転ドラム13の軸心Xから離れる方向に移動される(図2の32E参照)。
【0032】
カムフォロア32は、さらに導出開口カム部29から山部24に達する(図2の32F参照)ため、緯糸案内レバー15は山部24のカム面によって回転ドラム13の軸心Xから最も離れた位置に維持される。この状態で、制御部36からソレノイド34に突出作動の指令信号が発信される。ソレノイド34は突出作動することにより垂直レバー30と係合し、垂直レバー30の移動を規制するため、緯糸案内レバー15は軸心Xから最も離間した待機状態の位置に保持され、次の巻付け、貯留作用に備える。
【0033】
一方、緯糸Y1の巻付け、貯留が進行し、緯糸Y1が一回分の緯入れに必要な長さよりも少ない所定の長さだけ貯留された時点で、緯糸Y1の巻付けを継続しながら、制御部36から緯入れ信号が発信される。図示しない駆動機構により緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退される(図4の仮想線参照)とともに緯糸把持部5が緯糸Y1を解放し、緯入れノズル1によって緯入れが開始される。従って、回転ドラム13に巻付けられた緯糸Y1は、緯入れノズル1によって順次引き出され、経糸Tの開口内へ緯入れされる。
【0034】
緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退した後も、回転ドラム13に残留している緯糸Y1に回転ドラム13の外周面13Aに対する巻き付き抵抗が生じているため、回転ドラム13には、緯入れノズル1による緯糸Y1の解除と並行して、緯糸Y1が給糸部3から継続して引き出され、回転ドラム13に巻き付けられる。緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退する前に回転ドラム13に巻き付けられる緯糸Y1の巻き付け長さと、緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退した後に回転ドラム13に巻き付けられる緯糸Y1の長さとの合計が1ピック分(緯入れ一回分)の長さとなるように、緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退するタイミングが設定されている。1ピック分の緯糸Y1が緯入れノズル1によって緯入れされた時点で、緯糸把持部5が作動され、緯糸Y1を把持するため、緯糸Y1の緯入れが終了する。
【0035】
続いて、緯入れパターンに基づき、図5に示すように、緯糸Y2の緯入れが行われる。緯糸案内レバー16による緯糸Y2の回転ドラム13への巻付け、貯留作用は、図5に示すように、緯入れノズル2による緯糸Y2の緯入れ開始前に行われる。即ち、緯糸Y2は、緯糸案内レバー16がソレノイド34による規制を解除されることにより、回転ドラム13の外周面13A側に案内され、緯糸係止ピン21に係止される。緯糸案内レバー16のカムフォロア32が、スプリング35の付勢力とカム機構14との協働作用により制御されることにより、糸押え33は緯糸Y2の案内位置を安定化し、緯糸係止ピン21による緯糸Y2の係止を確実に行わせることができる。このような緯糸案内レバー16による緯糸Y2の巻付け開始までの動作は、緯糸案内レバー15による緯糸Y1の場合と同一であるため、詳細な説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。
【0036】
緯糸Y2の緯入れが選択されると、制御部36はソレノイド34に後退作動の指令信号を発信するとともに回転ドラム13の電動モータ38に図5に示す低速の回転指令信号を発信する。従って、回転ドラム13は緯糸Y1の時よりも低速で回転し、緯糸Y2の巻付けを開始し、貯留していく。緯糸係止ピン21が回転ドラム13内に後退し、緯糸Y2を解放するタイミングで、制御部36は緯入れノズル2に緯入れ開始信号を発信するとともに電動モータ38に図5で示す高速の回転指令信号を発信する。従って、回転ドラム13は緯糸Y1の時よりも高速で回転し、図5に示す緯糸Y2の巻付け終了時までに図4に示す長さLの距離の差を補った長さ、即ち1ピック分の長さの緯糸Y2が巻付けられ、貯留される。このため、緯糸貯留装置は緯糸Y1及び緯糸Y2のいずれが選択されても貯留量にばらつきを生じることが無く、安定した緯入れを可能とする。
【0037】
本願発明は、前記した実施形態の構成に限定されるものではなく、本願発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、次のように実施することができる。
【0038】
(1)緯糸Y2の巻付けにおける回転ドラム13の回転数は、図5に示すように、巻付け初期とその後の回転数を変動させる設定に限らず、図4に示す長さLの距離の差を解消できる回転数の変更ならば、一定回転数に設定してもよい。この場合に、織機の回転との同期の取り方として、例えば、回転数を変更した場合のみ電動モータ38の同期パルス数を変更するように設定すればよい。
(2)緯糸係止ピン21は、機械的に駆動される構成に限らず、ソレノイドのように電気的、あるいはシリンダのように油圧又は空気圧で駆動されるアクチュエータで構成することができる。
(3)緯糸係止ピン21は、回転ドラム13の内部から外部へ進退する機構に限らず、回転ドラム13の外部から内部へ進退する構成であっても実施することができる。
【0039】
(4)カム機構14は、前記実施形態に示した溝カム部27を有しないオープンな円板カムにより構成しても良く、また、円板カム以外の平面カムや立体カムにより構成することができる。
(5)緯糸案内レバー15、16は、スプリング35を積極的な駆動部を有する移動機構に置き換えることが可能である。また、緯糸案内レバー15、16の形態は、カムフォロア32及び糸押え33を備えるものであれば、前記実施形態に限らず、他の種々の形状を選択することができる。
(6)緯糸案内レバー15、16の規制、解除は、電気的に作動されるソレノイド34に限らず、選択機能を有するものであれば、機械的な駆動機構で実施することができる。
【0040】
(7)前記実施形態では、2種類の緯糸Y1、Y2を緯入れする織機を示したが、同種又は異種の緯糸を3種類以上使用する織機において実施することができる。
(8)本願発明は、エアジェット織機に限らず、ウォータジェット織機、レピア織機、グリッパー織機等の緯糸を断片的に緯入れする織機において実施することができる。
【符号の説明】
【0041】
・ 緯入れノズル
・ 給糸部
・ 緯糸把持部
13 回転ドラム
13A 外周面
14 カム機構
15、16 緯糸案内レバー
18 回転軸
19 駆動ロッド
21 緯糸係止ピン
22 円板カム
24 山部
25 谷部
26 屋根
27 溝カム部
28 導入開口カム部
29 導出開口カム部
30 垂直レバー
31 水平レバー
32 カムフォロア
33 糸押さえ
34 ソレノイド
35 スプリング
36 制御部
37 孔
38 電動モータ
39 伝動機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の給糸部の下流に単一の回転ドラムが配設され、前記回転ドラムに、前記回転ドラムの外周面に進退可能な緯糸係止ピンが配設されるとともに前記複数の給糸部に対応して前記給糸部の緯糸を前記緯糸係止ピンに案内する複数の緯糸案内レバーが配設され、選択された前記給糸部の緯糸を前記緯糸案内レバーにより前記緯糸係止ピンに係止させて前記回転ドラムに巻付け、貯留する織機における緯糸貯留装置において、
前記複数の給糸部から引き出されている各緯糸が前記緯糸係止ピンの緯糸解放位置からの前記回転ドラムの外周面上の距離の差に応じて、前記緯糸毎に貯留量が同じとなるように前記緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの回転数を異ならせたことを特徴とする織機における緯糸貯留装置。
【請求項2】
前記回転ドラムの回転数は、前記緯糸解放位置から最も離れて配置された緯糸の巻付け時の回転数を基準にして他の位置に配置された緯糸の巻付け時の回転数を設定したことを特徴とする請求項1に記載の織機における緯糸貯留装置。
【請求項3】
前記緯糸解放位置から最も離れて配置された緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの回転数に比べ、他の位置に配置された緯糸の巻付け時における前記回転ドラムの巻付け初期の回転数を前記回転数よりも低く設定するとともに前記巻付け初期よりも後の回転数を前記回転数よりも高く設定したことを特徴とする請求項2に記載の織機における緯糸貯留装置。
【請求項4】
前記緯糸案内レバーは、移動又は待機をソレノイドにより制御され、前記緯糸係止ピンに対する緯糸の案内をカム機構により制御されることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の織機における緯糸貯留装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−246581(P2012−246581A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118538(P2011−118538)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】