説明

織機の織布巻取り装置

【課題】 織布の巻き取りの際に生じがちな巻皺の発生を確実に防止するほか、巻皺防止手段を従来よりも比較的簡単に製作することができる織機の織布巻取り装置の提供にある。
【解決手段】 織布Wの巻き取りにより巻布を形成するクロスローラ14と、クロスローラ14に対して平行に延在され、かつ、該巻布Rと巻き付け前の織布Wとの間に配置された巻皺防止手段17を備え、巻皺防止手段17は、巻布Rに押接する押接部と、巻き付け前の織布Wをクロスローラ14へ案内する案内部を有し、押接部は、少なくとも巻布Rの周方向(巻布周方向)の複数の位置で接触する接触点20を含み、案内部の巻布周方向の長さは、押接部の巻布周方向の長さよりも狭く設定され、案内部は、案内される織布Wと摺接する断面円弧状の案内面27を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、織機の織布巻取り装置に関し、特に、織布をクロスローラに巻き取る際に、巻布における巻皺を防止する巻皺防止手段が備えられた織機の織布巻取り装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、織機には製織された織布を巻き取る織布巻取り装置が備えられている。
具体的には、製織後の織布を、サーフェスローラやプレスローラ等を通じてクロスローラに巻き取り、クロスローラに巻布を形成する織布巻取り装置が存在する。
この種の織布巻取り装置による織布の巻き取りでは、巻き取りのために必要な所定の張力が巻き取り前の織布に存在するが、織布における不均一な張力はクロスローラにおける巻き取り直後の織布に巻皺を生じる原因となる。
そこで、従来の織機の織布巻取り装置では、巻き付け直後の織布における巻皺を防止するための巻皺防止手段を備えることが多い。
【0003】
第1の従来技術として、例えば、図6には、巻皺防止手段51を備えた織布巻取り装置の要部が示されている。
この織布巻取り装置における巻皺防止手段51は、クロスローラ53に対して平行に延在され、かつ、巻布Rと巻き付け前の織布Wとの間に配置された丸棒の押えローラ52から主に構成されている。
押えローラ52は、プレスローラ等からの織布Wをクロスローラ53へ案内するとともに、織布Wの案内より生じるクロスローラ53側への押接力により、巻布Rの周面を押圧する(例えば、特許文献1を参照。)。
なお、図6では、押えローラ52が巻き取り方向へ湾曲した状態を実線で示し、この湾曲によって巻布Rに巻皺Sが生じた状態を示している。
因みに、湾曲されていない状態の押えローラ52は、図6において2点鎖線により示している。
【0004】
また、第2の従来技術としては、例えば、図7に示される巻皺防止手段55を備えた織布巻取り装置が知られている。
この巻皺防止手段55は、断面円弧58の周面と平坦面57から主に構成される棒状の押え部材56であり、押え部材56は略カマボコ状の断面形態を有する。
押え部材56は、クロスローラ53に対して平行に延在され、押え部材56が有する平坦面57はクロスローラ53側の巻布Rの周面へ当接し、断面円弧の周面58が巻き付け前の織布Wを案内する。
また、織布Wを案内する周面58には、織布Wの巻き取り方向に向かうにつれて外側へ拡がる多数の傾斜溝59が、押え部材56の長手方向において左右対称に形成されている。
これらの傾斜溝59は、織布Wに生じる張力と相俟って、押え部材56の両端部へ織布Wを拡張し、幅方向に織布Wを拡張することにより巻皺を防止している。
なお、プレスローラ(図示せず)から押え部材56へ至る織布Wと、押え部材56からクロスローラ53へ至る織布Wとの間には、巻布Rの径に応じて変化する案内角Xが形成される。
【0005】
また、第3の従来技術として、クロスローラの巻布に対して当接する複数のローラと、巻き取り前の織布をクロスローラに案内する案内部材を含む織布巻き取り装置が存在する(例えば、特許文献2を参照。)。
【特許文献1】実開平5−77283号公報
【特許文献2】特公昭50−33185号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
第1の従来技術では、押えローラとして丸棒を用い、押えローラは両端部により支持されていることから、巻き取りに必要な織布の張力は、押えローラに対して巻き取り方向へ湾曲させる力を付与する。
押えローラに湾曲が生じることは巻皺の発生を助長するという問題がある。
特に、織布が幅広となる場合には、押えローラの径に対する軸長さの割合が大きくなり、この場合、織布の張力を受ける押えローラはさらに湾曲し易くなる。
【0007】
第2の従来技術では、押え部材の周面が巻き取り前の織布を案内する一方で、押え部材の平坦面が巻布を押接するから、巻布に対する押え部材の面接触が巻皺防止を図ることができる点で有利性が認められる。
しかしながら、押え部材が断面略カマボコ状であることから、例えば、押え部材を丸棒から製作する場合には、平坦面形成の切断加工、平坦面と周面との境界付近の面取り加工、加工に伴う歪除去等を施す必要があり、押え部材を容易に製作することができないという問題がある。
また、プレスローラから押え部材へ至る織布と、押え部材からクロスローラへ至る織布とにより形成される案内角は、押え部材における断面円弧の径により決定されてしまうという問題がある。
例えば、案内角を小さくすることにより、巻布に対する押え部材の押接力を高める効果が期待できるが、この場合、案内角を小さくするためには、平坦面の面積を狭くするか、押え部材の円弧の径を大きく設定するしかない。
平坦面を狭くすることは巻皺防止を効果を減退させることになり、また、円弧の径を大きく設定することは押え部材の大型化や重量増大を招く等の問題を生じる。
【0008】
第3の従来技術では、複数のローラが巻布に当接する点が開示されているものの、双方のローラは互いに独立するローラであることから、巻布に対するローラの押接は一方のローラのみに留まる可能性が高く、巻皺を防止することが不十分である可能性がある。
また、互いに独立して支持されるローラであることから、少なくとも織布を案内するローラが張力を受けて巻き取り方向へ湾曲する問題が依然として残る。
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、織布の巻き取りの際に生じがちな巻皺の発生を確実に防止するほか、巻皺防止手段を従来よりも比較的簡単に製作することができる織機の織布巻取り装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を達成するため、請求項1記載の発明は、織布の巻き取りにより巻布を形成するクロスローラと、該クロスローラに対して平行に延在され、かつ、該巻布と巻き付け前の該織布との間に配置された巻皺防止手段を備え、前記巻皺防止手段は、前記巻布の周面を押接する押接部と、巻き付け前の前記織布を前記クロスローラへ案内する案内部を有し、前記押接部は、前記巻布の周面に複数の位置で接触する接触点を含むように巻布の周方向に延びる偏平形状を有し、前記案内部は、前記押接部から前記巻布の半径方向外側へ突出すると共に、前記巻布の周方向における前記案内部の長さは前記巻布の周方向における前記押接部の長さよりも狭く設定されることを特徴とする。
【0011】
請求項1記載の発明によれば、巻き取られる前の織布は、巻皺防止手段の案内部により案内され、一定の案内角を保ってクロスローラへ導かれ、巻布状態にある巻き付け直後の織布は、巻布の周方向に延びる偏平形状を有する押接部による押接を受ける。
巻布の周方向における案内部の長さは、巻布の周方向における押接部の長さよりも狭く設定されるから、案内角は押接部の接触点の設定に関わらず巻布の周方向における案内部の長さにより設定される。
押接部に含まれ、巻布の周面に複数の位置で接触する接触点が織布の張力を受けて巻布を押接する。
押接部が巻布周面の複数の位置で接触し、各接触点は巻き取り方向の前後で巻布を押接するから、押接部と摺接後の巻布周面が波打つことは殆どなく、巻皺が生じるおそれは極めて小さい。
また、巻布の周方向における押接部の長さを十分に設定すれば、押接部が織布の張力により巻き付け方向へ湾曲され難くなり、押接部が湾曲しないことで巻皺の発生がさらに防止される。
なお、押接部は巻布の周面に複数の位置で接触する接触点を含むとは、接触点が2箇所以上存在すればよいことを意味し、例えば、接触点の連続による接触面の概念が含まれる。
【0012】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の織機の織布巻取り装置において、前記巻皺防止手段は、前記押接部を含む押接部材と、前記案内部を含む案内部材を有し、該押接部材及び該案内部材は連結手段を介して互い連結されることを特徴とする。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、押接部を含む押接部材と案内部を含む案内部材が互いに別部材であり、巻皺防止手段が有する押接部材と案内部材は連結手段を介して連結されているから、両部材の相互の連結による巻皺防止手段の強度向上が図られている。
従って、巻き取り方向への湾曲させる織布の張力が巻皺防止手段に作用しても、巻皺防止手段の湾曲は防止される。
また、押接部材と案内部材が互いに別部材であることから、押接部及び案内部の設計自由度が高くなるほか、既存部材を押接部材や案内部材に転用し易くなる。
【0014】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の織機の織布巻取り装置において、前記案内部材は、丸棒により形成されていることを特徴とする。
【0015】
請求項3記載の発明によれば、比較的形状が単純な丸棒を用いて案内部材とするから、案内部材は丸棒の簡単な加工により容易に製作され、例えば、既存部材の転用により案内部材を実現することも可能となる。
【0016】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の織機の織布巻取り装置において、前記案内部材は、該案内部材の長手方向に亘って円弧状の稜線を描く案内面を有することを特徴とする。
【0017】
請求項4記載の発明よれば、案内部材は長手方向に亘って円弧状の稜線を描く案内面を有するから、巻き取り前の織布は案内部材により案内されつつ、案内面により織布が幅方向に拡張される。
幅方向に織布を拡張することにより、織布における張力の均一化が促進され、押接部による巻布の押接と相俟って巻皺の発生が防止される。
【0018】
請求項5記載の発明は、請求項2〜4のいずれか一項記載の織機の織布巻取り装置において、前記押接部材は管状部材であることを特徴とする。
【0019】
請求項5記載の発明によれば、中空の管状部材を用いて押接部材とすることから、押接部材の軽量化が図られ、ひいては巻皺防止手段の軽量化を実現する。
また、既存の管状部材を転用することにより押接部材を比較的簡単に実現することも可能となる。
【0020】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の織機の織布巻取り装置において、前記管状部材の断面は長円状であることを特徴とする。
【0021】
請求項6記載の発明によれば、管状部材の断面を長円状とし、長円の長手側の面を巻布へ臨ませれば、押接部材の軽量化とともに、織布の張力による押接部材の湾曲に対する強度向上が図られる。
【0022】
請求項7記載の発明は、請求項2〜6のいずれか一項記載の織機の織布巻取り装置において、前記押接部材は、前記巻布と離間した凹部を前記接触点間に備え、前記連結手段は前記凹部を臨む位置に配設されることを特徴とする。
【0023】
請求項7記載の発明によれば、押接部材において巻布と離間した凹部を接触点間に備えるから、凹部により一定の距離だけ離間される接触点を押接部材に備えることができ、凹部を望む位置に連結手段を配設することにより、簡単な連結手段を採用し易くなるほか、連結手段と巻布との干渉が避けられる。また、連結手段を収容するための開口部を形成する場合、その開口部の縁部により巻布が損傷することが確実に防止される。
【発明の効果】
【0024】
この発明によれば、織布の巻き取りの際に生じがちな巻皺の発生を確実に防止するほか、巻皺防止手段を従来よりも比較的簡単に製作することができる織機の織布巻取り装置の提供を可能とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る織機の織布巻取り装置(以下、単に「織布巻取り装置」と表記する)を図1〜図3に基づいて説明する。
図1は、第1の実施形態に係る織布巻取り装置10の概要を示す側面図である。
この実施形態の織布巻取り装置10は、図1に示すように、主に、エクスパンションバー11と、サーフェスローラ12と、プレスローラ13と、クロスローラ14と、巻皺防止手段17から構成されている。
エクスパンションバー11は、織機により製織された織布Wを水平方向から下方へ向けて案内する棒状部材である。
サーフェスローラ12は、エクスパンションバー11により下方へ案内される織布Wを再び上方へ向け、プレスローラ13へ案内するローラであり、サーフェスローラ12とプレスローラ13は、両ローラ12、13間を通過する織布Wを挟圧するローラとなっている。
プレスローラ13は上方へ向かう織布Wを下方のクロスローラ14へ向かわせるローラでもある。
【0026】
クロスローラ14は、プレスローラ13から案内される織布Wを巻き取るローラであり、クロスローラ14はクロスローラ用駆動源(図示せず)に接続され、織布Wを巻き取る方向に回転する。
この実施形態では、プレスローラ13の前側から下方へ繰り出される織布Wは、クロスローラ14の後側を通ってクロスローラ14に巻き付けられ、クロスローラ14において巻布Rを形成する。
なお、エクスパンションバー11及び各ローラ12〜14は、織布Wの幅よりも大きな長さを有しているほか、各軸芯が互いに平行になるように、エクスパンションバー11及び各ローラ12〜14の両端は織機のサイドフレーム(図示せず)に軸支されている。
【0027】
次に、巻皺防止手段17の概要について説明する。
この実施形態に係る巻皺防止手段17は、図1に示すように、巻布Rと巻き付け前の織布Wとの間に配置され、巻布Rに当接する押接部材18と、巻き付け前の織布Wと案内する案内部材25を有する。
この実施形態では、押接部材18は巻皺防止手段17の押接部に相当し、また、案内部材25は巻皺防止手段15の案内部に相当する。
案内部材25の両端を回動可能に軸支する揺動アーム15が設けられており、揺動アーム15の上端はサーフェスローラ12の下方に設けられた支点軸16に軸支されている。
このため、クロスローラ14において形成される巻布Rの径が拡径しても、揺動アーム15が巻布Rの径に応じて傾動するとともに揺動アーム15に対して巻皺防止手段が回動し、巻布Rに対する巻皺防止手段17の押接を維持することが可能となっている。
押接部材18と案内部材25は、図2に示すように連結手段としてのボルト23により互いに連結されている。
【0028】
押接部材18について説明すると、押接部材18は、クロスローラ14に対して平行に延在された管状の部材であり、その断面は略長円状となっている。
押接部材18の長手方向の長さは、織布Wの幅よりも大きくなるように設定されている。
そして、押接部材18の長手方向に亘って巻布Rと当接しない凹部19が形成され、凹部19の断面長径方向の両側に接触点20が夫々備えられる。
つまり、押接部材18には、巻布Rの周方向(以下、巻布周方向という)の複数の位置で接触する接触点20が備えられている。
接触点20は押接部材18の長さ方向に沿って連続して形成されていることから、幅方向に亘って巻布Rの周面と接触する。
凹部19及び接触点20が巻布Rの周面に臨むことにより、断面が長円状の押接部材18は、巻布Rの半径方向(以下、巻布半径方向という)の寸法よりも巻布周方向の寸法が長く設定された偏平形状を有している。
このことは、織布Wの張力による押接部材18の湾曲を防止する点で有効となる。
因みに、押接部材18における凹部19は、断面が長円形の管状部材をプレス加工することにより得ることができ、具体的には長円の平坦面の中心付近を局所的に加圧することにより比較的簡単に凹部19を形成することができる。
【0029】
また、凹部19には、押接部材18の長手方向に所定の間隔を保って複数の開口部21が形成されており、開口部21の面積はボルト23の頭部23bを通すことができる程度の面積に設定されている。
さらに、押接部材18において、案内部材25と対向し、凹部19が形成されない平坦面には、開口部21と同軸の通孔22が開口部21と対向する位置に穿孔されている。
通孔22の径はボルト23の軸部23aの径より大きく、ボルト23の頭部23bの径よりも小さく設定されている。
これにより、ボルト23を開口部21から押接部材18の中に挿入し、ボルト23の軸部23aを通孔22から案内部材25側へ突出させることができる。
この実施形態では、開口部21と通孔22の間の距離は、ボルト23の頭部23bの軸方向の長さとほぼ同じとなるように設定され、ボルト23の頭部23bが開口部21から突出しないように図られているが、これは、押接部材18が巻布Rの周面を押接する際、ボルト23の頭部23bが巻布Rと干渉しないようにするためである。また、凹部19に開口部21が形成されていることにより、開口部21の縁部は巻布Rの周面に接触しない。
【0030】
次に、案内部材25について説明すると、案内部材25は巻布半径方向外側において押接部材18に対して平行に延在された丸棒であり、案内部材25は押接部材18から巻布半径方向外側へ突出する位置に配置されている。案内部材25の長手方向の長さは、織布Wの幅よりも大きくなるように設定されている。
図2及び図3に示すように、案内部材25の周面において押接部材18の平坦面と相対する側には、押接部材18の通孔22と対応するボルト孔26が夫々穿孔されている。
ボルト孔26は、ボルト23の軸部23aに形成されている雄ねじに対応する雌ねじを含むねじ孔となっている。
なお、この実施形態では連結手段としてのボルト23は六角キャップボルトを採用しており、ボルト23の頭部23bには六角レンチ孔23cが形成されている。
【0031】
案内部材25は丸棒であることから、案内部材25の周面の一部は巻き取り前の織布Wをクロスローラ14へ導く案内面27を構成する。
また、案内部材25の周面には、織布Wの巻き取り方向に向かうにつれて外側へ拡がる多数の傾斜溝28が、案内部材25の長手方向において左右対称に形成されている。
これらの傾斜溝28は、織布Wに生じる張力と相俟って、案内部材25の両端部へ織布Wを拡張するが、幅方向に織布Wを拡張することにより、織布Wにおける張力の均一化が促進され、押接部材18による巻布Rの押接と相俟って巻皺の発生防止を意図している。
【0032】
この実施形態の案内部材25の径(案内部材の巻布周方向の長さ)は、押接部材18の巻布周方向の長さより狭く設定されている。
その理由は、プレスローラ13から案内部材25へ至る織布Wと、案内部材25からクロスローラ14へ至る織布Wとの間で形成される案内角Xが、押接部材18の形状により設定されることを回避するためである。すなわち、巻皺の発生防止のために押接部材18の巻布周方向の長さを大きくすると、従来構成では案内部の案内円弧面の径も大きくなってしまって案内角Xが増大してしまうが、この実施形態の構成によれば、押接部材18の巻布周方向の長さよりも狭い巻布周方向長さを有する案内部材25により、案内角Xの増大が抑制される。
因みに、案内角Xを小さくする程、織布Wの張力に基づいて押接部材18が巻布Rを押接する力は大きくなり、巻皺防止に有利である。
また、案内角Xは、案内面27の円弧径と、案内面27の頂点と巻布Rの周面との巻布半径方向の距離と、巻布Rの径により決定される。
この実施形態では、案内部材25の径を押接部材18の巻布周方向の長さよりも狭く設定することと、案内部材25と押接部材18の連結による巻布半径方向の距離の確保により、従来と比較して案内角Xを小さく設定している。
【0033】
このように、この実施形態の織布巻取り装置10は、押接部材18が有する形状に基づく押接部材18の強度向上と、案内部材25と押接部材18との連結による押接部材18の強度向上と、押接部材18と案内部材25を別部材とすることによる案内角Xの減少化と、案内角X設定の自由度向上と、さらに、両部材18、25を比較的単純な形状とすることによる製作容易性の向上を意図している。
【0034】
次に、この実施形態に係る織布巻取り装置10による織布Wの巻取り動作について説明する。
クロスローラ14が回転することで製織された織布Wが巻き取られるが、製織直後の織布Wはエクスパンションバー11により案内され、エクスパンションバー11の前側を通って下方のサーフェスローラ12へ向う。
サーフェスローラ12の後側から案内される織布Wはサーフェスローラ12により上方へ向きを変えて案内され、さらに、サーフェスローラ12とプレスローラ13の間を通過し、プレスローラ13の前側から巻皺防止手段17の案内部材25へ向かう。
【0035】
案内部材25へ向かう織布Wは、案内部材25の案内面27と摺接してクロスローラ14へ案内される。
プレスローラ13から案内部材25へ案内される織布Wと、案内部材25からクロスローラ14へ案内される織布Wは、巻布Rの径に応じた案内角Xを形成する。
そして、案内部材25からクロスローラ14へ向かう織布Wはクロスローラ14の下側から前側へ向けて巻き付けられる。
織布Wの巻き付けにより形成される巻布Rは、巻き付け直後の織布Wにより巻布Rの周面が形成されるが、巻布Rの周面は押接部材18の押接を受ける。
クロスローラ14による織布Wの巻き取りが進行し、巻布Rの径が徐々に拡径すると、巻布Rの拡径に応じて揺動アーム15が支点軸16を支点として後方へ向けて傾動する。
そして、巻皺防止手段17は、揺動アーム15が傾動すると、案内部材25を支点軸として揺動アーム15に対して回動し、押接部材18の接触点20が巻布Rの周面に当接する状態を維持する。
【0036】
ところで、サーフェスローラ12及びプレスローラ13による織布Wの挟圧と、クロスローラ14の回転による織布Wの巻取りのために、プレスローラ13とクロスローラ14間の織布Wには張力が存在する。
織布Wの張力は案内角Xに応じた力を案内部材25を介して押接部材18を付与し、押接部材18は織布Wの張力に応じて巻布Rを押接する。
押接部材18が巻布Rを押接するとき、押接部材18の接触点20は巻布周方向の2点で巻布Rを押圧し、回転する巻布Rと摺接する。
押接部材18が巻布周方向の2箇所の接触点20で巻布Rを押接することは、1点の接触点で巻布Rを押接する場合と比較して巻布Rの周面における巻皺の発生をより防止する。
つまり、複数の接触点20が巻布Rの周面を摺接して通過するため、摺接後の巻布Rの周面が波打つことは殆どなく、巻皺が生じるおそれは極めて小さい
【0037】
また、織布Wの張力は案内部材25を介して押接部材18を織布Wの巻き取り方向へ湾曲させようとするが、押接部材18の巻布周方向の長さが十分に確保されているから押接部材18の湾曲を抑制する。
さらに、押接部材18に案内部材25が連結されていることにより、案内部材25が押接部材18の強度を増強することから、織布Wの張力による押接部材18の湾曲は防止される。
また、案内部材25の案内面27に形成された傾斜溝28は、織布Wに生じる張力と相俟って、案内部材25の両端部へ織布Wを拡張し、案内部材25通過後の織布Wにおける張力の均一化を促進する。
【0038】
この実施形態に係る織布巻取り装置10によれば以下の効果を奏する。
(1)押接部材18が巻布周方向の複数の位置で接触し、各接触点20は巻き取り方向の前後で巻布Rを均等に押接するから、巻皺が生じるおそれは極めて小さくなる。また、押接部材18の巻布周方向の長さを十分に確保することにより、押接部材18が織布Wの張力により巻き付け方向へ湾曲され難くなり、押接部材18の湾曲に起因する巻皺の発生が防止される。
(2)押接部材18と案内部材25が互いに別部材であり、巻皺防止手段17が有する押接部材18と案内部材25はボルト23を介して連結されているから、両部材18、25の相互の連結より巻皺防止手段17としての強度が向上する。特に、案内部材25が押接部材18の巻き付け方向への湾曲をさらに妨げることができる。
(3)比較的形状が単純な丸棒を用いて案内部材25とするから、案内部材25は丸棒の簡単な加工により容易に製作され、例えば、既存部材の転用により案内部材25を実現することも可能となる。
【0039】
(4)断面が長円状の管状部材を用いて押接部材18とし、長円の長手側の面を巻布Rへ臨ませれば、押接部材18の軽量化とともに、織布Wの張力による押接部材18の湾曲に対する強度向上が図られる。
(5)押接部材18における接触点20間に位置し、かつ、巻布Rと離間した凹部19が備えられるから、凹部19により一定の距離だけ離間される接触点20を押接部材18に備えることができ、凹部19を望む位置にボルト23を配設することにより、既存のボルト23を採用し易くなるほか、ボルト23と巻布Rとの干渉が避けられる。また、開口部21の縁部による巻布Rの損傷が確実に防止される。
【0040】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る織布巻取り装置について図4に基づき説明する。
図4は、第3の実施形態の巻皺防止手段の要部を示す側面図である。
第2の実施形態は、図4に示すように、巻皺防止手段としての巻皺防止部材31の押接部32と案内部34が一部材により形成されている例である。
従って、第1の実施形態と共通又は類似する要素については符号を共通して用い、第1の実施形態における織布巻取り装置の説明を援用する。
【0041】
図4に示すように、この実施形態の巻皺防止部材31の断面は略T字状の形態を呈している。
巻皺防止部材31は、クロスローラ14に対して平行に延在され、織布Wの幅以上の長さを有している。
巻皺防止部材31は、例えば、引き抜き型を用いた引き抜き成形等により得ることができる単一部材である。
巻皺防止部材31は、巻布Rの周面を押接する平坦な押接面33を含む押接部32と、押接部32の中心付近から突出する案内部34を有している。
押接部32における押接面33は平坦面であることから巻布Rの周面と面接触するが、押接面33は巻布Rと接触する多数の接触点を備えることになる。
換言すると、押接面33は巻布周方向の複数の位置で接触する接触点を含むと言える。
押接面33の巻布周方向の長さが十分に確保されることで、織布Wの張力による巻皺防止部材31の湾曲防止を図っている。
【0042】
次に、巻皺防止部材31における案内部34について説明する。
案内部34は、押接部32において押接面33が存在しない側(巻布半径方向外側)の面の中心付近から突出しており、案内部34の巻布周方向の長さは、押接部32の巻布周方向の長さよりも狭く設定されている。
案内部34の先端には、案内部34の巻布周方向の長さに対応する断面円弧状の案内面35が備えられている。
案内部34の巻布周方向の長さが押接部32の巻布周方向の長さよりも狭く設定されることと、巻布Rの周面と案内面35の頂部までの距離を十分な距離とすることにより、案内面35により案内される織布Wの案内角は、押接部32の巻布周方向の長さに関わらず小さく設定される。
なお、図示はしないが、案内面35には、第1の実施形態の傾斜溝28と同様の傾斜溝が設けられており、案内面35を通過した織布Wの張力の均一化を図っている。
また、巻皺防止部材31の両端は支持軸36が設けられ、第1の実施形態と同様に揺動アーム(図示せず)により軸支され、巻布Rの径に応じて巻皺防止部材31は揺動アームに対して回動する。
【0043】
この実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(1)押接面33が巻布Rを押接する場合、多数の接触点を含む押接面33と巻布Rの周面は面接触となるから、巻布Rの周面において織布Wが巻布周方向に十分に拡張されて巻皺が生じるおそれは殆ど解消される。
(2)押接部32の巻布周方向の長さが十分に確保されていることと、押接部32と案内部34が一部材により形成されていることから、押接部32を含む巻皺防止部材31の強度が向上し、織布Wの張力による巻き付け方向への巻皺防止部材31の湾曲を防止する。
(3)押接部32と案内部34が一部材により形成されていることから、巻布Rの周面における巻皺を確実に防止することと併せて織布巻取り装置の部品点数を抑制することができる。
【0044】
なお、本発明は、上記した実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
○ 上記の第1の実施形態では、案内部材として傾斜溝を有する丸棒を用いたが、丸棒に替えて、例えば、図5に示すように、長手方向に亘って円弧状の稜線を描く案内面42が形成されたプレート状の案内部材41を押接部材18に取り付けてもよい。この場合、案内部材41に傾斜溝を設ける必要がなく、案内部材41を比較的簡単に製作することができる。
○ 上記の第1の実施形態では、連結手段としてのボルトを用いて案内部材と押接部材を連結したが、例えば、案内部材と押接部材の間に調整部材を介在させて、巻布周面と案内面との距離を調整し、案内角を調整するようにしてもよい。この場合、案内角の調整により、巻皺防止手段の巻布に対する押接の力を調整することが可能となる。
○ 上記の第1の実施形態では、連結手段としてボルトを用いたが、連結手段は例えば、溶接でもよく、少なくとも案内部材と押接部材との連結を維持することができる手段であればよい。
○ 上記の第1の実施形態では、押接部材の長手方向に亘って凹部を形成するようにしたが、例えば、ボルトを通す位置にのみ部分的に凹部を設け、夫々の凹部に開口部を形成し、凹部を除く部位は平坦な押接面を形成してもよい。この場合、押接部材において巻布を応接する接触点が増えることになり、巻皺防止をさらに促進する。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、案内面を断面が円弧としたが、例えば、楕円弧、曲率の異なる複数の円弧を含む複合円弧、円弧と接続される直線を含む長円弧といった円弧状の案内面としてもよい。
○ 上記の第1、第2の実施形態では、駆動源がクロスローラを直接回転させるようにしたが、例えば、駆動源の駆動力を伝達するギヤやベルト等の伝動部材を用いた従動式のクロスローラとしてもよく、クロスローラの回転の手段は特に限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】第1の実施形態に係る織布巻取り装置の概要を示す側面図である。
【図2】第1の実施形態に係る巻皺防止手段の一部を破断して示す側面図である。
【図3】第1の実施形態に係る案内部材と押接部材の連結を説明する斜視図である。
【図4】第2の実施形態に係る巻皺防止部材の一部を破断して示す側面図である。
【図5】案内部材の別例を示す斜視図である。
【図6】従来の巻皺防止手段の要部を示す斜視図である。
【図7】別の従来の巻皺防止手段の要部を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0046】
10 織布巻取り装置
14 クロスローラ
17 巻皺防止手段
18 押接部材
19 凹部
20 接触点
23 ボルト
25、41 案内部材
27、42 案内面
28 傾斜溝
31 巻皺防止部材
32 押接部
33 押接面
34 案内部
35 案内面
W 織布
R 巻布
X 案内角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布の巻き取りにより巻布を形成するクロスローラと、該クロスローラに対して平行に延在され、かつ、該巻布と巻き付け前の該織布との間に配置された巻皺防止手段を備え、
前記巻皺防止手段は、前記巻布の周面を押接する押接部と、巻き付け前の前記織布を前記クロスローラへ案内する案内部を有し、
前記押接部は、前記巻布の周面に複数の位置で接触する接触点を含むように巻布の周方向に延びる偏平形状を有し、
前記案内部は、前記押接部から前記巻布の半径方向外側へ突出すると共に、前記巻布の周方向における前記案内部の長さは前記巻布の周方向における前記押接部の長さよりも狭く設定されることを特徴とする織機の織布巻き取り装置。
【請求項2】
前記巻皺防止手段は、前記押接部を含む押接部材と、前記案内部を含む案内部材を有し、該押接部材及び該案内部材は連結手段を介して互い連結されることを特徴とする請求項1記載の織機の織布巻取り装置。
【請求項3】
前記案内部材は、丸棒により形成されていることを特徴とする請求項2記載の織機の織布巻取り装置。
【請求項4】
前記案内部材は、該案内部材の長手方向に亘って円弧状の稜線を描く案内面を有することを特徴とする請求項2記載の織機の織布巻取り装置。
【請求項5】
前記押接部材は管状部材であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか一項記載の織機の織布巻取り装置。
【請求項6】
前記管状部材の断面は長円状であることを特徴とする請求項5記載の織機の織布巻取り装置。
【請求項7】
前記押接部材は、前記巻布と離間した凹部を前記接触点間に備え、前記連結手段は前記凹部を臨む位置に配設されることを特徴とする請求項2〜6のいずれか一項記載の織機の織布巻取り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−312791(P2006−312791A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135462(P2005−135462)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】