説明

繰出式のボールペン

【課題】軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンにおいて、ボールペンチップの先端部を軸筒の先端開口部より突出して紙面等に筆記した際に、常に直ぐに書き出せるようにする。
【解決手段】ボールペンレフィル8の前方に、少なくともボールペンレフィル8が前進した際に、ボールペンチップ7のボール6が当接して軸筒2(口先部2a)の先端開口部11側に傾倒し、ボール6の表面を擦ることでボール6が回転するように擦過部材22を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンにおいては、図5〜図6を用いて説明すると、ボールペンチップ51のチップ本体52の先端縁部52aとボール53間にあるインキが乾燥してインキ固化物の塊54となり、特に油性ボールペンにおいては、紙面等への筆記の際に前記ボール53が回転せずに、インキが付着したボール53の表面が紙面等に当接しないのでインキが転写せず、直ぐに書き出せないという問題があった。また、非浸透面に筆記することができるインキを軸筒内に収容したボールペンにおいては、非浸透での筆跡の乾燥性を向上させるために、樹脂が多く配合されており、経時的にチップ本体52の先端縁部52aとボール53間にあるインキの乾燥が進み、前記と同様な理由から直ぐに書き出せないという問題が起こるので、こうしたインキを収容したボールペンでは、キャップ式にしてボールペンチップのボールの表面の乾燥を防止してあり、繰出式のボールペンとして提供できないという問題があった。
【0003】
初期の書き出し性能は悪いものの、紙面等の筆記面にボールペンチップのボールを当接した状態でボールペンを動かしていると書き出せるようになる。その理由は、書けない状態でも筆記しているうちに、ボールがチップ本体に対して動いてインキ固化物の塊が破壊され、ボールが回転することで書き出せるようになるからである。
【0004】
ところで、繰出式のボールペンにおいて、ボールペンチップの乾燥を防止するため、または軸筒の先端開口部からインキが漏れないようにと、軸筒の先端開口部の近傍に蓋またはインキ漏れ防止弁を設けた構造のものが知られており、例えば実開昭63−60679号公報により開示されているような、インキタンク5(ボールペンレフィル)の前方に、エラストマーの高粘弾性材料からなるスリット3を有した弁2を設け、前進するインキタンク5(ボールペンレフィル)の先端テーパー部(ボールペンチップ)により弁2のスリットが開かれて、さらにインキタンク5(ボールペンレフィル)が前進して筆記状態となる構造のものがある。
【0005】
本発明者達は前記構造に着目し、繰出式のボールペンにおいて、軸筒内に収納したボールペンレフィルの前方に、ボールペンレフィルが前進した際に、ボールペンチップのチップ本体に装着したボールに当接する前記蓋や弁を設けた構造に着目し、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部からボールペンチップの先端部を突出させる際に、軸筒内に、ボールペンチップに装着したボールに当接する部材を配して、ボールをチップ本体に対して回転させることで前記インキ固化物の塊を破壊することを思いつき、本発明に至った。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭63−60679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事実に鑑みてなされたもので、軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンにおいて、ボールペンチップの先端部を軸筒の先端開口部より突出して紙面等に筆記した際に、常に直ぐに書き出せるようにすることを目的とするものであり、また、非浸透面に筆記することができるインキを収容したボールペンレフィルを、繰出式のボールペンとして提供できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
「1.軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンにおいて、前記ボールペンレフィルの前方に、ボールペンチップのチップ本体に装着したボールに当接しボールペンチップが前進することでボールが擦られ、該ボールをチップ本体に対して回転させる当接部を有した擦過部材を、少なくともボールペンレフィルが軸筒に対して前進した際に、当接部がボールに当接して軸筒の先端開口部側に傾倒可能に設けて配したことを特徴とする繰出式のボールペン。
2.前記擦過部材の少なくとも当接部を、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、ブチレンゴム、またはエチレンプロピレンゴムで形成しことを特徴とする、前記1項に記載の繰出式のボールペン。」
である。
【0009】
実開昭63−60679号公報により開示され前記弁構造は、ボールペンレフィルが前進した際に、ボールペンチップのチップ本体に装着したボールが弁に当接するが、ボールに当接する弁の当接部分が周状に複数に分割された構造だと、分割された複数の当接部分が同時にボールに当接してボールを擦るので、ボールがチップ本体に対して回転することはなく、前記弁は本発明で言う擦過部材とは違う。図4や図7に開示された構造では、軸径方向に向かって延びた1つの当接部がボールに当接しボールペンチップに対して移動する構造となっているが、前記弁はボールをチップ本体に対して回転させるためものではなく、前記の文献には、ボールが弁に擦られてボールがチップ本体に対して回転する旨の記載はない。
【0010】
本発明は繰出式のボールペンは、軸筒内にボールペンレフィルが1本収容された構造のものでも良いし、軸筒内に複数本収容した多芯式のボールペンでも良い。
【0011】
前記繰出機構としては、例えば、
a)軸筒の壁面に形成したカム溝と、先端にカム面を有したノック体と、前記カム面に噛合うカム受部を有した回転カム体とで構成され、ノック体の前方に回転カム体をカム受部をカム面に当接さて設けるとともに、ノック体及び回転カム体をカム溝に沿って摺動可能に配設し、ノック体を押圧することで回転カム体を前進させてその位置を保持する、いわゆるノック式と言われているもの、
b)軸筒を前軸部(胴軸とも呼ばれている)と前軸部の後方に回転可能に連接した後軸部(鞘軸とも呼ばれている)とで構成し、後軸部を前軸部に対して回転して、後軸部内に形成したカム斜面により、ボールペンレフィルを前進させて、筆記先端部を軸筒の先端開口部より突出させて保持する、いわゆる「回転式」と言われているもの、
c)ボールペンレフィルの後端にスライド片を装着し、該スライド片に形成した隆起部を軸筒後端部に形成した摺動溝より外方に突出させて、隆起部を軸筒の先端開口部側に押圧することでスライド片を前進させ、ボールペンレフィルを前進させて、ボールペンチップの先端部を軸筒の先端開口部より突出させて保持する、いわゆる「スライド式」と言われているもの
等があるが、本発明において繰出機構は特に限定されるものではない。
【0012】
本発明における擦過部材は、ボールペンチップのチップ本体に装着したボールに当接し、擦過部材に対してボールペンチップが前進することでボールをチップ本体に対して回転させるものであれば良く、形状や材質について限定されるものではない。例えばボールに当接する部分の表面に微小な凹凸を設けることにより、または摩擦係数が大きい材質等を用いて形成することで本発明でいう擦過部材となる。
【0013】
ボールが回転してチップ本体の先端縁部とボール間に付着したインキ固化物の塊を破壊するには、ボールが周方向に1度以上回転すれば良く、そのように擦過部材がボールに当接するように設ければ良い。また、擦過部材は、少なくともボールペンレフィルが前進した際に、ボールペンチップのボールが当接するように設けるが、ボールペンレフィルが前進する前から前記ボールが擦過部材に当接する位置に設けても良いし、ボールペンレフィルが前進して初めて前記ボールが当接する位置に設けても良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明は前記したような構造なので、 繰出操作によりボールペンチップの先端部を軸筒の先端開口部より突出して筆記する際は、常に擦過部材がボールに当接して該ボールをチップ本体に対して回転させるので、チップ本体の先端縁部とボール間とに付着したインキ固化物の塊は破壊され、ボールが回転してインキが付着したボールの表面の部分が紙面等の筆記面に常に当接するので、常に直ぐに書き出せる繰出式のボールペンを、簡単な構造で提供することができる。また、ボールペンレフィルが、軸筒内に収容した非浸透面に筆記することができるインキを収容したものであっても、常に直ぐに書き出せる繰出式のボールペンを提供することができる。
【0015】
請求項2に係る発明とすることで、擦過部材の当接部がボールに当接して擦るとボールが回転するので、ボールが回転するように擦過部材の当接部の表面にわざわざ微小な凹凸をを設ける等の加工を施す必要がなく、擦過部材を容易に製造できるという利点がある。なお、擦過部材は、エラストマー材なら何でも良いと言うことではなく、シリコンゴムの場合には、当接部はボールの表面を滑ってしまうのでボールは回転しない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の繰出式のボールペンの実施例を示す、ノック式ボールペンの要部の縦断面図である。
【図2】図1における要部の拡大図である。
【図3】図2において、ノック体を押圧した直後の状態を示した図である。
【図4】図2において、ノック体を押圧してボールペンチップの先端部を突出した状態を示した図である。
【図5】一般的なボールペンチップの先端部分の縦断面図である。
【図6】図5における要部の拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の繰出式のボールペンは、 軸筒内に収容したボールペンレフィルの前方に、ボールペンチップのボールに当接してボールの表面を擦り、ボールをチップ本体に対して回転させるための擦過部材を設けるものである。
【実施例】
【0018】
本発明の繰出式のボールペンの実施例を、図1〜図4を用いて説明する。
本実施例においては、繰出式のボールペンとして、軸筒内に1つのボールペンレフィルを収容したノック式筆記具として説明するが、本発明は前記ノック式筆記具に限定されるものではない。ノック式に代えて前記したような、回転式やスライド式の繰出機構を備えた繰出式のボールペンでも良い。また、軸筒内に収容されるボールペンレフィルは1つでなく、複数のボールペンレフィルを収容した多芯式のボールペンでも良い。
【0019】
本実施例のノック式ボールペン1は従来のノック式ボールペンと同様に、軸筒2が先窄み状の口先部2aと前軸部2bと後軸部2cとで構成されており、前軸部2bにはシリコンゴム等で形成したグリップ部材3を挿着して、前軸部2bの先端に口先部2aを螺着して着脱自在に連結してある。前軸部2bの後端には螺着により着脱自在にクリップ部材4を一体に形成した後軸部2cを連結してある。
【0020】
軸筒2内には、ボールぺン用インキ(図示せず)を収容したインキ収容管5の先端に、ボール6を回転自在に抱持したボールペンチップ7を装着したボールペンレフィル8を、コイルスプリング9によって後軸部2cの後端方向(図1において右側方向)に付勢した状態で収納してある。
【0021】
前記ボールペンチップ7の先端部10を口先部2aの先端開口部11から出没させる繰出機構は、従来から良く知られている機構で、後軸部2cの内壁面に形成したカム溝12と、該カム溝に沿って前後に摺動可能な回転カム13と、該回転カム13を押圧し、前進させて回転を付与するための、図示していないが回転カム13に設けた噛合歯に噛合う被噛合歯と前記カム溝に係合する突起部14を有したノック体15とで構成され、回転カム13をカム溝12に係合して配設し、回転カム13の後端にノック体15を、突起部14をカム溝12に係合し回転カム13の噛合歯に被噛合歯を噛合わせ、ノック体15の後端部が後軸部2cの後端より外方に突出した状態に配設した構造である。ノック体15を先端開口部11側に押圧することで、ボールペンレフィル8は前進し、ボールペンチップ7の先端部10を先端開口部11より突出し、回転カム13とカム溝12との作用により突出状態を維持する。
【0022】
なお、前記突起部14をノック体15と一体に形成せずに、カム部を有した別部材(固定カムとも言われている場合もある。)を前記回転カム13とノック体15との間に介在させた構造としても良い。
【0023】
本実施例では、ボールペンレフィル8のボールペンチップ7の先端が口先部2a内に位置しており、図2に示すように口先部2a内の内部は、前軸部2bに形成した雄ねじ部16に螺着する雌ねじ部17と、コイルスプリング9の一方端を挿入して保持する保持部18と、ボールペンチップ7の外径より若干大径でボールペンチップ7が前後動可能な先端内壁部19とで構成されおり、ボールペンレフィル8を後軸部2cの後端方向に付勢するコイルスプリング9を、一端を保持部18に挿入して口先部2a内に保持してある。
【0024】
先端内壁部19には、前記保持部18より小径で後端を前記保持部18に連接した円筒状の嵌合凹部20を設けてあり、該嵌合凹部20の周状の1箇所に、軸心方向に延び、凹状で後端を前記保持部18に開口した係合溝21を設けてある。L字型に形成した片状でニトリルゴムで形成した擦過部材22を、係合溝21にL字型の長手片22aを挿着して係合し、L字型の短片22bがボールペンチップ7の先端の前方に位置するように設けてある。本実施例では、短片22bがボールペンチップ7のボール6に当接する当接部23となり、該当接部23となる短片22bを、ボールペンチップ7の先端から離間して設けてあるが、最初からボールペンチップ7のボール6に当接するように設けても良い。
【0025】
嵌合部20に円筒状の固定部材24を挿入し、前記擦過部材22の長手片22aが係合溝21内でがたつかないように被覆し、固定部材24を嵌合凹部20に接着や螺着により固定する。
【0026】
本実施例のノック式ボールペン1は以上のような構造なので、従来のノック式ボールペンと同様に、ノック体15を先端開口部11側に押圧することで、カム溝12と回転カム13とノック体15との間での相互作用によりボールペンレフィル8が前進し、図3に示すように、ボールペンチップ7のボール6が擦過部材22の短片22bに当接する。ボールペンレフィル8がさらに前進することで、ボール6は擦過部材22の当接部23によって擦られて回転し、ボールペンチップ7の先端部10を口先部2aに形成した先端開口部11より突出させ、その状態を保持する。従来のノック式ボールペンと同様に、ノック体15を再度押圧することで、ボールペンチップ7の先端部10は先端開口部11に没入する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、繰出式のボールペンにおいて、書き出し性能を良くしたい場合に適用できる。
【符号の説明】
【0028】
1 ノック式ボールペン
2 軸筒
6 ボール
7 ボールペンチップ
8 ボールペンレフィル
11 先端開口部
22 擦過部材
23 当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸筒内に収納したボールペンレフィルのボールペンチップの先端部を、繰出操作によりボールペンレフィルを前進させて軸筒の先端開口部より突出してなる繰出機構を備えた繰出式のボールペンにおいて、前記ボールペンレフィルの前方に、ボールペンチップのチップ本体に装着したボールに当接しボールペンチップが前進することでボールが擦られ、該ボールをチップ本体に対して回転させる当接部を有した擦過部材を、少なくともボールペンレフィルが軸筒に対して前進した際に、当接部がボールに当接して軸筒の先端開口部側に傾倒可能に設けて配したことを特徴とする繰出式のボールペン。
【請求項2】
前記擦過部材の少なくとも当接部を、ニトリルゴム、クロロプレンゴム、天然ゴム、ブチレンゴム、またはエチレンプロピレンゴムで形成しことを特徴とする、請求項1に記載の繰出式のボールペン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−187715(P2012−187715A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50517(P2011−50517)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(303022891)株式会社パイロットコーポレーション (647)
【Fターム(参考)】