説明

缶巻き締め装置及び缶巻き締め方法

【課題】回転駆動力を缶蓋に確実に伝達して、巻き締め不良や加工トラブル等の発生を防止し、高速巻き締めを可能にする。
【解決手段】巻き締め時に缶蓋1を表面側から保持するチャック部材33は、缶蓋1のカウンターシンク部5内に嵌合する環状突出部43と、環状突出部43の外周面から連続し、缶蓋1のカウンターシンク部5より上方位置の中央周壁部6の内周面に対向するテーパ状部42と、テーパ状部42から連続し、缶蓋1のショルダー部7の内側で巻き締めロールの押圧力を受ける台金部41とを備え、環状突出部43の下端部に、その外周面及び内周面の間を連結する外側凸状湾曲面47及び内側凸状湾曲面48が形成され、環状突出部43がカウンターシンク部5内に嵌合されたときに、カウンターシンク部5の外側壁部14と内側壁部11との隙間を押し広げるように両壁部の少なくとも一部ずつにそれぞれくい込む寸法設定とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶体に缶蓋を巻き締める装置及び巻き締め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
缶体に缶蓋を巻き締める場合、内容物を充填した缶体をリフター上に載せるとともに、その缶体のフランジ部に被せた缶蓋を上方からチャック部材によって押さえ、このチャック部材によって缶蓋を表面側から保持しながら缶蓋及び缶体を回転させ、その缶蓋外周部のカール部の外側から巻き締めロールを接近させ、このカール部と缶体のフランジ部とをチャック部材と巻き締めロールとで挟み込みながら巻き締めるようにしている。
【0003】
このような巻き締め装置として、特許文献1及び特許文献2に記載のものがある。特許文献1記載の巻き締め装置は、缶蓋を押さえるチャック部材の下端部に、缶蓋のカウンターシンク部の環状凹部内に嵌合する環状凸部が形成され、この環状凸部をカウンターシンク部の環状凹部内に嵌合した状態とし、巻き締め時には、缶蓋のカウンターシンク部から上方に連続するチャック壁の内周面までのほぼ全面をチャック部材の外周面で支持するようにしている。
また、特許文献2記載の巻き締め装置は、チャック部材の下端面には特許文献1に記載のような環状凸部はなく、したがって、チャック部材は缶蓋のカウンターシンク部内には侵入することなく、その上方位置のチャック壁にのみ接触するようになっている。この場合、缶蓋のチャック壁は鉛直方向に対して大きな傾斜角度で傾斜したテーパ面となっており、チャック部材は、このテーパ面に接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−526859号公報
【特許文献2】特許第3809190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような巻き締め装置において、特許文献1では環状凸部を含む外周面のほぼ全面でチャック部材の回転駆動力を缶蓋に伝達することになり、特許文献2では比較的広い面積のテーパ面で回転駆動力を伝達しており、いずれの場合も、その駆動力の伝達面において均一な接触状態が求められる。
しかしながら、近年では生産ラインの高速化が計画されてきており、これに伴い、チャック部材と缶蓋との接触状態がわずかでも不均一になると、接触不十分の場合は、スリップが生じて巻き締めが不十分になるおそれがあり、また、逆に軸方向荷重を大きくし過ぎると、缶が縦荷重に耐えられなくなり座屈が発生し易くなるという問題が顕著になってきた。
このため、より高速化に対応できる巻き締め技術の提案が求められている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、回転駆動力を缶蓋に確実に伝達して、巻き締め不良や加工トラブル等の発生を防止し、高速巻き締めを可能にする缶巻き締め装置及び巻き締め方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の缶巻き締め装置は、巻き締め時に缶蓋を表面側から保持するチャック部材を備えており、該チャック部材は、前記缶蓋のカウンターシンク部内に嵌合する環状突出部と、該環状突出部の外周面から連続し、前記缶蓋のカウンターシンク部より上方位置の中央周壁部の内周面に対向するテーパ状部と、該テーパ状部から連続し、缶蓋のショルダー部の内側で巻き締めロールの押圧力を受ける台金部とを備え、前記環状突出部の下端部に、その外周面及び内周面の間を連結する外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面が形成され、これら外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面は、前記環状突出部が前記カウンターシンク部内に嵌合されたときに、該カウンターシンク部の外側壁部と内側壁部との隙間を押し広げるようにこれら外側壁部及び内側壁部の少なくとも一部ずつにそれぞれくい込む寸法設定とされていることを特徴とする。
すなわち、チャック部材の環状突出部を缶蓋のカウンターシンク部の外側壁部及び内側壁部にくい込ませた状態とするのであり、そのくい込みによってチャック部材が缶蓋を強固に保持し、その回転駆動力をくい込み部の摩擦力により確実に伝達することができる。
また、カウンターシンク部の両壁部のうち、内側壁部にチャック部材の環状突出部がくい込むことにより、カウンターシンク部の半径方向内方に配置されるパネル部が真円に矯正され、耐圧強度が向上する。
【0008】
本発明の缶巻き締め装置において、前記外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面のそれぞれの最大くい込み量は、缶蓋の板厚に対して40〜70%であり、両くい込み量の合計が120%以下であるとよい。
各凸状湾曲面の最大くい込み量が40%未満であると、巻き締め時に缶蓋に回転駆動力が適切に伝達されずにスリップが生じるおそれがあり、70%を超えると、くい込み過ぎることから、巻き締め終了後に缶蓋をチャック部材から離れるようにリフターを下降させたときに缶蓋が離脱せずに缶体が吊り下げられる現象が生じる。したがって、最大くい込み量は缶蓋の板厚に対して40〜70%が好ましい。
ただし、各凸状湾曲面のくい込み量の合計が120%を超えると、その一方のくい込み量が70%以下であっても、缶蓋が離脱しにくくなるので、合計で120%以下とするのがよい。
【0009】
本発明の缶巻き締め装置において、前記缶蓋の前記カウンターシンク部と、前記チャック部材の前記環状突出部との縦断面形状は、これらを設計図面上で重ね合わせたときに、前記外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面の少なくとも一部ずつが前記カウンターシンク部の前記外側壁部及び内側壁部の表面から板厚方向に突出するとともに、前記中央周壁部の内周面と前記テーパ状部の外周面との間に隙間が形成されるとよい。
チャック部材の環状突出部が缶蓋のカウンターシンク部にくい込んだ状態でチャック部材のテーパ状部外周面と缶蓋の中央周壁部内周面との間に隙間が形成される設計であるので、環状突出部とカウンターシンク部とのくい込みを他の部分が阻害することがなく、両者を確実にくい込ませることができる。
【0010】
本発明の缶巻き締め方法は、缶体のフランジ部に被せた缶蓋のカウンターシンク部にチャック部材の環状突出部を嵌合して該缶蓋を表面側から保持しつつ回転させ、巻き締めロールを缶蓋の半径方向外方位置から半径方向内方に移動することにより、缶体のフランジ部と缶蓋とを挟み込みながら巻き締める巻き締め方法において、前記缶蓋のカウンターシンク部に前記チャック部材の環状突出部を嵌合する際に、前記カウンターシンク部における外側壁部及び内側壁部の少なくとも一部ずつに前記環状突出部の外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面がくい込むとともに、前記カウンターシンク部より上方位置の中央周壁部の内周面と前記環状突出部より上方位置のテーパ状部の外周面との間に隙間を形成した状態とし、その後、前記巻き締めロールと前記チャック部材との間で前記缶体のフランジ部と缶蓋とを挟み込むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、チャック部材の環状突出部が缶蓋のカウンターシンク部にくい込むので、チャック部材の回転駆動力をカウンターシンク部から確実に缶蓋に伝達することができ、巻き締め不良や缶体の座屈等の不具合の発生を防止して、高速巻き締めに対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係る缶巻き締め装置の第1実施形態におけるチャック部材の缶蓋への嵌合状態を示す要部の縦断面図である。
【図2】図1における環状突出部とカウンターシンク部との嵌合部分を拡大して示した縦断面図である。
【図3】図1におけるチャック部材の缶蓋へのくい込み始めの状態を示す縦断面図である。
【図4】図1に示すチャック部材の嵌合状態から巻き締められた後の状態を示す縦断面図である。
【図5】第1実施形態の缶巻き締め装置における一組の巻き締めユニットを概略的に示した正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る缶巻き締め装置及び缶巻き締め方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
まず、第1実施形態の缶巻き締め装置に適用される缶蓋について説明しておくと、この缶蓋1は、図1及び図2に示すように、その中央部分に配置される円板状をなすパネル部2と、パネル部2の外周部のコーナー部3を介して連続し下方に向けた環状凹部4を形成するカウンターシンク部5と、カウンターシンク部5の外周縁から上方に向けてほぼ拡径しながら延在する中央周壁部6と、中央周壁部6の外周縁から連なるショルダー部7と、ショルダー部7に連続するカール部8とから構成されている。
【0014】
カウンターシンク部5では、コーナー部3に連なる内側壁部11が鉛直下方に向かうに従ってわずかに拡径するように延びており、その内側壁部11の下縁から内側湾曲部12及びその外側に外側湾曲部13が連続している。これら湾曲部12,13は、カウンターシンク部5の底部を半分ずつ形成するように、内側湾曲部12は、下方かつ半径方向内方に向けて凸となる形状とされ、外側湾曲部13は、下方かつ半径方向外方に向けて凸となる形状とされている。そして、その外側湾曲部13から上方に向けて若干拡径しながら外側壁部14が延びており、これら内側壁部11、内側湾曲部12、外側湾曲部13、外側壁部14によってカウンターシンク部5が構成されている。
この場合、内側湾曲部12及び外側湾曲部13とも、その内周面はほぼ同じ曲率半径rに形成されており、例えばr=0.15〜0.60mmに設定される。また、公称径が204(缶体に巻き締めた後の二重巻き締め部の外径が56.5〜56.7mm、巻き締め前の缶蓋1のカール部8の最外径が62.0〜62.4mm)の場合、外側湾曲部13の曲率中心位置の直径は48.72〜49.72mmとされる。また、内側壁部11及び外側壁部14が下方に向かうにしたがって徐々に接近するように傾斜していることにより、環状凹部4は、下方に向かうにしたがって徐々に幅が狭くなっている。
【0015】
中央周壁部6は、カウンターシンク部5の外側壁部14の上端縁に連続し内側に向けて凸となるように湾曲した第1湾曲部15と、第1湾曲部15の上端縁に連続し外側に向けて凸となるように湾曲した第2湾曲部16とからなる形状とされており、これら第1湾曲部15及び第2湾曲部16の連続形状により、全体としては上方に向けて拡径する形状とされている。
ショルダー部7は、中央周壁部6の第2湾曲部16の上端縁(外周縁)に連続し、上方に向けて凸となるように湾曲しながら拡径して半径方向外方に延びている。この場合、中央周壁部6の第2湾曲部16は、その内面を斜め上方に向けた状態に湾曲していることから、全体としては下方から上方に向かうにしたがって漸次拡径する形状とされており、この第2湾曲部16に連続するショルダー部7も下方から上方に向けて拡径している。
そして、カール部8は、ショルダー部7の外周縁に連続して半径方向外方に延在し、その外周縁部を下方かつ半径方向内方に向けて折り返してなる形状とされている。
【0016】
一方、この缶蓋1が巻き締められる缶体21は、有底筒状の缶胴22から縮径したネック部23の上端に、屈曲部24を介して外向きのフランジ部25が連続して形成された形状とされている。
そして、この缶体21に缶蓋1が被せられると、缶体21の屈曲部24に缶蓋1のショルダー部7における外面側の凹面が対向するように配置され、フランジ部25の上面にショルダー部7からカール部8にかけた裏面が対向して配置される。
【0017】
この缶体21と缶蓋1とを巻き締めるための装置は次のように構成される。
この缶巻き締め装置31は、図示略の巻き締め機本体のターレットに、図5に示すように、缶体21を載置して上下移動及び回転駆動されるリフター32と、缶体21に被せた缶蓋1を上方から押さえながら缶蓋1の表面側に配置されるチャック部材33と、このチャック部材33とリフター32との間に挟持された状態で回転させられる缶体21及び缶蓋1に半径方向外方位置から接近して巻き締め加工を行う複数の巻き締めロール34,35との組み合わせからなる巻き締めユニットがターレットの周方向に間隔を開けて複数組設けられている。そして、これらリフター32、チャック部材33及び巻き締めロール34,35は、巻き締め機本体のターレットの旋回により、周方向に移動しつつリフター32とチャック部材33との間に缶体21及び缶蓋1を受け入れてこれらを挟持した状態とし、巻き締めロール34,35で巻き締めるようになっている。図5にはリフター32、チャック部材33及び巻き締めロール34,35からなる巻き締めユニットを一組のみ示している。
【0018】
リフター32は、缶体21が載置されるリフタープレート36、及びこのリフタープレート36を上方に付勢するスプリング等を保持したホルダー部37が備えられており、巻き締め機本体のターレットとともに旋回することにより、巻き締め機本体に固定状態のリング状カム(図示略)に沿って移動しながら矢印Bで示すように上下移動し、矢印Cで示すように自身の軸心X回りに回転駆動させられる構成である。
巻き締めロール34,35は、外周面に成型面が形成され、チャック部材33に対して矢印E,Fで示すように離間接近するとともに、自身の軸心Yの回りに回転自在に支持されており、リフター32とチャック部材33との間に挟持されて回転している缶体21のフランジ部25上の缶蓋1のカール部8に半径方向外方位置から順番に接近して成形しながら巻き締めるようになっている。つまり、カール部8に第1の巻き締めロール34が接近して缶蓋1のカール部8を缶体21のフランジ部25に巻き込みながら巻き締めた後巻き締め部から離間し、次に第2の巻き締めロール35が接近して再び巻き締め成形を行い、最終的に図4に示すように二重巻き締め部52とする。
【0019】
チャック部材33は、リフター32と同一の軸心X上に配置され、全体としてスリーブ状に形成されるとともに、その下部に、巻き締め時に巻き締めロール34,35から加えられる半径方向内方に向けた押圧力を缶蓋1のショルダー部7の内側で支持する台金部41が半径方向外方に向けて形成され、その台金部41から下方に、缶蓋1の中央周壁部6の内周面に対向する湾曲したテーパ状部42が連続して延在し、そのテーパ状部42の下方に、カウンターシンク部5内に嵌合する環状突出部43が形成されている。テーパ状部42は、缶蓋1の第2湾曲部16の内周面と対向する凸状湾曲面44と、第1湾曲部15の内周面と対向する凹状湾曲面45とを連続させた形状とされ、これら凸状湾曲面44及び凹状湾曲面45の連続形状により、全体としては上方から下方に向けて漸次縮径する形状とされている。
また、環状突出部43をカウンターシンク部5に嵌合させた状態においては、台金部41からテーパ状部42の凸状湾曲面44及び凹状湾曲面45までの外面は、図1に示すように缶蓋1の対応するショルダー部7、中央周壁部6の両湾曲部16,15の内面との間にわずかに隙間が形成されるようになっており、この部分に隙間を形成した状態で、環状突出部43の先端部がカウンターシンク部5の外側壁部14及び内側壁部11にくい込む寸法設定とされている。
【0020】
この環状突出部43の先端部は、図2に拡大して示したように、ほぼストレートの筒状部46の下端面が、筒状部46の外周面から連続して下方かつ半径方向外方に向けて凸となる外側凸状湾曲面47及び筒状部46の内周面から連続して下方かつ半径方向内方に向けて凸となる内側凸状湾曲面48が中央で連結状態とされた形状とされている。この場合、外側凸状湾曲面47の外周面の曲率半径R1の方が内側凸状湾曲面48の外周面の曲率半径R2よりもわずかに大きく設定されている。例えばR1=0.42〜0.62mm、R2=0.28〜0.48mmとされる。
そして、その筒状部46の内径は、カウンターシンク部5の内側壁部11の外周面における下端縁の外径、つまり内側壁部11の最大外径よりも小さく形成され、また、筒状部46の外径は、カウンターシンク部5の外側壁部14の最小内径よりも大きく形成されている。このため、筒状部46がカウンターシンク部5に嵌合したときに、内側凸状湾曲面48から筒状部46の下端部の内周面までの部分が、カウンターシンク部5の内側壁部11の下端部から内側湾曲部12の外周面にくい込み、また、外側凸状湾曲面47から筒状部46の下端部の外周面までの部分が、カウンターシンク部5の外側壁部14の下端部から外側湾曲部13の内周面にくい込むようになっている。
【0021】
なお、このチャック部材33は、その上部が巻き締め機本体のターレットに回転自在に支持されているとともに、ターレットの旋回に伴い、巻き締め機本体のラックにピニオンギヤが係合して図5の矢印Gで示すように回転駆動されるようになっている。また、チャック部材33の内側には、缶蓋1のパネル部2を押さえる回転自在なノックアウトパッド51がチャック部材33に対して上下移動可能に設けられている。
【0022】
このように構成された缶巻き締め装置31によって缶体21に缶蓋1を巻き締める場合、ターレットによって旋回される各リフター32に順次缶体21が供給されるとともに、そのリフター32に載置された状態の缶体21のフランジ部25の上に缶蓋1が1枚ずつ供給された後、これら缶体21と缶蓋1とがリフター32とチャック部材33との間で挟持された状態で回転させられ、巻き締めロール34,35による巻き締め加工が行われた後、ターレットから排出される。
【0023】
この一連の巻き締め作業において、リフター32とチャック部材33との間に缶体21及び缶蓋1を挟持する際には、缶体21に被せられた缶蓋1の上方にチャック部材33が配置されている状態から、まずチャック部材33の内側のノックアウトパッド51が下降して缶蓋1のパネル部2を押さえることにより、缶体21と缶蓋1とをリフター32とチャック部材33の軸心上に位置決め固定する。
【0024】
次に、リフター32が上昇して、缶蓋1のカウンターシンク部5にチャック部材33の環状突出部43を嵌合する。このとき、図3に示すように、環状突出部43は、その下端部の内側凸状湾曲面48の内周面又は外側凸状湾曲面47の外周面のいずれか又はその両方がカウンターシンク部5の内側壁部11の外周面又は外側壁部14の内周面にまず接触する。
そして、リフター32が上昇するにしたがって、図3の鎖線で示すように環状突出部43の内側凸状湾曲面48の内周面及び外側凸状湾曲面47の外周面がカウンターシンク部5の内側壁部11及び外側壁部14に徐々にくい込み(図3には、便宜上、缶蓋1に対してチャック部材33の環状突出部43を変位させた状態として示している)、最も上方位置まで達すると、図1及び図2に示すように、環状突出部43の内側凸状湾曲面48から筒状部46の下端部内周面までの部分が、カウンターシンク部5の内側湾曲部12から内側壁部11の下端部までの部分に外側からくい込み、また、外側凸状湾曲面47から筒状部46の下端部外周面までの部分がカウンターシンク部5の外側湾曲部13から外側壁部14の下端部までの部分に内側からくい込んだ状態とされる。
【0025】
このようにして、缶蓋1のカウンターシンク部5にチャック部材33の環状突出部43がくい込んだ状態で嵌合すると、チャック部材33からの回転駆動力を受けて缶蓋1が缶体21とともに回転し、まず巻き締めロール34が接近して缶蓋1のカール部8を缶体21のフランジ部25に巻き込みながら巻き締めた後巻き締め部から離間し、次に巻き締めロール35が接近して再び巻き締め成形を行い、最終的に図4に示すように二重巻き締め部52を形成する。なお、前述したように、缶蓋1の中央周壁部6からショルダー部7の内周面は、チャック部材33が缶蓋1に嵌合した図1に示す状態では、チャック部材33のテーパ状部42から台金部41までの外周面との間に隙間が形成されていたが、巻き締めロール34,35がチャック部材33に接近して巻き締めるときには、巻き締めロール34,35によって外側から半径方向内方に押圧力を受けるために、少なくとも、テーパ状部42の凸状湾曲面44と缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とが接触し、その凸状湾曲面44を支点として第2湾曲部16がさらに折り曲げられるようにしながら台金部41と巻き締めロール34,35との間で缶蓋1と缶体21とが巻き締められる。
図4には、順番に接近する両巻き締めロール34,35のうち、最終成形を行う第2巻き締めロール35が示されている。
以上のようにして缶蓋1のカール部8と缶体21のフランジ部25とにより二重巻き締め部52を形成した後、カウンターシンク部5に嵌合していたチャック部材33を缶蓋1から離すために、リフター32とノックアウトパッド51とを同調させながら下降させ、チャック部材33から缶蓋1が完全に離れ、ノックアウトパッド51を上昇させた後、巻き締め機のターレットから缶を排出する。
【0026】
図2は、缶蓋1のカウンターシンク部5とチャック部材33の環状突出部43とを設計図面上で重ね合わせた状態を示しており(図1、図3、図4も同様)、そのくい込み部分をハッチングして示している。環状突出部43のくい込み量は、最も大きい部分のくい込み量(缶蓋の内表面からの深さ)につき内側壁部11に対するくい込み量をDi、外側壁部14に対するくい込み量をDoとすると、缶蓋1の板厚が0.205〜0.235mmに対して40〜70%とされ、両くい込み量Di,Doともほぼ同じであるのが好ましい。このくい込み量Di,Doが40%未満であると、巻き締めに必要な回転駆動力が缶蓋1に伝達されないため、缶蓋1に回転方向のトルクが得られず、70%を超えると、巻き締め終了後にチャック部材33が缶蓋1から抜けにくくなる。また、両くい込み量Di,Doの合計が120%を超えると、その一方が70%以下であったとしても巻き締め終了後に缶蓋1が離脱しにくくなるので、120%以下とするのがよい。
【0027】
また、くい込み部分の高さHは、カウンターシンク部5の内面を形成する環状凹部4の最深部から例えば1.5mm以内の範囲、好ましくは1mmとされる。したがって、環状突出部43における筒状部46の上端は環状突出部43の下端から1.5mmの高さ以上必要である。
また、このくい込み状態において、缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とチャック部材33のテーパ状部42の凸状湾曲面44との間の隙間A(図1参照)は0.02〜0.10mmとされる。この隙間Aが0.02mm未満であると、軸荷重が加わったときに、チャック部材33の環状突出部43がカウンターシンク部5にくい込むよりも先に、凸状湾曲面44が缶蓋1に接触してしまい、その結果、必要なくい込み量が得られずに巻き締め時にスリップが生じるおそれがあり、また、0.10mmを超えると、巻き締め不十分となって缶蓋1にしわが生じ易い。
【0028】
次に、環状突出部43の缶蓋1へのくい込み量Di,Do、及び缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とチャック部材33の凸状湾曲面44との間の隙間Aについて、巻き締めへの影響を実験した結果を表1及び表2に示す。以下の説明でも、便宜のため、上記実施形態で使用した符号を付して説明する。
表1は、環状突出部43の缶蓋1へのくい込み量Di,Doと嵌合トルク及びチャック抜け不良との関係を実験した結果を示している。缶蓋1には公称径204(巻き締め後の二重巻き締め部の外径が56.5〜56.7mm)のものを使用した。板厚は0.22mmである。使用した缶蓋1とチャック部材33との設計上の形状を設計図面上で重ね合わせて該当部分を測定した。缶蓋1のカウンターシンク部5の内側湾曲部12及び外側湾曲部13の内面の曲率半径rは0.4mm、チャック部材33の環状突出部43における外側凸状湾曲面47の外面の曲率半径R1は0.52mm、内側凸状湾曲面48の外面の曲率半径R2は0.38mmであり、内側湾曲部12の曲率中心位置及び外側凸状湾曲面47の曲率中心位置が異なる複数種類の組み合わせとすることにより、くい込み量Di,Doを変化させた。巻き締め速度としては、2000缶/分に相当する速度とした。
嵌合トルクは、缶体21の底面とリフター32との間にトルクレンチを引っ掛ける治具を挟んだ状態として巻き締め、第2巻き締めロール35が最も接近した位置で巻き締めロール35を離し、トルクレンチで回転方向のトルクを測定した。表中の数値は、測定した20缶中の平均値を示している。その平均値が2.5N・m以上で個々の値が1.8N・m以上を合格(○)とした。チャック抜け不良とは、巻き締め終了後にチャック部材33から缶が自然離脱(落下)しなかったものを示している。20缶巻き締め、チャック抜け不良が生じた缶数を示している。チャック抜け不良が生じないものが合格(○)である。
【0029】
【表1】

【0030】
表2は、缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とチャック部材33の凸状湾曲面44との間の隙間(クリアランス)Aと、嵌合トルク及び落下強度との関係を実験した結果を示している。缶蓋には公称径が204、板厚が0.22mmのものを使用し、いずれも、環状突出部43の缶蓋1へのくい込み量Di,Doをともに50%とし、表1の場合と同様、2000缶/分に相当する巻き締め速度とした。表中のA寸法は、実験に使用した缶蓋1とチャック部材33との設計上の形状を設計図面上で重ね合わせて該当部分を測定した数値であり、−(マイナス)寸法及び0mmは、缶蓋1のカウンターシンク部5にチャック部材33の環状突出部43が嵌合した状態において、缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とチャック部材33の凸状湾曲面44とが接触することを意味している。
嵌合トルクについては、表1の測定方法と同じである。表中の数値は、測定した20缶中の最小値を示している。落下漏れは、水を充填し、炭酸水又は窒素充填で内圧をかけた状態で巻き締めた缶を80cmの高さから缶蓋を下に向けた倒立姿勢で鉄板の上に20缶落下し、漏えいが生じた缶数を測定した。漏えい缶が生じないものが合格(○)である。
【0031】
【表2】

【0032】
また、缶蓋1の耐圧強度について次のように測定した。缶蓋1を缶体21に巻締め、炭酸水によって内圧を加え、缶蓋のカウンターシンク部の付近が外方に隆起するように反転座屈が生じたときの内圧を測定し、これを耐圧強度とした。缶蓋には公称径204で、実施例としては前述したくい込み量Di,Doがともに40%のものを使用し、比較例として、比較例1は全くくい込みがないもの、比較例2は外側壁部に対するくい込み量Doが0%のもの、比較例3は内側壁部に対するくい込み量Diが0%のものを使用した。
その結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
これらの実験結果から明らかなように、チャック部材33の缶蓋1へのくい込み量Di,Doをそれぞれ缶蓋1の板厚の40〜70%、かつDi,Doの合計を120%以下とすることにより、適切な嵌合トルクで缶蓋1を回転することができるとともに、巻き締め後のチャック抜け不良も生じなかった。また、そのときの缶蓋1の第2湾曲部16の内周面とチャック部材33の凸状湾曲面44との間の隙間(クリアランス)Aが0.02〜0.10mmの範囲である場合に、適切な嵌合トルクを缶蓋1に伝達することができるとともに、落下試験での漏れも生じなかった。耐圧強度も従来のもの(比較例1〜比較例3)より向上することがわかる。
なお、くい込み量Di,Doが適正範囲で巻き締められた缶の缶蓋には、カウンターシンク部5の該当部分に、チャック部材33がくい込んだ跡が確認された。
【0035】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。
例えば、缶蓋の中央周壁部及びチャック部材のテーパ状部は、実施形態では二つの湾曲部の連続形状からなる構成としたが、一つの湾曲部や、ほぼストレート状のテーパ面等によって構成してもよい。
また、缶の公称径が204のものに適用したが、202(二重巻き締め部の外径が53.6〜54.4mm、巻き締め前の缶蓋のカール部の最外径が59.2〜59.6mm)又は206(二重巻き締め部の外径が59.2〜59.4mm、巻き締め前の缶蓋のカール部の最外径が64.5〜64.9mm)のものにも適用することができる。
【符号の説明】
【0036】
1 缶蓋
2 パネル部
3 コーナー部
4 環状凹部
5 カウンターシンク部
6 中央周壁部
7 ショルダー部
8 カール部
11 内側壁部
12 内側湾曲部
13 外側湾曲部
14 外側壁部
15 第1湾曲部
16 第2湾曲部
21 缶体
22 缶胴
23 ネック部
24 屈曲部
25 フランジ部
31 巻き締め装置
32 リフター
33 チャック部材
34,35 巻き締めロール
41 台金部
42 テーパ状部
43 環状突出部
44 凸状湾曲面
45 凹状湾曲面
46 筒状部
47 外側凸状湾曲面
48 内側凸状湾曲面
51 ノックアウトパッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻き締め時に缶蓋を表面側から保持するチャック部材を備えており、該チャック部材は、前記缶蓋のカウンターシンク部内に嵌合する環状突出部と、該環状突出部の外周面から連続し、前記缶蓋のカウンターシンク部より上方位置の中央周壁部の内周面に対向するテーパ状部と、該テーパ状部から連続し、缶蓋のショルダー部の内側で巻き締めロールの押圧力を受ける台金部とを備え、前記環状突出部の下端部に、その外周面及び内周面の間を連結する外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面が形成され、これら外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面は、前記環状突出部が前記カウンターシンク部内に嵌合されたときに、該カウンターシンク部の外側壁部と内側壁部との隙間を押し広げるようにこれら外側壁部及び内側壁部の少なくとも一部ずつにそれぞれくい込む寸法設定とされていることを特徴とする缶巻き締め装置。
【請求項2】
前記外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面のそれぞれの最大くい込み量は、缶蓋の板厚に対して40〜70%であり、両くい込み量の合計が120%以下であることを特徴とする請求項1記載の缶巻き締め装置。
【請求項3】
前記缶蓋の前記カウンターシンク部と、前記チャック部材の前記環状突出部との縦断面形状は、これらを設計図面上で重ね合わせたときに、前記外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面の少なくとも一部ずつが前記カウンターシンク部の前記外側壁部及び内側壁部の表面から板厚方向に突出するとともに、前記中央周壁部の内周面と前記テーパ状部の外周面との間に隙間が形成されることを特徴とする請求項1又は2記載の缶巻き締め装置。
【請求項4】
缶体のフランジ部に被せた缶蓋のカウンターシンク部にチャック部材の環状突出部を嵌合して該缶蓋を表面側から保持しつつ回転させ、巻き締めロールを缶蓋の半径方向外方位置から半径方向内方に移動することにより、缶体のフランジ部と缶蓋とを挟み込みながら巻き締める巻き締め方法において、前記缶蓋のカウンターシンク部に前記チャック部材の環状突出部を嵌合する際に、前記カウンターシンク部における外側壁部及び内側壁部の少なくとも一部ずつに前記環状突出部の外側凸状湾曲面及び内側凸状湾曲面がくい込むとともに、前記カウンターシンク部より上方位置の中央周壁部の内周面と前記環状突出部より上方位置のテーパ状部の外周面との間に隙間を形成した状態とし、その後、前記巻き締めロールと前記チャック部材との間で前記缶体のフランジ部と缶蓋とを挟み込むことを特徴とする缶巻き締め方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−55916(P2012−55916A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−199874(P2010−199874)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【出願人】(305060154)ユニバーサル製缶株式会社 (219)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)