説明

缶蓋用シーリングコンパウンドとその利用方法

【課題】スクイーズアウト耐性に優れ且つ密封性能にも優れた缶蓋用シーリングコンパウンド及びその利用方法を提供する。
【解決手段】ゴム成分、粘着付与剤、充填剤及び有機過酸化物を必須成分として配合した缶蓋用シーリングコンパウンドを用いて内容物充填後の高温殺菌時に架橋反応を生起させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、缶蓋用シーリングコンパウンドとその利用方法に関し、特に高温殺菌工程を有する飲料缶や食缶の蓋用シーリングコンパウンドとその利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
缶詰製造工程においては、通常、缶胴に内容物が充填された後、缶蓋が置かれ、缶胴フランジ部と缶蓋カール部を二重巻締することによって密封を行っている。缶蓋カール部には予めノズルライニングにてシーリングコンパウンドが塗布されている。このシーリングコンパウンドは二重巻締された後に缶胴フランジ部と缶蓋カール部に僅かに生じる隙間を充填し缶詰の密封を完全なものとする。従来の架橋剤無配合のシーリングコンパウンドは二重巻締工程の際や、高温殺菌の際の熱や内圧の変化による外的応力を受けた際にスクイーズアウトし易いという弱点を抱えてきた。また、スクイーズアウト耐性を増す目的で室温での皮膜物性を硬くする配合処方をとった場合及び巻締前に架橋させるシーリングコンパウンドを用いた場合には皮膜硬度が高過ぎることによって二重巻締時に適切な巻締め寸法が得られ難いという問題点を有していた。
【0003】
従来知られた缶蓋用シーリングコンパウンドの典型例は、特許文献1、特許文献2、特許文献3等に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特公平3−17872号公報
【特許文献2】特許第2888562号公報
【特許文献3】特開2006−274168号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、スクイーズアウト耐性に優れ且つ密封性能にも優れた缶蓋用シーリングコンパウンド及びその利用方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、ゴム成分、粘着付与剤、充填剤及び有機過酸化物を必須成分として配合した組成物からなることを特徴とする缶蓋用シーリングコンパウンドである。
【0007】
本発明の第2は、カール部をもつ缶蓋のカール部に請求項1〜7のいずれか1項記載の缶蓋用シーリングコンパウンドの水性分散液又は有機溶剤溶液を塗布し乾燥して実質的な無架橋の組成物とした後、該缶蓋を、内容物を充填した缶胴上に置き、缶胴のフランジ部と缶蓋のカール部を巻締して缶を密封し、得られた内容物入り密封缶を加熱処理して殺菌処理と組成物の架橋処理とを同時に行うことを特徴とする缶の密封方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によりスクイーズアウトがなく且つ密封性に優れた内容物入り缶を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の缶蓋用シーリングコンパウンドを構成するゴム成分とは、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、天然ゴム、ニトリルゴム等を用いることができるが、スチレン・ブタジエンゴムが好ましく、そのうちでも特に固形ゴムまたはラテックスのゲル分が0〜70重量%で、ムーニー粘度が30〜150(ML1+4,100℃)で、スチレン含有量が20〜50重量%であるスチレン・ブタジエンゴムが好ましい。
【0010】
粘着付与剤(樹脂成分)としては、ロジン、水素添加ロジン、ロジンエステル、水素添加ロジンエステル及び硬化ロジンの様なロジン系樹脂、α−ピネン、β−ピネン、ジペンテンの様なテルペン系樹脂、フェノールホルムアルデヒド樹脂、ロジンやテルペンの様な天然樹脂で変性したフェノール樹脂、キシレンホルムアルデヒド樹脂及びその変性樹脂、石油炭化水素系樹脂等が用いられるが、ロジン系樹脂及びテルペン系樹脂が特に好ましい。これらの粘着付与剤の配合量はゴム成分100重量部に対して10〜100重量部が好ましい。
【0011】
充填剤としては、コロイダルシリカ、含水ケイ酸、合成ケイ酸塩、無水ケイ酸の様なシリカ系充填剤、軽質及び重質炭酸カルシウム、活性化炭酸カルシウム、カオリン、焼成クレー、タルク、アルミナホワイト、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウム、軽石粉、ガラス粉、酸化亜鉛、二酸化チタン、カーボンブラック等が用いられるがシリカ、クレー、酸化チタン及びタルクが特に好ましい。
これらの充填剤の配合量はゴム成分100重量部に対して10〜150重量部が好ましい。
【0012】
本発明では上記した成分を必須成分とすると共に有機過酸化物を併用することを特徴としている。本発明は、有機過酸化物が酸素(空気)雰囲気下では実質的に架橋反応を生起せず、酸素(空気)非存在下の加熱下に架橋反応を生起するという特性を利用する点に特徴を有する。酸素(空気)非存在下に100〜150℃で架橋反応を生起するものが使用可能だが、特に、110〜140℃かつ半減期が2時間以内にある有機過酸化物が好ましい。具体的には、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロへキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート等のパーオキシケタール類、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート等のパーオキシエステル類、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン等のアルキルパーオキサイド類等が用いられる。これらのなかでもアルキルパーオキサイドが特に好ましく用いられる。
【0013】
これらの有機過酸化物の配合量はゴム成分100重量部に対して0.1〜10重量部が好ましい。
本発明の缶蓋用シーリングコンパウンドには適宜他の添加剤も配合することができる。
【0014】
それらの例としては、フェノール系、アミン系、アルデヒド・アミン反応生成物系、ケトン・アミン反応生成物系、混合アミン系等の老化防止剤、増粘剤、希釈剤、乳化剤、防腐剤等を挙げることができる。
【0015】
これらの缶蓋用シーリングコンパウンドは有機溶剤に溶解させた溶剤系又は水に分散させた水系のいずれでも用いることができる。これらにおける濃度は固形分濃度で20〜80%が好ましい。
【0016】
本発明は特に水系での使用が好ましい。この場合、有機過酸化物は液状ロジンエステル等の相溶性のある粘着付与剤に溶解ないし分散させてから乳化剤と共に水に分散させることが望ましい。
【0017】
溶剤系における有機溶剤としては揮発性の有機溶剤、たとえばトルエン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン等を適宜用いることができる。
次に、本発明のシーリングコンパウンドを用いる缶詰の製造工程について述べる。
【0018】
本発明は飲料や食料用の金属(アルミニウム、スチール等)缶を対象としており、これらには通常3ピース缶(天蓋、缶胴、地蓋の3部品から構成され、コーヒーや茶等に主に用いられる)と2ピース缶(地蓋がなく缶胴と天蓋で構成され、炭酸飲料やビール等にも主に用いられる)があり、本発明はいずれにも好適に対応可能である。
【0019】
3ピース缶の場合、内容物を入れる前の地蓋と缶胴との密封に対しても本発明は適用可能だが、以下では、内容物の充填後に缶胴に天蓋を密封する態様について説明する。
【0020】
シーリングコンパウンドを液体(水系、溶剤系)状で缶蓋シーミングパネル部からカール部にかけてノズルライニングし、水系の場合は加熱乾燥(通常約90℃×5分程度)を行い、溶剤系の場合は加熱乾燥は開放系の空気雰囲気下に行うためシーリングコンパウンド中の有機過酸化物が架橋反応を生起することはない。
【0021】
内容物の充填には無菌充填とそうでない充填があるが、本発明の方法では充填し蓋を巻締めた後、加熱処理して殺菌処理と架橋反応処理を同時に行う。
この加熱処理の典型例はレトルト殺菌処理であり、100℃以上の高温処理が行われる。この段階では巻締内部は密閉状態にあって酸素(空気)から遮断された状態で高温下であることからはじめて架橋反応が生起する。
【0022】
本発明により、巻締内部で架橋されたシーリングコンパウンドは、皮膜強度の向上により外的応力からの耐性が向上し高温殺菌の際、缶の内圧が外圧より高くなり巻締空間が狭くなる方向によるスクイーズアウト耐性が向上し、またさらに缶の内外の圧力差が平衡になろうとする際の空気や内容物による応力への耐性が向上し、密封性能も併せて向上するという顕著な効果が得られる。
次に実施例に基づいて本発明を例証する。
【0023】
実施例及び比較例
SBRラテックス(ゲル分55%、ムーニー粘度34、固形分50%)を使用し、充填剤としてシリカ25重量部、カオリン25重量部、二酸化チタン10重量部、着色剤としてカーボン0.4重量部、分散剤としてナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合のナトリウム塩0.2重量部と水をボールミルにて分散粉砕して固形分48%の分散液を得た。これらの分散液と、水素添加ロジンアンモニウム塩水溶液25%のものを安定剤として及び粘着付与剤として、また有機過酸化物としてジクミルパーオキサイド(日本油脂化学製、パークミルD)を0.1〜50重慮部の範囲でそれぞれの重量部数、水素添加ロジンエステルに溶解してこれらの溶解及び分散液を撹拌分散した。これにより得られた分散液をメチルセルロース水溶液にてノズルライニングに適する様粘度調整剤として使用しBH粘度6,000〜7,000mPa・s(20rpm,25℃)、固形分39〜40%の懸濁分散水溶液を得た。上記の水系コンパウンドをレシプロライナー(Grace社製、#251iner)でTin Free Steel蓋に塗布し90℃×10分間空気循環式オーブンで加熱乾燥した。小型飲料缶(190ml)を使用し、実験用巻締機を使用し内容物(沸騰水)をそれぞれの巻締寸法条件にて充填後、巻締を行った。その後、125℃×30分間のレトルト殺菌を行った。(実施例、比較例共に同じ方法)
【実施例】
【0024】

【比較例】
【0025】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、粘着付与剤、充填剤及び有機過酸化物を必須成分として配合したことを特徴とする缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項2】
ゴム成分100重量部当りの有機過酸化物の配合量が0.1〜10重量部である請求項1記載の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項3】
粘着付与剤がロジン系樹脂、テルペン系樹脂及び石油炭化水素系樹脂から選ばれた少なくとも1種であり、粘着付与剤の配合量がゴム成分100重量部に対して10〜100重量部である請求項1又は2の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項4】
充填剤がシリカ、クレー、酸化チタン及びタルクから選ばれた少なくとも1種であり、充填剤の配合量がゴム成分100重量部に対して5〜150重量部である請求項1〜3のいずれか1項記載の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項5】
有機過酸化物がアルキルパーオキサイドである請求項1〜4のいずれか1項記載の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項6】
ゴム成分がスチレン・ブタジエンゴムである請求項1〜5のいずれか1項記載の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項7】
スチレン・ブタジエンゴムのゲル分が0〜70重量%、ムーニー粘度が30〜150(ML1+4,100℃)、スチレン含有量が20〜50重量%である請求項6記載の缶蓋用シーリングコンパウンド。
【請求項8】
カール部をもつ缶蓋のカール部に請求項1〜7のいずれか1項記載の缶蓋用シーリングコンパウンドの水性分散液又は有機溶剤溶液を塗布し乾燥して実質的な無架橋の組成物とした後、該缶蓋を、内容物を充填した缶胴上に置き、缶胴のフランジ部と缶蓋のカール部を巻締して缶を密封し、得られた内容物入り密封缶を加熱処理して殺菌処理と組成物の架橋処理とを同時に行うことを特徴とする缶の密封方法。
【請求項9】
有機過酸化物を相溶性のある粘着付与剤に溶解ないし分散させてから添加して塗布液を調製する請求項8記載の缶の密封方法。

【公開番号】特開2008−308594(P2008−308594A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158222(P2007−158222)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(399016927)ダブリュー・アール・グレイス・アンド・カンパニー−コネチカット (63)
【Fターム(参考)】